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人狼物語 三日月国


184 【R-18G】ヴンダーカンマーの狂馨

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【人】 修復師 ラシード


[行き交う足音、蹄の音、車輪の軋む音。
歌うような呼び込みを繰り返す女の声に、
荷を運ぶ男たちの合図。音、音、音。
陽光の下の市街地に満ちる営みの証、
血肉の通ったその数々を、潮騒は等しく包み込む。

喧騒の中、ふと地図から顔を上げた首魁。
一瞬交わる視線の先>>56、コートの男は
あっという間に群衆の波に紛れて消えただろう。
其処に言葉は無く音も無い。会釈ですら、ない。
されど若き首魁は、その刹那の邂逅のみで
計画が何一つ滞ることなく進行し
今日という日を迎えた事実を理解した。]
 
(75) 2022/11/05(Sat) 21:42:59

【人】 修復師 ラシード


[彼の手元の地図、青い顔料で塗り潰されたエリアは
“協力者”たる学星院上層部の管轄下にして不可侵領域である。
アスター家現当主、ブランドンとの接触と内通は、
海と民、そして魔術に守られた強固な宝箱をこじ開けるという
無謀とも言える彼の計画に福音を齎した。

キュラステルにおいて絶大な力を誇る研究機関
───島内部への影響力も、政治力も持ち合わせている集団だ。
保存施設の警備形態>>37の情報分析から活動の資金繰り、
『修復師』の身分保証、”呪香”の拡散シミュレーションまで。
工匠組合が計画を実行する上で
消化すべき課題は多岐に渡ったが、
その幾つかの達成を、彼等は担ってくれたのかもしれない。

だが、代償もゼロではなかった。
傍観者、そして観測者であることを望む学星院は、
彼等の領域が侵されることを望まない。
学星院の管轄下、研究成果を収める書簡の数々は
略奪の同胞を集めるための『餌』としてぶら下げられない。
……そしてそれを同胞候補に明かすことは、
学星院が関与していると暗に伝えてしまうことでもある。]

 
(76) 2022/11/05(Sat) 21:45:16

【人】 修復師 ラシード


 そっかそっか、この辺がお屋敷で。
 図書館は、あっちかぁ……。

[地図を広げながら、空を切り取る建物の輪郭を
視線でなぞりつつも。ぽろりとこぼれる不安げな声。
それもまた、無邪気な旅人としての演技だったのだろうか。
若しくは───内在的な不安の種だったか。

首魁としてはどうでも良い宝の山。
されど、様々な国の研究機関が
喉から手が出るほど欲しがるであろう宝の山。
警備や封印、様々な魔術を破る必要性に駆られながらも
この一夜ばかりの盗賊団は、研究者を仲間に迎え入れることが困難であり。
その点を学星院に依存せざるを得なかっただろうか。


仲間の選定は慎重に行った。
だがそれは────本当に上手く行ったのだろうか?

                        ]*

 
(77) 2022/11/05(Sat) 21:48:34

【人】 隻影 ヴェレス

 

 ──── 午後;美術館前、午睡の庭にて

 [足を止めればうとうとしてしまいそうな木漏れ日の中、
  写真機を手に見上げた野鳥を捉える。
  極小化されたラング機関を介して生成される写真は
  “見たままの景色を写し取るとは限らない”。

  微小な魔力を動力とする過程で
  使用者の思惑を部分的に出力してしまうのだという。
  外の世界では未だ辿り着けない、学星院の発明品だ。]

 
(78) 2022/11/05(Sat) 22:30:22

【人】 隻影 ヴェレス

 

 [その場で出力された写真は、
  白いはずの野鳥を鮮やかな瑠璃色へと変えていた。
  重たい写真機を首から下げ直し、息をつく。

  芸術は時折、学問と距離を置く為に重宝していた。
  表現者の様に思考のその先を鑑賞するでもなかったが、
  繁く通ったのでそれなりに目は肥えているつもりだ。

  ……何より、
  美術館において鑑賞者は人の目に留まらない。]

 
(79) 2022/11/05(Sat) 22:30:36

【人】 隻影 ヴェレス

 

