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【人】 黒眼鏡「サァテ」 カウントダウンの指折りが終わって、 鼻歌が独房に流れ出す。 「どうなるかな」 『プラン』はもう成立した。 あとは、どう進めるかだ。 (1) 2023/09/26(Tue) 21:49:31 |
【人】 黒眼鏡「まァとりあえず」 よっこいせ、と立ち上がり。 「『合図』からだな」 独房の中にどうやってか持ち込んでいた、 携帯電話のボタンを押した。 (2) 2023/09/26(Tue) 21:51:48 |
【人】 黒眼鏡──ポン、と音がする。 釈放されていく人々の群れの中から、 あるいはその群れに紛れた何者かが、 人ごみの中から花火を打ち上げた音だ。 しゅるしゅると煙を曳いて立ち上った花火は、 警察署の直上でぽん、ぽんと音を立てて破裂した。 それがなんなのか、分かるものは少ないだろう。 ただ、何らかの『合図』であろうと思うだけだ。 (4) 2023/09/26(Tue) 21:53:42 |
【人】 黒眼鏡アレッサンドロ・ルカーニオは、かんかん、と格子を叩く。 「おーい、看守さんよ。 おーい」 声を張り上げ、看守を呼んだ。 訝し気な顔で近づいてくる顔を見て、 「ああ、今日はあいつじゃないんだ。 しょうがねえな」 うーん、と言ってから、懐から何かをとりだした。 (10) 2023/09/26(Tue) 22:18:52 |
黒眼鏡は、折りたたまれた<指示書>を取り出した。 (a1) 2023/09/26(Tue) 22:20:12 |
【人】 黒眼鏡「――……っ、これは」 看守が目を見開く。 「ソ。 共和国元老院終身議員の委任状ね。 」──「裏切らず、漏らさずの黒眼鏡」。 10年積み上げたその信頼は、 政治家すらも"港"を利用する切っ掛けとなっていた。 後は簡単な話だ。 絶対に裏切らないということは、 まだ裏切っていないだけ。 かくしてアレッサンドロは、自らの自由が法的に認められる手段を一つ、手に入れたのだ。 ──少なくとも、混乱の極みにある刑務所を出るまでの間は通用するくらいの。 (12) 2023/09/26(Tue) 22:23:03 |
【人】 黒眼鏡看守が直立不動の姿勢になって、牢の扉を開ける。 外からはパー、パー、パー!ファンファンファンファン!!!とすさまじい音が鳴り響く中、 「ドーモ」 がちゃり。という扉が開く音は、どこにも響かずにかききえて。 「あ。預けてたやつ、返してくれる?」 (15) 2023/09/26(Tue) 22:25:13 |
【秘】 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオたとえいつ視線を戻したとしても、堅炭の目はそこにある。愉快そうな、興味深そうな色を湛えて。 「理解したか?あるいはできないか? 疑問があるなら聞いとけ。 疑問が要らないなら、自分は馬鹿だと自覚しろ」 俺は馬鹿寄りだ、と笑う。 「アリソン・カンパネッロのことなんて、本質的には どうでもいいはずだ。 手あたり次第に噛みつくよりはいい兆候だがね」 くるくる、と空中をさまように回した後──指を指す。 ちゃり。また、金属音。 「お前は自分が本当は頭が悪いと知っている。 だから分かりやすい色に…白黒に割り切りたがって、 そのうえこれは性格的な面だろうが、黒を…… もとい、"対岸"を根絶やしにしないと気が済まんタイプだな?」 身を乗り出す。その声色は、やっぱり、心配しているようで。 「いいか、正義だからってお前の生き方が肯定されることはない。 肯定されるのはいつだって、その時正しいことばかり。 暴力をお前の真ん中に置いてるうちは、 お前はどこに行っても、どう生きても、 そのどうしようもなさからは逃げられない。 暴力では誰も納得しないからだ」 ──押し付けるような言葉は、ただ、たんたんと語られる。 (-14) 2023/09/27(Wed) 15:35:58 |
【秘】 黒眼鏡 → 法の下に イレネオ「こりゃ失礼。 お前は、理解されたいんじゃないのかと思ってね」 あなたの態度に言及するでもなく、 笑いながら意識を逸らす。 たんたんとなる音をまるでBGMのように聞きながら、 「 ぶ っは」──思わず吹き出してから。 「ば、っは、ははははは、っ はははははははは 」はははは あはははははは !!!!!楽しそうに、馬鹿笑いをした。 「しゅ、 好きでもねえのに暴力を振るうのか、 大した悪党だな!!」 「マフィアでやってけるぜ、なあ!」 (-29) 2023/09/27(Wed) 18:56:24 |
【人】 黒眼鏡──真昼のこと。 海沿いの開けた道に面して建てられた、トラックがまるまる入ってしまいそうなスチール・ガレージを改装して作られた店舗。 それなりに古びていて潮による錆も無視できないが、そこは短パンとサンダル姿で表をぶらぶら出歩けるくらいには気ままな彼の城だった。 ──ごり、ごり、ごり。 【Mazzetto】という味気のない店名。 今その店頭に、看板は置かれていない。 入り口の脇にたてかけられたその看板には、そこの主に似合わない小さな花がセロテープで張り付けてあった。 ──ごり、ごり、ごり。 店内は照明が落とされて、黎明に照らされた海の底のようにじっとりと薄暗い。 そんな中で黒い眼鏡をかけた怪しげな男が、カウンターの奥でコーヒーミルを回している。 男はむっつりと口をへの字に曲げて、額からぽたりと汗を垂らしながら重たいハンドルに力を込めた。 ──ごり。 硬く、重い。金属質な音が部屋の奥底まで響き渡り、波に運ばれた石のようにカウンターの裏を埋めてしまいそうになるころ、 「兄貴?」 ──店の扉をがちゃり、と開く音がした。 (40) 2023/09/27(Wed) 20:30:53 |
