【独】 歌うのが怖くとも カンターミネ「5番から8番。23から26、拡大。……違うな」「12番のこれは?」「違う、下水はとっくに抜けてるはずだ」「車の事故の報告」「車種は?」「俺が分かると思うか?」「何の為に情報チームやってんだバカ」「『先生』がキレる前に出せ」「……出たぞ、フィアット500」「渋いな……」「待て、フィアット?」「どうした」「確か黒眼鏡の旦那の店から出てった車の映像、監視カメラに」「回せ」「赤の……フィアット500!」「先生の虫を辿れ!」「45ブロックの監視カメラに該当アリ!」「時系列順に!」「中心部から随分離れてくぞ」「……もしかして、"港"じゃないか?」「一番近くのドローン回せ!」「2番ドローンが向かってる」「映ったか?」「いや……」「待った、橋の辺りに確か虫置いてたろ」「それだ、映像は?」「――通ってる!」「来たぞ!時間は!?」「12分前!」「このコースなら港湾倉庫だ!」「空撮は?」「待ってろ……あ!」「居たか!?」「居た居た居た!赤のフィアット500!」「旦那の港湾倉庫かよ!」「あそこかあ」「そりゃ見つからんわ……」「感心してないで連絡しろ!他の奴より先に先生を送り届けるんだ!」「了解」「あいあい」 情報チームの精鋭が目標を捉えるまでかかった時間は、 他の連中に比べれば随分短かった。 その理由があるとすれば、普段から『先生』が、 あちこちにばら撒いていた虫のおかげだろう。 今回の法案の事件のような、特定個人の会話を聞いたり ある一定の人間だけを追い続けるというような 局地的な精度を要する物には効果が薄い一方で。 『何が、どこを、いつ通過したか?』 そういったものの情報に関しては、カンターミネの虫と、 情報チームの連携による『網』は無類の強さを発揮した。 秘匿回線によるメッセージが届けられ、 カンターミネの目に入るまで数秒。 「――来たか。」 少しの不安と、覚悟を混ぜた呟きが小さく漏れる。 気が付けば外は夕陽で赤く染まっている。 顔に不安が出ないよう"王子様"の顔をしてから、 彼女を出来るかぎり優しく起こす。 そうしておよそ15分のラグを経て、 カンターミネとダニエラを乗せた車が、港へと走り出した。 (-372) 2023/10/01(Sun) 2:45:20 |