87 【身内】時数えの田舎村【R18G】
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あまり手の入っていない、雑木林の中を分け入って少し。
今はもう、誰も参る事の無い、寂れた神社。
昔もお婆ちゃんっ子やお爺ちゃんっ子でもなければ
この場所の存在は殆ど誰も知らなくて。
だからここは、今も昔も二人だけの秘密基地だった。
「みんなは来てくれるかなあ」
月日に埋もれる事も無く、今も形を保ったままの石畳を踏んで
一人ぼっちの王様は、ここじゃなくてもいいやと笑う。
「来ないってことは、
他にもっといい場所があるってことだものね」
「ひとりじめなんてずるいから、それなら探しに行こうかな」
「だってみんなの秘密基地は、一つだけじゃつまらない!」
誰もいない家で一人眠ることになった、そして、再び川辺には訪れなかった。
村で見かけられなくなった。どこに泊まったかも誰もわからない。
| 「……いやいや、全然!そんなことないですよー! え?あはは、やだなあお婆ちゃんったら…うん? うん、わかった!モモチに任せて!」
それじゃあいってきます、と言って広い玄関を潜る。 まだ来て数日も経っていないけれど、涼風の祖母は優しくて。 よそよそしさは殆ど消えて、既にもう一つの家のようだった。
それから、今日は何をして遊ぼうか、と考えて 川遊びをしていた時、卯波や夕凪が 近くの海について話していた事を思い出した。
「……海、海かあ… みんな、誘ったら来てくれるかな?」 (2) 2021/08/12(Thu) 22:16:29 |
| 百千鳥は、昨日のように目に付いた人に片っ端から誘いを掛けて回った。 (a5) 2021/08/12(Thu) 22:17:29 |
| 百千鳥は、夕凪の事も探しに行った。遊びに行くなら、みんなと一緒がいい。 (a6) 2021/08/12(Thu) 22:18:35 |
あまり手の入っていない、雑木林の中を分け入って少し。
誰も来なくなってしまった、秘密基地。
月日に埋もれる事も無く、今も形を保ったままの石畳を踏んで。
違和感に気づいた、もしかしたら自分だけ。
「―――なれなかった」
聖なる乙女のような君になりきる事が出来なかった。
自分は誰も導くことが出来ない子供のまま。
なりきれなかった自分は何か大切なことを忘れている気がする。
どうしてここにいるんだろう、何を忘れているんだろう。
夕凪がここにいたい理由は――――。
遊びたいか ら ?
『強く思い出さなきゃ。
”この田舎”に縋る以外にすることがあるはずって、伝えるんだ』
「あそびましょう、狼さん。
なんだか向こうに狸さんもいるみたい。
面白いな、ずっといたい気分になってくる」
あなたの言葉を聞きましょう。
あなたの楽しいことをしましょう?
あなたと一緒に過ごしましょう。
それが、夕凪にとって幸せなことになるはずだから。
みんなの秘密基地は、やっぱり賑やかじゃないと寂しいから。
百千鳥
夕凪はいくら探して見つからなかった。
だけどあなたが誰かに声をかけている内にひょっこり顔を出す。
自然の香りを纏わせながら、夕凪は楽しそうに笑いかけただろう。
「モモチくん海に行きたいんだって?
