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人狼物語 三日月国


202 【ペアRP】踊る星影、夢現【R18/R18G】

情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:



だから、代わってあげるって、言ったのに。


 …………ぇ……、

[それは聞き覚えがある、聞き覚えしかない、自分の声。
でもそれは、己が知るそれよりもいくらか高く、舌っ足らずのような甘えた響きがあって。

振り返れば、自分によく似た、自分が立っていた。
けれどその姿は、間違い探しのように、あちこち、どこか、違っていて。]

あの武藤に愛されたくはないんでしょう?

私が代わりを務めてあげる。

ちゃんと、女の子として愛してもらってあげるから。


 うるさい……っ。

[唸るように奥歯から声を出し睨めつける私へ、その女は紅く艶めく、私には持ち得ない蠱惑的な唇をにい、と持ち上げた。]


[この、もう1人の自分が現れたのは、あの美術館の絵画の中。

あの時は、"あの人の隣に居て、恥ずかしくない私に代わってあげようか"と、この女が現れて。
けれどあの時は、絵画の中から実体を伴って出てくることまでは無かった。

私と同じジャージ姿だけれど、でも、あきらか違う、身体の線。

薄く華奢な肩。
控えめに、けれど明らかに隆起している胸の膨らみ。
二の腕も太腿も。女らしいたおやかな曲線が隠れているのが見てとれて。

背が同じでも、体型が異なればこうも変わるのかというくらい、目の前の自分は正しく"女"だった。
今の己より数段艶やかで軽やかな黒髪が、傾げた頬にさらりとかかる。]

貴女の気持ちを楽にしてあげる。

"私"が愛されれば、解決。でしょう?

 

[彼女の復唱を聞いて、楓は黙り込んだ。

 誰の命も奪わずに暮らせたなら、当然、それが最上だろう。
 けれど誰の命も奪わないことを望んだがために、身近な人たちを殺す可能性こそ楓が最も恐れる出来事。

 共に生きたい仲間と友達にとっての最大の“敵”、それは自分自身。
 何故って、彼らは──]

[──だからその“敵”を御するために、彼は人間の命を理性をもって奪う道を選んで、ここまで生きてきた。
 その過程で自分がもう人間ではありえないと、何度も思い知りながら]


  ……椿は、どうなんだ。
  いつから“そう”なんだ……、
  どうやって、今まで……。


[彼女は自分がヒトではないと認めているようには思える。
 その上で、それを悲しんでいるようにも。

 彼女は生を楽しんでいるわけではあるまい。
 そう思うからこそ、改めて尋ねてみたかったのだが……問う言葉は曖昧に途切れた。

 赤が全体に混じったヨーグルトを口に運ぶ。
 味を感じることはできなかった。]**

[いつものように幻想的な空間だった。
恋人になる前は口にはしなかった。恋人になった後はよく口にした。
幻想的で綺麗だ。と、恋人としての時間に囁いてもいた。

だがそれが命懸けによる儚さ故だとしたら――

手を振っていってくる。といった幼い仕草とは真逆に広がる光の粒子が、優しく暗い夜を照らす。

紡がれる祈りの言葉を聞きながら、不意に、とても、嫌な予感がした。]

[バシャリと音をたてた。
気づいたときに自分が湖に足を踏み入れたときの水飛沫の音だ。

最後の瞬間、彼女が見たものは、俺が見たものは―――]

 ・・・・・・・・・・・・

[腰までの半身が浸かったところで止まる。

水に彼女の力を伝えていって、風が彼女を見失った。]

 ・・・・・・なぁ・・・・・・

[息が苦しい。喉が渇き張り裂けそうに胸が痛い。
風がいつもより重く感じて、動くことさえ叶わないで、先程まで巫女が――ペルラがたっていたところを見つめる。

冷え切った体が幾時その姿勢のままでいたのかわからない。ただ、もう少しだったのに――もう少しだったのに―――]

 ・・・がんばったな・・・・・・ペルラ。

[消えてしまった。役目のためにいきて、役目のために消えた。
否応もなく自覚した。
悲しみはあった。怒りもあっただろう。だが覚悟もした。

彼女は、俺は、満足いっただろうか。いいや、いったんだ。
全部が全部叶ったわけじゃなくても、今この時まで懸命に

手の中のイヤリングをぎゅっと握る。
振り返り庵を目指して歩いていく。

満足したのだといおう。思いっきり愛したのだといおう。だが今日だけは――*]

-風呂場-

 ……これはすごいな。


[風呂場を探しながら部屋の中を歩いていたが、コテージ内にもこんな立派な風呂があると思わなかった。
大の男が二人ゆったりと浸かれそうなくらいの大きさの湯舟を見つけた。
こういうところにお似合いな、ふるぼけたようなオレンジ色の光が出る照明がほほえましい。
中を軽く洗って埃を落とすと湯をためていく。五右衛門風呂やかまどなどでなくガスでよかったとほっとしながら、とりあえずは要のところにもどろうか*] 


[武藤が見たもの は、きっと。

知る姿よりもいくらか華奢で、ジャージ姿の服の上からでも見てとれる女性的な肢体を持った"黒崎柚樹"。

常の彼女ならそんな声音では話さない、飴玉を転がすような甘い声を出しながら、"それ"はにっこり微笑んだ。

慣れ親しんだ呼称が聞こえたのかもしれない。
違うでしょう?と首を傾げながら、なお、微笑んで。]

ゆずき、だよ。

柚樹って、呼んで欲しいな?


[囁いた。]


[コテージに一歩一歩足を踏み入れながら"それ"は告げる。]

"かわいい"って言ってくれたの、すごく嬉しかった。

武藤の"かわいい"は、"好き"、なんだよね?
私、知ってるよ。

私は、あのみたいに鈍感じゃない。

武藤が嫌だと思うこと、好きだと思うこと、
全部察してあげられるよ。

他の男たちにはちゃんと警戒するし、
自分を過信する無茶とかしない。

おしとやかにする。

────ねえ。
理想の恋人だと、思わない?


[私も"柚樹"。

邪険になんてできないでしょう?

と、"それ"は艶然と微笑んだ。*]
 

[まだ風呂場がどれ程の大きさかは見ていないが。
このコテージの作りからして、それほど小さくはないだろう。いやぁ、中々に至れり尽くせりやな。と足をばたばた。ベッドの上で彼が来るまでの時間を過ごそうとして。
もぞっと足の先を合わせてしまう。


乱れた花が疼く感覚
抱く側だった頃は知らなかった
この感覚に少しばかり囚われてしまうものの]



 …そや、カメラ。


[むくっと起き上がり。
彼がおきっぱなしにしたカメラを見つければ、手に取りやすいよう棚の上に置きなおそう。一眼レフにデジカメ。スマートフォン。思えば色んなもので撮られたものだ。その中身を持ち主が居ない間に確かめるつもりはない。やって一緒に見た方が興奮するし。彼だけのものだからと見せてもらえない場合もあるけど、そこは仕方ない。

――というか、正真正銘彼だけの自分が嬉しいて堪らない。
明日は、どないな写真撮るんやろ。とわくわく。
自分もカメラを持ってきてはいるが。

彼と一緒にいると被写体に回る事が多く。
ついつい撮られたがってしまう。]



 ……。

[ここは何処か。
いつからここにいるのか。

深い湖の奥深く、水中をたゆたっているようでもあり。
空に放り出されたか、彼と一回転したときのように、自身の重さなんて感じずに雲と浮いているようでもあった。

あたりは、薄らと青かった。
ともに飛んだ空を、彼の瞳を思い出させる色。]


 …やー、でもほんま上手なったなあ。


[自慢の恋人やとデレを口にした処で
彼のスマートフォンの画面、其処に送られたメッセージを見てしまう。ロック画面に乗った送り名は今年入ってきた後輩のもの。彼に、好意を持っているらしい可愛い系の男子学生のものだ。]


 …ふーん?


[寿達也という男はとても魅力的だ。
その子も目の付け所がよい。とも思うが。

その名前が浮かぶスマートフォンを片手で掴み。
そのまま、ベッドに転がれば、仰向けになった。さてどないしようか。帰ってくる彼をえっちなポーズでお出迎えというのもええけど、まだまだ二人っきりの時間は長い、流石に飛ばし過ぎやろか。とスマートフォンをベッドの脇に置き。

戻ってきた彼を前にすれば]



 …おかえり、ええ子にしてたで?

 …… もうちょい遅かったら
         オナニーしてたかもやけど


[なんて揶揄い半分で手を伸ばし。
お湯が溜まったら、連れてってとオネダリをしただろう。お湯が溜まるまでは頭を摺り寄せ、彼の膝を枕にいちゃいちゃをして、運ばれれば、オレンジ色の古ぼけた光の中にある大きめの湯舟に、やぁ二人で入れるなあ。と嬉しそうにしただろう。

入ったら彼の上に座り、足を少しばたつかせる。
そんな遊びを試みるかも*]


 ……アスル!

[呼んでも返事はない。

ぼろぼろと涙が落ちて、空なのか水なのか、溶けていく。
片方だけの耳飾りが淡くあたたかい。]

 アスル、

 アスル…………ありがとう、……っ

[泣きながらでも微笑めた。
やりきった。巫女として。そして、彼と。

たくさん想い、想われてきた。
溢れるほどに愛され、温もりを分け合ってきた。

大丈夫。ずっと、ずっと。
私の中にはアスルが在り続けるから。]




 …………愛してる、アスル。


[また逢える日まで、待っているから。**]

 

[どれほど長い時をここで過ごすのだろうと思っていた。
とうに覚悟はあった。
心は落ち着いてきていた。

耳飾りの温もりが、彼の手の温度を思い起こさせるから、彼に贈った片方と通じ合っているようで嬉しかった。

しかし、異変は突然。
悠久の時を過ごすまでもなく、訪れた。

アスルがおじいさんになるどころか、おじさんになる暇もない、とペルラの体感時間は言っていた。
まさか何かあったのか、と青ざめたのは一瞬。
これはそういうものじゃない。
元の世界にあった不思議な力が充満していたこの場所に、まるで種類の違うだろう、異質な力が混ざり込んできていて。

悪い意志は感じない、けれど。
なにかを引き起こそうとしている、と。]


 あなたは、だれ……?

[目の前に揺らぐ空か水か。
そこに映ったのは、自分とそっくりな姿。

正確には、髪や瞳の色が変わる前の、若い頃の自分と。

でもすぐに分かる。
これは記憶や過去なんかじゃない。
別人だ、それも恐らく、別の世界を生きる――。

誰かの声が聞こえた気がする。
混ざり合った力が、何かを動かそうと、変えようとしている。
必死で止めようとしても今の自分はまだ空っぽで。
尽きたばかりの力は戻っていなくて。

あの子が、引き込まれてしまう――ここへと。]


  わたくしは……


[どう答えれば良いのだろう。少し考える。
 とても簡単なことではあるけれど、果たして信じられるかどうか。]


  “はじめから”です、楓様。
  わたくしが人間だったことは、ただの一度もありません。


 ……へ!?

[最初に思ったのは、私湖に落ちたの!?だった。
目の前に広がる世界が、うつくしい青色をしていたからだ。

――私のピアスの石みたいで。……つまり、は。

そして落ちてきた身体を支えてくれたのは、自分より小柄で細身で、自分より年上そうで、自分と、そっくりな人。]

 え、実は夢見てる? もう寝てたの私?

[雅空兄ぃがいたら起こしてくれないかな。
多分今頃魘されているはずだから、と現実逃避しかけていれば、お姉さん(仮)が必死そうな顔で語りかけてくる。
これは真面目に聞かねばならないと思わせられるが、その前に、多分声まで自分とそっくりと知ることになった。]

“狼”というのは人喰いの化け物の総称です。
獣の呪い、月の狂気、あるいは一種の病……なりかたは様々ございます。

わたくしはその中でも最も愚かな……自らの手でたましいを引き裂き、獣に堕ちた者。

旧い魔術でございます。ヒトのたましいを善と悪との二つに割り、悪を滅する。ある求道の者が、己を高みに至らせる道としてそれを行いました。
失敗だったのか、そもそも術が不完全だったのかはわかりません。ともかくそうして、その者はたましいを切り離すことができず、不完全に繋がった二人となりました。それが、わたくしとあの人です。


 落ち着いて聞くのよ。
 このままじゃ、貴女は変なところに飛ばされてしまうかもしれない。
 今の私はまだ力を足りないから……ごめんなさいね、貴女が元いたところに送り返せないの。

 ここに長く居るのは危険かもしれない。
 私は……いいけれど、貴女は巻き込まれたんでしょう。

[自分のせいかもしれない。
よく似た彼女を見れば、そう思わずにはいられない。
何かが作用し、こうして彼女を引きずり込んでしまったなら、どうにかしてまず無事を確保しなければ……。]

 ……私が元いた世界なら、行かせられるかもしれない。
 力の道筋がまだ残っている……そう、そうだわ。

[ほのかにあたたかな耳飾り。
触れればふわりと光の粒が集まり――道しるべが生まれた。]


 は? 何言って……?

[訳が分からない。
でも仮に夢だとしても、真剣に聞かずには居られない雰囲気があったし、まだ幼馴染が起こしてくれる様子もなかった。]

 お姉さんの元いた世界って? 
 え? アスルって誰!? 外国人!?

[幻想的な光の道が現れる。
それを辿って行けとお姉さんは言い、時間さえあればどうにかしてみせるから、と自分の手を握りしめた。
ほぼ同じ顔をしていながら頼りになる表情で、優しさに溢れていて、淡い紫の瞳は強い意志を感じさせる。

アスル、という名前を口にしたときだけ。
切なげにも思える色が混じったのは気のせいだろうか。]


 ええい、行くしかないか。
 
[夢なら起きて幼馴染を揺さぶるしかない。
なんで早く起こさないのって。

それに、このまま本当にどこかに迷い込むことになったら、会えなくなる気がして、恐ろしくなったのだ。
前に進まなければいけない、と思った。

あのお姉さんはともに来ないのだろうか。
元いた世界なら、道しるべが生まれたなら、一緒に来るんじゃダメなのかなと思うけれど。
しかし、光は自分が通ると消えていった。

光の終着点が見えてくる。風の音がする。
あの森の中だったらいいのにと思いながら、幼馴染の姿があればと願いながら、深呼吸して飛び込んだ。*]


 お、かえり……?くっきー。

[いきなり抱きしめようとするとか、どうかしていたのかもしれない。

我に帰ると伸ばしかけた手を下ろして、コテージの中へと入ってくるくっきーと連れ立って室内へと戻る。

……あれ?

くっきーってこんなに胸あったっけ。
つーか、全体的にこう、柔らかそうになってるような……?

声もなんか高いし。

女子だと知った後から女子にしか見えなくなってはいたけど、脳内補正?
こんな変わるもん??]


 ……ええっと。

 …………おかしなことになったわね。

[そっくりな少女を見送ったら。
今度は別の道が開けていた。
なんの意志なのか、悪戯心なのか、――ここにいても自分の力は吸収される一方で増える様子がないのは分かっていたから、何はともあれ、動いてみないと仕方がないのだけれど。

というか、そもそも巫女って消えたらどうなるのか。
なんていうのは、何も語られていないのだ。

歴代の巫女もこんな騒動に巻き込まれていたのかもしれない。
アスルにまた逢えたときは、そんな話もしよう。]

 ……あら、これも、なにかの道しるべ?

