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【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ珍しく舌打ちを鳴らしかけたのは多分、体調のせいだ。 代わりに深いため息を零し、首を緩く傾ける。 「…… していない ことを認めろと?」それは、子供に伝えるようにハッキリとした物言いだ。 ない事実を吐くことなど、 当たり前ながら出来るはずもない。 「…何も始まらないさ、イレネオ。 やはり君は、少し、休暇を取るべきだ」 そして俺にも休暇を届けるべきだね。 あの固くて冷たい場所でも構わないから寝かせておくれ。 柔らかいブランケットを届けてくれても構わないよ? また笑みを浮かべて、 君を真似るように自由な指先で己の膝を軽く叩いた。 (-6) sinorit 2023/09/27(Wed) 1:24:11 |
【秘】 リヴィオ → 暗雲の陰に ニーノ伸ばすまでで、触れる勇気のなかった左手は、 君の手が迎えてくれたからその熱を感じて。 そして君にもまた、男の異様に熱い温度が伝わる。 ふっと緩まる表情はきっと、君だけが見れたもの。 その熱に安堵したのだ、君という陽だまりのぬくもりに。 だから、男の心はここでまた少し 晴れた のだろう。雨と曇り空ばかりで陰り続けていた心は、 あと少しをもっと、確かに、頑張れそうだ。 だから俺はきっと、 大丈夫 だ。まだ握り返し、その指先を撫でるには怖くて堪らないが、 君がくれるぬくもりから決して、逃げることはなかった。 「…うん、とても素敵な提案だね。 是非、その散歩にご一緒させてくれ」 同じ向きに小首を傾け、更に表情を緩めて笑う。 未来を語る事もまた、逃げ出したくなる心はあるが、 それでも君を見る翠眼は揺れることなく、真っ直ぐに。 「……あぁ、待っていてくれ。 俺に出来ることは、彼と少し異なるが………」 「──俺に出来ることを、頑張ってくるよ」 (-21) sinorit 2023/09/27(Wed) 17:19:08 |
リヴィオは、この『未来の話』が君と俺の希望になるよう願った。 (a8) sinorit 2023/09/27(Wed) 17:19:27 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ変える訳がない。 変えてやる 訳がない。腐っても俺は先輩で、君は後輩だ。 その分、経験として培ったものは多くある。 仮面は剥いだ、あとは己がままに向き合うだけだ。 「いいや、戯言なんかじゃあない」 「証拠なんてものはない」 「無駄な言い逃れでもない」 否定する。否定する。否定する。 その決めつけ全てを、真っ直ぐに否定する。 「これは全て 事実 だよ、俺の可愛い後輩君」「そして俺は、これから何をされたところで、 その 曲がった 事実を認めてやらない 」決してここを曲げてはならない。 己と真っ直ぐに向き合う彼らのためにも。 尋問とはそういうものだとされるなら、 そんな無価値な仕事はさっさと やめてしまえ 。「……だから、後輩──いや、イレネオ。 君に俺は曲げられない、残念だったね」 (-26) sinorit 2023/09/27(Wed) 17:51:55 |
リヴィオは、"いつも通り"だ。 (a9) sinorit 2023/09/27(Wed) 17:53:21 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ>>-49 「あぁ、そうだろうね。だから、 無駄 なんだ。そこに真実がないのに何──」 何を認めると言うんだ。そう口にしようとした言葉は、 君が立ち上がる動作とともに静かに消えていく。 代わりに響くのはこちらへと近づく冷たい靴音。 伸びてくる腕を、手を、避けようとする動きはない。 しかし滲む汗は、男の警戒の色を表すように額を伝う。 「……っ、………おいおい、乱暴だな」 そう長くもない髪を掴まれたことで頭皮は刺激され、 何本かはブチブチと音を立てて 君の指先へと絡まり、はらはらと床へ落ちていく。 耳元で鳴る音は早々に聞き覚えがないものだが、 触れる冷たい感覚が何であるかを凡そ理解させる。 僅かでも動けばその冷たさは己の肉を裂くのだろう。 思わず吐き捨てるような笑みが零れ出た。 「君は一体エルから、エルヴィーノから何を教わったんだ。 この方法は間違っている。善良な警官の俺が否定しよう。 …あぁ、いや。エルがこうしたことを教えるわけがないんだ。 これは、こんな馬鹿げたことに目を瞑るあの 狸 が悪いな」▽ (-52) sinorit 2023/09/28(Thu) 0:01:42 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ>>-49 >>-52 「……もう一度言うが俺は、内通者なんかじゃあない。 繋がりもないんだ、渡す情報も何もない──以上だ」 実際、こう語る人間の"嘘"を見たことがある。 痛みは何よりも相手を自白させるにいい手段かもしれない。 だがしかし、男の語るこれは"本当"で、変えようがない。 ただ真っ直ぐに訴えかけること以外に何かをしようがなかった。 さて、これらの言葉で君が止まるのならばいいが、 慣れているその手つきが違う未来を物語る。 もしもその刃を食い込ませていくというのなら、 力強く君の身に己の身をぶつけ、 僅かでも怯めば、ナイフを持つ手に噛み付こうとする。 培った危機的状況に対する反射というやつだ。 それにより切れ込みが激しくなろうが、 髪が更に数十本抜けようが、それ自体がなくなるよりはマシだ。 本当は何かをやり返すつもりなどなかったが、 それはダメだと、自分の中での警鐘が鳴り響いた。 刃が食いこんだその瞬間、 悪夢に現れる女の声が耳元で聞こえた──気がして。 (-53) sinorit 2023/09/28(Thu) 0:04:12 |
リヴィオは、痛みには慣れている。本当に恐ろしいのは──。 (a12) sinorit 2023/09/28(Thu) 0:08:50 |
【独】 リヴィオ終幕へと向かう頃、収容所内は人が減り、 残されているのは怪我人やそれに付き添う者達。 ここで怪我人がいるというのもおかしな話だが、 許されてしまっていたというのがここの真実。 しかし、それも今日で終わりだ。 これ以上、ここに雨は降らない。雲は太陽を隠さない。 晴れやかとは言い難いことも多く、多く起こるが、 それでも、空の明るさはこの街を照らしていくのだろう。 男もまた、そんな街の様子を翠眼に映し、 光差す空を眺めるはず──だった。 ▽ (-61) sinorit 2023/09/28(Thu) 3:12:10 |
【独】 リヴィオ痛みが体を支配する。 体が熱くて、 寒くて、 息をすることが苦しい。目を覚ましているのなら、そう感じていたはずだ。 目を、覚ましていたのなら。 夢を見る。何年もずっと、ずっと、俺に付き纏う夢。 ここ最近は頻度が増して、満足に眠れない夜を過ごした。 だから今日も、同じように起きてしまえたなら。 それなら、その方がきっとまだマシだったのかもしれない。 『要らない』『要らない』『あんたなんか要らない』 『死ね』『死んじゃえ』『産まなきゃ良かった』 どこか怯えるように体を丸めたのは、 きっと誰も、その場には誰も見ているはずもなくて。 精神的にも肉体的にも疲れ果てていた男は、 小さく苦痛の声を漏らし、震えるように熱い吐息を零す。 『…本当に必要とされていると思ってる?』 『そんなの嘘』『全部嘘』 『誰があんたを肯定するの?』『嘘に縋って馬鹿みたい』 『さっさと死んで』『幸せになるなんて許さない』 これはきっと、俺の心で。否定するばかりの、俺の心で。 分かっているのに足掻けなくて、止まらなくて。 逃げたい。ひとりは怖い。苦しい。恐い。 ▽ (-62) sinorit 2023/09/28(Thu) 3:13:53 |
