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【人】 口に金貨を ルチアーノ背の低いしっかり者を見送ったあと、通知の鳴り止まない携帯を見る。 まだまだ自分は何処かで必要とされていて。 疲れても歩きを止めることすら許されないような気にさせられた。 「『ちゃんと答えを見つけて、言いたいことを言えるようになるから』……ねえ」 「俺もそれをしないとならんのだよな」 大きなため息をついて空を仰ぐ。 にぎやかなリボンを一つ空中でキャッチしてまた捨てた。 「それにしても今、あの旦那のことを頼まれたか……? どうせアレのところに行ったんだろ……人気者め……。 ……はあ、……俺が吹っ掛けておいて邪魔できるか」 あと何時間だろうか、と凡そ場所ももうわかっている。 片方の事は良く知らずとも、片方のことはよくわかっている。 あいつがやると言ったらやるやつだ、一番とは言わずともそこそこ理解者でいるつもりなのだ。 「アジトの様子見に行くか……あーあと牢屋の中の怪我人……。 忙しい、忙しいぞアレッサンドロ・ルカーニア! お前が放り投げた分全部俺が拾うことになってるの許さんからな!」 #BlackAndWhiteMovie (83) 2023/09/29(Fri) 23:14:10 |
【人】 路地の花 フィオレ>>78 ロメオ 悪戯小僧には、目を細めて悪い女ぶった笑みを返す。 こどもっぽい仕草が、なんだか今は一番似合う気がしたのだ。 「片っ端から気になるもの買ってみちゃう? 出来立てのお惣菜とか、お店の人の今日のおすすめとか!」 今なら何だかいいものと出会えそうな気がしたから。 あなたが運転席に戻っても、後部座席に居座ったまま。 体は起こして、白いクッションを抱きかかえる。 キャップをかぶり直して、アクティブなスポーツレディの装いをもう一度。 「うん、いつでも行けるわよ」 「安全運転で、でもぱっと済ませちゃいましょっ」 吹っ切れたような顔で、楽しそうに笑ってみせた。 #BlackAndWhiteMovie (84) 2023/09/29(Fri) 23:27:25 |
【人】 corposant ロメオ>>84 フィオレ 「アハ、それもいい。 余ったら家に持って帰って食えばいいしな〜」 すっかり機嫌が直った様子にこっちも気を良くして、 今から何を買ってやろうか計画立てて。 自分もキャップを被り直せば、 バックミラーの位置を調節してハンドルを握った。 「OK〜。んじゃ、行くか」 そうして車は走り出し、きっとどこかの店にでも そのまま向かうのだろう。 自分のカローンとしての役目も これで果たされた。 一つの銃声の犯人を連れて、リボン舞う青空からは遠ざかる。 仕事はきっと、これで終わりだ。 #BlackAndWhiteMovie (85) 2023/09/30(Sat) 0:00:19 |
【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ[11:00] バンはやがて川沿いの工場街へと至る。観光資源の豊富な島の中でここは比較的静かだ。 防音設備のしっかりと考えられた無機質な建物が並んでいるのは当たり前で、 車の出入りのあることも、なんら不思議を覚えるものでもない。 バンは町工場めいた小さな企業の並ぶ一角へと吸い込まれていく。 そこは男にとっても見覚えのある場所だった。自分が取引の際に使っていた場所だ。 薬で眠らせ、深い夢の中へと送り出した子供たちを引き渡す場所。 ――ここで子供たちは人の形を失くし、島外へと分かたれていく。 腕で押しても上背のある身体はほとんど動かず、何度か蹴り込んでようやく動いた。 車に乗った時に拘束されたそのままの状態で手術台に座らせられ、 まず手始めにと聞かれたのはなんの意味も成さない問いだった。 警察にはどれくらいのことを話した、と。回答は簡易だった。 全て、だ。取引先の場所、運び込まれた先や関わった人間の個人情報。 今手が回っていないのは一人とて逃さず捕まえる策を練っているからだろう。 「今更お前たちが焦りだしたところで何の意味もないだろう」 そう平然と良い連ねた男の腹に靴裏が叩き込まれる。 肺の底を縮められたような悲鳴と共に体をふたつに折り、寝転ぶように横に倒れ込む。 見下せる位置に引きずり降ろされた男の顔に、腹いせの拳が何度も叩き込まれた。 素手が傷つきにくいよう、周りに並べられた工具へと凶器は入れ替わっていく。 目の前の男を痛めつけたところで自分たちの損失は戻ってこない。 それでも、湧き上がった怒りをぶつけずにはいられないのだろう。 #BlackAndWhiteMovie (-342) 2023/09/30(Sat) 20:09:46 |