[あの少女と繋がる何かが、この先にある。
そう感じながら、ゆっくりと歩み、知らぬ世界へと。*]


 …………、
 っ、え、あ、うん?
 ゆず、……ッ……

[違和感を感じる肢体から目を逸らして、視線のやり場に困っていると、柚樹と呼んでと囁く声に息を詰まらせた。

そう呼んでみたくないわけじゃないけど、急に呼ぶのも恥ずかしいし。

それに、告白だってまともにしてない。
“かわいい“とは告げたものの、ひどく悲しそうな顔で“なんで“と返されたのは昨晩のことだ。

寝る前だって、泣くばかりだった理由も聞けないままでいて。

急に名前で呼び出すとか彼氏面し出したみたいで何なのこいつってならない?
いや、呼んでって言うからにはその方がいいのか。

混乱したまま答えられずにいると、甘ったるい声で囁きが落ちるのを、呆気に取られたような表情で聞いていた。]

[かわいいは好きって意味はそうだよ。
気になる女子に言えって言ったのはくっきーじゃん。
だから他の女子には言わないようにしたし、くっきーだから言ったわけで。

それでも伝わってないとは思ってなかったよ。
だから実際鈍感なんだろうな。

警戒心は持って欲しいし、無茶だってしてほしくない。

言ってること、殆ど合ってるよ。
オレの考えてること、察せられるっていうのも本当かもしれないな。]

 ……うん、そうだな。

 オレは、くっきーが、
 黒崎柚樹のことが好きだから……、

[嫣然と微笑む彼女の頬に手を伸ばす。

象の皮膚とは程遠い程に柔らかい肌に確かめるように触れると、一度目を伏せてひとつ深呼吸をして。]

わたくしは滅せられるべき側でした。

ですから、この身の内には怨嗟や、嫉妬や、嘘。そういった様々のものが渦を巻いております。今は静かにしておりますが……時折騒ぎ出すこともございます。

わたくしを無理に殺せばたましいの繋がったあの人も死ぬことになります。だからあの人はわたくしを殺せず、逆に憐れみを覚えて、自分のせいでわたくしが生まれてしまったのだと言ってわたくしを庇護してくださいました。

わたくしは、ヒトの世界に守るべきものなどございません。ですから、ヒトの世界の外から、ヒトを喰らい続けました。その度にあの人はかなしい顔をしました。

それに、ヒトではなくとも、ヒトの理がわからぬではないのです。わたくしが、ヒトであるべきでありながら、ヒトではありえないことくらいはわかります。ですから……わたくしは、世界に捨てられた身なのです。

[そのまま手を浮かせて、思い切り頬を挟むように手のひらを打ち付けた。

バチン!!と大きな音が響いた後、同じ高さにある瞳を見据える。]

 お前に“かわいい“とは、言ってない。
 言ったことない。

[そこは本当に大事なとこだから。

手のひらの痺れからは頬にかかった威力の程度が窺えたけれど。

オレが惚れてるのは、手加減をする方が許さないと言うような女なので。

脳裏に浮かんだ光景を、今はすんなりと受け入れられたから、慰めるように頬を撫でることもなく、手を離した。]*

[それからアスルは、巫女は力を使い果たして消えた。と、長老衆へと告げて、そして工場へは前々から言っていたことを実行するために。といって飛行機を借りていった。

――――そして三か月後。

アスルは現在とある小さな島にいた。別にここで暮らしているとかいうのではなく島から島へと移動中であり、その中継地点に浮いている小島で今日は休んでいたというだけである。
既に野営用のテントが張られ、簡素なスープをつくり乾パンと頂く。野営料理としてはこれに干し肉でもいれれば少し豪勢になるが、今日はいいかと、どこかやる気もなく無精して食べ終えた。]

 ………新月か

[感傷に浸るように、パチパチと火が跳ねる音。自分以外は誰もいない静かな夜で――誰もいない夜を密かに求めていたのだろう。そんな夜のことだった―――]

[空から女性が降ってくる、ゆっくりとゆっくりと誰かを待ち望むように淡く光を帯びて―――]

 いやいやいやいやまてっ!

[ちっともよくはない、上から降ってくるのは移動中に落ちたとか。ゆっくり落ちてきたのはそういう力が、あるいは浮遊を宿した装飾品を身に着けているとか説明はつくが]

 このタイミングでかよっ!

[それは新月だから、とかでもなくもっと切実な問題である。
ただただシンプルに、アスルが真っ裸だったのだ]

[そこまで話して、息をついた。
 喰わずにいられないことは重荷ではあるが、
 はじめからヒトではないのだから諦めはつく。
 そして、誰を守るでもなく、喰いたくなれば狩ればいい。

 だが楓は違う。
 そうせざるを得ずにそうなるのではなく、
 自ら選んでヒトを喰っている。
 かつては自身も確かにヒトであったというのに。]

[なお、真っ裸だったのは別段変な意味はない。
お茶でも沸かして飲もうとしていたのだが、その前に水浴びをしていたのだ。水浴びのためにと当然脱いでいたアスル。

結果。振ってきた淡く光る人影は野営用のテントをぐちゃぐちゃに潰して――おかげでよいクッションにはなっただろう――なんかもうわやくちゃになったのだが、多少の怒りをぶつけてもいいだろう。等と思っていたが、着替えのズボンだけ履いてから近づき怒りの一つでもぶつけていいだろう。と思っていたのだが、倒れていた女性の顔を見た瞬間それも忘れた]

 ・・・・・・・・・ペルラ?・・・・・・

[そんな呟きは彼女の耳を揺らしただろうか。そして]

 はぁ・・・目が覚めたか?

[焚火の近くに布を敷いて、降ってきた女性が横たえさせていた。その女性が意識を取り戻したのはいつ頃だったか。
はす向かいに位置に座っていた男はそこで声をかけたのである。

ぐちゃぐちゃになったテントは荷物だけ出せるように一部取り払われ、ズボンだけは履いて上半身はローブを体に羽織っており前は開けたままの姿だ。

そんな男の顔は彼女にとってとても見覚えがあり、同時に差異を探せば多かっただろう。
彼女の幼馴染は身だしなみという点でしっかりしているため、目の前にいる彼のように無精ひげを生やしていることはほとんどない。
髪はより乱雑であった、が、そこは水浴びした後に色々あったからであるのだけど、違うのは何より年嵩が増しているように見えただろう。
体格も彼女の幼馴染のように平均的な男性的なものと違い、鋭利に引き絞られたものであった。
呼びかけた低い声も似ているものの、重さ渋みを増して聞こえていただろう―――と、他にもあったとしてもどこまでを認識していたかはわからない]

 で、お前さんは何処行きの飛行船に乗ってたんだ?
 拾っちまった以上は飛行士の倣いとしてそこまでは無理だったとしても…近くまで運んでやるよ。

[彼女は外界を移動中にやんちゃして落ちたのだろう。そういう風に思っていたアスルは名乗りもせず、やる気もなさそうに聞いたが、珠月にとってはちんぷんかんぷんだっただろう*]


 ……。

[足を踏み出したら、そこは空だったのだ。
悲鳴をあげる暇もなく真っ逆さま。

なんなのよこれー!
こういう時ってペンダントが光って浮くんじゃないの!?

と心の中で叫んでも仕方のないこと。
真下には確か誰かいた気がするし、何かをぐちゃぐちゃにしてしまった気もするが、でもおかげで柔らかく受け止めてもらって、ふわふわしていた意識が途切れたのだったが……。]

 ……。

[目が覚めてから数分か、数十分か。
ひたすらじっと目の前の男性を見つめ続けていた。
いや、どちらかというと睨んでるというべきか。

瞬きすらサボり気味で、焚き火に照らされ乾燥して痛くなってきたが、まだ逸らさずにあざやかな紫に映し続けて。]


 似てるけど……。
 もしかして生き別れのお兄さんだったりしないよね……?

 ドッペルゲンガーなら会わせられないな……。

[半分以上、現実逃避なのは自覚していた。
でも少しの間くらい待ってほしい。

自分そっくりのお姉さんと変な場所で出会ったかと思うと、別の世界に行かされたところまではいい。良くないけど。
その上幼馴染そっくりさんと出会うのは聞いてない!
これが映画なら要素詰め込みすぎでダメなやつではないか。

最初は髪の色と目の色に驚いて。
でも、本人と見間違えることはなかった。
それほど雰囲気が違ったからだ。

今語りかけてくる声も幼馴染とよく似ているけれど、低さや渋さだけでなく、含まれるものが違っているのが伝わってくる。]


 へ? 飛行船? 飛行機じゃなくて?
 いや飛行機から落ちたら普通死んじゃうと思う……。

[やる気なさそうな響きだ。
おそらく面倒ごとが舞い込んだと思っているのだろう。
このそっくりさんには申し訳ないが、こちらも色々とトラブルに巻き込まれて頭がぐるぐる状態なのである。
正直泣きたいし、わー!と叫びたいくらい。]

 あのー……うーん……。
 ここって日本じゃないですよね?

[一応聞いてみる。一応。]

 あとここって夢の世界でもないですよね?

[さらに一応。どこか縋るように。
それから突然、自分の頬をパチンパチンと叩き始める。
夢じゃない、とポツリと呟き肩を落とした。*]

[川辺に佇んだ姿の背後から柚樹の肩に手を置いて声をかける。

振り返った顔と目が合えば、微笑みを浮かべた。

柚樹の瞳には、恋人と見た目には何も違わない姿の男が映っていることだろう。

取り乱したり焦った様子もなく、穏やかな口調で語りかける。]

柚樹が今つらい理由、ちゃんと聞くよ。


かわいいなんて回りくどい言い方してごめん。


オレは柚樹のことが好きだし、愛してるから。

柚樹の抱えてるつらいことは、忘れさせてあげるし、

その分の穴も埋めてあげられるから。


[つらいことは全部、忘れていいよ。
幸せな記憶ほど、覚えている方がつらいことがあるって知ってるはずだよね、と笑みを崩さないまま、頬へと手を伸ばした。]**


[
────バチン!!


朝のコテージの爽やかさにも長閑さにも見合わない、皮膚を打ち据える乾いた音 が響いた直後、空間には濃密な林檎の香が漂ったことだろう。

それは熟れて、熟れすぎて、腐り落ちる寸前に似た、咽せるほどの甘い香り。

"柚樹だったもの"の両頬の皮膚は、濡れた紙を指でたぐり寄せた風な不自然な皺が幾筋もできていた。]
 


ふ、フ、
ふフふ、フふ、アは、あハは!

ねエ、誰ニ操を立テてるノ?

"柚樹"ハ、あンたは要ラない、
あんタじャなイっテ、言ってルノに?

ひドいなア。

ヒどイ。
ひドーイ。

 


[脳を揺らすような甘い腐臭をまき散らしながら、"柚樹だったもの"はけらけらと笑い続けている。

"ポンコツの武藤あんた"の代わり、"完璧な武藤あの人"が、彼女のところに行ってるよ、もう遅いよ、と耳障りな笑い声が不快極まりない臭気と共にコテージに満ちていた。*]
 


[まっすぐに私を見つめる目。
穏やかに微笑む表情は、私がよく知る、"恋人の武藤"の顔。]

 むとう……記憶、戻った……?

[武藤は、私の武藤なの?

縋るように見つめる眼前、武藤は私を幾度も"柚樹"と呼んで、優しい言葉をかけてくれた。]

 …………ぅ、ふ、ぇ……むと……む、とう。

 会いたかったよ……。

[なんだか信じられなくて。
抱きつくにも抱きつけなくて。

確かめるように、武藤の胸あたりのシャツを小さく掴んで、俯いた。]


[いつだったかも、こんな感じで立ってお話したこと、あった気がする。

あの時は、思いが通じ合った後で。
でも、"恋人とか無理だよ"と私が言い出したんだっけ。

あの時はすごく武藤を困らせたな……なんて思い出す端から、視界が滲む。]

 むとう、武藤……会いたかった……っ。

[記憶、ぜんぶ戻ったの?

溢れる涙を隠そうともしないまま尋ねようとしたところで、頭がゆっくり回り出す。

今、武藤、何て言った?"
愛してる
" って。
"
つらいことは、忘れさせてあげる
" って。

────"これ"は武藤じゃない。

気付いて、私はそっと武藤(のような何か)から身体を離した。]


 …………武藤、は。

 "愛してる"なんて、そうそう口にできないんだよ。

[静かに、でもはっきりと、眼前の"武藤"へ告げる。

人への思いを口にするのが本当に苦手なあの人。

あんなにコミュ強で、いつだって人に囲まれているのに、こと、こういう事に関しては、笑ってしまうほどに不器用で。]

 ……それに武藤は、"忘れていいよ"みたいな事は、言わないよ。


[私が死んでしまう悪夢。思い出したくもない悪夢。

自分があの事故での唯一の死者だったのだと告げられたあの夢の中、私は"武藤から自分の記憶を消して欲しい"と切に願った。

武藤はその願いを口にする私の傍ら、「忘れたくない」「絶対忘れない」と吠えていたっけ。]

 私たちは、辛いことは、分かち合う。

 どんなに辛いことでも、無かったことにはしないし、忘れない。

[そもそも武藤がね、どんなにくだらないことでも片端から覚えてる人なんだよ。
私は武藤のそういうところも、大好きなんだけどね。]


 ……というわけで、貴方は、誰……?

["あれ"の仲間なのかな。

私の眼前、あの女にせものの私が現れたことからして、無関係とも思えないけれど、でもこの武藤はとても紳士的なものだから。

用心はしつつ、いつでも蹴り飛ばせるくらいの警戒心は抱きながら、私は眼前の愛しい顔へと問いかけた。*]

[彼女の成り立ちを知る。
 悪と断じられ、滅せられるはずだった側。
 彼女は初めから『いらないもの』として生み出された。
 そしてその行為を『最も愚か』と自称するに至り、『世界に捨てられた身』とまで思っている。
 なんとやりきれない話か──楓の内には確かに、その思いはあるのに。

 一方で、別に思うことがあった。

 “初めからヒトでなければ、もっと楽に殺せたのか?”

 ──彼の中ではもう、殺すことが日常なのだ。その発想のおかしさに自分一人で気づくことは無いだろう]

[カップに茶を注いで飲み干す姿を眺めた。
 問うまでもない味らしいと気付きつつも、コメントすることはなく]


  ……オレは、椿に生きていてほしいよ。
  人間でないとか、関係ない。
  今まで何をやってきたかも。


[彼女がどういう存在であろうと、楓の思いは変わらなかった。仲間と感じた、護りたい相手。
 狼同士だとわかったからといって特別に思い入れたことは無い、とも言えるが]

[楓は自らの意思でヒトを喰う道を選んだ。
 その理由はもちろん“敵”──自分自身を御するため、ではあるが。

 それだけの理由で苦しみに満ちた罪の道を歩き続けられようはずもない。
 彼がその道を歩める大きな理由が、ほかにもある。

 けれど、それは……問われなければ、いや、問われたとしても明かそうとはしないだろう。
 それこそ彼が自分自身を人間たりえないと思う理由だから

[室内に満ちた林檎の甘い香り、というには全く美味そうには感じない咽せ返るような臭気に頭がぐら、とする感覚がして。

手のひらを見下ろすと、べたりと肌色で濡れていて、そこからも果汁のような不快な香りが漂ってくるようだった。

目の前の顔は、不自然な形に引き攣れ、耳障りな聲を発している。]

 何言ってんのか全然わかんねえんだが……

["柚樹"ハ、あンたは要ラない、
あんタじャなイっテ、言ってルノに?