【独】 リヴィオ爪のない右手が、床を掻く。 白に滲む赤はやがて床を汚し、線を残す。 それでもまだ、目を覚まさない。覚ませない。 起き方を忘れてしまったかのように、 夢の中に囚われている。囚われ続けている。 しかし、男にとって幸福だと言えるのは、 この場に、男に手を伸ばすものがいないことだった。 そのはず、だった。 誰かに迷惑はかけたくないんだ。 …俺なんかの為に、その心を割いて欲しくない。 やっぱり心は簡単に変えられない。変えられるはずがない。 だけど。 「 」 誰かに求めた救いが、音にならずに消えていく。 それでもこれはきっと、確かに救いを求める"声"で。 …もう一度、指先が床を掻く。 零れる吐息は、苦痛の入り混じるものだ。 きっと、そんな自分を表に出すのは今回限りで。 誰にも見せたくない、リヴィオの姿だった。 …夢を見る。この悪夢から抜け出すにはきっと。 自分自身の力では、到底難しい話だった。 (-63) sinorit 2023/09/28(Thu) 3:14:20 |
【秘】 リヴィオ → 口に金貨を ルチアーノ普段なら、男はただその夢を眺めているだけで。 繰り返し唱えられる呪詛を身に受け、縛られていく。 もう何年も、逃れることの出来ない悪夢だった。 今度はもう、戻れないのかもしれない。 このまま暗く深いどこかへ、 落ちていくんだと思った──その時。 静かに眠る、無防備な猫の姿が見えた。 別に、猫が好きな訳じゃない。…………けど。 何となく、ただ、何となく、己の指先を 恐る恐る 伸ばす。触れたその熱は、暖かくてとても──安心したんだ。 ▽ (-105) sinorit 2023/09/28(Thu) 20:13:13 |
【秘】 リヴィオ → 口に金貨を ルチアーノ重い瞼を何度か緩慢な動作で繰り返し瞬かせ、 霞む視界の中徐々にピントを合わせていけば、 眠たげな、大きな猫の姿が視界いっぱいに映される。 何を言おうか。男の口が幾度か動かされて。 「…………ル、チ……ルチ、アーノ…………………? …目を覚まして直ぐに、色男の顔が……見れる、なんて。 俺は……、しあわせものってやつ……、かな」 名前を呼び、"いつものような"軽口を紡ぐ。 しかし、ただそれだけという訳ではなくて、 己に触れる熱を求めるように、 痛みを感じながらも 指先を動かし軽く、その手を掴んだ。「……あー………すまない…、迷惑、かけたね。 子守唄は、そうだな……もう一度眠って、いいのなら」 君の子守唄を聞けばよく眠れるかな? 浮かぶ台詞の代わり、小さな笑い声を零して、 幼子のようにへにゃりと笑った。 それは今まで生きてきて、誰にも見せなかった弱さだ。 見せたくなかった弱さだ。……けど。 異様に熱い体が、響くような頭の痛みが、 折れた左腕が、血のにじむ右手が──全てが限界で、 誰かに手を伸ばすことに臆病な男が、 弱さを見せるきっかけとなってしまった。 (-106) sinorit 2023/09/28(Thu) 20:14:41 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ別に、名を出したのは揺れることに期待した訳じゃあない。 ただ少し、思うことがあったからこそ告げただけ。 その意図が伝わらないなら結局、そこまでなんだ。 だから、 止まらないというのはまぁ──やはり予想通りの事だった。 刃の冷たさを内に感じた時、 僅かにも跳ねるように震えたのは嘘じゃない。 それもきっと、抵抗への油断を誘うもので。 ▽ (-112) sinorit 2023/09/28(Thu) 20:55:47 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ人間の歯というのはそれなりに武器になるらしい。 加減もなく噛み付けば、歯が骨にぶつかる音が脳に響く。 しかし、それもほんの一瞬のこと──にするはずだった。 何も噛み切ろうという訳ではないのだ、この男は。 ただ、今の行為を止められるならそれで、良かった。 次の思考をするよりも早く、脳がぐらりと揺らされる。 男の歯は小さな呻きとともに君の腕から離れ、 今度は抵抗もなく、抵抗する間もなく君ごと床に倒れ込む。 男は、脳が揺れた事は勿論、 倒れた衝撃で右手に走る痛みにまた僅かに呻きを零す。 それは明確な隙だ、 腕を固めることなど容易すぎる隙だった。 痛みには、慣れている。 我慢することなら、いくらだって出来る。 だとして、それが痛くはないという話にはならない。 苦痛に顔を歪める代わりに男が零したのは──。 「………………………ははッ」 (-113) sinorit 2023/09/28(Thu) 20:56:49 |
リヴィオは、笑っている。 (a14) sinorit 2023/09/28(Thu) 20:57:19 |
【秘】 リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロ何があっても入院はしたくない。 医者に怒鳴られながらもこの男ははっきりとそう告げた。 友人がもし付き添っていたならば、恐らく、 誰にとっても予想のしやすい表情を浮かべていたはずだ。 それから数日後、あるいは数十日後。 風の噂で君の入院を知った男は、その病室を訪れた。 ガッ。………ガラガラッ! 「……やぁ、 ニコロ 。随分と素敵な装いになっているね。君ってやつはあんな場所でも大暴れしていたのかな?」 片腕を吊り片手を包帯で巻かれている男は、 ついでに耳にもガーゼが当てられている。 自分のことは棚に上げ、若干おかしなボリュームで君を煽る。 そんな男の後ろでは、 勢いよく開けられた扉が緩やかに閉まっていくのだが…。 その扉が完全に閉まるよりも前に足を挟んで。 「……さて、満足した。帰ろうかな」 帰ろうとしている。 何をしに来たんだという話だが、 ただ大変そうな君を煽りに来ただけらしい。 これは嘘。…その様子を見に来た、というのが真実だ。 (-118) sinorit 2023/09/28(Thu) 21:51:33 |
【秘】 リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロ君は何を言っているんだ? そう言いたげに傾く首はまるで、 自分は怪我をひとつも負っていないというような態度で。 しかしまぁそこに事実はあるしおかしな反応ではある。 「待たない。俺の目的は達成したん──」 だ、言い切るよりも前に足が動いて、 扉はぱたりと閉まり、代わりにその片足は 落ちかける君の支えとなるように差し出された。 その代償と言うのもなんだが、 「……………早く、ベッドに、戻ってくれないか??」 体重のかけられた足は一瞬でも体全体に響いて、 痛みに顔を顰める代わりに満面の笑みを君に見せる。 若干その笑顔が引き攣っている気がするのは気のせいだ。 …多分。 (-150) sinorit 2023/09/29(Fri) 1:37:31 |
【秘】 リヴィオ → 暗雲の陰に ニーノその日の夜、 男は友人の静止も聞かずいつもの徘徊を行っていた。 だって家にひとり、退屈は紛れない。 それなら晴れた外を歩く方が余程男の頭も冴えるというもの。 余計なことばかり考えてしまう時間は何より苦痛だ。 昼の活気を失い、落ち着いた夜の街を歩きながら、 ふと、足は人気のない路地へと迷い込むように曲がる。 暫く歩けば、猫の鳴き声。 ふ、と……海にも似た翠がそちらへと向かう。 向いたのは、猫の鳴き声がするからではない、けど。 「………おや、ニーノ。こんばんは」 右腕をつつかれながら笑みを浮かべて、 君と猫を交互に見やる。 「…いや、何。俺を呼ぶ可愛い猫の声がしてね。 呼ばれてしまったならどんな格好でも出歩くしかない」 「……というのは勿論嘘で、こんな格好だからこそだよ。 目立つだろう?両手が自由じゃないってのはさ」 だからといって出歩かない選択はないし、 医者に怒鳴られながらも入院は断固拒否した。 こういう所は強情だ、 嫌 な予感がするのだから仕方がない。 (-153) sinorit 2023/09/29(Fri) 1:54:33 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ「………ぅ、ぐ………は…はは…………ッ」 止まることなく感じる負荷に、やはり笑いは途絶えない。 