 [白い美術館>>31の前に設けられた庭園は
  ある意味市街地の中にある野鳥の楽園でもあり、
  同時に思考整理の為の散歩ルートにも含まれていた。

  小さな背であちこちに写真機を向ける姿は
  背の高い植え込みに紛れてしまいそうで、
  “外見年齢”相応の行いにも見えることだろう。
 
あるいは、危なっかしい迷子にも……


  出力されたものは青い鳥、白詰草の四葉、
  針鼠に化けた土竜、蜥蜴がどことなく蛙めいたりと。

  何度も訪れた場所、何度も収めた被写体であっても
  写し取る度に現像される事象は異なる。

  夢中になっている内に、顔見知りの観覧客が横を通る。
 “また論文か? 気ぃ付けてな!”なんて声が掛かる。
  むしろ論文から離れる為の趣味と言えるけれど。]

 
(80) 2022/11/05(Sat) 22:30:57

【人】 隻影 ヴェレス

 

 [いつもこの辺りで見かける筈の門番>>32
  訪れた日時と気候と自分の姿とを記録してもらう為
  写真機を手渡して撮影を頼む心積りだったが、
  午後の時間帯故、丁度出会えるかどうか。

  相変わらず、頭上では見知った野鳥が囀っている。*]
 
(81) 2022/11/05(Sat) 22:31:10
隻影 ヴェレスは、メモを貼った。
(a15) 2022/11/05(Sat) 22:35:53

【人】 警備員 ジュード

 
 ── 昼:美術館にて ──

[空気の落ち着くお昼の風は
なんとも言えない心地の良い微睡を誘う。
それは勿論、この美術館でも例外ではない。

入口を入ってすぐの所に置かれたベンチでは
透かし窓越しに入る光の中、一人の利用者が
うとうとと居眠りをしていた。

傍らに置かれた大きな鞄やイーゼルを見るに
朝からここで勉学に励んでいたのだろう。


見張りの合間にその光景に気づいた男は、
安らかな寝顔に今日も変わらぬ平穏を感じて、
少し、故郷のことなんかを思い出していた。]
(82) 2022/11/06(Sun) 0:10:08

【人】 警備員 ジュード

[多くの国では種族間の争いが絶えず、
同種間の争いさえ起こりうる時代の中、
ガライカは、おかしな程に平和であった。

清流が流れ、多くが実り、
温暖な気候に恵まれたその土地が
何故侵略されずに有り続けられたのか。

まとめてみれば、単純な話。

個人単位でさえ、触れれば身体を爛れさせる毒を溢し、
村規模の恐慌に陥れば、数多の命さえもを奪いかねない。
そんな毒を持つ民ばかりが住む土地に
他の種族が住むことは叶わなかったからだ。

だからと非道で強行的な手段をとれば、
彼らから流れた血が、毒が、恐怖が、
肥沃であった土地を、更には川沿いの広い地域を汚すだろう。

彼等を言いくるめて土地から追い出すにしても、
追い出した民をどの領土の土地に置き
「汚染された不毛の地」を作るのか。

落としどころは、容易に決まるものではない。]
(83) 2022/11/06(Sun) 0:14:49

【人】 警備員 ジュード

[結局、ガライカの土地を侵すものはなく。

いくつかの国と交易を行ってこそいたが、
意図的に、その土地には戦が持ち込まれず。
伴い、”文明”も持ち込まれるのにも
ひどく、時間がかかった。


幼い頃の男とその兄は、
比較的、新しいものに興味をもっていたが。

それでも、今、キュラステルのベンチで眠る彼女のように
何時間も新たな文化の受容に時間をかけた記憶はなかった。


……”より高み”を目指すには、
恐怖を遠ざけすぎた土地。

故にこそ、ガライカは酷く平穏な
袋小路の楽園だったのだ。]
(84) 2022/11/06(Sun) 0:16:31

【人】 警備員 ジュード

[── しかしある時。
村に、僅かな悪意が忍び込んだ。

そう、今思えば
かの国にラング機関が普及し、
飛躍的に研究技術が向上した頃の事だ。

……隣国からガライカへと
『研究協力者の募集』が送られてきたのは。]
(85) 2022/11/06(Sun) 0:18:12

【人】 警備員 ジュード

[……ごおん、ごおん、と。
微睡から人々を呼び戻すように
昼時を示す時計の鐘の音が館内に響き、
しばしの間考え事をしていた男も
ベンチで居眠りをしていた人も、
その音で、思考を引き戻す。

もしかすると、お寺の方でも
いつもの鐘が鳴らされていただろうか。]


 ……ん、そろそろ交代の時間ですかね!
 

