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【秘】 雷鳴 バット → ライアー イシュカ「そう、か……」「確かに」 「ちゃんとした理由があるなら」「説明も、する」 全く疑わしく思っていない、というわけではない。 それでも敵愾心めいて恨めしく思うほどの理由は、青年にはなかった。 或いは、そう思えるほど"足りていない"かだ。 貴方の言う通り青年の頭の中というのはお子様で、あれこれと頭の回るほうではなく。 他人にこれとごまかされてしまったら、追及できるほどのものも持っていなかった。 続いて。不意に向けられた問いには明らかな動揺があった。 瞳孔は忙しく動き、言いよどむ間と呼吸があって。 どんなふうに答えれば良いのかが脳の内側で錯綜するように回っている。 「僕が」「兎を」 「……」 「……逃した、から」 「怒られた、大人に」 言葉は曖昧に。事実とは異なる事を言うのは慣れていない。 喉の奥で揺れる空気の流れは、それが嘘であることを明らかにしていた。 その質問があったからか、或いは単純に話題に途切れがあったか。 なんとなくもどかしい間があって、提案を。 「……一人のほうが、」「いい?」 (-43) 2022/05/07(Sat) 0:22:52 |
【秘】 高等部 ラピス → 雷鳴 バット『少なくとも、今は』 不可逆のものだと頷いた。 研究が進めば、或いは元に戻るのかもしれない。 外科手術で取り除いたこともあるが、それは対症療法のようなもので。 根治できなければ、また夜色が身体を覆っていく。 じんわりと、肌の温もりが移る。 感覚の消失した石部分はそれを感じ取ることはできなかったけれど、肌には確かに温かさが灯った。 感触を確かめるように微かに動かされる指の動きが青年の頬に伝わるだろう。 (-51) 2022/05/07(Sat) 1:16:08 |
【秘】 雷鳴 バット → 高等部 ラピス他人のことは、他人が説明してくれるから。 自分のことよりもなんだか深刻なもののように感じられたのだ。 人それぞれの状況に、程度問題の差などないのだろうけれど。 ぱち、ぱちと目を瞬かせる様子は眠りにつく畜獣のよう。 甘やかな膚の香りと、つややかな指の触れる感触が。 どうしても、ひどく、――に思えたから。 ざら、と舌が指先を這って。 かりと、尖った歯が白い指に立てられた。 (-62) 2022/05/07(Sat) 2:36:15 |
【秘】 ライアー イシュカ → 雷鳴 バット「……兎は馬鹿じゃねえけど、賢くもない。 普通は逃がしただけなら怯えはしないだろ。 悪意を持って逃がしたとしても気付かない。……」 追及されないのを幸いとばかりに淡々と。 己が気にした所ばかりを逆に尋ね続ける。 弱みを突かれないならまだいつも通りらしく振舞えはする。 最もそのいつも通りは大多数の人にとっては不快だろうが。 「ちなみに僕、他の教師に聞く事もできるが。 その答えはそのままでいいわけ?」 完全なカマかけだ。見る人が見なくてもわかりやすい程に。 男もただの実習生だ。詳細な話を聞ける保証なんてない。 暫し貴方から目を離さず、錯綜する答えが纏まるのを待つ。 意外にも怒気を帯びていない白群が射抜き続ける。 もし答えがなかなかでないなら、 待つ合間に以下の下記の言葉をかけていただろう。 「……別に。執拗に話しかけてこないならいい。 それに嫌なら言われなくてもこっちが去ってる」 (-66) 2022/05/07(Sat) 3:35:44 |