【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ[12:00] 三日月島内でノッテファミリーとの関わりを厭う島外の業者は必然的にが内部への伝手を求めた。 陸路の少ない場所は守られているという、それは閉鎖的であるということであるともいう。 内部で起きていることは他に知られにくいことと同義であるともいう。 インターネットが発達した今でさえ、陸の繋がらない場所のことは真に知ると言えもしない。 故に狙うものは多く、そして狙うならば自らの実入りは多いほうがよく好まれた。 ノッテと手を組もうとする業者が己の安定と安寧を求めたのに対し、 その裏に隠れようとする業者はリスクを掛けてでも金を得ることを選び、 そしてそういう者たちは、ノッテと関わりのない男の手を借りることを選ぶが多かった。 その全てが、たった一人の男の零落と共に引きずり込まれて壊れていくのだ。 一人が舌打ちとともに乱闘めいた光景を止めさせた。 言葉に続いたのは電動ドライバーを持ち上げる、硬質のぶつかる小さな音だった。 過ぎてしまったことを責めることは何の意味も持たない。 だからこれからは自分たちが情報を引き出す番だ。 拘束され、殴打を加えられた男の肩を足で押さえつけて電動ドライバーの先を突きつける。 他に手引している組織や、今まで構築したルート。 自分たちが手にすれば今からでも利益を得ることの出来る隠し事。 そういうものをできるだけ多く吐いたほうが傷は少なくて済む、と問う。 できるだけ、というのは相手が満足するまで、という意味だ。 男はそれに、嘲るような笑いで返す。 水っぽい音が響いた。 #BlackAndWhiteMovie (-347) 2023/09/30(Sat) 20:52:39 |
【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ[13:00] 短い時間の間に、的確な暴力が幾つも男の体へと振り下ろされた。 同じ時間を使って、もっと徹底的に人間の体は破壊できる。 そうしなかったのは、吐けば楽になるという意識を高めるためであり、それ以外ではない。 縋れば光があると思い込むことの出来る細道を提示するのは大事なことだ。 眼球の片方が抉られ、濁った体液がとうとうと面の凹凸を流れる。 言え、と言われたのは三度目だったが、男は饒舌を失ったように一言も話さなかった。 次に、右胸に空いた傷にドライバーの先が充てがわれた。 皮膚を突き破り肺を傷つけた銃弾は貫通せずに体の中に残っている。 片肺が残っているとは言え呼吸には著しい不足があり、普通ならば無事では居られない。 めり込んだ破片と熱と器用に傷を塞いでいる間はかろうじて息をして、 そうでない時には逆流するように苦痛が駆け巡り咳き込んでいる。 その、皮下の脂肪組織と筋肉に出来た傷へとぴったりと押し当てられる。 再びに彼らは問いを投げかけた。 男は脂汗を面に滲ませながらも、息だけで嘲弄を表した。 既に薄灰色の組織が絡んだドライバーが回転する。 ぱっぱっと、風に薔薇の花が吹かれるように血とピンク色の肉片が飛んだ。 男がどれだけ大きな声を上げて叫んでも、誰も表情を歪めなかった。自身を含めて。 そこにあるのはこれまでに築いてきたものとその結果であり、理不尽なことはない。 理解しているからにこそ、尋問は淡々と続いた。 #BlackAndWhiteMovie (-352) 2023/09/30(Sat) 21:48:56 |
【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ[14:00] 街は賑わいの波も高く、パレードはメインイベントに入ったらしい。 そうした市街の様子はこんなところまでは届かない。逆も同じくだろう。 質問への回答を拒否している間に、貫通痕はあちこちと増えた。 関節部をやれば幾らも動きを封じることは出来るだろうがそうしないのは、 聞き出した話の内容によっては殺す前に実情を確かめる必要があるかもしれないからだ。 それでも、沈黙が続けば業を煮やす。傷は段々と粗雑な出来になってきた。 脇腹や腿を削り取り、筋肉を破らないようにしても出血はひどくなる。 自分たちが逃げ出すことの出来る時間をどれだけ確保できるか。 焦りは、彼らの注意を鈍らせ眼の前に集中させ始めていた。 外を走る車の走行音と、傍に着ける車の音の違いもわからないほどには。 表扉がドアノブを破壊するようにして開かれる。 注意を向けるのと銃を手に持つのとを同時に行うには警戒が足りていなかった。 犯罪グループの男たちが応戦の姿勢を整える前に乗り込んできたのは、 毛嫌いするようにその影を遠巻きにしてきたノッテの構成員達だ。 今頃はアジトが散々な混乱の内にあるかも知れないが、 それを知らないのか、だからこそ明確に目先に見える手柄に手をつけたのかはわからない。 彼らは品行方正な警察ではない。動くな、と銃を突きつけるようなことはしない。 構成員たちはまず下っ端と見られる手前の見張りの頭を吹き飛ばした。 工場内の機材を散弾銃が轢き潰し、天井の明かりを使い物にならなくした。 それだけやってもいいと踏んだのは、この建物ごと消却するつもりだからなのだろう。 混乱が場を締めている間に全てを掃討しようとするように、 彼らのよくよく磨かれた革靴が一気に建物内へと踏み込んだ。 #BlackAndWhiteMovie (-360) 2023/09/30(Sat) 22:31:14 |