【人】 黒眼鏡>>40 路面と海面が反射する太陽の光を背負って、 一瞬影となったその男が店内に足を踏み入れる。 「黒眼鏡の兄貴、よかった、ちゃあんと釈放されてるじゃねぇか!」 ガイオと呼ばれるそのマフィアは、観光案内所の役付き者だ──表向きは。 実際にはノッテ・ファミリーの一員として、観光客を相手にスリや詐欺、置き引き、恐喝などを働く、外貨獲得部門を取り仕切っている。 「おう、ガイオ。 お前も出てこれたのか」 「部下たちもな、兄貴も早いじゃねえか。 あんなネタが出たんだ、もう少し絞られるかと思ってたぜ。運がいいな」 気安く笑いながら、意外と丁寧に掃除されている床を踏みカウンターに肘をつく。 アレッサンドロもまたコーヒーミルから手を話し、かちゃかちゃとコップを用意しながら立ち上がった。 「ソウ、裏切者のアレッサンドロです。 いいのか、こんなとこに来て。俺の処分はうやむやになってるだけだぞ」 「とぼけんなよ、『プラン』だろ? 何言ってんのかと思ったら、こういうことだったとは。 最初はびっくりしたが、すぐに失効したし、今なら取り返すのはなんとかなる。 …そんでもってこの機会に恩を返したら、高ぇ利息を取れるんじゃないかと思ってね」 ははは。アレッサンドロがにやりと笑って、ガイオの肩をぱんと叩く。 「抜け目のねえやつだな。ま、わざわざ呼ぶ手間が省けたよ」 「あんたにしごかれたからな。今度またうちに来てくれよ、フィーコも寂しがってる」 「ああ、あの犬」 (41) 2023/09/27(Wed) 20:32:59 |
【人】 黒眼鏡>>42 「兄 貴、… は? …ぇ、 」「ガイオ。犬の世話は、俺からお前の部下に頼んどく。 引き取り先も探すよ」 「……ぁ、……っ、……」 ぼた、ぼた。 綺麗に磨かれた床に、赤い雫がぼたぼたと落ちる。 体ごとぶつかるように突き込まれたナイフの先端は狭い肋骨の間をすり抜けて、 ちょうどガイオの肝臓に達していた。 太い血管がいくつも同時に切断され、ごぼり、と大量の血が傷跡から零れ落ちる。 ナイフを握ったままのアレッサンドロの手が一瞬で赤に染まって、受け皿にもなりきれず、零れた血液はばちゃばちゃと床をまだらに汚していった。 ──そのまま。固く握りしめられたナイフの柄が、ぐるんと捻り捻じ込まれる。 ぶぢぶぢと、さらにいくつもの血管が引きちぎられる音が響いた。 (43) 2023/09/27(Wed) 20:38:48 |
【人】 黒眼鏡>>44 ぼた、ぼた。 返り血がカウンターの上に数滴飛ぶのも構わず、アレッサンドロは立ち上がった。 血に染まったスウェットを脱ぎ捨てて、扉の隙間から差し込む潮風をも追い越すような早足で、店の廊下を歩いていく。 まだらに赤く染まったトランクスをひっつかんで引き下ろし、サンダルを放り捨て、裸足で全裸のまま私室の扉を蹴り開けた。 みしり、と音がして蝶番が歪み、中途半端に傾いた扉。 それを振り返ることもなく、乱雑にかけられた黒いシャツをとスーツをひっつかむ。 下着、肌着、シャツ、スーツ。 次々と脚と腕を通していって、ボタンが捻じ込まれるように止まる。 その一挙手一投足が鳴り響く開演のベルのように耳に響いて、 アレッサンドロの全身を流れる血流がどくどくと脈打った。 その高ぶりを鎮めるように一度、ぱちんと頬を叩いて。 「うし」 ──すっかり準備を終えてから、壁際に据え付けられた鏡を見る。 ふーー、と吹きだした息は、まるで火が舌なめずりをしたかのよう。 ぎらぎらと燃え盛る堅炭の瞳がひび割れて、ごう、と熱が渦を巻く。 自分でその顔を見て、ふ、と笑い。 「確かに、こりゃ。 人相が悪い」 (45) 2023/09/27(Wed) 20:40:45 |
黒眼鏡は、ポケットに突っ込まれていたサングラスをぴんと指先で弾き、つるを伸ばす。 (a10) 2023/09/27(Wed) 20:41:18 |
【人】 黒眼鏡>>46 そいつは格好をつけて黒眼鏡をかけると、またずかずかと店の方へ脚を進め、 折りたたまれた看板を片手で持ち上げる。 【CHIUSO】の面を向けて店先に放り出す。 潮風がごう、と吹く。 風に流された雲が太陽を覆い隠して、 三日月島の名物である太陽に照らされた海面はほどほどにしか光っていない。 それでもかまわない、と男は、革靴に包まれた脚をがつんと前にだした。 くるくると指先で回す、革細工のキーリング。 かちゃりかちゃりと音を手てて、愛車――フィアット500の鍵が音を立てる。 そんな音では、足りはしない。 そんな音では、贖えない。 10年を費やした弔いが、今日この時に結実する。 そんな風に喧嘩をしたことがないから、男にとってそれは最初で最後の、 ──最初で最後の、 ことだった。 「負ける事考えて喧嘩するやつが、いるもんかい」 だから、彼は勝つつもりだ。 だから、彼は笑っている。 (47) 2023/09/27(Wed) 20:45:26 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>47 潮風がごう、と吹く。 地を照らさぬ太陽の代わり、差別主義者の神の代わりに、 俺がやる。 アレッサンドロ・ルカーニアはそういう風に生きて来て、 だから最後までそういう風にやるつもりだった。 「──さあて。」 ──さあて、鳴らそう。 アリソンに捧ぐ鐘を。 (48) 2023/09/27(Wed) 20:47:29 |
【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 路地の花 フィオレくそー、なんて悪態をつきながら、 はいはい、と手を振った。 「全く、今お前を抱き寄せられないのが残念だよ」 「約束約束。叶えるから」 ――嘘。 珍しく嘘をつく自分に顔をしかめて、 けれどかつて、腕の中にあった体温は本物だった。 それを確かめるように、自分の腕をさすって、 「大好きね、……まー、そうかもな、うん」 その言葉を口にすることが、正しいのか。 自問と自戒が渦を巻いて、普段はくるくると回る口を重くする。 そうしているうちに、格子が音を立てる。 届かない手をこちらに伸ばす女に、 もう 届かない笑みを返して。「おー。俺もそう祈ってるよ。 お前も無茶すんなよ、怪我も。あーそれともし金とかないってなったら、俺の口座にはいってるから。あれ、非常用。ちゃんと使えよ!」 はよ行け行け、なんて手ぶりをしながら、あれこれつけたしで放り投げる。手が触れられないなりにあなたを気遣う言葉をいくつも取り出して、 「帰り。車気を付けな」 ──見送った。いつものように、いつものようにはできずとも。 (-64) 2023/09/28(Thu) 5:53:10 |
