【独】 雷鳴 バット「ああよかった」「今日は獲物がつかまった」 森に仕掛けられた罠を見る。 針金に首をつかまえられた、哀れな小りすをひょいとつまんだ。 暴れる元気は失いつつも、人が近づけばじたばたと手足を揺らしている。 そうっと罠を外してやって、細い首をこきりと折った。 手袋を外し、ベルトに引っ掛ける。素手の指先は丈夫な爪が伸びていた。 薄い毛皮を爪で割いて、ばりばりと剥いていく。 血の滲む中にピンク色の肉が露出したのを見下ろして歯を立てる。 生暖かい感覚、血の味、生の肉の味。 おぞましいそれは獣の嗜むそれであり、およそ人の所業でない。 垂れ落ちる血に燥ぐように口先で追う様子を、他人が見たらどう思うだろう。 きっと頭がおかしいのだと、ゆびさされることになる。 そしてそれは、仕方のないこと。それこそが自分がここにいる理由だ。 きっと誰にも理解されることはない野生を抱えて、放り出された。 逆立った毛の生えた毛皮は、いつものように火で焼き炙る。 証拠隠滅がもっと簡単なら良かったのにと、青年はいつも思っていた。 ぼさぼさとした毛の塊は、どうしてこの世から消えてしまわないのだろう。 小さな彼女は本当に、ふわふわの兎によく似ている。 似ている、なんていうのは本当は――とてもおそろしいことなのだろうな。 「気をつけないと」「気づかれたら」 「きっと怖がらせてしまうから」 「もうちょっとだけ、ふつうにしていられたらいいのに……」 (-90) 2022/04/30(Sat) 20:01:21 |
【秘】 月鏡 アオツキ → 雷鳴 バット「無駄、ですか」 ――僕には必要ない。 ――これ以上は無駄、用事は終わった? 「皆、同じこといいますね〜……構いませんよ、……そう。 そうです、これは仕事です。やらなくてはいけないこと。 手伝うつもりでいいです、尋ねることが仕事なんですよ〜」 抑揚もなく免罪符をおいて約束を取り付ける。 成果にどんなものが実るだろうかと考えつつ、続く言葉に頭だけ動いた。 「君が悪いことをしているかもしれない? と、ですか?」 「そうですね……」「それが原因で怒られはしませんよ」 「私が怒られるのは、君たちを害したときです」 「君たちの望まぬ事をして生活に支障を与えて、 悲しませて、病ませることです」 その役目は、実習生の私ではない。 「その質問は、……私に怒られて欲しくないのですか?」 (-97) 2022/04/30(Sat) 20:38:20 |
【秘】 雷鳴 バット → 月鏡 アオツキ「何も見返りのないことをするのは、とても辛い」 「ツキの役目はりっぱなこと」「恵まれてほしいと、思ってる」 「でも僕は……」 言えない。口を閉ざしてしまった。 決して貴方を困らせたいのではないのだということは、伝わらなくとも仕方のないこと。 それとは相反して貴方を困らせ、空振りさせているのもまた自分なのだ。 少なくとも約束をしたことについては、再度断わったりはしなかった。 「ツキは悪いことをしてない」 「僕が悪いとしたら、それは僕の過失」 「ツキは頑張ってるから」「たくさん報われてほしいな……」 なればその役目に対しては、どう応えればいいのだろう。 答えはわかっているが、それは与えられないから……ただ、お茶を淹れるだけ。 ほの甘い匂い、毛布の心地よい重さ。それが快いものであったならいい。 ほかに与えられるものがあるのなら、なんだろう。 (-102) 2022/04/30(Sat) 20:48:26 |
【秘】 雷鳴 バット → 月鏡 アオツキ考えて、考えて。 「……いつもありがとう」 貴方の手に握らせられるものがあるなら、それくらいだろうか。 (-103) 2022/04/30(Sat) 20:49:12 |
2022/04/30(Sat) 20:58:47 |
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