その顔でそう言われると胸に刺さるものがあるな、とは。

確かに昨晩の様子はおかしかったし、オレのことを通して別の何かを見ているように思えたけれど。]


 “柚樹"にオレが必要ないわけないだろ。

[口からついて出た言葉に、ああ、と今まで感じていた違和感が消えていくのを感じる。


 ──要らないって言ったでしょう。
 ──余計なお世話。

 ──武藤が好きになってくれたのは、私であって、
 ── あんたにせものじゃない。


頭の中に響いた声と、見たことのないはずの風景が広がっても、もう頭は痛くならなかった。]


 オレは柚樹に変わって欲しいとは一言も言ったことはないんだが……?

[柚樹がオレのためにいろいろ努力してくれてることは知ってる。

そういうところがかわいいし、嬉しいと思う。

心配なとこはいっぱいあるけど、それはオレがどうにかしたらいいだけの話で。]

 オレが好きなのは、“柚樹“一人なので。

[“理想の恋人“はもういるから、とは、狂ったように笑い続けている“それ“に届くかはわからないが。

それより何より]

 柚樹に会いに行かないとだから、
 そこ、退いてくんねえ?

[顔は歪んでいても仮にも柚樹と同じ顔な分、いくらか抵抗はあったけれど、よく知る身体とは異なるそれを思い切り突き飛ばせば、入り口の扉を開けた。]

[オレはオレの偽物に会ったことがないから“完璧なあの人“がどんなものなのか知らないし、柚樹が其方を選ぶとは欠片も思ってないが。

触れたりなんだりしていたら、と思うと気が気ではなかった、のと、あと何か腹立つので。]*


あ、ハ。

ムだヨ?
むダ。
イッてモ、ムだ。


["そこ、退いて"の声 に、縋るように"それ"の手が伸びる。

細く白い指。指先には甘く淡い春色のネイル。

伸ばされた手が当人のものだったなら、当人の力だったなら、武藤を止めることも叶ったのかもしれない。
けれど、"それ"の力は、平均的な女性と大差ないものでしかなかった。

あっさりと突き飛ばされるままよろけた"この世ならざるもの"と現実世界とを隔てるように、コテージ入口ドアが、開いて閉じる。

カチャリ。

硬質な音は、オートロックの施錠が常通りにかかったことを意味していた。]
 


フ、ふフ。

むダ、ナのに?
ムーだ、なノに?


[甘ったるい腐臭をまき散らしながら歌うような声を垂れ流し、"それ"はダイニングテーブルの椅子に腰掛け、ゆらゆらと身体を揺らし続けている。*]
 


  ……ありがとうございます。
  あの人も、同じことを言いました。

[一人になったことのない自分に一人で生きろなどと
 随分無理を言うものだ、と今更になって思いながら。

 月はもう昇っているだろうか。
 太陽に少し遅れてついていく、
 糸のように細い月は。]

[記憶戻った?と聞いてくる彼女に緩く首肯する。

戻ったも何も最初から知ってるよ。
“あれ“は絶対忘れないとか言ってたのに忘れてたけどね。]

 
うん、オレも会いたかったよ。


[ずっと会いたかった。

シャツを掴んで俯いた頭をそっと撫でて囁くように答える。

言葉を連ねて抱き締めようとした後、離れていく体に小さく嘆息した。

あーあ。思ってたより気付かれるのが早かったな。
しかもアイツの何の美徳とも思えないところで。]

 
 
でもオレは言ってあげられるよ。
 柚樹は言われたくないの?


 
そんなこと言っても実際にアイツは忘れてるし、
 柚樹も忘れていいんじゃない?


[投げかけられたこと、ひとつひとつに穏やかな声音のまま答える。

何か間違ったこと言ってるかな?
言ってないと思うけど。]


 
オレは“武藤“だよ。“武藤景虎“。

 
柚樹のことをすっかり忘れてる誰かとは違うし。

 
今頃何してるんだろうね?


[柚樹のことを忘れて他の女に気を取られてるかも、童貞だし。

あんな薄情者よりオレの方が柚樹を幸せにしてあげられるよ。
身体を傷つけたりもしないし、ひどいこともしない。
醜い嫉妬もしないし、束縛もしない。
あれより余程中身だってあるし、毎日だって愛を囁ける。

だから、オレのことを選んで?と、歩み寄ると背中に腕を回して抱き寄せた。]*

[彼女の生を望むことは、彼女にとってはどのような意味を持つのだろう。
 昨日の彼には思い至らなかったことだ。
 人間でないかもしれないと思っても、その確証までは無かったから。

 けれど、彼女もまた“狼”であると知った今は……

 生きていてほしいと望むことはすなわち、“喰い続けろ”という願いになる。
 あるいは“喰いたいのを耐えろ”になるだろうか?

 どちらにせよ過酷な道だ。
 それはわかる。わかるのに。

 それでも彼女には死んでほしくないと思う。

 なんと身勝手なのだろう、と彼女の礼を聞いてからやっと思い至ったのだった。無責任に彼女一人ででも生きてほしいと願ったその人と、やっていることは変わらない]

[いつまでもこの現状を維持し続けられるなんて、本当は楓も思っていないのだ。

 いつか罪が露見し自分は死ぬ。
 殺されるのだ、人間たちに。
 それがいつなのかはわからずとも、遠からぬ未来だとは予想できている。

 いつか訪れる確かな未来、そのひとつがそれ。
 生きるために人間を喰い殺し始めたときから、当然の理として理解できているはずのこと。

 けれどずっと、目を背け続けている。
 『今』が続けられると信じて、実際に、続けてきている。
 少しでもその未来の到来を遅くしようと努力しながら]


 武藤が忘れてるなら、尚更、私は絶対に忘れないよ。

[何言ってるのかな、と、穏やかに話しかけてくる武藤の態をした"何か" に答える。

私まで忘れてしまったら、積み重ねてきた大事な日は本当に消えてしまう。

────たとえ武藤が今のままの状態で現実へ戻ることになっても構わない。

私は、そんな覚悟を固めつつあった。

"愛してる"なんて言葉、言ってくれなくたって、武藤はそれ以外の形でずっとずっと、私にたくさん伝え続けてくれるもの。

だから、そんなものも要らないよ。]


[武藤の記憶が仮に戻らないとしても、あんな女にせものに武藤がうつつを抜かすとかは考えられない。

傷つけるって?……ああ、噛みつかれたりとか?それも私、嫌ではないし。時々は噛みつき返してるから、あんまり人のことも言えない気がするし。

嫉妬や束縛だって、別に直して欲しいとは思わない。
武藤が抱える不安はいずれ解消できれば良いとは思ってるけれど、それ含めての武藤だもの。

中身?あんたの方がよっぽど無い風に見えるけどね?]

 ………………。

[饒舌につらつら語る武藤のような何かは、口を開けば開くほど、"武藤とは違うもの"だと思い知らされる。

武藤の笑顔は、堂々としてる風ではあるけど、あんたと違ってちょっとだけ臆病さが滲んでて。

私には、はにかむみたいな、照れくさそうな瞳を向けてくるんだよ。

それは私だけが知ってる、武藤の顔。]


[数歩離れたところに居た"それ"が、その距離を詰めてきて。

背に腕が回ろうとした瞬間、私は大きく身をかがめ、その腕をすり抜けていた。

あんたなんかに抱き寄せられてたら、武藤をまた心配させてしまうもの。]

 ────私を幸せにできるのは、武藤ほんものだけだ。

[川辺の砂利に片手をつき、腹を丸めて力を込めながら、唸るみたいな低い声でそう告げて。

私は容赦なく全力の蹴りを繰り出していた。

場所?そんなの股間一択に決まってる。]

それって、足りなかったということですか?
 でも、あんまりすると動けなくなっちゃうでしょう?


[彼にからかわれているというのはわかりつつ、苦笑しながら彼の隣に座る。
放置されていたスマートフォンを見れば、メールが届いていた。

相手は自分になついてくれている部活の後輩だ。つまり要の後輩でもあって。
彼からの好意は感じるけれどそれが同性の先輩としての単なる憧れか、はたまたそれが恋愛感情かは計りにくい。
しかし好きなものは好きと、それを態度に出せる後輩は偉いと思う。
自分なんて気になって仕方なかった先輩の要に素直になることができなかった。
もっとも、それは所かまわず裸になる彼のせいでもあったけれど。
彼を意識しすぎて……ありていに言えばいやらしいことがしたすぎて、どこかぶっきらぼうで可愛げがない態度をとっていたと思う。そんな自分だったのに彼はよく面倒を見て構っていてくれていた。
自分も要を見習って後輩の面倒をみてやろうと何くれとなく相談にのったりしていたりもするのだが]

 あ、ちょっと待ってくださいね。
 メール来てたから返事しますね……。


[もう一つ、自分が後輩の面倒を見るのは、要にちょっかいを出されてはかなわないという防波堤の意味もある。
自分と付き合うようになってから要は人前で脱いだりしなくなったのだけれど、どこか服を透かして見えるような色っぽさは増したような気がする。
そんな要に悪い虫がついてたまるものか。
自分は悪い虫ではないのかということをさくっと無視した。
後輩のことを意識してないからこそ、要の目の前でも堂々とメールをチェックをして返信を済ませてしまうのだけれど。
膝の上に要の頭をのせて、片手でスマホをいじるのはだいぶ慣れたものだ。
愛し気に彼の髪を指で撫で。
そして、十秒もかからず用事を済ませると、視線を彼に落としてもう離れない]

 そろそろお湯が溜まったみたいですね。
 行きますか。


[お姫様のご要望通りに要を浴室まで運んで案内すると、全裸な彼はすぐに入れるけれど、自分は洋服を脱ぐ手間がある。
彼と付き合うようになってから、こっそりと筋トレを始めたのが懐かしい。
彼の騎士として自分があるべき姿で釣り合いたいと思ったからだ。もっとも見た目ではなく本質として筋力を鍛えたいだけなので、ボディービルダーのようにマッチョを目指しているわけではなく。自分の裸を見ている要でも「なんか引き締まった?」くらいの違いでしか分からないとは思うが。
軽く汚れを落として浴槽に入れば、彼が自分の上に乗り上げてくる。
そんな要を当たり前のように迎え入れて抱きしめた]

 ここも風情ありますよね。
 ちょっと光量が足りないけど、露出長めにしたらいい感じの写真が撮れそう。
 それこそ、温泉旅館の宣伝みたいな。


[そう言って写真に紛らわせているけれど、赤味が強い光のせいで、目の前の要はいつもよりムードたっぷりに見える。
人間は視覚に相当左右されるし、そして赤い色は相手を“色っぽく”“美味しそう”に魅せる色だ]


 いい子していて、洗われてくださいね。


[囁きながらつん、と彼の淫花をつつく。
今日は自分の熱で彼の中を汚しきっていないのだから処理は不要なはずなのだけれど。ムードに流されているのは自分の方だろうか*]

[なんでそんな不可思議そうな顔をしてるんだろう。

忘れたままだったら“あれ“は、柚樹が悲しんでる理由も聞けないんだから、想いを伝えることも出来ないだろうし、恋人に戻るのには相当に時間がかかるんじゃないかな。

それこそあの事件みたいなきっかけでもなければ、こうして抱き締めることは叶わないよ。]

[囁いて、抱き寄せようとした体がすり抜けて、一瞬視界から消えた。

低く唸るような声が聞こえたと同時に、急所に重い一撃が放たれるのに気づいた時には避ける余裕もなく]

 
ゔっ……


[ふざけんな、このクソアマ……。
攻撃するにしても他の場所あるだろ。

“女の子らしく“はどこに行ったんだよ。

股間を押さえて疼くまりながら呪詛を吐いても、蹴られた箇所がぐしゃりとへこんだような状態になっては、ヒトの体と違って容易には戻らない。

立ち上がれないままに、遠くの方から耳障りな声が聞こえてくるのに舌打ちをした。]*


 あっ……、なんかされてない?!

[思い出したように顔を上げると、瞳を覗き込んだ。

それから傍らに疼くまってる見慣れた金髪に目をやって。

さすがに少し同情……、は、いや、この状態になるようなことを“それ“はしたんだろうとわかれば、抱き締めていた腕を解くと、初めて会う“完璧な人“らしい自分とよく似た姿の方に歩み寄る。]


 …………ッ、

[ワイシャツの襟元を掴んで身体を引き起こすと、まるで鏡写しのように同じ顔の中心を思い切り殴りつけた。

ゴツ、と鈍い音がした気がしたけれど、拳に伝わる感触は、グシャ、ともつかない果実の潰れるものに似ている。

蹈鞴を踏んだ足が川辺の砂利を踏んで、バシャリと川の中に倒れると、ドロドロと身体から滲んだ油のような色が水に流れ出して。

恨めしげな視線と目が合うと、その姿も溶け出した色彩も、跡形もなく掻き消えていく。

僅かに残った林檎の甘い香りも、春の陽気を含んだ風が浚っていけば、ひとつ大きく息を吐いた。


“完璧なオレ“ってどうだった?とは、柚樹に聞くのはちょっと怖い気がした。
見た目には殆ど、違いはわからなかったし。]*

[話しかけたはいいものの、じっと見られていた。
まぁそれはそれでこっちも都合がいい。自分からも見ていても、顔立ちやらがペルラの若い頃に似ている。だが雰囲気はやはり違う]

 それはどういうことをいってるかわからないが、俺は一人っ子だな。

[急な問いかけにわからないまでも律義に応えながら、何かを納得するまでをしばらくまちつつ、こちらもわからないが、あちらも俺の言いたいことが伝わっていない様子だ]

 だいたい上等な服を着てるやつってのは飛行船に乗ってるからな。
 飛行機乗りはもうちょっと粗末なもの着てるのが多いし、オイルの匂いがするもんだ。

[服をぱっとみたところ、そうだと思ったからだ。といってみたが、どうにも要領を得ないことだけ理解しつつ、ニホンという言葉に首を傾ぐ]

 悪いが聞いたことない…さっき運ぶっていったが力になれんかもしれん。

[まいったな。と内心で口にしつつ]

 夢の世界かぁ…さぁそんなの……

[と皮肉気に口を開こうとしたが、途中でやめた。どうにも会話が成り立っていないというのもあれば、見た目のこともあって調子が狂う。ため息を一つついて言葉をとめて言い直す。]

 現実だって俺は認識してるが、どうにもどういう事情があったのかはよくわからんな。
 一つずついってくからよく聞け。

 俺は飛行士のアスル・ラーゴ。
 今は島から島への移動中に休むために小島に停泊中だ。
 乗ってきた飛行機はそいつだ。

 んで、野営中にそっちが降ってきた。上から降ってくるなんて飛行機か飛行船かのどっちかにでも乗ってないとおかしいって俺は思ったんだが…

 ひとまず、ここまでで何かわかることはあるか?