[ここの鐘がなったとなれば
そろそろ見張りの交代の時間。
つまり、お昼ご飯の時間である。

男は、朝方に島民と話した
今日の仔狐亭のおすすめがずっと気になっていて、

早く交代の人が来ないものかと
そわそわと外の方をみていたのだが、
そうして眺める庭園の中にふと、人影を見つける。>>80]
(86) 2022/11/06(Sun) 0:25:28

【人】 警備員 ジュード

 
 ……あっ!ヴェレスさん!こんにちはーっ!
 お写真撮ってるんですか〜?


[迷子だろうか?とよく目をこらして見てみれば
視線の先に居たのは、時折此処の庭園に来ている
少年とも青年ともつかぬ彼だった。

男は研究などの高尚な趣味は持たなかったが、
保存施設に勤める以上、星学院の名は知っていたし
いくつもの功績が収蔵されている事も知っていた。
そして、指導者たるアスター家の名も
何かの書面や噂話で知っていただろう。

しかし、過去に次男坊たる彼を迷子と見紛えて
「ご家族は?」なんて聞いた時の返事によっては、
彼を「不思議な写真機のひと」と認識した可能性がある程に、
その家庭の事情の殆どに対して、無知であった。]
(87) 2022/11/06(Sun) 0:36:03

【人】 警備員 ジュード

[待ちわびた交代はなかなか来る気配を見せないが
流石にもうすぐ来るだろう……と思い、
男は持ち場を少し離れ、写真機>>78を持つ彼に近寄っていく。

そして、今日はどんな写真がとれましたか?なんて言って
出力された写真を見せてもらおうと様子を伺った。


そうする間に写真の撮影を頼まれたなら>>81
男は快諾しながらも、ずしりとした重みのある
繊細らしい機器を手にする緊張に、言葉を呟く。]


 ……こういう魔術器って、すっごく繊細っぽくって
 なんか、触るのどきどきしますね……!


[もしこれが何度目かの撮影であっても
男は毎回似たような事を言っているだろう。
文明の遅れていた男には、ラング機関による写真機は
まるで夢物語に出て来る賢者の持つ宝物のようだった。

そんな宝物を落さないように
男はしっかりと写真機を首にかけると、
今度は風景などを映し込むに足るだけの距離を取って、
こっちむいて〜!なんて声をかけつつ写真機を構えるだろう。

ただ、持っているのも少し緊張するのか
撮影が終わったら、写真機はすぐに返すかもしれないが。*]
(88) 2022/11/06(Sun) 0:50:23
警備員 ジュードは、メモを貼った。
(a16) 2022/11/06(Sun) 0:57:12

【人】 修復師 ラシード


[昼を告げる鐘が鳴る。
信仰が撞く鐘が鳴る。>>50
何も知らない人々の耳にも、
暗躍する者たちの耳にも。
平等にその音色は響くのだろう。
低く、深く、重く。

蒼天を往く太陽の歩みと共に、
刻々と、その時は近付く。]
 
(89) 2022/11/06(Sun) 0:58:14

【人】 修復師 ラシード

─ 午後:第七キャビネット 入口 ─


 はい、はいそうです!
 遺物修復工匠組合から参りました。
 ラシード・ヴルファです。

[建ち並ぶ煉瓦造り、その一角の扉の前。
聡く用心深い警備員の昼休憩>>86を。
切り替えというタイミングを狙いすましたかのような時刻。
サラマンドラの彼の持ち場と同様に、
交代が多少遅れた>>88のか
(はたまた、遅らされたのか)

集中力の途切れ始めた警備員の前に、
修復師を騙るそれは現れる。]

 本日はどうぞ、宜しくお願い致しま、
 ……あ、す、すみませんっ。
 遅めの朝食を摂ってから来たので……お恥ずかしい。

[工具箱を片手にぺこぺこと頭を下げつつ、
口元に付いたソースを拭う若い男。
成人としての頼りなさと、子供のような親しみやすさは
鍵が壊れている。この隙に不埒を行う輩が出ないか不安だ───という意識から、
この職人は本当に仕事が出来るのか?・・・・・・・・・・・・・・・・という別の不安感に、首を挿げ替えてみせる。]
(90) 2022/11/06(Sun) 0:59:28

