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【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>120 極至近距離での白兵戦で、完全に攻撃を避けることなど不可能だ。 姿勢を僅かに整えるまでの数瞬に、 殴打は筋肉と骨で、刃は服の表面で受ける。 みしりという音が体内で響いて、足先が思わず溢れ、 それでも牽制を幾度と放ち、 そのまま押し込まれることを防ぎ切る。 体躯では負けている。 体重というものは格闘戦において絶対だ。 それでも、正面からぶつかり合う。僅かでも腕のうちに潜り込むように身をかがめて、 「っ、づ」 抉りこむような蹴りが、突然そこに現れたかのように肉を打つ。 ばぢん、という音を遠くに聞きながら僅かに体を引いて、 じんと痺れる足をかばうよう片足でかるくステップを踏みながら、ノックするような軽く早い拳を叩きつける。 体力と血液を絞り出すかのように打ち、打たれ、削り合う。 喧嘩でも殺し合いでもある、それはひどく原始的な闘争だった。。 #BlackAndWhiteMovie (121) 2023/10/01(Sun) 11:39:49 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>121 眼前を血しぶきが舞う。鈍くえぐれた傷口は鮮やかな肉を垣間見せ、直に赤を滲ませた。 段々と温む拳と襟首がその凄惨さと、負ったダメージを物語っていた。 休みの一つも挟まない連打は徐々に勢いは鈍っていく、故に仕切り直しの蹴りを放ったのだ。 持っていけなかったのなら足は弾むように引き戻されて地面を叩く。 その勢いのままに体は沈み込み、肩より下まで降りた。 幸いであったか不幸であったか、予測による行動が拳の当たる先を決めた。 「ぐ、」 ジャブは傷ついた右目の端を掠めた――正確には掠めただけで十分だった。 瞼の横手を叩いた拳は元よりあった傷を広げ、こめかみまで薄い肉を切開した。 潰れて瞼の中に溜まっていた、眼球だったのだろうものがどろりと頬を落ちる。 沈んだ体はナイフを握った左手を回すように後方まで引き絞らせる。 胴を狙うか、脚を狙うか。選んだのはそれ以外だった。 顎下を見上げられるくらいまで沈み込んだ姿勢から焦点を合わせる。 アッパーカットの要領で、逆手に構えたナイフを腹部から頭部まで駆け上がるように振り上げた。 深く当たれば骨に当たって止まる。浅ければ傷は広がる。 逆手に持ったのは射程を腕の長さより外へと伸ばすためだ。 今の状況において表情を緩めていられるほど余裕があるわけではない、というのは、 筋肉を緊張させておく必要があるからだ。そうでなきゃ、笑っていた。 これが楽しくない筈がない。 #BlackAndWhiteMovie (122) 2023/10/01(Sun) 12:10:40 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>122 「ッダ、…っあぁ゙あ!!」 振り上げられたナイフに対し、踏み込んだのは本能的な反射行動だった。 刃ではなく、それを握る腕を止める。 それもガードと呼べるものではなく、飛び込み、胸板で受けるだけ。 どんという衝撃が肺を貫き呼吸を止めるが、 構わず、かじりつくようにナイフごと腕を抱き込みひっつかむ。 「…… っラ、 ぁ゙!!」命を振り絞るような格闘戦では、ぱたた、と水音が響くものだ。 それは汗か涎か、血か、あるいは髄に近いものか。 生命の雫が撒き散らされていくように 二人の足元になにかが飛沫く。 笑顔はない。 だが高揚し、滾り、燃えていた。 その勢いのままに大きく体を捻り、 砲弾のようなストレートが放たれる。 技巧も戦術も殴り合いの中に消えていき、 あるのはただ肉と骨を叩きつけるような気迫だけ。 #BlackAndWhiteMovie (123) 2023/10/01(Sun) 12:19:44 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>123 ぎ、と歯ぎしりをする音が鳴る。肩を砕かれている左腕を固められれば、 どうしたって押し引きに依る力の均衡は負傷した部位に集められる。 呼吸が乱されれば攻防のリズムも自然と崩れる。 掴まれた腕を引いて振りほどこうとして、軸足に体重を掛けた、 その瞬間に破裂音じみたものが響いた。 体重の乗った一撃は頬を殴りつけ、ぐらりと首から上を揺らした。 まともに食らえば隙を生じる。ふ、と体から力が一瞬抜けた。 それしきで降参なんてつもりはないが、一手分の空隙を晒すには十分だった。 密着した体の間で、からんとナイフが地面に落ちる。 一瞬吹き飛んだ頭の中身を引き戻して攻め手を考えるにしたって、 どうしたところで相手の次撃が先になる。 #BlackAndWhiteMovie (124) 2023/10/01(Sun) 12:43:24 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>124 振り抜いた腕が、拳が、びきびきと軋む。 指がひしゃげてしまったかのような衝撃。 ─構わず、再び握り込む。 「…、っ、お休みしてンじゃ、ねえぞおっ!!」 ナイフの音、体勢、隙。 それらを自覚しながら、けれどどうでもよかった。 2度。3度。その一撃一撃で殺すつもりで、 拳を叩き込みながら前に出る。 突き進む。 もつれ合うほどに飛び込んで、めちゃくちゃに殴りつける。 どちらのものかもわからない液体が飛んで、びたびたと落ちていく。 それらすべてを振り払うように足を振り上げて、 そのまま蹴倒す様な前蹴り。 姿勢を崩せば、あとは絞め殺してやるだけだと、 前へ。 #BlackAndWhiteMovie (125) 2023/10/01(Sun) 18:22:36 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>125 数度に渡り拳が頭部を殴りつける。頭を上げはしない。 上げられないのは顎を打たれるのを厭んで、頭蓋の丸みで受けているからだ。 それだって苦し紛れのやり過ごしであって、ガードしたほうが良いのは確かだ。 顎を引き、狭い視界で相手の拳の動きを潜り込むように見遣る。 それでもまだ尚眼光は諦念を宿しては居なかった。 いつも日常を過ごし、他人と過ごしている時よりもよほど活き活きと殺意に燃えていた。 「っ、づきは」 攻め手を変えた動きを、見ていた。 ふらつく頭をどうにか押し戻し、屈めた姿勢は蹴り"に"立ち向かった。 傷ついた左手が脛を掌底で受け、浮き上がらせた膝の下に肩を半ば差し込む。 重心を上にずらさせながらに踏み込んだ体は右肘を前に出して滑空し、 全体重を肩から肘の上腕筋に乗せて鳩尾めがけて倒れ込むような、 頭上まで持ち上げない形のパワーボムだ。 「地獄か、――」 日の頂点の沈みつつある、海の音が近かった。 踏みとどまることが叶わなければ互いの体は、海の中へと落ちる。 #BlackAndWhiteMovie (126) 2023/10/01(Sun) 18:47:05 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>126 がつがつと頭蓋骨を殴りつける拳が、恐らくは指としての機能を失いつつある。 だとしてもそれは打突部位として、最後までそこに在る。 だったら、十分だ。 いつのまにか取り落としてしまった車のキーは、もう見当たらない。 苦し紛れのように腕時計を外して、それを握り込み、 僅かに重みを増した拳を何度も何度も叩きつける。 油断は、しない。慢心も、しない。 このまま殺しきるつもりで打ち、殴り、叩き、蹴る。 呼吸することすら忘れ繰り返す打擲の末、 「っ、お」 先ほどナイフを握る掌を受けた時の、逆回しか。 蹴りが威力を発揮する前に受け止められ、 ぐわんと体が持ち上がる。不味い、と体を引く―― より 、も、そんなことよりも。 「…っがッ!!!」 一撃入れることばかりが、脳を焼く。 持ち上げられた肩口に重心を預けて、倒れるに任せて。咄嗟に跳ね上げた軸足を折りたたみ、 ――顔面に、膝を叩き込む。 踏みとどまるつもりは、なかった。もろともに海へと叩き込むその狭間に、がづん、と。 #BlackAndWhiteMovie (127) 2023/10/01(Sun) 18:56:14 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>127 血の絡んだ髪が引きちぎられて頭皮が飛び、切れた瞼の下からは白い骨が見える。 鼻骨は折れて元の面影を残す面は少しずつ削られて尚、スカイブルーが貴方を見ていた。 しっかり組み付き切った膝は肩でホールドしたまま。 脚が地面を蹴る。二人分の重さが急に重力を失ったようにふっと軽くなって、 きらきらと海面の光る水の上へと投げ出された。 それでも尚視界に迫る膝を見て咄嗟に出来たことと言ったら。 勢いをつけた殴打は手段としては取れない。 基点となっている肘をぐるりと回して、指が伸べられたのは、 包帯で塞がれた、傷ついた眼窩の内側だった。 どっちが有効打であったのかが判明するよりも早くに、 スローモーションで動く秋の海の冷たさが迫ってきていた。 #BlackAndWhiteMovie → (128) 2023/10/01(Sun) 19:11:27 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>127 ――続きは。 「海の底で、やるか」 これで決着がついたとは思わない。相打ちだとも思わない。 だったらこれから先の予定なんてのも決まっている。 それを未だ楽しみだと思えることにか、まだ互いを付き合わせていけることにか。 着水の瞬間、ようやく頬を緩めた。 果ては地獄の底でさえあっても。 #BlackAndWhiteMovie (129) 2023/10/01(Sun) 19:11:38 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>128 「てめえ」 口を大きく開いて、 赤い飛沫が白波を横切り、 橙の燦光が瞼を過り、 視界と天空が回転する。 「なあ」 がづん、がづん、がづん、がづん。 肉と骨が打ち合う衝撃が、今も続いているのか、 それともずきずきと鈍く残る残響なのかもわからないまま。 誰も逃れられぬ運命のごとく、 重力が追いついてきて、 「──ふざ」 #BlackAndWhiteMovie → (130) 2023/10/01(Sun) 19:18:23 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡音も衝撃も、感じなかった。 気が付いた時には、全身に泡がまとわりついていた。 どちらが漏らしたものかもわからない 気泡が全身を覆って、 海面で乱反射する夕日が薄暗く差し込んで、 がぼ。 この泡は、自分の口から出たものだ。 それだけを自覚しながら、 ごぼ ごぼぼ。 ――握り締めた拳を、そ の顔面に 叩き #BlackAndWhiteMovie → (131) 2023/10/01(Sun) 19:19:32 |
(a44) 2023/10/01(Sun) 19:25:35 |
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