(a70) 2021/05/31(Mon) 23:38:37
| (a71) 2021/05/31(Mon) 23:38:55 |
誰も居ない部屋の前を後にした。きっと、良い子の『悪い子』との約束を果たせる明日を探しに行こう。
「……――――」
図書室からゆっくり離れていく足は次第に早くなり、
最終的にはどこまでもどこまでも駆け出していく。
誰かに会いでもすればその走りも止まるだろうが、
よく慣れ親しんだ人気のない道ばかりを足は選ぶ。
……息を切らして、壁に手をついて、崩れ落ちる。
ひゅうひゅうと鳴る喉が苦しさを訴え、
はくはくと開かれる口が酸素を求めている中で、
零れ出した言葉は、
「ありがとう」
の一言だけ。
想ってくれてありがとう。
救おうとしてくれてありがとう。
諦めないでいてくれてありがとう。
そのどれもが自分勝手で、
より彼女を傷付けるとわかっていて、
それでもやめろとは言えなかったものばかりで。
自分の望む救いが訪れるまで、まだ呼吸が続けられる。
まだ呼吸が続けられるし歩いて行ける。
まだ、続けられる。
まだ。
「……よし、」
俺は、まだ、待てる。
"その時"を待ち続ける。いつもたらされるものかもわからずに。
ギムナジウム中を巡る。見付けなければならないものを、捜し人を求めて。
イクリールから、 を、震えを隠しもできないまま受け取った。
シェルタン
「……お前が嬉しいなら、良かったのかもな。
だけど、ぼくは…………、……ぼくは、怖いんだ。
これから先、どう生きていけばいいのか。今のぼくには……分からない」
ずっとずっと、覇気がない声になった。
迷子の子供のように、酷く不安げで。
「死んだってしたくなかったことを、させられて……結果的に満たされて、……本当に嫌な場所だ。治療が成されるのが本当だと分かっても、ぼくは…ここが、嫌いだ。
シトゥラも言っていたが、本当にぼく達が変わればここは変わるのか…?」
ポルクス
「そ、っか」
……友人の、友人の完全な『死』を聞いて。
思わず漏れたのは本当にそれだけの返答だった。
カストルの精神が死に、ポルクスの肉体が死に。
歪な彼らは、本人の望まぬ形でひとつになってしまった。
「……完治おめでとうとは言わない。それだけは絶対に言わない。
それで、『お前』を取り戻しに行けないのなら、ポルクス。
お前はこれからどうするんだ」
問いの示すものはなんでもよかった。
ギムナジウムに残るか出ていくのか、園芸部をどうするのか、
明日は何をして過ごすのか、
飲み終わったお茶のカップをどうするのか。
それは夜の帳が下りて暫くした頃のことだった。
恐る恐る目を通した は、 からのものだった。
緊張しながらそっと目を通した の一文目を見た瞬間、
『いなくなる』前に交わした約束を彼が
律義に守っていてくれたことが分かって、少し笑ってしまった。
彼が自分を見てくれていたからこその精度の高さに
やはり彼は尊敬に値する人物だと認識を改める。
そこから更に目を通して彼の考えの一端に触れて。
――ある一文を見た瞬間、もうそこにはいられなかった。
走り出す。『いなく』なった自分がずっと『見て』もらうことを待ち続けた彼のもとへ。
そうして、非力な自分で駆け抜けて、
ローブの重さにこの時ばかりはもどかしさを感じて、
ようやくたどり着いたその場所に駆け込む。
通常の生徒であれば入る機会のないこの場所に
こんな時間にいるのは、
あの手紙の差し出し人だけだと思ったから。
「――シトゥラ!」
うんうん。なるほどポルクスらしい選択だ。
……と思ったのはついさっきまでのことで、
それから滝のようにあなたの口から飛び出していく言葉の密度と
ところどころに生じているツッコミどころの多さに
何も言えなくなった。
「お嫁さん……?養う……??家に無理やり……???
」
言えた。やったね。
「……とりあえず、俺はお前達の嫁にはならないのと、
お前の教養レベルは間違いなく高いのと?
