【人】 鈴掛 未早―― 回想:1st day [ 帰ってきた家は静まり返っている。 今日も母さんは仕事でいない。 生きている時間が違うというやつだ。 「よくあること」でしょ? たぶん。 なんだか気力がなくて、 適当にカップ麺作って食べて そのまま自分の部屋に戻って、 倒れ込むようにベッドへ身を投げ出した。 勢いでヘッドボードから降ってきた 紙の束…… 楽譜が顔面に直撃して呻く。 片付けはどうにも苦手だ。 部屋のそこかしこに置きっぱなしになって もう散乱しているに近い楽譜の数々は 部活で使っていたものからもっと前のものまで。 片付けなきゃなって思うけど、 ただそれだけの行動がいつまでも起こせない ] (209) 2022/10/17(Mon) 22:51:41 |
【人】 鈴掛 未早[ 数え切れないくらい耳にした言葉だ。 悔しくて泣いていた子供の頃から、 どこかで諦めがついてしまった最後の方まで。 コンクールの結果発表が終わると、 あの人はいつもそう言って慰めをくれた。 講師というには少し若く見える、 人好きのする雰囲気を持った青年の姿を、 あの頃の私を知る人物なら知っているかもしれない。 私が師事していた「先生」は、そういうひとだった。 母の知り合いの、当時音大生だったそのひとが 色々あって破壊的にお金に困っている時に、 「それならこの子にピアノを教えてくれない? ちょうど何か習い事をさせたいと思ってたの」 なんてアルバイト的に教えさせたとかなんとか。 さすがにそんな最初の頃の記憶は 遠すぎてぼやけて思い出しがたくなっているけど ] (211) 2022/10/17(Mon) 22:52:36 |
【人】 鈴掛 未早[ 音楽が好きだった。 知らなかった曲も、練習すれば上達して 弾けるようになっていく達成感が好きだった。 人前に出るのが苦手な子供にとって、 たびたび出るコンクールの舞台は荒療治的だったけど 今でも付き合いがあるような友人に 出会うことが出来たのもその場を通じてだったし。 でも、一番にはなれなかった。 ]きらきらした光は、いつだって他の誰かの上 私でもすごいと思うぐらいの、雲の上。 私はピアノが好きだし、 ミスなく弾きこなすことはできたけれど、 人の心に響かせることは、できないらしかった。 (212) 2022/10/17(Mon) 22:53:00 |
【人】 鈴掛 未早[ 知ってる人も多いだろうし、 音楽に限った話でもないのだけど 芸術の道に進むのはとにかくお金がかかる。 持ってないことをわかってしまっていた私は、 進みたいと言い出す勇気を持てなかった。 持つより先に、とある事情から それは許されないことになって、時が流れて今に至る。 どうしようもないことだ。 どうにだってならないことだった。 ] (213) 2022/10/17(Mon) 22:53:35 |
【人】 鈴掛 未早 [ 才能が、希望があると思うならきっと、 それでも「続けなさい」って言うものでしょ? どこかの誰かの親御さんが奇跡を信じたように …… 親心ってそういうものなんじゃないの ] (215) 2022/10/17(Mon) 22:55:35 |
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