【秘】 神経質 フィウクス → 雷鳴 バット「俺はこれまでに一度もお前に遠慮をした覚えは無い。 お前の事は……別に、そういう奴だと思ってるだけだ」 自分に誰かを特別慮る余裕はそれほど無いし、それに。 もし仮に、言いたい事があるのに言わずに黙っているだとか。 何か煮え切らない様子であれば、それは少しは気に障る事だろう。 けれど大抵は、恐らくはそういうわけではなく 単に互いに話す事が無ければ無理に会話をしようとはしない。 これまでの付き合いの中でそういうものと認識している。 それは今に至ってもおおよそ変わりなく。 それが自分にとっては不都合ではないから良いとしている。 きっとこのどこかいびつで遠回しな接し方を、 心地悪いとは感じず、そういうものとあなたが受け取るように。 「………これから、か」 これから、卒業まで。 自分と比べれば、あなたに与えられた猶予は長いだろう。 けれど、と思ってしまうのは、きっと悪い癖だ。 そんなふうに思って、同じように一度部屋へ視線を移した。 そうしてこの部屋を貸し与えた者の事を思い返す。 きっと、大丈夫だ。 (-67) 2022/05/07(Sat) 4:37:51 |
【秘】 不明 フィウクス → 雷鳴 バット「俺は……この病を治したいとは思わない」 「治さないまま外で生きていけるとは思ってない。 だが、結局、この病を治そうと治すまいと。 俺にはもう外に居場所は無いんだ。 だからこのままこの場所に居られるなら、それでいい」 フィウクスもまた、誰にも自分の正確な病状を教えていない。 あなたとまったく同じではないけど、少しだけ近いような理由で。 知らないから教える事ができない。 自分の正確な病状を知らない。教えられていない。 他ならぬ自分自身の事だというのに、 教えられていないからいつまでも自分で自分がわからない。 「おかしな考えだと思うか?」 あなたがフィウクスという人間を理解する事が難しいように。 フィウクスがあなたに歩み寄るのも難しい事だった。 少なくとも、『普通の人』のようにはできなかった。 自分を正しく見る事もできなければ、 誰かを正しく見る事もできはしない。 そんな、どこまでも不自由でいびつな在り方を強いられても。 今となっては、この病も確かに自己を形成する一部だった。 だから今更になって手放す事は難しくて、けれど。 そんな自分の居場所を作るには、外の世界は広すぎる。 (-69) 2022/05/07(Sat) 4:39:56 |
【秘】 高等部 ラピス → 雷鳴 バット「………?」 「??」 大型犬のような仕草が可愛いな、とぼんやり考えていたから、続く行為の理解がすぐには追いつかなかった。 まず歯が立てられる感覚への驚きで反射で肩が跳ねて、 それからぱちくりと目を丸くして手を見る。 一体どうしたというのだろう。 困惑の色が強い視線が向けられている。 (-72) 2022/05/07(Sat) 5:22:45 |
【秘】 雷鳴 バット → ライアー イシュカ「……」 その先に続く言葉を紡ぐのを、躊躇した。 躊躇するような理由があるのだ、そして。 それを貴方に伝えて良いものか、それだけの判断が青年にはできない。 たとえば敏い子供であればもう少し言葉を選ぶなり、 ごまかしようもあったろうに。ただ、じりと惑った足が半歩あとずさった。 「き」「くなら、聞いたら、いい」 「そのほうが正確に」「帰ってくるから」 答えはあやふやなまま、肯定でもなく否定でもなく。 自分の口から言うのだけは、その場しのぎにしかならないとしても固辞した。 貴方がどれだけの権限を持つか、なんてのは青年にははかれないこと。 出来るのは、事態から逃げる準備をすることだけだ。 (-83) 2022/05/07(Sat) 18:36:13 |