【人】 修復師 ラシード


 後ほど助手が到着すると思いますので、
 彼も通してあげてください。
 僕よりも一回りくらい年上の、ええ、
 ……情けない話、伝魔油を忘れてしまいまして。
 職人街の方に買いに行ってもらってて。 

[土地勘のない場所ですから、もう少し遅れてしまうかも。
なんて苦笑を添えつつ、自称修復師は工具箱を両腕に抱え直した。]*
 
(91) 2022/11/06(Sun) 0:59:57
修復師 ラシードは、メモを貼った。
(a17) 2022/11/06(Sun) 1:05:26

【人】 医者 ノーヴァ



[老いた肉体は脆く、壊れやすいものだ。
年月を過ぎる度に持ち得た耐性は擦り切れて、ないも同然になる。

そこに這い寄る病魔の手に落ちる寸前の彼等の瞳には、失うものなど何もないかのように見えることもある。

眼前の老婆の目に映る僕の姿は─────…………]


(92) 2022/11/06(Sun) 2:18:33

【人】 医者 ノーヴァ



    ……噫、チグサさん、これね。
    年のせいだと思いますよ。
    特にここ、腰の炎症。筋肉が弱ってますね。


[毎度のように額を突き合わせ、困り眉で笑みを浮かべる。
常日頃の繰り返しのようなものだった。けれど、億劫な顔は絶対にしない。
些細なことで、長い人生は急に途絶えてしまうものだから。

「どんなちいさなことでも、私たちを頼ってくださいね」

カルテを抱えながらそう言葉をかけるジェインは、嘗てマリッジ・ブルーになった時、彼女に悩みを聞いてもらっていただろうか。
異性でもあり、身体的なことしか口を出さない己にはどうしようもできない問題だったから、助かったこともあるのかもしれない。

……もう長くはない彼女の終わりを惜しむ人は山ほどいるのを知っているから。]


 
(93) 2022/11/06(Sun) 2:18:56

【人】 医者 ノーヴァ



[自分が精神を治すことが出来ないように、彼女も肉体を治すことは出来ない。
常日頃から顔見知りでもあり、つい日中にワクチンを投与したその住職が急患として運び込まれてきた時は、流石にこちらも動揺が隠せなかった。


  「チグサさーん、大丈夫ですかー?
   返事はできますかー?
   この光が見えたら教えてくださいねー!」


冷製を装った呼びかけに応じられることもなく。
嗄れた指が暴れるようにシーツを這い、薄く、みるみる閉じてゆく瞳には光がない。>>63
微かに痙攣する症状、今までの患者の生活態度から逆算し、心当たりはそれしかないと推測を立て。

額を押し当てる前に、やれる限りの対策を立てた。
思いつく限りの解毒じみた薬品を用意させ、管で繋いで。オペの有無を必死で試行錯誤して。
何十年にも感じられる一分一分、時間との戦いだった。

薄く開かれた老婆の瞳孔が広がらぬようにと心の中で祈りながら。]


 
(94) 2022/11/06(Sun) 2:19:18

【人】 医者 ノーヴァ



[まだ眠ってはいけません。力尽きてはいけません。
……“あちら側”へ行って仕舞えば、二度と戻れなくなるから。

   
貴方はきっと、誰かの“大切”なのでしょう。


刹那、漸く額を押し当てて、腕の方へと擦り寄っていく。
注射針の跡が薄く残る左腕に触れれば苦々しげに唇を噛み締め、適切な処置を施したのだろう。

……誰かの、人の“大事な”命は失われるべきものではなくて、それを守ることが自分の仕事なのだから。]


(95) 2022/11/06(Sun) 2:19:30

【人】 医者 ノーヴァ



[───……夜。
全てが終わり、見回りに訪れた自分の視界に現れたのは、苦しそうな姿勢で手を合わせる住職の姿だった。>>65

なんとなく恥ずかしいような、照れ臭いような、さまざまな感情がごちゃ混ぜになって思わずランプを追いやるように腕を真横に伸ばしていた。
きっと今の自分はその炎よりも赤い顔をしていただろうから。]