呻きもあれど、この取調室に響く声は そちら が多めだ。「あは…、………は、ぁッ…………は、」 まずは、ずり、と床に顔を擦ろうが、 男は君に顔を見せぬよう煮えた瞳から視線を逸らす。 「な、ぁ……イレ…ネオ……………君、たのし……かぁ?」 そうして、声を発さぬ君とは反対に、問う。 問いかける。既に制圧は完了しているはずの人間に、 こう することは楽しいのかと問うている。「いや、…な、に………つい、口が滑って、な……ァ、」 痛みに藻掻くように指先を跳ねさせながらも語り続け、 「わる………か、…………ふ、……はぁ、はッ」 荒い呼吸で体を上下させながら、 抵抗もなく、その行いを 受け入れ続けた 。▽ (-160) sinorit 2023/09/29(Fri) 2:26:40 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ「………… あ ゛ッ ゛」日常ではあまり聞かない音とともに漏れた声は、 より一層強く跳ねた指先とともに静かさを君に届けるが…。 それでも尚、「ふ、」と笑う声が聞こえるのだから 君は、この男がまだ落ちていないのだと理解出来る。 痛みには、慣れている。 だけどやっぱり、痛みがない訳ではない。 叫びそうになった声は口内に広がる血とともに飲み込んで、 長い苦痛で生理的に零れかけた涙は、 逸らした視線のまま目を閉じることでせき止めた。 だからきっと、安心するように 吐かれた息はより強く感じられたのだろう。 (-161) sinorit 2023/09/29(Fri) 2:30:47 |
リヴィオは、まだ、笑っている。 (a15) sinorit 2023/09/29(Fri) 2:32:39 |
【秘】 リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロ「はは、なんの事だか分からないな」 左腕は治療すれば治るし、指先は動く。 右手も同じ。…いや、こちらは動かすのは辛いが。 左耳は半分もいかないくらい削がれただけだ。 人間の体というのは便利で、きっと何とかなる。 ということにしている。医者にも見せているので。 戻ろうと藻掻く君の体重を片足で受け止め、 笑顔は徐々に引き攣りを増す。 ようやく戻り離れようとする頃には、 「…………だから、近付きたくなかったんだ」 掴まれている。ついでに引っ張られている。 やれやれというように 首を横に振るのはさて、何を思ってか。 「…それで、目的ってのは何だい? もしかしてお見舞い品のことかな? それなら両手が塞がっていてね、俺としたことが」 「あー……。……… やめよう、まずは素直に聞くから とりあえずその手を離すのとその目はやめよう」 個室の中、閉まった扉は外との隔たりで。 貼り付けていた笑みをふっと落とし、 ひとつ、大きなため息を吐き出すのだった。 (-166) sinorit 2023/09/29(Fri) 4:08:49 |
【秘】 リヴィオ → 口に金貨を ルチアーノ「…そうかい、それは残念だ。 もう少し、いい夢を見続けていたかったものだが……」 医者嫌いと言われれば、 否定しない代わりに小さく笑みを零す音。 概ね正解だが、"医者"自体は『きらい』じゃない。 何やら聞こえる呟きに耳を傾けながら、 掴んだ君の手を軽くふにふにと摘んでみたり。 しかし、夢の話を問われればその動きを止め、 悩むように少しの間を置いた後。 「………ひとつだけ、聞かせてくれ。 俺の可愛い後輩達は、無事、外に出られた……かな」 それは、今一番確かめるべき事柄で。 それを聞かねば自分のことを考えられそうにもなかった。 助けを求めたのは、確かな事実なのだけども。 ロクに回らない頭でも、考えずにはいられなかった。 そうして答えがどうあれ、一度頷いてから。 「…何、大したことじゃない。いつもの夢だ。 ……『要らない』『死んでしまえ』と 存在を否定されるだけの、くだらない、夢だ」 そんな夢に、もう何十年も囚われ続けている。 だから男は、要らない者、だった。 (-167) sinorit 2023/09/29(Fri) 4:42:54 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ意識を落としてしまえたなら、楽だったんだろう。 しかしそうならないからまだ続く。 しかし抵抗する気力もないほどに、弱っているのは確かだ。 目を閉じ、顔を逸らす男では伸ばされる手に気付けない。 最も気付いていたとしてもその手を避けることはなかった。 君の指先が己の髪に触れ、頭皮を添い、 君に与えるのは、熱や苦痛による汗ばんだその感触で。 無理やりに向かされるその行いまでを感じてから 閉じていた海にも似た翠眼を僅かに開いて。 「………そうか」 たった一言。どんな表情であれその一言だけを返し、 汗に濡れる額を、張り付いた髪を、火照る頬を、 涙の滲む瞳を、唾液に濡れた唇を君に向け、 小さく吐息を零しながら緩やかに、微笑んでみせるのだ。 苦痛に歪む顔など、そこにはない。 ただぼんやりと両手が自由でない不便さと、 君の表情についてだけを考えている。 そうして再び、どこか気怠そうにも見える緩慢さで もう一度、翠を閉じていこうとする。 ここに君が望む答えはない。 あるのは無駄な時間と、意味のない暴力だけだ。 答えられることなど何もない男は、ただ、笑っている。 (-171) sinorit 2023/09/29(Fri) 7:20:03 |
【秘】 リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロ「 見える 、ということにしておこうと思って。その方が帰りやすいだろう」 男の目的は既に果たされ、ここにもう用はない。 冷たいようにも見えるが、単に、 追われると逃げたくなる性質が出てしまっているだけの話。 それでも、男がここへ訪れる選択をしたのは確かだった。 「……その台詞は幼馴染に言うべきものじゃないか? それに俺は別に不安じゃなかったよ、俺はね」 本当は君が出てくるよりも前に姿を眩ませて、 それで、居なくなるつもりだったのはひとつの道で。 予定が狂ったのは君と友人の 物好き さのせいだ。同僚とはいえ、友人とも言えなかった関係で。 今回もただ、同じ立場で"仕事"をしていただけで。 それなのに、手を掴もうとする君の心が分からなかった。 そしてそれはきっと、今後も曖昧な形のままなんだろう。 だからこそやはり、どうしてだと思う心は消えない。 そんなにも誰かを思える人間は、 その人を思える誰かと幸せになるべきだと考えているからこそ。 「…本当に君は、まんまとやられてしまったものだ」 「………あぁ、だけど。お疲れ様と返しておこうか。 "運命共同体"ってのもこれで終わりだね」 (-222) sinorit 2023/09/29(Fri) 21:02:11 |
【秘】 リヴィオ → 口に金貨を ルチアーノ手を掴み、摘むのはその存在を確かめるため。 確かにここにいるのだと、 夢ではないのだと、感じたかったからだ。 「そうか。…うん、なら……良かった」 後輩の話を聞けば安堵の息を吐き出して、 まずはダニエラ、そしてニーノ。アリーチェと。 次から次に後輩の姿を思い浮かべ、そして、 名前のあがらなかった一人も、ほんの一瞬思い浮かべた。 恨むことはないだろう。ただ、思う所があるだけで。 しかし、それに浸るのはもう少し後。 君は先程ゆっくりは寝れないと言っていたから、 話が一段落つけば移動のため身を起こさなくてはならない。 「…いや、"赤子"の頃の記憶ってやつかな。 俺は案外、記憶力が悪い方ではなくてね。 まぁ、なんだ。……覚えているから、繰り返し見るんだ」 「あぁ、行方は知らないし訴えようとは思わない。 街の宝ってやつはそれなりに寛大なんだ」 わざとらしい言い方は逆に男の心を落ち着ける。 髪を乱され、こめかみの近くを押されても苛立つ心はない。 ただ友人とじゃれ合い、笑っているだけだ。 夢の残像は消えないが、それでも、顔色はずっとマシで。 (-223) sinorit 2023/09/29(Fri) 21:02:57 |
