人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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視点:


【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

ぶつかった視線、先にある翠。
鏡で見た自分のそれとよく似ている気がしたのは。

「────」

願いを聞いたからこその思い込み、だろうか。
撫でてくれる手つきはとてもやさしいもので。
ねえさんやにいさんと呼び慕うその人たちとも、違うもので。
呆けた表情を浮かべながらもそうされている内。
掻き消えそうな小さな言葉を拾い上げた瞬間。

…………なんで、泣きたくなったんだろ。


ついと視線が落ちかけてしまう前に、口を開く。

「────"フレッド"」

逸らされた話題に乗りかかることもなく。

[1/3]
(-3) mspn 2023/09/20(Wed) 21:15:37

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ


「フレッドって、……呼んで」

貴方が遠ざけようとしたものを近づけるみたいに。

「…………オレの、ほんとの名前」

唐突に告げた。
今の名を渡されてから、昔を知らない誰かに教えたこともないし、伝えるべきでもない真実を……それでもだ。

『弟にして』、なんて。
そのまま伝えたところで、受け取ってもらえるかわからなかったから。

瞼を落として、頭を傾ける。
貴方の肩口に額を押し付ければ、よく似た金糸が揺れた。

[2/3]
(-5) mspn 2023/09/20(Wed) 21:17:03

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ



「教えたの…………とくべつ、だよ」



なんでもをしてほしいから、望んだんじゃなくて。
だいすきなあなたが、そんな笑い方をしなくていいように。


[3/3]
(-6) mspn 2023/09/20(Wed) 21:17:26

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


……ああ、そうなんだ、やっぱり。


"警察"が二人も肯定の意を示すのだ。
嘘であるはずがない、だから間違いがない。
視線は落ちていく、己の両手にずっとある手錠へ。
その内に……唇はゆっくりと開かれる。

「……フルーツを」
「たくさん、貰いました」


誰から貰ったかは明言しないまま。
なんだかもう随分と遠くなったその日を、思い出す。

「だから……彼にも、お裾分け、しました」
「……作ったお菓子も、うまくできたから、渡しました」


そうして、瞼を伏せる。
例えどのような場であれ。
貴方の前であったとして。
それを偽ることだけは、できなかったから。

「…………
家族
みたいな、ひとだから……」
(-9) mspn 2023/09/20(Wed) 21:44:30

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

貴方からの会いたいの気持ちを聞けば、じゃあいっか〜なんて機嫌よく笑っていて。
カッサータと聞けばしばらくぽくぽく……と考える。
けれどその内に思い当たる者があれば「あ!」と声を上げて。

「オレもおいしくてあれ好き!
 ねえさんあのお菓子好きなの?」

「作るのはむずかしそ……、……」


「……いや、でもぜって〜作る!
 大丈夫!この世で一番おいしいの作るから、そのうち!
 待ってて!」

貴方の期待を感じ取れば、できないとは口にしなかったししたくなかった。
男はぐっと拳を握って決意を滲ませている。
で、その後に続く"兄"の話には、そうなんだな〜って笑いながら。
やっぱり少し寂しさは感じたけれど、二人が明るい世界にいることが嬉しかったから遠くに置いた。
そうして手放しに寄せられた信頼を感じ取れば、もちろん笑顔で。

[1/2]
(-11) mspn 2023/09/20(Wed) 22:01:26

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ


「──任せて!」


「ねえさんが逮捕されそうになったときには、
 いちばんにオレが助けるよ!」

この世の掃き溜めの隅。
蹲って時に貴方に縋り震えていた存在は、もう弱くなどはないから。
法の下で貴方を守る力はにいさんよりきっと強いなんて信じて、言葉を躊躇いなく形にする。

信じていたんだ。
何も知らなかった。
あの夜までは。


「……よしっ、じゃあそろそろ行こうかな。
 夜とか戸締りには気を付けてね? ねえさん」

[2/2]
(-12) mspn 2023/09/20(Wed) 22:04:12

【秘】 幕の中で イレネオ → 暗雲の陰に ニーノ

────さて。
貴方の口から飛び出したのは肯定・・だった。
それは男の言葉に対する否定裏切りでもあった。

「……つまり」

男の声が一段、低くなる。

繋がっているんだな?・・・・・・・・・・


かたん。
眼鏡を外す音だった。
(-36) rik_kr 2023/09/20(Wed) 23:01:00

【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 暗雲の陰に ニーノ

「私だって、優先すべきものの順番くらいはわかっているつもりだよ。
 部下が、君がこうして悩んでいるのをさておいてするような仕事はないさ。
 ……まあちょっと帰りは遅くはなるだろうけどね」

素直な貴方は、ちょっとしたお茶目をそのまま受け取ってしまうかも知れないけど。
それでも空気を緩めるために、そんな軽率に過ぎる軽口が添えられる。
すっかり大人になってしまってはいても、大柄な男からすれば貴方は小柄で、
守るべき子供を見るように、柔らかな視線が投げかけられる。

「少しくらいは咎められないさ。何も職務怠慢を私相手に挙げられるものもあるまい。
 ……市井の見回りも勤めだ。私も外回りの頃は賢くサボる方法を見極めていたよ。
 久々に料理でも作ってあげられたならもっとよかったんだろうけれどね」

仕事の残りは少しの間だけ見ないふり。
コートを取りに行く時間も惜しいと廊下をそのまま外向きに下って、
二人連れ立って外へと出ていくのだろう。道中、店によっていって。
行き先も、話す場所も。貴方が落ち着ける場所ならば男はついていく。
肝心なことを話す用意も、もちろんしっかり携えた上で、だ。
(-46) redhaguki 2023/09/20(Wed) 23:22:31

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ

繋がっている、というのが正しいのか分からない。
家族同然に想い、マフィアとしての活動は何も知らなかったから。

──でも、それより。

「立場は、知らなかった、けど……」


ひくい、おとこのひとのこえ。


「……いれねお、せんぱい?」

様子が変わったことに気が付けないほど、鈍くはない。
男は緩慢な動きで貴方を見上げた。
無意識に、喉奥がふるえる。
(-48) mspn 2023/09/20(Wed) 23:23:54

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「え」

微かな動揺。聞き慣れない名前。
翠の色はそれで揺らいで、空のグラスを静かに置いた。

少しばかりの訝しさを以て細められた目は、
続く言葉を聞いて幾ばくか瞼を持ち上げる。

「ほんとの、」

朝の日向の色が揺れれば、照明がそれを透かした。
癖のない貴方の髪。
癖ばかりで跳ねる自分の髪とわずかに重なる。

(-63) susuya 2023/09/21(Thu) 0:03:54

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「──フレッド」


名を紡ぐ。
貴方の本当の名前を口に出す。
大事に。

そっと手に包むように。



「フレッド」


そっと抱いて抱えるように。



握られた手を一度放した。
それから、自分が貴方の手を握った。



知らないうちに空いていた、心の穴のピースがそこにあった様な気がして。


(-65) susuya 2023/09/21(Thu) 0:06:20

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ



「オレでいいの?」
「オレで……」



無意識に漏れた問いの答えを、
貴方の口から聞かずとも知っている。
けれどこの自意識が、こんな。

ひとらしい、だいじなものを持つ事を拒んでいるから。
貴方の言葉で杭を打ってほしかった。
(-66) susuya 2023/09/21(Thu) 0:07:32

【秘】 幕の中で イレネオ → 暗雲の陰に ニーノ

『家族のように想っていた』、と。
重ねて貴方が口にしていれば、男の表情はもっとわかりやすく歪んでいたはず。
しかしそうではなかったから、単に抜け落ちただけだった。
冷えた表情の中に金の瞳が嵌っている。
レンズを隔てないそれだけが、熱を持って貴方を見ている。

「立場は知らなかった?」
「本当か?」

たん。
たん。たん。たん。

指がテーブルを叩く。

「それだけ近くにいて?」


叩く。
(-68) rik_kr 2023/09/21(Thu) 0:13:45

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

素直なので想定通りそのままに受け取って、ハッ……とした表情は浮かべたりしていたのだが。
けれどすぐにこの雰囲気を和らげるためだと思い当れない程、鈍くもない。
幼いときから変わらない温もりを抱いた視線を受け止めれば、うれしさで瞳を細めていく。
大人になってからより遠くに居るとわかった存在の、優先すべきの中に己が居る事実がこんなにも幸せで。

