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![]() | 【独】 花浅葱 エルヴィーノ警察署に銃声、怒号が鳴り響く。 銃弾に貫かれた男は、まるでスローモーションがかかったようにゆっくりと視界が回転するのを見ながら、地に倒れた。 勢いよく流れ出した血は、鮮やかな赤。 動脈を損傷したのは誰が見ても明らかで、警官の中の一人がその動脈を圧迫止血を始めた。 肩関節が無事かは、この時点ではわからない。 「…………約束」 「……僕が守れなかったかも」 さりとて、意識が落ちるその直前。 つぶやかれた言葉は、宙に消える。 その意味を正しく理解できるものは、この場には一人も居なかった。 ――その後。 病院に運び込まれた男は、直ぐさま緊急手術を受けることとなる。 長時間に及んだ手術ではあったが、ひとまず命を失うことだけは免れたようだ。 (-3) eve_1224 2023/09/26(Tue) 22:12:58 |
![]() | 【魂】 花浅葱 エルヴィーノ―――夢を見ている。 それはいつもの幼い頃の夢。 ルチアーノの両親が殺された現場を見たときのこと。 僕は息子同様に可愛がってくれる二人が大好きだった。 でも、不幸になった。 ルチアーノが突然居なくなってしまったときのこと。 僕はいつも一緒に遊んでいた彼が大好きだった。 でも、不幸になった。 ラーラが交通事故に遭って養育院から居なくなってしまったときのこと。 僕は彼女に初めての恋をしていた。 でも、不幸になった。 彼女が麻薬に手を出していることを知っていたのに。 何も言わなかったから。 僕が好きになる人はいつも、不幸になる。 (_0) eve_1224 2023/09/26(Tue) 23:25:41 |
![]() | 【魂】 花浅葱 エルヴィーノだから、死んでしまった二人へは何も出来ないけど、生きてる二人に幸を送りたい。 ラーラには、彼女に合う義足をプレゼントしたい。 彼女が施設を出ても、普通に生きていけるように。 生きてさえ来れば、いいから。 でも、ルチアには。 マフィアを抜けるのがだめなら、ルチアには何をしたらいいんだろう。 それが僕にはわからない。 これ以上、大事な人を作ったら。 みんな不幸になってしまうのに。 お願いだから、僕を残して行かないで。 僕は――――――― (_1) eve_1224 2023/09/26(Tue) 23:26:05 |
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![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 新芽 テオドロ>>-7 「…………」 病室に来た時、男はベッドで静かに寝ていただろう。 点滴に繋がれた線は多く、肩から胴にかけたガッチリとギプスと包帯で固められている。 輸血も受けたようで、意識は戻り顔色は大分良くなっているが、まだまだ寝ている時間が多かった。 こんなに寝て過ごすのは子供の時以来だ。 命の危険にさらされたゆえに、流石の男も夢を見ても目覚めること無く長時間を寝ている。 あなたは、男の顔からクマがなくなっているのを見るのはきっと初めてのことだろう。 「…………ん」 「……テオ……?」 友達……と、いって良いのだろうか。 あの時一歩進めたのだと感じたことを、そう断定しても怒られやしないだろうか。 そう思ったからだろうか、舌が回らなかっただけだろうか。 同期の名前が最後まで呼べない。 (-8) eve_1224 2023/09/27(Wed) 8:35:26 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 新芽 テオドロ>>-9 「……キミと約束したからね」 「無事に釈放されたみたいで良かった」 力なく、にこりと笑う。 約束だけが理由ではないけれど、あの時背中を押された事が力になったのは確実だ。 「牢で乱暴……?」 「僕は、まぁ……避けきれなくて」 銃弾を避けれる人間など居るものではないが。 そういえば、あの時のあなたは手をずっと後ろに隠してやいなかっただろうか。 あんな法があったとはいえ、どうしてそんな事がまかり通ったのかわからず眉を下げた。 あわよくば、気になっている手を覗こうと視線を動かす。 「夢を見るんだ。 ……何度も繰り返し見ても、起きれない。 これが今までの負債なのなら、確かにそうかもしれないね」 大事な人に不幸が訪れる夢。 いっそ今までのようにすぐに起きられた方が、心は楽だ。 それでも、無事を喜んでくれるのは嬉しく思うから、その賛辞は素直に受け取ることにした。 (-11) eve_1224 2023/09/27(Wed) 13:55:50 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → favorire アリーチェ>>-33 「……! やぁ、アリーチェ。 私服のキミもなかなかだね」 ベッドに横たわったまま、顔をそちらを向けて笑みを浮かべる。 いつもなら手の一つも上げるのだが、あいにく今はそれができそうもない。 肩から胴にかけてがちがちにギプスと包帯で固められ、逆手には何本もの点滴が繋がっているからだ。 署で話を聞いていたなら、あなたは病状を動脈損傷による大量出血と肩関節損傷だということを知っているだろう。 「……うん。まぁ……テオドロと約束したからね」 「キミ達が皆無事に釈放されたみたいで安心したよ」 署からも感謝の言葉は何度か聞いた。 改めてあなたからも告げられると、むず痒さが出ていけない。 だから挨拶もそこそこに礼を言われれば、少しだけ困ったような笑みに変わる。 この怪我がなければ格好もつけれたんだけどねと、そんな事を言いたいようだ。 (-34) eve_1224 2023/09/27(Wed) 20:28:51 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → favorire アリーチェ>>-38 「意地を張らなきゃいけないときもある……ってとこかな」 「いや、僕もまさかこんな事になるとは思わなかったんだけど…… テオドロは応援してくれただけだから、怒らないでやってほしいな」 普段の自分なら無理に行動をおこしたりなどはせず、当たり障りなく行動してたはずだ。 それでも動いたのは、テオドロとの約束もそうだが。 