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【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ「…あたし、ですかあ。」 問い返され、女は僅かに眉を下げる。 口元の笑みは変わらぬまま。少し、困った様子。 「リヴィオさんみたいに、人ができてないのでえ」 「捕まっちゃえって、思いますねえ」 「…だって、 許せません からあ。」ニーノくん。イレネオさん。 テオドロさん。ニコロさん。ヴィンセンツィオさん。 …実際に悪事を働いていたとされる上級警部を差し引いても、 きっと罪のない仲間たちが4人も牢へと送られた。 「私刑…って言っちゃえば、そおかもしれませんけどお」 「悪いことした人を裁くために、法ってあるんじゃないですかあ」 そんな理想を、語る。許されざる悪人が捕まって。そして。 「…それにい、もしかしたらあ」 「その人に逮捕された人も、釈放とかされるかもしれませんしい?」 罪なき人が元の生活に戻る、大団円。 本当にそうなったら困るのは自分だというのに。 どこかで口に出して消化してしまいたかった。…これも、紛れのない本心。 「…なあんて。流石に出来すぎますよ、ねえー。」 けらけらと、女は自分の言葉を控えめに笑い飛ばす。 どんなときでも本心を隠して笑えるのは、女の特技だった。 (-429) oO832mk 2023/09/22(Fri) 21:10:31 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → マスター エリカ―――ぱちり。 積まれたダンボール。窓の外の夕焼け空。 幾度かの瞬きを繰り返しここが現実であると悟った女は、傍らにある2つの鞄を見た。 立ち上がる。スーツケースを、部屋の中央へ。 一瞬躊躇いはするも本当に一瞬だけのことで、意を決してそれを開いた。 中身をひとつひとつ見つめる。 夢と同じであることの確認を取るだろうか。 そして。 カサ、と最後に手にしたもの。 それを、ゆっくりと、開いた。 (-447) oO832mk 2023/09/22(Fri) 21:58:29 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ「……アリーチェさん。」 「振り込め詐欺とか、気をつけた方がいいですよお?」 信じようとしてくれる人間をただただ茶化すように。 いつかきっと口にした言葉。そのときの印象通りのあなたへ。 竦む身体でそれでもなお、甘えた言葉をいうあなたをミントブルーが映している。 笑うことしかできないから、ただただ笑みを浮かべたまま。 ……純粋で、綺麗なひと。 「あー…。それなら言い方を変えましょおかあ。」 「世の中知らない方がいいこともある、…ってことですう。」 ゆらりと女は左手を持ち上げる。 小指にはマリーゴールドカラーのエナメル。 しかし少しだけ欠けていて、塗り直しもされず少し不恰好。 そんな左手であなたの髪に触れようとする。 くすりとやっぱり、変わらない笑顔を乗せたまま。 「…せっかくのきれいな髪、鉄格子の向こうでぼろぼろになるの、あたし、見たくないなあ」 (-450) oO832mk 2023/09/22(Fri) 22:13:48 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 月桂樹の花 ニコロミントブルーの瞳を細め。 女は乱視だったから、それでもあなたの顔はぼやけていた。 「――もちろん」 にっこりと笑う。 まるでピザを奢られた時と同じように。 「あたしは、やられる前にやっている…」 「ただ、それだけですからあ」 「同じだってことは、もちろん承知の上ですよお。」 分かっていて、己のためにそれを行い、振り翳す。 それを人々は 悪人 そう呼ばれ思われ恨まれることを女は望む。 中途半端に信じたままより、そっちの方が絶対に幸福だと信じているから。 「まあ…それじゃあ。」 「ご理解頂けたよおですし、そろそろ行きましょおかあ」 「…ニコロさん?」 そういう女の手の平の中には、鈍い銀色の手錠が煌めいていた。 (-452) oO832mk 2023/09/22(Fri) 22:27:25 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 月桂樹の花 ニコロ「……さあ、どおでしょお。」 「あたしは、嘘つきですからあ。」 …笑顔だけは、崩さずそのまま。 罵倒される心づもりまでは、できていたのに。 あなたに近寄り、手が伸びる。 