153 『Override Syndrome』
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| 世の中の人間の「実生活」というものを 恐怖としながら、 毎夜の不眠の地獄で呻いているよりは、 いっそ牢屋のほうが、 楽かも知れないとさえ考えていました。 (21) 2022/06/15(Wed) 0:09:06 |
| (22) 2022/06/15(Wed) 0:09:55 |
[ 目の前の笑みは、低レベルの解像度で
網膜に映る。
頭がいいって、苦痛だ。
忘れない、忘れられない、
忘れてくれない。
記憶。刻まれたメモリ。
艶やかな髪。穏やかな表情。
目を閉じて、開く。
肺の奥まで酸素を吸って、同じだけ吐く。
勧められるままに腰を下ろした。 ]
─── はい、初めてですね。
べつに、緊張していませんが
ずいぶんお若い女医さんで驚いていました。
[ しっかりと合わせているようで、
自分の視線は相手の鼻の位置にある。
逸らされることのない視線を真っ向から
受け止めることがいつからか
こんなにも恐怖と同義になっていたことに気付く。]
自分にとって、「世の中」は
やはり底知れず、おそろしいところでした。
[ 伸びてきた手を避ける動きが遅れた。
ひたりと触れる柔らかな掌が頬を撫でる
咄嗟に腕を曲げて、
たたき落とすように振り払った。 ]
あ、……あぁ、ごめんなさい。
触れられるのは、苦手なので。
その、特に、顔は。
[ どくん、どくんと心臓の拍動が全身を駆けて響く。
驚かせてしまったか傷つけたか、
それともこんなことは日常茶飯事なのか。 ]
[ 呼吸を整えている間に、流れるような手つきで
差し出されたのはマグカップ。
いかにも高級だと分かるような
造形のものだったか、薄く繊細なものだったか
いずれにしても己が心を動かすものではなく。
ただ、受け取った。
部屋の中の空気に妙な匂いが混ざって不快で
酷く眩暈がした。 ]
ハーブティ……ありがとうございます。
[ カップを口に運ぶ動きさえ絵になる、と思った。
あの日、約束したコーヒーではなくて。
解像度が上がる。鮮やかに蘇る。 ]
……でも、結構です。
吐き気がする。
コーヒーのほうが好きなんですよ。
あと、俺は特に大変ではありませんし
今"も" というのは
あまり聞いていていい気持ちはしませんね。
─── ご無沙汰しています、古森さん。
[ カップから湯気が立ち上り、
顔に煙幕に似たヴェールがかかる。
過去をなぞり優しく微笑む医者に
俺が感じたのは、猛烈な嘔吐感。
そしてその嘔吐感に、陶酔する。
ポケットの中で、イヤホンが転がっている。 ]**
|
───閑話:幸福の裏側───
(23) 2022/06/16(Thu) 0:24:31 |
|
[当たり前のように得ていた幸福。
望まずともレールから外れない 安全で、楽で、不安定な人生設計。
そこには自分の手で掴み取った幸福なんて 何ひとつありはせず。 誰かに依存し、施しを受けて得た幸福は そのW誰かWが消えれば簡単に崩れ去り その先に待ち受ける未来は、破滅しかない。
結局全ておこぼれにすぎないんだって、 いつも心の奥底で、怯えていた。]
(24) 2022/06/16(Thu) 0:26:06 |
|
[大学時代に彼を襲った悲劇。 その一部始終を見ていた私は今も忘れられない。
あの出来事には、身が竦む思いだったのだから。]
(25) 2022/06/16(Thu) 0:26:52 |
| [何かの拍子に未来が変われば 私がW佐々岡 嗣朗Wになっていたかもしれない。 それはたらればの話であっても 現実的に充分有り得る話。 私は彼とも、Override Syndromeに苦しむ W可哀想Wな患者たちと大して変わらないのだ、と。 私の平和は何かの拍子に簡単に壊れるものだと、 奥底に眠る薄汚れた感情と恐怖は、 燻り続けて消えることを知らなかった。] (26) 2022/06/16(Thu) 0:28:07 |