【秘】 リヴィオ → 夜明の先へ ニーノ言いたいことはそうじゃない。 それはそうだろうねと口にせずに笑うのは、 恐らく確信犯故のこと。 「…眠っていたが目が覚めてしまってね。 気晴らしの散歩ってやつだ、 ずっと家にいると頭にキノコが生えてしまうよ」 嘘。君は察しているのだろうから、 敢えて今、嘘をついてまた笑う。 隠したい訳じゃないというのはその笑顔が物語っていた。 そうして、警察を辞めたと聞けば知っているよと頷いて。 実は俺も、有給届とともに叩きつけてきたよなんて、 自分の話はさらっと終わらせてしまう。 「俺も丁度、君に会いたいと考えていたところだった。 これって運命ってやつかな?…なんてね」 「そして勿論、散歩はまだ続けるつもりだ。 眠るにはまだ、早すぎる時間だからね」 君の無事は友人から聞いていたんだ。 だから、訃報を聞いたところで動揺ひとつもない。 理由を察することは難しいが、 どこかで元気にしているはずだと、その無事を祈っていた。 (-224) sinorit 2023/09/29(Fri) 21:04:05 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオまるで子供のようだと頭に過ぎったのは、 目を閉じるよりも前のこと。 そして次に考えたのは、 目を閉じたのは 失敗 だったということだ。「ッ……あ、ぐ…………………」 強く引かれ、己の関節から嫌な音がまた響く。 無理やりに半身起きた体はそのまま引きずり上げられて、 呻く男の表情は先よりも余裕を失っているのが見えるだろう。 少し離れた位置にある椅子は 随分と遠くにあるよう感じられる。 「君、な………ッ」 最早言葉はないこの空間で、何が取調だと言うのか。 色々と言ってやりたい気持ちは山々だが、 無理やりにも椅子に座らせようとする君に着いて歩くのだ。 覚束ない足を動かすのにそれなりに必死になっていた。 だから。── ガシャン! と、椅子を蹴り飛ばしてしまうのも仕方のないこと。 そこで君が手を離してくれるのなら有難い話だが、 勿論、君が支えのようになっている今に離れてしまえば 体が、腕が床に叩きつけられることは目に見えていた。 ▽ (-225) sinorit 2023/09/29(Fri) 21:05:30 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ…あるいは、もう一度座らせることを試みるだろうか? そうであれば今度は何とかその思惑を叶えることが叶うが、 しかし、どちらにしてもだ。 男は、君から表情を隠すように体を内側に曲げる。 きっと、自分は今、酷い顔をしているはずだから。 「…ふ、………ふ、ふッ…………」 笑いか、あるいは呻きを堪える声か。その両方か。 男の口から漏れるのはそんな音。 病院へ行き、多少眠る時間も確保したとはいえ、 かなり無理をしていた体は、鋭く痛みを訴えている。 「………………………イレネ、オ」 名を呼ぶ。 「君、……何人を、 こう やった……?」そして問う。 それが何であるかより、 右手を腫らした後輩の姿が脳裏に過ぎる。 そして次に過ぎるのは、 「ダニエラ君にも──何かをするつもり、か?」 男は知らない。既に一度は彼女の番が済んでいることを。 そしてそれを問うことが、自らの"隙"になるのだと。 (-226) sinorit 2023/09/29(Fri) 21:06:59 |
【秘】 リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロ心配されるような人間ではないと、 喉まで出かかってしまうのは変えられない性分で。 僅かに口ごもって、また、ため息ひとつ吐き出した。 「……こうして生きている、それが答えだよ。 でもね、ニコ。君は俺よりもまず、彼らを心配するべきだ。 それに君が色々と話をするのは大事だと思うんだが」 話したかい?話せたかい? これからのこと、今回のこと。どうするのかって話。 俺に問うよりもと思うのは少しのお節介。 だから、これから先を当たり前に語る君にもう一度、 深めのため息を敢えて零すのは、仕方のないこと。 「…さぁ、特に何も考えていないよ。 適当にもう暫く──…生きてみる、だけだ」 それが長く保てるかと言えば、分からない。 だけど出来れば、 その時は誰も彼もが手を離して欲しいと思う。 首にかかった縄はいつだって、ここにあるままだ。 誰かとともに落ちるのはきっと、耐えられないから。 (-254) sinorit 2023/09/30(Sat) 1:52:03 |
【秘】 リヴィオ → 夜明の先へ ニーノかっこいいと返されて僅かに言葉に詰まったのは確か。 それが照れなのか、動揺なのかは不明だが、ともかく。 確かに男は君にそんな様子を見せて、 手が自由であれば頬でもかいているんではないか? と思えるような形で少しそわそわと体を揺らす。 咳払いという誤魔化しをひとつ。 格好悪いなとは思うのだが、これが俺だった。 自分が言う分には何ら、そんな感情を抱くことがないのに。 「…あぁ、俺も。君の時間をもう少し欲しいと考えていた」 行こうかと、緩やかな足取りで君を追いかける。 追いかける、とは言ってもだ。きっと君は隣を歩く。 同じ速度で、人の少ない夜道を歩いていくのだ。 辿り着けば促されるままに先に座って、 次に君が座るのを見届けてから口を開いた。 「…この怪我が治った後、復帰したいかどうかを考えた。 だけど、どうしてもその気持ちは湧いてこなくてね」 「…警察だとか、マフィアだとか。隔たりにも疲れた。 あとはそうだね、……少し、自分の道を歩こうと思って。 何がしたいとか、何をしていきたいとか、 そういうものがあってのことじゃあないんだが」 もう少し生きようと思えるうちは、 レールを外れて歩くのも悪くはないかなって考えたんだ。 (-256) sinorit 2023/09/30(Sat) 2:18:28 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ保っていただけだ、不完全な仮面を被り直して。 保とうとしていただけだ、そうでなければ自らを守れない。 がくりと折った膝と曲げた体が掴む腕を離さない君と 反発し、折れた腕に相当な負担をかけていく。 離してくれた方がまだ、マシだった。 「ッ……なんだ、…そんなに、俺の、顔が……見たいかい」 照れてしまうなぁ、そんな軽口を返すものの。 あからさまに苦痛の声が混じっているのは確かだった。 動く右手で君の行いを止めようとする。 弱さを見せるのは苦手だ、笑顔で隠すのは得意だ。 だけど。 守るべき がない分、体調が崩れている分、守るべきものがある彼女より 脆さは出てしまう。「う、ぁッ……は、………そう、か」 ドッ と音を立てて背が床に付けられる。背けた顔は、抵抗する右手は君の力に敵いそうにもない。 「……いや、何…っ、流石にそれは、許せなくてね……ッ」 なんせこちらは病人だ。ここまで保っているのが異常で。 人の内を覗こうとするなんて無遠慮だなと笑いが込み上げた。 しかしその抵抗も長くは続かない。 君に見えるのは余裕もなく、苦しげに顔を歪め、 それでも笑っていようとする弱い男の姿だっただろう。 (-262) sinorit 2023/09/30(Sat) 2:56:31 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ折れて動かない左も、力比べによる消耗で落ちた右も。 まるで壊れた人形のようだと思考出来るだけまだマシだ。 そうして君 に 顔を見せない よう背け続けるが、顎に伸ばされ無理やりに向かされるようであれば、 それも結局、見え透いた結果しか齎さない。 「…………は、」 愉快そうな君に、精一杯の笑顔を返す。 それでも苦痛に歪む顔も余裕のなさも隠しきれはしない。 無駄な抵抗と言われればそれまでだが、 笑顔は己の心を守るための砦だからこそ崩せない。 せめてと、視線だけでもと逸らすことを試みるが それもまた、結局は無駄な抵抗となってしまう。 揺れる海が君の月に映し出される。 隠しきれない弱さが、間近で、 自らにも見える形で映されている。 男の部屋にある鏡は洗面台に取り付けられたものだけ。 本当はずっと、弱さを映すその存在がとても、苦手だった。 ▽ (-276) sinorit 2023/09/30(Sat) 5:22:38 |
