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【人】 転校生 矢川 誠壱「イチ、ありがと。イチが入ってくれたから、 俺らは今ここに立ててる。 ────イチで、よかった。」 [ そういって、にかっと笑うから。 泣きそうに眉根を寄せて、微笑んだ。] 俺の方こそ。ありがとな、みんな。 [ たった、1ヶ月だ。彼らと共に過ごしたのは。 己の人生において音楽は必要不可欠だし、 いつだって共にあったものだけれど。 ひとりで、弾くことも多かった。 もちろん、バンドを組んでいた頃も あったにはあったけれど。 それでも、こんなにも短い期間で、 こんなにも濃厚な時間を、 こんなにも楽しく共有できたのは きっと後にも先にも今回だけだろう。 ただ、ひたすら、走った日々。 これからの話は、まだなにもしてない。] (166) ななと 2020/06/19(Fri) 7:52:59 |
【人】 転校生 矢川 誠壱(───今日が、最初で最後かもしれないな) [ ならば、感傷的にはならず。 とにかく、この熱を全て吐き出す勢いで 全力で、捧げようじゃあないか。 揃えのTシャツに身を包んだ、 急揃えの4人で。] 「おっしゃいくぞーッ!!!」 [ その声にダァンッと足を鳴らして。 右手でベースのネックを掴んで、 ステージへと足を進める。] (167) ななと 2020/06/19(Fri) 7:53:52 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ まだ暗い。 照明のない闇の中。 ジジッと電子音が聞こえる。 己もジャックにシールドを挿した。 響いた小さなリズム音に、ドラムの智が ハイハットとバスドラムのペダルに 足を置いたのだとわかる。 すう、と息を吸って。 吐きながら、Eを鳴らした。 ギターの音も、重なる。 そのままチューニングに問題がないか もう一度確かめて。 ゴンゴンゴンっとマイクを叩く音。 キィーーーンッと歪んだ。 ざわつく会場は、体育館の半分から後ろが パイプ椅子の座席、前半分はライブハウス よろしくアリーナ席のように立ち見状態。 ステージ近くまで押し寄せる人の波は、 各々好き勝手にメンバーの名前を呼ぶ。 もちろん、己の名前を呼ぶ人はいない。 ───それで、いい。] (168) ななと 2020/06/19(Fri) 7:54:50 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ ふーーと深く息を吐く音が、 マイクにひろわれている。 音が止まる。 ざわついていた人の声が止んだ。 一瞬の、確かな静寂。 スタンドマイクを祐樹の掌が包む。 すう、と息を吸ったのがわかる。 ああ ───はじまる。 一曲目。 アカペラからはじまった。 繰り返した二度目のフレーズから、声が重なる。 大きくなって、大きくなって。 ドラムと、ギターが響く。 じりじりとなにかが燻るような、 焼けるようなひずんだ音。] (170) ななと 2020/06/19(Fri) 7:59:59 |
【人】 転校生 矢川 誠壱 「叫べーーッッ!!!」 [ 祐樹が煽ると、息を吸い込む 瞬間のような休符の直後、 バンド全体が大きく鳴りはじめる。 会場が大きく沸く。一体になる。 体が揺れる。その重いリズムに合わせ。 がなる、響く、揺れる。 ひずむ、鳴る、激しく。 先ほど、教室で演奏したしっとりと 柔らかな音とは全く違うけれど。 これも、楽しくて仕方がない。 観客の方を見ると、みんな、笑っている。 楽しそうに手を上げ、声を上げて、 飛ぶ、リズムに乗る。] (171) ななと 2020/06/19(Fri) 8:03:50 |
【人】 転校生 矢川 誠壱「この町を、歩き回る君。 消え去ったりしないよ。 本当に、見ているだけか? ならどうして、そんなに急いでるのさ。 ───ここから、踏み出す時、 一歩、一歩忘れないよう、息を吸って。 生きるって、きっと傷つけるし 生きるって、きっと失うことだ。 それでも、君が自分のW街Wで 迷子になっているのなら。 生きることって、笑うこと。 生きることって、泣くこと。 自分を見つける意味を失ってしまったのかい? 生きるってきっと、愛することだよ。」 (173) ななと 2020/06/19(Fri) 8:05:46 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ これは、メッセージソングだ。 全英詞だから、己には理解できないが、 ライブでやる曲を話した時、 祐樹がまず初めに挙げたのはこれだった。 絶対やりたい、と。 そのあと、自分で歌詞を見て訳したっけ。] (174) ななと 2020/06/19(Fri) 8:09:50 |