【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ[15:00] 手術台そのものに拘束されていないのは男にとって幸いだった。 周囲の注意が逸れたのをいいことに寝台の上から床へ転がると、 射線から逃れるように機材置きの後ろへと潜んだ。その際に肘を捻ったが、その程度だった。 撃ち合いに巻き込まれるのは御免だという意識くらいは持ち合わせていたらしい。 されど生きたいから、ではない。何も知らない内に死ぬのでは望みに足らないからだ。 撃ち合いは暫く続いたものの、勝敗は明らかだった。 奇襲に成功し予期した武装を手にしているノッテの構成員と、 街の賑わいから逃げおおせたつもりでいて危機の迫るのをずっと先だと思っていた、 犯罪グループの人間とでは準備の段階で差が出ていた。 尤もこんなところまで出向している人間でなく、彼らの母体なら結果は違っただろうが。 構成員達は床に転げたヴィンセンツィオの肩口を掴むと、壁の薬品庫へと寄りかからせた。 既に打撲で腫れ上がっていた肩に銃口が向けられる。質問の内容が少しだけ変わる。 尋問をする人間が、代わる代わるに入れ替わっただけに過ぎない。 今までこの島に手を出そうとした人間たちの居所、そういった情報を彼らは欲しがった。 それでもやはり、男は口を割ろうとはせずに笑うだけだった。 相手が"犯罪者"である限り、男は必要なことを喋ろうとはしなかった。 #BlackAndWhiteMovie (-362) 2023/09/30(Sat) 22:51:44 |
【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ (-363) 2023/09/30(Sat) 22:52:38 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>-363 ぐおおおん、と。 尋問と拷問に意識の向いていた構成員たちのなかで、 壁越しに遠く響いていたエンジン音が、ぐんぐんと近づいてきたことに気が付いたものはいただろうか。 ──ば がぁん。 甲高く硬質な音が、建物の中に響く。 差し込んでいた日の光が、眩く溢れ出すように強さを増した。 建材がへこみ弾ける音とともに、真っ赤な車が突っ込んできたのだ。 もうもうと車から吹きだした白煙に、ノッテの構成員たちががなり、銃を向け、あるいは混乱しヴィンセンツィオを引き倒そうとする。 めいめいに好き勝手な反応を見せるものたちは確かに、元から乏しかった統率を欠いており。 ばがん。 ──扉の隙間から滑り込んできた男が、両手に構えた拳銃と短機関銃をまき散らす間隙を与えることになる。 #BlackAndWhiteMovie (1/2) (96) 2023/09/30(Sat) 23:03:24 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>-363 ぱ、ぱ、ぱ、ぱぱぱぱぁん。 発砲炎と共に破裂音が何度も瞬き、血飛沫と湿った音が響く。 構成員たちの半数近くを奇襲で叩き、 がしゃあん!! ――照明を打ち抜き。 暗闇に閉ざされた中で殴打と落下音、銃声がさらに続いて―― 「おう」 ――あなたのそばで、足音が聞こえる。 「生きてるかあ、ヴィンセンツィオ」 #BlackAndWhiteMovie (2/2) (97) 2023/09/30(Sat) 23:06:51 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>96 >>97 [16:00] ノッテの構成員が殴り込んできたときよりも大胆な音が響く。 此れより先に追いかけっこに加わるものなんて警察ぐらいしかありはしない。 その筈だった。そうだとしたなら、こんな荒っぽい手立ては取らない。 他の誰が在るというのか。彼らの手を迷わせたのはそうした困惑もあったのだろう。 目を向けるべき相手を誤らせ、その視界を暗く潰した。 男の反応は緩慢だった。薄く雲が張ったような、空の色が向けられる。 人の死体がいくら増えようが男の注意を引くことはない。そうだった。 それが、乱入した男の顔を見て僅かに目を見開く。 確か当初乗り込んで来た構成員達は、ある男の部下だった筈だった。 秘密主義のマフィアたちであっても、多少顔の割れている人間はいる。 