[めんどう。というよりはどこかやる気がないのは変わらないものの、その割りに丁寧に一つ一つ言っていく男。
名前を告げることから始まり、現状はどこにいるのかなどの説明。自分が乗っていたトンボ型の飛行機も指し示したり、そして落ちてきた様子を口にしたりとして一連の流れを説明していった後、どうだ?と聞いてみて]

 俺はそこそここの辺りを旅してたが、少なくとも近くにニホンって島があるのは聞いたことないんで連れて行けそうにないんだが、なんか特徴とか教えてくれるか?

[後は噂とかを手繰ればどうにかなるだろうと。おかしい状況は理解しつつも流石に世界をまたいでやってきたとまでは思っていないアスルは届け先のことを知るために聞くのであった*]


  ここでは、危ないこともそうそうないでしょうけど。


[椿は楓を見上げた。
 もしそんなことがあるとすれば、それは互いに牙を剥くときだろう。そう思うと、ほんの少しだけ、心の底がちりつくような感じを覚える。]


[クソアマ結構。

敵を倒すには最短距離で最大の効果を狙うのが最善らしいので。

以前、にせものの私と対峙した時、私は彼女の頭……というか顔を握り潰そうとした。

まるで熟れた林檎を潰したみたいな感触で、想像もしていなかったその気色悪さに総毛立ったのだけど、今、蹴り飛ばした足先にも似た感触が伝わってきて。

身を起こした私は、"敵からは目を逸らさない"とばかりに、蹲る"それ"を見下ろし、睨み続けていた。]
 


 全然、何も。

[武藤に心配される ようなことは何もされてないよと、数瞬だけ武藤と視線を合わせて微かに笑う。

さて"あれ"をどうしようかなと、未だ継続中だった臨戦状態な心持ちのまま、拳を改めて握りしめる前に、武藤が素早く動き出していた。]

 …………ぁ……、

[私も大概だと思うけど、武藤も容赦ない男だ。

自分と寸分違わず同じ顔を躊躇なく殴り抜けば、川に倒れ込んだ"武藤のような何か"はそのまま流れて消えていってしまった。

蹴り飛ばした時から周囲に漂っていた、あの忌々しい林檎の香も、ざあ、と強めに吹いた風が一気に浚っていってくれて。]

 …………容赦ないね、武藤。

[ぽつりと呟いた言葉は、賞賛7割不満3割。
私がとどめを刺したかったのにと、ぽつりと呟いた。]
 


[────って、そういえば。]

 ねえ、武藤のところにも、"あれ"、現れた……?

[私のところに武藤が来たということは、武藤のところにも行っているだろうことは想像に難くなく。そもそも私は宣戦布告までされてたわけで。

来てかつ今もいる、なんて言われた日には、ここで抱き合ってる場合じゃないでしょう、と急ぎ戻ることになっただろう。

ああ、でもこれだけは言わせてよ。]

 今度は私がとどめ刺す。

[さっき、振り上げた拳の行き先を武藤に奪われちゃったんだからと真顔で告げる。]
 

[椿は無意識に、楓のシャツの裾を掴んでいた。]


  ……わかりません。あるのかしら、
  いつも、突然だから——
  でももし、そんなことが起こったら


[少し怯えたような顔をして、椿は楓を見上げる。
 あり得るだろうか、この人を食べたいと思うことが。]


  その時は、迷わず撃ってくださいまし。


[逆も考えないではなかったが。
 その時は素直に喰われて仕舞えばいいと、この時の椿は考えていた。]**


 あっ、え?ごめん、とどめ刺したかった……?

[どの辺りが“完璧“だったかは結局確かめることなく殴りつけてしまった“自分とよく似た何か“が水に溶けて消えていくのを見届けた後、呟かれた言葉に、目を丸くする。]

 っふ……、でも柚樹が容赦なく攻撃したのはわかったので……。

[自分の彼女が自分の顔したものの股間を蹴り飛ばすところは見たかったような、ヒュンってなりそうだから見なくてよかったような気はするよ……?

それに、既に攻撃してたってことは何かされたかされかかったってことだし、柚樹の前にわざわざ現れたなら目的は明白で。

考える間もなく手が出てしまっていたのだから許して欲しい。]


 あっ、うん、来てた……、
 つーか今もコテージにいる、多分。
 置いてきちゃったし……。

[柚樹の偽物。
服の上からでも胸の膨らみが視認できたり柔らかそうだったりする“女らしい“姿のそれ。

突き飛ばす前、縋るように伸びた手の爪に春めいた色の乗った手を思い出して頷いた。

押し退けただけだし、おそらく崩れ去ったりはしていないだろうことを思えば、確かに早く戻った方がいいのかもしれない。]

 とどめは、うん、譲るので。

[柚樹があれの言葉に惑わされることはもうないのだろうとはわかっていても、柚樹の手で倒した方がいいような気もするし。]

[そうして、コテージへと戻れば柚樹に持ってる鍵で出入り口を開けてもらって。

咽せかえるような甘い香りに、う、と胸が悪くなる感覚がして。

中にはまだあれがいる証左だと思えば、いくらか緊張した心持ちで室内へと足を踏み入れた。

ムダじゃなかっただろ、とは、二人で戻ったことがわかれば“それ“にも伝わるだろうけど。]*


あーア。
アーあ。
アーア。

ナんデ、コワしちャッた、ノ?


[私がビール飲んでオムライス食べて、ココアを飲んでいた席で。

私と同じジャージ姿、同じ髪色、同じ背丈で。

けれど体型や表情や声の高さは異なる"それ"が、椅子に座ったままゆらゆらと身体を揺らしていた。

"
ナんデ、コワしちャッた、ノ?
"は、当然、武藤が殴り潰した"武藤もどき"の事を言ってるのだろう。
ぐりん、と人ならざる不自然な動きでこちらに顔が向く。

武藤からは"押し退けただけ"とは聞いていたけれど。

手を伸ばせば触れる位置まで近づいた私は、顔の輪郭が不自然にズレている風に、質の悪い変装の皮膚のように顔の表面に皺が寄っていることに気付いて目を眇めた。]
 


 一つ、聞きたい。

 あんた……いや、"あんた達"の目的って、何……?

[問うたら、ケタケタと"それ"は笑い出す。]

ワたシハ、あナタのりソうダよ?
アナたでハ、かナエらレナい、ゆメ。

せッカく、ヤってアゲヨうト、おモッた、のニい?


[なるほど?と首を傾げるも、納得できるものではなかった。

私の理想はそんなんじゃない。叶えられない夢でもない。

偽武藤にしたって、あんなの、ちっとも理想じゃない。

私の理想の恋人は、今ここにいる武藤だもの。]
 


 ……そう。ありがと。

["
どウいタシましテ?
"と笑いかけてきたことには、ほんのひと欠片くらいは躊躇する気持ちが沸いたけど。

でもやっぱり、そんな厚意は要らないし、お呼びじゃないし、余計なお世話以上のなにものでもない。

私の武藤に何してくれたのよという怒りも上乗せして、私は"私"の髪を引っ掴み、引き寄せるようにしながら容赦なく右膝で顔面を砕きに行った。]

ギャっ!!!!!

あァアアぁああァあアアあぁァ

ひドイ……ヒ、どォ、い……ィ、


[床に"それ"が崩れ落ちるるに任せ、私は一歩後ろに下がる。

ぶわりと部屋中に広がる腐敗臭はいっそ死臭にも似ていた気がした。]
 


 ────さよなら。

[一言告げて、俯せになっていた後頭部をスニーカーで思い切りぐしゃりと踏みつけたところで、あ、そういえば武藤がずっと傍らで見てたんだっけ……なんて今更の事に気付いてしまったわけだけど。

あの、大丈夫だから。
武藤と喧嘩とかになったとしても、踏み潰すとか膝蹴りとかは、その、しないつもりなので。

あくまで相手が"これ"だから出来たこと、なので。

そんな風におかしな方向に焦りを感じているうちに、断末魔に似た言葉を漏らしていた"私もどき"は溶けた絵の具のようになった後、端から蒸発するように消えていった。

あの甘ったるい匂いはいくらかは残ったけれど、頭が痛くなるほどの気持ち悪さでは無くなっていたかな。]
 

[彼女はこちらを見上げてきたかと思えば、不意にシャツの裾を掴んできた。
 怯えるような表情も相まって抱き締めたい衝動に駆られつつ、それを抑え込んで彼女の言葉に耳を傾ける。

 『いつも突然』……それは食人衝動のことなのだろうと、楓には自然と感じ取れた。
 尋ねそびれた問いの答えが自然と得られた形である。

 迷わず撃ってとリクエストはされたが、彼はそれを一笑に付した]


  馬鹿言うな。オレがだか忘れたか?
  通らねェんだよ、おまえの可愛い牙や爪じゃ。


[楓は“堅狼”。牙や爪どころか、銀弾の銃撃を除くさまざまな物理攻撃を防ぐことができる。
 かつて彼女と出会った場では、二人を含む大勢で遊戯に興じていたのだけれど──その中で狼を選んだ者たちの一部が本当に狼で、そのうえ彼の場合は種まで同じ……などという、冗談のような本当の話。]

 
  撃つまでもねェんだよ。
  おまえにオレは殺せない。


[そう告げるとき、自然と視線は逸れた。
 楓が意図的に伏せた事実があるのだ。

 彼が鋼鉄の防御力を得られるのは人狼の姿に転じたときだけ。人間の姿でいる限り、負傷は防げない。
 その上、姿を変えていられる時間は月齢に応じた。
 満月の日なら半日程度だが、新月の日は1秒たりとも不可能。半月なら満月の更に半分ぐらいといったところ。
 時間帯には不思議と制限は無いのだが。


 彼の言動は、彼女を殺す気が無いという意思の現れではある。
 一方で、もしそのような局面になったときには彼が一方的に殺す側になりえるということでもあった]

[彼にはひとつ、長い間気になり続けていることがある。

 “美味しそうに見えるものは、本当に美味しいのか”

 もしそれが見た目だけの話で、味に差異が無いのなら、美味しそうなヒトを襲う可能性を極端に恐れる必要は無くなる。

 けれどもし、実際に美味しいのなら──
 知ったが最後、二度と戻れない道に足を踏み入れることになるだろう。

 確かめずにいることが幸福なのか、確かめてみたほうがいいのか。彼は前者と思い続けているが、果たして]**


 なんでって……、なんか腹立ったので。
 いや、柚樹になんかしそうだったから……?

[律儀に答える必要はないと思いながら、“それ“の言葉に返してしまう。

こうして偽物と並んでるところを見ると明らかに別物ではあるなとは思いつつ、それでもベースは同じだから不思議な感じはする。

近づいてみると、そういえば顔は叩いてしまったのだったと思い出して。
それは本人にもやったことがあるから、こんなことになるとは思ってなかったのはあるけど。

傍にはいたものの、近づいていく柚樹の邪魔はしなかった。

とどめを刺すとは聞いていたし、水に弱いらしいのは美術館の時に教えてもらってはいたが、どうするんだろうとは思って見ていた。]

[柚樹の理想がこれなのは、女性らしいとかそういうことなんだろうか。

確かに“理想の恋人“だと偽物は豪語していたと少し前のことを思い出しながら、柚樹と柚樹のようなものが会話するのを聞いていた。

オレの偽物はどんなだったんだろう、見た目は同じだったけども、とは、聞いてみたいような聞くのが怖いような。

でも柚樹はちゃんと偽物だとわかったのだと思うと安心する気持ちはあった。
勿論、欠片も疑ってはいなかったけど、オレがあんな状態だったのもあって、柚樹を不安定にさせていたのは確かだから。]


 …………、

[柚樹の攻撃は思った以上に容赦なくて、傍らで一連の流れを眺めながら、喧嘩になったら大変そうだなとは思ってしまった。

そんな取っ組み合いの喧嘩にはならないと思っているけども。

おそらく表面的には絵画のそれで、内側は林檎のような何かが素材であることを差し引いても、元の柚樹より非力であろう“それ“は抵抗らしい抵抗をすることなく、膝で頭を砕かれる。

広がった腐臭に似たにおいに、胃酸が込み上げそうになりながらも、とどめに足が振り下ろされるところまでを見届けて。]

 うん……、柚樹も容赦ないとは、思うよ……?

[オレと喧嘩になってもここまでしないのはありがたいのだけど、急所を思い切り蹴るのも遠慮はしたいかな。

床に広がっていたグロテスクな物体が消えて漸く、安堵の息を吐いて。]

 今度はちゃんと、とどめさせてよかったな。

[“今度は“の意味は、偽物のオレの話じゃなくて、美術館の時に現れた柚樹の偽物のことだけど。]


  まあ。
  それなら、安心ですわね?


[椿は“狼”どうしの争いには関知したことがない。ゆえに、自分以外の“狼”がどういうものであるのかについては無知だった。都市部では熾烈な縄張り争いがあるとも聞くが、それを避けるために椿らは田舎ばかりを選んで住処を転々とさせていた。

 楓の言葉は、単純に「お前では勝てない」という意味に受け取った。確かに、小柄な女の力で楓ほどの大柄の男にまともに当たって勝てるとは思えない。殺すだけならいくらでも方法はありそうだが、彼を殺したいわけでは、決してない。

 本当に彼を喰べたいと思ってしまったなら、その時には我を忘れているのだからそんなことにはお構いなしだろう。返り討ちにあうならば、それでも構わない。]

  であれば——


[椿はシャツの裾を掴んでいた手を離し、楓の頬へと差し伸べた。しかし触れることを迷って、その手は萎れるように自身の胸元へと帰っていった。一瞬だけ悲壮な表情を浮かべかけたが、すぐにまた笑みを取り戻した。]


  その時は、我らが王に牙を向けた罪を、償いましょう。


[冗談めかしはしたが、半ば事実で、椿は本気でもあった。
 以前ともに過ごしたとき、彼はまさに王であった。
 気高き王と、力ある王とに率いられ、椿はその気高さに、あるいは力に、素直に憧れを抱いたものだった。彼らのように生きられていたならば。そんな嫉妬に近いような感情すらも秘めていた。]

[動けなくなったら困るなあ。やなんて分かっていて言う。
苦笑する彼も分かっているのだろう。だから、今度するな。と軽く転がして、彼がスマートフォンの中身に気づけば、何も気づかぬふりをするだろう。

別に彼の不実を疑っている訳じゃない、彼が自分にメロメロなのはよく知っているし、そうやってモテる彼が恋人だというのも誇らしい。ただ、好きなものを好きと態度に出せるその素直さが自分にはない。今さら素直で無邪気な自分。など想像できないが、それでも少し思う処はある。
ちょっと待ってくださいと言われ
膝の上に頭を乗せたまま、彼が返信を打つのを眺めて]



 ……ん。面倒見いいやん?