【人】 転校生 矢川 誠壱「失うものがなにもないなんて、 本当にそうならどこへ行く? もしそれがわかるのなら、 君はなにを信じてるんだ? 忘れないで、今までの道のりに、 自分の足跡があるんだから。 自分のこれからを見つけるとき どうかまた息を吸って、 君の人生は君が作るんだから。 一歩踏み出すことに意味がないなんて、 誰が言った?そんなわけないだろ。 生きることは、愛することなんだから。」 (175) ななと 2020/06/19(Fri) 8:16:13 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ 爽やかで、綺麗なメロディに 乗せられたのは、たしかな応援。 直接的な励ましの言葉じゃない。 ただ、遠くから見守っていて、 時折優しくエールを送るような曲。 届け。 だれかに。 その先を、望む人たちのもとに。 そう願いながら、歌ったのがわかる。 汗が、首筋を伝った。 音が止む。 ボーカルの微かな呼吸音のあと、 わあ、と大きな拍手と声が沸いた。 にい、と笑った祐樹がこちらを見る。 己も柔く微笑み返した。 手首で顎の下を拭って、息を吐いた。] (176) ななと 2020/06/19(Fri) 8:16:32 |
【人】 転校生 矢川 誠壱「どーも、Two wins でっす!!!」 [ そういってピースを二つ揃えて Wの形を作るポーズは、このバンドの シンボルマークらしく。 祐樹がそのポーズをしたときは、 全員がしなければ怒られてしまう。 だから己も大きな掌でピースを 2つつくり、重ねて。 気恥ずかしさに首をこてりと倒して、 そのまま俯くようにして笑った。 さあ、MCがはじまった。 あと三曲。 走りきる。 この瞬間は、今しかない。]* (177) ななと 2020/06/19(Fri) 8:16:47 |
【独】 転校生 矢川 誠壱/* まじで全英詞なのですが、わたしは英語ができないので、スーパー直訳&超訳にあふれた訳詞です ご査収ください (-203) ななと 2020/06/19(Fri) 8:58:10 |
【独】 転校生 矢川 誠壱/* Q:喫茶店を出てから、ライブが始まるまでの間なにしてたんですか? A:あとからなんか足します ライブのロルが書きたくてわざわざバンドマンにしたのでソロルに生きても許してください (-204) ななと 2020/06/19(Fri) 8:59:35 |
【独】 転校生 矢川 誠壱/* あと勝手にアリーナつくってごめん どうしても、ステージ真下に押し寄せる人の波を見ながらライブして欲しかったの (-207) ななと 2020/06/19(Fri) 9:01:26 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ 矢川誠壱という男に、W自分Wはいらない。 人に弱いところを見せるのは苦手だった。 個人として認識されてしまいそうで。 幼い頃から引っ越しの多い環境だった。 昔は自己主張もしっかりする子だった らしいのだけれど、それも今は形を変え。 複数人対複数人なら平気だった。 己がメインにならなければ、いいから。 接客は違う。個人対個人だ。 だから、絶対に無理だと思った。 雨宮と2人でした演奏は良かった。 己がすぐに下がって仕舞えば、メインは ピアノになる。きっと、客の印象に 強く残るのはキラキラしたピアノ。 己は枠外で広げた布でいい。 バンドも同じだ。 このバンドのメインは双子。 それを支える柱になれればいい。] (205) ななと 2020/06/19(Fri) 13:25:48 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ 誰かにとって強く印象に残る存在に なることが、それを自身で認識することが とても、怖かった。 誰かにとっての特別になることが 誰かを、特別に思うことが、怖い。 だからいつだって飄々と。 温厚で、ノリよく、「普通」で。 いつか、この日々を誰かが思い出して そのとき己がもうそこにいなかったら そのとき名前が挙がることもなくていい。 挙がったとしても、ただ「元気かな」で 話が終わるくらいの存在でいたい。 思い出は自分の中には閉じ込めるから。 「ぜったいわすれないからね」 「ずっとともだちだよ」 そう言った子たちから 徐々に届かなくなる手紙。 途切れていく連絡。 少しずつ忘れられていく それがわかるのはもう、嫌だった。 (206) ななと 2020/06/19(Fri) 13:26:37 |