そうした者たちの幾らかは、一人の男を信奉めいて仰いでいた筈だった。 少なくとも自分が罪を暴かれ情報から隔離される前はそうだった。 #BlackAndWhiteMovie → (101) 2023/09/30(Sat) 23:27:35 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>96 >>97 その男の顔を見上げて、満身創痍の男は笑った。 息だけで、けれどもそこにあるのは嘲弄とはまた違うものだった。 仕方ないものでも見るような、怪訝と皮肉の混じったそれだ。 「……はっ、はは」 「迎えの趣味が派手だな、アレッサンドロ」 #BlackAndWhiteMovie (102) 2023/09/30(Sat) 23:28:17 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>101 満身創痍の男の前に、黒いスーツを翻した男が立っている。 壁の隙間から差し込む燦光が、ちかちかとその輪郭を彩って。 見やれば、その体のあちこちに乱雑にまかれた包帯や布の切れ端が赤く染まり、彼もまた無傷ではないことが分かるだろう。 そいつはあなたの表情に、に、と笑顔のように口元を歪めると。 「――気安く 呼ぶン じゃッ ね えよ、 くそヴィト ッ!!!!」――横殴りに銃身を叩きつける。 #BlackAndWhiteMovie (103) 2023/09/30(Sat) 23:35:27 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>103 頬骨に堅いフレームが擦り合わされる感覚があった。 既に大分張られて腫れた頬に、今までの痛みを再生するように神経が痛んだ。 軽く咳き込んで血塊を吐き出す。喘鳴は荒れたものの、悲鳴はあげなかった。 衝撃に流される前に向こうを向いて金属製の扉に叩きつけられた頭は、 まず視線を貴方へと向けて、それを追うように頭そのものが前を向く。 「他人行儀に呼ばれる方が、お前はよっぽど好みじゃないだろう」 立ち上がろうともしなければ、反撃の姿勢も見せない。 ただ、大混乱のさなかにある町工場の中の景色を背景に見上げて、 叩きつけられた言葉と態度を映画のスクリーンのように眺めているだけだ。 それで満足するのなら、それで構わないだろう。 けれどもそれで腹の虫が治まらないのなら、それはきっと不満だ、そうだろう。 「一方的に殴りつけて気が済むんだったらこのまま付き合ってやる。 で? それでお前は構わないのか?」 #BlackAndWhiteMovie (104) 2023/10/01(Sun) 0:02:08 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>105 上体さえ浮き上がらせられたなら、それに追従しないわけでもなかった。 何もかもに無気力であるのとは異なる、他から見て違いはわからずとも。 打撲程度の損耗はあるものの無事な方の腕で体を支えて立ち上がる。 片足は引きずり気味ではあるものの、体重を支えられないわけではない。 点々と血が尾を引く足跡を残しながら、助手席の方へと歩いていく。 時間が無いのは確かだ。そして目の前の相手を見れば、互いにそうなのも確かだった。 皮肉るような物言いはされど相手の提案を蹴って立ち止まったりするものではない。 そればっかりが事実であって、心中の内を饒舌に語ったりはしない。 「話くらいは聞いていけよ。何も聞きたくないわけじゃあないだろ。 もしそれくらい呆れてるなら、お前は此処にわざわざ来ない」 決めつけるような物言いのどれだけが真を得ているのだろう。 長い月日の中で互いがどういう人間か霞んだか、或いは。 少なくとも、聞けと言うほど自分から話したりというのも、男はやはりしなかった。 「……お前の運転する車に乗るのは、そういや初めてだったかな」 #BlackAndWhiteMovie (106) 2023/10/01(Sun) 0:26:40 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>106 怪我を慮る様子など一切なく、力任せに腕を引き起こす。 手招きも指図も、説明も気づかいも無い。 奇妙で不格好な、それは信頼ににた形。 ここ十年ばかりお互いの間に横たわっていたさまざまなしがらみや思惑、年月や歳月。 そういったどうでもいいもの全て、 ばたんと乱暴に閉じられる扉の音にかき消えていくようだった。 「……カー・ラジオ代わりに流してやるから、勝手に話せよ」 分泌される脳内物質のせいか、 それとも流れ出す血のせいか。 なにもかもを走り切った直後のような、気怠さと自由の境目のような空気。 ──この十年ばかしあった微妙な距離感の代わりに、そういったものがぶちまけられたような感覚。 それを形容する名前を、ふたりは持たなかった。 