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【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノ「……心配? 大丈夫、ルチアが良いって言うまでここにいるよ」 入院は思ってたよりも長期間に及んだ。 元々一人暮らしをしていた関係上、関節の損傷という怪我の具合もあったが、加えて動脈をやられていたことと、精神も病んでいると診断されたことが理由として大きかったようだ。 本人は早く退院したかったが、幼馴染が最大限病院を利用しろと言うので素直に従ったらしい。 容態が安定してからは精神的な病気の方が厄介で、男はとにかく眠らないと、病院関係者も頭を悩ませていた。 幼馴染が来てくれた時だけはぐっすり眠れているのも確認されていて、薬が効かないから助かると思われていたに違いない。 また、同期の二人や先輩も時々顔を見せてくれていたから、病院で問題行動を起こす……なんてことは起こらないから、扱いやすいおとなしい患者の一人であったことは間違いない。 ただ。 たったひとつの、行動を除いては―――――――― ▼ (_11) 2023/10/01(Sun) 19:47:07 |
【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノ「ねぇ、ルチア。お願い」 首を噛んでほしい。 そう言い出したのは、首についていた歯型の痕がなくなってしまった日のことだ。 幼馴染には勿論そんな趣味はない。 しないと自分で首を爪で傷つけるから、1・2回はそのお願いを聞いたかもしれないが、その後は犬用の首輪がついた。 病院の方々はさぞ不審がったに違いない。 診察の際に「人間関係を整理しては」と遠回しに幼馴染と別れることを勧めた医師もいたことだろう。 時間が経てばそういう発作みたいな衝動も少なくなってきて、首輪はチョーカーとなり、いつしかネックレスなりアクセサリーを首につけていれば安心できるようになっていた。 けれど最初の時の、あのルチアの悲しそうな顔が忘れられない。 悲しくなって、ごめんねと言って頭を何度も撫でたのを、よく覚えている。 この頃には、いつだったか。 僕が二人目に好きになった人 だったラーラが亡くなっていた。薬の処方ミスがあったらしい。 不運なことだが、彼女には身よりもいなくて訴える人間も居ない。 あしながおじさんを続けていたけれど、その必要もなくなってしまった。 その知らせを聞いた時はまた精神的に危うくなったけれど、この時もまた、幼馴染が傍についててくれたから無事だった。 ▼ (_12) 2023/10/01(Sun) 19:48:07 |
【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノ月日は巡る。 リハビリを経て職場復帰を果たすころには、約2年の月日が経とうとしていて。 表面上はもう、以前と変わらなぬ笑みを浮かべ仕事に取り掛かることができていた。 だが、内面はどうだっただろうか……? 海風が薫る砂浜でひとり、遠くに輝くシーグリーンを見つめていた。 幼馴染は、僕を大事にしてくれる。 それはすごく、嬉しいことで、幸せなことだ。 あなたが笑ってくれるから、僕は隣で穏やかであればいい。 でも、時々すごく、寂しくなる。 ルチアは、僕を決して抱いてはくれないし、抱かせてもくれない。 愛してると告げてみても、そうだなと笑うだけ。 別に、いいのに。 僕はもう、キミだけしか見てないのに。 悲しませたくはないから、絶対に気持ちを返してほしいなんて思わないのに。 一度抱き潰された体が疼くから、沈めてほしくて。 ▼ (_13) 2023/10/01(Sun) 19:50:11 |
【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノだけどそれならと、適当な人の腕をつかもうとしたら怒るから、それはせずに首輪をつけるんだ。 あなたが訪れてくれるのを待つ、忠実な犬のように。 僕は―――― もし死に方を選べるなら、 キミに殺されるのが一番いいよ。ルチア。 キミが我慢できなくなったなら。 キミが死んでしまうその前に。 僕を優しく抱いて殺してね。 指先からこぼれる愛を集めて、全部キミにあげるよ。 僕は最期まで、キミの笑った顔が、見たいから。 ▼ (_14) 2023/10/01(Sun) 19:50:49 |
【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノ「やぁ、はじめまして、おちびさん。 わぁ、思った通りすごく良いね、毛並みもふわふわだ」 ある日。 腕におちびさんを抱いて、嬉しそうに笑う男が一人。付き添い一人。 医師に動物を飼う事による精神治療と生活改善を更に進めてみてはどうだろうかと勧められたから、ペットを飼うことにしたのだ。 ペットはゴールデンレトリバーの子犬。 大型犬のほうが落ち着いていて気性が優しいから、おすすめ出来ると言われたのもあるが、なんとなく、この子犬に一目惚れをしたのだ。 尻尾を振って甘える仕草が、とても可愛かったから。 「キミのお陰で、部屋も随分変わったよ。 あ、こっちのお兄さんはルチア。よく家に来る人だから覚えようね」 犬を飼うと決めてから、同期の……特にアリーチェが犬用のグッズを買っては差し入れしてくれる。 今では子犬用のグッズで部屋が彩られ、生活感のなかった寂しい部屋が嘘のように変わっていった。 いつかは庭付きの部屋に引っ越して、外でいつでも遊べるようにしてあげたいとも思っている。 ▼ (_15) 2023/10/01(Sun) 19:52:11 |
【魂】 指先からこぼれ落ちたのは エルヴィーノ「え、名前?」 「勿論決まってるよ。 ……というより、それしか浮かばなくて」 名前を問われ、子犬に舐められくすぐったそうにしていた顔を上げて、男は頷いた。 抱いた子犬をじっと見つめ、気に入ってくれるかなと頬を緩め。 もったいぶるような間を取って、口を開く。 日に当たればきらきら輝く金の毛並みだから、それは勿論。 「キミの名前は今日から ”レオ” だよ」想いに想いを重ねて、僕は今日を生きる。 こぼれ落ちた愛は、全部集まったかな。 忠犬さん。 どうか僕が死ぬその日まで、ずっと傍に居てね。 (_16) 2023/10/01(Sun) 19:52:58 |
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