マリーゴールドの色をしたエナメルが、この日も両手の小指に咲いていた。 そこに握られた、手錠が、 ―――かしゃん。 いつかあなたにリクエストした『子守歌』。 あれはカンターミネ・ヴォーフルが、眠る女に歌って聴かせた曲だった。 …女の胸にはあの歌声も、あの日のハーモニカの音色も未だに残り響いている。 そのどちらもをこの日同時に失ったわけだが。 嘆く資格なんて、当然女に残っているはずもないのであった。 そうして、女はあなたを逮捕した。 「後悔するなよ」、その言葉には、何も返事を返せなかった。 (-468) oO832mk 2023/09/22(Fri) 23:34:54 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → マスター エリカ開いた紙に書かれたものを。 読んで、女は 「…あー。」 「なるほどお。」 …これは、 「ずっっるいなあ……。」 ――さて、どう向き合おうか。 心だけは、もうとっくの昔に決まっていたけれど。 (-470) oO832mk 2023/09/22(Fri) 23:39:41 |
【影】 傷入りのネイル ダニエラ――あれから。 目を覚ました女がまず行ったのは、ここ数日1度も開けようとしなかったこの『預かり物』を開けることだった。 スーツケースを部屋中央まで引き摺って開く。 しばしがさごそと何らかを行う物音がして、最後にぱたりと閉じられた。 「…さてと。」 とりあえず、ひとつ決めたことがある。 やっぱり1杯くらいで許してやるのは絶対にやめてやると、そんなことだった。 (&5) oO832mk 2023/09/22(Fri) 23:45:15 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェそうやって笑い合ったあの日、こうなるなんて思っていなかったのは女もおなじ。 あたたかな日差しの下でうとうととまどろむような、本当に幸福な日々だった。 同じ言葉を違えることなく言えるのだから、女にとっても些細なものではなかったのかもしれない。 「そおですかあ。よかったですねえ。」 それを他人事のように切り捨てて、そうやってここまで歩いてきた。 これまでの幸せな日々を削って。全部嘘だったと騙って。 それだというのにまだあなたは、やさしい、甘いことをいう。 触れる髪すら震わせながら。それが女は、 とても█しい 。「――そう思うんならあ」 「もお、この話はやめにしましょうかあ。」 「ただでさえあたしの秘密を1個知っちゃってるんですしい」 歌うように間延びした明るい声。 するりと指先をあなたから離すと、かつ、かつ、革靴の靴底を鳴らして2歩、あなたから離れた。 「…誰にもあたしのこと、話さないでくれるならあ」 「見逃してあげましょお」 「大サービスですよお、アリーチェさん。」 女は、嘘つきだ。見逃してなんかやるつもりはない。 だけどこう言って裏切れば、自分を今度こそ恨んでくれるんじゃないだろうか。 前の2人では失敗したから、今度こそ 。…そんな思いが確かに、女の胸の中にはあった。 (-486) oO832mk 2023/09/23(Sat) 0:38:45 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 歌い、歌わせた カンターミネ革靴の底が鳴る。こつ、こつ。 牢獄を繋ぐ通路。…目当ての場所まで、真っ直ぐに。 「…ミネ」 とある牢獄の手前で立ち止まった女は、底に収容されたあなたへ声をかける。 今は、眼鏡を外していた。 不安げで悲しげな面持ちが、そうっと檻の中を覗く。 (-492) oO832mk 2023/09/23(Sat) 0:56:11 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 歌い、歌わせた カンターミネ乱視の視界に鮮やかに灯るライムグリーン。 女には 受け止める 意気地がなかった。…そんなあなたの様子や顔色をだ。 「…」 いつも通り、――ううん、ちょっと違う。 ただそれだけなのに胸が痛い。 そうっと手を持ち上げる格子に触れて。 指先には、ぞくりとするほどの冷たさだけが残った。 「…あはー。そおだよねえ。」 「ミネはちょおっと、盗聴とかそゆことしてただけでえ。」 …頬を緩めて、へにゃりと笑う。 この特技はきっと、こんな時にこそ役立てるべきものだった。 それにしても発言は身内贔屓が過ぎるが。 「……あたしは。」 「だいじょおぶ、元気だよお。」 えへへと笑って、左手を翳す。 少し傷が入ってしまっても剥がさずにいるこの小指のネイルは、あの日あなたに塗ってもらったものだ。 …だから、大丈夫。