【秘】 Commedia ダヴィード → Il Ritorno di Ulisse ペネロペ>>-51 「 うげ。 ……あんまり沁みないやつがいいです」 そうしてまた、無理なことを言った。 一切の希望を捨てて進んだから、今の幸せがある。 その幸せが薄氷の上にあって、いつかぱちんとはじけて消えてしまうようなものであっても。 それを守ってくれた人間がいるから、自分はぬくぬくと温められていたと気付いてしまったから。 「覚えてますとも。俺は、俺がしたいことをします。 俺の大好きな、大切な人たちを言い訳にしなくても。 死ぬほどやりたいことがあったんです、ずっと」 「だから―― これからもファミリーのために働きますよ」 Bau bau、と小さな鳴き真似が口から洩れた。 思ったよりは似ていた。 愛する家族の姿形がすこしばかり変わったからと言って、間違える犬はいない。 だってそれは、『貴方』なのだから。 (-55) 2023/09/28(Thu) 0:35:12 |