養われるつもりがないのと……ふむ。
俺は俺の自由に動かせてもらいたいよ、ポルクス」
愛の重さも執着の重さも知っていたが、
これだけ具体的展望を語られてしまうと
ほんの少しだけでも修正したくなってしまう。
自分が愛を向ける先がもう決まっているから、というのもある。
……そんなちょっとしたことはともかくとして、
彼の語る展望の姿を、自分は少し見て見たくなって。
「何かを始めることに遅いなんてことはないさ。
俺達はここで多くを学び成長していく子供だし、
卒業までいるならあと4年もある。色々変わっていけるはずだ」
自分が誰かを想うことができたように。
自分が誰かに想われることができたように。
シトゥラ
「いない、……っは」
息を整えながら入るその部屋は、
自分達にとってとても馴染み深い場所だった。
多くを語り多くを学び、舌の上に乗った本の名前は数え切れず。
そうして知識を追い求めた者同士の、
互いの知識欲を認め理解しあった者同士の、
思い出ばかりが真に溢れた部屋。
日誌に書かれた本の名前とその内容がほとんど思い出せるほど、
自分達二人は多く目を通していたことだろう。
図書室に住んでいる、という言葉も過大評価ではなく、
普段からいる自分達はある意味ここの名物だったかもしれない。
「ふふ、……?」
冊子に挟まれた紙を見る。
そこに描かれた者と描いた者との関係性を思えば笑みが漏れ、
愛おし気に指がその上を滑る。
……描いてそこまで時間が経っていないが故の黒が指を汚して。
シトゥラ
突然の轟音に思わず肩をすくめて驚いてしまう、が、
そこにいたあなたの存在が、
あなたが自分を『見て』くれたことが、
本当に嬉しくてくすくすと小さな笑いが零れた。
手を引かれるままに向かう先が容易に想像できてしまったのも
やはりこの部屋で過ごすのに慣れていたからだろう。
大人しく座り込んだ後、あなたに握られた手をこちらからも
握り返して逃がさないように捕まえる。
「そもそもどうして帰ろうとしたんだよ
。
あんな手紙寄越しておいて俺から逃げるな、シトゥラ」
大惨事を引き起こしたあなたに追い打ちをかけるように
はっきりと文句を垂れるあたりも含めて
(小声で話しているという点はあれど)至って普段通りで、
「……俺は俺のままだから、ちゃんと『見て』くれ。頼む
」
けれど、そう告げる時だけはほんの少しだけ不安が滲んだ。
カストルとポルクス
「……うん。ありがとう、ポルクス」
あなたたちは狂っているが頭がいい。
……狂っていたが、頭はいい。
自分の言葉の意味だってきっと分かっていて。
「俺がなりたいものになれるかは、ちょっと分からないけど」
それでもこうして受け入れてくれることの優しさと、
あなたたちの好意を利用してしまっている後ろめたさで、
ほんの少しだけ眉が下がった。
「お前達のことを見捨てることはありえない。
俺だってお前達とのお茶会は好きだし、二人とも大切だ。
変わろうとするのならなおのことだ、
どう変わっていくのかについて興味がある。
……これからもよろしくな」
時間が来るまで。
時間が来てからも、道が完全に分かたれるまで。
森の近くを歩く。
「あ、看板残ってる、よかった」
わざわざ、口に出して言う。
それは彼女が考えた決まり事の一つーー口に出すこと。
そこにいる、と主張するために。
ほとんど日にちは立っていないのに、
色々あったなあと思い返す。
突然大人に呼び出されて、
殴られて、他にも色々されて。
恋をして、失恋して。
「あっ……まずいまずい」
意中の相手のことを考えてたら泣きそうになったので、
慌てて思考を切り替えた。
「いない人に目を向けようとする人も増えたもんね」
こっそりと『見る』、それでもいいのだ。
それは確実な一歩だから。
しばらく、森の近くを散策しているだろう。
シトゥラ
「そうだ、俺はそのことについてもお前に聞きたかったんだ。
イクリールと食事ができなくなる、とは穏やかじゃないな
……明日"以降"に何がある?」
恐る恐るといった様子で伸ばされた手を受け入れた頬に
いつかのように少し擦り寄ってもあまり表情は晴れない。
――――明日"以降"には何かがある。
その"何か"の内容が読めない。分からない。不安だ。
そういった不安の蓄積があったからこそ、
数日前を思わせる問いについても隠し事ができない。
あなたと離れた時間だけでも多くのことがあった。
「……少し、大人の甘言を飲みこみそうになりもしたけど
。
結局のところ、『いなく』なってからの俺も、
ほんの少し『知る』ことに恐れを抱いただけで、
貪欲であることに変わりはなかったんだ。
お前が無事であることを願いながら他のヤツに協力する。
お前の味方だと言いながら友達の願いを応援する。
相手が傷付くと分かっても手を放すことができなくて」
俺は何人の好意を受け取ろうとしなかったんだろう。
「ああ、でも……そのおかげで自覚できたこともあって、
それがこの不安の原因だけど悪い感情はないんだ。
単純な話だ、お前に何もかもが届かなくなってしまうのが
怖くて仕方ない。お前のこと、好きだからな
」
ずっと復讐の事ばかりを考えてきた。
その結果の空回り。空回り。失敗。
間違っていたのだろうか?
自分は、姉さんの仇を取りたかっただけで。
その為に生きてきたのに。
それは間違いだったのだろうか。
―――やり方が良くなかったんだろう。分かっている。
シトゥラ
「そりゃあ落ち込むに決まってるだろ。友人の好意をふいにして
その上泣かせてもいるんだ、気分はあまりよくない。
明日になったら各所に謝罪に駆け回るべきだろうか」
結構本気ではあるが、そもそも自分の内情を打ち明けても
特段自分を責めもしなかったお人好したちのことだ、
しれっと許されてしまうんだろうなとも思う。
「……喧嘩で派手な傷を負う前提なんだな、
なるほど、なるほど。
いいよ別に、それをお前の望んだことなら俺は止めない。
怒りはするし不安になりもするけど許す。
ただし死んだら本当に許さないからな。本当に
」
しっかりと念押しするくらいは自分にも許されていいだろう。
あなたの全てを許すことと比べたらきっと、小さいことだから。
「それと、あー、と。これ絶対伝わってないなお前」
他人に興味をあまり持たなかった同士、仕方ないかもしれない。
自分からもあなたの頬に両手を添えてぐいと顔を近づける。
「俺の言いたい好きはそういう方向じゃなくて。
愛してるのほうの意味で、言ってる」
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