【人】 書生 シキ「―――。」 その青年は、ゆらり影のように"そこ"に居た。 暗い獣の胎の如き穴倉から歩み戻ったその姿は あの時見せていた訝し気な佇まいそのままに しかし、浮かぶ瞳の色には、"曖昧さ"を増している。 「………。」 まるで、皮を裂き肉を喰らう獣たちの姿を 遠目でのみ見眺めて来たかというように。 己の記憶に空いた虫食いを覗き込むその目は どこか虚ろで、心ここに有らずとすら思えるような 生気に欠いた様を、顔に貼り付かせていることだろう。 (9) 2021/07/25(Sun) 18:44:55 |
【人】 書生 シキ人目に付かぬ影の中で、青年は目を開ける。 己の意識へ、古錆の如く張り付いた曖昧な記憶。 おぼろげな"狼たち"の様を追憶する青年は それと共に、別のものへとも意識を向ける。 「………、さん……」 まるで、寝言のように小さく曖昧な呟き。 手にした本を開くことなく座り込む青年の口からは そうやって時おり、誰かの名が零れ落ちていたことだろう。 (10) 2021/07/25(Sun) 20:36:03 |
【人】 呪術師 リェン「狼、おおかみ、大神ね」 言葉遊びだ。 だけれども言葉は、言霊は時に思わぬ作用を引き起こす。 姿無き物に形を、力を与える。 残滓は土着の文化に馴染み、心と行いを染め行く。 「本当に、随分大きくなってくれた物だよ。 厄介な程にね」 どこへやら、羽織を喪った薬師は忌々し気な様子も見せず、 ただ、大きな存在への悪態をついていた。 (11) 2021/07/26(Mon) 0:47:11 |
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