夕凪が運転しようか、昨日ぐっすり寝たから今日は元気なんだ。
やりたいことがあったら、何でも用意してあげる!」
「──ようこそ!」
一人ぼっちの王様は、待ちわびたとばかりに来訪者を出迎えた。
「いいよ、いいよ、一緒にいつまでも遊んでいよう。」
迷夢の中に、甘い肯定を投げ掛けて
「遊び相手だって、遊び場だって、いくらでもあるんだから」
「みんなもきっと、みんなの居るこの村が好きなはず」
どこまでも、幼気な夢を謳う。
「ずうっとここに居たいはず!」
きっと、皆がそうなのだと信じて疑う事も無く。
「だからみんなでずっと、遊んでいよう?」
| >>@0 夜長 「秘密基地?」 夜長からの問いを、ころりと首を傾げて復唱した。 人を探しているのはそれとなく聞いていたけれど 目の前の大人の人から、そんな言葉が出てくる事が あまり結び付かなくて、子供心になんだか意外だったのだ。 「うーんとね、今もあればだけど… たしか、あんまり使われてない海の家があったはず。 そこなら秘密基地になるんじゃないかなあ?」 それでも尋ねるからには何か理由があるのだろうと 秘密基地、の心当たりを一つ答えてみせた。 子供の行くような場所は、子供に尋ねた方が早い。 (3) 2021/08/12(Thu) 22:51:47 |
| >>+2「あ、夕凪姉! うん、昨日みんなが行きたいねって言ってたの思い出して!」 ひょいと顔を出した捜し人に、ぱっとそちらを振り向いて 問いに答えを返して、何をして遊ぼうかと考える内に 見付からなかった事の違和感など、遠くへ消えてしまった。 「そっか、車で行かないとなんだよね。 じゃあモモチ、もう少しみんなの事を呼んで来るから 夕凪姉にはその間に色々準備してもらっていい? えっとね…そうだ、夕凪姉は何して遊びたい?」 (4) 2021/08/12(Thu) 23:03:13 |
卯波の撮った写真は、現像もしていないのに、家に散らばっていた。
愛用のデジタルカメラと、『晶』と書かれたインスタントカメラを置いて、何処かへ行ってしまった。
寂れた神社の縁側に座って、
ふらふらと足を揺らしている。
「二番目。おまけ。
ついてくるもの。
枠の外だけの子。
あははァ……何も変わってないんだ」
心からの対抗心を向けて、
心からの嫉妬を向けて、
そうして受け取った感情は、
『あなたも大切だけど、
他にも大切な人がいる』
という残酷な言葉だった。
連れてきてもらった子の肯定が心に染み渡る。
田舎の外に対する想いが消えて、田舎の中の気持ちだけになる。
周りの景色の綺麗さが、ひたすら毒となって、
自分の身体を蝕む──そんな、思いだ。
百千鳥
「いいよー、任せておいて。
歩きでも行けると思うけど、持ち物は車が楽だからさ。
眠くなっちゃった人も運びやすくなるからね。
やりたいこと? 夕凪はスイカ割りもしたいし、泳ぐのもしたいな〜。
あとはー」
あたりを見渡して、頬に指を当てながら子供のように何かを考える。
「みんなを巻き込めたら何でも!」
例えばビーチフラッグ。
例えば本格的砂のお城建築など。
他の貝殻集めや女の子らしい提案は夕凪からは出てこないようだった。
「……カメラ、何処か行っちゃった」
唯一の取り柄であった、
思い出を四角に切り取ることすらできない。
劣等感に押しつぶされそうだ。
「……」
微笑む。
いつか自分がカメラに映るために練習した笑顔は、
自分の心を覆い隠す殻となって顔に張り付く。
それでも、抑えきれない涙を、
指先で拭って──ふと、手を見つめる。
また頭がちくりと痛む。
言いようのない違和感だけが、そこにある。
自分の華奢な指先と、青年らしいしっかりとした指が、交互にチラつくのを見た。
| >>@1 夜長 「母さん……えっと、雪子さん、だよね?」 大人の大きな背を見上げて、念の為にもう一つ尋ね返した。 狭い田舎の中だから、人の事はすぐに覚えられるけど それでも念を入れて悪い事はない。 「ううん、案内するくらいなら全然! 秘密だから秘密基地、っていうのはわかるけど… ひとりじめはずるいし、他の誰かに見つかっちゃう場所なら そもそもそこを選んだのが大失敗!それに……」 まだまだ子供の少年は、にっかり笑って言い切った。 「かくれんぼだって、見付けてもらえなきゃさみしいもん!」 (7) 2021/08/12(Thu) 23:33:30 |
| >>+4 夕凪 「やった!」 了承の言葉に飛び跳ねんばかりに喜んで それから、羅列されるやりたい事、にふんふんと頷いた。 「わかった!じゃあモモチ、みんなの事呼んで来るね! 清和も翔兄も、引き摺ってでも連れて来る! あと今度こそ着替えてサンダル持ってって…」 その中に、女の子らしい遊びが含まれていなかった事は 百千鳥にとっては、幼い頃に一緒に遊んだ夕凪が 今も変わらずそこに居るようで嬉しかった。 モモチもスイカ割りやりたいなあ、なんて 海でできる遊びを指折り数えてから、 集合場所を決めて、また皆を呼び回りに一度別れただろう。 (8) 2021/08/12(Thu) 23:47:46 |
境内からでて、自分の家へとまっすぐ進む。手入れのされてない雑木林を、まっすぐ。
秘密基地は、みんなの国。
一人きりの王様は、ある時不意に、二人の迷い子に呼び掛けた。
「ねえ、みんな!」
「
みんなは誰と遊びたい?