あるいは、必要としなかった。 「たりめーだろ。 カポの車に乗る警部がいるかよ」 がたがたと煙と異音をあげながら、フィアットのタイヤが滑り出す。 行先は、港。 ゆっくりと沈みゆく太陽を追いかけるようにして、ひびの入ったフロントガラスが瞬いた。 #BlackAndWhiteMovie (107) 2023/10/01(Sun) 0:35:59 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>107 その日の空は晴れていた。 緞帳を割るように光は破砕された開口部を割って差し込む。 パレードが幕を開けた頃に比べれば随分と光は色を帯びていて、 道向こうの目的地であるように主張する夕の色がやけに視界に眩しかった。 僅かな隙間を縫って吹き抜ける風が傷をひりひりと傷ませる。 「お前をパトロールカーに乗せてやることはしょっちゅうだったけれどな。 性懲りも無い暴れ方ばかりするもんだから、ガソリン代を請求してやりたかったくらいだ」 まだお互いが若く未熟で、ちょうど今の夕焼けのように昼と夜の交わりとの関わり合いを、 どんなふうに図るべきなのか探るようにしていた頃の話だ。 今、或いはこうなる直前よりもずっと上手く切り抜ける方法なんざ知らなくて、 どちらも自分の上、社会だとかそういうものに叱られため息を吐かれていた、 あの頃の夕日が一番眩しかった。 「お前は引き継ぎは終えてきたのか。どうせろくに話もしてないんだろう。 口を開かないことばかり得意になっちまったもんだな」 #BlackAndWhiteMovie (108) 2023/10/01(Sun) 0:59:55 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>108 潮風はまだ遠く、けれど海から吹き上がる風は真っ直ぐに削いでいくようだ。 こんなときにこそ使うべき黒眼鏡を助手席にかちゃりと放り捨てて、 ハンドルを苛立たし気に指先が叩く。 とん、とんというリズムは、鼓動とも路面の震動とも入り混じらない不協和音。 なのにその音が妙に耳に響いて、それ以外がどこか遠くに聞こえてくる。 「今ならぜって〜被害届出してるからな、あんなの。クソ暴力警官。 あの時懲戒喰らわせておくべきだった」 今にして思えば、あの時分が一番互いを信頼していたとさえ思う。 何も伝えず、何も理解せず、 それなのに同じ場所にいた。 その時のように交わされる言葉は、 傷跡に疼く熱に溶けていくよう。 ──理解とは程遠く、けれど齟齬がなかった。 スラムか、暴力か、あるいは痛みか。 何某かの塔の正体が何だったのかはいまだに分らないが、 少なくとも、同じ言語が通じていた。 「…そっち、あの状況でしてきたのか? 嘘だろ。 俺ぁなんもしてねえよ。あいつらならどうにかするさ」 車は海辺へと続く道路を曲がり、赤い照明が明滅する港湾設備へと進んでいく。 その光をフロントガラスに映しながら、 なんだか嬉しそうに笑う。 ──相変わらずの放任主義だ。信頼する相手のことは、あとは大丈夫だと無条件に、どこまでも放り出す。 #BlackAndWhiteMovie (109) 2023/10/01(Sun) 1:10:39 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>109 ゆっくりとカーブを曲がり、建物の間から遠くに海が見える。夕暮れの色に照らされた美しい海。 いつもだったらそれを楽しむ余裕があったかもしれないし、 その向こうにあるのだろう本土の岸辺を想像することもあるのかもしれない。 街の景色が遠ざかっていき、見えるものの色数ばかりが少なくなっていく。 そう遠くもないうちに、この車は港へと着くのだろう。 「俺の部下に引き継ぎなんざ必要ないさ。普段からなんでも教えてやっている。 お前と違って上に立つものも一人きりてなわけじゃない……うまくやるだろうさ」 果たして当人らにとって適切な引き継ぎがあったかなんて想像はしない。 少なくとも今から間に合わせることなんてのはお互いに出来やしないのだから、 彼らの身になって考えるなんてことに意味があるわけではない。 痛んでいない右腕を動かす。ポケットから抜き取られたのは一本の葉巻だ。 湿気の管理もされていなければ剥き身のままほっとかれてラッパーに皺が寄っている。 あの日、餞別として貴方から強奪したものだ。 それが見えるように片手で掲げてから口に咥える。 「……火貸してくれ。シガーライターくらいあるだろ、この車」 #BlackAndWhiteMovie (110) 2023/10/01(Sun) 1:29:23 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>110 がたがたと歪んだフレームの隙間から、さんざめく潮騒が聞こえてくる。 