……?……ぉ、て、とか、ない…………ッ。
[まさか、武藤のご実家に遊びに行った時、飼い猫の虎千代さんを"とら"と呼んだ──だってお家の人皆がそう呼んでいたから──ことにすら、武藤が微妙な顔をしていたとまでは知らぬまま。
煽ってなんかない、呼んだだけだと、首をふるふると横に揺らす。
本当、なんで武藤は私が呼ぶ"とら"にそこまで過剰反応するんだろう。
他に数多そう呼ばれている場面を目撃しているだけに、未だに私は今ひとつ腑に落ちないでいる。
"むとう"って、だって、会話もままならない感じになってくると、とても呼びづらいものだから。
なんか、武藤、怒って……?
いや、ほんの少しだけだけど、苛立って、る…………?
告げられる、もう十何度目か何十度目かの"かわいい"に、反射のように"そんなことないのに"という風な感情を瞳に乗せてしまうのが理由の一つなのだとは、全く思い至らない。
それでも、"ちょうだい"と口走るほどに切羽詰まっていけば、"よくできました"とばかり、漸くに欲しかったものが与えられたのだった。]