ダニエラ・エーコは、まだ頑張れる。 (-531) oO832mk 2023/09/23(Sat) 4:45:17 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ「…そおですねえ」 こんな話題のお供でも、フォカッチャはすぐに減る。 ダニエラ・エーコという巡査の、1番正しい挙動をなぞる。 「来るといいなあ、そんな未来」 来てはいけない、そんな未来は。 普段と遜色なく女は笑う。 こうなる前の、普段と。 温かい日差しの中で、まどろむようだったあの日々と。 「あ、そおだ。リヴィオさん。」 フォカッチャもあと欠片と差し掛かったところ。 お口直しと水を1口、口の内を、潤して。 「…犬と猫」 「前、 最近は 猫が好きって、言ってましたけどお」「今は、どおです?」 「今も猫の方が、好きでしょおかあ?」 ことん。ボトルを置いて、小首を傾げる。 (-538) oO832mk 2023/09/23(Sat) 6:29:12 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → favorire アリーチェ――へらり。 …やっぱりそれは、いつも通りの緩い笑みで。 「Certamente.」 「…ありがとおございますう、アリーチェさん。」 …ああ。信じちゃった。 本当に、純粋で――綺麗なひと。 ひらりと、離れた足そのまま手を振った。 「じゃーー」 「これまで通り、仲良くしましょおねえ。」 かつ、かつ。靴底を鳴らし、離れていく。 こうする度に、浮かぶ言葉が胸を刺すけれど。 その言葉だけは口にしてはいけないから、胸の中で何度も押し潰した。 (-540) oO832mk 2023/09/23(Sat) 6:38:55 |
【念】 傷入りのネイル ダニエラへらりと緩い笑みで頷く。 「えー、それじゃあ」 「看板のティラミスを――」 ダニエラ巡査は、そう笑って。 この日ホテルに持ち帰ったのは、ブーゲンビリアの花束と、ティラミスがひとつ。 (!10) oO832mk 2023/09/23(Sat) 6:42:33 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 口に金貨を ルチアーノそのケーキ屋で、女はすぐにそのカードに気付いた。 身に染み込んだ技術がそれを一切表沙汰にしなかった。 ほんの一瞥でそのメッセージを読んだ女は顔色ひとつ変えない。 まるで、最初から、そう。 そういう仕事をしていたみたい 。――このカードの送り主がこの場にいたのなら、そんな些細な様子にだって気付くことはあったのだろうが。 きっと、目の前の店員は気付けない。気付かない。 …ありがとお、お兄さん。 あたしもお兄さんを 信じて ますからねえ。 (-541) oO832mk 2023/09/23(Sat) 6:47:13 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 歌い、歌わせた カンターミネ守りたいものが、あった。ひとつ、ふたつ。…ふたつとも、こぼれ落ちて行く。 守ることができなかった、その想いだけで枷なのに。 そのふたつの現在を知ると今度こそ先に進めなくなってしまう。 「…ふふっ。」 何がおかしいのか、あなたの様子を見た女は笑う。 「…大丈夫だよお、ミネ」 「カメラとか、全部、弄ってきたからあ」 びっくりしたあ?なんて女は悪戯に笑った。 元から女は警察に忍び込む内通者。これくらいなら、易くあり。 …更に言えば、上層部が検挙されたこの署内を好きにするのは、日頃より少し、更に易かった。 「…あんまり長くは保たないけど、でも」 「話したいことが、あったのお。」 とはいえリスクは多分にある。 毎度面会でこんなことはしていられない。 …リスクをとる必要があったのだ。だから、今こうなっている。 「その、お兄さんのこと、なんだけどお。」 「…ううん、あんまし長く話す時間もないしい、要件だけ、言うねえ。」 指先が上がる。5本。時計を見ながら、1本減った。 時間の猶予は、それだけだ。 「ミネのモーテルに、まだ仕事道具が残ってるなら」 「場所と使い方、教えて欲しいんだあ」 (-542) oO832mk 2023/09/23(Sat) 6:58:20 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → マスター エリカ指先のエナメルを眺めた。 傷がまた、ひとつ増えている。 左手小指のエナメルは約束の証だ。 だからどれだけ傷がついても、女は剥がしたりしない。 