【秘】 雷鳴 バット → 神経質 フィウクス青年は他とのかかわり合いの中で口籠ったり言葉に詰まったり、 自分の中の考えを口にできないこともよくあった。それは、性格よりも頭の作りのせい。 そうした通い合いがスムーズに出来るということは、 共同体の中の知己としては十分足りうるところなのだろう。 互いに何かを齎すばかりが絆ではないのだし。 「……少しわかる」「僕も、帰っても……」 「僕は、"病気のこども"だから」「追い遣られて」 「たぶん大人になったら」「帰る場所はないんだ」 「子供は育てなきゃ」「よそに悪く言われるけれど」 「子供じゃなくなったら……」 黙り込む。いつか、自分がどうなるかなんてことは想像もつかない。 けれども人に言われたことを真似ることは出来る。 そこに込められた悪意も、噛み砕いて自分のものにすることなくそのままに。 果たして貴方とどれだけ同じ境遇か、まったく違うものかもしれない。 互い違いにもならず、全く違うものがそこにあるだけなのだとしても。 最終的に下した判断は、貴方の言葉に沿うものだった。 「おかしな」「考えでは、ないと思う」 もしもどこにも落ちる場所がないなら、疲れ果てるまで飛んだとしても。 自分は、それで構わない。貴方はどうだろう? 己の病も他人の病も知らないのなら、目の前に見えるものはない。 けれども暗闇の中でも、鏡の像は同じ形をしている。 (-84) 2022/05/07(Sat) 19:06:12 |
【秘】 雷鳴 バット → 高等部 ラピス愛されて、艷やかで。白色のりんごみたいにほころんだ頬。 果実に挟まれた花びらみたいな唇が言葉を発さず、表情だけを作るのを見ている。 檸檬の枝のように細い指は青く艶めいて、それだけが冷たい。 「ラピスの指は、きれいだ。 でも、僕は。生身のままのキミが好き。 青い石には、なってしまわないでほしい」 さみしいと思うのは、変化が目に見えてあるからだろうか。 他人の病気は見えないものだから、こうして明らかなものがあるから? 離れていく船を見ていくような寂寥を湛えた目はじっと貴方を見上げて、 もしくはぼんやりと、指先からつながる根本を見て。 獣のような牙が、白い肌を突き破るほどに突き立てられた。 (-85) 2022/05/07(Sat) 19:14:40 |
【秘】 高等部 ラピス → 雷鳴 バット「──!」 声は出すことができない。 だから、喉の奥を細く息が通る音だけが出た。 牙が肌を食い破ったのなら、そこから赤い血が滲んで垂れる。 白い肌の下に巡っているそれが、確かにまだ生身が残されていることの証左だろう。 痛みを抑えるように自らの袖を握りしめた。 暫くそうやって、困惑と痛みを落ち着ける。 浅い息遣いだけが耳に届いただろうか。 青年の行動は獰猛さを纏っていたけれど、その奥にある寂しさも見えた気がした。 石にはならないよ。 何か言いたくても片手がこれでは難しかったから、 そう伝えるように青年の頭に手を置いた。 (-87) 2022/05/07(Sat) 20:05:40 |
【秘】 月鏡 アオツキ → 雷鳴 バット・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・ たったその短い時間でも休まったのか。 目を覚ましたアオツキは体を起こせば、寝ぼけ眼で君の額へと口づけをまた落とした。 特別でもなく挨拶程度にも交わされるだろうその仕草も、これまでにはなかったものだ。 共に食卓へ向かい授業の為に別れる時には、何処か普段よりも表情が豊かになっているように思えた。 彼はまだ、誰かの振りをし続けている。 (-90) 2022/05/07(Sat) 20:13:53 |
【秘】 月鏡 アオツキ → 雷鳴 バットそれは一人でいるとき。それは先生でいられる時間。 隠しきれず出てきた自我は君のことを考えた。 「(ミゲルくんが幼いのは何故だろう。 十分な教育を受けていなかったからだろうか? 先生達に聞いて、詳細を教えてもらえないか。 ……ただのネグレクトでなるとも思えないのだけれど)」 頭がはっきりしている今ならわかる。 彼には負の感情が酷く欠落しているようにみえる。 悲しいことが悪いことと……思わせてしまった節があることから、 知識としては入っているのだろう、と、アオツキは判断して、また頭を悩ませる。 「(――駄目だなあ)」 ぞくりと感じた所有欲は、実に不誠実で。 自分を心地よくさせる素直で従順な子が可愛いだけ、に思える。 彼も自分に執着しているのではなく、自分が可哀想なのだろう。 其れは少し寂しいが、情けない姿ばかり見せているの自分が悪いのだ。 「(本当に天使みたいな子だ)」 自分の病は、きっと治されない。彼らのそれに触れることも叶わない。 過ごし方は変わらない、それなら一番聞かなければいけないのは未来のこと。 (-91) 2022/05/07(Sat) 20:15:47 |
