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【人】 研修医 サキ[幼い頃、ドラマで見た憧れのお仕事。 白衣を翻して人々を救っていく姿は、さながら スーパーヒーローだった。 苦しみから、死の淵から。 僕もヒーローになりたいと思うようになって、 ヒーローになるにはたくさんの努力が必要だと思って、 必死に勉強を頑張った。 ようやく、憧れた白衣のマントを着れたと思ったのに ─── ] (82) 2021/07/02(Fri) 1:48:14 |
【人】 研修医 サキ[プルルルル ─── 首から下げたPHSから着信音が鳴った。 それは地獄の始まりの合図。 ぱっと仮眠から飛び起き、寝惚けたままの頭で 廊下を駆ける。] はい、佐木です。 今仮眠室です、すぐ行きます。 [廊下では看護師や他の医師が駆け回り、空気は さながら戦場であった。 それもその筈、人一人の動きにまた一人の命が左右される。 皆が、緊張感を持って働いていた。 その一人になってからまだ少し。 皆についていくのがやっとという頃。 毎日がこんな感じで、緊張の糸が緩む瞬間は僅かしかない。] (84) 2021/07/02(Fri) 1:48:57 |
【人】 研修医 サキ[その日も、廊下を駆けまわった後ようやく落ち着いた時だった。 仮眠に入ろうとしたがなかなか寝付けず、 入眠のためにスマホで文字を追っている時。] れでぃーす、あーんど、じぇんとるめーん…… [ぽつりと呟いて、疲れた脳、休養が足りていない脳で そのサイトに書いてある通りに文字を打ち込んだ。] (86) 2021/07/02(Fri) 1:49:33 |
【人】 研修医 サキ……あ゛ーーーーー 本当に叶ったらなぁ [ぽいとスマホを放って、持ち込みのブランケットを深く被る。 そうするとようやく眠気がこちらに寄ってきて、 瞼が重たくなってくる。 やがて、仕事の忙しさに忙殺されていた頃(いつものこと)、 メールボックスに一通のメールが届くのであった。]* (87) 2021/07/02(Fri) 1:50:27 |
【人】 救急救命医 サキ[地獄の研修期間もすぐに終わり。 俺の配属された救急救命医は、 重症患者の生命を救うために初期治療から集中治療まで 幅広く、一貫した診療スキルを求められる。 だから覚えることも山積みで、休みの日だってのんびりできない。 業務が終われば勉強に次ぐ勉強、また勉強。 そうして一日を過ごしてみれば、時間もとっくに夜、 なんてことも多いわけで。 あっという間に時は過ぎていくものだ。 昔から集中する時、過集中になりがちで、 アラームをかけないと時間の流れがわからなくなる。 過集中になった後はどっと疲れて、 すぐに寝落ちることもしばしば。 そうすると何が起きるかというと、恋人の放置だ。] (138) 2021/07/02(Fri) 22:19:41 |
【人】 救急救命医 サキ……既読、付かない また振られたかなぁ [恋人へのメッセージに既読のマークが付かなくなってから 一週間が経過した。 せめて振るなら言葉にして言ってほしいものの、 自分も一日二日放置することもたまにあるので、 それは我儘かもしれない。] (139) 2021/07/02(Fri) 22:20:08 |
【人】 救急救命医 サキせっかく見つけたのに。 [恋人探しというものに苦労してきたから、 今回の恋人もやっとの思いだった。 というものの、はっきり言って、俺はゲイだ。 周囲にはカミングアウトは当然のことながらしていない。 いくらジェンダーについて認知が広まってきたとはいえ、 カミングアウトを気軽にできるほど世は甘くない。 今回の恋人とはそういう人たちが集まるマッチングアプリで 知り合って、交友を重ねながらやがて恋人になった。 交友中、何度も仕事の話はしていたから理解を得られていたと 思っていたのだが、どうやら理解は浅かったらしい。] (140) 2021/07/02(Fri) 22:20:21 |
【人】 救急救命医 サキはーーー…… どこかに俺を理解してくれる人、いないかな [本当に理解してくれる人が欲しい。 男で、仕事の忙しさも理解してくれて、 受け入れてくれるだけの包容力もあって、そして ─── ] (141) 2021/07/02(Fri) 22:20:38 |
【人】 救急救命医 サキ511号室…… 5階? [画面に表示されたメールに書いてある文章を読み上げる。 俺の望みを叶えられるかもしれない相手とマッチングした、 だなんて都合のいい話が、メールフォルダに転がっていたのを 見つけたのは、夜勤明けの疲れた頭だった。 まさかと思い一日ほど熟成させ、 いやまさかともう一度眠気が覚めた脳で見てみると しっかりと明記されていた。 お楽しみあれ─── 楽しめる内容が、そこに完成しているのか。] (242) 2021/07/04(Sun) 0:10:56 |
