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![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ弱い力だ、そんなの自分で自覚していた。 それでもすぐ、離れてくれた貴方を。 それでも未だ、笑っている貴方を。 視界に収めれば理解せざるを得ない。 これは己が知る身体を求める行為ではなくて。 ただ目の前にいる獲物を突き、嗤っているだけだと。 それを、ようやく、ようやくに理解する。 通じないのだ、ひとつも、きっと。 どれだけ涙を落とし終わりを乞い願ったところで。 貴方が満足するまで、こちらが限界を迎えるまで。 この地獄は終わりなどしない。 絶望の色は人生で幾度か知っていた筈だった。 それでも今この時間のものが一番に濃い気がした。 「…………」 けれどもう、 そう なのだとわかってしまえば。恐怖で震えは収まらないまま、痛みで涙は滲むまま。 貴方を見つめた。 弱り切った瞳の奥は未だ堕ち切ってはいない。 「せ、んぱいは」 「……なんでそんなに、きらい、なの」 「マフィアのこと、……アレッサンドロの、こと」 (-14) 2023/09/23(Sat) 22:09:53 |
![]() | 【墓】 暗雲の陰に ニーノ人間、蹲ってぐるぐる考え続けるのにも限度があるらしい。 風邪で気が弱るとか、そういうのもあったのだろう。 牢に入れられて三日目、熱が少し引いて思考がもう少し回るようになった頃。 万が一の感染症疑いが晴れた男もまた、収容所の移動に混ざるようになっていた。 (+7) 2023/09/24(Sun) 1:28:03 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → favorire アリーチェ唐突に人の足を蹴りに行ってたときとは異なるタイミング。 ふと同じになった場所に見慣れたせんぱいの姿を見つけたのなら目を瞠った。 「……アリー、せんぱい?」 近寄り、恐る恐ると声を掛ける。 こちらは顔などにはそこまでの外傷はない。 右手の甲だけが、異様に腫れ上がっているが。 「せんぱいも、なんでここに……」 (-56) 2023/09/24(Sun) 1:35:03 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → corposant ロメオ/* こんばんは!4日目秘話に〆を返そうかと思ったのですが、あんまりにも綺麗な終わり方だったのでロメオさんからのもので〆とさせていただければ幸いです。 こちらのご連絡と大好きがいっぱいになってしまったのでこれも伝えさせてください、ありがとうございました……大好きです…… (-61) 2023/09/24(Sun) 1:42:00 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → favorire アリーチェ「アリーせんぱいも……ダニエラさん経由なんだ。 怒らせたって、何したんですか? 言いたくなかったらいいんですけど……」 まさかその名前を聞くと思っていなかったから目を見開きつつ。 手を取られると「ぃ、」と声が漏れた。痛かった。 でも、心配は嬉しかった。 腫れ上がった手にはひとつ、穴が開いている。血こそ既に止まってはいるが。 「あはは……オレは、ええと、イレネオせんぱい怒らせたかなあ……。 取調べ中にえいってペン刺されちゃった……骨までいったみたい」 軽く伝えたつもりだが恐怖はそう簡単に消えやしない。 指先が僅か震えていた。 (-128) 2023/09/24(Sun) 9:54:35 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → corposant ロメオ/* ありがとうございます、嬉しいです! そして面会についても問題ありません。 来ていただけるのならとてもとても嬉しいので墓の下でお待ちしております! どうぞまたよろしくお願いいたします。 (-129) 2023/09/24(Sun) 9:58:26 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ表情の移り変わりを見つめる。 先程の笑みより今のそれのほうがよっぽど良かった。 だってそれはまだ、分かるような心地がしたから。 動きに気付けば緊張で喉奥がふるえた。 けれど、投げかけた問いに返る返答を。 耳にすれば、呆けた表情を浮かべて。 それから。 「…………はは」 笑った。 ここに来て、初めて。 声を出して、可笑しそうに。 ああなんだ、そういうことか。 [1/2] (-134) 2023/09/24(Sun) 10:39:51 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ「そっかあ」 「……すごいね、イレネオせんぱいは」 「この国を、あいしているんだ」 隔たりを見た、それはどうしようもないものだった。 でもならばと、ようやく何かが腑に落ちた。 「オレはさ」 ゆるりと瞳を細める。 ペンを手に取った貴方の手を、震える指先が撫ぜた。 「…… オレの隣人しか 、あいすることができないよ 」なんだかすこし、かなしかった。 [2/2] (-135) 2023/09/24(Sun) 10:41:35 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオオジサン、だなんて自ら口にする貴方にころりと笑声が転がり落ちた。 それはそうだ、ふたりぶんにしたって追いつきそうにはない。 見上げて移るものはかつてと比べれば過ぎ去った年を想わせるもの。 それでも貴方の言葉通りなら、重ねてきた全てが形作る暖かさでもある。 ならばなんだろう、愛おしい、とも思うような。 「オレが、誰のための警察になりたい、かあ……」 なんとなく空を仰いでしまったのは、わかってしまった気がしたから。 この場所に辿り着いてから幾度となく感じる足場がぐらつくような感覚。 その正体はきっと、忘れてはならないと伝えられたそのものが土台として未だ成していないから。 流れる厚い雲が見えた。あのように生きていたのを、そろそろ。 自分の足で立ち上がらなければならないのかもしれない、と。 「……うん」 「全然、ありきたりじゃなかった、です!」 そうして顔を動かせば、にっと笑って貴方を見つめた。 「自分に足りないものも、自分が考えなくちゃいけないことも。 そんな自分でも今、できることも。 ヴィトーさんの言葉で見えた気がするから、ありがとう……ございます」 「きっと今のヴィトーさんみたいになるにはまだまだ時間かかるだろうけれど…… ……でもいつか、もうちょっと立派になったところも。 