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【人】 大富豪 シメオン[だが、男は余りにも『美』に偏っていた。 ただ一瞬の輝きのために破滅に追いやられた者もやはりら数多くいた。 『美』の頂点に立ち、名を残したからといって本人が幸せだったとは限らない。 その一人が女優のドナータだった。 賢者の求愛を受けた女は幸せの絶頂にあった。 だが、それは賢者の親友に乗っては『美』が失われようとしていると受け止められた。だから、男は手を回した。 「幸せな結婚生活を続けるには必要なものがある」 男はそう言って女に流行りの歌を聞かせた。 女はそれを大層気に入って愛しい男にそれらを強請った。 男はそれを理解っていた。 賢者が男に何かを借りに来るとを。この街で賢者にはそれを頼める者が男しかいないのだから。] (49) 2022/11/30(Wed) 17:07:56 |
【人】 大富豪 シメオン[男は女の幸せを願っていた。 親友の幸せを願っていた。 ただ、それよりも男には譲れないものがあった。 そらだけのことで、それが全てだった。 ドナータは才能豊かな女優だった。 見目の美しさはもちろん、その演技は見るものを魅了した。 しかし、足りなかったのだ、男には女がもっと輝けることを、もっと美しくなることがわかっていた。 彼女に必要なもの。 男が見抜いたそれは『絶望感』だった。 ドナータの師は彼女を磨いた。 それが間違っていたわけではないが、彼女の『美』の本質は生まれの苦しさからくるものだった。あの頃には戻りたくないと、自分を磨くその想いこそが彼女の『美』の本質。 だが、幸せな日々を過ごす中でそれが曇っていくのを男は見過ごさなかった。見過ごせるわけがなかった。 そしてそれは見事に花開く。 悲劇的な別れ、体を汚され、愛する者を失ったその絶望がドナータをさらに美しく磨き上げた。] (50) 2022/11/30(Wed) 17:08:51 |
【人】 大富豪 シメオン[彼女は自分の幸せと引き換えに『美』の頂点に立った。 しかし、彼女の成功を知るとかつて彼女を弄び汚した男たちが再び女に近づいてきた。 男たちは当時のことをペラペラと女に聞かせた。 どれだけ楽しんだかということ、女もまた男たちに抱かれ快楽に悦んでいたということ、そして、女のもとへ向かわせた者の存在も。 その翌日、男たちの首は街の大通りに晒されていた。 人々は噂する。 彼らはドナータに手を出そうとして、彼女のパトロンが彼らを粛清したのだと。そのパトロンこそが賢者が去ってより彼女を庇護していた男、シメオン・ジョスイであった。 この街で知らない者はいない。 ジョスイの『美』に手を出してタダで済む訳がないことを。 故に、殺された男たちの親たちの辿った道は二つに一つだった。 黙して諦めるか、報復を画して返り討ちにあったか。] (51) 2022/11/30(Wed) 17:09:56 |
【人】 大富豪 シメオン[男はかつての親友に向けて呟いた。 「甘いんだよお前は。 敵は徹底して滅ぼさなければならない。 俺たちは、北で身をもって知ったはずだ。」 結局、その出来事でシメオン・ジョスイが罪に問われることはなく、そのことがこの男にとっての伝説の一端となった。 そんな街の出来事を他所に、ドナータはただただ堕ちていき、男はそんな女を見て、その醜さに苦虫を噛み潰したような顔をしていたという。*] (52) 2022/11/30(Wed) 17:12:22 |
【赤】 大富豪 シメオン[強請られるままに口付ける。 お前が望むものは全て叶えよう。 お前が渇望するもの全てを与えよう。 たとえこの命が明日にも尽きようと。 私の全てをお前に捧げる。 そうして私はお前の中に永遠に生き続ける。 重ねた唇と唇。 甘い口付けは徐々に濃厚で淫らなものへ。 足りない。 もっと欲しい。 幾度も体を重ねようとも足りない。 何度も口付けようとも足りない。 だから私たちはお互いに喰らいあい、お互いを与えあう。] (*89) 2022/11/30(Wed) 21:32:55 |