[いい子やね。と髪の毛を撫でる手に目を細めた。
面倒見の良さも彼の美点だ。後輩は可愛がるものだ。思うところはあるにせよ、彼が可愛がっているのを見るのは微笑ましい。自分だって、こうなる前だって寿のことを可愛がっていたのだから。…可愛がられていた方がどんな気持ちを抱いていたかは詳しくは知らないが。あの頃の関係も悪くなかったと自分は思うのだ。それに、寿は特別だった。

彼が後輩の面倒を見る事は自然な事だし。
良い事だ。だから、まさか悪い虫がつかぬようにと行動しているなんて思いもよらぬ事だ。もしそれを知ったら、笑うだろうし、僕は自分で自分の身は守れるで。と言っただろうし、それなら自分の身を案じるべきだと、鼻を突いただろう。

もっとも、そうやって独占欲を見せてくれるのはきっと嬉しいことなのだろうけど。用事をすませた彼が、此方にと視線を戻せば、微笑みを向けてそのまま手を伸ばし頬を撫で。
おかえり。と迎えようか]



 そうやね。
 やー楽しみやわ。


[どんなお風呂やろか。
なんて、言い。彼に運んでもらっただろう。思ったよりも広い浴槽につかり彼を待つ。その間に少しばかりばしゃりと湯を波だたせる遊びも忘れずに。服を脱がずに抱いていた彼の裸体を見れば、少し目を細め。やぁ、いい男やな。ところころ笑いかけた。彼がこっそりと筋トレをしているとはしらないが、というか自分は彼のことで知らないことだらけなのだが。
それもこれも、自分との繋がりに直結することなのだとしたら、隠す姿をあえて暴くことはしない。暴かなくても良いと思う。やって、こうして彼は男前の、自分だけの寿達也を見せてくれるのだから。当たり前のように上に乗り上げれば、抱きしめてくれる。その腕の太さに甘えるように寄り添い]


 風情ええし、ほかほかするし気持ちええし
 って、なんやここでも写真撮りたいん?
 …綺麗にとってや?


[赤味の強い光の下。
両手でお湯を掬い、落とす。首筋には汗を流し、見上げる彼を見る目を彩る睫毛は湯気で濡れている。彼が見る事を好んでいるのは知っていたから唇に浮かべるのは艶めく笑みで。
囁く声には、少しばかり低く啼く声で頷き]


 ……やぁ
  そこ、今日は……
      まだ飲んでないで


[食べはしたけど。と甘く。
突かれた箇所ではくり息をして、指先は彼の顎をなぞった。細い指は輪郭を確かめて、下唇に触れる。彼の指が中にと入り込み、洗い始めるのなら此方は指で下唇をそっと捲り。歯列をなぞって]


 ……ぁ  んっ
    こっちでは飲んだけどな?


[甘い声で身を少しばかり震わせて。
舌を覗かせる唇を近づけ、背のびするような姿勢で彼にキスをした。そうして、そのまま猥ら花を開くように足を、動かせば指を奥に奥にと誘っていこうか*]

[楓もまた“狼”たちの群れからは離れて暮らす身。狼たちが囁き交わす声を聞いたことは何度もあるが、その全てに答えずにいる。
 縄張り争いらしきものに巻き込まれかけたことはあるが、関わる意志が楓に無いことに気付けば、向こうも深追いはしないものだった。
 当然、狼としての名もない──いや、今は“楓”がそれに相当するのだろうか? 遊戯の中で使った名なのだが。

 ゆえに楓の狼としての戦闘経験はそのまま、食事を兼ねて人間を襲った経験に直結する。その過程で自分の能力も知るに至ったのだ。種の名前を知ったのは奇しくも遊戯でだったが。
 そして、不意打ちで即死なんてことさえなければどんな相手も恐れるに足らない……と、楓は思っていた。銃使い以外なら、の話だが]

[足音が聞こえなくなった後、彼女の手が触れかけた頬に自分の手を伸ばし、静かに触れる。
 そうして彼女の言葉を思い返した]


  ……王。


[それが自分のこととは、楓はすぐには結びつけられなかった。
 彼は事実上“群れ”を率いる立場ではあったし、彼女がまるで従者のように思えたことも何度かあったが、それでも彼の心の中では対等なつもりだったから。

 文脈から言えば自分のことらしいと思ってはみても、敬意を抱かれて嬉しいというよりは……

 彼女との間を隔てる壁が高いように感じて、寂しい。
 そういう感覚のほうが近かった]**


[武藤は(武藤も?)、まあまあ自分に容赦ないなとは思ったよ。

私に"なんかしそうだった"はともかく(その理由が大きかったのだろうなとは思いつつ)、会話の一つもしないままに、"なんか腹立ったので" で出会い頭に自分と同じ顔をもつものを全力で殴り抜ける人はそう多くはないと思う。

私も、人のことは言えないくらいには容赦ないことをした自覚はそれなりにはあるけれど。

全力で踏み抜くように"偽の私"の後頭部を踏み抜いた時、嫌悪感よりもむしろぞくりとした快感を覚えたことは、とりあえず忘れておこうと思った。]

 …………ん、とりあえず"仕返し"、できたかな。

[武藤の言う"とどめ" の意味を正確には把握しないまま。

でも武藤が私しか知り得ないはずの、美術館でのやりとり全てを知っていたとしても、私は特段驚くことも怒ることもしなかったんじゃないかな。]
 

[なるほど、この人はひとりっ子と。
そんな情報から得ることになったのは、幼馴染そっくりさんが意外なほど律儀に呟きにも答えてくれるからだった。
最初の印象は幼馴染に似ている!ばかりがあるせいで良いも悪いもなかったが、悪い人ではなさそうな気がする。
……いや、まだ判断が早いか。

自分はそれなりに警戒心はあるほうだと思う。
高校までは長い黒髪が人形のようだったのか変な絡まれ方をされたり、髪を染めてからは軽くて遊んでいると勘違いされたり、面倒ごとに巻き込まれかけることがそれなりにあったからだ。
その全てが未遂であり、あまり嫌な思いもせずにすんだのは、気付いたらそばにいて話を聞いてくれる――幼馴染がいたから。

だから、自覚するようになり、今も気を張っている。
最近はそうでなくとも、いつまでも幼馴染を心配させてはいられないと意識しているところだったのだ。]

 ……。

[だが目の前の男性に失礼な態度をしたいわけでもない。
最低限の礼儀はかかさないつもりだが――毛を逆立てている野良猫みたいな有様ではあるかもしれなかった。]


 上等な服?
 これ、普通のキャンプ用の服だけど。

[白のジャンパーにシャツに春用ニット。
デニムのスキニーパンツに、バイクに乗る幼馴染が履くのに憧れてこっそり真似した革製のアウトドアブーツ。
とても安物は選んではいないけれど、この年齢の学生が買いそろえられるものなのでそれなりだろう。]

 オイル……なるほど?

[さすがにヘアオイルの話ではないのは分かった。]

 ええっ、日本、聞いたことないの……ですか……。

[最後に頑張って敬語に直してはみる。
どう見ても年上だ――幼馴染よりプラス5歳はいってそう。]


 アスル・ラーゴ、アスル……アスル……?

[名前を教えて貰う。
頭の中になにか引っかかり、何度か繰り返す声が、目の前の男性にとってどんな風に聞こえるか知る由はない。
ただ先ほど出会った女性と自分の声はよく似ていた。]

 わぁ、こんな飛行機あるんだ……。

[飛行士であること。
あれが乗っている飛行機であること。
まるで小さい頃に見たアニメ映画みたいで、これは外国に飛ばされたという次元ではないのは肌で感じつつ。
野営という単語に落ちてきたときの状況が頭を過り、気を失う前に見てしまったあれこれが、]

 って、その前に! あなたが、アスルなの?

[やっと思い出した。そうだ、アスル。
この名前をあの女性が言っていたではないか。]

[湖も、川も、海も苦手だ。
 ついでに、井戸も。

 時折見るひどい悪夢を思い出してしまう。
 突然水の中に落ちて、絡まった水草に底へ底へと引き摺り込まれていく。
 呼吸ができなくて、どれだけもがいても水面の光は遠くなるばかり。しまいにはどちらが底かもわからなくなって、ただ暗がりに落ちていく。
 やがて、ふと足元を見ると、そこには見慣れたひとがなんの表情もなくしがみついていて。

 飛び起きて子供のように泣く彼女を慰める彼のことも、恐ろしくて仕方がなかった。]


 私、少し前に変なところに飛ばされたというか……。
 信じられないとは思うんですけど……その、此処とは違う湖を幼馴染と散歩してたら、急に、神隠しされたのかな……?
 
[自分で言っていて混乱しそうだ。
軽く身を乗り出しながら、必死で言葉を探して。]

 着いたのは、一面が青い不思議な場所で。
 水の中に落ちたみたいな、空の真ん中みたいな感じで。

 そ、そこで、女の人に会ったんです。
 私よりきっと少し年上で。

 ――そのひと、私と、本当にそっくりだった。

[顔立ちは鏡を覗いたのかと思うほどに。]


 その女の人が、言ってました。
 
 私がどうにかするから。
 ……あなたはアスルのところに、行っていなさいって。

 そこなら絶対に安全だからって。

 あの人が耳飾りに触れたら、なんか光る道が出来て……それを辿って、穴から踏み出したら、落ちちゃったの。

[ニホンがどこか考えてくれようとしている姿。
話を遮ってしまう形になっているが、これは先に伝えておかねばと、アスルさんがそのアスルなの?と首を傾げた。*]

[あたたかい茶を一口だけ飲んでから、カップを持って二階のホールへ向かう。ここのソファは一階のよりも柔らかくて座り心地が良い。

 銀の弾丸について考える。
 椿は楓とは多少出自が違うから、性質も大きく異なっている。彼女にとって、銀の弾丸、というのはものの例え以上のものではなく、触れても全く平気ではあるのだが、その代わり、当たり前に、銀であろうが鉛であろうが、撃たれれば死ぬ。

 弾丸を打ち込まれるのはどんな感じだろう。あるいは、牙に貫かれるのは。

 今まで自分がしてきた所業が、この身に返ってくるのを想像すると、なんとも言い難い感情に襲われる。

 激しい拒否と、当然の諦観と、胸がすくような清々しさと、それらが全てひとつになったような。微かな不快を押し流すように、まだ熱い紅茶をひと息に飲んだ。]

[楓はどこにいるだろう、とぼんやり思う。まだ寝室にいるだろうか。

 今はただひとり、互いに理解できるかもしれないひと。近いような、遠いような、どちらもを感じている。時には傅き、時には慈しみ、時には気安い友のようにも思う。自分の心さえよくわからないのは、いつものことだ。

 ふと思考が逸れる。夕食は何を作ろうか。しかしまだ、空腹感はまだない。

ないはずなのだが。]


  お腹が空いたな。


[自分でも気づかないうちに、ぽつりと呟いていた。]**

 写真撮りたい気もしますけど、後で、ですね


[とりあえずは腕の中の要を堪能したいから。
彼の足を開かせて、指でなぞると弱弱しい要の反論のようなものが聞こえる。
しかしそれが反論でないのはわかっている。
彼の指は自分の指と対照的に自分の唇の中に入ってくる。
それを迎え入れながら、軽くその指を歯で噛む。
中のジェルがまだ残っていて、そのぬめりを利用して指を進める。
湯の温かさが彼の緊張を緩め、そして容易に媚肉をかき分けて奥へと指がすすむ。
唇が寂しくて彼の指を吸って。
そのままそれだけでは足りず、指ごと彼の唇にキスを仕掛ける]

 前もどっかで言ったかもしれないですけど、要さんとおふろ入るの好きなんですよね。


[肌が白くてきめ細かい要が風呂に入ると色づいてほんのり桜色になる。
その色彩がたまらなく好きだ。
肌を叩いて痕をその肌にのせた時の色もたまらないし、縛り上げた時のその痕が肌に残る様の対比も色っぽい。
嗜虐性をそそるようでいて、支配されたいという屈折した気持ちにさせられる。

唇を離して、そしてその唇にキスをして痕をつけそうになって慌てて止める。
その代わりにぺろっと舐めて。
身体をずらして彼の頭を浴槽のヘリに押しつけると、向かい合わせになるように自分の身体を移動させた。
奥の奥まで押し込んだ指と手のひらを利用して彼の腰を片手で浮かせ。
水面より上まで浮き上がった彼の胸元に顔を埋め、胸の飾りに吸い付いた。

光や影、その視覚効果もそそられるけれど、今は風呂場に響き渡る驚きの声や嬌声の聴覚効果が自分を楽しませてくれる。
中指が彼の中をかきまぜ彼の雌スイッチを押して、ただ、善がる彼を見るのが楽しいなんて。
ゆだらない程度の時間の楽しみだ*]

[警戒心も露わのままこちらを伺う女性だが、そこについてどうこう言わない。
無理に信頼を得ようとも思わないが、態度が気に入らないというでもない。そこまでの熱がなかったといえた。]

 ああ、よく見えてるわけじゃないし専門家でもないからわからんが細かい縫い目に均等に誂えてるように見える…後は、その服からなにをしてるかよくわからないからな。
 農夫だったら手足や袖が土に汚れてる。工場で働いているやつはオイルが染みついてる。そういう気配がなかったからな。

[疑問に応えながらも]

 喋りやすい喋りかたでいいぞ。

[敬語はいらない。とはいわずに喋りやすいように、と苦笑を浮かべていった]

 別に珍しい名前でもなんでもないだろ。

[家名なんていうのも、どこに生まれたか。とか職業からつくようがせいぜいだ。
森の近くで生まれてたらセルバだったり、鍛冶屋ならスミスだっただろう、名前も安直なものである]

飛行機をみて素直に驚く様子をみて微笑みを浮かべつつ、自分の名前に改めて反応するのに内心首を傾ぐ。]

 ほう…いってみろ。

[信じられないと思うけれど、という言葉に気にせずに言え。と言う。続く言葉を聞きながら、どうにもそれは自分が想像していた飛行船から落ちた訳ありの客人だとかそういうものではないらしい。

それどころか多くの気になる文言が連なる。

湖、神隠し。そして今目の前にいる女性よりも少し年上のそっくりな女性。

心当たりがいくつも重なれば、そしてアスルのところにいって。という言葉を聞けば流石にそれは偶然だと片付けられるものではない]

[彼女は……俺のペルラはどこかに囚われてる、あるいは消えた先でこの娘とあって、そしてこちらに誘導したのだろう。
真珠のイヤリングはさっきまでテントの中に置いていたのでそのせいでそこに降ってきたというところか。よいクッションになるところに置いていてよかった。と思いつつ]

 そいつは……君そっくりな女性がいったアスルなら…ほぼ間違いなく俺だろうな。

[どうやら彼女は消えた後ですら、俺にお願いをするらしい。少しだけ可笑しそうに一瞬だけ柔らかい笑みを浮かべて、すぐに表情が改まる]

 なぁ、そっちの名前は?

[名前を聞く。おい。とかでいいなら名乗らなくていいけどな。などといいつつも]

 俺が思うに君は壮大な迷子のようだ。
 おそらくそのニホンって場所も相当遠くか、そもそもここには存在しないんだろう。

 可能な限り安全に過ごせるようにするが、無条件にってわけじゃない彼女は説明不足だったみたいだ。

[ふっとため息をつく。疲れたというよりは仕方ないか。というように、だってペルラは最初から、飛べ。といって自分を信じて飛んでくれていた。それが当たり前だったから意識もしていなかったんだろう]

 それは俺に身を任せられるかどうか。だ。

[じっと神妙に見据える。そこに例えば男女としての何か不埒な様子というのは見えないだろう。]

 君がいたところでは知らないがこっちでは島から島への移動というのは安全じゃない。飛行機に乗って行われるものだ。
 …そこの飛行機、飛ばすのは俺だが、その俺を信じれなかったら君は乗れないだろう?