【秘】 月鏡 アオツキ → 雷鳴 バット・・・・・・・ ・・・・ ・ 「パンを焼いたんですが、食べますか?」 お茶の香りの中で珍しく普通に起きていたアオツキは、 変な形をしたパンが入ったバスケットを置いた。 お店に出せそうな出来のものもある、食べなくとも彼は問題ないのだろう。 「あの、」 「卒業したらどうするか、あの時聞きそびれていまして。 保護者の元に返ってしまうのでしょうか……よかったら教えてくれますか? 私はずっとこの学園で先生をし続けると決めましたから、外へはあまりでなくなってしまいます。 そう考えると、会えなくなるのが寂しくなるな、と」 (-92) 2022/05/07(Sat) 20:16:35 |
【秘】 抑圧 フィウクス → 雷鳴 バット結局のところ、何かを与え、与えられるよりも。 ただ互いに適切な距離感が保たれていればそれでよかった。 フィウクスという気難し屋はそういう人間だった。 「……そうだろうな。」 子供は育てなきゃよそに悪く言われる。 あなたの口から出るには少し違和感のある言葉。 その理由を知らないなりに考えて、少しだけ眉を顰めた。 「この場所を出る頃には、 俺達は少なくとも子供とは言えない歳だ。 社会に出て、自立して、自分で自分の事に責任を持って そうやって生きていく事を求められ始める歳だ」 「どうすれば外で生きていけるのかなんて、 誰もろくに教えてくれやしないまま」 あからさまな口減らしをすれば角が立つけれど。 こうして確かに治療を試みて、善処して、それでも。 結果的に、社会に適合できなかったとしたら。 それは仕方のない事ということになるから。 仕方のない事ということに、なってしまうんだろう。 (-105) 2022/05/07(Sat) 22:51:52 |
【秘】 神経過敏 フィウクス → 雷鳴 バット「そんなのは、俺はお断りだ。」 生きていけもしないような苦痛と、 辛うじて生きてはいけるような苦痛と。 今はまだその何れかを選べる。今はまだ後者を選んでいたい。 「何れにしても俺は人混みの中では生きていけない。」 もしもこの場所から飛び立った先にあるものが、 その空気さえもが自分を苛むだけのものだとしたら。 それならここでできる事をしていた方が幾らかマシだと思う。 「だから俺はここに残る事になるんだろう。 来年も、その先も、ずっと。 いつかお前の事を見送るのか、 お前も同じようになるのかは定かじゃないが。」 ここを出て、当て所もなくたって、行ける所までは。 何処かを目指してみようと思えるなら、それで良いのだろう。 自分はそう思えなかった。ただそれだけの話だ。 (-106) 2022/05/07(Sat) 22:53:03 |
【秘】 ライアー イシュカ → 雷鳴 バット「…………そうかい」 落胆染みた溜息。ここまで言っても答えないという事は 余程話したくない事なのはさすがに教師の適性がない男でも察しが付く。 こっちに寄ってこないままの兎と貴方を交互に見て肩を竦めた。 「これだけ言っとく。 何でお前が飼育委員なのかは知らんし、 大人が決めた事なら僕にもどうこうできないから黙るけどさ」 「"あいつら"が可哀そうって思う事やってんなら、 ……思うようになったら?なのか?まあいいや、止めろよ。 行為でも委員でもどっちでもいいけど」 本当に逃がしてしまって言い淀んでいる可能性も否定できない。 けれど男は貴方についてそこまで詳細に知っている訳でもないから、もしも、の仮定の話でしか伝えられない。 「フィウクスといいさあ…… 何で別に好きでもないのに飼育委員やってんだ」 その分の鍵を僕に回してくれればいいのに、と。 その場にしゃがんでどうにもならない事に悪態を吐いていた。 (-107) 2022/05/07(Sat) 23:14:15 |