ヴィトーさんに見て欲しいな、その時にもありがとうって言いたい」 人があまりいないのを、そして貴方がきっと拒まないのをいいことに。 少しだけ身体を傾けてそちらへと寄り添い、またパンを一口含む。不思議と先程よりも甘い気がして、瞳を細めていた。 (-136) 2023/09/24(Sun) 11:09:09 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレぽた、ぽた、ぽた。 貴方が涙を落とすのを見ていると、胸が酷く締め付けられる。 抱きしめたかった、涙を拭いたかった。 その願い全てを、遮る鉄格子が邪魔をする。 だから、せめてもの代わりに。 「……だいじょうぶ」 「だいじょうぶだよ、ねえさん」 言葉を、伝えて。 笑みを、うまくできてる? わからない、それでも。 じゃらり、手錠の音が鳴った。 痛むのを構わずに、左の指先を伸ばし。 せめてと届く位置にあるだろう、貴方の手をそぅと撫でる。 「…………来てくれて、ありがとう」 全てが有耶無耶になったような心地がする今も、確かに感じる愛情を受け取るように。 「顔、見られてうれしかった」 (-139) 2023/09/24(Sun) 11:19:27 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → リヴィオ名を呼んだ貴方に返るのは、少し腫れて赤くなった瞳だった。 今は涙は零れ落ちていない、それでもたくさん泣いたのだろうとは分かるもの。 「……リヴィオ、せんぱい」 身体を動かせばじゃらり、手錠の音が鳴る。 外傷はそこまで多くは無い、異様に腫れた右手を除けば。 近づいていく、貴方を勿論忘れたわけはなかった。 「…………え、っと」 それでもいつものような表情で笑えなかったのは、お互い様だろうか。 向ける双眸がすこしばかり恐怖の色を呈して揺れた。 はく、と動かした唇は一度目、音を為すのを失敗して。 二度目になって、ようやく。 「……取調べ、ですか」 「それとも……面会?」 (-141) 2023/09/24(Sun) 11:34:34 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 口に金貨を ルチアーノさて、貴方が覗き込んだ牢。 男は眠っておらず、向き合っていた。 食事の乗った皿と。 「…………」 スプーンを右手で持って、呻いて、落とす。 ならばと左手で持ってみて、震えて、落とす。 そんなことを繰り返していたところだから、まあ、覗かれてもおかしくはなかったのかもしれない。 人の気配に気が付けばそちらを見上げて首を傾げた。 知り合い、ではない、一方的に見たことはある、それだけの。 「…………えと」 なんだろう、何か用事かな。 思いつつ、口に出ていたのは。 「……おにーさん、ヒマ……?」 ナンパみたいな言葉だった。 (-142) 2023/09/24(Sun) 11:40:16 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 口に金貨を ルチアーノヒマじゃなくても取れるんだ、と言葉そのままに受け取っていた男は。 己の名を一方的に呼ばれると不思議そうに瞬いた。 次いで知った名が紡がれれば少し目を瞠った。 「……ねえさんの上司で、にいさんの部下」 マフィアの人かと。 納得すると同時に改めて思い知る。 近しい人ふたりとも、やっぱり"そう"なのだという事実に。 視線が少し落ちかけ、それでも……ぐう。 どんなときでも腹は勝手に鳴る。 「……お、おねがい、します……」 「もうだめそうで、入ってから何もたべてないから……」 中身を零さないよう気を付けつつ、震える左手で皿を鉄格子前まで移動させて、スプーンも同様に。 そうして向かい合うようにちょこん、座った。 「ルチアーノさんは……つかまっちゃったの?」 にしては随分と自由そうだなあの疑問。 (-144) 2023/09/24(Sun) 11:59:06 |
![]() | 【墓】 暗雲の陰に ニーノ>>+18 黒眼鏡 「飯は今日から食べてるけど……いったいって」 雑な撫で方がなんだか懐かしくて鼻の奥がつんとした。 そういう気遣いもいつもと変わらないから、誤魔化すみたいにやっぱり睨み付けた。 とはいえその手を払い除けたりはしない。 「四階って……」 そして嫌味に対し事実の一つが返ってきたのならじっとりとした視線を向け…… 向けていたら、問いに対しての答えに最後、返る。 作られた力こぶに、満面の笑みに。 「はあ〜〜〜……???」 普段出さない声が出た。 「あ〜〜〜〜〜」 それだけかよ、ああでも。 「……もぉ〜〜〜〜〜〜」 なんだ、それだけか。 [1/2] #収容所 (+24) 2023/09/24(Sun) 12:53:32 |
ニーノは、長い溜息の後、肩を落とした。 (c18) 2023/09/24(Sun) 12:53:51 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 口に金貨を ルチアーノ「金」 「……お金でこういうのってなんとかなるんだ」 自分にはない力だなと思った男は別世界を見るような視線を向けた。 そうして次に次にと並べられて行く名には驚くばかり。 己の両腕に手錠が課せられた雨の日の夜を思い出したり。 最早懐かしささえ覚えるせんぱいたちの顔を思い浮かべたり。 あれ、意外とみんなマフィアと仲良いんだな、とかの感想と。 それ程に仲が良い誰かが彼女にいるのなら、少し安心したなとか。 「ん」 「……む」 口元にスープを持ってきてもらえば口を開けて、ぱくり。 久々に味わう食べ物の味は冷めていようが味が薄かろうが、おいしかった。 それをこくりと飲み込んでから。 「……なんでルチアーノさんが謝るの」 素直に聞いた。 (-147) 2023/09/24(Sun) 12:56:41 |