  ……そんなに拝まれるようなことはしていませんよ。
  貴方が無事で本当によかった。
  身体は暫く不自由でしょうが、
  通常通りの生活が送れるようになるはずです。

  ……これからは、
  ワクチンについてもしっかり考えていきましょうね。
  僕も拝むことができるように。……なんて。


[いつもよりも辿々しい口調だが、医者らしい言葉はかけられたはずだ。
今はただ、ひとつの限りあるものを救えたことで胸がいっぱいで。
戻った後、疲れの残るクマを目元に刻んだ儘涙ぐむジェインに爆笑されないかだけが心配だった。

心の救済者のメシアになれるのは、自分だけの特権なのだろう。]

 
(96) 2022/11/06(Sun) 2:19:52

【人】 医者 ノーヴァ


[……そんな思い出を浮かべたのは、昼を告げる鐘の音が自然と耳に入ってきたから。>>50 >>89

そういえば昼餉の時間だと思い立ち、直後貯蔵庫に蓄えがなかったことも同時に思い出す。
そそくさと軽い上着を着込みつつ、簡単なものを買いに外へ繰り出すことにした。

……この魔族、医師にしてすごぶる寒さに弱いのである。]


    [仕事詰めで世間を知るには時間が足りず、
    情報源といえば少しお喋りな看護助手や
    訪れる患者との会話でしか得ることはできない。
    銀鷹公からも警戒対象として見られているせいか、
    島の新たな訪問者のことは聞くこともなく。>>3 ]

    (南京錠?“僕は”壊した覚えがないからなぁ……)



[秘密裏に進む、襲撃者たちの無差別な崩壊遊戯のシナリオも、医師として足掻く術もない運命も。
今ここにいる存在全てが掌で転がされていることになど察することなどありもせず。**]


 
(97) 2022/11/06(Sun) 2:20:05
医者 ノーヴァは、メモを貼った。
(a18) 2022/11/06(Sun) 2:21:36

医者 ノーヴァは、メモを貼った。
(a19) 2022/11/06(Sun) 2:21:48

【人】 住職 チグサ

── 昼:慈厳寺にてヴェレスと>>70>>74 ──

[ばうむくうへんの甘やかな香りが、ほうじ茶の柔らかい湯気にふわふわと乗っています。>>70
 香りに誘われたのでしょう、開け放した障子戸からは、昼の風がそよぎこみました。
 お寺の客室は畳敷きに座布団です。
 靴と椅子の文化の方にはさぞかし違和感がありましょうが、若いお客人は不平不満をおっしゃることもなく、正座しておられました。]
(98) 2022/11/06(Sun) 10:09:37

【人】 住職 チグサ

[独特なお経の節回しには、心を落ち着かせる力があります。
 多くのお方はその力に魅せられて(と言っておきましょう)、あくびをかみ殺しておられます。
 単調で意味の分からぬお経に耳を傾けるのは、同業のお方か、迷い苦しんでおられるお方ぐらいのものでしょう。
 生きていて肉体を持つ私には語れずとも、神仏の前で、胸奥でなら、その迷いを素直に見つめられるでしょうか。>>71

 お経とは本来、生きる智慧を説いた詩のようなもの。勇気と力を与えてくれるもの。
 にもかかわらず、お経が退屈なものになってしまったのは、利口ぶってやたらと儀式化し、意味を分かりやすくお伝えしてこなかった私達僧侶の責任でしょう。
 世俗から離れ、己が研鑽を詰み、迷いや苦しみから逃れ、究極の安心を得ることが、仏教徒の目指すところ。
 しかし同時に、迷い多き世俗の渦中で社会を支え、もがき生きておられる方々にも、もっとできることがあったのではないでしょうか。
 経典の意味をお伝えするお勤めを、図書館だけにお任せしてはいけなかったのです。]
(99) 2022/11/06(Sun) 10:10:23