【秘】 雷鳴 バット → 高等部 ラピス血の塩気を求めるように舌が動く。 日常から剥離した味を吸い上げる内に次第に、頭ははっきりとして。 ある時やっとはっとしたように目を上げた、けど。 「……」 貴方の手が優しかったから。これでいいのかな、なんて。 受け入れられたのかと状況を違えたまま、貴方の手を掴んで話さない。 退けられなかった口先はちると、自分でつけた傷に口づける。 どれだけ時間がたったのか。ごく短いものだったかもしれない。 肉食獣のそれのようにざらついた舌が、肉を削るかすかないやな感触。 この場所であれば些細なことかもしれないけれど、それでも。 手首を引き寄せる力をどうするかを決めるのは、貴方の自由だ。 (-169) 2022/05/08(Sun) 18:17:59 |
【秘】 雷鳴 バット → 月鏡 アオツキまだ、昼の頃か。 眠たい目をしぱしぱとさせる様子はいつもどおり。 そればっかりは治療が行われたのだろう前後で変わることもなく、 成果が出たとは思えないような話。 午後の授業を控えてうとうとと準備をすすめるうちに、 投げかけれれた問いを受けてしばし考えた。 「……」「食べ」「……る」 粗熱のとれたそれを手に、ふかふかとつまむ。 手に余るもののようにつまみ上げたようすは、ちょっと不思議なものだ。 午後の授業までのおやつに、といった感じで持ち出せる形に包む。 まだほんのりあたたかな麺麭は香ばしい匂いを漂わせている。 「……」 投げかけられた問い。口を開いてから、また閉じた。 貴方の目を見て、自分が口にすべきことを考える。 教員としての貴方の、求める答えは。 「たぶん」「家に帰るよ」 もたもたとした授業の準備の中に、あたたかい麺麭は紛れていく。 午後の眠たい時間は、それぞれにすごすのだろう、そして。 (-170) 2022/05/08(Sun) 18:28:32 |
【独】 雷鳴 バット気づけば、心の底からの言葉というのはあまり彼には差し出せなくなっていた。 昨今のやり取りから、模範的でない言葉は彼を傷つけるのだろうとわかってしまったから。 家に自分の居場所はない。だからここに連れられたのだ。 高い金を払ってでも、体裁を保って家から遠ざけさせたかったのだ。 実際、青年は"病気"を持っているのだから、間違った対応でもないのだけど。 食べられない麺麭を手に抱えて、目を細める。 鳥にでもあげればいいのだろうか、けれど。 それが誠実でないことは知っている。 けれども青年の身体は、植物の繊維をうまく受け付け消化することもできない。 不実を避けるのならば、受け取らなければよかったのだろうか。 とても、彼の行いを否定する気にはなれない。 彼は、かわいそうだから。 (-171) 2022/05/08(Sun) 18:32:57 |
【秘】 雷鳴 バット → 神経質 フィウクス貴方は、あと一年。自分は、あと三年。 それにも足らない期間を過ごして、この外へと羽ばたいていく。 ひょっとすればもっと長い時間を掛けてもらうことも出来るのかもしれないけれど、 ほとんどのケースにおいてそれは保証されるものでもない。 "実習生"になったなら、別の話かもしれないが。 「フィウクスは」「……」 「自分のことを決められて」「えらい、な」 声に混じったのは羨望だった。 青年には、貴方と同じことが出来るだけの頭もなければ、手立てもない。 そしてそれが無かったとしても踏み出せるだけの、精神もない。 実際に見上げるに値するかどうかなんてのは、他人がはかること。 青年にとっては少なくとも、貴方は眩しく感じる雄姿の者だ。 手渡すべき返答なんてものは、青年は持ってはいない。 