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人狼物語 三日月国


179 【突発R18】向日葵の花枯れる頃【ソロ可】

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視点:


【人】 高山 智恵


『高山さんはアーサー王伝説に興味がないのに、
 どうしてアーサー王伝説についての講義を受けたんですか?
 高山さんは
です。』


 こんなふうに雑談の中でいきなり面と向かって「変」呼ばわりされたら、今の私なら「そういうところだよ」で済むけれど、初めのうちはカチンときたよ流石に。……まあ、こういうところのある人だったって訳だ。
 まあ、彼女は「好きな分野を学ぶ」ことを当然として生きてきたんだから、当然のように私もアーサー王が好きだからその分野の講義を取った筈だって信じていたんだろう。
 え? この講義選んだ理由? 出欠もレポートも緩くて単位取るのめちゃくちゃ楽だって聞いたからだよ。実際楽に単位取れたし。残念ながら講義内容については「聞いたことはある」レベルの記憶に留まっている。

 ちなみにだけれど、私と彼女は同い年生まれだ。
 年齢差も上下関係もない相手であっても、彼女はこんなふうに私に対して丁寧語で喋る。それどころか、年下の子、小さな子供や赤ちゃん、人だけでなく動物相手にも丁寧語で喋る。
 彼女は接客の適性こそないと判断されても、子供からお年寄りまで誰に対しても分け隔てない態度で接する、そういう資質の人でもあるらしい。そういうところが気に入らなかった人もいたようだけれど、店長は好ましく思っているんだって。
(100) sakanoka 2022/10/19(Wed) 17:01:51

【人】 高山 智恵

 とにかく彼女は、私にとって理解できないものの塊のような人だった。イラっとすることも多々あった。
 それでも、キッチンに向き合う彼女の真っすぐな背中や、食材や料理をじっと見つめる横顔は、純粋に綺麗だった――そうした一心さだって私にはないものだったから、あの時の私は彼女に妬いてもいたのだと、今になってみれば思う。

 そんな彼女が、ある日バックヤードで唐突に尋ねてきた。
 私が大学3年生になる直前の、まだ春というには冷える頃だった。


『高山さんはカナブンの幼虫は苦手ですか?』


「え? 何いきなり。
 でもなー、そうだなー、……そんな苦手でもないかな?」


 どうも他のバイト面子か知り合いかにいきなりこの話題を出して、蛇蝎の如く嫌われたことがあったらしい。
 私はというと――結局、育った地元が「田舎」ってやつだったからかな――ああ、ああいうやつだなーという心当たりがあって、その上で「苦手でもない」と答えていた。好きという訳でもなかったけれど。
 彼女が私にこの話題を振ったのが、私の出身が「田舎」なんだって意識したからだったのかは分からない(そう意識してなくても急に話題を振り出すところ、あったし……)。
(101) sakanoka 2022/10/19(Wed) 17:05:17

【人】 高山 智恵

 で、「なんで私に聞いたの?」と問うよりも、彼女の次の行動の方が早かった。


『判りました。じゃあ写真を見せます』


 彼女はすぐに鞄からスマホを取り出して、写真画像の写された画面を私に差し出した。
 それこそこれを聞いているあなたが虫を蛇蝎の如く嫌う人だったらマズいかもしれないので
画像の詳細は省くけれど――写真の中のいきものについて語っている時の彼女の目は、確かに輝いていた。


『――――だるそうな感じで、可愛らしくて面白いです。
 しかも畑の土を豊かにしてくれる益虫だそうです。
 カナブンがいる畑の土で作った野菜とハーブを
 カフェのフードやドリンクに使ってみたいです』


 などなど。などなど。などなど……。
 私はといえば相槌を打ちながら、彼女の話の切れ目を(どうにかなんとか)見つけたところでコメントを挟んでいた。
(102) sakanoka 2022/10/19(Wed) 17:07:57

【人】 高山 智恵


「いやー知らなかったなー。
 確かに自然派食材?みたいな感じで
 そういう畑の食材仕入れるのもアリアリだよね」


 このコメントは率直に素朴に思ったことそのままだったけれど、あれが「可愛らしくて」「面白い」かと言われれば……私には残念ながらそういう感性のチャンネルはなかった。そして未だにない。
 それでもこの感想と、何より私がきちんとこの話題に向き合っているということが、それだけで彼女にとってはものすごく嬉しかったらしい。
 普段愚直で不愛想な彼女が、確かにこの時、ぱっと無邪気に笑った。


「アリアリですよね!!」


 本当に“ 天使 ”か、或いはうろ覚えの“ 湖の乙女 ”か――そんな笑顔と声色だった。
 思えば、彼女が「カフェを作ること」「料理を作ること」以外に強い関心を示しているのを目の当たりにしたのは、この時が初めてだったな。
(103) sakanoka 2022/10/19(Wed) 17:10:18

【人】 高山 智恵

 ……もしも私の中で“ 転機 ”と呼べるものがあったとすれば、この時だったのかな。
 今となっては、いつから、何によって彼女を「好きなんだ」と気付いたのかも曖昧だけれども――。

 これから私は、何をして生きていたいか。どこに向かって生きていたいか。
 曖昧にすら描けなかったその絵図は、こうしていつしか、はっきりとした輪郭を形作っていた。
(104) sakanoka 2022/10/19(Wed) 17:22:54

【人】 高山 智恵


「私 ・、将来は自分のカフェ持ちたいですね。
 なので、売上管理とかマネジメントとかも
 正社員の立場で学んでみたいんですけれど。
 ……まだ社員昇格には早いですかね? 店長」