【人】 住職 チグサ

[地獄という場所があるのか。それは私には分かりません。
 まだ生きていますから。
 私には分かりません。故人の魂が、死後、望ましい弔いによって救われるのか。
 ただ確実に分かることは、誰もがいつかは死ぬということ。
 誰もが死ぬまでに、故意か無自覚かにかかわらず、罪を犯すということ。
 だから誰もが、神仏の前での懺悔を必要とするのです。
 生きておられる人にお預けするには重たすぎる己の罪科を、本当に見守っておられるかは分からない、けれどそうであると信じて大いなる神仏に告白し、己が行いを振り返ることが。]
(100) 2022/11/06(Sun) 10:12:50

【人】 住職 チグサ

[お若い方に読経をしながら、神仏に向けて私もまた懺悔しましょう。
 彼のお母さまの死に胸を悼めながらも、どこかで私は安心を得ています。
 その死が、私に近しい人々に訪れなかったことを。
 私が我が子と定めたお弟子さん達、人生を共に過ごした戦友に訪れなかったことを。
 そしていつ果てるともわからぬ老いた身でありながらも、我が身に訪れなかったことを。
 この安心は慈悲ではなく、ただの本能、我が身可愛さによるもの。
 見ず知らずの他人の死を、我が身に起こった悼みのように捉えられない、身勝手な病。
 私にはまだ、捨て去らねばならぬことがたくさんある。
 そのことを若いお客人から学ばせていただきました。

 執着を捨て去るために──

 
私もまた、お客人と同じ緋色の呪布を受け取ったのです。

(101) 2022/11/06(Sun) 10:14:55

【人】 住職 チグサ

[読経を終えた後でしょうか。
 まだ迷いの中におられながらも、幾ばくかは落ち着いたご様子でした>>72。]

 お母さまもまた、遠い土地に来られて、様々なことを思われたのでしょうね。
 あなたはお母さまのお心が変わりゆく様を、幼き頃から見つめておられた。
 さぞかし切ない思いをされたことと、お察しいたします。
 
[それから、言葉が見つからなくなってしまって、しばらく口を噤みました。
 沈黙の間に、彼もまた思うところを探っていたでしょうか。>>73
 淹れたお茶はすっかり冷め、いただいたばうむくうへんも乾いてしまったように感じます。
 風が吹くたびに落ち葉が泳ぎ、乾いたさざめきをあげていました。]

 ……ご冥福を、お祈り申し上げます。

[やっと、そのようにお伝えしました。]
(102) 2022/11/06(Sun) 10:15:44

【人】 住職 チグサ

[若いお方の時間をいつまでもいただくわけにはまいりません。
 慣れない手つきで掌を合わせる>>74に、自然と苦笑いが漏れました。]

 買い被りですよ。
 地人も、獣人も、魔人も、全て。
 およそ言葉を持つものは、悪口の中を生きています。
 僧侶とて様々な方がおられますから、街中となんら変わりはありません。

 ありません、が──いつでもいらしてください。
 言葉を持たぬ自然が、癒してくれる心もありましょうから。

[そのようにして、光注ぐ外へとお送りしたでしょうか。
 夕暮れは、まだ、遠い。]
(103) 2022/11/06(Sun) 10:16:28

【人】 住職 チグサ

[境内から去る前に、もう一度声をおかけしました。]

 差し出がましいことを申し上げますが──どうかお忘れなきよう。
 この世界のどこにも、既にあなたのお母さまはおられない。
 あなたがお母さまを見つけられるとすれば、ご自身の胸の内だけです。
 あなたが「天に召されず、無念のままに果てた」と思ったなら、そのように。
 あなたが「多くの苦難があったけれど、それも含めて母の人生だった」と思ったなら、そのように。
 お母さまは肉の体から離れられました。
 その姿かたちは、あなたの中で、如何様にも変わっていくでしょう。

 あなたのお母さまを安らかに眠らせられるのは、私ではありません。
 この島でも、国でも、神や御仏でもありません。
 そのようなお力を持つお方は、ただ一人、あなた自身だけ。
 どうか、そのことをお忘れなきよう。

[お弟子さんでもないお方に口出ししても、うるさいばかりでしょう。
 それでもお説教をせずにはいられないのは、和尚の性でしょうか。
 深々と合掌しながら、心の中でだけ、「いつも応援しております」と唱え、お見送りいたしました。]**
(104) 2022/11/06(Sun) 10:17:18