【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ「なにが違えんだよ、言えよ、ほら定義してみろ、学校出てんだろ!?」 ぎりぎりと締めあげられながらも、かはは、と哄笑を続ける。 「おめー法律によって許可はされてない暴力を 抵抗できない相手にふるってるよなァ、 相手を脅してよォ」 「お前が一番知ってんだろ? ヤってんだからさぁ」 それは間違いなく侮辱であり、罵倒だ。 ──そして、事実だ。 「何が違うか、 何が同じか、 ちゃんと確かめろ、今、なあ!」 (-71) 2023/09/28(Thu) 9:09:38 |
【神】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡──ノッテ・ファミリーのアジトは、当然ながら街中にある。 周囲の人間もそこがマフィアの根城であることは知っているから、壁によりかかったり周囲で騒ぐやつはそうそういない。 それでもそこは市中であり、人通りもあれば車や荷物が往来することも珍しくはなかった。 そんな中。アジトの一角にひっそりと置かれたその「荷物」──何の変哲もない黒いスーツケースは、ファミリーの一員である若者が置いていったこと、そして取締法失効に伴う混乱によって、見分されることもなかった。 だから、それが原因であると気が付くものはいないままで。 ──パパパパパパパ パァン !!けたたましい破裂音と共にそれが「爆発」した時。 すわ襲撃かと銃を手に駆け付けた構成員たちが見たのは、内側から真っ二つに焼け焦げ吹き飛んだスーツケースの残骸に過ぎなかった。 「っンだこれ」 「……な、なんだ? テロ?」 「いや、これ…花火じゃねえか」 「イタズラ〜?」 「ウチ相手にそれやるのはバカかジェームズ・ボンドだけだろ」 「じゃあCIAだ」 「CIAがうちに何の用だよ」 構成員たちは、訝し気に顔を見合わせる。 そんな混乱と焦燥が、彼らの判断を僅かなりと鈍らせていたといえる。 …だから、気が付かなかったのだ。 「よう」 アレッサンドロ・ルカーニアが、ぽん、と肩を叩くような距離に近づいてくるまで。 (G0) 2023/09/28(Thu) 11:29:12 |
【神】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>G0 「ぅお」 「キャ」「ギャア」「ひ!」「マジでビビる!」 「くそばか眼鏡」 「やめてくださいよアレ!」 「……って、おいおい、お前ら、おい…」 驚いたように飛び跳ねたり文句を言ったり、めいめいの反応を見せる構成員たち。 ──だが数名は警戒して距離を取り、手に持った銃を遠慮がちに向ける。 「どうした」 にやにやとしたいつの笑みに、向けられた銃口が下がる。 訝し気な顔と困惑した視線が絡みあって、緊迫した糸がぷつり、と切れた。 「い、い、いや、だって、あれ、取締法」 「裏切ったって…」 「いやそんな」「旦那がさぁ、そんな」「ね、だよね」「お前らさぁ」 「ハハハ、まあ待て、お前ら、落ち着け」 まあまあ、なんて手つきでその場を押さえる。 カポ・レジームとしてのその仕草に、構成員たちは思わずぽかん、と立ち止まって。 (G1) 2023/09/28(Thu) 11:31:18 |
【神】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>G1 「怪しいと思ったら」 バ バ ガン 。「ぐ」「ギャ」「っ、あ」「っづ」 「先に拘束」 背後に隠していたソードオフ・ショットガンから一度に二発。 立てつづけに放たれた鳥撃ち用の散弾が、至近距離で密集していた構成員たちを襲った。 室内にいたことで肌の露出している服を着ていた若者たちが、あちこちに被弾してうずくまる。 直径0.2inch以下の鉛の雨が手足や顔、首の皮膚を突き破り、発砲炎に照らされた赤い飛沫が花束のように咲き乱れた。 「う…」「ってぇ、く、…ッ」 「コラ」 被弾の少なかったソルジャーが痛みと衝撃に顔をしかめながら、 突きつけるよう向けた拳銃がバギン、と真横に弾かれる。 身を低くし、スーツの裾を翻しながら距離を詰めたアレッサンドロが、踏み込みと同時に跳ね上げた足刀。その横殴りの爪先が、中途半端に前にだされた銃身をとらえたのだ。 さらに振り抜いた足が振り下ろされて、若いその男の掌をばきばきと踏み砕く。 「、っ、あああああっ!!」 「アキッレーオ、ピストルを構える時腕伸ばしすぎ。前も言ったろ? 室内戦なら引いて体につけんだよ。おめ〜は前からかっこつけて、銃をこう…横に構えるからさぁ、やめろってマジ」 (G2) 2023/09/28(Thu) 11:33:28 |
【神】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>G2 くるり、と回したショットガンに弾丸が装填され、つきつけるようにもう一発。 散弾に吹き飛ばされて床に転がっていた女性のアソシエーテの右膝が、至近距離からまとめて叩き込まれた散弾でずたずたに引き裂かれる。 「ぎ、ぁッ! あ、ぁああッ!」 「ビアンカ、彼氏とうまくいってるか? 優しそうなガキだったよな、あれだ、面倒見てもらえよ。 そんくらいやるって、やんなかったらこえ〜ぞ、うちのルチアーノがっていっとけ」 奇襲によって乱れた集団は、既に抵抗する能力を失っていた。 アレッサンドロは彼らに無造作に近づいては、次々と追撃を咥えていく。 這って逃げようとした男の頭をがつんと蹴り、銃身をこん棒のように振るってタックルをかけてきたもう一人を殴り倒す。 散弾を最も多く浴び呻いていたメイドマンの胸倉を掴んで引き起こし、その指をごきりとへし折る。 「カミッロ、親父さんの借金は払っとくから。入院代は心配するなよ」 「エルネスト、俺がやった万年筆どうした? …お、持ってんじゃん。高いから大事にしろよ」 「フェリーチェ、お前料理屋やったほうがいいって。 俺がやった車売れよ、ちゃんと値段調べたか?」 ──最初の発砲から20秒とたたないうち、五人の構成員たちが床に転がり呻く。 アレッサンドロはまるで酒の席のように、ひとりひとり言葉をかけた。 そしてその返答を聞く様子もなくショットガンを肩に担ぎ、 サテ次は、とアジトの奥に進もうとして。 「……お」 どかどかという足音。ぶつかりあう硬質な音は力強く、だが統率が取れている。 その動きを聞いた途端、アレッサンドロは足を止め──にんまりと、口元に笑みを浮かべた。 (G3) 2023/09/28(Thu) 11:34:51 |
