[何故だろうか。
彼のやることなすこと、全てが癪に障っていた。
どうしてこんなに心がざわつくのか。
自分でもよく分からなかった。
可能な限り関わらないようにしていたし、相手からの心象が悪いだろうことも予想がついていた。
当時の僕は、人との交流を軽んじていた。
むしろ馴れ合いを避けてきた。
そもこのカフェでバイトを始めたのは、課題の為。
僕の歪んだ性格を見抜いた教授から薦められたプログラム。
端的に言えば『性根入れ直して来いの刑』。
ところが僕には、残念なことに自分の何が悪いのかさっぱりわからなかった。
信条は「正論を正直に言って何が悪い」。
故に、仕事の能率よりも客への忖度と仲間との絆を重視するような彼の方が手厚く扱われていたことが、不愉快だった。
今思えば、単なる醜い嫉妬心。
己には持ち得なかった能力――自分ではなく誰かの為に懸命になれる力を、ヴィクはごく自然に有していた。
そんな彼に対する苛烈な羨望と、己の能力が思うように認められないことに対する葛藤、焦り、屈辱感。
一方的に目の敵にしていた相手が、わざわざマンツーマンで己を指導しようというのだ。
僕からすれば、飛んで火にいる夏の虫。
ここぞとばかりに日頃溜めていた対抗意識が爆発してしまった。
そう。当時の僕もまだ幼く、青かった。
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