「……ありがとうございます。
 へへ、ヴィトーさんがサボるって想像できない。
 でもそうなんだ……意外だし、親近感、です!」

「料理は〜……いろいろ、落ち着いたら。
 また作って欲しいって甘えちゃうかも」

そんな風にいつもの調子を少し取り戻した男は、貴方と共に外へと歩いて行く。
道中に寄ったのは仲の良い人がよく働いているパン屋で、そこで自分の分にはパンドーロを一つ買って行った。

[1/2]
(-143) mspn 2023/09/21(Thu) 8:42:44

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

そうしてじきに腰を落ち着けたのは夕暮れ時で人も少なくなってきた公園。
養育院に居た頃、貴方に連れ出して遊んでもらったこともある場所。
ベンチで隣同士に並んで腰かければ、買って来たパンを片手に少し色褪せた遊具を眺めた。
昔はアレも大きく見えたっけ、とは頭の隅のもので。

「……今日決まった法について。
 喜んでる人もいれば、あんまりだって言う人も居て」

ぽつ、と。
なぜ貴方に問いかけたのか、署の中で伝えられなかった言葉を零していく。

「反社会組織……マフィアに対して。
 いろんな人が、いろんな感情を抱いてるのは知ってる。
 オレの今の家族も、マフィアのことがとても……きらいです」

「でもオレはそういう事情とかを知っていても。
 今回の法案には前向きな気持ちを抱けなくて。
 ……でも賛成するひとがいるのもわかる、から」

「……どっちつかずな感じで、ぐるぐる悩んでたんですけど。
 あの、ニコロせんぱいがね、いろんな人に話を聞いてみたらいいって。
 それでヴィトーさんの話が……聞きたかった」

そこまでを語り切ればちらと貴方を見上げる。
こういうのを聞いて、どんな顔してるかなあ、と。

[2/2]
(-144) mspn 2023/09/21(Thu) 8:43:26

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ

テーブルを叩く音が耳に付き。
常より早い鼓動が更にどくんとうるさい。
そうして、たった一言が容易く心を抉った。

   "それだけ近くにいて"

知らなかった。
知らなかったから、こうなった?


「オレにとって、にいさんは」

「……ドライブが、好きで。
 贈り物ばっか、してきて。
 珈琲入れるのが、上手な。
 …………ただの喫茶店の、マスターで」

ああ、でも、ちがうな。

ゆるりと落ちゆく視線。

「知らなかった、…………でも」

「──知っていても、
おなじだった
(-145) mspn 2023/09/21(Thu) 8:54:23

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ


ほんとうを呼んでくれる。
とても、やさしい声音だった。

呼ばれる度に、剥がれてゆく。

やっぱり泣きそうだった。
こんなにも貴方は"大事"をできるのに。

生涯、隠そうとしたこと。

手が離れるのが嫌で。
追おうとした、指先を。
よく似た体温が繫ぎ止めてくれる。

だから。

そうして落ちた問いがあんまりにも。

……ああ、"いじらしい"って、こういうことをいうのかな。

[1/2]
(-150) mspn 2023/09/21(Thu) 9:41:20
ニーノは、ゆっくりと顔を上げれば。
(c6) mspn 2023/09/21(Thu) 9:41:31

ニーノは、微笑んで、告げた。
(c7) mspn 2023/09/21(Thu) 9:41:37

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ



「───あなたじゃなきゃ、やだ」

 
遠ざけないで。


「…………ロメオにい」


 
どうか、傍に置いて。



──ぬくもりを知る場所で、生きていて。


[2/2]
(-152) mspn 2023/09/21(Thu) 9:42:25
ニーノは、あなたの『  』になりたかった。
(c8) mspn 2023/09/21(Thu) 9:42:54

【秘】 路地の花 フィオレ → 暗雲の陰に ニーノ

「フレッド」

牢越しのあなたに、声を掛ける。
赤縁のメガネに緩く結んだ髪は、いつもと印象が違って見えるだろうか。
悪意のない逮捕だとは聞いていたから、何事もなければいい。そんな気持ちを抱きなからここに来ていた。
(-160) otomizu 2023/09/21(Thu) 10:52:52

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「…………」

ゴト、とカウンターを伝うのは外した眼鏡を置く音。
遮る分厚いレンズは無くなって、
そのままの翠を貴方に向けた。

与えられた光だけを表面で返して、
その奥にはずっと奥まで深い洞があるような。
森の谷底のような、南の深海のような瞳。

「オレはお前が思ってるより善人じゃない」
「酷いものだよ。非道いもの……」
「……きれいじゃないんだ」

「……大丈夫かな」
「お前はきれいだから」


負い目がある。



「それだけが心配だよ」
「──ハハ」


(-162) susuya 2023/09/21(Thu) 11:02:17

【秘】 セントエルモ ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ


ひとのかたちは喜んでいる。憂いている。
慈しんでいる。心の裏側が焼け焦げるような思いがした。

けれど、善い。
言葉は貰えた。

杭は打たれた。



「弟ができたな」
「フレッド。おいで」


繋いだ手を、グイと引っ張って。
バランスを崩して傾いた椅子の勢いで、
貴方を抱きしめようと思った。


吐き気がするほど、貴方家族を随分、大事に思ったから。
(-165) susuya 2023/09/21(Thu) 11:08:37

【秘】 幕の中で イレネオ → 暗雲の陰に ニーノ

よく解ったよ・・・・・・。」


たん。
音は止んだ。
代わりに走るのはペンの音。
続行。マフィアと関わりあり。情報提供等内通行為について自白を要する。

さて。
この瞬間貴方は男にとっての悪になった。
貴方がどう否定しようと関係ない。正義とは往々にして身勝手なものだ。
ひやりとした瞳が貴方を見やっている。厳しい瞳。貴方も知っているはずの、男が唾棄すべき悪人を見る時の瞳。

「そうやって騙していたんだな?」
ノッテマフィアに頭まで浸かって。」
「それをおくびにも出さず。」
警察俺たちを騙していた。そうなんだな?」

ペンを手に持ったまま。
問いかける。
わけではない。これは決めつけだ。
(-170) rik_kr 2023/09/21(Thu) 11:29:57

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ

言わなければよかった、と。

暖かさを失くし見つめる瞳に思えばよかっただろうか。
熱に浮かされた思考が、判断を間違えたのだと。
でもそうじゃなかった。
例えいつだったとしても、己はそう口にしていた。

ゆえに貴方の優しさが消えゆくのは──当然の帰結。
……だとして。

「──ッ……ち、がい、ます……!」


それだけは否定した。力強く。

「騙してなんかない、オレは!
 あなたたちを、騙してはいない……!」

腹の奥底が震えた。
こわい、おそろしい、でも。

否定しなくてはいけない。
揺らめいていた瞳が初めて強く、意志を持って貴方を見つめた。
(-176) mspn 2023/09/21(Thu) 11:48:41

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

/*
お声がけありがとうございます、ねえさん来てくれて嬉しい…!
ただ申し訳ありません。状況について今不確定なところがありますゆえ、もう少し確定次第のお返事になりそうです……お時間いただきます……
(-177) mspn 2023/09/21(Thu) 11:49:29

【秘】 幕の中で イレネオ → 暗雲の陰に ニーノ

「信用出来ると思うか?」

この問いばかりはきっと真っ当。
貴方も考えて見ればいい。身内と思って大切にしていた人間が、自分が最も嫌悪する人間と​────組織と懇ろにしていた時、人はどう感じるだろう。
裏切られた、と。
咄嗟に過ぎることは、想像に難くないはずで。