一番は、牢に入ってしまった友人たちを釈放させたかったからで。 「悪いね、……この状態では自分で何も出来やしないから助かる」 花瓶の水換えをしてくれるあなたに、申し訳無さそうに礼を告げて、息をつく。 自分の腕は、きっともう、以前のように動きはしないことを宣告されている。 リハビリをすればある程度までは回復する見込みはあるが、肩の可動は狭くなるし、反動の大きい銃は握れないに違いない。 それは、警察としてはかなりのハンデとなる話で……。 (-39) eve_1224 2023/09/27(Wed) 21:18:10 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → favorire アリーチェ>>-43 「今回が特別だよ。 こんな事はもうないと願いたいとこだけど」 そう何度もあってはたまらない。 こんなヒーローまがいな事は、自分には決して似合わないのだから。 それに、アニメや漫画と違って、こういうのはそう簡単に治るものでもないから、次の話では元通り!とはいかないのだ。 「……そう、だね。 医者からはリハビリ次第とは言われてるけど、関節が壊れてるらしいから……以前と同じレベルをとはいかなさそうだ」 神経が切れたわけではないから、麻酔が切れればきっとすごく痛いんだろうね。なんて軽く話しては笑う。 落ち込まれてしまったらどうしようかと思ったが、あなたがその様子なら大丈夫かとホッと胸をなでおろした。 身内になってしまった人間で女性なのはあなたくらい。 どうあがいても、あなたには甘くなってしまうらしい。 「警察辞める事も考えたけ………ど、って、ええ? それ、退院してからの話かい? 朝ごはんはそもそも食べないんだけど……昼だけで勘弁ならない?」 とはいえ、胃についてはご覧の通り。 そう簡単に大きくなるようなことも、なかった。 (-45) eve_1224 2023/09/27(Wed) 22:28:06 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-46 「うん、 大事な仕事 があるからね」絶対に失敗できない仕事だ。 成功すれば、タートルネックを男が持ってくることはない。 それ以前にそんな時間は全くといっていいほどなかったのだが、それは未来の話だから割愛させてほしい。 「……?」 あなたに背を向けて牢を出ようとしたところ、かけられた言葉。 なんだろうと振り向けば、首についた歯型を指している。 これはどう返せばいいだろうか。 自問すること、数秒。 少しだけ言いづらそうにすること、数秒。 「……ええっと、ルチアをどうにかしたいならって話をしてきたのは、黒眼鏡だよ。 首のそれは……そうしたほうが良いのかと思って……その」 自分のタートルネックの襟を、ぐいっと引っ張る。 襟の下から出てきたのは、あなたについているのと似たような、多くの歯型と鬱血痕がつらなった首輪があった。 「 だ、かれる、のは初めてじゃなかったから ………見様見真似で」「あ、これは流石に黒眼鏡じゃなくて、その、………………… 後輩が 」怒られるかもしれないと、あなたに忠告される前の話だったのだ、と説明を付け加えたが、 多分。時期の話はあまり関係ないだろう。 (-48) eve_1224 2023/09/27(Wed) 22:52:23 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → favorire アリーチェ>>-54 「僕に何かあって泣くヒロインの話かい?」 「……そんな子はキミくらいでしょ。残念ながら僕のヒロインではないけどね。 ……まぁ、ヒロインかはともかく―――――……いや、なんでもない」 言いかけて、止まる。 それはあたかもそういう存在が居ると言ってるようなものだが、あまり不確かなことは言いたくなかった。 少なくとも、頭に浮かんだ人物が泣く所は想像できない。 「はは、キミが元気づけてくれるのはありがたい。 それにしても……随分様子が変わったね。クロスタータでおどおどしてたのが嘘みたいだ。 僕としても職は失いたくないけど……ま、リハビリ次第かな」 今、右手を失うわけにいかない。 男の目的はまだ、何一つ果たされていないから。 そんな事を考えながら、右手に力を入れてみた。 ―――まだ何一つ動かすことの出来ない手だが、痛みという感覚だけはある。 自分の手はまだちゃんと腕に、肩に繋がっている。 それがわかるだけ、今は十分なことなんだろう。 「食事の方は…… まぁ、退院するまでに少し胃を強くしておこうかな 」ある意味、肩のリハビリより努力がしづらい難題だった。 (-57) eve_1224 2023/09/28(Thu) 1:51:48 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-56 「……ええと……」 これは怒っている。 笑顔だけど、怒っている……気がする。 言ったらどうなるというんだろうか。……主に、後輩が。 彼がこれまでやってきた事を、何一つしらない男は、流石に言いづらそうに視線を彷徨わせた。 流石にこの件で喧嘩しに行く、なんてことはないと思いたいのだが。 「ぼ、僕が頼んだ、ことだから」 「意識が落ちるまでしてくれたら、薬も酒もなしに寝れるんじゃないかって…………だから」 彼は何も、悪くないからね? と、できる限りの念を押して。 仕事にだけは行かねばならぬと、ぼそぼそと小さな声で名前を告げた。 「イ……イレネオ・デ・マリア……僕が教育係をしてたひとつ下の後輩だよ」 「ひどく見えるかもだけど、本当に心配をしてくれただけだからね」 これは大分頑張って庇っていた。可愛い後輩のために。 あなたからしてみれば、その名を聞けば思う所はきっとあるだろう。 だが、男から見た彼は、ただの大型犬であった。 この意識の差を埋めるのは、かなり困難なハードルだ。 (-58) eve_1224 2023/09/28(Thu) 2:09:55 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 新芽 テオドロ>>-65 「キミも十分酷い怪我じゃないか……。 捕まる時に無茶をしたのかい? それか、違法な取り調べか」 男は拷問が行われていたことなど一つも知らない。 心配気な表情であなたを見上げて息をつく。 「そうかもしれない。 