フロントガラスから回り込むように、 海面が反射する橙の光が覆っていく。 ぐるりとハンドルを回して、半開きのゲートをくぐる。 するすると滑り落ちるように向かう先は、港湾施設に併設された倉庫群だ。 「俺の部下にも引き継ぎなんて必要ねぇけど!? 俺のやってた仕事なんざ、あることをあるようにしただけだ。 もっとうまくやるまであるね」 張り合っているのかなんなのか、それとも誇らしく主張しているのだろうか。 確かなものなど何一つなく、空々しくすらあるがなり声が車内に響く。 葉巻の先端を視界の端にだけとらえながら、 「セルフサービスだ。 お前の人生に俺からくれてやるものなんて一つもねえ」 アクセルをがん、と蹴りつけるように踏む音。 速度を増した車は、舗装された斜面を跳ねるように降りて、 ある倉庫の陰へと向かう。 ──そこは、カポ・レジーム"黒眼鏡"が管理する倉庫群。 治安組織もファミリーの監視も、少なくとも普段はほとんど及ばない この街の空白地帯。 #BlackAndWhiteMovie (111) 2023/10/01(Sun) 1:38:23 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>111 「っ、はははは。 物知らずが店一つ任されるくらいだ、それくらい教えられてりゃ問題ないだろうよ」 空笑いが返る。くるくると葉巻を回してポケットへとしまいこんだ。 張り合って上げる大げさな声も、突き放すような物言いも、やけに満足そうに耳を傾ける。 背中の向こう、振り返らなければわからない街の様子などわからない。 残された彼らがどうしているかなど知る術もなく、知らせる者もいない。 それでよかった。 スピードを上げる車とは裏腹に、悠揚と構えて眼の前を見ていた。 話す相手に目を向けるのでもなく、ただ紫色を帯びていくオレンジを見ていた。 たかだかの干渉に集約してしまうには、男のほうは、今にすっかり満足していた。 車が停まれば扉を開けて助手席から外へ逃れ出る。 景色を見に来た、だなんて。そんなことは欠片も思っちゃいない。 それでも求めるものを提示されるまでは、開け放った扉に手を掛けて、 沈みゆく夕日が海を照らしているのばかりを見ていた。 体重を他に預けて構える、その片目は失われていた。 全身打撲の状態であちこちに殴打の痕があり、片足は半ば引きずっていた。 外套の内側からは血が流れ出す。左肩は粉砕され、脇腹はじんわりと血を吹いていた。 一番顕著であるのは右胸の傷で、すっかり黒くなった血の跡を染めるように新たな血が流れる。 今は空にされた助手席のシートが、凄惨さを物語っていた。 #BlackAndWhiteMovie (112) 2023/10/01(Sun) 2:16:30 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>112 「ぬかせ。お前よりよっぽどいい上司してたわ」 本気の舌打ちをぶちまけながら、バックミラーをぐいと捻る。 根本から明後日の方向を向いた鏡は、もう背後の街並みを映し出したりはしない。 視界に広がるのは風の割には穏やかに揺れる海面と、 それを無機質な倉庫の陰が無機質に、参差として遮っていた。 助手席が開くの音に覆いかぶさるように、 蹴り開けるような勢いで扉が開く。 ところどころ穴の開いたスーツの裾がばたばたと、 忙しなく海風を孕んで揺れていた。 「一服する間くらいは待ってやるよ」 ばん、と力任せに叩きつけられたドアは、しっかりとは閉まらずに中途半端にずれた。 車越しににらみつけるアレッサンドロの片目もまた、押し当てられた布切れを赤黒く滲ませている。 銃弾が掠めたのか、あるいは貫通したのか肩や腿にはごわごわと乾いた血液の痕が張り付いていて、特に左腕の動きが鈍い。 それでも、 「おめえが何やったか、よく見てなかったンだけどよ」 フィアットの天板に、ごとん、と肘を乗せて。 「んなもん、どうでもいいから。」 「これからぶっ殺すくれえ殴るから、死んでも文句言うなよ」 ――笑った。 #BlackAndWhiteMovie (113) 2023/10/01(Sun) 2:30:45 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>113 懐からナイフの一本を取り出す。手入れはされているが汚れているそれは、 おそらく手癖も悪く先の町工場内部から拾ってきたものなんだろう。 ひしゃげた葉巻を乱暴にカットすると、煙草のボタンを押して起動させる。 幸いシガーソケットに歪みは無かった。ライターを取り出して赤熱面に押し当てるも、 直火でないから火がついて炙られるまでにはさんざ苦労をした。 「……初めはお前は随分大人びちまったから、裏切られたと知ったら切り捨てて、 あとはそれきり、自分の部下かなにかにでも始末を任せるものかと思っていたよ」 保管状況も火付けも何もかも悪い葉巻は、パルタガスの良さを台無しにしている。 