「いくら真面目な顔をしていても」
「いくら懸命に仕事をしていても」
「その裏であいつらと仲良くしていたんだろう?」

その顔を知ってるよ・・・・・・・・・。」


瞳の強ささえ男は嘲る。
その純粋ささえ偽物だと罵る。
嘲笑の濃い笑みが男の口元に浮かんで、

​────ばん。
がたん。


続く一瞬。
貴方が身を引くより速い速度でこれは机に手をつき立ち上がった。そのまま貴方の腕を掴んで、机越しに上体を乗り出し距離を詰める。
(-180) rik_kr 2023/09/21(Thu) 12:18:25

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

何に遮られることなく、真っ直ぐと見つめた貴方の翠は。
不思議な色をしていた。
或いはどこか、寂しくも思えた。
重なっていく声に言いたいことはあって、けれどそれが形になる前に。

「……ゎ、」


手を引かれる、バランスが崩れる。
そうしてそのままに貴方の両腕の中だ。
それは酷く恐ろしいこと……のはず、だったけれど。

「…………」

少し肩に力が籠ってしまっただけで、あとは。
ああ、貴方が望むものに手を伸ばしてくれたのだと。
理解し、うれしさに瞼を落としていた。

[1/2]
(-183) mspn 2023/09/21(Thu) 12:25:36

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「……ぁの」
「きれいじゃないよ、オレ、だって。
 ……スラムで、生きてた」

そうして恐る恐ると形にしていく。
貴方の期待を裏切ってしまうかもしれないけれど。

「悪いこと、いろいろしてる。
 パン屋のパンだって盗んだこと、あるし」

「…………春だって、売ってた」


「ぜんぜん、きれいじゃないんだ。
 きれいじゃないのに、きれいのふりしてる。
 でも……だから」

控えめに、それでも確かに。

「ロメオにいがもし、きれいじゃなくてもね」

両腕を己よりずっと大きな背へと、回す。

「……だいすき、変わらないよ」

"心配しないで"を伝えるように。

[2/2]
(-184) mspn 2023/09/21(Thu) 12:27:20

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ

真っ当だ。
だからこそすぐに言い返せなかった。
貴方がマフィアを良く思っていないのは知っている。
初めて法の施行が言い渡されたとき、笑っていた姿も覚えている。

仲良くしていた、その事実を否定することはできない。
言えるのは知らなかったとそれだけ。
しかしそれも大した意味を持たなくて。
なら、なにを、いま?


「…………っ、」

音にびくりと震えた直後には、じゃらり。
腕を掴まれる、両腕を繋ぐ手錠が音を落とした。
なにを、いま。


「……な、かよくしてた。
 でも、知らなかった。
 あの人が、どんなことしてるのか」

「騙したりしてない、ほんとうに……
 警察のこと言ってもない、なにも」

重ねる毎に響かないだろう現実を痛感するばかりだ。
どうしたらいいのかわからない、思考がぐらつく。
ただあなたに信じてもらえないことが、ひどくかなしくて。
──こわい。

「……だ、ましてない……なにも、しりません……」
(-187) mspn 2023/09/21(Thu) 12:45:41

【秘】 路地の花 フィオレ → 暗雲の陰に ニーノ

/* ご連絡ありがとうございます!
墓下組はみんなそうだろうな…と思ってるので、置くだけ置かせていただいた次第です…!
ごゆっくりお待ちしています…すこやかであれ…
(-198) otomizu 2023/09/21(Thu) 14:40:05

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「うん」
「うん……なんだ。お前も?
 オレも居た時あったな……」

「大丈夫。いいんだ」
「いいんだよ。それでもお前、きれいだよ」

貴方を腕の中で抱いて、きつくない力で抱きしめる。
懺悔のように零れていく過去の一つ一つを、
拾い上げては許していく。

「立派に働いてんだろ。今じゃ盗みもしてない。
 してたところでまあ、許すけど」

それでもあなたは綺麗だった。そう思った。
陽光の元で溌溂とした笑顔を自分に向けて、
それがずっと眩しかった。

「……ありがと。よかった」
「お前が許してくれてよかったよ。嬉しい……」

回された腕の温もりに目を閉じた。
伝えられた言葉の意味をしっかり飲み込んで。

(-221) susuya 2023/09/21(Thu) 17:43:13

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「……困った事があったら言いな。酷いことされた時も。
 助けてほしい時も。傍に居て欲しい時も」

「オレはあんたの力になるよ。フレッド」

『うまく使え』、といつもの癖で言いかけて。

「……兄ちゃんだし…………」

きちんとそう言い直した。
(-222) susuya 2023/09/21(Thu) 17:44:06

【秘】 幕の中で イレネオ → 暗雲の陰に ニーノ

「お前の」「その」
「知らぬ存ぜぬのうちに」
「何人が死んだんだろうな」


声を潜めて男は言う。

「疑わなかったのか?」「一度も?」
「俺でさえあいつがノッテマフィアだと知っていたよ」


言葉ひとつはなんの証拠にもならない。
悪魔の証明。騙していない、ことを証明する手立ては存在しない。ないことを示すことはあることを示すより難しい。方法が存在するとすれば、それは貴方が自身の善良さを示すことだけ。
その善良さだって、男にとっては既にない・・ものだ。

貴方は善人ではなく・・、既に仲間ではない・・
貴方に正義などなく・・、法への忠誠もない・・
だから手加減する必要もない。



男が笑った。

(-239) rik_kr 2023/09/21(Thu) 19:51:08

【秘】 幕の中で イレネオ → 暗雲の陰に ニーノ

だん。
音。

それは男が、
手に持っていたペンを貴方の手に突き立てた音。

手元を見ていたわけではないから、僅かに逸れたかもしれない。
命中していたなら、尖ったペン先は貴方の骨を割るだろう。
(-240) rik_kr 2023/09/21(Thu) 19:51:29

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

へんな気分だ。
全てをいいんだと許されていく。
それでもきれいなのだと告げられる。
昨日までは友達だったひと。
今日からは家族のように想うひと。

大きな腕の中に抱かれていると、安心した。
まるで昔からずっとそうしてほしかったみたいに。

「……ありがとう」

貴方もスラムにいたのなら案外、なんて。
ちょっと高望みしすぎか、それにそうじゃなくても。
嬉しい、の次に、己を想って告げてくれる言の葉たちと。
貴方自身が
そう
であると認めてくれたのだから。

それだけでもう十分で……なんでだろ。
酔っているせいかな、胸が締め付けられて。
先の貴方の笑みを思えば一滴だけ、涙が落ちた。


一度詰まってしまった声を抱きしめる力を強めて誤魔化す。
見えてないから、ないしょ。

[1/2]
(-257) mspn 2023/09/21(Thu) 21:07:35

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「……へへ、うれしい。
 でも、逆だってそうだよ」

「オレも、ロメオにいの力になるよ。
 できること……多くないけどさ。
 それでも、オレが叶えられることならなんだって」

貴方のこと、多くを知るわけじゃない。
けれどきっと"家族"を多く知っているのは自分の方だ。
だから、と。

「ね、一緒に色々しようよ、これから」

ひとつひとつ、ぬくもりを教えられますように。
望んだものは夢などではないのだと告げられますように。

「友達じゃなくて、家族っぽいこと。
 ……いいだろ?」

ちら、と貴方を見上げ、いつもみたいに無邪気に笑う。
これから変わっていく明日に想いを抱いていた。
共に居られる日々は変わらないって、信じていたから。


[2/2]
(-260) mspn 2023/09/21(Thu) 21:09:35

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


──疑わなかったのか、と。

その言葉が耳に届いたとき、声を詰まらせた。
考えたことがないわけじゃなかった。
男はこの世の掃き溜めで生きていた。
十分に薄暗い世界を知っている。
或いは、だから、と考えたことはあっただろう。

それでも己に伝えないのならと明らかにはさせなかった。
もしそうだとしても、言いたくないのならと尋ねなかった。
じゃあ、これは、そう。

知らなかったじゃなくて──

──
知ろうとしなかった
、のではないかと。


だん。

「────い゛ッ!?」


[1/2]
(-266) mspn 2023/09/21(Thu) 21:48:17
ニーノは、ならば、その罰が下るように。
(c12) mspn 2023/09/21(Thu) 21:48:32

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


痛み。

殴られたときのそれじゃなく。
蹴られたときのそれとも違う。
ペン先が皮膚を裂き、抉り。
先にある手骨を割った痛み。

「ぁ、? っ、せんぱ、……ぃ、なんで、」


いたい、いたくてたまらない。
吹き出る汗も滲む視界も、熱から来るものではない。
男は貴方を見た、怯え切った瞳にその笑みを映した。

「……ッ、ゃ、やだ、ごめ、なさ」


嗚咽を堪えて謝罪を形にしたのは条件反射のように。
それでも遠ざかろうと身を引く。
熱と痛みでろくに入らない力で、ペン先が突き立てられた手を引こうとする。

──逃げなきゃ、と、思って
 どこかに どこに?