これが罰なら、甘んじて受けるしかないなぁ」 それでも幸を願わずにいられないのが、浅葱の瞳を持つ男だ。 願うだけじゃ足りないから、これからも他人に幸を与えようとするのだろう。 それでも、これまでよりは幾許かは、自分の身やその他の事も気にするようになるはず。 巡り巡って大事な人が不幸になってしまうなら駄目だということを、学んだから。 「はは……健康を得るには寝るのが大事なのはわかってるんだけど。 どうしてもなら本当に僕を寝かしつけてもらうしかない気がするよ。 ……や、本当にそんな事はしなくて良いんだけど……、まぁ、僕もキミの回復と幸を祈っておくよ」 寝かしつけの何かを思い出して、一つ咳払いをして。 ただ祈るをすると告げる。 あなたはきっと幸を自ら掴んでいくタイプだと、今なら尊重することが出来た。 (-67) eve_1224 2023/09/28(Thu) 8:02:29 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ「え、ちょ、な……っ」 なんでキミがそんなに怒るんだよと、喉まででかかった言葉は出ぬまま、牢屋を追い出されてしまった。 この仕事をしていればマフィアに会わぬことなどできないというのに、無茶苦茶なことをいうと、ぶつぶつ何かを言っている。 あなたに大事にされていることくらい、周りから見ればすぐわかることだろうに、当の本人はそれに気づかない。 ただ、それでも。 たまにしでかす物事が、危なっかしいと心配をさせてしまっているのは確かな話。 これから行う仕事も、あなたには絶対にいえない話ではあったが、言えばきっと怒られてしまっていたのだろう。 事実、マフィアにただ会うよりも危険なことをして、 大きな負傷をもって病院に運ばれてしまったのだ。 あなたと次に会うのは病院か、それとも外になるか。 何にせよ怒られる案件をひとつ、増やしてしまったのは確かな話だった。 (-93) eve_1224 2023/09/28(Thu) 14:33:05 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 新芽 テオドロ>>-92 「どっちも」 それは軽く言うことだろうか。 まぁ、本人がそれほど気にしてない様子に見えたので、それ以上は聞かないことにする。 ――きっと、言えない事情もあるのだろうし。 なんていう事を考えてるのだから、結局身内に甘い男なのだ。 「考えたくないな……実際キミ達が居なくて僕と先輩の仕事量すごかったんだ」 それこそ、あの自分磨きが好きなリヴィオが、鏡を見る時間もないほどだったのだから、どれほど仕事がためられていったかは想像に難くないだろう。 仕事に真面目な人間というわけではないが、それでもその時のことを思うと、まだ起きることも難しい身体が少し恨めしくなってしまった。 珍しい話である。 「え”……、や。冗談のつもりで言ったんだけど。 ここでそれを頼んだら前の二の舞い……じゃなくて、後で僕がものすごく叱られることになるんだ」 ないとは思うが、ついでにキミも怒られることになるかもしれない。 事件の日の朝を思い出して、重い息をついた。 (-96) eve_1224 2023/09/28(Thu) 15:08:41 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 新芽 テオドロ>>-101 よくよく男の身体をあなたが見たならば、患者用の服の胸元から少し薄くなった噛み跡などが見えるだろう。 本人としてはタートルネックで隠したいのだが、入院してると流石にそれは許されなかったようだ。 「うん、まぁ……色々あって、心配かけてしまったのは確かだから」 とはいえ、何故そこまで叱責を受けなければならなかったのかはついぞわからず。 次に会うときは、今度はこの怪我のことを叱られるのだろうなと思うと苦笑いの表情を浮かべる。 ここに入院していることは警察の人間くらいしか知らないだろうから、会うのは退院してからになるかもしれないが。 ……まぁおそらく、あなたの予想のその罪づくりな男で間違いないはずだ。 「あぁそうだね……二人がかりで叱られると流石の僕も立ち直れなくなりそうだ。 というか。キミのその色気のある声で、寝ながらくどくど言われたら寝れる状態であっても寝れない気がするよ」 皮肉には皮肉で返して口端を上げる。 気のおけない同期とのこの関係は、きっとこれから先もずっと変わることはないのだろう。 (-103) eve_1224 2023/09/28(Thu) 19:11:56 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → favorire アリーチェ>>-108 「…………何も言ってないのに」 言ってはないが言いかけたことが完全に失言だった。 苦虫を噛み潰した幼な顔をして息をつく。 余計なことは言うまいと心に決めて話を聞いてると、支えたい人という単語に、「へぇ」と目を見張った。 「なるほど、前よりずっと綺麗になったわけだ。 僕らの助けはもう必要なくなるのかな? それはそれで寂しい気もするね」 恋する女は強いものだ。 多分、男よりもずっと強くて、勝算は万に一つもありえない。 これは好かれた男は大変だなと、目を細め。 「まだ重湯くらいしか食べてないけどそれでもキツくてね……」 などと言いながら困った顔をしながらも、心の中ではあなたの幸を祈っていた。 (-116) eve_1224 2023/09/28(Thu) 21:28:40 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ入院して1周間くらい経った頃だろうか。 流石に寝るのにも飽きた男は、こっそり点滴を抜いて外に出た。 片腕が全く動かない上、肩から胴までギブスでガチガチに固められた状態では、着替えるのがほぼほぼ不可能なため、入院着にカーディガンを羽織っただけだ。 担当のナースに見つかれば間違いなく、青い顔をされた上で怒られるに違いない。 夢の中で名前を呼ばれた気がずっとしていたし、 悪夢を見続けるのにも飽きてしまって、外の空気に触れたいと……そう、思ったから。 病院の庭を散歩するくらいは許されたい。 「いたた……でも流石に早かったかな……」 点滴には痛み止めも含まれてるのだから、抜けば痛みが戻ってくるのは当然の話しだろう。 (-124) eve_1224 2023/09/28(Thu) 22:38:37 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → favorire アリーチェ>>-133 「お土産?」 話を逸らすように聞き返せば、差し出されたのはテントウムシ。……の、キーホルダー。 聖母マリアの使い。幸運を呼び込み、病や災いごとなどの不幸を運び去ってくれるそれは、愛らしいデザインで確かに男性向けのものではない。 それでも、そこから伝わってくるのは気遣いと祈りが込められてるのがわかるから悪い気はしなかった。 「ありがとう。ごめん、もう少しこっち来て」 右手が動かないから、左手をそちらに伸ばして受け取った。 逆手では届かなくて、あなたにこっちに来て貰う形になっただろう。 「可愛いね、これ。 あぁ……今はまだ殆たべられないからね……本は助かるな。 毎日寝てるだけだと暇だし……ページがめくれるようになったら読みたいな。 推理小説が好きなんだけど……、……ブックスタンドも欲しいかもしれない」 両手が使えぬと本も読めなかった。 (-138) eve_1224 2023/09/28(Thu) 23:53:55 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-173 流石に歩くのがつらくなってきた散歩の最中。 中庭のベンチにでも座ろうかと視線を投げれば、何故か見知った男がベンチに寝ている。 「……いや、なんで?」 浮かんだ疑問は言葉になって呟かれ、きょとん、と小首を傾げた。 あの日のようなあどけなさのある寝顔は、何も警戒してないようにも見える。 部屋やホテルとは違うのに、なんとも無用心だ。 「誰かの見舞いにでも来たのかな……」 あの強制的な逮捕の裏で拷問などもあったらしいから、怪我人もきっと多いだろう。 部下を沢山もつマフィアは大変だな、なんて思いながら、連なる隣のベンチに腰を下ろした。 そろりと、動く方の左手を伸ばして。 柔らかな髪に触れてみる。 いつも気持ちよさそうに眠るから、起きないだろうなんて思いながら、その頭をゆっくり撫でて表情を緩めた。 暫く休憩したら、そっと立ち去ろうと思いながら。 (-174) eve_1224 2023/09/29(Fri) 8:38:24 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-176 「うわ、起きた」 少し驚いたものだから、呻くような言葉が、思わず口をついてでてしまった。 「ごめん、気持ちよさそうに眠ってたからつい……」 「あー……えっと……」 あの騒動を引き起こしたのは、何もあなたのためだけではなかった。 まさかギリギリになってあなたまで捕まると思っていなかったし、自分に出来ることを友との約束を果たすためにやったことで。 彼らを釈放させるためにやったことで。 でも……、あなたが捕まったことでその必死さに拍車がかかったことまた、事実で。 騒動のことくらい情報通のあなたなら知ってそうなことなのにと、言い倦ねて、それからぽつり。 「…………代理逮捕の時の騒動の首謀者だったから…………かな……」 事実、あの時僕が死ねば、証拠を持つ問題で自体はややこしくなってたはずだ。 とはいえ、まさかあんな所にノッテのボスが潜んでいて援護射撃をしてくれるなどとは思ってもなかったのだが。 ともあれ、あなたとの約束を破って危険な行動にでたことは確かなので、申し訳無さそうに眉を下げた。 (-177) eve_1224 2023/09/29(Fri) 8:57:19 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-193 「べ、つに。 今はもう何も隠してないよ……入院したこと言わなかったのは悪いと思ってるけど……」 これは間違いなく、この人は自分に会いに来たのだと思った。 たまたまなんて反応ではなかったから、きっと、その情報網の広さでここに居ることを知ったのだろう。 でもそれなら、どうしてこんな所で寝ていたんだろう? 病室に来てくれたらいいのに、僕がここに散歩に来なければいつまでここに居たのかと、ちょっと心配になった。 そのままと言われたので左手でそのまま柔らかな髪を梳くように撫でながら、浮かべる表情は困惑した表情だ。 「代理を引きずり降ろそうとした結果、肩を撃たれましたとか、格好付かないし……」 「あ、洗いざらいって……あ、ねぇ……でもそれなら」 「キミになら何知られたって良いし聞かれたら答えるけど……それなら、僕にも教えてよ」 「キミのこと」 駄目かな? と、あなたの顔を覗き込んで問う。 僕は多分、知らないことがたくさんあるんだ。 今まで知ろうとしてこなかったマフィアの話とか。 幼い頃何を考えてたのかとか。 色々だ。 (-195) eve_1224 2023/09/29(Fri) 17:15:41 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-197 「ほ、本気かい?」 本気でなかったらこんなところで寝ていない。 ここで見つけなかったら。 この後もずっと連絡をしなかったら。 ……その先はちょっと想像したくない。 「はぁ……これからは後ろめたくてもちゃんと言う。 だからこんな嫌がらせはやめてほしい」 重々しく息をついて、降参の白旗を上げた。 皮肉めいた言い方だが、流石にそれは後悔するどころではない。 あなたに風邪をひかせてまで守るプライドなんて、本当はないのだ。 「今、なに思い出したの?」 「そうだな……じゃあ、なんで子供の頃の夢はどうでもよくなったの。 おじさんとおばさんを殺した犯人をもう追わないのはどうして?」 これを知らなきゃ、僕も調べる手が止められない。 男はまだ、あなたに幸を届ける方法がわからない。 (-199) eve_1224 2023/09/29(Fri) 17:45:37 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-203 >>-204 「……そっち行って良い?」 あなたが起き上がってしまうと、寝転がってた分の距離が開いた。 あなたはきっと断らないだろうから、せめて同じベンチに座ろうと隣にすとんと腰を下ろした。 「黒眼鏡と何があったのか知らないけど……その口ぶりだと彼も脱獄したんだね。 明確に罪状がでてるあの二人の釈放は認められないはずだったんだけど」 まぁ、どうせそうなるだろうとは思っていた。 