【人】 法の下に イレネオ>>141 ダヴィード 親がいないのだ、と、聞いたことはあっただろうか。 なくとも、ある程度察してはいるはず。端々に滲む貴方の生活に、貴方以外の人間の存在が垣間見えることはない。それはきっと、男が貴方を気にかける理由の一つだった。 「温かい飯って、どうしてあんなに美味いんだろうな。」 「冷たい飯がまずいってわけじゃないが。」 「お高い冷製パスタだとか冷製スープより、安くて熱いミネストローネの方が美味い。」 なら自分が作ってやろう。この男がそんな風に言うような人間なら、今頃貴方の素性にまで踏み込んでいたはずだ。 生憎そんなタイプではないから、話題は食事の温度に終始する。 「はは、まるでmicioだ。」 風呂が嫌だったと聞けば笑ったんだろう。草臥れた容姿も、一拍置いて威嚇するような態度も、そういえば、あの可愛らしく凶暴な獣によく似ていた気がした。 であるからには、自分が声をかけずとも、貴方はしぶとく生き抜いていたのだろう。とはいえ、人が生きるのは獣が生きるより容易く、困難だ。 「いいよ。店員に頼んで切ってもらおう。」 「飲み物も貰うか?」 (162) 2023/09/11(Mon) 1:24:25 |