[2/2]
(-267) mspn 2023/09/21(Thu) 21:50:15

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

腕の中の友人は、今は弟と同じ。
ぎゅう、と回された腕の力が強くなれば薄く笑った。

もしかしたら幼い頃会っていたかもしれない。
逃げ回るように生きた幼年期のどこかであなたと会えたなら、自分はきっと今のような生き方をしていないのかもしれない。

例えば、一緒にマフィアになって。例えば、共に警察として。
結局はもしも話、なのだが。

「……オレの力に?」「頼もしいな」

後輩にも頼る事はあるのだ。きっと弟にも頼る事がある。
弟にしか頼れない事がある。

「家族っぽいこと……ってなんだ?一緒に寝るとか?
 それはちょっといいな」
「いいね。色々やろう。オレ、やりたいな……」

無邪気な笑顔と向けられた視線に、
こっちもいつも通りの笑顔を返した。
あの時の笑みは、あれきりだ。


何かが変わった。どう変わるかは、わからないけれど。
家族への憧憬、もう手に入る事のないと思っていた夢の断片。
今、確かに貴方の形をして共に居る。

「……グラスホッパー、頼むかぁ」

そろそろ少し酒も抜けたろ、なんて笑って。
これから起こる事なんて、今はまだ知らないで。
(-276) susuya 2023/09/21(Thu) 22:48:09

【秘】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ → 暗雲の陰に ニーノ

サルタナレーズンとピスタチオを練り込んだデニッシュを手に店を出る。
夕日を浴びて街に馴染んだ公園を見て懐かしむように目を細める様子は、
いつかの記憶を思い出しているかのようにも見えた。
ベンチに浅く腰掛けてなるべく視線のよく通うようにしながら貴方の言葉を聴く。
ひとたび問いかけに突き当たるまで、話し終えて満足するくらいまで。
そこに作意はない、おそらくは。長い睫毛が、相槌の代わりに何度も合わせられた。

「うん。……うん」

「いま、かつての実効支配があった時代とは違って、
 大きなマフィアのファミリーも富裕層めいた暮らしをするものではなくなっている。
 みかじめピッツォを払わなくとも殺されるようなことは殆どないし、
 大手を振ってメディアが彼らと取り上げられるくらいに、力は小さくなった。
 それでも彼らを恐れる人は多い。彼らを取り締まる方法は今も常に新たにされている」

大きな手の中に包まれたデニッシュは、ひとかじりもされないまま小麦の匂いを漂わせる。
朝も早く閉まるのも早いパン屋の商品は、朝日の中ほど芳しいわけではないが。
秋めいた枯れた芳香と相まってどことなく郷愁を抱かせるような、そういう匂いだ。

「けれども、彼らを取り締まるのはあくまで市民の為だ。
 弱く、力を持たない人々が自由に生きることのできる社会を作るために、
 今回の法案や、私みたいなマフィア対策部署の人間がある。それは、其れ以上ではない。
 だから、何も力を持たないひとびとを怯えさせるような方法を振りかざすのは、
 私は……間違っている、というふうに感じている。
 みながどう思うかは、それぞれに違うだろう。だからあくまで一つの、参考にしておくんだよ」」

貴方の言葉を聞き、己の考えをゆっくりと話す目は。貴方を慈しんで心配するようなものだった。
変わらない、ずうっと。小さな貴方を、保護するもののように愛している。
後ろから見守って、歩き出す勇気が足りなかったり道を迷う時に、
そっと支えるように傍にある――そういう、穏やかな顔だった。
(-285) redhaguki 2023/09/22(Fri) 0:08:24

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

先程の笑顔はもうそこにはない。
普段よりよく見えるいつもの笑みを見上げながら。
やりたいの意志を隠さずに示してくれることに眦を下げる。

「作ったご飯一緒に食べたり、とか。
 ……一緒に寝るならロメオにいの家行きたいな、そのうち。
 だめ?オレの家、ちょっと厳しいから」

尋ねながらもゆっくりと身体を離していく。
このままではグラスホッパーが頼めないし、と。
けれど、離れ切ってしまうその前。
少しだけ貴方の頬を掠めるように撫でては、悪戯をした幼子みたいに笑った。

「眼鏡さ、ないほうがかっこいいね」

それだけ告げて、姿勢を正したことだろう。
次いでマスターにグラスホッパーを注文して、…………。

……そういえば店の中だったんだよな、とか、今更のそれだ。
今になってちょっぴり恥ずかしさが湧いた。
誤魔化すように水に口を付ける。
(-335) mspn 2023/09/22(Fri) 9:46:16

【秘】 幕の中で イレネオ → 暗雲の陰に ニーノ

「俺が聞きたいのは謝罪じゃないよ。」


ぐ、と押し込む力。
ぐり、とねじ込む仕草。
ぱきり。骨片が皮膚を裂く。
男と貴方では体格が違う。力が違う。
暴力への箍の外れ方も違う・・・・・・・・・・・・
抵抗の仕草にこれは軽く笑う声を漏らした。

「なんでもなにも。」
「何でもしていいと言われてる。」
「吐かせるためならな。」

「そのドライブの行き先は?」
「贈り物に何か仕掛けられていなかったか?」
「珈琲の瓶に何か混ざっていなかったのか?」
「その喫茶店で何を売っているのか知らなかったのか?」


ぐり。
ぐり。
(-368) rik_kr 2023/09/22(Fri) 15:03:00

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「ああ、いいな。オレ作れるよ、少しくらいは。
 オレんちに泊まりは……あー、多分大丈夫」
「いいよ。やろう」

急に仲間が尋ねてくることも殆ど無いし、
忙しい日に予定しなければいい話だ。
その時は折角だから、貴方の好きな食べ物を
作ってやれたらいいな、なんて。

頬をするりと撫でる手は、やっぱり自分より小さく。

「……伊達なんだよ。これ」

そう言って、肩を竦めて笑ってみせた。
ロメオは店の中でも素知らぬ顔で、
恥ずかしげもなくまたメニューを見て。

「また来ような」

カクテルの届かぬうちに、次の約束をするのだった。
(-409) susuya 2023/09/22(Fri) 19:21:53

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

最後までを暖かく見守り聞き終えてくれた貴方が、次に口を開き話してくれるのは己が知らない時代のことだ。
マフィアについて詳しくもなかった男は今と昔の違いをそこでようやくに知る。
けれど一度広まった印象というものはそう簡単にはなくならないもので。
彼等からの被害も決して無くなったわけではないと、これは周囲を見ていても知るところ。

だから、やはり仕方ないのだろうかと。

落ちかけた視線、されど貴方の言は続いていく。
下がる眦が届けてくれる慈愛に満ちた表情。
鼻先を掠める芳香と混じり、かつての記憶が蘇るよう。
──変わらない。

「…………うん」

変わらないものが、ある。
そう感じる度にどうしてこんなにうれしくて。
どうしてこんなに泣きたくもなるのだろう。


「ちゃんと、ひとつの参考にする。
 けど、……よかった」
「ヴィトーさんが、"間違っている"を言ってくれること」

にぃと笑って届ける表情も幼いころと変わらない。
……のは己で自覚しているものではないけれど。
伸ばした指先は、貴方の服の袖をちょんと摘まんでいた。

「自分の心、よく見えなくなってたけれど。
 それを聞いてようやくちょっと……見えた気がするから」
「でも決まっちゃったもの、変えるのって難しい……ですよね。
 何かしてたら、オレでも変えられるものあるかなあ……」
(-422) mspn 2023/09/22(Fri) 20:42:47

