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人狼物語 三日月国


184 【R-18G】ヴンダーカンマーの狂馨

情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:


【人】 警備員 ジュード

 
 ── 夕方:北西の路地にて ──


 あっ、あ あアあありがとうございますっ!?


[気持ち悪い>>1:101、変態>>1:100、それらの言葉は
普段であればショックを受ける言葉だっただろう。
しかし今、それらの悪印象を気に掛ける余裕はない。

赤い布を口に巻いた彼女が、
此方を警戒したままでいながらも
ここを通り過ぎようとするような動きを見せてくれた。

その様子に男は逃げる事を許されたような気持ちになって、
怯えつつ、支離滅裂な事を口走った。]


 そっ、そう、ちがう、変態じゃないんですけどっ
 おれはへいきなんですっ、ガライカの、いきものだから

 でもっ、でもほかのひとは ──


[こわいけど、話にこたえないとひどいめにあうのかも、と、
男はかろうじて理解した言葉に対して早口に喋りながら
通り過ぎようとする彼女とは逆の方向へとじりじり後ずさる。]
(5) 2022/11/10(Thu) 1:01:17

【人】 警備員 ジュード

[それはある程度── 例えば、何かがあっても
赤い布の彼女は咄嗟に逃げる事が叶うだろう程度に──
男が彼女から離れた頃だったか。

男の後ろで、路地に面した住居の戸が開く。


戸を明けたのは、先程娘の死体を持ち去った
家主らしい壮年の男だった。>>1:95

彼は返り血を浴びたまま、目の前にいる男…
…の尻尾を見下ろしてにやりと笑うと、
瞬間、その尻尾を掴みあげた。


……彼は這う物たちの蒐集家であった。
家の至る所には爬虫類や両生類のホルマリン漬けが並び、
更にはそれらの特徴を持った獣人の写真も飾られていた。

かつて飛び降りた娘は、彼が娶ったのだろうか。
それとも、飼われていたのだろうか。

彼女がすでに浴槽の近くで
皮を残して”処理”されている以上、
その真実を語る者はいない。
]
(6) 2022/11/10(Thu) 1:01:52

【人】 警備員 ジュード

[粘液で滑る尾を素手で掴む事は難しいだろう。
しかし”慣れている”らしい蒐集家は、
しっかりと左手に滑り止めの革手袋をはめていた。

突然の行為に驚き逃げようと暴れる男の尾を、
蒐集家は強く、強く両手で握りしめて。
そのまま、彼の家へと引き摺り込もうとする。]


 ひっ、な や、やだっ や、 あっ
 ごめんなさい!ごめんなさいはなして、
 やです、や、たすけ、いたいっ
 痛いです!いたい、いたいいたいいたい っ……!


[男だって非力なわけじゃない。
だけど、踏ん張るにも、何かに掴まるにも
自らの粘液で滑って上手く力が込められなくって。

わあわあと叫びながら、何とか戸の縁に腕を引っかけて、
家の中に引き摺り込まれないよう耐えている。

……その様子をもし女が見ていたのなら、
彼女が毒に抱いた疑問に対する
いくつかの答えがあるかもしれない。]
(7) 2022/11/10(Thu) 1:02:52

【人】 警備員 ジュード

[蒐集家は確かに左手には手袋をしていた。
── しかし、右手は”作業”の為に素手のままだった。


その素手のままの手や、暴れる男の粘液が付着したらしい
蒐集家の四肢、胴、そして顔はみるみる内に赤く腫れて、
皮膚にはいくつもの水膨れが浮かびだした。

それはちりちりとした耐え難い痒みを伴うらしく
蒐集家は男を左手で抑えながらも、
時折右手でばりばりと身体を掻く。

だが、体を掻くほどに、その表皮に傷を作る程に
潰れた水疱や引っ掻き傷から毒は血管を巡り、
身体の深く、深くへと侵入する。

やがて内臓まで膨れ上がったらしい蒐集家は
炎症と酸欠に全身を赤黒く腫らして、
ひゅう、ひゅうと、苦しそうに気管を鳴らし始めた。


蒐集家は、何もしなければそう遠くない内に
床へと倒れ伏す事になるだろう。
そしてそうなれば、解放された男は一目散に
女のいる方向とは逆に逃げ去ろうとするのだろう。