【赤】 大富豪 シメオン[きっとその睦み合いは月が天高く上るまで続いた。 すっかりと精も根も尽き果てて、今はベッドへと体を預けている。 男は病み上がりだとは思えないほどに何度も女を求めた。 何度か休憩を挟み、体を清め、また交じりあう。 そんな風に一日を過ごし、今はもうまともに動けそうもない。] 流石に……やり過ぎたか。 [隣にいる最愛の女に手を伸ばしその髪を撫でた。 どうやら己はこうしてこの女の髪を撫でているのが好きらしい。] 未練が残ってしまうな。 [この飢えは満たされることがない故に、きっと死ぬその瞬間までこの女を求め続けるのだろう。 それはとても幸せなことではないだろうか。 そっと女の額に唇を押し当てた。*] (*90) 2022/11/30(Wed) 21:33:12 |
【赤】 大富豪 シメオンそれなら、お前は100年ぐらい生きそうだな。 [そして己もと笑う。 それがもはや夢物語と知ってなおそんな未来を願う。 胸に愛しい女を抱きながら、一日でも一刻でも長くと。 もしも本当にこの街の伝承が本当ならば、今までまで捧げた『美』の数だけ望みが叶うなら、きっとそう願うのだろうか。 いいや、きっとそうは望まない。 神に叶えてもらうなど、それは美しくないと男は思うのだから。 イルム……私のイルム。 [女の髪を指で掬いながら、今はただ疲労感と幸福感に酔いしれていた。] (*100) 2022/11/30(Wed) 22:42:57 |
【人】 大富豪 シメオン[真夜中、イルムが寝入ったころにベッドから抜け出した。 水を持ってくる様に使用人を呼ぶと、水と共に一通の手紙と包みを持ってきた。そしてその差出人の名を聞いて男は薄笑みを浮かべた。 男は知っている。 かつての親友がとうに死んだことを。 復讐に囚われ自分すらも見失うほどの怒りと憎しみを携えていたことも。 いつかその炎が己を焼き尽くしにくるのだと予感していたが。 どうやらその予感は外れたらしい。 男はランプに火を灯すと、その炎で手紙を焼いた。 たったの一文字も目を通すことなく。 本当は生きていたのか、それとも偽物か、男にはどちらでもいいことだった。そしてこの手紙が本物なのかそうではないのかも。] (71) 2022/11/30(Wed) 22:44:09 |
【人】 大富豪 シメオン……過去の亡霊に用はない。 [そう口にした言葉とは裏腹に、男は一抹の寂しさを感じてながら、灰となって消えるそれをただじっと見つめていた。*] (72) 2022/11/30(Wed) 22:44:54 |
【人】 大富豪 シメオン[───1年。 それが男に残された時間だった。 あの夜。 イルムと共演したあの剣舞によって文字通り男は命を燃やした。 失った時間を巻き戻すように若さを取り戻すという行為、紙の摂理に逆らうその代償は決して小さくはなかった。 しかし男はそれで満足だった。 あと10年かけても届かないはずの『美』に確かに届いたのだから。 ただ未練だけがある。 愛するイルムの傍にいつまでも居たい。 人として当然のその想いを男は手にしていたのだ。 それも宿命と男はそれを受け入れていた。 この想いの幾つを己の業によって砕いてきたのか。 いまさら自分だけがそれを享受できるとは思っていないし、だからこそ命を燃やすことができたのだ。 己の命も幸福さえも捧げる覚悟が男にはあった。] (85) 2022/12/01(Thu) 16:08:06 |
【人】 大富豪 シメオン[人は何のために生きる。 世に自分の痕跡を残す為、それが答えの一つだろう。 ならば男ほどこの世に『美』を残した者はおらず、そして己の傍らには最も美しき女がいる。 それはこの目が見出し、この手が花開かせた『美』だ。 悔いはない。 だが未練はある。 故に男は死に足掻気続け、拒み続けるのだ。 「その姿を醜いとおもうか?」 明日を決して諦めず。 100年先までイルムと共にある様にと願う。 男はそうして一年を過ごす。 最後の瞬間まで『美』への渇望を抱きながら。*] (86) 2022/12/01(Thu) 16:09:11 |
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