【神】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>G3 「もうか! いやあ、うちのソルジャーも捨てたもんじゃないな!」 我が子の成長を喜ぶ父親のように、誇らしげで嬉しそうに声を弾ませると、懐から取り出した使い捨て携帯電話をぱちんと開く。 ボタンを指で押し込んで、ピ、という電子音が一瞬鳴った――直後。 ――爆音が、五つ。 アジトの各所、計五か所。 アレッサンドロがあらかじめ協力者たちによって配置させていた爆薬が、一斉に封入された爆発力を解き放った。 建物全体が僅かに軋み、置かれていた観葉植物の鉢が斜め上に跳ねて砕け散る。 窓ガラスのほとんどが白い雨のように割れ砕け、甲高い音を立てて路上の上で跳ね返った。 「………、ハ、ハ」 天井からぱらぱらと落ちた建材の破片が、ばふんと顔に落ちてくる。 ぺろりと唇を舌で拭い、牙をむきだすように笑ったアレッサンドロはしかし、そこで――くるり、と踵を返した。 (G4) 2023/09/28(Thu) 11:36:41 |
【神】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>G4 本来の『プラン』では、ここで死ぬまでカチ込むはずだったが。 そうはいかない事情があった。 喧嘩のケリをつけなければいけない相手が、もう一人残っている。 がしゃあん。 僅かに残った窓ガラスを内側から蹴り砕いて、アレッサンドロは路上に飛び出した。 「あっちだ!」 「あんクソ元ボケ上司…ッ」 「撃て、マジ殺せ!!」 上階の窓から身を乗り出したソルジャーたちが、その背に向かって発砲を繰り返す。 だがアレッサンドロはそのまま迷う様子もなく、開けっ放しにされていた近くのマンホールに身を躍らせた。 (G5) 2023/09/28(Thu) 11:37:36 |
【神】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>G5 ──カポ・レジームであるアレッサンドロ・"黒眼鏡"・ルカーニアによる、『カチコミ』は、僅か3分の出来事だった。 設置された誘導用の花火、および爆薬によるけが人はなし。 だがアジトの設備や建物には少なくはない損害が出た他、 「奇襲」してきたアレッサンドロの手が5名の構成員が重軽傷を負う。 命に別状こそないものの、足や手に障害を受け今後ファミリーを続けることが難しいものもいた。 被害者の中には、アレッサンドロの配下である者も含まれている。 さらに彼が取締法への献金により、マフィアの勢力に打撃を与えようとした疑いも残ったままだ。 つまりこれは、彼本人による裏切り。 …曲がりなりにもカポ・レジームにまで上り詰めた男によって、ノッテ・ファミリーは少なくはない打撃を受けたのだ。 さらにこの上、アレッサンドロに然るべき「報復」を与えられないとなれば、 マフィアとして――暴力組織としての面子が立たないだろう。 こうして、アレッサンドロによる『プラン』は一定の成功を見る。 ノッテ・ファミリーに「一発かました」男は、下水道に逃げ込んだあと見事にその姿を晦ませた。 結果的に彼は、10年かけて用意した人脈、準備、調査、全てを駆使し、この一石だけを成功させたのである。 (G6) 2023/09/28(Thu) 11:39:12 |
黒眼鏡は、行方を晦ませた。 (a13) 2023/09/28(Thu) 11:39:29 |
【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ「どんな命令があったって 誰の命令だって "いかなる手段も"合法になるわけねェだろ! 法律ってのはそういうもんじゃねエんだよ、 それが通るならマフィアだって必要悪とか言えちゃうだろ。 そういうバカな言い訳を封じるためのモンが法律だろうが」 げらげらとした笑い声はますます大きく、 煽るように高鳴るばかり。 「何をしてどうなったかちゃんと言えよおめェ! ほんとにわかってやって──」 伸びた手を避けることも無く、ぐにり、と筋肉の束をひっつかまれて。 「……へ、へ、へ。」 舌を掴まれても笑えるぞ、と。 口の端をぐにい、とゆがめた。 (-85) 2023/09/28(Thu) 12:08:51 |
【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオがじゃあん、と派手な音をたてて椅子ごと床に転がり、倒れる。 ぺ、と吐き出した唾には赤いものが混じっていて、舌か何かを切ったようだ──だが。 「……げほ。……はぁ?」 そんな痛みや衝撃よりも、きょとん、とした顔。 「アルバってお前…ジジイの代の話だろ。 確かアルバの残党はノッテが吸収したらしいが、 知らんよそんなの」 「つうか、あれなの? アルバならよかったなんて、完全に『マフィアでもやってることによっちゃ必要悪』って話だろ。 それは」 「……当時のアルバとノッテのやってることの違い、分かってる? 時代背景との相関性とか〜……」 うーん、と考えるように転んだままで目をさ迷わせて。 「いや、そういうこっちゃないか。 黄昏抗争なんて今時、学校で習うのか? それともネット・サーフィンしてて見つけたのか。 お前あれだな。そんなに叩いていいモノが欲しかったんだなあ。そんなに殴っていいものが欲しかったのか。 それは昔から? ママにしつけられたからか? 学生時代は殴るモノがなくてベッドの中でシコるくらいしか暴力衝動を発散できなかったのか? じゃ〜〜お前、俺に感謝すべきじゃねえのか。 法案通してやった んだから」わはは、と。血が混じった声で、笑った。 (-99) 2023/09/28(Thu) 17:51:51 |