![]() | 【墓】 暗雲の陰に ニーノ>>+29 黒眼鏡 「ど〜〜〜せちっちぇよオレは〜〜〜」 今からたくさん食べても貴方程にはなれないだろう。 終ぞ追いつくことはなかった悲しき現実だ。 払い除けないので座るまでは撫でまわされていたわけだが。 「 ッぃ、ったい! 疑ってません!手に響く!」肩を勢いよく叩かれきゃんと吠える。でもそこからすぐに腕の中だ。 すっぽり収まってしまうから、ああ本当に追いつくことは無かったなと再度実感させられる。 瞼を伏せた。 「……会った、泣かせちゃった。 あんな顔させたくなかったのに」 「にいさんなら泣かせなかったんだろうな」 燻る後悔ひとつ、貴方なら牢の中からでも安心させられただろうと。 #収容所 (+44) 2023/09/24(Sun) 18:09:24 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 口に金貨を ルチアーノ「ふぅん……そっか。 ありがとう、教えてくれて。 オレきれいなものしか見えてなかったみたいだから」 丁寧に教えてくれたことに眉を顰めはせず、いっそ感謝も告げた。 スプーンを運んでもらえればまた口を開けたり、としていただろうが。 「……子どもでも玩具でもないぞ」 駒鳥扱いされるとむ、と唇を尖らせる。 いや、食べさせてと頼んだのはこちらなのであまり文句は言えないけれど……。 「…………」 そうして謝罪の理由を聞けば、視線を一度その手にある器に落とした。 未だ男はこうして捕まった本当の理由を何も知らないまま。 ぐるり、一つ思考を回して。 「……"なんで"さ、もっかいするね」 言葉の中身に一つ踏み込む。 別に貴方を責めたいわけでもなんでもなかった。 ただ男は、これをしてこなかったことを少し後悔しているから。 「なんで知ってたのに、止めなかったの? 止めるほどのことじゃなかった?」 (-197) 2023/09/24(Sun) 18:10:39 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ落ちる笑い声に気が付けばはたりと瞬く。 それも直に笑みに変わったのは、貴方がそうやって笑ってくれたのを久々に見た気がしたから。 かつてよりも遠くなってしまったその背が、今このときだけはすぐ傍にあるようにと思えたから。 「じゅ……十年でがんばる! 頼りになるせんぱいたちはたくさんいるし! ヴィトーさんに早く見てもらうから! ぼ〜っともしないように、毎日一生懸命やります……」 書類仕事がどうにも得意になれずにいつもせんぱいに頼っているのは、とりあえず内緒にしておこうなんて考えながら。 男は今でもたくさんの愛情を周囲から貰っている、気付いている分も、気が付いていない分も。現にいま、貴方からも。 自覚が幾分あるからこそ躊躇いなく頑張れると形にできた、幸福なものだ。 「はっ……そんな時間? ヴィトーさんに判子押されたら困る……。 えっと、せんぱいと夜にご飯食べるから、それ終わったら真っ直ぐ帰ります!」 ぴょんと立ち上がって、それから敬礼だ、なんとなく気分的に。 こちらはまだ少しパンが残っているので、動き出すのはそれを食べ終わってからになるだろう。 「へへ、ヴィトーさん! 今日は時間くれてありがとうございました。 最近疲れてるみたいだから、もう少し落ち着いたらまた労わせてね」 できることはそう多くは無いのだけれど、ちょっとしたお菓子を作るとかマッサージとか……とりあえず労いの内容については考えておくとして。 貴方が夕暮れの公園を立ち去って行くのなら、男は笑顔のままに見えなくなるまで見送っていたことだろう。 小さなころ、遊んでもらった一日の最後にお別れしていたときと同じ。おおきくおおきく、手を振って。 (-198) 2023/09/24(Sun) 18:11:54 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → リヴィオ取調べをしないと貴方が明確にしたのなら、分かりやすくその瞳の色は安堵に染まった。 一歩開いた距離を見つめる、詰める術は牢の中からは存在しない。 貴方の語調はいつも通りに思えて、けれどそうではなかった。 元気がないなってそれぐらいはわかる、だって憧れているせんぱいのこと。 「…………」 そうして伝えられた、天気のことを言葉通りには流石に受け取らない。 指しているのはこの状況だ。 であるならば、その確信を此処で告げられる程の"何か"が貴方にあるのだとも、予想は付く。 男は取り巻く世界について多くを知らなかったが、相対する人の機微に対してはそこまで鈍くはなかった。 言葉はすぐに形を為さないまま、しばらく微笑みを見つめたまま。 直に。 「……リヴィオせんぱい」 「あのね」 一歩の距離を踏み込むことはやっぱり、今はできないんだろう。 きっと 場所が悪い のだ。それでもこうして此処へ足を運び。 明日の陽光を、その元にある笑みを望んでくれた貴方に。 「今でもさ」 尋ねるぐらいは、許されるだろうか。 「……次のこと、楽しみにしてくれている?」 (-199) 2023/09/24(Sun) 18:14:27 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → favorire アリーチェ「……そう、だったんだ? でも、ダニエラさん怒るかなあ、そういうことで」 「というより見逃すって、アリーせんぱいなにかしてたんですか?」 知りたいと望む相手に、聞かなければ見逃すと伝え。 それで怒って何かの行動を取るのはなんというか、普段ならそう有り得ないことだろう。 恐らくは嵌められたのだ、……自分と同じように。 それを直接、指摘することはしないものの。 「あはは、オレもびっくりした〜。 ……ん〜、でも、怒られて仕方なかったかもです」 「イレネオせんぱい、マフィアのこと大嫌いだけれど。 オレ、マフィアに家族みたいに懐いているひといるから。 裏切り者だって思われても、仕方なかったなって」 手を包んでくれる、貴方の優しさが心に染みる。男は眦を下げた。 (-200) 2023/09/24(Sun) 18:16:03 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → corposant ロメオ昨日までは毛布に包まって蹲っていた男は、それでも今日になれば起き上がることも増えていた。 身体を冷やすのはあまりよくないから、今日も毛布に包まってはいたが。 ただ起き上がってもすることがあるわけではない。 壁に凭れ上手く動かない右手を、それでも動かせないかと無理に震わせていたところ。 「……ぇ」 不意に名を呼ばれて目を丸くして、そちらを見る。 ねえさん、が来ることまではまだ予測できたのだ。 けれど、貴方が来ることまでは予測できなかった。 「……ろ、ろーにい」 「なんで……?」 こうなる少し前、結局最後はそこに落ち着いた呼び名を口にしながら。 慌てた様子で駆け寄ればその顔を見上げる。 外傷はあまりなかった。異様に腫れて、甲に抉られたような傷口が開いた右手以外は。 (-204) 2023/09/24(Sun) 18:33:24 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ愛国心など振り返れば抱いたことがなかった。 だからこそ男にとって、眼前の人が抱く肩書はあくまでその人の一部でしかなかった。 今もそう。だから隔たりは消えない。 「ぃ、」 ペン先が回ればまたくぐもった声が落ちて身体が跳ねる。 指先は退けられるままに離れることだろう。 その間にも注がれてゆく言葉を耳はまだ拾い上げ。 