あの二人がそう大人しく捕まったままでいるわけがない。 二人が消えたら喪失感を覚えるのかということならば、やはり、上司の死を聞かされる方が喪失感はあるだろう。 喪失感から歪んでいった事を考えると、あなたの判断は正しいものだ。 ▼ (-214) eve_1224 2023/09/29(Fri) 20:05:51 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-203 >>-204 >>-214 「えっと。つまり……」 話される言葉を噛み砕いて、理解する。 ずっと仲良しで優しい家族だったと思っていたあなたの家族は、実はそうではなかった。 そんな事すら知らなかった事が、少し恥ずかしい。 ただ、それよりも。 あなたの言葉を聞いていると、どうにもうずうずしてしまっていけない。 だって。 「……それって、全部……僕のため?」 だってそうだろう。 大学よりも、両親よりも、 自分を優先してくれてるように聞こえた。 なんなら、牢屋であんなに黒眼鏡や後輩との事に怒ったのも。 ――全部。 あぁ、本当に僕は馬鹿で愚か者だったのだ、今まで、ずっと。 「…………。もう、そんな事望まない。 キミがまた、依存してしまうようなら別だけど……大好きな場所から引き離すほど、聞き分けのない子供じゃないよ」 自分だって、今いる警察が 嫌いじゃない 。嫌いな上司は沢山いるけれど、それ以上に大事な同僚たちがいるし、守りたいものを守る事くらいは出来るのだから。 「でも……やっぱりね。 キミが誰かに捕まるくらいなら、僕が捕まえに行くつもり。 マフィアのこともちゃんと知りたいし、好きな人が好いてる人の事くらいは知りたいから……会ってもいい人くらいは紹介してね」 (-215) eve_1224 2023/09/29(Fri) 20:08:15 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → favorire アリーチェ>>-201 「いや、これも嬉しいよ。 キミの気持ちが籠もってるしね」 手の中のキーホルダーをみつめて、表情を緩めた。 流石に持ち歩くには可愛すぎるから、家に帰れるようになったら飾っておこうと思う。 「あぁ、ブックスタンドと本の代金は払うから頼むよ。 ここにいる間に何冊も読めてしまいそうだから、キミのおすすめも混ぜてくれて構わないし。 格好いいかはわからないけど……トリックとか先に解けたらよし!ってなるでしょ」 「音声か……イヤホンつければ確かにここでも聞けるからいいかもね」 料理は確かにやってると手が離せないから、音で聞けるのはいいのかもしれない。 なるほどね、なんて言いながら相槌を打った。 それはそれとして……。 「あれで皆外に出れたと思うけど……皆無事かな。 ここにいると、外のことが何もわからないんだ」 (-216) eve_1224 2023/09/29(Fri) 20:21:05 |
エルヴィーノは、イレネオの電話を鳴らした。 (a21) eve_1224 2023/09/29(Fri) 23:38:24 |
エルヴィーノは、イレネオに通話が繋がる事はない。 (a22) eve_1224 2023/09/29(Fri) 23:39:50 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-257 >>-258 「違うの? それなら勘違いした僕が悪かったかな」 知らないことはたくさんあっても、その性格位はよく知っているつもりだった。 幼馴染が照れているのも、嘘をついているのもわかったけれど、その言葉を額面通りに受け取って、表情を緩めて笑う。 怪我のない左肩にあなたの頭が置かれれば、その頭を左手で柔らかく撫でた。 「……居ないの? 血の掟は知ってるけど……あまり守られて無くない?」 これはあなたのことを言ってるわけではない。 事実、マフィアと関係を持っている知人が周りに多いのだが、男はその事をよく知らない。 あなたとの関係を外に漏らすことがなかったのは、掟に裁かれることがないようにと、勝手に配慮していたことだった。 ▼ (-282) eve_1224 2023/09/30(Sat) 7:37:13 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ「…………逃げ切ってくれなきゃ、困るよ」 呟かれた言葉が、あなたの耳に入ったかはわからない。 男は本来、正義感なんていうものはあまり持ち合わせていない。 あなたを捕まえると豪語する理由は、たった一つだけ。 あなたを警察に渡す気はない。 ただ、それだけだった。 恋愛感情なんて、とうにない。 だけどその重い鎖が切れることも絶対にない。 すでにそんな感情は超越して、重く歪んでしまっている。 それでもはっきりと、僕はキミに愛していると告げることが出来る。 何だって出来る。 死ぬことだって別に怖くないのだ。 あなたに幸を与えられれば、それだけでいい。 これはだって、僕に出来る、最大の我儘なんだから。 花浅葱の瞳が、遠い異国で知られるダンダラのようだ。 そこに『忠愛の誠』が存在しているというのなら、 その相手は決して、警察へのものではなかった。 (-283) eve_1224 2023/09/30(Sat) 7:40:36 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-304 >>-305 >>_4 「……ちゃんと気づいていればよかったな」 そうしたらこんなすれ違いなんて、最初からなかったろうに。 あの頃は純粋に幼馴染を慕っていたのだと思うけれど、重い感情に不快感を示すことなどきっとなかっただろうと思うし。 今思えば、初恋はラーラではなかったのだ。 ラーラを好きになって、想いを告げた日。 「私はルチアーノが好き」だと言われ抱いたのは、ラーラに対する嫉妬心だった。 ラーラに振られることよりも、ルチアーノを取られる事が、嫌だった。 それは友情の域をゆうに超えていると指摘できるほどに。 「ふぅん。 そういえばルチアはまだ血の掟は結んでないんだったね」 それをきちんと守って初めて上に上がれるというのなら、本当は自分たちは会わないほうが良いんだろう。 でもそんな事、出来ないよ。 もう疎遠だった頃みたいには戻れない。 あなたがずっと無事であるように手を回して、見守っていたいと思っている。 あなたの心が、悪いものに囚われてしまわないように。 ▼ (-310) eve_1224 2023/09/30(Sat) 15:52:35 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → 口に金貨を ルチアーノ>>-304 >>-305 >>_4 >>-310 「なにそれ、わかってるよ」 あなたがマフィアであることは、ちゃんと。 でもこの時、まだわかってなかったんだ。 あなたの愛の重さもまた、とっくに歪んでしまっていたんだって。 すれ違った重すぎる心は時に、鋭い刃になって互いを傷つけ合う。 けれども。 その原因を作ってしまったのは、紛れもなく、何も知らなかった愚かな自分だ。 ▼ (-311) eve_1224 2023/09/30(Sat) 15:53:43 |