【人】 救急救命医 サキ[忙しい最中、有給を貰いここに来た。 前日夜勤だったからか寝すぎてしまい、 チェックインの時間に少し遅れてしまったことは 遅刻をあまりしない俺としては痛恨のミス。 お相手を待たせるわけにはいかない、と 早歩きでホテルまで来て、 そこの非日常感に度肝を抜かれたりして。 普段なら足を踏み入れることすらないような空間に、 ほんの少しの居づらさも感じた。 ……今日会う相手は、少し待たせたことも、 この非日常感も、ほんの少しの居づらさも。 全てを許容してくれる人だろうか。 そうだといいと、期待に背を押されて エレベーターへと乗り込んだ。] (243) 2021/07/04(Sun) 0:11:12 |
【人】 救急救命医 サキ[廊下に敷かれたラグは靴音を吸収して、 革靴の底で叩いても音は鳴らなかった。 期待は緊張感に変わり、とくんとくんと鼓動を早くする。 扉の前に着くと、緊張は最高潮に達する。 511号室、間違いなく、この部屋。 ゆっくりと手を伸ばして、 入ります、の意を込めて扉に3回ノック。 音は中に聞こえただろうか。 1回目のノックは緊張で手が震えて小さな音になってしまった。 ホテルマンから受け取った鍵を差し込み、扉を開ける。 静かに中に入り、部屋の内装を見た。] ……豪華ぁ [思わず呟いた言葉は広い空間に案外響いて、 相手に変に思われたかもしれない。 でも、この内装を見たら誰だってそう思うだろう。 部屋に鎮座するキングダブルのベッドも 大きく存在感を放っていて、ここで何をするか、だなんて 容易く想像がつく。] (244) 2021/07/04(Sun) 0:11:28 |
【人】 救急救命医 サキ[あ、相手の希望に男希望って書くの、忘れてた。 なんて今さらなことを思いながら部屋のソファーに 荷物を置こうとして、そこにいた人影にようやく気付いた。] わ、 す、すみません…… [その人の膝上に置こうとしていた荷物を慌てて退けて、 ひとつ謝った。 次に、遅れたことに対してまたひとつ謝ってから、 その人をようやくちゃんと見る。 控え目な柄が入ったシャツにチノパンと、 一応落ち着いた雰囲気の服を選んできた俺と違って、 ラフな人だな、と思ったのが第一印象。 次に顔を見て、あ、若い。それに男の人だ。 そうして安堵したのが次の感想。 さらによく見て ─── ] (245) 2021/07/04(Sun) 0:11:41 |
【人】 救急救命医 サキ……あれ? もしかして……瀬名原くん? [見覚えのある顔に、そう尋ねた。 同じ大学を出て、同じ病院に就職して、 そこからはほとんど会っていなかった彼。 会ったとしても、こちらが忙しすぎて会話なんて 二言三言で終わってしまっていた。 一応の同期。 そんな関係の彼と、こんなところで会うとは 思ってもみなくて、ぽかんと口を開ける。] (246) 2021/07/04(Sun) 0:11:58 |
救急救命医 サキは、メモを貼った。 (a10) 2021/07/04(Sun) 0:15:31 |
【人】 救急救命医 サキ[佐木くんだ、と同じように本名で返されれば、 やはり間違いではないことがわかった。 思わぬところで知り合いとの遭遇。 街中だったり、店の中だったりならまだしも、 ここであることが問題なのだ。] ……せ、 瀬名原くんも、 このマッチングに応募していたの? [はは、と笑いを張り付けたまま、そう尋ねる。 返答が返ってくる間に考えを頭に巡らせる。 どうしよう、職場にバレるかな。 ゲイばれまでしたら最悪だ。 彼には申し訳ないが、帰るのもありか? いや、ここにいるということは ─── ] (325) 2021/07/05(Mon) 1:58:49 |
【人】 救急救命医 サキ[そう考えると、次第に笑いがこみ上げてくる。 こんな近くに俺の願いを叶えてくれる人がいたなんて。 それも、男で。 瀬名原くんはタイプとかそういうのではなかったけれど、 近くにいたというだけでも嬉しい。 ぽんぽんと叩かれたソファーに素直に座り、 荷物を床に置いて瀬名原くんを見る。 彼がいつも浮かべている笑みに、自然とこちらも笑みになって。] ……今日はよろしくお願いします? [なんて言ったりして。]* (327) 2021/07/05(Mon) 1:59:17 |
【人】 救急救命医 サキ[このマッチングサイトに対して 真剣な思いだったかどうかと聞かれたら、 わりと真剣な方だった。 メールを送った時には恋人との関係は冷めきっていて、 受け取った時には別れていたから、 人肌が恋しかったのもある。 ともかく、飢えていたのだ。] そっか、 してくれるんだ [ぽつりと、嬉しそうに呟く。 隣に腰掛けると触れ合う脚から体温が伝わってきて、 飢えていたからこそ、もっとと求めてしまう。 でも、相手がどういう気でここに来たかを もっと計ってからではないと、と 無駄な自制心が働いて、無意識にストップをかけてしまう。] (346) 2021/07/05(Mon) 15:21:03 |