」
「アタシ達、きっと二人が連れて来てほしい人を連れて来るよ」
「一番に遊びたい人を呼んで、それからいろんな事をして遊ぼう」
「──いつまでも!」
/*
という事で墓下のお二人に次回襲撃先のアンケートなのじゃ!
とは言っても妾、黙狼どのの襲撃先は本当に自由にしてほしいと思っておるからの
だから絶対に連れて来る事ができるとは言えないのじゃけど、
妾一人で決めてしまうのも勿体無いから是非お聞かせ願いたいのじゃ!
あくまでも参考にしたい程度のものじゃから
ロール的にはこの人が居てくれたら嬉しいな、くらいで
あまり気負わず答えてくれると嬉しいなのじゃ!
いずれはみなを連れて来たいの……のじゃ……のののじゃ…
| >>@2 夜長 「まっかせて!モモチ隠れるのは下手くそだったけど、 探すのはけっこう得意だったから!」 しんしんと降り積もる言葉に得意げに胸を張って見せて、 それから付け足されたお願いと問いに肯定を返した。 「うん、わかった!まだまだみんなを呼ばなきゃだから またあとでね、和臣さん!あ、そうだ…」 ぱっと手を振って別れようとして、ふと思い当たる。 「モモチ、でいいよ!」 まだまだ子供と言って差し支えない少年は、実に子供らしく 自分の言いたい事だけを言い残して駆けて行くのだ。 (10) 2021/08/13(Fri) 0:54:21 |
| 百千鳥は、一度振り返って夜長に手を振った。「またあとで!」 (a12) 2021/08/13(Fri) 1:04:08 |
昨日向かった川辺に夕凪は一人で座っていた。
描き途中だったページに描きたされていくのは皆の姿。
「写真じゃ、ないし」
どこか気に入らなかったのかそのページを破ると一人一人の姿を書き始める。
編笠、青嵐、涼風、髪置……卯波、茜、百千鳥。
「みんな見た目変わったね、またしっかり顔を見たくなっちゃった。正確にかけないと悔しいし、……みんな忙しいかなあ。
ゆっくり羽を伸ばすだけじゃなくて、ずっとここにいればいいのにな」
夏の空に独り言を飛ばして夕凪は、あなた達を探しに行った。
誰かと会いたかった、スイカをくださいなと八百屋のおばさんとお話をして、誰かと会いたかった、スコップやバケツを色んなところから借りて、誰かと会いたかった、少し大きめの車を借りて、忙しないはずなのに疲れを見せずに楽しそうにしていた。
「晶兄、来てたんだ」
見てもないのに、そんなことを言う。
「……デジタルカメラもいいけど。
今はこっちじゃないとダメかな」
首に下げるためのホルダーを外して、
インスタントカメラの方に引っ掛けて、結ぶ。
そうして、思い出により近づいた卯波は。
ほんの僅かに、背と髪が伸びた。
子供が、成長でもするように。
相変わらず中性的な雰囲気はそのままに。
「──ふふ」
頭の痛みが、少しだけ楽になった。
寂れた社に背を向けて、
下草に埋もれかけた階段を下りて行く。
みんなを呼びに行かなければ。
次は誰を迎えに行こう、そう考えて
みんなは誰と遊びたい?そんな問いの答えを思い返す。
編笠。
青嵐。
涼風。
髪置。
鬼走。
その内の一人は、何れ来るだろう。
そんな漠然とした確信があった。
そして、その内の一人は──
「
本当は、二人がここに居るの、知ってるよね?