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ

押し込まれた瞬間に悲鳴がまた落ちる。
骨が割れる音を拾い上げ腹の底は冷えるようなのに、
ペン先が刺さるその場所は燃えるような痛みを訴える。
片側の手を止めるために動かそうとしても──じゃらり。
金属が擦れる音が自由の無さを示しただけ。

「……な、にも、しらな」

ぐり。


い゛っ
、ぅ」
「っは、……」

「……ゎ……、かり、ませ」


ぐり。


「〜〜ッぁ゛」


ねじ込まれる度に背が丸まり、びくりと身体が跳ねる。
喘ぐように開いた唇から苦悶に満ちた哭き声だけが落ちる。
首を横に振る度に汗と涙がはたりと落ちていく。
息をすることさえままならなくて、こんなの。

[1/2]
(-423) mspn 2023/09/22(Fri) 20:49:50

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ


──地獄、みたいだ。


いたい、こわい、くるしい、やめて。
逃れるための術を探している。
何か伝えたらやめてくれる?
でも本当になにもしらなくて。

貴方にそれを伝えようとしたのだと思う。
顔を上げ、滲む視界にその表情を捉えて。
けれど。

…………なんで。


どんな言葉よりも先に浮かんだものが、形になる。

「……な、んで…………」

「…………、……ゎ、らえる、の……?」


わからない。
わからなかった。
ぽた、とまた頬に雫が伝う。

[2/2]
(-424) mspn 2023/09/22(Fri) 20:52:29

【秘】 路地の花 フィオレ → 暗雲の陰に ニーノ

「ふふ、姉さんは大人になってからチーズに目がないのよっ」
「って言っても全然作り方とかは分かんないんだけど……」

アイスケーキのようなものだから、作れば一緒に食べられるだろうし。
カッサータを持って、笑顔で寄ってくるあなたの姿が目に浮かぶようだ。
今からもう楽しみで。

この世で一番なんて大きく出たなあなんて笑いながら。
楽しみにしてるからね、と笑う。
クロスタータを食べるのも楽しみだな、なんて袋を揺らして。

「頼もしいなあ。
 フレッドは立派な警察さんなんだもんね」
「じゃあ、約束」

絶対に助けてくれるはずだ。自分だってそう信じていた。
立派に成長したあなたが、何かあったら助けに来てくれるはずだと。

何かの間違いで、あなたが捕まりそうになったとしても。
その時は自分が助けてあげられると。

信じていた。
ずっと。

「なにからなにまでありがとうね、フレッド」
「貰ったもの、食べたらすぐに感想送るから。楽しみに待ってて」

にっこり微笑んで。また一つあなたを抱き締める。
また次も無事に会えますように。
(-427) otomizu 2023/09/22(Fri) 21:05:43

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「やった!
 料理は……オレ、あんまりできないけど。
 でも手伝うから、火の番するとか……」

好きな食べ物を、なんて考えてくれていることも知らず。
おねだりを受け容れてもらえたのなら満足気。
マスターが早速作ってくれているのをちらと眺めたが。
それもすぐに貴方へと戻して、はたりと瞬いた。

「……なんでつけてたの?恥ずかしがり屋?」

……なわけ、ないだろうなあ。
ちょっとどきまぎした自分と違って、貴方は気が付いているだろうに涼しい顔だし。

「…………うん」

そうして続く、届いていない内の次の約束への返答は妙な間が一瞬空いた。
嫌だったとかそういうものではない、でもさっき聞いたばかりだ。
自分から誘うことはそうないって。
じわり湧き上がる嬉しさに口元がどうしたって緩むから、こてん。
気にしてないみたいだしいいかって、頭を傾けて貴方の肩にくっつけていた。
(-430) mspn 2023/09/22(Fri) 21:14:37

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

「じゃあ本当にとびきりの作って持っていくから、待ってて?」

貴方の言い方が面白くって、だからくすくすと笑ってしまった。
カッサータはどれくらい作るのが難しいだろうか、今はまだ想像もできないが。
それでも大好きな貴方のためならいくらだって頑張れる。

「そう!オレもう警察だから!
 約束できるよ、まだまだ下っ端だけど」

少しぐらいは何かできるはず。
だからそのときはと、約束の一言には小指だって差し出していたことだろう。
昔からの変わらない契り方。
ぎゅっと絡めて、そうして解いて、じゃあって。
離れる前に両腕が伸ばされていた、気付けば貴方の腕の中だ。

「……へへ」
「うん。
 楽しみにしてる、フィオねえ」

其処は揺り籠同然の場所で。
恐れるものなんて何もなかったから、ぎゅうとこちらも抱きしめ返す。
子どもみたいに貴方の髪にも少しだけ頬を摺り寄せてから、名残惜しくもじきに離した。

そうして今度こそ手を振って離れていくことだろう。
もう少し夜が深くなれば雨も降り始める日のこと。
その晩に貴方は何かを食べてくれただろうか、メッセージででも感想を伝えてくれただろうか。

だとしても──そこに返るものは、何もなかったのだけれど。

[1/2]
(-440) mspn 2023/09/22(Fri) 21:38:51

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ


────こえがする。

暗い牢越しに貴方が名を呼んでも、そこにいるのが本当に"弟"なのかはすぐに分からなかっただろう。
冷たい牢の隅、与えられた毛布に丸まって蹲る人影。
声をかけられてもぴくりと跳ねるだけで、すぐに顔を上げない。

幻聴だと思った。
だってここであなたの声を聞くはずがないから。

……それでも、その内に。
緩慢な動作でゆっくりと顔を上げる。
泣き腫らし腫れた瞼も、熱で赤らみ汗ばむ頬も、暗くて貴方にすぐ見えるものかはわからない。

「…………ね、ぇさ、ん……?」


けれど貴方を呼ばう声が掠れ切っていて。
聞き落としてしまいそうな程に弱いものだったことだけは、明らかで。

夢かもしれないと思った。
なら夢でいいとも思った。
身体を動かす、それだけで。
走る痛みに喉奥がひきつる。

[2/2]
(-443) mspn 2023/09/22(Fri) 21:43:08

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

/*
すみません、お待たせいたしました!
まだ最後まで状況は確定しておりませんが、とりあえずはこの程度は……といったところまで分かったのでお返事いたしました。最終的にもう少し酷くなる可能性はありますが、とりあえず、とりあえず……
どうぞごゆるりとお付き合いいただければ幸いです、ねえさん〜……
(-444) mspn 2023/09/22(Fri) 21:43:42

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「なんなら教えようか。オレの作れるもんくらいは」
「そしたらお前もオレに作ってくれるかもしれねえし……」

というのもまた冗談だが、教えるのも楽しいんじゃないかと思ったのは本当だ。しかしあわよくばいつか、貴方の作ったご飯も食べてみたくは……ある。

伊達眼鏡の理由を聞かれると、少しだけ視線を巡らせて。

「ナイショ。」

なあなあにしてごまかすことにした。
ただのパン屋が変装する義理が無いのは本当だし。
おしゃれと言い張るにはこの眼鏡じゃ無理がある。

「ふ。よかった〜」

楽しみができたわ〜、と気の抜けた声。
預けられた頭の重さに心地良さを感じて、
随分居心地のいい空間だな、と思った。

直にカウンターに置かれるグラスホッパー。
ミルキーなグリーンが揺れて、どこか愛らしい。

「…………」
「乾杯でもする?」

本当は飲み初めにするものだろうが、
なんとなく自分たちの区切りにはいいと思った。
グラスを持ち上げて、貴方に持ちかける。
(-445) susuya 2023/09/22(Fri) 21:54:40

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「え、ほんと? じゃあおしえて!」
「作ってもらうばっかりもくすぐったいからさ。
 オレも作れるようになったら作りたい」