【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ何度も殴りつけられながら、哄笑がやむことはない。 いや、殴りつけられれば途切れ咳き込むが、 それが収まるたびにまた吹き上がる。 押さえても抑えても溢れる泉のように、 沸騰し沸き立つ泡のように、 ぼこぼこと音を立てて。 「やっぱお前、マフィア向きだな」 「うまくやってけるぜ、なあ」 ──にぃ、と笑い。 「ただ、お前の爺さんはダメだな」 「あの抗争で死んでねぇし、 ノッテに迎えいれられてもねえんだろ?」 そりゃあどういうことだ、と。 「じゃあ、そのジジイは 最後まで戦わなかった んだな。そしてその後戦うこともせず、 ノッテの陰口を孫に吹き込み、家族と自慰するしかなかった、 お前のジジイは情けねえ落ちこぼれだな!! お前が見返してやれよ、なあ!」 (-129) 2023/09/28(Thu) 22:48:52 |
【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 路地の花 フィオレ「ああ、すぐに出るさ」 嘘は言わない。 「そう、俺は嘘は言わねえよ。 まぁお前は特別だ」 嘘を言う。 「──そうそう、ここに来る前、ちょうど荷物送ったから。 じき届くと思う。 まあ、適当に受け取ってくれ」 いつものこと。 「──ああ。 まあ、…色々、気を付けてな」 いつもでないこと。 手を振って、その背中を見送る。 はあ、と息を吐いて、 「じゃあなあ」 (1/2) (-236) 2023/09/29(Fri) 22:39:38 |
【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 路地の花 フィオレ翌日、あなたがいない時だろうか、荷物が届く。 入っているのは、口紅が一本。 色々悩んだ結果、あなたに似合うかもわからずに選ばれたに違いない、 オレンジのシアーリップ。 どういう意図で選んだのかも何も書いていないままだ。 ──いつものように。 (2/2) (-237) 2023/09/29(Fri) 22:40:04 |
【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ避けることも抗することもない。 がつんと肉を打つ音、骨がぶつかる音、 息が零れる音、げほ、と咳き込む音。 全てが無抵抗のまま、ただにやついた笑みが消えない。 ──やってみろ、とでもいうように。 「はぁ、愛想をね。 その程度で逃げられるんだ」 馬乗りにされたままなのに、見下ろす。 黒い瞳のひび割れた隙間から、 嘲りと怒りの炎がちろちろと漏れ出している。 「お前のジジイのやってたマフィアごっこは、 随分お気楽なんだな」 がつ。 小突くように挙げられた膝が、馬乗りになる背中を蹴った。 「オオ、だからお前もこんなにヌルいんだな」 「うちに来いよ、立派なマフィアにしてやっから。 まずはそのくだらねえジジイのたわごとを忘れるところからだな、 負けてグダグダ言う奴の言葉なんか聞く必要はないぜ──」 それとも、と。言葉が続く。 「──お前もジジイみたいに、ノッテから逃げ出すのが趣味なのか?」 (-238) 2023/09/29(Fri) 22:48:11 |
【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオばづん、と何かを貫く音がして、 ばちゅ、と粘り気のある水音が響いた。 「が、あ、は、は、ああああああああッ!!」 獣のような咆哮が響いて、ぼだぼだとした液体をまき散らしながら男がのけ反る。 涎をまき散らしながらごろごろと床を転がり、喘ぐように息が何度か、途切れる。 それでも、過剰なほどに分泌されたアドレナリンが 哄笑を引き起こし、留まることもなくは、は、はという甲高い音がこだまする。 「い、いっで、でええ、ははははは、いってぇ、なあ、あああぁ、ははははは!!」 「おい、警っ、官としての、仕事だぞ、早くしろよ、治療だよ」 「ああ、痛ぇ、なあ、ははは、ほんっと、仕事できねえなぁ、お前、助かる、──――」 がなるように声をまき散らしながら。 ぼたぼた、ぼたぼた。 涎か、あるいはぐちゅりと潰れた水晶体か、その判別もつかないものが床に落ちる。 そのままぐしゃり、と男の巨体がつんのめるように倒れ込むと―― ──哄笑も、言葉も止まる。 口の端から泡を吹いて、アレッサンドロは気絶していた。 (-307) 2023/09/30(Sat) 13:48:46 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>a33 店に置きざりにされていたコーヒーミルには、 「使用禁止 廃棄しろ」という張り紙がある。 どうも食品ではないものを曳いたらしい。 喫茶店の風上にもおけない所業だ。 ガレージはがらんとしていて、 けれど多くのものがそのままだ。 それはきっと、戻ってくるつもりだったからではない。 このままにする以外に、なかったのだ。 それ以外に、何を足すことも、何を引くこともしたくはなかった。 潮風だけが、その憩いを見守っていた。 (95) 2023/09/30(Sat) 18:41:27 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>-363 ぐおおおん、と。 尋問と拷問に意識の向いていた構成員たちのなかで、 壁越しに遠く響いていたエンジン音が、ぐんぐんと近づいてきたことに気が付いたものはいただろうか。 ──ば がぁん。 甲高く硬質な音が、建物の中に響く。 差し込んでいた日の光が、眩く溢れ出すように強さを増した。 建材がへこみ弾ける音とともに、真っ赤な車が突っ込んできたのだ。 もうもうと車から吹きだした白煙に、ノッテの構成員たちががなり、銃を向け、あるいは混乱しヴィンセンツィオを引き倒そうとする。 めいめいに好き勝手な反応を見せるものたちは確かに、元から乏しかった統率を欠いており。 ばがん。 ──扉の隙間から滑り込んできた男が、両手に構えた拳銃と短機関銃をまき散らす間隙を与えることになる。 (1/2) (96) 2023/09/30(Sat) 23:03:24 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>-363 ぱ、ぱ、ぱ、ぱぱぱぱぁん。 発砲炎と共に破裂音が何度も瞬き、血飛沫と湿った音が響く。 構成員たちの半数近くを奇襲で叩き、 がしゃあん!! ――照明を打ち抜き。 暗闇に閉ざされた中で殴打と落下音、銃声がさらに続いて―― 「おう」 ――あなたのそばで、足音が聞こえる。 「生きてるかあ、ヴィンセンツィオ」 (2/2) (97) 2023/09/30(Sat) 23:06:51 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>101 満身創痍の男の前に、黒いスーツを翻した男が立っている。 壁の隙間から差し込む燦光が、ちかちかとその輪郭を彩って。 見やれば、その体のあちこちに乱雑にまかれた包帯や布の切れ端が赤く染まり、彼もまた無傷ではないことが分かるだろう。 そいつはあなたの表情に、に、と笑顔のように口元を歪めると。 「――気安く 呼ぶン じゃッ ね えよ、 くそヴィト ッ!!!!」――横殴りに銃身を叩きつける。 (103) 2023/09/30(Sat) 23:35:27 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>104 ぷ、と吐き捨てる唾は赤黒い。 ストックに張り付いてしまったような指を引きはがして、 弾切れになったらしい短機関銃ががらんと床を転がった。 「うるせェ。 舐めやがってマジで」 乱暴に伸ばした腕で、あなたの肩を掴み引き起こす。 その振る舞いに"カポ・レジーム"としての、 あなたからすれば取り繕った、気さくな様子は欠片もない。 ──ただ、まったく、見慣れた様子。 かつてソルジャーとして纏っていた、当時の顔をすっかりと取り戻した顔で。 「ここで元部下の代わりをやってやってもいいンだが──」 じろ、と目だけで横を見る。 「………」 「乗れ」 車体のひしゃげたフィアットを指さす。 「これ以上話を聞いてやる気も、解釈してやる気もねえ」 「ただ、ここにいると邪魔が入るだろ」 「──ンなことしてる時間も余裕も、暇もねえ」 だろ、と。 答えも聞かずに、車の方に向かっていく。 (105) 2023/10/01(Sun) 0:10:00 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>106 怪我を慮る様子など一切なく、力任せに腕を引き起こす。 手招きも指図も、説明も気づかいも無い。 奇妙で不格好な、それは信頼ににた形。 ここ十年ばかりお互いの間に横たわっていたさまざまなしがらみや思惑、年月や歳月。 そういったどうでもいいもの全て、 ばたんと乱暴に閉じられる扉の音にかき消えていくようだった。 「……カー・ラジオ代わりに流してやるから、勝手に話せよ」 分泌される脳内物質のせいか、 それとも流れ出す血のせいか。 なにもかもを走り切った直後のような、気怠さと自由の境目のような空気。 ──この十年ばかしあった微妙な距離感の代わりに、そういったものがぶちまけられたような感覚。 それを形容する名前を、ふたりは持たなかった。 あるいは、必要としなかった。 「たりめーだろ。 カポの車に乗る警部がいるかよ」 がたがたと煙と異音をあげながら、フィアットのタイヤが滑り出す。 行先は、港。 ゆっくりと沈みゆく太陽を追いかけるようにして、ひびの入ったフロントガラスが瞬いた。 (107) 2023/10/01(Sun) 0:35:59 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>108 潮風はまだ遠く、けれど海から吹き上がる風は真っ直ぐに削いでいくようだ。 こんなときにこそ使うべき黒眼鏡を助手席にかちゃりと放り捨てて、 ハンドルを苛立たし気に指先が叩く。 とん、とんというリズムは、鼓動とも路面の震動とも入り混じらない不協和音。 なのにその音が妙に耳に響いて、それ以外がどこか遠くに聞こえてくる。 「今ならぜって〜被害届出してるからな、あんなの。クソ暴力警官。 あの時懲戒喰らわせておくべきだった」 今にして思えば、あの時分が一番互いを信頼していたとさえ思う。 何も伝えず、何も理解せず、 それなのに同じ場所にいた。 その時のように交わされる言葉は、 傷跡に疼く熱に溶けていくよう。 ──理解とは程遠く、けれど齟齬がなかった。 スラムか、暴力か、あるいは痛みか。 何某かの塔の正体が何だったのかはいまだに分らないが、 少なくとも、同じ言語が通じていた。 「…そっち、あの状況でしてきたのか? 嘘だろ。 俺ぁなんもしてねえよ。あいつらならどうにかするさ」 車は海辺へと続く道路を曲がり、赤い照明が明滅する港湾設備へと進んでいく。 その光をフロントガラスに映しながら、 なんだか嬉しそうに笑う。 ──相変わらずの放任主義だ。信頼する相手のことは、あとは大丈夫だと無条件に、どこまでも放り出す。 (109) 2023/10/01(Sun) 1:10:39 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>110 がたがたと歪んだフレームの隙間から、さんざめく潮騒が聞こえてくる。 フロントガラスから回り込むように、 海面が反射する橙の光が覆っていく。 ぐるりとハンドルを回して、半開きのゲートをくぐる。 するすると滑り落ちるように向かう先は、港湾施設に併設された倉庫群だ。 「俺の部下にも引き継ぎなんて必要ねぇけど!? 俺のやってた仕事なんざ、あることをあるようにしただけだ。 もっとうまくやるまであるね」 張り合っているのかなんなのか、それとも誇らしく主張しているのだろうか。 確かなものなど何一つなく、空々しくすらあるがなり声が車内に響く。 葉巻の先端を視界の端にだけとらえながら、 「セルフサービスだ。 お前の人生に俺からくれてやるものなんて一つもねえ」 アクセルをがん、と蹴りつけるように踏む音。 速度を増した車は、舗装された斜面を跳ねるように降りて、 ある倉庫の陰へと向かう。 ──そこは、カポ・レジーム"黒眼鏡"が管理する倉庫群。 治安組織もファミリーの監視も、少なくとも普段はほとんど及ばない この街の空白地帯。 (111) 2023/10/01(Sun) 1:38:23 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>112 「ぬかせ。お前よりよっぽどいい上司してたわ」 本気の舌打ちをぶちまけながら、バックミラーをぐいと捻る。 根本から明後日の方向を向いた鏡は、もう背後の街並みを映し出したりはしない。 視界に広がるのは風の割には穏やかに揺れる海面と、 それを無機質な倉庫の陰が無機質に、参差として遮っていた。 助手席が開くの音に覆いかぶさるように、 蹴り開けるような勢いで扉が開く。 ところどころ穴の開いたスーツの裾がばたばたと、 忙しなく海風を孕んで揺れていた。 「一服する間くらいは待ってやるよ」 ばん、と力任せに叩きつけられたドアは、しっかりとは閉まらずに中途半端にずれた。 車越しににらみつけるアレッサンドロの片目もまた、押し当てられた布切れを赤黒く滲ませている。 銃弾が掠めたのか、あるいは貫通したのか肩や腿にはごわごわと乾いた血液の痕が張り付いていて、特に左腕の動きが鈍い。 それでも、 「おめえが何やったか、よく見てなかったンだけどよ」 フィアットの天板に、ごとん、と肘を乗せて。 「んなもん、どうでもいいから。」 「これからぶっ殺すくれえ殴るから、死んでも文句言うなよ」 ――笑った。 (113) 2023/10/01(Sun) 2:30:45 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>114 「そりゃこっちの台詞だ、あんたが大人になっちまう日が来るとは思っちゃいなかった」 車に体重を預けながら、悪餓鬼のような笑みを浮かべる。 怒りと苛立ち、嘲りと――仲間意識。 そういったものがないまぜになって、ぐつぐつと、 耐えがたいはずの悪臭を放ち煮えたぎるような凶相。 なのにそれは、どこまでいっても笑みと表現されるものだ。 「──俺だってガキじゃあいられねえ。ただ、どーでもよくなる時だってある」 はるか遠くを過ぎゆくプレジャーボートのエンジン音が、波を伝い足元にまで響いてくる。 そうして、あなたの漏らした言葉には、一瞬きょとん、と目を丸くして。 「──ハ」 「気色悪いこといってんじゃねえよ」 ははは、ははは、と。抑えきれなくなったような哄笑が、途切れ途切れに漏れ出して。 「──オッサン、コラ。ノンビリ吸ってんじゃねえぞ」 かつては大人と子供ほどに離れていた年齢は、今やすっかりと希釈された。 それなのに、その口調は悪態をつく子供のようだ。 ポケットに片手を突っ込んだまま、車に手をついてゆっくりと回り込む。 おぼつかなかったはずの足取りは、舗装された足元を引きちぎるかのように重く、強い。 ぴりぴりと、引き絞られたか弓矢のように、それは放たれる時を待っている。 (115) 2023/10/01(Sun) 9:41:54 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>116 「ガキみてえなこと 言ってんじゃ ね ぇえぇえええエエエエエよッ!!!」 葉巻が撃鉄のように落ちて、 そらすら待たずにばねは動いた。 ほぼノーモーションで放たれた蹴りを避けられたのは、同時に動き出していたからにすぎない。 だ、だん、と鋼板をへこませる音と同時に、アレッサンドロの長身が車の天板よりも高く飛び上がる。 大きく孤を描き放たれる、横殴りの足刀。 ──だが本命は、その陰。 先ほどまでポケットに突っ込まれていた拳が緩く握りしめられて、空中に身を躍らせた直後── 蹴りとワンテンポ遅れただけの奇妙なタイミング、そして間合いで突き出される。 当たるはずも牽制になるはずもない、ばたつかせただけのような手。それがぱ、と開かれて、 ばさり 、と。握り込まれていた粉末が、 掠れた音とともにぶちまけられる。 派手な蹴撃に紛れて放たれるそれは、 アルミ片を削った金属の欠片。 粘膜を容易く傷つける無数の礫が、潮風に逆巻きながら、顔面を狙ってぶちまけられた。 (117) 2023/10/01(Sun) 10:25:28 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>118 爪先が何かを掠めて、あるいはまったく空振りをして、 けれどそんなものはどうでもいいと引き戻す。 格闘戦において、自らの肉体を伸ばしたまんま相手の射程内に置いておくほど愚かしいことはない。 ──そんなものを分かっているとばかり、即座に叩きつけられた拳と脚刀がぶつかりあう。 「っ、っだ、」 膝裏を鉤のようにひっかける指を上から押しつぶすように、 器用に全身のばねをたわませてもう片方の足を叩きつける。 技術というにはあまりにも稚拙で力任せなそれが、 もつれあうようにして互いの手足をはじき合った。 人間が滞空していられる時間は、そう長くはない。 アレッサンドロが辛うじて両足を地面に着地した時には、 そんな一瞬の攻防を経て、互いが姿勢を崩したままだった。 否。 僅かに、無茶な動きをしたアレッサンドロの方が姿勢が悪い。 それを補うように、咄嗟に距離を埋めるように左手の拳が突き出される。 ──ちか、と。 金属の輝き。 握り締めた拳の指と指の隙間、 そこに握り込むように金属片。 拳から突き出す先端は猛獣の爪のように、防御すれば肉を裂き骨を打つ。 距離と間隙を埋めるように鋭く二度、三度、狙うは当然顔面、あるいは傷を負った胸元や肩口。 (119) 2023/10/01(Sun) 11:03:51 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>120 極至近距離での白兵戦で、完全に攻撃を避けることなど不可能だ。 姿勢を僅かに整えるまでの数瞬に、 殴打は筋肉と骨で、刃は服の表面で受ける。 みしりという音が体内で響いて、足先が思わず溢れ、 それでも牽制を幾度と放ち、 そのまま押し込まれることを防ぎ切る。 体躯では負けている。 