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人狼物語 三日月国


132 【身内RP】穏健なる提案【R18G】

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視点:


【秘】 美術 エノ → アイドル ヒメノ

合議が終わって、すぐの頃。
青年は君の遺体がある場所を人から聞いて、
そのすぐそばまでやってきた。
VRの世界では、遺体は奇麗なままだ。
あるいは遺体はもう残っていないのかもしれないけど。

「…………ヒメノさん、俺ね。」

挨拶もなしに語りだす。
青年にとっては、独り言のようなものだ。
死人は喋らない。だからこれは、自己満足な自分語りだ。

「本当は、虹谷 絵乃っていうんだ。」
「ニジヤ製薬って、知ってる?凄いおっきい所で、多分、うちの薬くらいは何回も見たことがあるレベルの。」
「そう、その製薬会社の社長の、息子なんだ、俺。」

ぽつぽつと、語っていく。
それはあるいは、『自分が特別である』という事を誇示するような。
自慢話にしか聞こえないのかもしれない。

「特にお金とかに困る事も無くてさ。」
「欲しいものは何でも買ってもらえたし。」
「美味しいものだってたくさん食べた。」
「著名人が集まる立食パーティとかもね、家で開かれたことがある。」
(-247) 2022/03/07(Mon) 13:38:57

【秘】 美術 エノ → アイドル ヒメノ

「なに一つの苦労もない人生だった。」
「虹谷って名前があるだけで、色んなことが許された。」
「俺さ、そんなに体格だってよくないけど。」
「変なのに絡まれたこともないんだよ。」
「ドラマみたいな誘拐事件だって、1回も経験したことない。」
「ただそれなりに、やりたい事を自由にやれる人生だった。」

自分の人生を思い返す。
嫌なことを我慢してやる、という事もなかった。
誰一人、叱ったりすることもなかったから。
したい事をして、したくないことはせずに生きてきた。
それでも、青年はそんなに破天荒な性格でもないから。
きちんと学校には行き、法も犯さずに生きてきた。
ただ家柄がいいだけの、普通の人生だった。

「……でも俺は、この名前が嫌いなんだ。」
「『虹谷』っていう、一生付きまとうこの看板が。」
「『絵乃』を覆い隠してしまいそうで。」
(-251) 2022/03/07(Mon) 13:44:53

【秘】 美術 エノ → アイドル ヒメノ

「『虹谷』というだけで、皆が俺と距離を置く。」
「あんまり話しかけても貰えなかった。」
「話しかけられても、無理して笑顔を作ってるような」
「媚びるみたいな感じだった。」
「友達と一緒に出掛けることもなかった。」
「『万が一怪我させちゃったら怖いから』とか」
「『庶民向けのご飯屋だから貴方の口には合わないと思う』とか」
「言ってもいない言葉で遠慮されて」

この前ね、人から、コンビニで売ってるレモンティーを貰ったんだよ。
美味しいんだね、あれ。
午後のって書いてあったけど、午前中でも飲みたいくらい、なんて、笑って。

「………親も、忙しくて、あんまり家にいなかったな。」
「兄弟仲も、悪くはないけど、仲良しって程でもなかった。」
「俺が、『虹谷』じゃなかったら。」
「もっと家族の距離は近くて、友達は普通に笑ってくれて。」
「一緒に遊んで、怪我して、安いご飯をお腹いっぱい食べて、楽しい時間を過ごせるような」
「そんな、『普通』の人間になれたのかなって。」

それは、特別であることを押し付けられた贅沢な青年の、呟きだった。
(-253) 2022/03/07(Mon) 13:52:04

【秘】 美術 エノ → アイドル ヒメノ

「………ねぇ、君はどうだったんだろう。」
「『普通』が嫌だって言ってた、君は。」
「どんな人生を送ってたのかな。」
「知りたかった。本当に。」
「君の事を知りたかったんだ。」

それは、懺悔の色を帯びて。

「……怖かったよね、最初に印が付いたとき。」
「むかついたよね、それを付けたやつに。」
「自分がもう死ぬってなった時、頭が真っ白になるし」
「なんで、とか、どうして、とか、そればっかり浮かんで」
「そうしてただ、『死にたくない』しか考えられなくなって。」

俺もいまそうなんだよ、と、震える手を握って。
もしこれが、理不尽に突き付けられた死だとしたら。
きっと君と同じ様に、何か活路を探して、刃を手に持ってしまうのではないかというくらいに。
怖くて、怖くて、逃れたくてたまらなくて。

「……俺がつけたんだ、君の印。」
「合議に遅刻して、参加してなかったってだけで。」
「君を、"死んでもいい人間"って判断したんだ。」
「……馬鹿だよね。人が死んでも構わないって、本気で思ってたんだよ、その時は。」

自分に生への執着が芽生えて初めて、死の重さに気付くなんて。
呆れるくらいに幼稚な情緒で。
(-256) 2022/03/07(Mon) 13:59:33

【秘】 美術 エノ → アイドル ヒメノ

「……俺が君を殺したんだ。」
「君の体も。」
「君の心も。」
「俺が殺してしまったんだ。」

ごめん、と。
ぽつりと零れた言葉が、やがて。
雨のように降り注ぐ。
ごめんなさい、ごめんなさい。
恨んでください、呪ってください。
決して許さないでくださいと、何度も、何度も。


やがて、言葉が止んで。

「………今、君の死にたくない気持ちが、嫌というほど理解できる。」
「…きっと、それだけが良かった事。」
「………それだけ、ごめんね、ヒメノさん。」
「……………ごめんね。」

そうして立ち上がり、離れていくことだろう。
(-257) 2022/03/07(Mon) 14:03:36