冗談、だとは受け取ることはなく。
貴方が少しでもその未来を描いてくれているならと男は笑った。
……が、続く、ナイショの一言を聞けば少しだけ頬を膨らませる。

「弟に内緒にするんだ〜」

意地悪な言い方だ、とはいえ本当に拗ねたのではないのだけれど。
代わりにぐいぐい……と寄せた頭で貴方を押すようにしていた。

そんなもちゃもちゃとしたやりとりののち、カウンターに置かれたグラスホッパーに気が付けばきらと目を輝かせて。

「わ、ほんとうに緑」

つん……とグラスを謎に突いて感動の声。
そのままそろっとグラスを持ち上げて飲む前に。
誘いを持ちかけられるときょとんと眼を丸くして貴方を見上げる。
込められた意図に気が付けば目を細めて、無意識に微笑んでいた。

「うん。
 じゃあ〜えっと……
 ……兄弟になった日に、乾杯?」

小首傾げつつ、こつん、貴方のグラスと己のグラスを合わせてみる。
改めて口にしてみるとなんだかやっぱり恥ずかしいな。
つい感じてしまえばそそくさと誤魔化すみたいにグラスに口をうけて一口。
思っていた以上にチョコミントだったので感嘆の声よりもいっそ、「えっ……」という動揺の声が出ていたとされる。
(-457) mspn 2023/09/22(Fri) 22:45:34

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「作ってくれんの?なんだ、嬉しいな……教育しがいがある」

何を教えてやろうかな、なんて企みも出てきた。
無論変なものを教えたり嘘を教えるつもりはないが、
自分の好物を貴方に作ってもらうのも、また乙だと思ったのだ。

「そーでーす。オレは弟にもナイショごとがありまーす」

さして痛くもない圧力にささやかな訴えを感じつつ、
言えないことは言えないのでしょうがないのだと開き直る。
これ以上の誤魔化し方もわからないし。

下からの目線に目線を合わせ、
目を細めればタイミングはほぼ同時か。
そうだよ、と言外に語って自分も笑う。

「おう。乾杯」

カチン、と透き通った音。
バーに相応しい乾杯のシルエットがカウンターの上に映る。
横目に映ったその影が、ペパーミントの揺らぎが、貴方の微笑みが、約束の形としてずっと記憶に残ればいいと思った。

口を付ければ、生クリーム由来のなめらかな舌触り。
カカオの香りとミントの香りは甘さを伴って、なるほどまさにチョコミントのようであり。

「ん。美味いなあ」

よかったな、と噛みしめるように思った。
(-464) susuya 2023/09/22(Fri) 23:13:29

【秘】 幕の中で イレネオ → 暗雲の陰に ニーノ

貴方のまろい頬を涙が転がり落ちていく。
少年じみた首筋に玉の汗が浮かんでいる。
反面男は涼しげで、触れる手に熱はない。
けれど。
至近の双眸だけがめらめらと燃えていた。
獲物を見つけた猟犬のそれに似た三日月。


なんで ・・・?」

明らかに、この男は笑っている。
声だけではなく視線に滲んでいた。口の端に、鷹揚な態度に、場違いな満悦と愉楽が垣間見える。

「はは」
「お前」
「そればかりだな」

まるで父親が子どもを嗜めるような口調で言葉を紡ぐ。

「まさか本当に何も知らないのか?」

貴方の。
頬に、男の手が伸びた。


そのまま。
身を引かないなら────僅か、唇が重なって。
(-482) rik_kr 2023/09/23(Sat) 0:26:16

【秘】 路地の花 フィオレ → 暗雲の陰に ニーノ

誰もいないわけじゃないのは、気配で分かる。
寝ているのだろうかとも思ったけれど、寝息も聞こえない。
今動いたのは、嘘じゃないはずだ。

「フレッド」

一歩近付いてもう一度、呼んでみせる。
答えられないのだろうか。もしかして、やっぱり酷いことをされたんじゃないかって。
泣きそうな顔で。

そうして。
か細い声を、耳が確かに拾った。
小さい子が助けを求める声を聞き逃さないように、耳で音を拾う事をずっと続けていたから。だったのかも。

「フレッド……!」

酷い声。もしかして、また熱を出しているんじゃないのかな。
沢山の心配事が過る。
だっていつもなら、私の声を聞いて。喜んで寄ってきてくれるはずだから。

今は、自分と弟を隔てるものがとても分厚く感じる。
今すぐにでも駆け寄ってあげたいのに。
(-507) otomizu 2023/09/23(Sat) 2:01:18

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

教えがいが出るなら何よりだなって。
嬉しいを素直に形にしてもらえたことに、こちらの胸にも嬉しさがまたひとつ。

「じゃあオレだって内緒するし〜」

何の張り合いだろう。
でも、貴方に言えないことがあるのならそれでいいとも思っている。
その裏にあるものがなんだって変わらない。

きれいじゃなくても、あなたがだいすき。


合わさる視線の先にはきっと己と似た表情が。
通じ合っているみたいでしあわせだった。

「……すっごくチョコミント。
 でも、うん、おいしい」

これまでに口にしたカクテルのどれよりも。
甘くて、おいしくて、忘れられそうにない。
……ううん、忘れたくないのだと思った、ずっと。

[1/2]
(-561) mspn 2023/09/23(Sat) 9:29:36

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ


──そうやってもう少しの間、お酒を飲んだのち。

貴方の隣に出来上がっていたのは、どっぷり酔ったらしい弟の姿だった。

「……あはは、ねむた〜い……」

普段からそうお酒を嗜むことがない身体に、度数の高いお酒を入れ続けていたらまあこうもなる。
触るのが苦手、とはいっていたが、元々そうでなければくっついているのが好きなのだろう。
ずっともたれかかったままだ。むにい。

「ねていい〜?」

赤らんだ頬に、浮かべる笑みはへにゃへにゃと蕩けたもの。
そんな状態で貴方を見上げ、首を傾げてたぶんだめそうなことを尋ねた。

[2/2]
(-563) mspn 2023/09/23(Sat) 9:30:31

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ

笑っている。
こわい。

愉しんでいる。
こわい。

声にはまだ優しさと暖かさが残っているようにも思えるから。
だからもっと、こわかった。

そうして、指先が。


「ほんとに、し、らな、」
「ん」


肯定の意は最後の一音まで紡がれずに。
ふれる、唇にやわらかな、

「……?、??」


まるでその刹那だけ痛みを忘れたみたいに。
大きな瞳を丸くさせて、呆けた表情で貴方を見つめ。
何をされたのか分からない、そんな目をして。

けれど。
すぐ、理解する。

──くちづけ、だ。


[1/2]
(-567) mspn 2023/09/23(Sat) 10:01:08
ニーノは、家族以外に触れられることが、こわい。
(c26) mspn 2023/09/23(Sat) 10:01:44

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


「…………ぁ、」


理解したと同時に、青褪めてゆく。
ちいさなころ、なんども、なんども。

身体があついのに奥底がつめたい。
いやだった、きもちわるかった。

「ゃ……だ、ゃ……っ」


声は幼子が駄々を捏ねるそれとおなじだ。
引き剥がすために動かそうと、意識した手には未だペン先が突き刺さったまま。
あつい痛みを脳が再度知覚し始めればまた涙が溢れる。
だって、こんなのなおさら、わけがわからない。

「な、ん……で…………?」


──どうして今、
そんなこと
ができる?