体重というものは格闘戦において絶対だ。 それでも、正面からぶつかり合う。僅かでも腕のうちに潜り込むように身をかがめて、 「っ、づ」 抉りこむような蹴りが、突然そこに現れたかのように肉を打つ。 ばぢん、という音を遠くに聞きながら僅かに体を引いて、 じんと痺れる足をかばうよう片足でかるくステップを踏みながら、ノックするような軽く早い拳を叩きつける。 体力と血液を絞り出すかのように打ち、打たれ、削り合う。 喧嘩でも殺し合いでもある、それはひどく原始的な闘争だった。。 (121) 2023/10/01(Sun) 11:39:49 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>122 「ッダ、…っあぁ゙あ!!」 振り上げられたナイフに対し、踏み込んだのは本能的な反射行動だった。 刃ではなく、それを握る腕を止める。 それもガードと呼べるものではなく、飛び込み、胸板で受けるだけ。 どんという衝撃が肺を貫き呼吸を止めるが、 構わず、かじりつくようにナイフごと腕を抱き込みひっつかむ。 「…… っラ、 ぁ゙!!」命を振り絞るような格闘戦では、ぱたた、と水音が響くものだ。 それは汗か涎か、血か、あるいは髄に近いものか。 生命の雫が撒き散らされていくように 二人の足元になにかが飛沫く。 笑顔はない。 だが高揚し、滾り、燃えていた。 その勢いのままに大きく体を捻り、 砲弾のようなストレートが放たれる。 技巧も戦術も殴り合いの中に消えていき、 あるのはただ肉と骨を叩きつけるような気迫だけ。 (123) 2023/10/01(Sun) 12:19:44 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>124 振り抜いた腕が、拳が、びきびきと軋む。 指がひしゃげてしまったかのような衝撃。 ─構わず、再び握り込む。 「…、っ、お休みしてンじゃ、ねえぞおっ!!」 ナイフの音、体勢、隙。 それらを自覚しながら、けれどどうでもよかった。 2度。3度。その一撃一撃で殺すつもりで、 拳を叩き込みながら前に出る。 突き進む。 もつれ合うほどに飛び込んで、めちゃくちゃに殴りつける。 どちらのものかもわからない液体が飛んで、びたびたと落ちていく。 それらすべてを振り払うように足を振り上げて、 そのまま蹴倒す様な前蹴り。 姿勢を崩せば、あとは絞め殺してやるだけだと、 前へ。 (125) 2023/10/01(Sun) 18:22:36 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>126 がつがつと頭蓋骨を殴りつける拳が、恐らくは指としての機能を失いつつある。 だとしてもそれは打突部位として、最後までそこに在る。 だったら、十分だ。 いつのまにか取り落としてしまった車のキーは、もう見当たらない。 苦し紛れのように腕時計を外して、それを握り込み、 僅かに重みを増した拳を何度も何度も叩きつける。 油断は、しない。慢心も、しない。 このまま殺しきるつもりで打ち、殴り、叩き、蹴る。 呼吸することすら忘れ繰り返す打擲の末、 「っ、お」 先ほどナイフを握る掌を受けた時の、逆回しか。 蹴りが威力を発揮する前に受け止められ、 ぐわんと体が持ち上がる。不味い、と体を引く―― より 、も、そんなことよりも。 「…っがッ!!!」 一撃入れることばかりが、脳を焼く。 持ち上げられた肩口に重心を預けて、倒れるに任せて。咄嗟に跳ね上げた軸足を折りたたみ、 ――顔面に、膝を叩き込む。 踏みとどまるつもりは、なかった。もろともに海へと叩き込むその狭間に、がづん、と。 (127) 2023/10/01(Sun) 18:56:14 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>128 「てめえ」 口を大きく開いて、 赤い飛沫が白波を横切り、 橙の燦光が瞼を過り、 視界と天空が回転する。 「なあ」 がづん、がづん、がづん、がづん。 肉と骨が打ち合う衝撃が、今も続いているのか、 それともずきずきと鈍く残る残響なのかもわからないまま。 誰も逃れられぬ運命のごとく、 重力が追いついてきて、 「──ふざ」 → (130) 2023/10/01(Sun) 19:18:23 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡音も衝撃も、感じなかった。 気が付いた時には、全身に泡がまとわりついていた。 どちらが漏らしたものかもわからない 気泡が全身を覆って、 海面で乱反射する夕日が薄暗く差し込んで、 がぼ。 この泡は、自分の口から出たものだ。 それだけを自覚しながら、 ごぼ ごぼぼ。 ――握り締めた拳を、そ の顔面に 叩き → (131) 2023/10/01(Sun) 19:19:32 |
黒眼鏡は、ヴィンセンツィオとケリをつけた。 (a44) 2023/10/01(Sun) 19:25:35 |
【人】 黒眼鏡>>138 『…もしもし?』 その電話を取ると、 男の声が聞こえた。 ──君はきっと、よく知っている。 思い出せるかは分からないが、思い出してもおかしくないくらいに。 ……あのジェラート屋の店主だ。 『──ああ。ええと。今日、あんたから電話がくるか、 あんたが電話に出たら、こう言えと言われてます』 彼はあなたの声を聴くと、 何も尋ねることなく、 『「俺が一番好きなのは、カップのバニラ」って』 『お届けしましょうか、なんて聞いたんですが、いや、食いたいわけじゃないと……』 咳払い。 『すみません、私が首を突っ込むことではなかったです。 それだけ…ああ、その電話はやるから好きにしろと。 それだけ伝えろと言われていますので、伝えました。 あ、私は姿を晦ましますのが、店は娘が継ぎます。 今後とも、ごひいきに』 がちゃり、と電話がきれて、それきり。つー、つー、つー、という電子音だけが聞こえた。 (139) 2023/10/01(Sun) 20:36:14 |
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