少なくとも今、対等な答えを出せるほどには、未来なんてものは見えてもいなかった。 「もう」「僕も、食べ終えるから」 「あとはもう食べられない」「もの、ばかりだから」 「……また」「教室で」 残されたほとんど丸のままの麺麭、果実。 誰かに見られたりしたら、好き嫌いしないと怒られそうな残り物。 今日は勇気を出して、隠して持ち出したありふれた食料品。 仕方がないからそれらは破棄してしまう、或いは飼育小屋のものたちにでもあげよう。 幸い彼らが口にしても構わないもの、構わない量しかもちだしてはいない。 出て行きかけの貴方を止めるわけでもなく、これが今生の別れでもない。 また、すぐにでも顔を合わせることができる、……はずだ。 (-176) 2022/05/08(Sun) 18:46:49 |
【秘】 高等部 ラピス → 雷鳴 バットざりざりと肉が削れるような感覚がして身体が強張る。 頭の奥で痛みが警鐘を鳴らす。 まだ自分には生身の部分が残っているんだ、なんて当たり前で余計なことに思考を巡らせた。 一連の行動を経て、漸くあの夜の姿と青年が重なる。 それは戯れにじゃれついて小動物を害してしまう獣のように思えた。 「………、」 青年を拒むことはしたくなかったけれど、自分の指がどうにかなっては流石に困る。 それこそ噛み千切られて生身が無くなったら本末転倒だ。 頭に置いていた手を、少し顔の方にずらす。 額のあたりをぐい、と軽く押して離そうと試みた。 (-177) 2022/05/08(Sun) 19:01:45 |
【秘】 雷鳴 バット → ライアー イシュカ貴方が正しい立場でそうした言葉を向けているのだということは、 鈍い頭をした青年にもよくわかっていることのようだった。 痛む心臓を抑えるみたいに、思わず胸に手を当てる。 「……わかった」 「そう、しなくてもいい方法」 「大人が見つけるって」「言ってくれたから」 「もう、起こることはない、よ」 少なくとも貴方の憂慮すべき自体は、今後は起こることもない。 だから、大丈夫だ。だから、安心だ。 それを境に、飼育小屋からも足は遠のき、近づくことはないだろう。 逃げるように後ずさる足は、そのまま貴方の視界からも離れていった。 ひょっとしたなら、明日にでも。 貴方の願う通りに、鍵の行方は渡ってくるかもしれない。 (-178) 2022/05/08(Sun) 19:06:01 |
【秘】 雷鳴 バット → 高等部 ラピス鈍く動きの悪い頭は、ただ。 ひた隠しに抱えていたものが他に受け入れられたことが嬉しくて。 それが良くないことだと理解したのは、貴方の小さな手で押しのけられてから。 ぱっと顔をあげて口を離す。しばらく、様子を伺うように薄い色の目が貴方を見た。 「……」 「……ご」 「め、ん」 唇の皺には血が濃く滲み、啜った血と唾液が混ざったものが顎まで垂れていた。 自分がしたことに対してどんな言い訳を吐けばいいのか。 頭の回らないまま視線は消極的に下がっていって、うつむいた。 「戻って、いい……よ。 まだ僕は戻らないから、……森にはいかない、大丈夫」 共に歩いて帰るのは、こんなことをしてしまった後では厳しいだろうと。 指を押さえつける手はなく、貴方に縋りつくだけの指もなく。 いつでもあなたは、自分の好きな時に逃げられる状態だ。 (-180) 2022/05/08(Sun) 19:14:30 |
【秘】 高等部 ラピス → 雷鳴 バット「………」 身動きが取れるようになったけれど、 視線を下げている姿が、 それこそ捨て置かれた子どものように見えてしまったから。 まずはポケットからハンカチを取り出して、血が垂れた口元を拭おうとする。 避けられなければ、お返しとばかりにぐしぐしと少し乱暴に拭かれるだろう。 この際汚れても良いかと割り切って。 それから折り畳んで、きれいな面を傷に当てて結んだ。 深刻な傷ではないと思うけれど、念の為。 手当が済めば立ち上がる。 でも一人で立ち去ることはせずに、あなたの腕をぐい、と引っ張った。 大きな身体は、自分の力だけでは動かせない。 青年の意思でついてきてもらわなければ。 『一緒に帰りましょう』 自由になった両手で、黒板にそう書いた。 (-184) 2022/05/08(Sun) 19:31:33 |