[その点においてペルラは自分を信じてくれたからペルラにとって安全だっただろうが。この娘についてはなんともいえない]

 そういう心構えを持ってもらう必要があるぞ。なにせ飛んだ後にじたばたされたら事故るからな。

[あまりにも警戒心を持たれ過ぎたら危ういだろうから、と自分なりにわかりやすく問いを向けて]

 …ま、信頼されるような要素を俺は持ち合わせていないけどな。

[情熱に乏しい言葉でどこか自嘲も混じる]

 それでも……大丈夫だ。って任せてくれるか?

[最後はあやすように優しく聞いた。それは言葉なども違うがを思い出させるものだったかもしれない*]

[……揺らした、つもりだった。

 不意に視界が揺れて、一瞬重力を失ったように方向がわからなくなる。楓がいる。眠っている。指先が冷たい。頬を撫ぜる。目の前の、無防備に曝された首筋に顔を埋める。


 そして。]

[そこで、我に返った。椿は眠っている楓のそばに膝をついて、その頬に触れていた。呼吸は浅く、心臓が早鐘を打つ。

 楓が目覚めるまで、椿はそこで呆然としたまま座っている。]**

[頬を撫でられた。
 されたことは、おそらくそれだけ……だと、思う。
 髪らしき感触を首のあたりで感じた気はしても、髪の長い彼女のこと、正確な姿勢まで推測するのは難しい。
 重い瞼を持ち上げてみると、そこには呆然とする彼女がいて]


  どうした……椿。大丈夫か……?


[努めて冷静に声をかけたつもりだったが、彼の声音には幾分か焦りや不安が滲んでいた。

 彼女が何をしようとしていたかなんて、正確なところはわからない。
 けれど眠っている間に頬に触れられるというのは、意味合いが何であるにしろ、自然と心臓が暴れ出すような出来事だった。

 それでも彼女の表情を見れば、楓は自分のことよりもまず、彼女を気遣いたくなった。そういう性分なのだろう。かつて共に過ごした日々でも基本的には周りの人たちの心情のほうを優先していたから]**

[あとで。という言葉に分かったと頷き。
そして手は彼の唇へと向かった。

堪能したいのなら、もっと暴いてやと願うように、指は唇の中へ。反論ばかりの自分の口と違い、行動は正直だ。彼に暴かれ、愛されたがっている。指を噛まれ、吐息が溢れて中を進む指の動きにも、甘く快感を零した。彼の指が進む程、湯が漏れ入るのが分かる。湯舟という特殊な場所の独特な快感に苛まれ、吸われた指ごとキスを受ければ、身は悶えた。
其れに呼応して指を飲む中が締まり。
媚肉は彼の指の形へと添い]


 …… ん。
  僕も好きやで…っ
   寿がいっぱい触れてくれるから


[桜色に染まった肌に乗せる赤は、本音を口にする照れの色。
彼が自分を染めるのを好んでいることは知っているから、こうして触れられるのが愛されていると感じて堪らないのだ。普段彼を振り回しているのが、こうやって翻弄されるの事に興奮を覚えている。縛られたときにも感じた背徳。
支配したいし、…支配されたい。

彼に抱く思いは特別で。
キスが離れれば、もの寂し気に痕はつけへんの。と小さく唇を動かしただろう。写真を撮るのなら、その赤が写るのは彼からすれば困るものだろう。けど、ついつい彼の所有になりたがり。舐める舌を追いかけて、此方からも舌を絡ませ。

身体が動く程に奥で感じ、声を零して]



 ……あ ぁ っ ん
  寿っ ……まってや


[向かい合わせ。
彼の指が押し上げる体はびくっと震えて水滴を流す。水滴が髪から落ちていく。そんな中、浮かんだ身体にと与えられる新たな快感に悶え、目を閉じてしまう。胸元に触れる口はまだ少し慣れない。いや、此処で感じてしまうのは分かっているんやけど。彼の雌なんやと自覚しても其処は]


 ……ぁ はずかし…ぃねんっ


[彼に抱かれるまで自分が其処で感じるなんて知らなかった。
だから、余裕がなくなってしまう。湯の熱さにより桃色になった肌の中でぷっくりと膨らんだ胸の粒は水滴に濡れて、赤く見える。彼に愛されたいと自己主張をしているようで恥ずかしくて、両手で思わず顔を覆ってしまう。それでも、彼の指がいく中はびくびくと感じている事を教えて、もっと良い処を押してとばかり自然と腰を揺らし、上下に。

彼の熱を欲するように、揺れ]



 ……はぁ…ん イッちゃう
  こんなのっ ……堪忍っ


[堪忍。と快楽の涙を落とし。
甘い声を響かせて、ふるふると彼の楽しみを増長させるように普段とは違う顏を見せ、寿。寿と自分の雄に甘えて媚びる声を発するだろう*]


 
 ……。

[あ、なんだか。表情の感じが変わった。
幼馴染とよく似て、でも違う顔が、やわらかな色を湛える。
自分とそっくりの女性の話をしたときのこと。
一瞬でも逃さずに目に留めてしまってから。]

[名前を聞かれてハッとした顔をする。
そうだ、名乗り忘れていたと今になって気付いたのだ。

……だって、顔が似てるんだもの。
自分の名前を知られている気がなんとなくしてしまって、そのせいだって心の中だけで言い訳しておく。]

 私の名前は、天原珠月っていいます。

[喋りやすいようにと言われたが一先ず敬語で。
座ったまま背筋を伸ばし、膝に置いた手をぎゅっとして。]

 アスルさんの名前からすると……ミツキ・アマハラって言った方が分かりやすいのかも。

[どんな呼び方をされても気にしない、と此方は返しつつ。]

 おいって名前じゃないから、それは嫌。

[そういうところはキッパリと言う性格。
まだ知り合って間もない男性と、見知らぬ場所で、他に人も居なさそうで――強い態度に出すぎるのは普通なら控えるところだが、アスルという人には自然と出てしまう。
やはり幼馴染とそっくりだから、か。]


 ……えっ、私のこと……受け入れてくれるの?
 結構な面倒ごとだとは思うけど……。

[ぱちぱちと目を瞬かせる。
受け入れてくれないと完全に路頭に迷うから困るけれども、出会った当初から彼の様子はどこかやる気がなさそうというか、気力がなさそうというか、正直に言うと、何か悲しいことでもあった後なのかなーという感じがしていたから。

自分の拙い説明がどう伝わったのかイマイチ分からないが、アスルにはなにか納得がいったのだろうか。
あの女性の存在が大きそうには思える……かな。]

 身を任せる……?

[何がどうしてそうなるんだ、とはまず思った。
けれどアスルの神妙で真っ直ぐな眼差しに、変な考えは見えず、レンズ越しでもないその色はなかなか心臓に悪い。
知らず知らず息を詰めたせいで首や顔が熱くなる。]


 えっ、私もあの飛行機に乗っていいの?

[しまった。
こんな事態なのに声が弾んでしまった。
なにはしゃいでいるんだと冷めた目で見られないだろうかと、決まり悪そうに首をすくめて。]

 そっか、アスルさんが運転するんだ……。
 これは映画やアニメの中じゃないんだもんね。

 …………。

[信じられるか、と問われているのだろうし、信じられないなら危険だ、と前もって教えてくれているのだろう。
彼自身に危険が及ぶのがあるとしても親切で丁寧だ。
飛行機を見て、アスルを見て、空を見上げて、握り拳で深呼吸をし始める時点で乗ろうという気持ちは固まっていた。

助けが来るまでじっとしているわけにもいかない、だろう。
何日かかるか分からないのだ、ここで野営しているアスルをずっと引き止めるわけにはいかないのは分かる。
ならば信じる信じないよりも覚悟せねばに意識がいっていた。]

[だって、絶対に帰らなきゃいけないのだ。
何があっても、何に耐えてでも、諦めないで、あの女の人が無理でも自分で方法を探して、元の場所に戻らないと。

――幼馴染のとなりに。]


 ……っ、大丈夫って。

[実はよく覚えている、出会ったときの幼馴染の台詞。
言い方だって少し違うし、あの頃の幼馴染も今考えるとまだまだ小さな子供で、きっと必死で言ってくれた言葉で。
アスルのようにあやすような響きではなかったと思う。
なのに、やっぱり声が似ていて。幼馴染に、会いたくて。
似ているから安心しかける自分が、何だか嫌で。
こみ上げる泣きたくなる衝動に耐えるため、しかめっ面をしてしまえば、アスルはどう受け取ることだろう。]

 信頼って、そんな簡単にできるのか分かんない、です。
 ……でも今、一緒に飛行機に乗るの怖いとか嫌とか思ってないから、……そりゃいざとなったら怖い気持ちは湧くかもしれないけど我慢は頑張るし、迷惑はかけないようにできるだけするから……よろしくお願いします。

[自分なりに誠実に答えたつもりだった。]


 あと、そのー……。

[ちらっと見て、逸らして。]

 信頼される要素がないってことはない、と思うので。
 アスルさんはそんな風に言わないで良いです。

 ちゃんと私の話を聞いてくれるし、真っ直ぐ目を見てくれるし……おかげで、私は少し落ち着けているから。

 ありがとうございます。

[微妙に照れくさくなってきて、地面に足先を擦る。
お礼はちゃんと言わないといけないのに。]


 それと、えっと。
 ちゃんと覚えてないんですけど、そのテントをぐしゃぐしゃにしちゃったの、落ちてきた私ですよね?
 
 ごめんなさ……あ、ああ!?

[急に一緒になって思い出してしまった光景があった。
近づいてくる地面、テント、近くの人影、ピントが合った瞬間に見てしまったのは――いやいやまだぼけてたけど!]

 な、ななな、なにも他は見てないんで!
 とりあえずその! 上着の前! 閉めてください!

[急に立ち上がると、勢いよく後ろを向いた。
幼馴染とあれだけ一緒に過ごしてきて、部屋着もパジャマ姿も嫌というほど見てきたが、下着姿もない、はずで。
なにかに絶望したかのように頭を抱えるのだった。*]

 ならミツキで。

[おい。というのは名乗らかなかったらの場合で教えてもらえれば違うのだ。
ただ彼女がアスルさんと呼ぶ声は、親しんだ声なのに他人行儀で、ほっとするような居心地の悪いような感覚はある]

 受け入れるも何も、そもそもこうして旅の最中に遭難したやつがいたら助けるってのは倣いでもあるからな。嫌がらない限りは近くの島にまでは送るつもりだったぞ。

[その手を跳ねのけるならば別だが、そうでなければ誰かの頼み関係なく近くには送っただろう。ただ全部面倒をみるかというと話は別だが。とまでは言わずに驚いた様子のミツキに苦笑交じりに返す。]

 いや、乗っていいっていうか…ああ、そういう感じか。

[困ったようにいいかけた言葉は途中でとめて、少し納得する。自分が壮大な迷子といってみたのは気取ってみたつもりだったが、案外本当にそういうもののようだ。

俺が運転するという言葉には鷹揚に頷いて、それで待つ。
もしも彼女が嫌だというならば――と考えつつも、ミツキがどう判断するか慌てることなく焚火の土台の上にヤカンを置いた。

そうして少し待っている間、ミツキの目が―――ペルラのようにとらえるならば覚悟を持ったようなものへと変わっていくのが見て取れる。]

 ほどほどに自信とやる気があるなら十分だ。それに素直なのもいい。

[変に自信満々のやる気満々でも、逆にまったく自信なくて嘆かれても困る。ペルラからのように無償の信頼を得られるほうが稀なのだ。

途中表情がおかしかった気がするが、自分が大丈夫。なんていうのは似合わなかっただろうと自己納得することにして、強気なようでちゃんと礼儀正しい態度をとるミツキを見て頷いて]

 いきなりやれ。なんていわないしやりかたは教えるから任せておけ。

[実際二人で乗るなら彼女にも協力してもらうときが出てくるだろう。まぁそれは二人乗りだから仕方なしにというのはありつつ、おそらくもっと色々必要なことがあるのだろうなぁ。などと思う。あくまで想像が合っていればだけど、と思たところで次の言葉には、予想外で少しの間固まった。]

 …………そんなもんか。

[自分の対応で落ち着けたらしい。自分でも自覚しているが、投げやりな態度であったとは思ってもいる。
だから納得しているとはいわないが、ミツキにとってはそういうものなのか。という風に受け止めて]

 礼は、色々上手くいったらな。

[自覚がない事柄なので、まぁ後でな。というようにお礼の言葉は保留するような言葉を口にした。]

 ああ、最初はテント潰したことに腹立ったがどうしてそうなったのかわかったから気にするな。怒っていない。

[水浴びしていた時だ。当然ながら裸だった。
そして大切なイヤリングをなくすわけにはいかない。テントにいれていたのだが、それが呼び水となったのだとミツキの話からわかったんだが、なんか思った以上に狼狽しており、首を傾ぐ]

 いや、こんだけしてりゃ十分だし、いちいち気にするなよ。

[だらしないようで実はしっかりしていたミツキの幼馴染と違って、この辺りだいぶ大雑把なアスルなのであった。

後ろを振り返り頭を抱えるのをみて、これからしばらく大変そうだな。などとは思いつつ、開けていた前を閉じた後に、もういいぞ。と声をかける。]

[その後は、気にしていたようなのでミツキも誘ってテントを元に戻す。
一人だと手間な作業だが、真ん中がぐしゃっとなっただけなので紐を引き直して整えるのも二人がかりだとすぐに終わる。
そして荷物からコップをもう一つ取り出した。沸いたお茶――少しだけ懐かしく蜂蜜を少しだけいれたお茶をミツキへと渡してお茶を飲みながら]

 眠たいかもしれないが少しだけ話をさせてもらうぞ。

 おそらくだが…ミツキは俺たち風にいうと御伽噺の世界の人間とかそういう類のやつだ。

 意味わからんかと思うが実際そういうのだと思うぞ。

 ミツキは飛行機に自分も乗っていいんだ。っていってただろ?この辺りでの移動は全て飛行機ってのが常識だからな。乗らないならここで暮らす以外の選択肢はないって感じだ。

[どれだけ遠くても恐らくそれだけは常識だろう。と確信をもっていいつつ]

 昔色々あったらしくてな。大地で住めなくなって、俺たちは浮遊する島に移り住んで暮らすようになった……って古い本にのってた。

[大雑把ながらその辺りを成り立ちといわれているものを説明する。
それからは浮遊都市で人は暮らしている。地続きで都市と都市は繋がっておらず移動は飛行機でいくもので危険がつきものなのだ。とか。
だからミツキが上から落ちてきたときに飛行船とか飛行機から落ちてきたと思った。等と付け加えたりしつつ、何か質問があればいくつか応えはしただろう。]

 それと、当面だが向かう先は決めてある。

 不思議な空間で、ミツキに似たそいつに、なんとかする。って言われたんだろ?