エルヴィーノは、不思議そうにその紙袋を見た。 (a30) eve_1224 2023/09/30(Sat) 15:54:07 |
![]() | 【魂】 花浅葱 エルヴィーノ>>-304 >>-305 >>_4 >>-310 >>-311 「見舞い……?」 冷たい風が、互いの髪を揺らした。 手渡された小さな包をしげしげと見つめて、「あけても良い?」と聞いてみる。 駄目だなんて言われることはないから、左手で苦心しながら包を開いてみれば、そこには―――――― 壊れた、丸い眼鏡。 レンズが片方割れてしまっていて、それが新品の物でないことは誰にだってわかる。 ヒュ…… 乾いた息を吸った。 吸ったけれど、まるで酸素が入ってきていない、気がする。 だって、脳裏に浮かんだのはあの。 ギラギラと輝いた、金の瞳で。 「な……で……。 これ、は……っ、どうし、」 目の前に居る幼馴染は、マフィアだ。 聞かずとも何が起きたかなんて―――――― わかってしまう 。「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」 (_5) eve_1224 2023/09/30(Sat) 15:58:20 |
エルヴィーノは、が上げたその慟哭は真昼の庭に響いた。 (a31) eve_1224 2023/09/30(Sat) 15:58:36 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → リヴィオあなたは騒動の後、署に出向く機会がいくらかあっただろうか。 それともあなたの友から話を聞く機会があっただろうか。 いずれにせよ、あなたが教育係を務めたひとつ下の後輩が、銃に倒れ入院しているとの知らせだ。 怪我の詳細は肩関節損傷、鎖骨下動脈損傷。 噴水のように吹き上がった赤い鮮血は、その場に居合わせた警官が圧迫止血を施し命をとりとめたらしい。 あの日仰いだ協力の約束。 その仕事の最中、署長代理逮捕の大金星との引き換えにしては大きすぎる代償だ。 あなたがその病室を訪れるのはいつ頃だろう。 1週間以内の事ならば、ベッドの上の男はあなたににこやかな笑みを浮かべて迎えるはずだが――――― (-312) eve_1224 2023/09/30(Sat) 16:19:35 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → リヴィオ>>-331 「……!?」 慣れぬ左手でスマホの操作をしていたときだろうか。 急に不器用に扉を開く音が部屋に響いて、びくりと肩を震わせた。 「誰かと思ったら……。 先輩こそ、僕とそう変わらない大怪我に見えますよ」 一週間がもうすぐすぎるとはいえ、未だ何本もの点滴を受けながらベッドで過ごす身の上としては、話し相手になってくれる人が来るのは喜ばしい。 リハビリは早い方がいいというから、明日にはおそらく始まるのだろうが。 なにせ暇なのだ。 寝るだけの日々というのは。 「良いんですよ。 先輩は先輩の仕事をしていたんでしょう?」 「それで十分です。けど、その傷は……何があったんですか」 確かにあなたが居ればこの怪我は負わなかったかもしれない。 それでもこの傷はあなたのせいではない。 自分への不幸ならば、このように考えることが出来るのに他人の不幸はそう考えることができない。 男の思考は何処か歪だ。 (-337) eve_1224 2023/09/30(Sat) 19:33:49 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → リヴィオ>>-339 「デート、ですか。 まぁ良いですけどね、相手は美人でした?」 あなたが【A.C.A】の人間だったことは聞いている。 それでも男はあなたへの態度を変える気はなく、今もたったひとりの先輩だと思っていた。 そのあなたがデートだと言ってはぐらかすならば、それは詳しく聞かないほうが良いということなんだろう。 それでも怪我の方については、明らかに嘘だとわかってしまった。 そんな、笑顔で心配させまいとする下手くそな嘘だ。 デート相手よりも気になる事だったけれど、そう言われるとやっぱり、あまり追求はできない。 「それはあまりにも不用心が過ぎるでしょう……。 言いたくないってことなら、深く聞かないことにしますけど……もう少し後輩にも心配させてくださいよ」 男は何も知らない。 あなたと同じように、自分が教育係を務めた後輩がその怪我を負わせたこと。 行方不明となって、その捜査も手打ちになってしまっていること。 その他も、全部だ。 (-341) eve_1224 2023/09/30(Sat) 20:04:04 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → リヴィオ>>-345 「デートついでに病院まで連れて行ってもらったらいいんですよ、先輩は」 まさか本当にそうなってたとは、流石に思ってないが。 それでも手当をされている様子を見れば、病院に一度は行ったのだろうからとりあえずは及第点だろう。 「そういう事にしておいてあげますよ。 僕の周りは皆すぐ無茶をする人ばかりだ……あ、そういえば先輩、イレネオ知りませんか。 連絡が取れないんですけど……アイツ、釈放ちゃんとされてますか?」 勿論正直に答えなくて良い。 答えるべきではない質問だ。 ただそれでも、それを知らぬ愚かな男は、可愛い後輩を純粋に心配をしていただけ。 「……先輩?」 どこか遠くを見ているようなあなたに気づいて、ベッドに寝かされたまま不思議そうに、その顔を見上げた。 (-348) eve_1224 2023/09/30(Sat) 20:56:00 |