【人】 転校生 矢川 誠壱 ──ライブ── [ 3曲目。 観客からのコールのあるこの曲。 簡単に呼びかけて練習する。 声を出して一緒に楽しんでほしい、と 言い出したのもボーカルの祐樹だった。 突拍子もないことを言い出すのはいつだって メインボーカルだった。それを理性的に とめつつも叶えるのがギター。 穏やかに見守るのがドラム。 バランスの良いチームだと思う。 祐樹が言い出した提案に、 ならこの曲はと挙げられたそれは、 満場一致で決まった。 ボーカルの右手が挙がる。 それを合図にコールが始まる。 はじめは小さなそれも、煽ると だんだんと大きくなっていく。 最高潮で二度、三度、繰り返したらば、 そこにドラムが、ギターが加わり、 重なる音に、ボーカルの声が足されて、 がなった。 そして、吠える。] (232) ななと 2020/06/19(Fri) 19:27:03 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ 白旗だと呼ばれても掲げたその旗を、 揺れる船の上からでも切り開く。 負け犬と呼ばれたって、 この曲の主人公はきっと、 挫けることなどないのだろう。 確かな強さを感じる。 ステージの上からでもわかる。 やはり、このバンドはかっこいい。 クールで、熱くて、強い。 今この場所に立てていることが、 本当に誇りだとおもった。] (233) ななと 2020/06/19(Fri) 19:27:24 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ そして、4曲目。 はっきりとしたメッセージの響く、 この曲もまたきっと、誰かへの応援歌。 ありのままの己を認める、 それがどれだけ難しいことか そんなことわかり切っているけど。 指の間をすり抜けていくように、 人生がうまく掴めないときだって。 間違いごと誇りに思って、 自分自身を愛してあげることが。 ───俺も、出来てるとは思えないな。 わかってたって、怖いじゃないか。] (234) ななと 2020/06/19(Fri) 19:27:54 |
【人】 転校生 矢川 誠壱[ それでもいつか、いつの日か。 全てを持って己を愛せる日が来たら、 ───誰かを特別に思えるのだろうか。 きゅ、と唇を結ぶ。 コーラスが響いた。 ドラムが鳴り、余韻のように 残ったエコーが体育館を駆けて、抜ける。 歓声と、拍手が聞こえた。 息を吐く。暑くてたまらない。 またペットボトルをひねって開け、 口に含んで、流し込んだ。 ぐい、と手のひらで前髪をあげる。 深く息を吐いた。] (235) ななと 2020/06/19(Fri) 19:28:16 |
【人】 転校生 矢川 誠壱「以上、Two winsでしたー!って、 ほんとはなるはずだったんだけど、 実は!もう一曲演らせてもらえる ことになりました!」 [ そういって祐樹がにかっと笑うと、 観客が沸いた。裕也の方を見ると、 困ったように眉尻を下げて笑っていた。] 「ほんとに急に決まったから、 あんまり練習できてなくてさ、 まだまだ、荒削りだし、 間違えたりとかもするかもだけど それ含めて、聞いてくれたら嬉しい。 これが今のWTwo winsWだからさ。」 [ 「な?」と振り向いてこちらを見る。 ぱちり、目を瞬かせてから、数度うなずいた。 メンバー紹介はしないでくれと頼んだのは己だ。 祐樹にどんな意図があったのかはわからない。 だが、否定もしなかった。] (236) ななと 2020/06/19(Fri) 19:28:33 |
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