わからない、貴方のことがなんにもわからない。
鼓動が煩いのが痛みのせいなのか、恐怖のせいなのか。
或いはそのどちらもか。
"
たすけて
"と、音も無く唇が動いた。

[2/2]
(-568) mspn 2023/09/23(Sat) 10:04:26

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「なーにをナイショにすんだよ」

そんなもんあんのか、と肘で小突いた。
あったとしても責める気は無いし、聞き出す気も無いけど。
人に触れられたくない部分があるのは、
当たり前だと思っているから。

爽やかで、まったりとして、甘やかで。
たまにはこういう時間も悪くないと思った。

『幸せ』に後ろ指を指されている。
お前にそんな資格はないと。早く孤独を思い出せと。

今はその声を、無視することにした。


(-577) susuya 2023/09/23(Sat) 10:36:08

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「よくないで〜〜す……」

どうしようかな、と思っていた。
自分は酒は飲むが、一定のラインを超えると逆に酔わない方だった。酔い方に波が無い。少しふわふわする程度に留まる。

「お前、そんな酔い方するんだ……」
「ここで寝ないよ。帰るか、フレッド」

てろてろな貴方をよっこいせと剥がせば、
きっと酒のせいでより体温が高くなっているのだろう。
子供か、なんて胸中独り言ち。

「立てる? なんならおぶるか?」
「家行けっかな……オレんちでいいか……」

お泊り会は案外早く来るかもしれない。
(-578) susuya 2023/09/23(Sat) 10:36:36

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

名前が幾度も呼ばれている。
鉄格子越しに貴方の姿が見える気がする。
声が聞きたいと、姿が見たいと願うばかりに見ている夢か。
だとしてそれでもよかったから。

近づこうとした。そのために立ち上がろうとした。
熱が収まらないから足に力が入らなかった。ならば這い寄ろうとした。
手錠に繋がれた両手を地面について、そのまま。
──ズキリ。


「ぃッ」


刹那走る痛みに声を詰まらせて身体を折る。
情けなく地に一度伏せ、それでもと求める場所へ寄ろうとする。
もう少し光の届く場所へ、その体躯が辿り着いたなら貴方にも見えるだろうか。
薄汚れてはいるが酷い外傷はあまりない──ひとつを除いて。

右手の甲が腫れ上がり、
ちいさな穴が開いている

その腫れ方から骨が割れているのだと、人より傷を見たことがある貴方なら理解できるだろうか。


「……ねえ、さ、ん」


[1/2]
(-580) mspn 2023/09/23(Sat) 10:50:48

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ


──会いたかった、会いたかったな。


貴方を見上げた。泣きじゃくり続け濡れた瞳で。

──ずっと考えてたんだ、オレの悪いこと。


今のこの状況を、迎えるに相応しい己の悪事はなんだろうと。
熱に浮かされ朦朧とした頭で考え続けたらいくつか出てきた。
そのひとつをだから、貴方に会ったら、言おうとして。

「……ご、めんな、さい」


これが今までの罰だとするなら、ほら、帳尻が合うだろう。

「ごめん、なさい」


思い出す。
この世の掃き溜めの隅。
だれもいない場所で歩けなくなった日のこと。
目が覚めたら暖かなベッドの上にいたこと。

──連れ出された新たな場所陽光の元には、あなたがいなかったこと。


「オ、レだけ、ひろわれて、ごっ、めんなさ、ぃ……」

燻る罪悪感は今になってその重さに耐えきれなくなったように。
頭を垂れた、許しが欲しいんじゃなかった、ただどうしても謝りたかった。
壊れた涙腺がまたはたはたと涙を零したけれど、もうそれもよくわからなかった。

[2/2]
(-581) mspn 2023/09/23(Sat) 10:52:34

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「なんで……」

なんでではない。
剥がされると中々に不満そうだった。
勿論回るアルコールのせいで体温はさらに高くなってしまっている。
冬のカイロにちょうどいいぐらいだろう。

「たて、ぅ」

それでもできる?を尋ねられると、できる!を言いたくなるのが子どもというものだ。
立ち上がろうとして……当然のようによろめいて。
目の前で貴方が見てくれていたので、多分支えてもらったりしていたのかもしれない。

「……たててる……」


だめそう。
やっぱりお泊り会は案外早く来るかもしれない。
(-584) mspn 2023/09/23(Sat) 11:05:57

【秘】 路地の花 フィオレ → 暗雲の陰に ニーノ

ほら、寄ってきてくれる。
いつもみたいに、明るい笑顔で。
笑顔、で。

────何が起きているのか、すぐには理解できなかった。
涙に濡れた顔が痛みに歪んだことも。
熱に浮かされたような表情も。
腫れ上がった右手も。


なんで、と。ただ声がこぼれ落ちた。


「何、言ってるの」

謝らないでよ、と声が上擦った。
あなたが暖かい場所で拾われたこと、スラムで過ごしていた時よりもずっと肉付きもよくなって。安定した生活が送れていたこと。
全て、自分のことのように嬉しかったのだ。

自分が拾われなかったことを、恨んだことなんて一度もない。だから。

「謝らないでよ…っ、フレッドに謝ってもらうことなんて一つもない…!」

笑って安心させてあげなきゃいけないのに、涙があふれて床を濡らしていく。
(-588) otomizu 2023/09/23(Sat) 11:17:27

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「おっと」「いや……立ててないですケド……」

よろめいた所を咄嗟に支えて、
やれやれとため息まじりに笑った。
マスターに退店を伝えて会計を済ませる。
その最中も貴方を支えていた。

「……ほら。おんぶ」

まるで子供にするみたいに、
貴方を立たせてから貴方に背を向けて少し屈む。
腕を伸ばしてくれるなら、そのままおぶり上げるだろう。

「帰ろ。帰りは寝てていいから」

呼ぶならタクシーも呼べるのにそうしないのは、
自分もやってみたかったからだ。
今なら人通りも少ないし、見られることもないだろう。
(-595) susuya 2023/09/23(Sat) 11:39:30

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

聞こえる声が涙で滲んでいる。
ゆっくりと上げた顔、移る視界に貴方の涙が雨のように降っていた。
なかないで、とおもった。
いつもそうしてくれるみたいに、だきしめたかった。
望みはなにひとつ、この場で叶うものではないのだけれど。

「……ね、ぇさん」
「ごめんなさ、い」

出来るのは案じてそう呼ぶことだけ。
己の謝罪で泣かせてしまったことを……また謝ることだけだった。
そうしてその頃になってようやく──夢ではないのだな、と理解する。
ああ、ならば。

「……ぁ、……にげて」

アレッサンドロ・ルカーニオはノッテ・ファミリーの幹部カポ・レジーム
既にそれを知っているだから捕えられた男は、もうひとつの予想もとうに付いていた。
きっとあなたも。


「つかまっちゃう」
「オレ、だいじょうぶだから」

あんな拷問を受ける姿を想像したら、ぞっとしたから。


「ねえさん、ここ、早く出て……」
(-617) mspn 2023/09/23(Sat) 13:41:23

【秘】 幕の中で イレネオ → 暗雲の陰に ニーノ

奇妙な可笑しさがこれの喉を転がる。
それは空気を揺らして笑いになった。

貴方の顔がさっと青褪める。
大きな双眸から涙が落ちる。
唇が開いて音もなく震えた。

男はペンから手を離した。

両手で包むように貴方の頬に触れる。大きな厚い手のひらだ。貴方とこの男では一回りも二回りも体格が違う。伴って当然、男の手は貴方の頭に比して大きい。

貴方の手は自由になった。
今なら抵抗することは出来る。
しないのであれば、再びの口づけが寄越されることは明白だ。
貴方にとっては目的も分からない、ただ恐怖を想起するだけの口づけが。
(-619) rik_kr 2023/09/23(Sat) 13:53:25

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

立ててない指摘には、たててる……とまた主張していたものの。
一人ではろくに歩けそうにない男は貴方に支えられたままだ。
そうして目の前に向けられた背を見つめると、ゆっくりと瞬きを一度、二度。

「…………おんぶ」

してもらうの、いつぶりだっけ。
わからないけれど両腕を伸ばすことに抵抗は無かった。
そうして貴方がおぶり上げれば思ったよりも軽いと感じるかもしれない。女子よりは当然重いのだが、男子にしては発育が良いわけではないので。

「あはは、おんぶ」

笑いながらぎゅぅと腕に力を込めたのは、落ちないようにというよりはうれしくて。
緩む頬に癖のあるひだまりの髪が触れて、くすぐったくて、しあわせだった。

「かえる、かえろー、ろめおにい」

呼んで、その内に貴方が歩き出してくれることだろうか。
規則正しいリズムに揺られるのは揺り籠にも似ていた。
少しの間はふにゃふにゃと起きていて、言っていることは「ろめにい」「ろーにい……」となにやら改めての呼び方の模索だったが。
じきに穏やかに寝息を立て始める、安堵し切った子供と同じ。
(-620) mspn 2023/09/23(Sat) 13:55:03