 店長にしれっとそう申し出た当時は「まだ早い」と即答されてしまったものだったけれど、ね。
 でもこの意思表示には、少しだけ嘘が含まれている。
 正しくは「自分のカフェ」じゃなくて、「自分と彼女のカフェ」だ。

 その嘘を正す夢物語を、店長にも彼女にも、私は言えなかった。
(105) sakanoka 2022/10/19(Wed) 17:23:35

【人】 高山 智恵


『はい、私はあの ひとのことが好きです。
 ――さんは都心でショコラティエとして頑張っています。
 ――さんは本当に真剣にチョコレートに向き合ってます。
 ――さんは、本当に素敵です。素敵なんです。
 私たちのお店にお客さんとして来てくれて、
 本当に嬉しかったです』

『私は、素敵なあの ひとにちゃんと振り向いてもらいたいです。
 だから、次の新作のガトーショコラも、
 ホットココアも妥協しません』


 だってそれこそ、浮世離れした何かのような目の輝かせ方でこんな言葉を聞かされた後の日に、思い描いてしまった将来の夢>>105でもあったのだから。

 もし私がアーサー王にとってのマーリンになる心算だっていうなら、何の不満もなくこの夢を果たせるのかもしれない。けれども私は、あの コのマーリンとしてだけ在りたい訳じゃない。
 ……ああ、これじゃまるで、私はグィネヴィアにとってのランスロットになりたがってるみたいだ。
(106) sakanoka 2022/10/19(Wed) 17:39:10

【人】 高山 智恵


 ――本当にあの娘は本当に彼のことが“ 好き ”なの?
   それって、何%くらい本当のことだと思う?



 そんな考えがふっと浮かびもしたけれど。
 彼女は嘘を吐かない。というより、吐けない。あれは本心だ。


 ――彼女の言う“ 好き ”って、どういう定義?
      “ 振り向いて ”もらうって、どういう意図?



 可能性を問う声ばかり、頭の中に響く。
 響きはすれど、それに耳を傾けることなんてできない。
 都合の良い夢ばかり、見ていたくはない。


 ……、そうだよ、今は夢なんて見ている場合じゃない。
 丁度目の前に気掛かりなことひとつ>>85>>87、捌かなきゃいけない仕事はいくつも>>89、あるじゃないか。
(107) sakanoka 2022/10/19(Wed) 17:43:44

【人】 高山 智恵

 こうして――様々な意味で気を取り直すように――オーダーの声を響かせるお客様>>89の元へ急ぎそうになって、
やめた
。お客様に呼ばれた同僚から仕事を奪ってどうするの私。
 どうやら自分で無自覚だっただけで、今日の私は相当疲れているか気が抜けているかしているらしい。
 まあ、昨日応対したお客様が再来店してきたのを見てつい……っていうのもあったけれども。

 忘れ物のペンの受け取りだけで用件を済ませてもいいところを、わざわざランチメニューまで頼んできてくれるなんて!
 2倍に増えたライス大盛り指定のランチは、今度はAではなくBのほう。
 うんうん、このお客様のこと、ぜひ店長にも“ 彼女 ”にも伝えた……げほん、なんでもない。
 あと今本当に店内でげほんって咳いた訳ではないのでご心配なく。


 それこそ今が相当に空いている時間帯であれば、お客様の時間と話しかけられ耐性が許す範囲で(店員からのお喋りを嫌うお客様だっている)料理の感想や来店の経緯を聞いてみたい気持ちはあるんだけれど、残念ながら今はまだまだそれなりに混んでいる。
 カズが……失礼、あの子たち・・をはじめ、今私が担当している他のお客様方のほうがどうしたって優先される。
 うん、普段相手の子が「カズ」って呼んでたのが多分ちょっと移ってるなこれ。成人に対して「あの子」呼びが失礼か否かはちょっと置いて。
(108) sakanoka 2022/10/19(Wed) 18:09:40

【人】 高山 智恵

 さて、あの子たち・・とは言ったけれど――。
 実際のところ、もう片方の子のほうは未だ来店していない>>87
 待ち合わせという形故に来店時間がズレることは普通としても、ここまで来ないってことはない――というのは普段のふたりの来店時のことを知っているが故に思うこと。
 彼女、この店は来づらい訳じゃないどころか、週2、3くらいでランチに通ってくれてるくらい気に入ってくれてるんだけれど>>79……。

 スマホを取り出して画面に目を落としている彼の姿は、私もちゃんと捉えている。
 もしこちらで何か手助けすることがあれば手を貸すつもりではいるけれど、お客様当人から声を掛けられない限りは、残念ながら動けない――少なくとも今は。
 あの子の不在が、今ここにいるカズ君の浮かない態度>>81>>83>>85>>86と関係あるのか否かは分からないけれど――。
(109) sakanoka 2022/10/19(Wed) 18:33:28

【人】 高山 智恵

 ……折角、お馴染みのお客様に「カワイイ猫さん」を楽しみにして貰えたっていうのに。
 その時に
「そうなんですよ!」
っていつものお客様ばりのテンション>>84で返せず、落ち着いた声量で「そうなんですよ」としか言えなかったくらいには、ぎこちない笑顔を前にした私も気掛かりのほうが大きくなってしまって。
 その気掛かりは、他のお客様の応対をしている中でも未だに抱え持ったままだ。

 悪い言い方をすれば、今の私の中の気掛かりはそれだけ・・で済んでいる、ということでもあるのだけれどね。**
(110) sakanoka 2022/10/19(Wed) 18:33:41