【秘】 雷鳴 バット → 高等部 ラピス「……」 いいのか、と見上げる目。 貴方は声は出ないのだから、青年が黙ってしまうと何の音も交わせないまま。 ぱちぱちと、目を瞬くまま見上げる時間があった。 「いいの?」 何に関しての問いかというのは、なんともあやふやなままだ。 日のない内は十分に言葉も話せるだろうに、声に成ったのはそれだけ。 言葉を尽くさねばわからないことさえ、足りないままの小さな言葉。 惑うような沈黙が流れたのは、そう長い時間ではなかっただろう。 それでも焦れて、勿体ぶっているように感じられるには十分なもの。 立ち上がった貴方よりも視線の低い、しゃがんだ身体はようやっと、 ちらちらと辺りに振れる目をひとつに留めて、立ち上がった。 きゅ、と握った手は頼りなく、無事なほうの手を握りつぶしてしまうことのないように。 指の先をちょっとひっかけただけの、とてもささやかなもの。 「……」 「ラピスが、いい」 何が。なんてのはやっぱり、言葉足らずの飾り気のないもの、 貴方が手を引いてくれるなら、貴方の足に合わせて寮への道を歩く。 (-191) 2022/05/08(Sun) 19:51:07 |
【秘】 高等部 ラピス → 雷鳴 バット言葉なく見つめ合う時間があって、短くない間そうしていた気がする。 「!」 やっと指先が引っ掛けられれば、随分上にあるのにどこか今は頼りなさそうな、所在ない表情を見上げて満足気に微笑んだ。 青年の言葉にははっきりとした頷きで返す。 音は紡がれなくとも、それでも少女の浮かべる感情はわかりやすい。 無口な二人は、時に思惑がすれ違うこともあるけれど。 今、一緒に帰ろうと歩む気持ちは同じだった。 『今度は』 『バットくんの手袋の話を聞かせてくださいね』 小さな歩幅に合わせてもらいながら、寮までの道を手を引いて歩き出す。 そうしてそこまで遠くない帰路を辿って、その日はそれぞれの部屋に戻ったことだろう。 (-197) 2022/05/08(Sun) 20:11:11 |
【秘】 雷鳴 バット → 高等部 ラピス貴方の顔を見下ろせば逆光になってしまうのだろう。 たとえどんな恐ろしい表情をしていたとしても、 貴方には何も見えはしないのだろう。 だから、そう。そこにある表情が確かな慈しみだと、伝わっていたならいい。 指先がとても熱く感じるのは、血が流れるせいばかりではない。 「……うん」 移り変わった月光が照らす貴方の表情は、とても尊いものなのだろう。 少なくとも青年にとっては、そうだ。 言葉少なな懐いが何であるかというのは、今はわからなくとも。 どうか己が貴方を傷つけてしまわないように。 どうか貴方が己を見守っていてくれるように。 どうか同じ気持ちでありますように。 ふたつの足音は、また明日へと進んでいく。 (-205) 2022/05/08(Sun) 20:41:14 |
【秘】 ライアー イシュカ → 雷鳴 バット「……ふうん。 そんな顔してるくらいならよかったのかね」 僕は絶対、自分の治療を良かったとは言わないけど。 そう付け加えて。 去る貴方を引き留めるなんてできる人間ではない。 小等部の子相手にすら当たり散らす人間だった。 一つだけ違ったのは、 彼の時とは違って、去る貴方の顔を見続けていた所。 鍵を得ても素直には喜べない所と合わせて。 大人に希望は抱くつもりはないから、 無責任な思考で"あなたの言葉"が叶えばいいなと、それだけを考えた。 (-212) 2022/05/08(Sun) 20:53:25 |
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