その様は、”触れない方が良い”と人に知らしめるには
十分であるだろうか。**]
(8) 2022/11/10(Thu) 1:05:38
警備員 ジュードは、メモを貼った。
(a3) 2022/11/10(Thu) 1:07:33

警備員 ジュードは、メモを貼った。
(a4) 2022/11/10(Thu) 1:08:43

【人】 警備員 ジュード

 
 ── 夜:街のどこかで ──

[蒐集家の手から逃れた>>8男は、
どうにか身を隠せる場所を探そうと
狂気に飲まれた街の中を走っていた。

けれど、隠れるのに良さそうな物陰には
すでにもつれ合うひとびとがいたり、
死体を弄んだりする先客がいるもので。

巻き込まれそうになっては踵を返すから、
なかなか落ち着ける場所は見つからなかった。


場所を探す間にも、男は欲望のままに動く人々の
予測できない動きに戸惑い、衝突して。
接触した相手を汚しては、苦しめてしまった。


ぶつかってしまった彼らのうち、
何人が喉を詰まらせて倒れ伏したか、
患部を洗う水を求めて水場を汚したか、
毒の付着に気づかぬまま他人に接触したか、
見る暇なんてなかったから、その数は定かではない。]
(53) 2022/11/12(Sat) 6:29:55

【人】 警備員 ジュード

[なんとか見付けた屋内外の暗所、
例えば、ベンチの影や家棚の中、ベッドの下に
潜り込んでみたこともあったかもしれない。

しかし、どんな場所でも男の不安は解消されず。
休憩くらいはできても、長く落ち着く事はできなかった。


── 本人は理解していなかったが、
男の望みは厳密には隠れる事ではないのだから、
満たされないのも仕方がない。


男の望みの本質は、命を脅かされないこと。
死の危険のない、安心できる場や人の傍に
その身を落ち着けることだった。

そして、この島に男が安心できるものは、殆どなかった。]
(54) 2022/11/12(Sat) 6:31:06

【人】 警備員 ジュード

[島で暮らす中で、“傷付けるかもしれない”
“汚してしまうかもしれない”という不安が
男の中から消える事はなかった。


かつて友人と昼飯を食べていたとき>>1:110も、
彼の食事を相変わらずと眺める傍らで、
男は食事中には可能な限り言葉を発さず。

スープの器にも貝の乗っていた皿にも
唾液の混じる汁の一滴さえ残らないよう、
卑しく見えるかもしれない程にパンで拭って。

少しでも事故が起こる可能性を
減らそうとしていただろう。


そんなに気を使って無害に努めようとするのも、
偏に、死の恐怖を遠ざける為。

他人を害さぬ善性を認めて貰うことで、
かつて己課せられた”死の責務”を放り出す事を、
誰かに許して欲しいからだった。]
(55) 2022/11/12(Sat) 6:31:25

【人】 警備員 ジュード

 
 ── いつかのこと:ある港町の路地で ──

[その夜も男は闇の中を走り、
鞄に仕舞い込んだ『兄』と共に
逃げるべき道を探していた。

男が路地に張り巡らされたパイプの間を
跳んで、潜って、駆け抜ける後ろを、
白衣のような制服を着た人々が
何かを叫びながら追いかける。


男を追う制服の人々は、かの国から送られた交渉役。
言い換えれば、研究用資材の回収用職員だった。


……かの国は、かつて己の作る兵器で
侵略した土地や自国の内に不毛の地を作った。>>0:139

しかしかれらは後にそれを悔い、
汚れた地を直し、侵された人々を治す為
治癒に重きを置くのだと方針を改めた。]
(56) 2022/11/12(Sat) 6:32:05