滲む視界に移る姿は普段と全く変わらなかった。 これがあの職場だったら、どんなに。 「……そ、ですか」 痛みが遠退いていたから少しばかり落ち着いていた鼓動は。 たったそれだけの刺激でまた煩く脈打ち始める。 覚悟の形をまだ知らない男が持つ限度など知れているものだ。 だからその恐怖にまた、飲み込まれてしまう前に。 「ねえ、イレネオせんぱい」 尋ねる。 これがきっと、最後の問い。 「…………オレって、警官、向いてるかな」 (-221) 2023/09/24(Sun) 20:37:27 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → favorire アリーチェ男は貴方の様子を見つめていた。 どうにも全く何も気が付いていないと、そういうわけではないように思えたから。 ただもう少しと深掘りした内容を聞けばまず目を瞠って。 「……聞いて、くれたんですか? あはは……そっか、ありがとうございます。 こうしてアリーせんぱいが捕まっちゃったのは、心苦しいけれど…… なんだか、うれしいな」 それが必ずしも己の為とイコールにならなくても。 いなくなったことで貴方が気にしてくれていたという事実がうれしかったから。 そっかあ、ともう一度噛み締めるように呟いて、手を包んでくれる貴方の手をもう片方で撫ぜた。 で、ひとつ問いを投げようとしたのだが、その前に。 「…………」 自分の呟きに関し貴方が伝えてくれたことには、はた、と瞬いた。 「……たしかに、そうかも。 …………え?そうですね。 怒ったからって、暴行するのはよくないですよね……」 今になってちょっと怒りが湧いてきている。 とはいえ本人が目の前にいるわけではないので鎮めつつ。 「アリーせんぱいも、マフィアに家族が……いるんですか? 知らなかった……し、仕方なくないです!駄目!……だから。 そっか、そういうことだよなあ……」 (-222) 2023/09/24(Sun) 20:49:36 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → corposant ロメオ「謝ること、べつに……」 ないよ、と。 伝えながらもなんだかこわかった。 自分と関わりがあるところを見られて、貴方まで捕まってしまうんじゃないかということが。 そう恐れているくせに、どうにも。 「……パン」 ぐう、とお腹が鳴った。身体はどうにも素直なものだ。 恥ずかしくて若干視線を逸らしつつ。 「いいと思う……。 あ、でも、その、格子越しでいいから。 忙しくなかったら、あれ……あーんしてほしい。 手、これだから……」 左を動かせば右も動く仕様になっているので、もれなく何をしても痛む。 どうにもスプーンが上手く持てずに、食事が碌に取れていないゆえの空腹だった。 「オレが捕まったのは……あはは。 いると、都合悪かったんだろうな」 「ろーにいはだいじょうぶ?大変なこと起きてない?」 (-224) 2023/09/24(Sun) 21:02:31 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → favorire アリーチェ自分よりも怒ろうとしてくれる、貴方のそんな姿に男は眦を下げた。 早々に牢に入れられてしまったから外の様子は何にも分からなかったのだ。 だからやっぱり、気に掛けてくれていた誰かがいるのはうれしい。 「ありがとう、アリーせんぱい」 「…………ねえ、せんぱいはさ。 人を騙すのは、騙されることは、受け入れられないですか?」 そうして先程形にしようとした問いを改めて声に載せて、尋ねた。 「ああ……確かにそうかもしれない、ですね。 それほどマフィアの人が良い意味で、日常に溶けた存在になりつつあるってことかもしれないですけれど。 ……昔にマフィアが権力を振るってたことは、事実だもんな」 そう考える思考はどこか、今までよりも俯瞰的な位置を保てているように思えて安堵する。 少しだけ視野が広がったような、いや、先程狭まっているのを自覚したばかりだから自惚れてはいけないけれど。 「……そう、なんだ? オレ、同じ日に捕まった人のこともよく知らなくて」 「でもアリーせんぱいは恩があるんですね、その人に。 無事だと良いな、……会えてはないですか?」 (-251) 2023/09/24(Sun) 23:21:17 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 口に金貨を ルチアーノ踏み込んだとして話してくれるかどうかは相手次第だ。 だから貴方の口が開きつらと言葉を並べてくれることが有難かった。 さて、その言葉が事実だとして信じるのであれば、矢張り此処に入れられた理由は悪意だけに染まっているように思えない。 思い当たる人物はいないわけでもないが、願望込みになるなと考えていたところ。 「……もう子どもじゃないって言った」 「別にルチアーノさんのこと悪いなんて思ってないし。 思ってないけど、なんか……にいさんの部下だな。 すぐに女性がどうのこうの……」 何かしら思うところがあったのか、もんにゃりと言葉を濁したりなんだったり。 一先ずはそう、感謝が先なのでと遅れてそれも形にする。 「教えてくれてありがと。 痛い目見ないとわからないこともあると思うし、手は気にしないで。 にしても、なんだかなあ」 「…………オレってそんな、悪意に弱そうに見えるのかな……」 知らない人の前の方が吐けることもあるので、つい漏れてしまった。 後からそれを繕うように「スープ……」などとねだりつつ。 「でもちょっと喋っただけでも、あれだね。 ルチアーノさん……良い男ってやつ、感じる」 (-252) 2023/09/24(Sun) 23:23:48 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → corposant ロメオさらっと形にされたこの身と心を案じる言葉には目を瞠り。 今の状況も相まって妙に染みて、つい涙腺が緩みかけた。 どうにもここに来てから壊れてしまったように思える。 脳裏に掠めるのはバーカウンター、それから子守歌が聴こえた帰り道。 ぬくもりにふれたいな、と思った。 「……あーん」 色んな心を感じて漏れ過ぎない様に言葉を選んでいる間、気が付いたら口元にパンがやってきている。 なので大人しく口を開いて食せば知っている味だった。塩バターのフォッカチャ。シンプルでいて小麦の香りがふんわり、おいしい。 パックジュースも水分として時折、ストローからこくんと飲みつつ。 「あの、ありがと」 「警察は……あはは、本当にそうなっちゃうかもな」 全部ひっくるめての感謝を伝えた後、眉を落として笑む。 そうしていた表情が──貴方の問いかけで軽く青褪めた。 