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74 五月うさぎのカーテンコール
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[最後の蕎麦湯まで満喫したが、彼女の「別腹」具合はどうだろう。
ここでデザートを頼むも良いけれど]
ちょっと行った先にりんご飴の屋台が出てたけど、そっちにするか?
「浴衣デート」っぽいし。
[「してみたかった」と素直に言って来た彼女は本当に可愛かったから、浴衣デートっぽい行動は全制覇したい慾張りだ。*]
[下駄の鳴らす足音はからころと。
出かける前に落とされたキスの名残は今はない。
意地悪な質問には、応えられたなかった。
もう「くすぐったい」じゃ済まされないことが、きっと彼にはバレてしまっているだろうから。
その内、彼自身に確かめてほしいと思っている。]
[注文した山菜そばは温かそうな湯気を放っていた。
旅先で食べるお蕎麦はどうしてこんなにも美味しそうなのか。
お店特有の出汁の香りが食欲を誘う。
彼と合わせて、いただきます。と両手を合わせる。
ふぅ、と口先で湯気を飛ばして、口にしたら麺はつるつると滑るように喉元を通っていく。]
はい、おいしいです。
山菜食べてみます?
[卵黄と絡ませた山菜を少しだけ箸で摘んで、彼の口に運んだ。
代わりにもらった混ぜご飯を食べてみたら、山椒のピリリとした辛さに舌が刺激されてしまって、慌てて水で受け流した。
薬味にもだんだん耐性は着いてきたけれど、辛さばかりはまだ慣れない。]
[お蕎麦を食べ終えて余ったおつゆをれんげで掬い、仕上げの一口を堪能していれば、基依さんから屋台の話が上がる。
何よりさっき伝えたばかりの言葉を覚えてくれていたのが嬉しい。
両手を打って、眼を輝かせたなら、]
はい。
りんご飴、いいですね!
お祭りじゃないと食べられないから、嬉しいです。
いちごもあるかな、りんご……、どっちにしよう。
[取らぬ狸の皮算用。
まだ見ぬ飴の陳列に想像を膨らませて、席を立った。*]
[──なんだか、とてもいい夢を見てたような気がする。
髪を梳かれる心地よさに、ぼんやりと目を開け。
視界に映った裸の彼の姿に、二度目の覚醒は早かった。]
……ぇ。あ。
おはようございま、す?
[夢じゃない。
夢中になりすぎて理性がなくなっても、
都合よく記憶までなくなるわけがなくて。
襲いかかる羞恥心に
今更のように布団を引っ張り丸くなって突っ伏しながら
風呂、の声に、ちらっと顔を上げた。
時計も確認すれば、まだ出勤を気にする時間でもなく
それほど長く眠ってたわけじゃないと安堵して。]
う。一人で行けま……せんねこれ。
[試しに片足だけ降ろしてみようとして、断念する。
なんだかまだ体の中に蓮司さんがいるみたいだし、
上手く力が入らない。
転んで怪我したら迷惑かけるし仕事にも差し支えるので
大人しく手を借りようとして。]
ちょ、ちょっと待って、服! 服!!