【人】 警備員 ジュード

[悪事を改め、反省を示す。改善する。
解決のために犠牲を伴うしかないのなら、
大衆を救う為に、ほんの少しの命を使用する。

かれらはそれを仕方のないことだと断じて、
逃げ場の少ない自国の港へと男を呼び出し、
彼に"実験への協力者能動的な犠牲者"となる事を求めたのだ。


自己犠牲は美徳。正義は善良、絶対であり、
命の価値に貴賎はなく、利益を得る人の数に定められる。

侵された多くの人の死と一人の死。
どちらかを選び取ることは苦しくとも、
いずれは決断しなければならない、と、

(対象が自ら”決断”できるように情報を規制し
 『犠牲者の記録』を活用することも正当な交渉の一つだと)


そう、かれらは定めていた。


……だが、男はそれに応じなかった。
あまつさえ、呼び出しの為に男の元へと送られていた
『悪行の証拠』を手に逃亡したのだ。

ただの関係者だった男はその瞬間、
苦しむ民を見捨てる酷薄な裏切り者となった。]
(57) 2022/11/12(Sat) 6:32:34

【人】 警備員 ジュード

[”近い遺伝子の毒を「ひとり分」
それさえあれば、不毛の地を、君たちの毒を、
解毒することが叶うかもしれない

君の力によってたくさんの人が助かるのだ

私達は間違えた。故に、やり直す必要がある
君のお兄さんの分までの贖罪の義務がある

君は英雄になる、多くの人の救いになる”


交渉役はそんな風に叫んでいたけれど、
男にその言葉は届かないし、響かない。


男は、死にたくなかった。]
(58) 2022/11/12(Sat) 6:33:06

【人】 警備員 ジュード

[男は、崇高な生きる意味や使命を持ってはいない。
でも、苦しみの中で死ぬ事は恐ろしかった。


かつてのかれらを知る男には、
『一瓶の滓』になるまで兄を消費した上に、
毒の抑制に加えてひどい目眩や頭痛を齎す
まるで支配の道具のような防毒拘束魔術をも作りあげた
かれらの言葉が信じられなかった。


だから男はかれらの言葉に頷かず、
辿り着いた港にあった楽園行きの船に飛び乗った。

そして不可侵のこの島へとたどり着いてからも、
『兄だったもの』を収蔵品に捧げて内部へと入り込み、
警備員としてそれを守る役目を果たす事で
じぶんたち安心できるもの』を守る事を選んだのだ。

……それが、肯定されざる欲なのだとしても。]
(59) 2022/11/12(Sat) 6:33:26

【人】 警備員 ジュード

[── たとえば、英雄譚に描かれる生贄の神子は、
多くがその運命を受け入れ、悲しげに微笑む。

献身の美徳を具えるそれは憐憫を誘い、
「殺すなんてとんでもない」と
見る者の心を揺さぶるのだろう。

事実、兄はそうであったように思う。


ならばもし、その神子が男のように臆病で、
死にたくないと逃げ出したなら、
人々はそれを憐れむだろうか。

もし男が読者の立場になった時、もしくは
神子に救われる筈だった立場になった時に、
その臆病者へ石を投げずにいられるだろうか。]
(60) 2022/11/12(Sat) 6:33:56

【人】 警備員 ジュード

["謙虚"で"かわいそう"に見えなければ、
ひとは毒虫に林檎を分け与えず。
怯えてその果実を投げつけるのだろう。
使命を果たさないのならば、猶更。

それは彼らが侵されず生きる為の
正当な権利だろう。自己防衛策だろう。


それでも、侵されぬ事を、ひとの仲間に入る事を、
"安心"を、求めてしまったのだ。


……いつか、書架で作家を目指す者たちが語っていた。

"役割を持たぬ背景、役割を持たぬ登場人物は、
よい物語には登場させるべきではない。

粗雑な扱いをするくらいなら
生まれないほうが、その者のためでさえあるのだ。"と。

その言葉は役割を放棄する男の意識の深く刺さり、
いつまでも、取り除くことが出来ずにいる。
]
(61) 2022/11/12(Sat) 6:34:33

【人】 警備員 ジュード

[殺さないでおいてもらえる、罪を赦してもらえる
それだけの同情の余地を得る為に

男は非合法なルートで仕入れた薬で心を塞ぎ、
憶病な己を偽って善良であるように努めた。

人並み以上に努力して、努力して努力したつもりで、
気を緩めず、無害であることを証明しつづけた。

かつて定められた責務とは別の役割がある事を願い続けた。


全ては、己の欲望生を肯定してほしいのために。


── そうして積み上げた日常も、今や崩れ去り。
成れの果ては無残にも、男が歩いただけの道に転がっている。
*]
(62) 2022/11/12(Sat) 6:35:05
警備員 ジュードは、メモを貼った。
(a13) 2022/11/12(Sat) 6:44:50