「……今度こそ」 どっちつかずの蝙蝠が、どちらの居場所も認められるなんて間違ってる。 …犯した罪は消えやしないのだから、その分くらい、憎んでもらわないと。 /* お疲れ様です。おさとうかえでです。 重ねまして、情報屋ロッシありがとうございました! discordにて先にお伝えしておりましたが、本日の襲撃対象は アリーチェさん よろしくお願いします! (-566) oO832mk 2023/09/23(Sat) 9:54:52 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ「えー。いいなあ。」 「あたし、犬の方はまだ会ってなくてえ。」 最後の欠片も、ぱくり。 咀嚼し飲み込むと、また水を1口、流し込む。 「でも猫は、触りましたあ。」 「…ぐーぜんですけどお。」 猫カフェも調べてたのになあ。 そうからころ笑って。 どっちが好きかは、犬も触ってから決めまあすなんて。 指先をナプキンで拭いて手を合わせる。 「ごちそうさまでしたあ。」 「ふふ。結局リヴィオさん、食べませんでしたねえ。」 (-569) oO832mk 2023/09/23(Sat) 10:06:20 |
【念】 傷入りのネイル ダニエラひと回りほど小さくなったアジトのデスク。 7色の缶の紅茶アソート。 薄紅色のバスボム。 ライムグリーンのウィッグのテディベア。 ブーゲンビリアの花束。 そして冷蔵庫の中には、少しお高めのチョコレート。 部屋の片隅に、大きなボストンバッグとスーツケース。 鞄の中には、15mlの小瓶が複数と、脱脂綿にオイル。 この部屋にある、女の私物はそれだけだった。 女の自室とまた別の意味で、生活感のない部屋だった。 けれど変わらず、その部屋の明かりが消えることはない。 帰ってくる時女は、誰もいないその部屋に必ず、「ただいま」といった。 (!12) oO832mk 2023/09/23(Sat) 10:33:23 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ「ええー。いいんですかあ?」 間延びした口調のまま、そのトーンだけが微かに持ち上がる。 嬉しそうに女はへらりと笑った。 この笑顔は決して嘘ではなかった。 「んー。そおですかあ?」 「お疲れ様ですねえ…。あ」 思い出した、とでもさも言いたげに立ち上がる。 懐には2つの小物。 犬の小さなヘアクリップと、銀色の大人びたヘアピン。 犬のヘアクリップはごく普通の購入品。 だがヘアピンの方には仕込みがされている。 「リヴィオさあん。」 「ちょおっと、じっとしててくださいねえ」 あなたに近寄り、手を伸ばす。 女にはあなたを調べねばならない理由が2つあった。 だから、迷う必要なんてどこにもない。 そうして、ふたつの中からひとつ。 女はその手の中に、選び取る。 (-586) oO832mk 2023/09/23(Sat) 11:16:02 |
ダニエラは、ふたつの中から、犬を選んだ。 (a23) oO832mk 2023/09/23(Sat) 11:16:18 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ…そうしてそれを、あなたの前髪に。丁寧に。 「ふふー。お手伝い、でえす。」 「…本当に、お忙しそうですからあ。」 満足げに、微笑みかける。 そしてあなたから離れる刹那、衣服のポケットへ銀のヘアピンを滑り落とした。 それまでの人生、受け取ってばかりだった女は、 あなたが贈り物のヘアピンを大事にしてくれるのが本当に嬉しかった。 …だからこそ、この銀のヘアピンをあなたへの贈り物にはしたくなかった。 今までの贈り物と、同列にしたくなかったのだ。 (-587) oO832mk 2023/09/23(Sat) 11:17:03 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 歌い、歌わせた カンターミネ「やあだ、王子様はあ、ミネだもん ん 」そう口を尖らせたのも一瞬のこと。 すぐに和やかににこりと笑った。 ありがとう。信じてくれて。 その言葉だって本当は嬉しいんだ。 でもただ守られるだけのお姫様では、やっぱりいたくなんてなかった。 立てた指が曲がる。1本、2本。 その間あなたの言葉を1字1句忘れることなく聞いた女は、密やかな吐息をまたひとつ落とした。 「…うん。ありがとお、ミネ。」 「でもお、あたしは優秀だからあ。そんなことにはならないよお。」 「…ふふ。見ててよねえ。」 そう嘯いたのだって、もしかしたら強がりかもしれない。 それだってあなたにはわかるはず。だって女は、笑っていたわけだし。 