せめて上だけでも着させてくださいっ。
[さすがに、浴室と寝室以外の場所を裸で歩くのは
既に窓の外は明るいのもあって、抵抗感がありすぎる。
ルームウェアの上だけでも拾ってもらって被れば、
だぼっとしてるそれでなんとか股下まで隠せそうだ。]
[女性は隠したい部分が多いんです、と話せば。
解せない、という顔の蓮司さんは一応下着を履いてるから
彼も風呂がまだなら、それ以上は強要しないけど。]
……なんか、目のやり場に困ります。
[改めて普段はきっちりとした服の下に隠された
腕や胸板や腹筋などなど、じっと見てしまいそうになって
視線がうろうろと彷徨った。
赤くなりながら、腕を借りて立ち上がり。]
あ。
すみません、この傷……私ですよね。
[彼の上腕の辺りに真新しいひっかき傷を見つけ、
更に頬が火照ったけど。
彼の体に私の跡がついてることに、ちょっと嬉しくて
顔が緩んでしまったりして。
途中で水をもらいつつ浴室に着けば、早速滑って転びかけ。
結局一緒に入ることになったとか。*]
[ん、と自然に口を開けて差し出された山菜を食べる。
卵黄のとろっとした食感の後に、山菜の繊維質がやってきて、噛んだら出汁がじゅわっとしみ出て来た。
こくこくと頷いて、「美味い」と伝えて、ふと。
「あーん」に対しお互いもう「事前に照れる」ことがなくなったなと思う。
本当に、ごく当たり前のように自分の「好き」を分け合える存在になったんだなとしみじみしていたら、紫亜の方は山椒にやられてしまったらしく、慌てて水を口に含んでいる。
悪かった、と謝る卯田は、まだ彼女を完全には把握できていない。
日々精進です。]
[りんごの方は、以前好物だと言っていたのを覚えていた。
いちじくとのバターソテー食べ比べを作ったのを思い出す。]
まだ夏祭りには時期が早いけどさ、浴衣でぶらついてると屋台が欲しくなる需要があるからなんだろうな。
[店内も老若男女殆どの客が浴衣姿だ。]
ベビーカステラもあったけど、あっちは腹に溜まりそうだしな〜。
[オーダー表を手に取る。
「奢り」「割り勘」で揉めるのが嫌だったので、少なくともこの旅行中は二人で同額を出し合って、そこから払おうと提案した。
頼んだものの値段が違っても、後で面倒な計算をしなくて済むし、個人的に欲しいものだけを個人の財布から払えば良い。]
[支払いを済ませて外に出る。
からころと下駄の音。
軽いキスでは痕もつかないが、浴衣の裾から見える足の甲に、印をつけておきたかった妄想は、今晩実行させて貰おう。]
最近はりんご飴だけじゃないんだな。
いちごもあるし……俺はこの「ぶどう飴」にしよ。
「紫」が綺麗だし。
[意味深に言う言葉は、勿論店の人には通じない暗号のようなもの。
再び旅行用資金から代金を払って、甘いあまい「紫」にくちづけた。
吸って、舐めて、甘く噛んで飴をはがす。]
あっま、
[粒はりんごよりも小さいから食べきれたが、飴が随分甘い。
複雑な顔で笑って、紫亜が食べきるのを待つ。
デザートには少ないかと思ったが、この甘さならこれ以上は食べられないかもしれない。*]
[おはよう。と、笑いかければ。
今更のように赤くなって、布団を被る嵐の姿。
くすりと笑いつつ自分は嬉しかったので、次の機会を待ちながら。
やはり一人では立てない嵐に腕を貸す。
共に風呂に行こうとしたら慌てる姿。
ルームウェアの上だけを着る姿も可愛い。
じっと見詰めて、不思議そうな顔をされたら。]
可愛いと思って。
[そう。素直に答えよう。
無駄な肉の薄い裸の姿も綺麗だけれど。
だぼだぼの服から覗く細く長い脚も、綺麗で可愛らしい。]
[自分は服を着るよう言われなかったので、下着一枚で。
目のやり場に困ると、視線を彷徨わせる姿に微笑む。
自分は『SASANKA』の人達のように、重い鍋をふるう訳でも無く、筋肉質な訳でも無い。