【秘】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ → 暗雲の陰に ニーノ

貴方が頷いて、安心を得てからにようやく男はデニッシュにかぶりついた。
複雑でしかしすっきりとした甘さが舌の上に沁みる。
五十年前、マフィアの勢いの強かったいつかと比べれば街の様子は変わった。
どちらが豊かであるかを示すものではない。ただ、変わった。
その片鱗の一つが、法案の形としていま表れているだけ、なのかもしれない。

「正直な話、私も彼らは好きではない。非合法の手段を取っているのには変わりない。
 いずれ衰退して街の産業や活気の中へ落ち延びていってほしいものだ。
 ……人としてそこにある人々を排斥して済まそうとは思わない。
 正しく、歩み寄れる隣人となれるように、徐々に解体されてほしいところだ」

マフィアなんていなくなってしまえばいい、端的にはそういう話だ。
けれどもそれは、彼らの死や破滅を望むのとは違う形だった。

「フレッドが自分の道や、自分の目の前にあるものを見ることができたならいい。
 君が目を塞いでしまわざるをえないことが、私は一番悲しいよ」

服の袖に掛かる僅かな重みを払い除けたりはしなかった。
そこにあるものを、そこにあるように。
されるがままの腕が、貴方へと預けられた。

「革新的に変えるのは難しい話だ、私でもそうだ。
 けれども其れ以外のことをしてはいけないわけではないし、そうだな。
 街の見回りでもして、店の人達やおじいさんおばあさんたちとたくさん話をしなさい。
 彼らにとって、安心できるお巡りさんであるようにね」
(-630) redhaguki 2023/09/23(Sat) 14:35:27

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


己のそれより大きな掌が両頬を包んだ、刹那。
ちかり、フラッシュバック。

底から這い上がる恐怖で息を呑む。
めのまえにいるの、だれだっけ、

すぐに動かない身体は自由を知らず固まったまま。
いきていくために、ひつよう で 

気が付いたのは──"二度目"が触れてからだ。

「ッ〜〜〜……!」
「ぃ、ぅ」


指先を動かそうとする、ずきんと痛んだ右手に声が落ちる。
それでも腕を上げて、左手で貴方の手首を掴む。
わかりやすく震えていた、何かを取り繕う余裕もなかった。

「……っね、ぇ、せんぱ、い、も、やめて」

「わかんない、の、わかった、でしょ」

声は時折掠れて、詰まって、脳がぐらつく。
荒く繰り返す息は最早痛みよりも恐れによるものが勝っていた。
すぐに手折ることのできる力で、それでもと頬に添えられる片方を引き剝がそうとする。

「なんか、いって、」
「おねがい……」


問いかけへの解は無く、落ちた笑いが鼓膜を揺らしただけ。
その瞬間のぞっとした心地を思い出せば最後、乞うように願いさえもした。
(-648) mspn 2023/09/23(Sat) 16:40:19

【秘】 幕の中で イレネオ → 暗雲の陰に ニーノ

それは、柔らかく。
引き攣った部分を食むように。
強く引き寄せて、触れ方だけは優しく齎された。

男は笑っている。
これ程の力差があって、その気なら無理矢理続ける・・・ことも出来ただろうに。
貴方のあえかな抵抗に従って離れ、再びそのまま笑っていた。

男は貴方に欲情していない。

これ以上の行為・・・・・・・を強いるつもりは毛頭ない。
だからこれは、ただ高揚からだけ来る行動。
弱り切った獲物を甚振って嗤う、肉食の獣。


「はは」
「震えてるな。可哀想に」
「────あいつ・・・と関係なんて持たなければ」
「こんな目に遭うこともなかったのに」

話す言葉ばかりは穏やかなのに、
ぎらついた瞳は貴方を離さない。
わざと優しく撫でる手のひらは、
嫌がらせをよっぽど含んでいた。
最早、尋問など意識の外なのだ。
目的のない責め苦に終点はない。
あるとすればそれは男の満足か、
熱のある貴方の身体が倒れた時。
(-657) rik_kr 2023/09/23(Sat) 17:13:30

【秘】 渡りに船 ロメオ → 暗雲の陰に ニーノ

「はいはい、おんぶですよ」

あんまりにもこどもみたいだから思わず笑ってしまった。
背中に感じる重みと体温は想像よりも軽くて、それでも別の重みを感じたのだ。背負って歩けないほどではない。
けれど大切な重みだった。

「はーい。オレんちに帰るからね」

マスターに礼を言って、店の外に出ればいい風が吹いた。
火照った体にしんと染みるような涼しい空気は、
確かに秋を連れてきているのだ。

家は近い。おぶって歩くにはやや遠いか。
それでもたまにはこんな帰り道もいいだろう。
背中に聞こえる模索に、少しの気恥ずかしさを感じて。


「……〜〜〜〜〜〜♪ 〜〜♪」
「……───♪」



ふと、教会にいた頃にずっと聞いて歌っていた、
聖歌の一節をハミングする。
どうか子守歌の代わりにでもなればいいと思った。
どうかおやすみ、かわいい子。

月明り、夜道に二人の影がある。
兄弟の影だ。
ひとりといっぴきの影ではないのだと、
貴方と出会って初めて、ここで思えたのだ。
(-687) susuya 2023/09/23(Sat) 20:38:29

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

貴方がデニッシュにかぶりつくのを見て、こちらも真似るようにパンドーロを一口。
クリスマスシーズンによく出回るものの年中置いてあるパン屋も多い。
ふんわりとした柔らかさに上品な甘さ、粉砂糖から香る微かなバニラの芳香に目を細めた。
そうしながらも話に耳を傾けていれば、貴方自身マフィアを良く思っているわけではない、が伝わってきて視線を上げる。

「……ヴィトーさんらしい、です」

いなくなればいい、そこまでの感情は同じだとして。
末に望むのが"隣人"であるということが、己が好む貴方の暖かさを示してくれているようだったから。
袖を掴んだ指先はそのまま、払い除けられないと知っていたように。
落とされた言葉はまるで祈りのようにも思えて、それが自身に向けられている事実を噛み締めてはたしかな喜びを抱く。

「へへ、悲しいにはなってほしくないなあ。
 オレ、だからちゃんと前を見ていたいです。
 迷っても、悩んでも……ほら、止まない雨はないっていうし。
 ヴィトーさんもきっと、そうやって歩いてきたんですよね」

小さなころから男が見てきた貴方は、もう随分と大人で。
今でもまだ、あの頃の貴方と同じ齢を重ねることさえできていない。
だから今の自分のような姿は想像ができないけれど、なんとなく、そうなのかなと思ったから。

「……そっか。
 それだけでも、いいんだ。
 すぐに何かするのが難しくても……誰かの安心にはなれる」

「あはは、だめだな〜。
 なんだか急いちゃってそういう、大事なこと抜けてました。
 ヴィトーさんと話してるとオレ、まだまだ視野が狭いんだっていつも思います。
 年の功?もあるんだろうけれどヴィトーさんぐらいになったとき、ちゃんとそういうこと言えるかまだ全然想像つかないや」
(-688) mspn 2023/09/23(Sat) 20:39:03

【墓】 暗雲の陰に ニーノ

冷たい牢の奥で毛布に包まり蹲る。
熱と、痛みの波に耐える為の仕草だった。
浅く呼吸を繰り返す最中に耳にする。
看守の噂話、は。

──君が目を塞いでしまざわるをえないことが、私は一番悲しいよ。

「……ヴィトー、さん」


自分の道を見つめていたい。
目の前にあるものをちゃんと見ていたい。
でも、もう。

だれの、いつの、どんな。
笑顔や言葉を信じたらいいんだろう。
わからないのに、信じたいと願うのはどうしたらいいんだろう。
一つを疑えば全てを手放してしまいそうで、それがこわかった。

ならその前に瞼を伏せてしまった方が、ずっと。

#収容所
(+10) mspn 2023/09/23(Sat) 20:46:07
ニーノは、十九年の人生で自分がした、悪いことを数えている。
(c29) mspn 2023/09/23(Sat) 20:46:39

ニーノは、この現実がこれまでの罰であるなら、帳尻が合うはずだから。
(c30) mspn 2023/09/23(Sat) 20:46:48

 


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