だってまさかその口から名前が出るとは思っていなくて。 すぐに答えは返らず、けれどその態度が解を示している。 思い出す、甲に走る熱い痛み、唇に触れた感触。 「……なんで、しってるの?」 そうしてようやくの言葉は、問の形を為していた。 (-255) 2023/09/24(Sun) 23:27:36 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → リヴィオ見たことが、ある。 その表情を、見たことがある。 言えないことを裏に隠している人の。 それでも転び出てしまった本当を示す顔。 覆われてしまうだろうか。 そうしたら分からなくなってしまうかもしれない。 一呼吸の時間を祈るように待っていた。 そうはなってほしくなくて。 どうか、どうか、と。 そうして──言葉は届いた。 [1/2] (-314) 2023/09/25(Mon) 10:34:05 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → リヴィオ「……よかったぁ」 落とした声は心底安堵した響きを抱いていた。 眦を下げ笑んだ顔は未だ、貴方への信頼を示していた。 男は一歩開いた距離を見つめる。 詰める術は存在しない、けれど。 「せんぱい、あのさ」 左手を動かした。 自然右手も動くから走る痛みに一度声が詰まった。 だとして伸ばした。 鉄格子の先に、一歩には満たなくとも。 「うそがあってもいいよ」 「言えないことがあっても」 男だってそうだった。 でも貴方もそうだとするなら。 憧れは変わらない、抱く色が少し変わるだけで。 「……それでも、だいすきだ」 貴方があの日手渡してくれた信頼と勇気は、 輝きを無くさなかったんだ。 「来てくれてありがとう、リヴィオせんぱい」 [2/2] (-315) 2023/09/25(Mon) 10:36:22 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → favorire アリーチェ「そっか。……アリーせんぱいは優しいなあ。 誰かを責めるのって、怖いことですよね。 オレもうまくはできないから、気持ちわかるな」 伏し目がちな視線に気が付けば、すり、すり、と。 そう零すのは悪くないことなのだとその手を撫でた。 そういえばこんな状況だからか、怖くはないな。 「……オレはさ、騙したり、騙されたり。 悲しいこともあるけれど、必要なときもあるんだろうなって思ってて。 なんというか……優しさで、誰かを騙すこともあると思ってるんです。 相手が大切だからこそ、良い夢を見せたり。 どうしても譲れない何かがあって、自分を酷く見せたり」 「オレは多分ダニエラさんに騙されて、嵌められた。 でもそうだとしてもきっと、そこにあったのは悪意だけではなかったんだろうなって」 言葉はどれほどの意味があるだろうか。わからないが。 自分を責める貴方の心が、少しでも落ち着きを取り戻し今を見つめられればいいと思っていた。 すぐじゃなくてもいいから。少しずつ。 「…………そっか、拷問に」 「……うん。 そういうの聞いてたらオレも猶更、早く撤回されないかなって気持ちになってきました。 自分だけしか見えてなかったけれど、こうしてアリーせんぱいだったり、せんぱいの大切な人が苦しい状況にあるのはいやだから……」 「穴は……その内塞がると思うから、大丈夫!」 ぐっと拳を握ろうとして、だめだった。痛かった。呻いた。 (-317) 2023/09/25(Mon) 11:06:27 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → corposant ロメオ「それも悪くないのかも。 いらっしゃいませって一緒にするし、パンも焼けるかな」 返す言葉は冗談交じりのそれだった。 或いはと過るものは一度隅に置き。 その手から食べさせてもらうパンは、こんな状況なのに一人で食べるよりもおいしい気がする。 それでも、貴方の溜息を聞けば食事の手も止まるのだろう。 「センパイ……? ……イレネオせんぱいって、捕まってたんだ」 ぽつ、と落ちる。それさえも知らなかった。 「……わかんない。 拷問されて酷い怪我してる人、いるって聞いたけれど。 やったのがせんぱいかどうかまでは……」 確かめていない。 そこまでを紡いでから、貴方をじいと見つめた。 言葉を聞きながらようやくに男は、もう一つも勘付き始める。 気が付くにしては遅く、そうして今までなら目を逸らしていただろうが。 ……そうしたことを悔いたばかりだ。 「…………あの、ろーにい」 「……ここ、もし、出られたらさあ」 踏み込みたい、けれど、場所が悪い。 だから、代わりにと。視線が落ちた。 「ナイショ、教えて欲しい……」 (-321) 2023/09/25(Mon) 12:00:58 |
![]() | 【墓】 暗雲の陰に ニーノ>>+51 黒眼鏡 「別にそこを心配しているわけじゃないし……」 とはいえ貴方に保証されるのは悪い気はしない。 暴れはしないがされっぱなしも感じるところはある。 無意味に寄せた頭をぐりぐりとしていたが、 額を小突かれると「いて」と声を漏らした。 「……その理論でいくと男にはなれたってコト? なんだ、でも、別ににいさんでもそうなんだ」 「ならちょっと安心したけどさあ……」 泣かせてしまうことへの罪悪感はあれど。 貴方だってそうしてしまうことが多くあるなら安堵するような。 でも、最後のはいただけなかった。 「オレはオレが泣かせたねえさんの涙の責任は取るけど。 にいさんがねえさん泣かせたときは自分で責任取れよ」 「代わりになんかは泣き止ませません。 なんなら一緒に抗議しに来る」 #収容所 (+58) 2023/09/25(Mon) 13:04:56 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 口に金貨を ルチアーノ一瞬並んだ指摘が何のためのものか呑み込めなかった。 その間にスープは運ばれてきていたので、そちらはしっかり飲み込んでいたわけだが。 その内に理解して、ああ、なるほどと。 「大人らしさの秘訣? 教えてくれるんだ、面倒見いいな」 出たら試してみようかと思って、ありがとうと笑った。 やっぱりいい男だなって感じる。 にいさんと似ていて、それでも少し違う感じの。 「ピーピー泣くのは……昨日で終わった。 ずっと泣くのも疲れたし、あんまり向いてなかった」 「あはは、にいさん、散々な言われよう。 二人の良いところだけ取りたいな。 言って、オレももう小さい子どもじゃないから。 ここからは限度があると思うけど」 はぁ、と息を吐いた。何かが嫌だったとかではなく。 単純に気分を切り替えるような、貴方の話しぶりが軽いものだったから。 