「『マリーゴールド』の子にも、伝えときまあす。」 けれどからかうように、あなたのお転婆姫はいう。 茶化して笑って、ゆるりと変わらないあのモーテルでのことみたいに。 指が、あと1本。 反対の指先を冷たい格子に滑らせて、その向こうに薄い微笑みを向ける。 …本当に、あっという間なのだ。最後の指も、次第に折られるだろう。 (-600) oO832mk 2023/09/23(Sat) 12:12:36 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 歌い、歌わせた カンターミネ笑んで頷き。 続いた言葉に、一瞬だけきょとん。 あなた相手に身構える必要はないけれど、多分このときの女は他の人に同じことを言われると警戒の色を見せていた。 「…いいよお。なあにい?」 そうして目を瞑ってのしばしの時間。 ゆっくりとあなたが近付く気配がして、…少しして、指先に湿ったやわらかな感触。 それだけでぎゅうと胸が潰されるくらい痛くって、手が届く距離にいるはずのあなたに今すぐ触れたいってそんな我儘が過ぎっていく。 だけど、女はそうはせずしっかりと目を閉じたまま。 指を折るまでの時間は心の中で正確に数えた。 最後の指まで折り曲げた後、目を開いた女は恥じらうようにはにかみ笑っていた。 「…ミネ」 「早くこんなとこ、出られるといいねえ。」 「ミネはなあんにも、悪いことしてないんだからあ」 カメラに載せられるぎりぎりの本音に虚言を添えて。 …ただでさえ小細工もした今日はあんまり長居ができないから、それを別れの挨拶みたいにこつこつ靴音を立てて立ち去っていくんだろう。 (-613) oO832mk 2023/09/23(Sat) 13:34:53 |
【影】 傷入りのネイル ダニエラ常日頃、閑古鳥と同棲するそのモーテルは、つい数日前の騒ぎから一転、ここ数日でさらに静かになっていた。 ある雨の日に立ち寄ったのと同じように女はそこを訪れる。 人目を気にして足早に入口へと近付くと、するりとその中へ入っていった。 入口傍のカウンター。 カフェインの香りを撒き散らしながら店番をする経営者の姿はそこにない。 超えて奥にある扉を潜ると、そこはそんな経営者の私室だった。 部屋の大半をキングサイズのベッドが占め、本当に寝るためにしか存在していないんじゃなかろうかと密かに思っていたことは誰にも言っていない。 さらに言えば彼女は徹夜の常習犯でもあったのだから、想像する更に数倍この部屋に価値はないんじゃなかろうかと思っていた。 …実際には、そんなことはなかったと知ったのはつい数時間前のことである。 ペンライトを口に銜えて両手が使えるようにした女は、それからそこで暫く作業を行った。 たった1度しか聞かなかった手順だが忘れようもない。 大切で大好きな、昔馴染みの言葉なのだから。 (&6) oO832mk 2023/09/23(Sat) 14:09:14 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ「ふふー。」 「今回も気に入ってもらえて、良かったですう。」 はにかみ笑んで、明るい声。 ありがとうなんて、本当はこっちが言いたかった。 それにしても。 そうして落ちた瞳であなたの額に触れた手の平を見つめる。 まあいいやと割り切れてしまえる女ならばよかったのだが。 「…リヴィオさん。」 また徐に手を伸ばす。 前髪揺れる額ではなく、目指したのはその頬だった。 別に無理にと言いはしないから、拒否をされれば触れることは叶わない。 それでももしまた触れることができたなら、その熱を確信して問うはずだ。 「熱いですよお。具合悪いんですかあ?」って。 (-639) oO832mk 2023/09/23(Sat) 15:44:00 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ「……。」 いつも通り。変わらない笑顔。 嘘みたいに笑う。自分の不調も、苦痛も。 女にはその姿に、覚えがあった。 いってきますと声がする。 さみしいな。もっといっしょにいたいのに。 だけど、それをいったら困るから、いい子のかおで、わらって。 「いってらっしゃい」…あたしさえがまんすれば、いいことだから。 「…リヴィオさん。」 そうして笑ったあとはいつだって孤独だった。 誰も自分の不調にも苦痛にも気付かない。 それで不調や苦痛が、なくなってしまうわけじゃないのに。 あなたもそうだとは、言いきれないけれど。 そんな自分とあなたを重ねずいるのは、どうしても女には難しそうだ。 (-654) oO832mk 2023/09/23(Sat) 17:09:40 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ「無理は、だめですよお。」 そのときばかりは、女の顔に、笑顔はなく。 心のままに、眉を下げた。 「ほらあ、倒れたら元も子もありませんしい。」 「リヴィオさんまで倒れたら、あたしもお仕事増えて困っちゃいますしい。」 そんなダニエラ・エーコらしい理由も交ぜて。 …どこまで言っていいのか、分からないけれど。 「今日は、早退にしましょうよお。」 「……なんてえ、だめ…ですかねえ…?」 首を傾げて、そこでようやくふにゃりと笑う。 本当に何でもなかったとき、その方がきっと、断りやすいから。 (-655) oO832mk 2023/09/23(Sat) 17:10:20 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → favorire アリーチェ――さてそれから、1日2日と経ったある日。 あなたのデスク、または荷物に1通のメッセージが忍ばされていた。 相談したいことがあります。 港の××番の倉庫の裏まで来てください。 P.S.恥ずかしいので、誰にも言わずにお願いします。 崩した筆跡でそう書かれたそれには、倉庫の場所の略図も添えられている。 こんな古典的な手法でも、振り込め詐欺にすら騙されそうなあなたなら簡単に騙されてくれると差出人は思ったらしい。 (-659) oO832mk 2023/09/23(Sat) 17:20:44 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → favorire アリーチェ/* ここまでお付き合いありがとうございます、おさとうかえでです! ということで、倉庫まで来ていただいたところをマフィアとの密会疑惑で確保させて頂きたいと思っております。 こんな古典的な方法に引っかかるアリーチェさんは可愛いと思うので…………………… 何か不都合ありましたらお教えいただければ軌道修正します! よろしくお願いします!おさとうかえででした。 (-660) oO832mk 2023/09/23(Sat) 17:22:20 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → favorire アリーチェあなたの大事な幼馴染たちはもういない。 そうでなくとも人員が減り多忙を期した警察署内で、あなたのその様子が見落とされたのは致し方ない。 …ともすれば、だからこそ女も、こんな簡単な方法を選んだのかもしれなかった。 「――こちら、ポイントX。」 「被疑者が現れました。」 「…これより、確保に移ります。」 足音より何よりも先。 聞こえたのはそんな声だった。 次いで、かつりと革靴の底が地面を叩く音。 振り返ったあなたの前にいるのは、眼鏡を外した女の姿だった。 手にした無線から何やら声が聞こえ、「Sì」と女は短く返す。 弧を描いた口元のまま、ゆらりとその瞳があなたを捉えていた。 「あれえ。」 「アリーチェさんじゃないですかあ」 わざとらしい声だ。 かつかつと、同じ音を立ててあなたへと近付いてくる。 (-675) oO832mk 2023/09/23(Sat) 19:22:51 |
【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ女は人を、よく見る方だ。 いや、人をよく見なければならなかった。 だからきっと、その一瞬の変化だって。 「…よかったあ。」 そうして安心したように笑ったその顔が、一体何に所以したかなんてあなたに知れるはずもなく。 ただこの笑顔は本物だった。 偽物と本物の堺境なんて、意図して笑おうとした時でない限り女にとって曖昧になっていたが、それでも。 「絶対ですよお?」 「明日もこの時間にお仕事してたらあ、あたしが連れて帰りますからあ。」 しかしその言葉の根幹にあるのは、本当にただ心配な気持ちだけではなかったのかもしれない。 あなたがこんなに仕事をしなければならないのも、元を辿れば自分に大いに原因がある。 だから。 「んふふー。いいんですよお。」 「…そのぶん、早く体調、治してくださいねえ」 続いた言葉につい浮かんだのは、 「無敵になんて拘らなくてもいいのに」なんて言葉だったが。 今は、言わない。 これ以上、あなたの手を止めてしまうのも悪いと思うから。 (-677) oO832mk 2023/09/23(Sat) 19:40:14 |
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