| [いつからのことだろう。 Override Syndromeに苦しむ人達を 救おうと日々奮闘する傍らで、 彼らを見ると酷く気分が落ち着いてしまう。 W私はまだマシなんだ。W
W私より不幸な人がいるんだ。W
痩せこけた自尊心を満たすために 私には彼らが……不幸な人達が、必要だった。] (27) 2022/06/16(Thu) 0:29:37 |
| (28) 2022/06/16(Thu) 0:31:23 |
***
ごめんなさい。
緊張してるのかとばっかり。
[若い医者は信用ならないという話なのか。
いいえ、きっとそんな簡単な話でもない。
手を振り払われればその手を引っ込めて
それは嫌悪か、拒絶、か、それとも。
距離感が近すぎることを素直に謝罪すると
少しずつ彼から目線を外した。]
[解像が整えば整うほど明らかになる。
あの頃をなぞっているようで、全く違う世界。
ハーブティーとコーヒーが異なるように
私が見ていたあなたと、あなたの知るあなたは
全く別の存在のようで。
花柄のティーカップは
清涼の役割を果たすことも出来なかったみたいだ。]
そう。それは残念。
[どんな形であれ、拒絶は日常的。
この仕事をしていれば慣れたもの。
あなたに拒絶されてしまった
ティーカップの縁を指先でなぞると。]
コーヒーはW心療内科Wには
あんまり似合わないかもね。
[あの日約束したまま終わった事を思い出す。
コーヒーは、心療内科としてじゃなくて
普通の一人間として嗜みたいものだから。
ハーブティーをテーブルの隅に置くと
今度は問診票に目を通して、首を傾ける。]
そう…?ここに来たからには
大変なんだと思ってた。
大学の時の佐々岡くんも
なんだか無理してそうだったから。
[だとしても言ってはくれないだろうか。
それとも本当に自覚がないのだろうか。
より事態が悪化しているとすれば後者の方。
あなたの言葉がどっち側の言葉なのか
私としては気にならずにいられない。]
[私は『OS疑い有、要検診』と書かれた
問診票をテーブルに置き直すと
気を引き締めるようにグッと背筋を伸ばして
それから深呼吸を済ませて。]
ならW心療内科Wのカウンセリングは
やめておきましょうか。
W個人的Wにも
あなたに聞きたいことがあるし。
[形式張った問診の終わりを告げると
ハーブティーを一度片付けて。
棚に仕舞われた病室に似つかわしくない
クッキーやチョコレートの数々を取り出すと
最後にドリップコーヒーを見せて。]
こんな場所でも
W私とあなただけWなら
コーヒーがあった方がいい?
[もしあなたが首を縦に振るなら
その時は二人分のコーヒーを入れて
あの日の続きへと誘うだろう。]**
***
[コーヒーがそこにあったかどうかはさておき。
問診の時間から個人的な時間へと移すと。
私はあの日聞きたかったことを尋ねる。
そういえば。
あの日も、今も、背景に転がるイヤホンが
妙に気がかりで目についていた。
今にして思えば、そういうことなのだろうか。
]
あの日の論文、私も後から読んだんだ。
でもあなたから直接聞きたくて。
佐々岡くんからその話を聞けなかったのが
ずっとずっと、心残りだったの。
[あなたに見せたのはあなたの論文のコピー。
研究者として書かれたあなたじゃない名前は
怒りと共にペンで激しく塗りつぶされていて。
その上の空白の欄に
自分であなたの名前を書き記していた。]*
| 反論する元気があるなら良かったよ [ 生気の宿った瞳にくすりと微笑みを向けて 一息つこうと落ちたペンを拾い上げる。 焦げ付きも少しはマシになったか、 肺に取り込まれる空気は先程より吸いやすい。 明らかに反論への返事でないそれは 船越真結実を守るための逸らし。 本物は怒りなんて抱かない 抱くとすれば代わられる驚きや恐怖 顕にしたもので真実は透けてしまう 向けられた怒り >>13 けれどどうしてかな、 咎める気にもなれなかったのは。 形は違えど俺も 願ったことがあるからかも、しれない。 ] (29) 2022/06/16(Thu) 13:14:19 |
