【独】 リヴィオ爪のない右手が、床を掻く。 白に滲む赤はやがて床を汚し、線を残す。 それでもまだ、目を覚まさない。覚ませない。 起き方を忘れてしまったかのように、 夢の中に囚われている。囚われ続けている。 しかし、男にとって幸福だと言えるのは、 この場に、男に手を伸ばすものがいないことだった。 そのはず、だった。 誰かに迷惑はかけたくないんだ。 …俺なんかの為に、その心を割いて欲しくない。 やっぱり心は簡単に変えられない。変えられるはずがない。 だけど。 「 」 誰かに求めた救いが、音にならずに消えていく。 それでもこれはきっと、確かに救いを求める"声"で。 …もう一度、指先が床を掻く。 零れる吐息は、苦痛の入り混じるものだ。 きっと、そんな自分を表に出すのは今回限りで。 誰にも見せたくない、リヴィオの姿だった。 …夢を見る。この悪夢から抜け出すにはきっと。 自分自身の力では、到底難しい話だった。 (-63) 2023/09/28(Thu) 3:14:20 |