しばし車に体重を預けながら、夕日が沈んでいくのを見ていた。 こんなところまで追ってくるのがいたとして、アジトやあちこちが散々な今、 痕跡を追ってやってくるとしたって日が昇ってからだろう――唯唯彼を追うふたりは別として。 「何かに付けて突っかかってくるようなガキの時分じゃなきゃ、 自分の手でケリつけようなんざしないだろうと思っていた」 「けれど、お前は追ってきた」 喉の奥から喘鳴混じりの笑い声を吐く。 車を挟んで並ぶ男の顔を見て、目を細めて笑っていた。 遠いものになってしまった景色を眺めるような、懐かしむような目。 ころりと首を傾げて、可笑しそうに、いつかのように頬を緩める。 「 自分を殺す凶器を選べるなら、お前がいいとずっと思っていたよ 」#BlackAndWhiteMovie (114) 2023/10/01(Sun) 9:11:51 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>114 「そりゃこっちの台詞だ、あんたが大人になっちまう日が来るとは思っちゃいなかった」 車に体重を預けながら、悪餓鬼のような笑みを浮かべる。 怒りと苛立ち、嘲りと――仲間意識。 そういったものがないまぜになって、ぐつぐつと、 耐えがたいはずの悪臭を放ち煮えたぎるような凶相。 なのにそれは、どこまでいっても笑みと表現されるものだ。 「──俺だってガキじゃあいられねえ。ただ、どーでもよくなる時だってある」 はるか遠くを過ぎゆくプレジャーボートのエンジン音が、波を伝い足元にまで響いてくる。 そうして、あなたの漏らした言葉には、一瞬きょとん、と目を丸くして。 「──ハ」 「気色悪いこといってんじゃねえよ」 ははは、ははは、と。抑えきれなくなったような哄笑が、途切れ途切れに漏れ出して。 「──オッサン、コラ。ノンビリ吸ってんじゃねえぞ」 かつては大人と子供ほどに離れていた年齢は、今やすっかりと希釈された。 それなのに、その口調は悪態をつく子供のようだ。 ポケットに片手を突っ込んだまま、車に手をついてゆっくりと回り込む。 おぼつかなかったはずの足取りは、舗装された足元を引きちぎるかのように重く、強い。 ぴりぴりと、引き絞られたか弓矢のように、それは放たれる時を待っている。 #BlackAndWhiteMovie (115) 2023/10/01(Sun) 9:41:54 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>115 「俺は変わっちゃいねえよ。周りが自分よりガキばっかりになっただけだ。 だから面倒を見てやらなきゃいけない数が増えた、それだけの違いしかない」 自分が、自分たちが若い頃も、自分より年少の人間は面倒を見てやった筈だ。 その数が増えただけ。目下のように振る舞う機会なぞありはしない。 それでも、根底にあるものは変わらないままだ。 哄笑を聞いて、ひとたび眉を顰めて。それから、また仕方なさそうに口角を吊り上げた。 次第にそれは同じような高笑いに変わって、港にどうしようもない馬鹿笑いが響いた。 笑えば傷がずきりと痛む。体の震えに伴って新しく血が吹き出した。 そんな無粋の一つ一つが、奇妙な高揚の後ろに押し流されていく。 頭の中が晴れていくような清々しい興奮が、片方だけの瞳を爛々と輝かせた。 「――葉巻はゆっくり吸うもんだろ、小僧。 ……だから此れはお前が台無しにしたことにしてやる」 親指が下から葉巻の胴を弾いた。燻った珈琲やナッツのような香りが舞う。 手元から離れた一本がくるくると回転しながら地面に落ちていき―― トッ、と小さな音を立てて路面にぶつかる。 それを合図とするように、車に体重を殆ど預けて予備動作を消して、 右足を大きく振り上げて蹴り上げた。距離が足りれば体の中央、 そうでなくとも当たれば顎は刈れる。 #BlackAndWhiteMovie (116) 2023/10/01(Sun) 10:14:07 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>116 「ガキみてえなこと 言ってんじゃ ね ぇえぇえええエエエエエよッ!!!」 葉巻が撃鉄のように落ちて、 そらすら待たずにばねは動いた。 ほぼノーモーションで放たれた蹴りを避けられたのは、同時に動き出していたからにすぎない。 だ、だん、と鋼板をへこませる音と同時に、アレッサンドロの長身が車の天板よりも高く飛び上がる。 大きく孤を描き放たれる、横殴りの足刀。 ──だが本命は、その陰。 先ほどまでポケットに突っ込まれていた拳が緩く握りしめられて、空中に身を躍らせた直後── 蹴りとワンテンポ遅れただけの奇妙なタイミング、そして間合いで突き出される。 