【人】 救急救命医 サキ面白そうだったから、か。 じゃあ、好奇心? [瀬名原くんはいつもにこにことしていて、 そのせいか感情が読み取りづらい印象があった。 横を向いて瀬名原くんと目を合わせ、 その表情を窺おうとする。 どれほど深くまで踏み込んでいいのか、 どこまでしていいのか。] たしかに、 こんなの気になっちゃうもんね。 [自分の願望を叶えてくれるマッチングサイト。 願望がどのようなものであれ、唆られるものがある。 願望が無くてもそうだし、あれば尚更。 それがどれほど強いものなのか、どれほどの熱量をかけたものなのか。 その目をじ、っと見て、計る。] (347) 2021/07/05(Mon) 15:21:34 |
【人】 救急救命医 サキ[見つめていると手が伸びてきて、 俺の適度にセットしている髪に触れてきた。 梳くように撫でるその手は温かくて、 まさに俺が求めていたものだった。 子どもにやるように撫でられても、 それでよかった。それがよかった。 思わず目を細めて、頬が緩む。 先程までの、何かを計ろうとしていた自分が 馬鹿馬鹿しくなってきて、 撫でられるだけでこうなる自分、ちょろいな、なんて 心の中で笑った。] うん…… 本当に、なんでも言っていいの? [瀬名原くんの膝に手を置いて、 細めたままの目で問いかける。 その言葉が甘い毒のように身体に染みて、 とろんと脳が溶けた。] (348) 2021/07/05(Mon) 15:22:23 |
【人】 救急救命医 サキ[ちょろいのだ、飢えていたのだ。 そう言い訳しながら、瀬名原くんに凭れかかった。] じゃあ、 抱きしめてほしいな [近くなった瀬名原くんの、その肩口に額を当てて、 すぅ、と呼吸をした。 もうすぐ夏だというのに汗臭くはなくて、いい匂いがした。]* (349) 2021/07/05(Mon) 15:22:47 |
【人】 救急救命医 サキ麻酔科…… たしかにのんびりしているもんね [走り回っている救急救命科と違って、 麻酔科の人たちはいつも廊下を歩いているイメージ。 だからかもしれない、こんなに余裕があるのは。 その余裕に甘えようと撫でてくる手にすり寄っていると、 小さな笑い声が聞こえた。] ……やっぱり、 俺がこういうのだって知って、 笑う? [緩んでいた表情を少しだけ、 眉根を下げて八の字にした。 笑わないで、なんて我儘を言えるほど幼くなくて、 笑っていることを受け入れられるほど、 彼との距離は近くはなかった。] (366) 2021/07/05(Mon) 20:32:07 |
【人】 救急救命医 サキ[だから抱きしめてほしい、というお願いも 恐る恐るになってしまったかもしれない。 肩口に額を当てたのはその表情を見られたくなかったから。 または、彼の表情を見たくなかったから。 でも、返ってきた返事にぱっと顔を上げて、 表情に嬉しさをまた滲ませた。 ぽんぽんと叩いたその足を見て、 乗ればいいのかと考えてその上に跨る。 見つめ合う形になれば、 ちょっと目つきの悪い彼の瞳をじっと見てから抱きしめる。 躊躇いは、少しだけあった。 相手は職場の人間だし、 それにまだお仲間かどうかもわからない。 それでも、飢えの方が勝ったのだ。] (367) 2021/07/05(Mon) 20:32:27 |
【人】 救急救命医 サキ[ぎゅう〜、なんて軽い調子の彼に 重たい気持ちを吸い取ってもらうように、 抱きしめて体温を求める。 冷房がきいているからか、俺の体温が低かったからか、 彼がやけに温かく感じた。 頬をすり、と擦って、彼と触れ合う。] ……瀬名原くんは、さ [名前を呼んで、少しだけ身体を離す。 次の言葉まで間が空いてしまう。 その間は俺の、気持ちの重さ。] (368) 2021/07/05(Mon) 20:32:41 |
【人】 救急救命医 サキ可愛い…… そう思ってくれるんだね [抱き着いた彼の顔の横で、少しだけ頬を染める。 可愛いという言葉は男である俺には不似合いなのだろうけれど、 こう言ってくれるのも甘やかしの一種だろうか。 言われて抱きしめられると、 愛玩動物のように扱われているみたいで 悪い気持ちはしない。 いきなりすり寄ったりして驚かれるだろうか、なんて 考える余裕は、忙しく張り詰めた毎日を送る 俺の心にはなかった。 相手がお仲間かを気遣う思考はあっても、 自分の行動を自制する心がないのも同じ。 だから、自分の行動はちぐはぐになっていたと思う。] (391) 2021/07/05(Mon) 22:18:41 |
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