気が楽になる心地がした。皿の底ももう見え始めている。 「鉄格子越しなのがなんか勿体ないね。 オレ、ルチアーノさんと話すの好きだなって思う」 (-334) 2023/09/25(Mon) 13:06:13 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ「…………あはは」 はっきりと言い切られた。 それはいっそ清々しい程だった。 だから痛みに呻くより先に。 笑いが漏れる。 「そっかぁ」 瞼を伏せた。 そうとしか返事をしなかったことも。 抱いた感情も、紛れもない真実だった。 牢から出た先のことは分からない。 それでも一つ、いま。 指針は得た。 [1/2] (-335) 2023/09/25(Mon) 13:10:14 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ後は其方が飽くまで。 或いは己が限度を迎えるまで。 ペン先が回る度にひくりと身体を跳ねさせ。 痛みの波の中を揺蕩うだけ……の筈だった。 尋ねられる、貴方が探すマフィアの所在。 ひとり、ふたり──そして、さんにん。 「────」 最後の一人を聞いた瞬間、目を瞠った。 男はそれだけは守らなくてはいけなかった。 瞳の中で揺らいだ驚愕の色はすぐに変わる。 眉を潜め、貴方を睨み付ける中にあるものは。 「…………知って、どうする」 剝き出しの、明確な敵意だ。 [2/2] (-337) 2023/09/25(Mon) 13:11:24 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → corposant ロメオ「新しいパン考える? あはは、楽しそう。 オレがたくさん食べて培ったパンパワーを発揮するとき……」 なんて軽口を言える程度には、心が落ち着いてきていることに安堵した。 ジュースをまた一口貰いながらもせんぱいの追加情報には成程と納得をする。 しかし、自分も捕まっていたのにあんな態度だったのか……? だからこそだったのかと考える最中に気が付きはしない。 貴方が今、何を決意したのかなんて。 今の己にとって大切で、わかることといえば。 「…………」 向き合い投げかけられた視線が真っ直ぐなもので。 貴方は確かに頷いてくれた、ということだ。 顔を上げれば少し安堵したように笑った。 「……待ってる」 「やくそく」 そうして理解する。 きっとずっと、ちゃんとぜんぶを知りたかった。 他の誰からではなくて、貴方の口から、ちゃんと。 そうと鉄格子越しに差し出したのは、左手の小指。 (-341) 2023/09/25(Mon) 13:34:40 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ「っぅ゛」 鮮血が舞った。 熱の籠った頭に怒りさえ昇れば、避けるまでに思考は回らなかったけれど。 だからこそ先程とは違った、這い上がる恐怖を上回る激情が其処に在る。 「ぃ、……わない」 鼓動は煩い、痛みに汗が落ちる。 涙が滲む、それでも、ぎらついた眼光はそのまま。 貴方を映している。 「いうもん、か」 男が先程まで怯え続けていたのは、ただそれだけでは覚悟を持てなかったからだ。 己が身を守りたいだけの発想では逃げることしか考えられない。 だから逃げたかった、助けて欲しかった、されど。 この身よりも余程、大切な存在を挙げられたのならば。 「ぜったい、」 「アンタには、教えない」 僅か血の滲む貴方の手を、男は強く掴んだ。 それは変わらず、手折ってしまうには容易い力で。 けれど今までで一番強い、反抗の意志。 (-344) 2023/09/25(Mon) 13:51:37 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ平手が飛べばぎゅっと目を瞑った。 ペン先で抉られるのとは違う鋭い痛みが走る。 こわい。 湧いたそれを抑え付ける、不要だ。「……っいわない、っていってるだろ!」 「アンタ、知ったらぜってぇ碌なことしないじゃん!」 「ケホッ」 いきなりの大声は乾いた喉には刺激だった。 咳き込みながらも睨みつける瞳は変わらないまま。 熱がどっと上がる心地がした、頭がぐらつく。 「家族に、こんなことされて堪るか……ッ!」 (-358) 2023/09/25(Mon) 14:28:32 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ熱い指先に触れる雫は冷たくて、胸が痛む心地がした。 頬に流れるそれを拭えない代わりに、忘れないように。 指先が離れる頃にはぎゅうと掌を握り込む。 「……ねえさん」 するから、という言葉が引っかかる。 けれど今この場で深く踏み込むことは難しいし、恐らく危険だ。 無理に浮かべてくれようとした笑みに少しばかり眉を下げながらも。 「…………無理は、しないで」 「おねがい」 言えることといえばそれぐらいしかなくて、それでもそれしかないから形にする。 去って行く後ろ姿を見送った、牢の奥。 今ここにいるのが己で良かったと。 貴方が去ってくれて良かったと。 肌に冷たさを教える涙を裏切ってしまうような安堵を抱く。 この地獄の淵に夜明けはあるのだろうか。 今はまだ、何も分からないけれど。 ……でも、なんとなく気が付いている。 朝が来たとしてきっと、多くが変わるのだろう。 貴方も、自分も。 そうだとしても、ひとつ、ずっと変わらないもの。 心の内に咲き続ける、貴方が植えた愛の花弁を。 確かめ、なぞるように瞼を落とした。 (-385) 2023/09/25(Mon) 16:47:33 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → corposant ロメオ「より良いパンを生む〜」 同じ軽さの言葉が返ってくるのがこちらも心地よかった。 此処が牢獄の中だなんて一瞬、忘れてしまいそうになる程。 底にばかり落ちていた心が普段の暖かさをふと思い出した頃。 差し出した小指に返る、同じぐらいの体温に瞳を細めた。 ゆびきりげんまん。 「……うれしい」 どうか覚えていてくれたらいい。 きれいじゃなくても構わないのだと伝えたこと。 貴方のお陰で直にお腹は膨れて、そうして終わりが近いと分かればどうにも。 ……さみしいな、でも。 「……うん」 「待ってて、それまでちゃんと折れずに、がんばるから」 子どもじゃないから駄々は捏ねない、こくりと頷く。 それでも貴方が居なくなってしまう前に。 すこしだけ間を開けてから、不意に尋ねた。 「あのさ」 「……困ったことがあったら言いな、のやつ」 「有効期限ある……?」 何やらいつかの言葉を掘り返してはそんな聞き方をする。 まるでその内それがあるのが分かってるみたいに。 (-396) 2023/09/25(Mon) 17:29:50 |
