205 【身内】いちごの国の三月うさぎ
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山の近くだからそのせいもあるかもね。
浸かってあったまってると、そのうち
少し涼もうかな、とか思うけど。
[ ちゃぷり、水面が揺れて隣にやってくれば
そう狭いわけでもないけど、場所を
渡すように、少し位置をずらして ]
そうだね、お風呂好きだね。
最高だよ。
――泉質もいいし、景色もいいし
隣には那岐くんいるし、言うことないくらい。
[ 顎先近くまで湯に沈み、
頭の位置を隣よりも低くして、肩に凭れた。 ]
頻繁に、は無理でも
半年に一回くらい、出かけられるように
したいな。
苺も、大好きになったしここにも ね
[ できるといい、よりもっと現実に近い色をした
言葉はちゃぷり、跳ねる水の音でも
消えないくらいはっきりと言って。
凭れたままで、片手をそっと相手の脇腹へ
撫でる、よりは当てる、という行為。
痛みはさほどなくとも、赤々と痛ましい痕に、
小さなため息をつくも、
常日頃付けているそれとて、鬱血の痕、
言うなれば傷のひとつ。
反省は己の内のみで、しっかりと刻んで。
そっと、顎先にキスをした。
これより先は、とびきり、優しくすると
決めているので。* ]
[もし手伝う?なんて言われていたら、
見られていたことに気づいてそれどころじゃ、
済まされなかったと思う。
普段、彼の部屋で身体を交えた時も、
事後処理と称して、彼に手伝ってもらう時もあるけれど、
それはそれでなかなか、羞恥と共に、
収まった熱を引き戻されてしまうので。
困ると同時に、
淫らな自分を自覚して埋まりたくなるのだけど。
それは彼の預かり知らぬところ。]
[軽く汗を流したからか、時間も置いたからか。
酒気は少し散ったような気がする。
ほわほわとしていた熱は今はない。
それでもいつもより機嫌がいいことは変わらないけれど。
先にシャワーを浴びたのは、
身体に纏わりついているような残滓を、
逃したかったことが一つ。
自身で意識的にオンオフを切り替えている訳では、
ないのだけれど、少し冷静になった頭が、
普段どおりの会話を引き出していくのは、
何度か彼とこんな夜を過ごした経験も、
役立っているのかもしれない。
初めて朝を迎えた日は、とても。
顔を見れるような状態でもなかったし、
腰も、今以上に硬い身体に酷使をしていたので。
少しストレッチを入念にするようになったとか、
股関節が柔らかくなったような気がするのは、
少なからず、彼も影響していると、思う。
]
[そんな普段の口振りが、彼の弱点を突いていると
気づけるほどまで、察しはよくないから。
ちゃぷん、と湯を鳴らして、温泉を楽しんでいた。
山は気温の寒暖が激しいのだったか。
バイクで遠出をする経験のある彼ならそこは詳しいだろう。]
ああ、なるほど。
だから、冷えるのかな。
[納得して、涼もうという声には笑って。
「湯当たりしないでくださいね」と一言添えて。
最高という評価の高い回答を聞いて目を細めた。
元の風呂好きもあるし、
初めての旅行という点を差し引いても、
緑が望める山間を露天に浸かりながら眺められる贅沢。
そこに、自身も居ることを含まれているなら、この上ない。]
「少しずれた位置、彼の頭が湯に沈んでいく。
並ぶと少しだけ高い位置にあった彼の頭が、
自分よりも低くなって、肩に彼の髪が張り付いた。
重みはそう感じない。
半年に一回、なら、休みも取れるだろうか。
スケジュールを調整すれば、なんとか。
連休は二日、長くて三日。
長い遠出をしなければ、難しい話ではない。
いちごを好きになったという声に声を立てて笑って。]
そうですね、また来ましょう。
今度は、バイクででも。
[また長袖が必要になった季節に、
バイクで冷やされた身体を、温めに温泉に来るのも。
それは、また違った楽しみに巡り会えるだろうから。]
[こつ、と凭せ掛けられた頭に頭をぶつけて、
少し先の「約束」をまた一つ、重ねる。
あの日以来、彼は約束を破ったことはない。
どんな小さな約束でも。
気にはしていないけれど、
そう気にかけてくれていることが、嬉しいから。
それ以上に、彼と過ごせる先の未来の話を、
共有できることのほうが、満たされる。]
……、ッ、
[不意にお湯が動いて、彼の手が脇腹に添えられる。
お湯の方が熱いだろうに、
しっかりと掌は、肌に感触を訴えるから。
撫でる訳でもなく、当てられるだけなのに。
か細く、息を詰めてしまった。]
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