【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ触れ合う額はきっと君に、男の異様な熱を伝えてしまう。 滲む汗だって触れ合うことになるだろう。 男にとってそれもまた、顔を歪めるひとつの要因。 気丈に振舞っていたのだと知られてしまうことが嫌だ。 己の弱さを暴かれていくことから、逃げ出したかった。 話し方を忘れてしまったかのように一度言葉を詰まらせ、 代わりに吐き出すのは熱い吐息だ。 それでも、急かす君に伝えなければならないのは、 「……ち、がう。許せない、のは……俺自身、だよ……っ」 それ以上に話すことはない。言っても分かるはずがない。 問われれば答える男ではあったが、 今この時だけは、その全てを晒け出すことはなかった。 男は、察しが悪い訳ではない。 だから、もしかするともう既に……と。 そう考えてしまう頭を、止めることが出来なかった。 それがより一層仮面を保つに障害となると知りながら、 どうしたって、自分よりも彼女を考えてしまうのだ。 笑顔がふ、と──ほんの一瞬、掻き消えた。 (-277) sinorit 2023/09/30(Sat) 5:23:41 |
【秘】 リヴィオ → 口に金貨を ルチアーノヒュッと、自分の喉から聞いたことのない音が出た。 翠眼は緩やかにさまよって、そうしてもう一度、君を見る。 「……止めても、無駄なんだろうね」 出来れば、知りたくない。そして、知られたくもない。 聞かれれば答える男ではあったが、 知らない答えまでは君に渡せないからこそ そうするしかないのだと、理解はしているが。 声をかける日なんて、あるのだろうか。 知りたいと思える日なんて、来るのだろうか。 お互いにその領域を侵さなければ、まだ。 何も変わらず、今と同じ"平和"で居られるはずだって。 悪夢を見ることの何が平和か。 そうでないことくらい、もうとっくに知っている。 それでも別に、恨んでいる訳じゃない。 だって顔は知らない、声だけの存在だ。 亡霊を恨んだって何も変わることなんてない。 …だからこそ、 この苦しみを向ける場所はどこにもなかった。 ▽ (-278) sinorit 2023/09/30(Sat) 5:52:44 |
【秘】 リヴィオ → 口に金貨を ルチアーノ望まれて生まれたかった。 愛されて生まれたかった。 必要とされて生まれたかった。 ずっと、ずっと──生きていくのが、苦しかった。 涙は出ない。泣き方の辞書なんてとっくの昔に置いてきた。 代わりに浮かぶのは、泣きそうなほど顔を歪めた笑顔だ。 俺は要らないものだった。もうずっと、昔から。 ようやく手に入れた居場所でも結局また、 必要とされない、価値のない存在だった。 それでも生きてきたのはきっと、 本当は誰かに、その言葉を否定して欲しかったのだろう。 夢は終わらない。 これからもまだ、変わらない時間が続いていく。 それでももう少し、生きようと思えたのは───。 「……本当に君は、俺のことが……好き、だね」 破滅願望はきっと消えない。 いつかにきっとまた、終わりを求めてしまうのだろう。 それを否定されることは望めないし、変えられない。 それでもまだ少し、あと少しこれから先の未来を、 友人と、君達と、緩やかに、平和に過ごすとしようか。 「……ここを出たら、酒が飲みたい気分だ」 (-279) sinorit 2023/09/30(Sat) 5:55:54 |
リヴィオは、君と友人であるリヴィオは、柔く微笑み君との未来を思い描いた。 (a27) sinorit 2023/09/30(Sat) 5:58:09 |
【秘】 リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロ「……いいことを教えてあげよう、ニコ。 大丈夫だと、そう決めるのは君じゃない」 何を思うであれ、アリーチェの姿を見ていた男は、 あれを大丈夫などと口にしたくなかった。 だから話せ、そう言っている。言わなければならない。 「上手くやれるから話さなくていい、それは違う。 だからこそ、話をしておくべきだって言ってるんだよ」 と、そこまで言って男は右手をぶん!と横に振る。 避けなければ君の頭にヒットする予定だ。 ついでに言うと痛み分け、男も自らの傷で顔を顰める。 その場合はかなりの間を置くのだが。 「………あぁ、そうか。それなら俺が彼らに話しかけるか。 今の俺は本当に無敵だよ、何せ肯定されまくってるからね。 A.C.Aだった俺を肯定する甘い人間が多いんだ」 困ったものだね。そう口にする男の口調は柔らかいものだ。 上手くいかないなと何度思ったことか。 「で、警察を辞めるかどうかだったか。 …もうとっくに辞めてるよ、有給届と叩き付けてきた」 真っ当に警察をやってきた男は、 去り際に真っ当ではない辞め方をしてきたらしい。 当然色々とあったがどうせ、この腕では暫く働けそうにもないのだ。 (-298) sinorit 2023/09/30(Sat) 10:32:51 |
【秘】 リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロどういうも何も詳しい話はしてやらない。 何も出来なかったことを悔いる気持ちは知っているが、 その奥底、確かな思いまでは分かってやれない。 だけどそれは、そう思うのは君だけじゃないってこと。 最後に見た姿が確かさなのか。 それを言うなら、俺がA.C.Aでなければ君は "いつも通り"の俺に大丈夫だと言うんだろうな。 まぁこれは、持たざる者としての妬みだろう、きっと。 痛みに顔を顰める間、そんなことを考えていた。 「……人間っていうのは案外、そういうものなんだろう」 ふと、彼女と語った出来すぎた未来を思い出す。 形は違えど、これもまたその未来なんだろうな。 「それに、それなら俺に道を作らない方が良かったな。 そういう甘さが、未来に繋がっているんだよ。ニコ」 『兄』として、『巡査部長』として、 『いいおまわりさん』として、 そのどれかでいろと頼んだ覚えは一度だってないんだ。 後悔したくないのなら迷わずそれを選べ。 選ぶのは"君"で、"君"がどう在りたいかが答えだった。 …あぁ、勿論。"全部受け入れる"とは言わないけどね。 (-306) sinorit 2023/09/30(Sat) 13:40:20 |
【秘】 リヴィオ → 夜明の先へ ニーノお揃い、果たして喜んでいいものか。 男は薄く微笑んだまま、君の話を聞き、頷いている。 やがて、緩慢に口を開いて。 「…君が、そうして笑って道を考えられるようになって 多分俺は、凄く嬉しいんだと思う」 あの日もここで語り合いはしたけど、 あの日の君は迷路の中で、とても苦しそうで。 まるで、自分を見ているようだと思った。 「君なら大丈夫、そう思ったことも嘘じゃない」 「………本当に、俺達は似ているのかもしれないね。 俺は尊敬や感謝を貰うような人間じゃない、けど。 あの日の君の"希望"になっていたのなら、良かった」 振り回されたとは言わないし、あの日のように、 君の頭を撫でる手はない。代わりに少しだけ身を寄せて、 君の肩にトンッと少し触れようとする。 「きっと君はこれから大変だろうし、 自分の道で歩む分、色々と考えることも増えるだろう。 だから、大丈夫じゃないって少しでも心が揺れたら、 いつでも──俺に甘えておいで」 どこまで頑張れるかは分からない。 だけどもう少し、頑張れる間は君を見守っているつもりだ。 (-329) sinorit 2023/09/30(Sat) 19:01:24 |