![]() | 【魂】 花浅葱 エルヴィーノ>>_6 「むり。……嫌だ。行かないで」 何処にも行けないから、 頼むから、今僕をひとりにしないで。 胸にぎゅっとその眼鏡を抱いて、頭を振った。 すがるように伸ばした左手は、あなたの袖をぎゅっと掴んでいる。 事実、痛み止めが切れた肩が悲鳴を上げるかのように痛んで、顔色も青白く死にそうな顔をしている。 けれど。 「……どうして……」 「イレネオは殺されたの……?」 震える声が、それを問う。 あなたがこれを持ってきた。 それは、マフィアかそれに関係する何かによって彼は殺されたということ。 あなたはその死を見届け、正しく処理をしたということだ。 だったら、その死の原因をあなたは知っているはずで……。 僕は、それを知らなきゃいけないはずで―――― (_7) eve_1224 2023/09/30(Sat) 21:13:22 |
![]() | 【秘】 花浅葱 エルヴィーノ → リヴィオ>>-350 「え……本当に連れて行ってもらったんですか」 埋め合わせと言うくらいだから本当にそうだということだ。 冗談のつもりだったのに。 誰だか知らないが、相手の女性に少しだけ同情してしまった。他意はない。 「そうですか……。 携帯にかけてるんですけど、繋がらなくて。 ……まぁ、いいです彼も忙しいんだろうし……って、ええ? 警察やめた? 」どうして、という言葉はあなたの笑顔に封殺されてしまっただろうか。 なんとなくだけど、答えてくれる気がしない。 答えてくれたとしても、それもまた、はぐらかされたような答えに違いない。 「僕のは運が悪かっただけで……。 まぁ、死にかけたのは確かですけど…………」 あなたより傷は少ないけれど、この一つの傷が致命傷になりかけた。 それは本当だ。 けれども、僕は。 僕はあなたの後輩だから。 「でも」 「それブーメランですからね」 僕だって、心配するんですよ。 ねぇ? 先輩。 (-355) eve_1224 2023/09/30(Sat) 21:59:49 |
![]() | 【人】 花浅葱 エルヴィーノゆっくり、上がる。 病院の階段を、一歩ずつ。 それはまるで天国へ続く道のようで、あの屋上への扉を開いたら、あなたが居そうで。 ルチアーノと別れ病室に戻された時は満身創痍だった。 絶対安静の人間が、受けるべき点滴を受けずに外に居たのだから、ナースも医者も皆が青い顔をしていたのは仕方のない話だ。 すぐにまた点滴に繋がれ、青白い顔に生気が戻ってくるのにまた数日を要したに違いない。 歩けるようになって、リハビリを始めた。 手先はなんとなく動くようになったけれど、肘を動かそうとすると痛みが響いて動かない。 砕かれた肩はミリも動かせる気がしない。 本当は、ベッドの上にいるのが一番楽だけど、今はすごく屋上に行きたかった。 金色に輝く太陽の下、広がる青い空を見たい。 だって。 寂しいんだ。 心に空いた穴はルチアが埋めてくれるけど、ずたずたになった心臓が今も血を流しているから。 #BelColletto ▼ (98) eve_1224 2023/09/30(Sat) 23:13:14 |
![]() | 【人】 花浅葱 エルヴィーノ「やっとついた」 白く輝く扉を開いて外に出れば、涼しい風が男の髪を柔らかく揺らした。 ゆっくり、一歩ずつ前に進んで、 柵に手をかけたらもうだめで、ずるずるとその場に膝を折って座り込む。 身体の辛さよりも、今は、心の震えが止まらないのが酷くつらい。 手の中にあるたった一つだけの贈り物を見つめて、 ……ぱた。 ぱたり。 静かに雨が頬を伝った。 「……忠犬は、主を待ち続けるものだろう?」 「な……んで、キミが先に、僕を置いていくの」 僕がもっと、あなたの手綱をしっかり握ってたならこんなことにはきっと、ならなかった。 僕がちゃんと、あなたがしている事を知っていたなら、あなたの頬を打ってでもそれを止めていた。 僕が撃たれてなんてなかったら、あなたを助けに行ったのに。 ――知らないことは、罪だ。 だからこれは、全部僕のせい 。#BelColletto ▼ (99) eve_1224 2023/09/30(Sat) 23:14:13 |
![]() | 【人】 今更、首輪を外されても エルヴィーノ「……レオ……」 あの日約束したその名を呼ぶ。 「レオ………ッ」 何度も、何度だって、その名を呼ぶ。 天国への道を閉ざす、格子の前で。 「約束、守って……る、だろ」 「なのになんで、応えてくれない……っ」 だけどそこに、あなたは居ないのだ。 今更、その首輪を外されても、僕はもう上手く歩けそうにない。 #BelColletto (100) eve_1224 2023/09/30(Sat) 23:15:34 |
![]() | 【魂】 今更、首輪を外されても エルヴィーノ>>_8 >>_9 「そう……だね」 僕は 確かに運がいい 。ルチアーノが居なければ、遺品の一つ手に入らなかった。 死体は決して見つからず、最後は行方不明で処理されてしまうかもしれない。 死亡したという事実が知れただけ、僕にとってはきっと幸せなことなのだ。 「うん……。 きっと間違えたんだ……」 じゃなきゃ、あの真面目な、真っ直ぐな人がこんな事になるわけがない。 心に巣食う自責の念はまだ小さい。 それはこうして抱きしめてくれる腕が、優しい声が食い止めてくれているかのようで、心地いい。 がらがらと心が崩れていく。 僕が。 僕が何も見ず、あなたの声だけ聞いてあなたの傍にある事が、あなたの幸だというのなら。 僕はもう、きっと他の誰かを見ることはない。 信じるものは、ひとつだけ。 「ルチア……。ルチア……! ごめんね。でも、ルチアが外に出れて、本当によかった……」 だからずっと、強く抱いていて。 僕はもう絶対、その心ごと、キミの傍を離れないから。 (_10) eve_1224 2023/10/01(Sun) 6:54:49 |