![]() | 【墓】 暗雲の陰に ニーノ>>+63 黒眼鏡 「あるだろ」 あるだろ。即座にツッコんだ。 色恋から離れて生きてきた男は、兄との価値観の違いを痛感して呆れた様子で溜息を吐いた。 「そうやって結論付けたら何でも良いと思ってない……?」 「つーかフィオねえ泣かせておいて (※仮定です) めんどくせえじゃねえ」 どん。 手が離れた辺りで軽く肩に頭突きして、また溜息。 まあでも大分と、そう。 いつも通りの会話ができた気がして安心した。 自分の移動もそろそろ近いだろうから、よいしょと立ち上がりながら。 「…………」 「……なあ、にいさん」 最後にと、貴方を見下ろしてひとつ尋ねる。 「クロスタータ、嬉しかった?」 #収容所 (+64) 2023/09/25(Mon) 17:30:25 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ歪む笑みを認めた、次の瞬間には。 「ッ、ぁ」 襟首を掴まれる。 喉が更に詰まる。 強い、強い力で。 「ぅえ、ゃ、め、っ」 脳が揺れてきもちわるい。 はきそうだ。 まともに物を捉えられない視界がそれでも一瞬。 強い感情に揺らめく炎を見た。 認められない何かがあるのだと知る。 だとして、それだけは。 それだけは、否定されて堪るものか。 自由になった両腕を動かす。 痛むのを構わず両の手を握り込む。 そうしてぶんと振るい、その頬を横殴ろうとした。 ……その結果、もし解放されたとて。 ぐらつく視界に耐え切れず、椅子から転げ落ち崩れるだけだが。 (-398) 2023/09/25(Mon) 17:39:36 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ一撃は確かに貴方の頬を捉えた筈だった。 されど──首元の圧迫感は変わらぬまま。 「────ッ」 ならばその手を離そうかと指先を動かそうとしたところで。 あ、だめだ、 先程の一撃で痛みが酷く言うことを効かない。足掻こうとした最中にも真っ直ぐとぶつけられる。 所以の分からない激情が、憎悪が、怒りが。 その理由を知りたいと望んだところで……もう、遅いのだろう。 ────くらり。 「…………ぁ、」 大した音は漏れなかった。 ぷつんと電源が切れたみたいに。 男の身体から力が抜ける。 がくんと首が傾く。 先に限界を迎えたのはこちらの意識だった。 名を呼ばれても、痛みを与えても。 しばらくはぴくりとも反応しない。 気を失った男は、ただの物同然となることだろう。 全てを手放すその前。 怒りと敵意の渦巻く奥底に未だ見る。 あなたの隣人で居たかった、などと。 悲しみを抱く弱さは、 矢張り警官に向くものではないのかもしれない。 (-524) 2023/09/26(Tue) 9:52:56 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → corposant ロメオ「うん、……」 もうひと踏ん張り。 終わりが近いと分かっているかのような言葉は、少し不思議な心地がした。 立ち上がる表情は既に何か次の目的を定めているように思えて。 ほんの少し遠く感じた、指先をまた伸ばしかける、のを。 「…………」 言葉と笑みを見つめて留める。 なんだかなあ、パン屋の店員さんとして眺めていた時はそんなに思わなかったのに。 うっかりありがとうもまたねも伝えるのを忘れて背を眺め、見送った後。 「…………かっこいい」 一人零した声は拗ねたみたいになってしまった。 だってなんだかずるかったから。 膨れた腹と喉に満たされた心地を感じながら、そこでようやく。 誰も居ないのに「ありがとう」を零したのだった。 (-525) 2023/09/26(Tue) 10:04:59 |
![]() | 【墓】 暗雲の陰に ニーノ>>+65 黒眼鏡 「疑うのって〜難しくて〜……」 賢いだなんて自分で思ったことは無い。 それでも貴方にそういわれると背を押してもらえたような心地になる。 とは思いつつももちゃもちゃと文句は垂れていたわけだが。 「…………オレはその辺にツッコまないからな」 小声で言われたことにはジト目を返した。 男は"そういう"話題にはいつだって一歩引くのはご存じの通り。 兄と姉のそれについても同様だ、とりあえず泣かせていないならいいのだが。 はあ、と溜息。たぶんこれで最後。 それから見上げた貴方が贈ってくれる全てには。 「……ん」 #収容所 [1/2] (+71) 2023/09/26(Tue) 10:21:41 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → favorire アリーチェそんなことないよ、と苦笑する貴方に安堵させるような微笑みを返す。 頼りないだなんて思ったことは、本当に一度も無いのだ。 貴方の言葉も行動もいつだって誰かを暖かく思う気持ちが表れているから。 陽だまりをひとつ、お裾分けしてもらえたような心地を抱いていたんだ。 「……へへ、何か伝わった? なら良かった。 オレ、こういうの話すのあんまり得意じゃないから。 ……でも、アリーせんぱいがずっと自分を責めるのは、苦しいから」 「オレもありがとう。 色んなことさ、一回全部目を塞ぎたかったん……ですけど。 アリーせんぱいがそうやって決意してくれてるの聞いてたら、ちゃんと受け止めないとなって」 そうだ、そうして結局傷付かないのは、自分だけ。 されど保身に走って大切なものを取りこぼすのは嫌だって。 ひとに伝えるなら分かっていたことを、貴方の言葉で改めて自分にも正しく置き換えることができた。 細めた瞳はその感謝を映し、手を労わる指先の温もりには少しくすぐったい感情を胸に。 「めちゃくちゃ〜痛い! ……痛いけど、よしよしでちょっと飛んでった……」 「……なんかすっげえうれしいです。 こんなところじゃ誰の力にもなれないって思ってたけれど、アリーせんぱいの元気になれて。 お菓子作りたくさん教えてもらったお返し……みたいなものだから、気にしないで?」 笑う瞳を覗き込み、伝える。 そろそろ収容所の移動も近いことだろうと看守の動きを横目で見て理解しつつ。 「……ね、アリーせんぱい、お別れの前にひとつだけ。 聞いてもいいかな」 (-528) 2023/09/26(Tue) 10:41:20 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 口に金貨を ルチアーノ「え、ほんと?ならどこかで会いたい」 一方的な感情かと思えば貴方が拾い上げてくれたのでそこに嬉しさは感じつつも。 いい男でいられるときとそうでないときがあること。 