【秘】 リヴィオ → 花浅葱 エルヴィーノ署に出向く機会も、友人に聞く機会もあっただろう。 そのどちらかは明かすことはないが、 ともかく、君の病室に出向くのは確かで。 それはきっと一週間以内のこと。 ガガッ。…ガッ、………ガラガラ。 扉を開ける音が外から響く。 何やら、少し手こずっているような様子だが。 暫くすればドアは開いて、君の知る男の姿がそこにある。 とは言っても無事とは言えず、左手は三角巾で吊り、 右手は包帯で巻いて、左耳にはガーゼが貼ってある。 しかしそれを感じさせることもなく、 「やぁ、エル。…随分と、無茶をしたようだね?」 何となくいつも通り、 しかし少し異なった印象を覚えるような冷静さで問う。 「……約束、守れなくてすまなかったね」 そうして、二言目は謝罪だ。 もしもあの日君の約束を果たせていれば 君は、そんな怪我を負うことなどなかったのかもしれない。 考えたところで、仕方のないことだけど。 (-331) sinorit 2023/09/30(Sat) 19:20:00 |
【秘】 リヴィオ → 花浅葱 エルヴィーノ同じように入院している誰かさんのように 何を言っているんだ? と首を傾げたり、緩やかに閉まっていく扉に足を挟む、ことはない。 素直に病室内に入り、ベッド際へと近づいていく。 「はは、俺はデートをしていただけだよ」 嘘、とも言えない。 その詳細までは言えないが、確かに彼女とデートをした。 女性を誘うには些か、 いや、かなり色気のない場ではあったが。 そうして、怪我のことを問われれば、 落ち着きを見せた表情からパッと切り替え笑って。 「デートに心が弾み過ぎてね、ついうっかり 階段から足を踏み外してそのまま転がってしまってね……」 いやぁ、君も気を付けた方がいい。 男は笑顔のままそう付け足して、傍にある椅子に腰掛けた。 これは嘘。しかし必要な嘘だった、と考えている。 誰を守るためか、誰を隠すためか。 そんなことは、どうだっていい話だ。 (-339) sinorit 2023/09/30(Sat) 19:51:42 |
【秘】 リヴィオ → 花浅葱 エルヴィーノ「…あぁ、とても美人で俺には勿体ないくらいだった」 本当。それが誰だとは言わないし言えやしない。 でも君はきっと聞かないでいてくれる。 そう信じているから、男は緩やかに微笑んだ。 それで怪我の嘘、その笑顔は "いつも通り"に振舞っていたつもりだが、 君が察してしまうのなら何も言えるはずがない。 だとして、その詳細を明かすことは一生、ないだろう。 聞かれたら答える男ではあっても、 それだけは語ってはならない真実だった。 「はは、これが真実だよ。俺を疑うのかい? こんなにも正直者で無敵の俺だと言うのに」 今まで散々リヴィオ・アリオストに騙されてきたんだ。 君は、何も知ることなく未来を歩いていくべきだ。 例え歪んだ道だとて、その道が途絶えない限り、ずっと。 ただ、出来ることなら本当は、 その歪みがいつか、真っ直ぐになればいいと。 君のことが大切な先輩は未来に期待している。 例えその未来を、この海のような翠に映すことがなくとも。 (-345) sinorit 2023/09/30(Sat) 20:34:04 |
【秘】 リヴィオ → 花浅葱 エルヴィーノ「はは、病院デートなんてつまらないだろう? 今度は埋め合わせとしてカフェに行く予定さ」 嘘、本当。ぐるぐると混ぜて、分からないようにする。 それが今までのリヴィオ・アリオストという男で、 無敵という仮面は剥いでしまったとしても リヴィオもまた、都合の悪いことは覆い隠していく。 それが上手く出来るからこそ、 "リヴィオ・アリオスト"は20年近く生きていた訳だ。 「…イレネオ?いや、俺は知らないな。 ばたばたしたまま警察を辞めてしまったからね」 本当。行方すらも知らない、生死だってそうだ。 でもそのひとつを考えない訳ではない。 答えは結局分からないから、箱の中に仕舞われたままだ。 元気だといいねと呑気にも語るのは、願いか、あるいは。 「あぁ、あと君は"僕の周りは"と称するが 今の現状を見ると君が一番無茶をした人間だからね。 それを忘れず、見舞いに来る人の有難みを噛み締めてくれ」 「君がこうなる事で悲しむ人はちゃんと、いるんだからね」 これに懲りたら無理はするな。 今回は仕方がないとはいえ、命がいくつあっても足りない。 不思議そうにこちらを見る視線に笑いかけて、 ゆっくりと、腰掛けた椅子から立ち上がった。 (-350) sinorit 2023/09/30(Sat) 21:25:37 |
【秘】 リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロ後悔はしていない。それは男もまた、君と同じ。 そうして甘さも同じだ。 目的は違えど確かに同じ道を歩いていたらしい。 「……はぁ、君ってやつは本当に」 「ひとつだけ、ひとつだけ明確にしておこう。 これは、俺の譲れないものだから」 そう、君が誓おうともこれは男の譲れないもの。 俺を大切にしようと思うのなら、果たせと願うもの。 絶対に、言っておかなければならないことだ。 「……俺は、 次 があれば君を連れて行きはしない。そして、君はそんな俺を追いかけてはならない」 友達になるのか、何になるのかは分からない。 だとして、これは男の提示する一緒にいるための条件だ。 頷かなければ、こちらも君に頷くことはない。 人を掴むなら、君自身が幸せになれ。 それが願いだ、それが望みだ。 俺に"希望"をくれた君に──叶えて欲しいことだ。 「約束、してくれるかな?」 (-351) sinorit 2023/09/30(Sat) 21:35:55 |
リヴィオは、本当はとても、狡い男だ。 (a36) sinorit 2023/09/30(Sat) 21:36:16 |
【秘】 リヴィオ → 花浅葱 エルヴィーノ連れて行ってもらったのか。 さて、笑顔に隠されたものはどちらだろう。 混ぜて隠して、本当の答えは箱の中。 椅子から立ち上がった後、ぐっと背を伸ばす。 傷んだ骨に若干響いたが、これくらいじゃ笑顔は崩れない。 辞めた理由を問われれば「A.C.Aだったから」の一言。 他の理由はもしかすると、まだ、あるのかもしれないが、 複数回答を求められた訳じゃあないから、内緒のままだ。 「おや、君は一体いつから先輩に言い返すようになったのかな。 俺は無茶ではなくてデートの結果さ、同じじゃない」 「棚上げは良くないよ、エルヴィーノ」 包帯の巻かれた右手を伸ばす。 その手は、君の背……ではなく、軽く肩を叩いて、 それから身を反転。都合の悪いことは知らないフリ。 「君とも今度、約束の埋め合わせをしよう」 君の心配を背に受けながら ひらひらと手を振り、緩慢な足取りで扉の前に。 「あ、しまった」などと呟いているのは、多分気の所為。 両手が不自由ってのは本当に──不便なことだ。 (-359) sinorit 2023/09/30(Sat) 22:24:46 |
【秘】 リヴィオ → 夜明の先へ ニーノ勝手に手渡されるものを突き返すのは難しい。 結局、こういうところが"悪役"になれないひとつなんだろう。 でもそれに後悔はない。後悔は、しない。 だから、君からの言葉。ちゃんと受け取るよ。 触れる肩。拒まれなかったことに安堵の息を吐き 海の色は視線だけが空に向いて、 少し、何かを考えるようにその双眸を閉じた。 「俺も、」 「………俺も、この街を出ようと考えているんだ。 友人に頼めば、いい物件を探してくれそうなんでね」 A.C.Aに所属していた、それだけが理由じゃあない。 今の家は与えられたもので、職も与えられたもので。 名前も、何もかもが"リヴィオ・アリオスト"のためのもので。 それは、愛されていたからじゃない。 引き取った以上、そうするしかなかったのだろう。 だから俺が俺として、彼らが彼らとして生きていくために、 今このタイミングで選ぶことが必要だった。 「………まぁ、だから」 「忘れることはないし、見守っている……が、」 ▽ (-370) sinorit 2023/10/01(Sun) 0:37:59 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 夜明の先へ ニーノ瞳を開き、深く、息を吸ってから。 吐いて、少し躊躇って、………それでも。 「── 暫く 、俺と一緒に暮らすかい?」声にする。言葉にする。 自分を受け止めてくれた人達のためにも。 抱いた本音や想いを語って、生きていこうと考えている。 これは、その一歩──のうちのひとつ。 「勿論、既に決まっているなら断ってくれて構わない。 行き場がまだないならって話でね」 「……どうやら俺は、君のことが心配みたいだからさ」 ひとりで歩くのって、きっと大変だから。 その一時の支えを担い見届けて、満足に死ねたらいいなと。 狡い考えを笑顔に隠し、君の隣を 少しの間 歩こうとする。「情けない俺も見せてしまうだろうけど、 それは、……出来れば、許してくれると嬉しいな」 (-371) sinorit 2023/10/01(Sun) 0:39:15 |