![]() | 【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノ「……心配? 大丈夫、ルチアが良いって言うまでここにいるよ」 入院は思ってたよりも長期間に及んだ。 元々一人暮らしをしていた関係上、関節の損傷という怪我の具合もあったが、加えて動脈をやられていたことと、精神も病んでいると診断されたことが理由として大きかったようだ。 本人は早く退院したかったが、幼馴染が最大限病院を利用しろと言うので素直に従ったらしい。 容態が安定してからは精神的な病気の方が厄介で、男はとにかく眠らないと、病院関係者も頭を悩ませていた。 幼馴染が来てくれた時だけはぐっすり眠れているのも確認されていて、薬が効かないから助かると思われていたに違いない。 また、同期の二人や先輩も時々顔を見せてくれていたから、病院で問題行動を起こす……なんてことは起こらないから、扱いやすいおとなしい患者の一人であったことは間違いない。 ただ。 たったひとつの、行動を除いては―――――――― #VerdeMare ▼ (_11) eve_1224 2023/10/01(Sun) 19:47:07 |
![]() | 【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノ「ねぇ、ルチア。お願い」 首を噛んでほしい。 そう言い出したのは、首についていた歯型の痕がなくなってしまった日のことだ。 幼馴染には勿論そんな趣味はない。 しないと自分で首を爪で傷つけるから、1・2回はそのお願いを聞いたかもしれないが、その後は犬用の首輪がついた。 病院の方々はさぞ不審がったに違いない。 診察の際に「人間関係を整理しては」と遠回しに幼馴染と別れることを勧めた医師もいたことだろう。 時間が経てばそういう発作みたいな衝動も少なくなってきて、首輪はチョーカーとなり、いつしかネックレスなりアクセサリーを首につけていれば安心できるようになっていた。 けれど最初の時の、あのルチアの悲しそうな顔が忘れられない。 悲しくなって、ごめんねと言って頭を何度も撫でたのを、よく覚えている。 この頃には、いつだったか。 僕が二人目に好きになった人 だったラーラが亡くなっていた。薬の処方ミスがあったらしい。 不運なことだが、彼女には身よりもいなくて訴える人間も居ない。 あしながおじさんを続けていたけれど、その必要もなくなってしまった。 その知らせを聞いた時はまた精神的に危うくなったけれど、この時もまた、幼馴染が傍についててくれたから無事だった。 #VerdeMare ▼ (_12) eve_1224 2023/10/01(Sun) 19:48:07 |
![]() | 【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノ月日は巡る。 リハビリを経て職場復帰を果たすころには、約2年の月日が経とうとしていて。 表面上はもう、以前と変わらなぬ笑みを浮かべ仕事に取り掛かることができていた。 だが、内面はどうだっただろうか……? 海風が薫る砂浜でひとり、遠くに輝くシーグリーンを見つめていた。 幼馴染は、僕を大事にしてくれる。 それはすごく、嬉しいことで、幸せなことだ。 あなたが笑ってくれるから、僕は隣で穏やかであればいい。 でも、時々すごく、寂しくなる。 ルチアは、僕を決して抱いてはくれないし、抱かせてもくれない。 愛してると告げてみても、そうだなと笑うだけ。 別に、いいのに。 僕はもう、キミだけしか見てないのに。 悲しませたくはないから、絶対に気持ちを返してほしいなんて思わないのに。 一度抱き潰された体が疼くから、沈めてほしくて。 #VerdeMare ▼ (_13) eve_1224 2023/10/01(Sun) 19:50:11 |
![]() | 【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノだけどそれならと、適当な人の腕をつかもうとしたら怒るから、それはせずに首輪をつけるんだ。 あなたが訪れてくれるのを待つ、忠実な犬のように。 僕は―――― もし死に方を選べるなら、 キミに殺されるのが一番いいよ。ルチア。 キミが我慢できなくなったなら。 キミが死んでしまうその前に。 僕を優しく抱いて殺してね。 指先からこぼれる愛を集めて、全部キミにあげるよ。 僕は最期まで、キミの笑った顔が、見たいから。 #VerdeMare ▼ (_14) eve_1224 2023/10/01(Sun) 19:50:49 |
![]() | 【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノ「やぁ、はじめまして、おちびさん。 わぁ、思った通りすごく良いね、毛並みもふわふわだ」 ある日。 腕におちびさんを抱いて、嬉しそうに笑う男が一人。付き添い一人。 医師に動物を飼う事による精神治療と生活改善を更に進めてみてはどうだろうかと勧められたから、ペットを飼うことにしたのだ。 ペットはゴールデンレトリバーの子犬。 大型犬のほうが落ち着いていて気性が優しいから、おすすめ出来ると言われたのもあるが、なんとなく、この子犬に一目惚れをしたのだ。 尻尾を振って甘える仕草が、とても可愛かったから。 「キミのお陰で、部屋も随分変わったよ。 あ、こっちのお兄さんはルチア。よく家に来る人だから覚えようね」 犬を飼うと決めてから、同期の……特にアリーチェが犬用のグッズを買っては差し入れしてくれる。 今では子犬用のグッズで部屋が彩られ、生活感のなかった寂しい部屋が嘘のように変わっていった。 いつかは庭付きの部屋に引っ越して、外でいつでも遊べるようにしてあげたいとも思っている。 #VerdeMare ▼ (_15) eve_1224 2023/10/01(Sun) 19:52:11 |
![]() | 【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノ「え、名前?」 「勿論決まってるよ。 ……というより、それしか浮かばなくて」 名前を問われ、子犬に舐められくすぐったそうにしていた顔を上げて、男は頷いた。 抱いた子犬をじっと見つめ、気に入ってくれるかなと頬を緩め。 もったいぶるような間を取って、口を開く。 日に当たればきらきら輝く金の毛並みだから、それは勿論。 「キミの名前は今日から ”レオ” だよ」想いに想いを重ねて、僕は今日を生きる。 こぼれ落ちた愛は、全部集まったかな。 忠犬さん。 どうか僕が死ぬその日まで、ずっと傍に居てね。 #VerdeMare (_16) eve_1224 2023/10/01(Sun) 19:52:58 |
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