それでも彼女が赤くなるなら、悪い気はしない。]
気を付けて。
[立ち上がる彼女に腕を貸して。
上腕の傷に初めて気づけば。]
あ、ほんとだ……
[目を瞬いて。]
消えそうになったら、またつけてもらおう。
[思わず笑ってそう言ってしまって。
また睨まれたかもしれない。]
[湯船では足元の安定しない嵐と一緒に、入る事にして。
お湯をかけて、共に湯船に浸かったら。
背中から嵐を抱きすくめて座る。]
少しは、疲れが癒えると良いけど。
[お腹の前で組んだ腕。
悪戯したいのを必死で堪えてます。
魅惑的なお胸とか、触りたいけど怒られそうとか。
お湯の中で組んだ指が、所在無げにお腹の辺りを擽った。*]
[蓮司さんだから、困るのだ。
その腕がどんな風に私を抱きしめて、
重なる肌の温もりとか重みとか気持ちよさを知っているから。
これが店長や同僚なら、なんてまずあり得ないけど、まあ
風邪引きますよとあしらうのが精々だろう。
そんな私の心境なんて知らずに、
傷を見て嬉しそうに笑う彼を、思わず睨んで。]
……またつけても、いいですけど。
[呟いて、ぷいっとそっぽ向いた。]
[浴室に着けば当然、再び脱ぐことになる。
明るい場所で改めて裸を見られる恥ずかしさはあるけど、
つい数十分前を思い返せば、今更すぎると腹を括って。
お互い汗やら何やらを軽く流してから、
湯船に浸かれば背後から伸びてくる腕に、背中を預けた。
二人で入っても足が伸ばせる浴槽の広さに、
他にもこういうことした人がいるのかな、なんて
改めて感じる5年の差や大人な部分が、ふと過ぎったり。
背中で蓮司さんが必死に耐えてることも知らないまま。]
んー……さっきより大分いい感じかな。
やっぱ湯船に浸かるだけで、疲れ取れる気がしますね。
[温かいお湯と腹部をくすぐるやさしい掌に、
体に残っていた怠さや違和感も融けていくようで。
背後から聞こえる声に、くすくすと笑いながら。]
[微睡みそうな心地いい時間に、ふと。
さっき言われたことを思い出して。]
そういえば……その、
蓮司さんは服とか……身に着けるものに
拘りってあります?
[ちょっとだけ勇気を出して聞いてみる。
大体、蓮司さんの基準がわからないのだ。
可愛いって言われても、色気も何もないルームウェアだし
睨んでるのに、嬉しそうに言われることもあるし。
そんなことする必要ないと言われてしまえば、
別の方法考えなきゃいけないし、なんて脳内で言い訳を。]
えーと、つまり……
仮にですけど、私がかわいい下着、とか
……つけてたら、どう思います…か?
[仮ですよ、仮の話。
まったく無駄な部分を強調しつつ、
落ち着かなさ気に足先を揺らし。
湯中りではなく火照ってくる顔を隠すように、俯いた。*]
そのうち夏祭りにも行ってみたいですね。
一緒に花火、見たいです。
[少し先の予定のお伺いを立ててみる。
夏には、一緒に夏祭りに行ってりんご飴を食べて。
秋には、インカのめざめの入ったビーフシチューを。
冬になったら、振り袖を着て初詣に。
この先の夏も、秋も冬も。彼と一緒に過ごせるように。
彼と一緒にしたいことは沢山あるから。]
旅館の晩ごはんもありますしね。
明日なら食べられるかも?
[くすくすと笑って応えながら、お店を後にする。
二人分の旅費は先に彼の財布に預けてあるから、支払いは彼に任せて店の外で待った。
重荷になるのがいやで「奢り」には抵抗があったから、彼からの提案には二つ返事で了承した。
共用で財布を使うことが、まるでずっと先の二人の未来を思わせるから嬉しかったのもある。]
そか。
俺も光かぁ。
[同じ、と言われたその意味を考える思考能力は蕩けてしまった。
光。麦に見ているような清らかなものでなくとも、自分が兎の穴の中を照らす光であれたならと思う。]
カレー粉かぁ……クミンでいい?