 ……そいつの力が通いやすい場所を知っている。

[安全確保、もあるが、そこに導いてほしい。というのもあったんだろう。とは内心だけで呟きつつ]

 もしミツキが戻れるとしたら、正直いって今のところそこ以外浮かばないからな。だからそこに向かうがそれでいいな?

[そいつ。とペルラの名を頑なに口には出さないまま、方針を伝えた後は、寝るときはテントを使え、俺は外で寝る。というのであった*]

[そうして翌朝。
火を起こし―――その仕事をミツキが上手だったのに少し驚きながら、保存食の乾パンとドライフルーツ。それに簡素なスープを食べた。
そしてテントを片付けて荷物を纏めたところで]

 じゃあ、飛ぶ前に色々教えるからな。

 俺はここで操縦する。他の空いてるスペースならどこにいても基本的にはいいが、離陸と着陸のときだけは手摺に捕まるなりしてくれ。安定したら離していい。
 最初は怖いかもしれないが慣れれば腰掛けて寛げるぐらいになれるぞ。

 ただこの機体は左右に大きく動くときは乗ってる人間も身体を傾ける必要があるからその時だけ協力してもらう。

[ミツキにとっては雅空とバイクを二人乗りしてるときにそういうことを教わったかもしれない。]

 だから事前に曲がるときは言うから俺の背中にしがみついて身体を傾けるか、黙って抱き寄せられるかになるんでその時だけ協力してくれ。

[それはつまり、緊急時や、ミツキの動きが鈍かったら強制的に抱き寄せる。ということである。年頃の女性がどうだとかもそういった思惑もなく。必要なことだからとあっさりというし、反論も聞かないという態度で説明した後に、荷物はフックをかましサイドに縄で固定する。]

 んじゃ、いくぞ。

[ミツキが手摺なりに手を伸ばしたところで頷いて、スイッチを押すと折り畳まれていた翼が側面から現れる。

油圧式のポンプを手作業で何度も引いては押して圧力をかけることで内部では駆動音が響き、翼が動き出したところでエンジンをかけたところで、そろそろ動くぞ。とミツキへと声をかける。

風が肌をうち、髪が後ろに流されるように揺れる。
最初は草原の地面をすれすれで滑空するようにしながら徐々に高度をあげていく]

 ほら、繋がってないだろ。

[小島の端までいけばそこは絶壁であり、海の変わりに空が広がっている光景がミツキには映るだろう。そうして彼らは空へと飛びあがった。]

 もう手を離していいぞ。

[飛行が安定したところで声をかける。

風圧や冷たさを想像していたかもしれないが、思ったよりもそのどちらも穏やかで、ミツキにとっては電車に軽く揺れているぐらいの感覚だっただろうか。それがより異世界だと思えたかもしれない。
実際、そういう空中においての守りがこの飛行機には備わっているのがこの世界の文明だ。と小難しい説明は退けて、ミツキに聞かれたら簡単に応えただろう。]

 じゃ、このまましばらく飛行して一旦浮遊都市があるからそこに立ち寄る。一人旅分しか物資もなかったし、色々補給しないといけないからな。
 目的地はその次の島だ。

[空から見える大地は霧のようなものに覆われており不気味に見えただろう。反面空は清々しい群青色を背景にしており、小さな岩場が浮いていたり、自分たちが止まっていたような小さい島もいくつか見えたかもしれない。そんな光景を楽しんだりしていただろうか。その間は邪魔せずにいつつ、一段落したところで声をかける。]

 そういや聞いていいか?

 最初あったときに俺をみて、生き別れの兄。とかいってたが、俺にそっくりなやつでもそっちにいるのか?

[少し気になっていたことを聞く。いるならばどんなやつ?と聞くのは単に気になったからであり、飛行中の世間話でもあった**]


 一応言っとくけど、昨夜の時点でもオレは柚樹のこと、女子として意識はしてたよ……?

 じゃなきゃあんな、ベッド離したりしないし。

[半年前のオレが柚樹に恋情がなかったと思ってたなら違うよ、とは言っておかないとな、と思って。

うっかり見てしまった胸や下着も、まるで気にしてないみたいだったから。

いや、女だと知られたことの方に意識が行ってたのはわかるんだが。]

 あれもあの時点のオレには、刺激が強くはあったので……。
 
[告白もしてない状態で手を出したりはしない(できない)のはあるとはいえ、何かあったら困るわけで。

いや、あの場合オレはオレだからいいのかな。
でも経験の記憶がない状態では、またもたつくかもしれないし、それはちょっとカッコ悪いから。

柚樹の心情を思えば、そんな状況でもなかったのはわかってるんだけど。]


でも、こうしてちゃんと触れるようになってよかったな。

[指を絡めて握ると、身を乗り出して軽く口付けた。

丸一日くらい一緒にいて、キスのひとつもしなかったことなんてそうそうなかったから、随分久しぶりに感じられた。]**

【人】 田中 天美


 は、食えんでかわいそうにのお。

[からからとした笑いの軽さと振る舞いは、何度となく繰り返した軽口のひとつだと察するに容易い。本心から哀れんでいる訳もない。

 飯も食うし眠りもする、大太刀を振るうだけの力はあるがそれも常人で手の届く範囲。化けもしなければ宙に浮けもしないし空を操れもしない。老いも死にもしない以外はただの人間だ。
 違いはそれ“だけ”だが、人においては決定的な差だ。生まれた地を、妻子を、真っ当な一生を手放さざるを得ない差だ。老いぬ所為で一所に留まることもかなわず、放浪を余儀なくされ、そして何より死を許されない。
 深江がどれほどまで終わりを希ったものか。長命といえど命に限りある化生では分かってやれない。多くの死を見て別れを知る立場は同じでも、やがては死ぬ狐とは違う]
(104) 2023/03/06(Mon) 3:14:04

【人】 田中 天美

[そも、人喰いの化け狐と、それを討ちにきた退治屋が最初の関係だ。紛れもなく敵であったが、いくら食い破ろうが裂こうが物ともせず大太刀を振るい、息の根を止めようとする姿の異常さに気付いた時、剥き出していた牙を収めて代わりに声を掛けたのが、次の関係に至るきっかけ。

 生きるには肉であれ生気であれ人を喰らう必要がある自分と、いずれも喰らったところで無限に再生する不死。山に入る人も減り、狩りに難儀していた時分に深江の存在はあまりにも都合が良かった。代わりに他の人間を食ってはならないという約束も有って無いに等しい条件だ。ただ傍にいりゃいいだけなのだから。

 互いに利があると見込んで成った関係だ。数奇にも三桁を超えても破綻せず、そして自らが終わりを迎える瞬間まで続くのだろうという予感がある。
 今更他の道を選ぶ気も、別の誰かを伴って生きる気も起きやしない。それを人は惰性と呼ぶのかもしれないし、執着と呼ぶのかもしれないし、もっと他の名をあてるのかもしれない。無論、そんなの自分たちにとってはどうでもいいことだ]
(105) 2023/03/06(Mon) 3:14:41

【人】 田中 天美


[どうしたって違う生き物で全てを理解できずとも、こうして縁あって共に生きている。
 それ以上でも以下でもない。
 唯一無二と過ごす現在に安穏とした満足を得ていることだけが事実だった]
 
(106) 2023/03/06(Mon) 3:15:06

[共に死ねた日こそ、最も満たされる瞬間であろう、とも]
 

【人】 田中 天美


 んじゃ具考えなきゃの。
 いや巻きたすぎか???

 餅は明日バーベキューの時んでも焼くかあ。
 砂糖醤油作って……きなこもええな。小屋行ったら無いかの。

 魚は次だなあ。
 貝はあるし煮付けにでもして具にせんか?

[コテージの橙の明かりに照らされながら、色んな匂いが混じり合うキッチンで、やいのやいのと騒いで笑う。
 貝の煮付けの甘ったるそうな醤油、きんぴらの味付けに使ったごま油の香り、炊けたばかりの飯の仄かな甘さ。フライパンで作った卵焼きはちょいと歪だが香ばしそうなきつね色で美味かろう。おむすびの具も何種か作って海苔で包み、できたおかずと一緒に弁当へぎゅっと詰め込めば完成だ。沸かした茶を水筒に移してる間に、リュックの荷詰めは深江が済ませたようで、明かりを受け取ると経つ準備は終い]
(107) 2023/03/06(Mon) 3:15:36

【人】 田中 天美

[肌を撫でる夜気は心地よい涼しさを連れてくる。じぃいと羽を鳴らす虫の音、ひょうひょうと細く鳴く鳥の声、葉土を踏みしめる音と二人の会話が夜に混じり合う]

 うっかりコケても知らんぞお。

[実際のところ夜目は利く。この程度の山なら明かりなど持たずとも影に足を取られることもない。それでも繋いだ手の先には暗闇を覗けない男がいるのだから、先導して照らしてやらねばなるまい。
 まあ、気配を読める人間でもあるから、心配なんてものはしてないが]
(108) 2023/03/06(Mon) 3:15:57

【人】 田中 天美


 ああ。
 最近じゃあ、一等かもしれんの。

[深江が天を仰いで足取りが緩んだのに合わせ、同じように空を見上げた。木々の空隙を冴え冴えと星が瞬いている。
 思わず見惚れて足を止めるほどの豊かな情緒は持ち合わせていないが、美しさだけは分かち合える。いいものだと共感し、それでいて更に奥へと進んで行く]

 しかし、天辺となるとどんぐらいかかるもんかの。
 適当なとこで弁当広げてもええかもしれんな。

[そんな会話を交わして暫く、開けた一帯を見かけて足を止めた。
 人の手で十分手入れされているようで、地表を覆って陽光を遮る木々をいくらか間伐したのか、雑草や蔓が雑多に生い茂ることもなく、陽光に照らされて緑に包まれている。
 近くの切り株も芽吹いており、あちこちに小さく花も咲いていた]
(109) 2023/03/06(Mon) 3:16:12
  大丈夫……はい、大丈夫です。


[辛うじて答える。
 気分が悪い。

 今のは、やはり“そう”だろうか? こんなに短時間で波がひくことは、今まではなかったはずだが。楓が同類であることが理由だろうか。

 ついさっきそれでも構わないと思ったはずなのに、実際に起こると暗澹たる気分になる。
 それは、椿に生きていてほしい、と言った楓にわざわざ殺させたくないのだ、と気がつく。

 ならば自害すべきだろうか。
 それにも、頭の奥でNOが響く。

『ヒトでないものが生きようとして、何が悪い』

 楓の言葉が繰り返される。
 そう、そうだ。どこかでずっと、そう思っていなかったか。
 認められなかった。それを認めてしまえば、あの人が悲しむ。同時に、やはり彼こそが椿を最も拒絶していたのだと知ることになる。あれほど愛してくれたというのに。]

【人】 田中 天美


 お、ここらでどうだ?
 弁当も冷めきるよりよかろ。

 うん、昼に来ても悪くなさそうなとこだの。

[休憩には丁度いい箇所を見つけ、一旦ここで弁当を広げることに決めた。どっしと地面に座ってあぐらをかき、持っていた懐中電灯のボタンをぽちと押す。行きの道で深江に教えられたが、先が消える代わりに持ち手全体が光ってランタン代わりになる機能付きのやつらしい。便利なもんもあるもんだ。
 互いの間に置き、はようとリュックから出すよう促しつつ、どちらともなく空を仰いだ]
(110) 2023/03/06(Mon) 3:16:29

【人】 田中 天美


 ……ああ。

[盆いっぱいの銀砂を撒き散らかしたかのような星々が、夜に燦めいている。
 それは先の一等を素直に上回る景色に違いなく、ただ嘆息した]*
(111) 2023/03/06(Mon) 3:16:46

 う……。
 意識されてたのは、……うん、わかってはいた、けど。

[寝室の隅に座り込んで。顔を覆って。ベッドは左右に思い切り、離されて。

でも、意識するしないとは別のところで、"私の身体に興奮するのなんて、私の武藤しかいないのだし"くらいのことは、思ってしまっていた。

女と知ってしまったショックとかはあれど、興奮材料になんてならないでしょう?みたいな感じ……だったのかな。

男として振る舞おうとし続けていて、そのあたりの回路の電源がぜんぶ、落ちていた────みたいな。

再び武藤の手が伸びてきて、今度は指ごと絡められ。
寄せられる唇に、こちらから首を伸ばす風なことが、なんだか、まだ出来なくて。

おずおずと少しだけ顔を傾けたところに、唇がごく軽く触れあった。]
 


 ………………っ。

[なんだろ、なん、か。

無視していた感覚が、一気に押し寄せてきた、みたいな。
ぶわりと顔が、熱くなる。きっと今の私、耳まで真っ赤だ。

キスなんて、"今の私たち"には挨拶みたいなもので、こんなことに顔を赤らめるとか、もう、全然、大丈夫なはずなのに。]

 …………うう……。

[にげても、いいですか?みたいな感じに指を引っ張ったら、あっさり繋がった指は解かれるんだろうか。そうはならない気しかしないよ。*]
 

[立ち上がった直後、楓は彼女の頭に手を伸ばして、ぽんと軽く触れた。
 何か声をかけようかとも思ったのだが、言葉は出て来なかった。

 何をしようとしたにしろ、望まないことをやりかけたのだろう。
 彼女の表情を見ていれば、簡単に推測できることだった。

 けれど負傷もせず未遂に終わった以上、咎める気は起きなかったのだ。
 それが今の仕草だけで通じるものかはわからなかったが。

 伝わらないからといって楓が気に病むことこそないだろうけれど、伝わったなら安堵するだろう]**

[楓の手が、椿の頭に触れる。
 振り返り、彼の表情を窺う。
 目を伏せて、また歩き出す。

 すぐそばに見えているはずの扉がやけに遠く感じられる。]


 ……そういうとこ、警戒心……って心配になる、ていうかなってた。

[男として振る舞うのが久しぶりすぎたせいもあるのはわかるんだけどね。

昨晩からずっと触りたかったし、キスもしたかったよ。

半年前に戻ってた感覚のおかげで何もせずには済んだだけで。]

 ……柚樹、かわいい。

[赤くなった顔を覗き込めば、キスひとつで照れているのがなんだか懐かしい気がして目を細める。

軽く口付けた先、絡めた指が離れていきそうになるのを引き留めて手を握り直せば、鼻先に唇を落として。

再び唇を重ねると舌で唇をなぞって、隙間に舌を差し入れる。
舌を絡めると、さっきまで飲んでいた紅茶の味が微かに感じられた。]


 っは……、抱きしめてもいい?