」
根拠なんて何処にも無いけれど、やはり確信じみたものがある。
たとえば、夢の中で、無根拠にそうなのだと思うように。
にんまりと笑って、一人呟いた。
「いじわるしないで遊びに来てあげればいいのに。
それとももしかして、恥ずかしがりやなのかなあ?」
「まあ、どっちでもいいか。
そうだなあ、アタシが呼ぶのはあの人にしようかな。
だって誘わないと来てくれなそうだもん」
脳裏に浮かぶのは、いつも寡黙でどこか顰めっ面の大人の人。
それでも優しいあの人は、自分達が待っていると言えば
きっと、この場所にも来てくれるだろう。
涼風 二日目 川
「成長した俺の写真……か。ふふ、期待に応えられるかな。
何か遊びに行くでもなければ暫くは暇だから、大丈夫です」
言葉の一つ一つが、
ちくちくと胸の内を刺していく。
気遣うような笑みに返した、満面の笑みの下はもう既に陰りが満ちていること、何も明かせない自分の内側を偽って接していること。
全部仕方のないことだと、わかってるけど。
約束を、ひとまずは快諾して。
「いつかはもっといい写真を撮れるようになって、みんなが近くにいなくても俺の写真が届くようにします。
例え未来がバラバラだとしても……みんなの人生に関われたら、いいな」
写真を見てもらって褒められるのは嬉しい。
だから、写真を見せることは、楽しい。
今は、それだけしか考えないようにした。
その後に何が起こるか、露ほども知らずに。
青嵐
「……青嵐くん! 駄菓子屋で何のよう?
夕凪が驕ってあげようか」
海に向かう前、村のあちこちを歩き回っていた夕凪は駄菓子屋で見つけた背中に声をかけた。
にこりと、楽しそうに顔を出して冷凍庫を見る。
しかし現れ方は、まるで幽霊のように。
さっきまで姿が見えなかったの突然出てきたかのようだった。
「驕るついでに、訪ねたいこともあるんだけどいいかな」
青嵐
「驚かせちゃった? 今海に行く準備しててね。
村中歩き回ってんの。
青嵐くんバイトしてるんだ、えらいね〜。
夕凪たちは大学生になってからだったよ」
それじゃあお言葉に甘えて。チョコミントを。
昔はイチゴ味があれば飛びつく子供だった夕凪。
チョコミントを好きな夜凪は少し珍しかったのを覚えていてもおかしくはない、たまにゆずってやりながら二人でそれぞれの味を分け合っていた。
きっと今も弟のことを思い出しているのだろう。
「難しいことじゃないよ、
青嵐の、好きなこのタイプを知りたい、なって」
年上のお姉さんから繰り出されるあまりに突拍子も無い質問。
照れた様子も不思議と無く純粋に気になっているように思える。
「〜♪」
都会の一昔前のヒットソングを口遊んで、
インスタントカメラをあちこちに向けている。
川でたくさん遊んだのに、
身体は疲れ知らずで、するする歩ける。
……この辺りこんなナマコ多かったっけ。
「流石にコレ撮っても仕方がないですよねえ」
まだまだ被写体探しは続く。
青嵐
「一緒に行こうよ、いっぱい遊ぼ? 時間が無くても強制連行。
趣味のためにお金稼いでたなんて、結構しっかりしてたんだ」
後ほど車もでるし、徒歩でもいけることを伝えて。
スイカ割りやいろんな事をしようと提案をした。
多分無理にでもつれて行かれる気はするだろう。
やんちゃなまま変わらず大きくなっていたと思っていたのに。
お金も大学のこもしっかり考えている話を聞いて、心の中で子供扱いしていたことを謝罪をした。
それにしても青嵐は可愛いなあ。
ここにきてからみんなが愛おしくなってばかりだ。
「そうだよ、彼女にしたいタイプ。
あんまりこういうのは……・夕凪には聞かせたくないことかな?」
この窓どうやって使えばいいかわからない ぽんぽこいっとけばいい?
秘密基地にいるともだちと、内緒話をした。
元気がなさそうだからどうしたの、って。
寂しかったのは、夕凪たちだけじゃなかった事を知った。
なんだか、ここのみんながもっともっと好きになった気がする。
頭打ったのかと心配されてしまった。
「……頭を? わかんないや。
痛いところはないから気にしないで」
一瞬、視界が揺らいだような気がした。すぐに戻った。
「無茶はしないでね。
みんな
や夕凪
にとってこの夏が楽しいものにしようね」
夕凪は、この田舎の夏を楽しんでいる。
何もおかしくない、おかしくない、そうだ、なにもおかしいところなんてない。
「傍で撮ってよ、車の準備をしたら呼ぶからね。一緒に行こう?」
みんなもたくさん誘って、と、海で遊ぶ約束をした。
海に行くまでのちょっと、二人だけの時間だった。
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