ターメリックもあるよ。
[カレー粉としてまとまったそれはない。
ホールのクミンと粉のターメリックをスパイスラックから取り出す。]
スパイス適当に買ってると増えるんだよなー。
[なんせ朝以外料理を週1でしかしない。
スパイスの減るスピードはかなり遅かった。]
[少し先に進んだところにあったりんご飴の屋台には、色んな種類が並んでいた。
りんごが好きなことを、覚えていてくれたのかな。なんて思えば隣を見上げる表情が緩む。
ぶどう飴を手に取る彼の理由を耳にしたら、嬉しさと恥ずかしさが同様に押し寄せてきて妙にそわそわした。]
……、あ、私はこの小さいほうのりんご飴を。
[通常サイズではなく、ふたまわりぐらい小ぶりな方のりんごを選んで封を開けて口につける。
赤い艶のある飴に舌をつけながら、横目に見たら彼の口元が見えて。
彼の唇が「紫」の飴を溶かしていく。]
スモークサーモンとオリーブ、最高だよな。
カマンベールも持ってくるか。
[テーブルとの往復は二度め。
サーモンとオリーブに、クリーミーなチーズも加わると最強なのだ。
控えてるグラスにはワインを注ぎ。ふたつが満ちたら縁同士を出会わせた。]
かんぱーい。
…………。
[何となく見ていられなくなって、そっと視線を外した。
唾液で溶かされた飴は柔らかくなって、甘噛みしたら、ぱきりと音が鳴る。
なんだろう。顔が見れない。
飴のお裾分けは、出来なかった。*]
つまみ食いってか、自分で作ってると味見?
ま、出来たてがうまいのは同意。
その歳でキッチンドランカーにはなるなよー?
[ひとりなら誰も咎めやしないのだが、褒められた行為じゃないだろう、おそらく。
窮屈そうに座る麦の方に、おもむろに手を伸ばす。
なんとなく触れたくなって、体温が欲しくて。]
んー、ふふ。
[口元緩ませ、叶うなら、頬なり肩口なり撫ぜるように指先を遊ばせる*]
クミンとー、ターメリックとー。
ちょっとずつですよ。卵サラダも少しだから。
[あとコリアンダーも、とスパイスラックのご開帳を願った。消費が購入に追いつかないだけあってなかなかの品揃え。
あ、タラゴンもあるぞ。]
[二往復目のテーブルには、ヒヨコのようについてった。
たこ焼き機の加熱をオフに。
空焚きダメ、ゼッタイ。
それから、作りかけだったタコのアヒージョを救出。
ちょっと奮発した刺身用だから半生でも大丈夫。
乾杯はキッチンカウンターで。]
んー、スモークサーモンからのぉワイン!うまい!
大人になったらキッチンドランカーなりたい、弟子入りします。
……ジンさん酔ってます?
酔ってるでしょ。酔ってるんだー。
[頬に触れる指に笑って、
緩んだ口元へオイル煮になったタコをくっつけた。]
はい、あーん。
あ〜花火大会、な……。
そこは休みが難しいかもしれない……
[二人で行きたいところやりたいことは沢山あれど、イベント日程が「土日」と決まっているものは休みが取りにくい。
その帰りの外食需要が高まるからスタッフの数も必要となるのだ。
お盆休みはあるから、お盆にやっている花火を探して遠出してみるならできるかも?と言って。]
ごめんな。
[彼女の楽しみに水を差した罪悪感でしゅんとしながら頭を撫でた。
もし見に行けなければ二人で手持ち花火をしよう。
少しでも彼女が「一緒にできない」ことへの寂しさを感じることがないように。]
[今も。
彼女がしたいことや自分がしたいことを取りこぼさない様にと思っている。
ベビーカステラは明日。
りんご飴は今日。
暗号に気づいてそわそわする彼女が愛おしくて笑ってしまう。
りんご飴を舐める舌の赤さに違うことを想像しそうになって上手く見られないのは卯田もだった。
そんな二人の様子を見た店主は『若いねェ』とニヤニヤしていた。]
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