[吐息に熱いものが混じると、テーブルを挟んだ距離が遠いなとはどうしても思ってしまって、絡めた指先で手の甲を撫でながら問いかけた。

したいこともいろいろあるんだけど、今は柚樹に触れたいなと思ってしまった。]*


 …………っ……。

 ………………ふ……、む、と……。

[ちょっと待って、という風に引いた手はむしろ引き返されて、また顔が寄ってきて。

深く合わせた唇も、忍び込む舌も、全部、全然、覚えがあるものばかりなのに、なんだかひどく久しぶりのことのようで戸惑ってしまうし、薄く開いた瞳が困った風に彷徨ってしまう。

武藤のこと、昨日今日とずっと、雄だと思わないようにしてた。
自分が雌であることも、否定してた。

触れる指の熱さや、少しだけ強引な挙動、常より低い声で囁かれる"かわいい"に、見ないようにしていたことが、全部、引きずり出されていくような気がして。]
 

 
 …………、……うん。

["抱きしめてもいい?"の言葉 に、抗えるはずもなく。

え、と、どうしよう……ともたもたと立ち上がってる間、武藤の側が数段早く、近づいてきていたと思う。

性急に椅子が動く、ガタリという音も、どこか現実から遠く感じるまま、私は武藤に抱き締められていた。

同じ背丈だから、胸元に顔を埋めるとかはできなくて。
武藤の耳下に自分のこめかみを擦り付けるようにしてしまうのは、馴染んだ仕草。

すん、と鼻を鳴らすように呼吸すれば、見知った武藤のにおいがして、ああ、私の武藤だ────って、今更ながらに実感した。]
 

 
 ────おかえり。

 おかえり、武藤。

[一度は告げた言葉だけれど、あの時はまだ気を張っていたから。

やっと気持ち全部で"おかえり"を口にすることができて、じわりと滲んだ涙は見せないよう、肩口に顔を擦り付けた。

逢いたかったよ。ずっと。*]
 

[踏み締める地面の感触が薄れていく。

 もう死ぬべきだ、と誰かが言う。
 否、殺すべきだ、と誰かが言う。
 人として生きろ、と誰かが言う。
 生きて何が悪い、と誰かが言う。]


  私は。

[抱きしめてもいいかの問いかけに肯定が返ると同時に席を立っていて。

どこか戸惑ったように歩み寄るのを迎えに行くように近づけば、背に腕を回して抱き寄せた。]

 ただいま、柚樹。
 ……好きだよ。

[肩口に擦り寄せられた頭を撫でて、顔のすぐ近くにきた首筋へと唇を押し当てる。

腕の中にある温もりを確かめながら背を辿った片手を上着の中に差し入れると、肌をそっと指先でなぞった。]

 …………、

[抱きしめた体の感触や匂いは全て覚えのあるもので、やけに懐かしく感じる。

背中のラインを確かめていた指を脇腹から前面へと滑らせれば、胸元の布地の上から手のひらで押し上げるように触れて。]


 触られたりしなくてよかった。
 ……全部、オレのだから。

[首筋へと押し当てていた唇を薄く開いて囁くと熱い吐息が漏れて、甘く肌を噛んだ。

胸元をまさぐっていた手で下着を上方へとずらそうと布地に下から親指をかけたところで手を止めた。

このまま流れに任せると止まれないことはよくよく知っているし、一回や二回で終わりにできないこともままあるから。]

 ごめん、つい……また後でね。

[服に突っ込んでいた腕を引き抜くと、頬へと口付けてから背に腕を回し直すと、緩く体を離した。]

[扉の把手に手をかける。
 そこで、ひとつ大きく溜息をついた。]

 私、どこへも行けないのですね
 だから、ここなのかもしれない

[もう普段の芝居がかった口調はやめていた。
 何でもいいから仮面を被っておきたくて現味のない芝居を続けてきたけれど、それはもう、どうでも良かった。]


 外に出ても何もなくて
 何も選ばないまま、居心地のいい部屋に座っているしかなくて。


[己の無力を恥じる。
 どれだけの間、そうしてただ生きてきたのか。
 このまま扉を開ければ、きっと死ぬまで同じ無為な日々が続く。そんな気がした。]


 ……っ、ぅ…………、

[首筋を辿る唇と、柔く立てられる歯の感触と。

ぞくりと背を駆け上がるのは疑いようもなく快感だったのだけれど、でも、胸に手がかかったところでひくりと身体が硬直してしまった。

  ────や、だ。それは、嫌だ。


浮かんだ思いに自分に自分で驚いて。

意識せず逃げるように身を捩りかけた寸前、"ごめん"の声 と共に武藤の手指も身体も離れていった。

なんだったのかな、今の感覚……と、内心首を傾げるも、武藤の告げた"バーベキュー"の単語1つが思考全部が奪われてしまうくらいには、私はバーベキューをしたかったみたいだ。]
 

[俯き、振り返ることもしないまま。

 人であることを諦めながら人であることに縋り続けた女は、人として生きるために人ではない道を選んだ男に、人のものではない言葉で問うた。]**

[ああ、たまらない。嗜虐心が沸き立っていく。
自分の指では彼が一番気持ちのいい場所には届かない。
そこの質量を求めて自然と動く彼の腰。それがねだるものの意味を自分は知っている。

なんていけないコなのだろう。
そう、年上の恋人に対して笑みを浮かべる。

彼の目の端に浮かぶ涙を唇で吸ってあげよう。
視覚効果に煽られている、かもしれない。
自分はこんなに我慢が利かない子だっただろうか。

この旅行は、自分の慾を満たすことより写真とか、理性を優先しようと思っていた。
でも自分の克己心に自信なんかなかったから、彼の負担が最低限になるようにできるだけ準備もしていたのだけれど]

 ―――すこしだけ


[例えば浮気でも最初はハグだけ。それから裸を見るだけ、とかそういう制限は先っぽだけ、入れるだけ。そういう風に際限がなくなっていくのを知っている。
別に自分と彼は恋人同士で浮気相手ではないのだけれど、彼に囁いたそれは自分がつけていた心のセーブを取り払うのと同じだっただろう。
彼の尻に擦り付けるようにして、熱をごまかしてた自分の屹立をすりすりと押し付ける。


入れるだけ。
中で出さないから。

そう言い訳しながらも、彼の媚びる声に応えるように、甘くほぐれている箇所に熱を押し込んでいった*]

[扉の向こうから、呟くような声が届く。
 飾らない口調が胸に響くのを感じ、扉を開けようとして手を伸ばしたとき──

 囁きが届いた]


  ……、…………


[何よりも答えづらい問いだった。

 だが、答えずにこの場を終えることはできない。

 そう思ってもすぐに言葉が紡ぎ出せず、伸ばした手は扉近くの壁に伸びた。
 縋るように壁に触れながら、ゆっくりと息を整える。

 そうしてどれだけ間を空けたのか……あるいは然程の時は流れていないのか。楓の主観においては相当な時間が経った後のこと]

[それが正しいと思う自分もいた。
 人間として生きていても、他の生命を犠牲にするのだから。人間でなくなった以上、犠牲にする生命が人間であっても構わないはず。
 それに、人間でなくなったとしたって生きる権利はあるはずなのだ。

 でなければおかしなことになる。

 人間として生きる間に生命の危機が訪れ、必死に抵抗した結果、危機は去り、彼は人狼となった。
 人狼となっては生きてならないのなら、危機に抵抗しなければよかったことになる。
 だが、それでは、人間であっても命を奪われかけたとき無抵抗に死ぬのが正しいことになってしまう。
 生きようとした選択が誤りになってしまう。

 おかしいではないか。
 人間でなくなったら生きてはいけないというなら、人間ならば生きていていいはず、生きようとすることが正しいはずなのに。

 どうしても納得ができない。
 それだって、大きな思いなのだけれど]

[《死ぬのが怖い》
 死を選ばない最大の理由として、楓の脳裏にどうしても浮かぶものがそれだった。

 死ぬのが怖いから自害はできない。
 かといって大切な人たちを殺したくない。

 それは彼らが共に生きたい人たちだからでもあるが──

 身近な場所で人を殺せば簡単に露見するから。
 そうしたら自分が殺されるから。
 死ぬのが、怖いから。

 だから自分の生活と無関係な遠くに住む人々を殺めて、自分の命を繋ぎながら理性を保つのは、実に『理に適ったこと』なのだ──楓の感覚では、の話だが]**


 …………?

[胸元に触れた瞬間、体が強張る感覚が伝わってきたのは気のせいだろうか。

最初の頃、他の部位より殊更に胸を見たり触れたりすることは気づいていたから、この半年くらいかけて漸くその辺りのコンプレックスはなくなりかけてたと思っていたのだが。

確かめるのは怖い気もして、聞くことはしないままに体を離した。

バーベキューの話をしたら一気に元気になったようにも見えたから、せっかくキャンプに来るという貴重な夢を見られてるわけだし、楽しいことを優先しようと頭を切り替えることにする。

幸い現実では春休みに入っていることだし、“また後で“がいつになるかはわからなくても、正月明け程待たされるわけもないのだから、あの時開いた期間に比べたら我慢はできる、はずなので。]

  死ぬのが、怖い……


[人の声で、繰り返す。それは思ってもみない答えだった。

 椿は扉を開け、楓の顔を見上げた。
 彼は椿の知らない顔をしていた。]

[初めて、彼と自分は似ている、と感じたかもしれない。

 同じような存在であることは知っていた。しかし、何かが決定的に違う、と感じていた。彼には失いたくないものがあり、自分にはない。それが自分の空虚を、彼の強さを示すものだと思っていた。

 彼は与えられる死を恐れ、己は死を与えることを恐れている。真逆のように見えて、その実、どちらも自分のあるべき世界から“弾かれる”ことを恐れているのかもしれない。]

 
  私たち、少し似ているのかもしれない。
  貴方は、自分が自分の在るべき場所に居られなくなることを怖がってる……そんな、気がする。
  私は……あの人がいない以上、もう、居られなくなってしまったけれど。

  似ていても、そうじゃなくても、何も変わらない、けど

[彼と共に生きられるわけではない。
 生きられたとして、何も変わらない。
 一人と一人、それ以上のものにはならない。
 わかっていても、どこか共通点を見出したいのかもしれない。それもあさましい心のように思えて、やっぱり出口はない。]**

[涙が浮かぶ顔を隠した手は落ち。
彼の唇により、雫を吸われてしまう。ぁと小さく啼いた声と、惑う瞳で彼を見つめた。指を食べる淫花は奥まで来てほしがり。変わる体勢に、ふるっと震えた。このキャンプを提案したのは自分の方だ、彼と過ごす時間が増えれば、いい。そう思ったし、二人っきりで過ごしたいと思っていたから。けど]


 ……寿? んっぁ


[ほんの少しだけ戸惑ってしまった。
彼が自分の身体を気遣ってくれているのは知っている。知っていても堪えの利かぬ身は、悶え、性を欲しがるのだけど。少しだけ。という言葉とともに、屹立が臀部に擦りつく。

それは、以前彼と交わったときのことを思い出させた。
性行為の途中でコンドームが破けたときの事を]



 ……はぁ…ん
  少し、だけなん?


[少しじゃなくて沢山が欲しい。
そう雌の本能がいう。やぁやぁ、沢山ちょうだい。と啼いてしまいたくなる唇を指で押さえ、すりすりと懐く刀身の形を意識して、彼の熱を多く味わおうとしてその肩に片手を乗せた。甘くほぐれた箇所が、彼の雄を飲んでいく。]


 ……ぁ あぅ


[薄皮一枚。それが無い。
直に感じる熱に震え、悶えて支える手は彼の肩を強く掴む。指で解かされていた媚肉は大きな質量を喜ぶように添う。彼の形を覚えた場所が開いていく。最初は少しだけ、いれるだけ。中で出さないから。彼はそういった。腰を揺らめかせ、自然と上下に揺れて彼の熱を出し入れしようとして]


[置いて行かれるのは辛いだろうなあと思う。
 だけど、天美が不死になるのも嫌だなあと思う。

 俺が死ねれば、本当は一番良い。]
 


[本当に、一番良い。]
 

[山の天辺や、帰ってきた後。
 自分の空腹は弁当でだいぶん満たされていたけれど、
 天美の方はそうではなかっただろうから。

 ちょいちょいと相手にも飯を食わせた。
 どれくらい食われるかは天美次第であったが。]



 …はぁ …ん 
   少しだけ…なんて無理やんっ
  搾りとったるっから !


[唇は妖艶に笑い。
そのまま、彼の熱源を扱くように腰を振りだそう
卑猥な音が波うつ湯船の中から溢れだす。彼の精を搾りだそうと動く腰は彼の雄を咥えては上下に揺れて。そのまま絶頂まで我儘に蹂躙しようとするが。]


 天美、

[小さく呼ぶ。
 頭を腹に寄せ、寄りかかった。*]



   ……


[そう、本来なら煽って煽り倒して
際限なく求めさせたかった。けど、彼に抱かれる事を覚えた身体はこらえ性がきかなくて、先ほど一度抱かれたせいか、奥が精液を、彼を欲しがってやまず。足りなかったのだとばかり、揺れる腰の奥で啼いた。湯舟が波打ち、浴槽からお湯が溢れでる。

そんな中、涙を零し。堪忍をまた自分は綴り。
哀願を見せる唇は]


 ……達也……ぅ …奥に

    きて …

[彼の唇へ噛みつき。
奥に彼の熱を迎え入れようと腰を浮かす。
自分で良い処を当てるよりも彼に抱かれる方が気持ち良いと覚えた身体は1人善がりより彼との性交を求めて、抱かれたがり・
最奥で鈴口とキスをしようとした*]

[開くとは思っていなかった扉が開いて、楓は戸惑って顔を背けた。

 似ている。
 そう表現されて横目で彼女を見て、少し考え込んで、また目を逸らす]


  在るべき場所、……


[人間だった頃なら、疑いの余地もなくそうだっただろう。
 けれど人間でなくなった今は?
 そこに留まりたいがために多数の人間を犠牲にしてきた今は?
 それでもそこは在るべき場所なのだろうか。

 そうではなくなったとわかっているからこそ、自分が変わってしまったことを隠し、重ね続ける罪を隠し、必死にしがみついている。
 それこそが現実なのではないか]

 
  ……椿……、オレはさ。

  夢を見たんだ。
  人狼殺して生き延びた、その夜に。


[楓はおもむろに口を開き、吐息のような声で語った。視線は逸らしたまま]


  狼になって、身近な人たちを喰う夢だ。
  友達も、惚れた女も、親方も、仕事仲間も。

  誰喰っても美味くて、こんな美味いものは初めてだって、
  一人も残さないぐらいの勢いで喰い続ける夢。

  それで夢中になってるうちに銃声が聞こえて、
  目の前が真っ暗になって……目が覚めた。
 

 
  最悪な夢だった。……けど、


[一度言葉を切って、息を小さく吸い、ゆっくり吐き出す。それから静かに言葉を続けた]


  本当に最悪だったのはその後……
  故郷に帰って、実際にみんなに会ってからだ。

  誰を見ても食欲しか感じられなかった。
  みんな本当に美味そうだったよ、
  すぐにでも食べたいぐらいに。

  それで確信した。いつかオレは“やる”んだ、って……


[悪夢はただの夢ではなくて、予知夢にも近いもの。
 身近な人たちに抱いていたどんな感情も全て“食べたい”に侵蝕されていた。
 あの瞬間に何もかも失った気がしたのに、なぜ、まだそこにしがみついているのだろう]

 




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寿 達也
6回 残----pt

 

緑山 宗太朗
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隣で雲の上に暮す

黒崎柚樹
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夢から帰還

緑山 美海
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雲の上も綺麗だね

“椿”
0回 残----pt

ここにいます

要 薫
6回 残----pt

 

天原 珠月
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月島 雅空
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天美
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