当たるはずも牽制になるはずもない、ばたつかせただけのような手。それがぱ、と開かれて、 ばさり 、と。握り込まれていた粉末が、 掠れた音とともにぶちまけられる。 派手な蹴撃に紛れて放たれるそれは、 アルミ片を削った金属の欠片。 粘膜を容易く傷つける無数の礫が、潮風に逆巻きながら、顔面を狙ってぶちまけられた。 #BlackAndWhiteMovie (117) 2023/10/01(Sun) 10:25:28 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>117 躱された脚を引く力に任せて上体を引く。 大仰な動きは、それが本命でないのも相俟って適切な間合いで避けられた。 問題はその次だ。 「っ、」 片目を庇うように瞑る。視界は一時的に制限されはしたものの、恒久的にそうなるよりはいい。 避けようもない攻撃は顔面に降り注ぎ、交通事故にでもあったように傷に金属片が食い込んだ。 見えないものを、やり過ごしきったと判断するのは難しい。 目を開くことが出来るのはもう一手先だ、故に。 見えずとも当たることが予測できるものを狙わなければならない。 流れるように殴りつけにかかったのは足刀、過ぎ去った右足の膝裏だ。 勢い、空中から地面に引きずり下ろすようにしながら自身も背中を丸め、 頭上からの奇襲が追撃されることを防いだ。 握り込めるならばそのまま膝裏の布を引っ掴めたならいい。 そうしたなら落下する体の支点は言いようもなくめちゃくちゃになる。 #BlackAndWhiteMovie (118) 2023/10/01(Sun) 10:39:48 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>118 爪先が何かを掠めて、あるいはまったく空振りをして、 けれどそんなものはどうでもいいと引き戻す。 格闘戦において、自らの肉体を伸ばしたまんま相手の射程内に置いておくほど愚かしいことはない。 ──そんなものを分かっているとばかり、即座に叩きつけられた拳と脚刀がぶつかりあう。 「っ、っだ、」 膝裏を鉤のようにひっかける指を上から押しつぶすように、 器用に全身のばねをたわませてもう片方の足を叩きつける。 技術というにはあまりにも稚拙で力任せなそれが、 もつれあうようにして互いの手足をはじき合った。 人間が滞空していられる時間は、そう長くはない。 アレッサンドロが辛うじて両足を地面に着地した時には、 そんな一瞬の攻防を経て、互いが姿勢を崩したままだった。 否。 僅かに、無茶な動きをしたアレッサンドロの方が姿勢が悪い。 それを補うように、咄嗟に距離を埋めるように左手の拳が突き出される。 ──ちか、と。 金属の輝き。 握り締めた拳の指と指の隙間、 そこに握り込むように金属片。 拳から突き出す先端は猛獣の爪のように、防御すれば肉を裂き骨を打つ。 距離と間隙を埋めるように鋭く二度、三度、狙うは当然顔面、あるいは傷を負った胸元や肩口。 #BlackAndWhiteMovie (119) 2023/10/01(Sun) 11:03:51 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>119 引っ掴んで頭を地面に叩きつけさせてやるには至らず、指はぱっと離される。 その代わり、指が潰れるほどではなかったのが幸いだ。 相手の不利を狙って畳み掛けるのが承知の人間が着地を見守っているか。 そんな筈はない。地面に落ちた雁を狙わない銃口は無い。 追う脚が一歩を大きく切り詰める。 互いに考えることは同じらしかった。 息をする間も与えまいと、両拳を使って顎下から肩、肋の合わせ、 そうでなければそれこそ向かってくる拳に平然と合わせて殴打を叩き込む。 それでもどうしたって肩の潰れた左腕は動きも鈍く痛みも走る。 右拳のように、相手の卑怯をお構い無しに血を上げながら迎え打つなんてのは出来ない。 そうしている間にも相手の左拳に挟んだ鈍い刃は己の拳や顔面を裂いていた。 新しく出来た傷口にまで、先に降り注がれたアルミ片が皮膚から剥がれ落ちて潜り込む。 いずれは勢いを失わざるを得ないのは必至だった。 だからそれを補うものが必要だ。 シガーカッター代わりのナイフはまだ左手にぶら下げられている。 勢いの無い左拳は代わりに、右拳に紛れて相手の上体を裂きに掛かる。 別段手段を選ばないのはそちらばかりでもない。 そして連撃の迫間、左手が引きに入った瞬間を見計らうと、 点対称の右足は視界の外より、相手の左足の肘を踏み付けにするように蹴り込んだ。 次に何が来るか予測するように、僅かに長身の背が曲がる。 #BlackAndWhiteMovie (120) 2023/10/01(Sun) 11:23:16 |
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