リヴィオは、君と同じ空を見ている。 (a37) sinorit 2023/10/01(Sun) 0:40:35 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロ「あぁ、…約束、してくれ」 君には、ちゃんと"幸せになって欲しい"。 そしてこれは、身勝手な願いなんだろうと思う。 しかし、だとして。願わずにはいられない。 これは、仕方のないことだった。 だから、それでいい、そういうように頷いて。 「……君、言っても言わなくても同じじゃないか? 約束してくれと言ったところだろう?」 「精々その時の俺に祈っててくれ。 その約束はあまり、したくない」 君と俺は"対等"で、主と犬じゃあない。 気まぐれに消えた友人か知人か。 それを想って探すなど、やめておいた方がいい。 一方的に、身勝手に。 狡い言葉を並べ続けて、君を縛り付けるやつなんだ。 だけどそれが俺で、この約束を後悔することは一生、ない。 それでもきっとその時、俺は君のことを 考えずにはいられないのだろうなと──そう思うのだ。 「………さて、そろそろ俺は行くよ。 伝えたいことは伝えられた」 (-373) sinorit 2023/10/01(Sun) 4:12:10 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 月桂樹の花 ニコロ"同じじゃない"。 男はそう口にする君の顔を見て、翠を瞬かせる。 「……そうか、違うのか」 腕が自由なら、その手は口元を覆い 考えるような仕草をとっていたはずだ。 「………あまり、期待はしないで欲しい、が。 ……メール一通くらいは送る、かもしれない」 約束は出来ない。約束にはしたくない。 その日がいつ来るかなんて、男にも分からないから。 くるりと身を反転させ、君に背を向ける。 そのまま扉まで歩いて、 来た時とは違い器用に扉を開いてから。 「………代わりに、その約束は叶えてもいい。 そのために精々ルチアーノを口説いてみてくれ」 「それじゃあ、ニコ── また ね」ひらひらと、君に向け振る手はない。 それでも確かに未来の約束を結んで、君にまたを告げよう。 好きも嫌いも、愛も恋も分からない。 だけど君の気持ちは嬉しいと感じられたから、暫くは君と、 その関係を楽しんでいくのも悪くはないだろう。 (-387) sinorit 2023/10/01(Sun) 12:33:54 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 夜明の先へ ニーノ見開かれた双眸から落ちていく一粒を、 空に浮かぶ星々よりも綺麗だと感じたのは 君が君だからこそなんだろう。 「…あぁ──…一緒に居よう」 そうっと、大事な宝物に手を伸ばすみたいに 右手を伸ばして、君を軽く引き寄せようとする。 もしも君が拒まずにいるならきっと 間の子猫はにゃあと鳴いて、まぁるい瞳をこちらに向ける。 だから男は、少しだけ許して欲しいなと子猫に微笑んで、 夜空の下、二人と一匹で熱を分け合うのだ。 「哀しい時は泣いていい。苦しい時は吐き出していい。 俺に抱えられるものはきっとそう多くもないけど」 「俺の前では大丈夫じゃなくていいんだよ」 ほら、シンデレラも時間になれば魔法は解けるだろう? おまじないはあくまでおまじないで、 『永遠』に続く万能さを持つものじゃあない。 しゃんとして、着飾っているのも悪くはないけど、 ひとりの人間である俺達は、本当であっていいんだ。 (-388) sinorit 2023/10/01(Sun) 13:31:45 |
【置】 きみのとなり リヴィオ好きも嫌いも、愛も恋も多くのものを知らないまま。 それでも、誰かを、何かを大切に出来る心はあった。 それは、こんな自分を慕ってくれた君やエル、 こんな自分に何となくでも贈り物をくれたダニエラ君、 こんな自分でも友人になってくれたルチアーノや、 同じ立場で、落ちる前に手を掴んでくれたニコのおかげだ。 破滅願望はあるけど、 それでも、生きているうちくらいは前を向いていよう。 俺はもう、ただのリヴィオなのだから。 (L3) sinorit 2023/10/01(Sun) 13:33:26 公開: 2023/10/01(Sun) 13:35:00 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → マスター エリカ向けられた瞳を感じながら 皿の中身がなくなるまでは、ただ、静かに。 君の、貴方の変わらない態度が確かな救いだった。 友人でもない、時折寄る店のマスターである貴方に、 俺は、確かに救われていたんだ。 そんな話、この先誰かに話すこともないだろうが。 抱いた思いは偽物じゃなく、ずっと確かなものだった。 やがて、皿の中身がなくなる頃。 手にしていたスプーンを置いて、両の手を合わせる。 「ご馳走様でした」 その一言に含まれるものが僅かな感謝ではなく、 今までの全てを含むことを知っているのは、男だけ。 だけどそれでいい。これは男の、勝手な思いなのだから。 「……それじゃあエリカさん、落ち着いたら、また」 そう言って立ち上がり、 きっちり値段分のお金を君に渡して扉に手をかける。 そうしてそのままその場を後にする──のではなく、 「…あ」と何かを思い出したように振り返り。 「今度は、具沢山のシチューを食べに来るよ」 (-389) sinorit 2023/10/01(Sun) 14:44:54 |
リヴィオは、貴方の作る料理を大層、気に入っている。 (a41) sinorit 2023/10/01(Sun) 14:45:57 |
リヴィオは、柔らかに微笑んでから店を後にする。それは──5日目の午後のことだった。 (a42) sinorit 2023/10/01(Sun) 14:47:07 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 法の下に イレネオ合わせた額も、擦り寄せられる鼻先も。 己を映す金も……顔を歪める要因ではあれど、 動揺を誘うような何かはなかった。 ただ、そこから先が 良くなかった 。「……………ん、ッ」 押し付けられた唇の感触に男は目を見開き、 瞳をより一層強く揺らす。 それはきっと、長い時間ではないのだろう。 だとして、この男にとってはそうではなくて、 落ちた右手をまた持ち上げ、 君の体にその手を当て 弱々しく 押し返そうとする。「……ふ、……………」 動揺で思考がぐちゃぐちゃだ。 自分がどのような表情をしているかさえ分からない。 ただ、目の前の君だけを感じることしか出来なくて、 自らが零す声にどうしようもなく弱さを感じて、 そんな自分がとても、とても、 嫌で堪らなかった。 ▽ (-398) sinorit 2023/10/01(Sun) 15:55:39 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 法の下に イレネオやがて一度目が終わる頃、何かを言おうと開いた口は 二度目によって音もなくまた、閉じられてしまう。 体が失った酸素を求めて、激しく上下する。 