【妖】 路地の花 フィオレ優秀な人は引く手数多でいいことねえ、なんて言う。 その分頼られて大変なのだろうけど。 「そう。妥当な処分が下るといいわね」 下手人の捜索が始まっていると聞けば、少しだけ目をそらすようにして。 それでも、それ以上の動揺はない。 協力者がうまくやってくれているだろうから、よほどのことがなければ足がつくこともないだろう。 そして何より、目の前の彼に知られたくはないものだったから。 あの時のことを見られていたなんて、彼女には知る由もないのだ。 「もう!前から尊重はしてたと思うんだけどっ」 「あなたが何してようと勝手に喜んでる女なんだから。 まあ……しつこく付きまとってるところを言ってるなら、たまには放っておけって言うのも分かるけど」 「不機嫌になったくらいで離れるような女、つまんないでしょ」 黙って近くにいるくらいはするのだろうけど。 「病人食の方が好みだった?」なんて揶揄いながら。 「それなら許してあげる。軽めのグラス選んだから、そんなに力入れなくていいわよ」 それじゃあ、と気を取り直して。 「お疲れ様、テオ。乾杯〜」 テーブルの上で、グラス同士をぶつけ合うのだろう。軽い音が響いた。 ($5) 2023/09/30(Sat) 16:56:31 |