| [ 理想を殺して、現実を生かす。 それが当たり前で、普通だ。 壊れていく母を助ける心療内科医になりたかった。 けれど俺に与えられたのは 底辺私大の中のさらに底のポジション。 壊れきった母の面倒をみながら 壊れきった兄の面倒をみながら 満足に成績なんか残せるわけがない 底に与えられた選択肢は、家業を継ぐこと。 母を助けたい そんな理想を 殺 して、現実を 生 かした。 ] (30) 2022/06/16(Thu) 13:15:34 |
| ……あぁ、それは、そうだね。 [ 出来すぎている。 >>16 >>17 専門でもないのに知りすぎだと言われれば まずは頷くしかなかった。 やられたな、と 斜め上に目を逸らす。 ただの医者と患者なら、絶対にしない話だ。 嘘を吐こうか それか、少しだけ真実を混ぜるか そんな考えも浮かんだけれど、 直ぐに首を振った。 ] (31) 2022/06/16(Thu) 13:16:02 |
| 確信はなかったよ、ただ… 気づいていないかもしれないけど、 入ってきた時から時々、手が何か探してる スマホかな OS…オーバーライドシンドロームに かかった人から媒体を 取り上げた時に現れる症状と似てたから。 よく知ってるよ、… 家族に、居るからさ [ 「理由はそんな所、」と 区切りを入れるも、その後は言葉が続かず。 表に出てこない母、兄、 想像をつけようと思えばつけられるだろうな 俺からはそれで終わりだと言うように 視線を戻せばいい加減、診察に入ろうか。 ] (32) 2022/06/16(Thu) 13:16:39 |
|
精神は俺の専門じゃないことは知ってるね?
身体の体調不良は診れるけど、 もし精神の病院に行く気があるなら 薬はそっちで貰った方がいい。
ただ、現在OSに有効な治療薬はない 治療には疑似体験に頼らないで 幸福を得る必要がある。
一病院の多くを抱えてる医師が そこまで寄り添ってくれるかって言えば、 限度はあるだろうね
[ どちらを選ぶかは任せる、と前置きした上で。 ]
(33) 2022/06/16(Thu) 13:17:06 |
| 俺はユミちゃんに幸せになって欲しいよ、 マユちゃんにも、ね。 [ 彼女が死に際に言い残したことを知る訳では無いが 仮に俺がその立場ならせめて精一杯やれって 尻を叩くだろうなと。 もし選んでここへ来ると言うなら、 どうしてエデンに没頭するように なったのかは聞いただろう。 話しにくいことだから 全てでなくていいとも加えて。 ] (34) 2022/06/16(Thu) 13:18:23 |
| [ 診察も一段落した頃、 思い出したようにバッグから 取り出されたのは見覚えのある封筒で >>19 一人だけ誘う友達、まぁ、確かに難しいか 女の子ってグループで居がちだもんなと 勝手に納得して勝手に申し訳なく思いつつ。 返されると言うならまた別の人を探すかと 考えていたんだったな ] …… 一緒に? …と一瞬法令が頭を過ぎる。大丈夫か。 彼氏とかいるんじゃないのかいいのかと 若干気になることはあるが その辺をこちらから突っ込むのは野暮だな。 行く人が居ないと言うだけで 行く暇がないわけじゃない。 息抜きついでにいいきっかけにもなるだろうか。 ] (35) 2022/06/16(Thu) 13:20:39 |
| こんなおっさんの休日に 付き合ってくれるなら、喜んで。 後で連絡頂戴、 [ 差し出された封筒を受け取り 中身を1枚だけ抜くと、 封筒にメッセージアプリのIDを追記して返し。 前回行ったのは何周年だったか、 もう10年は軽く経っていそうな夢の国。 日水の休診日と都合が合うなら 実現するのはそう遠くはなかっただろう。 ]** (36) 2022/06/16(Thu) 13:21:24 |
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