ずっと格好つけることはできないということ。 いざというときに駆け付けられる男になればいい、と。 並ぶ言葉とアドバイスには、とうとう声を出して笑った。 「ふ、……あはは」 「ねえ、ほんとうににいさんの部下なんだな。 言ってることそっくりだ、ずるい」 この牢に入る前のこと、会いに行ったその人に似たことを告げられたのを思い出した。 から、なんだかおもしろくって、それからずるいな。これは漏れてしまった。 憧れた背を追ったつもりでいたけれど、己よりもよっぽど貴方の方がと思ってしまう。 だからこそ初めて交わす言葉にこんなにも好意を抱くのだろう、とも。 差し出された最後の一口をぱくりと含み、こくんと飲み込む。 「……ありがと。 様子見に来てくれてうれしかった」 「暇になったらまた遊びに来てね。 よかったらご飯時に」 にぃと笑う男は、さて、悪いことじゃないらしいので。 十数分ほど前までは見ず知らずだった貴方へ、それでも関係ないとばかりに頼って甘えようとしていたのだった。 (-531) 2023/09/26(Tue) 10:57:40 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → リヴィオ左手に触れる。 ぬくもりはあの夜と同じだった。 距離が詰まる。 近くに貴方をようやく感じられた。 笑顔は下手くそで、言葉は詰まっていて。 それは己が見てきた無敵には余りに遠い。 けど、それでよかったんだ。 「……うん」 零された声も、浮かべられた表情も。 いとおしいに違い無く、緩んだ目元はそのままに。 指先を撫ぜ、柔く握り込む。 「オレも、あなたに会えてよかった」 「……うれしいよ、ぜんぶ」 見せたそれが本物じゃなかったとしても。 貴方が抱いた祈りは本物だったんだろう。 微睡む夢に込められたのは悪意ではなく。 優しさと希望だったことを、今の貴方が教えてくれた。 [1/2] (-534) 2023/09/26(Tue) 11:33:56 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → リヴィオ「へへ、なんだか照れ臭いなぁ」 「……ねえ、今度は晴空の下で散歩しよう。 行儀悪いけれど、食べ歩きでもいいかも」 叶うのか、叶わないのかは分からない。 だとして多くの涙で赤らんだ瞳は今でも輝きを失っていない。 そうして貴方を覗き込んで小首を傾げる。 「だから、此処で待っています」 こんな場所にでもいる自分が、貴方に託せるものを。 ひととき、握る手に力を込めて、そっと告げた。 「……リヴィオせんぱいなら、きっと 大丈夫 だよ」[2/2] (-535) 2023/09/26(Tue) 11:37:12 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 口に金貨を ルチアーノ「高い高い」 貴方の口から聞くと思ってなかった単語に、男はツボに入ったようで少しの間声を揺らして笑っていた。 そういうところを見せられるともっと好きになってしまう。 「確かに、高い高いしてもらえる身長だって考えたら悪くないかも」 してもらおうという発想は無かったけれど、貴方のそれを聞いたら今度誰かにねだってみてもいいかもしれない、とも考えていた。 これまでその足が辿ってきた路を知るにはこの時間は短すぎるけれど。 だからこそ次を求めてその軌跡を改めて話して欲しいと願ったりもして。 「やった〜。 じゃあ今度、一緒。 覚えてるからな、オレ」 ひひ、と笑う。 雨上がりの夜明けはもう近い、だからそれが叶う日は来ないのかもしれないが。 それでも頷いてもらえたのは嬉しかった、から見送る姿を機嫌よく見送った。 そうやってまた一つ貰った、前を向く力を心の内で抱きしめながら。 (-603) 2023/09/26(Tue) 19:40:04 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → favorire アリーチェ「普段はお菓子作りとか、仕事の話しかしないもんね。 シンパシー……感じるのってうれしい、です! あはは、もっと色々話しておけばよかったな」 とはいえこのような状況でもなければそう深い話をすることもない。 仕方ないといえば仕方ないのだが。 貴方の笑顔は眩しいものを見つめてくれるそれだろうか。 こちらも瞳を細める、貴方は仲間と想ってくれている。 まだ触れたままの指先を、そっとこちらからも撫で返した。 「いつでも、オレが聞けるときなら」 貴方の周囲には家族が居て、頼りになる幼馴染のせんぱいたちも居て。 だから自分がそう深く心配することもないのだろうけれど。 頼ってもらえるのはうれしい、だから次の問いはほんの少し。 口にするには苦さがあった。 「……出てから、きっと色々あると思うけど」 「また、お菓子作りって教えてもらえますか?」 それでも舌に載せて言葉にする。 眉を下げながらも笑んで尋ねるそれは、甘えだなとは頭の隅。 (-605) 2023/09/26(Tue) 19:51:05 |
![]() | 【墓】 暗雲の陰に ニーノ看守たちが騒がしくしているのを聞きながら、 ようやくに包帯で固定された右手を天井に翳す。 天気予報は、どうやら当たりそうだ。 「……うん」 聞こえてきた名に心が波立てど、どこか頭の芯は冷えていて。 だから、大丈夫だ、と思った。 此処から出るときに全部が変わっていくとしても。 (+79) 2023/09/26(Tue) 19:55:54 |
ニーノは、もう目を塞がないと決めている。 (c46) 2023/09/26(Tue) 19:56:04 |
![]() | 【秘】 暗雲の陰に ニーノ → favorire アリーチェ「それも一つ、人生の学びかも、なんて」 これからに活かせるといい。 何でもない話題も、そうじゃない話題も。 ひとつ踏み込む大切さも、時間は限られているという事実も。 こんなところで学べるものがあるだなんて思っていなかったそれらを心の内でなぞって大切に覚えておく。 その内に向けられる貴方の満面の笑みが、やっぱり眩しかった。 「……はい。 きっと、いつか」 「楽しみです、せんぱいの話も。 ……オレの話も、させてください」 それがいつになるかはわからないけれど。 次に教えて欲しいお菓子はもう決めてあるのだ。 小さく笑みを転がせて、そうして直に指先を離す。 「それじゃあ、また」と、ひとときの別れの挨拶を形にし。 そうして笑みを最後贈ってから牢の移動へと歩いて行く。 いつも通りを教えてくれた貴方の言葉で、見据えるべきものを見据える勇気を抱きながら。 (-621) 2023/09/26(Tue) 20:43:16 |
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