自分は知らぬうちに息を止めていたのか。 そんなことをぼんやりとした思考の中、考えて。 取られた手を、僅かに虚ろな瞳が追いかける。 あぁ、心配だよ。だって俺が連れてきたんだ。 友人に任されたこともあるけど、俺自身が彼女を心配で。 ここはいい場所とは言えないが、それでも。 彼女には少し、少しでも──休んで、ほしくて。 ぐず、と……胸の奥で何かが渦巻いた。 愉快そうな声も、弧を描くその唇も。何もかもが 信用に値せず、提案に乗っていいことがあるとも思えない。 それでも、欠片でもそれが"本当"であるなら、 「………………わかっ、た」 首を、縦に振る以外に出来ることはなかった。 せめて彼女の左手の小指にだけは触れないでくれと、 愚かな男は愉しげに笑う君に──願いを乞うた。 宝物のように大切に撫でるあの仕草が深く、印象に残っていて。 あんな風に何かを大切に思う気持ちは──彼女から、貰ったものだったから。 (-399) sinorit 2023/10/01(Sun) 15:57:58 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 夜明の先へ ニーノ君に手を伸ばしてしまったのは、 『自分』を見てしまったからなのだろう。 多くの感情を隠し、縋れなかった先を知っている。 だから、そうなって欲しくはなくて。 君には真っ当に、真っ直ぐに、生きて欲しいと願って。 身勝手な願いのまま、 暫く なんて半端に手を取って。でも、後悔なんて、微塵も湧いてこなくて。 引き寄せた背を撫でながら、 逸らすことなくありのままの君を翠眼に映し出す。 誰に何を言えばいいのか分からない。 迷惑をかけたくない。 平気だと笑っていれば、きっと『大丈夫』だ。 本当の願いを飲み込んで、 本当の不安を隠し続けて、 それでも『大丈夫』だと──真実を箱の中に閉じ込めた。 そんな人間を、俺はよく、知っている。 そうしてそれが"普通"ではないことも、理解している。 無敵だから『大丈夫』なんて、そんなこと、在りはしないのだ。 だけど、『何にもなかった俺』は、そうするしか選べなかった。 ▽ (-405) sinorit 2023/10/01(Sun) 18:32:03 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 夜明の先へ ニーノ涙が落ち着いて、君が顔を上げた頃。 男は君に気にしなくていいというように微笑んでいた。 謝罪にだって、首を横に振る。 涙というものはそうなのだと、知っているから。 泣かないことが強さじゃない。 だから、涙を流せるのなら我慢せず泣いたっていい。 「…勿論、一緒に行こう」 「決めることは……うん、少し友人に確認してみるよ。 落ち着いてからだと君の暮らす場所に困るだろうし、 それに、俺も今の家から早く移動がしたくてね」 ひとつひとつ、君の確認へ答えを返していく。 最後については少し、悩むように撫でられる腕を眺めて。 「それで期間は………そうだな、」 「…君が、一人で歩いていけるようになるまでかな。 暫くとは言ったけど、あんまり詳しくは考えてないんだ」 1年か、5年か、あるいは10年か。 どれほどでそうなれるのかが分からない男は、 のんびりとした口調で、そんな答えを返すのだった。 (-406) sinorit 2023/10/01(Sun) 18:33:03 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 幕の中で イレネオ煽るつもりなど、この男には微塵もなかった。 思考の乱れた頭では考えようもなかった。 ただ逃げたいと思う心が、そこにあっただけだ。 冷たい金属の音が響く。 何をされるかなんてもうとっくに、理解しているのだ。 こんなのはもう、取調という枠から外れていることだって。 最初から、そうではなかったことだって。 理解していて尚、逃れることは出来なかった。 君に、正しさを教えることなんて叶わなかった。 虚ろな瞳は天井に向いて、 合わさる額と金の瞳をぼんやりと眺めてから 離れていく君の影を見送った。 それでも、最後の抵抗だと言わんばかりに 君が居る方から視線を逸らし、その表情を隠そうとする。 引き結んだ口は不器用な笑みを懲りずに浮かべて、 宛てがわれた金属の感触を、指先に感じた。 痛みには、慣れている──けれど。 ▽ (-408) sinorit 2023/10/01(Sun) 19:13:27 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 幕の中で イレネオ「 ぎ 、ッ……あ゛ あ゛ あ゛ッ゛ ッ゛〜〜〜!!」絶叫。ここまで出来る限り笑顔に隠して、 それで、苦痛さえも閉じ込めていたけれど。 どうしたって、抗えないものはある。 体が跳ねる、左手の指先が床を掻く。 足は ダンッ と床を叩いて、右手の指先が君の手に縋るようにきゅうっと力が入る。 目を見開いて、流れる汗は床へと落ちて。 そうして、めいっぱい開いた翠から一粒の雫も落ちていく。 「ぅ、あ゛あ゛…ヒュッ、は………っふ、……あっ、あ゛」 泣けるような男ではなかった。 泣き方なんてとっくに忘れてしまった。 それでも、それは生理的なもので、止めようがない。 落ち着けようと大きく吸った息は、 カヒュッと男の喉から詰まるような音を鳴らした。 既に異常とも言えるほどに、堪えてきた痛みもあった。 だから、それら全てが集約し、爆ぜて。 そこから先はもう止められない。 それでも、君へと頷いた以上嘘には出来ない。 男は、真面目だった。それでいて、愚かだった。 (-409) sinorit 2023/10/01(Sun) 19:15:21 |
【秘】 きみのとなり リヴィオ → 夜明の先へ ニーノ何だか悪戯っ子のようだなと、 笑う君に少しだけ眉を下げて笑う。 答えは上手く返せなかったし、君もそれを分かってる。 自分はこの問いに困っているのだろうか。 それとも、それ以外もあるんだろうか。 なんだか綯い交ぜになったような感情に僅かに首を傾ける。 その間に肩にとん、と軽い衝撃を感じて。 言葉はまだ、返せない。 聞こえる小さな声に眉を下げたまま、また、笑った。 「………はは、…そうか」 そうしてそれ以上、言葉は出てこなかったから。 止まってしまった手でもう一度、君の背を撫でる。 自分は、そう長くその選択を取れないのだろうと思うけど。 だからといって、そうだと君に明かすのは、まだ先の話だ。 再び君が顔を上げる時、その言葉に頷いて。 回していた腕を外し、緩慢にベンチから立ち上がる。 「頑張って治療するよ、困ることも多いからね。 君に迷惑をかけることもあるだろうけど……あぁそうだ。 俺には色男で猫のエキスパートの友人がいてね。 今度紹介するよ、家の話も彼にする予定だからさ」 「──それじゃあ、帰ろうか」 (-428) sinorit 2023/10/01(Sun) 20:37:56 |
リヴィオは、「ねぇ、ニーノ。………いや、えっと」 (a45) sinorit 2023/10/01(Sun) 20:38:03 |
リヴィオは、署内での"ニーノの話"を思い返して悩むような仕草。しかし、言葉は続く。 (a46) sinorit 2023/10/01(Sun) 20:38:11 |
リヴィオは、「俺達はまだ、お互いに知らないことも多いからさ。落ち着いたら話をしようか」 (a47) sinorit 2023/10/01(Sun) 20:38:21 |
リヴィオは、言えること、言えないことがあるだろうけど──それでも、話すべきことがあるから。 (a48) sinorit 2023/10/01(Sun) 20:38:31 |
リヴィオは、「あぁ、そうだ。晴空の下の散歩も忘れずに行こうね」 (a50) sinorit 2023/10/01(Sun) 20:38:41 |
(a51) sinorit 2023/10/01(Sun) 20:39:32 |
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