警備員 ジュードは、メモを貼った。
(a14) 2022/11/12(Sat) 7:03:56

【人】 警備員 ジュード


 ── 夜:北の方角へと ──

[向かう方角からにげてくる
赤い口布をした、それぞれの宝物を持つ
火事場泥棒たちを押しのけて。

背後にも燃え上がる狂宴を北げる中、
男は一つの期待を抱いていた。


こちらの方角には、彼の
友人の館があったはず。>>1:34


その中であれば、もしかしたら、
静かに過ごせる存在を許されるのかもしれない、と。]
(76) 2022/11/12(Sat) 23:57:06

【人】 警備員 ジュード

[彼以外にも、気にかけてくれる人はいた。
自分を信用して頼ってくれる人もいた。
その過程で家にあげてくれる人も。

簡単に気を緩める事は出来なかったとはいえ、
彼等から与えられる”害さない”という意図は、
男も理解していた筈だ、と思っていた。

彼の言葉にだって、食事の後になったかもしれないが、
”みんなやさしいですよ!”と答えただろう。>>1:111


……それでも、
皆、どこかでは未知を恐れたのか。

何をやる必要がある訳でもなく訪ねる事を許されたのは
特別なことだったから。>>0:118


汚れた身体で今後彼が長くを過ごすだろう場所へ
行ってしまってよいのかと、普段なら考えただろうが

今はそれよりも、安心できることを求めていて。]
(77) 2022/11/12(Sat) 23:57:28

【人】 警備員 ジュード

[── 求めて、いたのだけれど。

かつて館のあった筈の場所は
無惨なものだった。>>1:69


炎は未だ高く燃えているだろうか。
それとも、風に煽られて早々に
館を焼き尽くしたのだろうか。

きっとその館には、職人が感動する程の
貴重な意匠も含まれていたのだろう。
貴重な物品だって収められていたのだろう。

しかし、男にとってより貴重であったものの
喪失の可能性を前に、それらに意識が向けられない。


館に生き残りがいるとは思えなかった。
その事が、男の意識の殆どを占めた。]
(78) 2022/11/12(Sat) 23:57:52

【人】 警備員 ジュード

[期待はあっけなく打ち砕かれ
それに代わり、抱いた希望を凌駕する
絶望感が、不安が、男の心に流れ込む。


彼の着けていた赤い布と>>0:52
あの時、人々が着けていた赤い布。>>1:25
その関係を知らぬものだから

まさか、友が逃げ延びているとは思わず、
男は、彼までもが炎に巻き込まれ
死んでしまったと思った。

また、死の予感を見過ごしたのだと
見殺しにしたのだと思った。


周囲にも延焼したらしい炎の熱波の中
かつての館の前の道にへたり込む。
流れる涙に、粘性はない。

恐怖を感じた時にのみ毒は混入する。
であれば、後悔と悲しみに流れたこれが
粘性を孕まないのも道理だろう。]
(79) 2022/11/12(Sat) 23:58:06

【人】 警備員 ジュード

[粘液に塗れた男の衣服や髪には
幸い、火が付く事はなかったが、
炙られ気化する毒は
青酸と泥炭の混じったような匂いを伴う。

それは致死的な気体ではないが、
頭痛や吐き気を誘引するには十分な毒素だろう。


……どれだけ、状況を悪化させた後だろうか。


男はゆっくりと立ち上がり、
今度は走る事はなく、緩慢な足取りで
更に北を目指し始める。

何かを壊した子が、肉親に慰めを求めるように、
縋るもの、安心できるものをもとめて
『兄』を収めた水晶宮へと。*]
(80) 2022/11/12(Sat) 23:58:15