日常と言うにはまだ遠いが、それでも多少の落ち着きを取り戻してきた頃。
その日はなんてないただの雨予報の日だった。
灰色の空は水気を含んだ空気を纏って重く沈んだ色をしている。

こつん、わざとらしく靴先で石を蹴った音。






その声の正体が確信へと変わった瞬間、彼の体はただただ固まって、その顔を見る事しかできなくなっていた。





散歩でもするように歩いてきた者の名はファヴィオ・ビアンコ。
十年前にルチアーノの上司となり、五年前に行方不明になった男であった。

#ReFantasma

「うるさい」



「どうして今更此処にいるんだ」




#ReFantasma

男は動きがない彼の目の前まで歩んでいけば、流れるような仕草で頭の上に手を置いて髪を梳く。
腰を抱き寄せつつ首元に見えた赤い痕におや、と呟けばくすくすと楽し気に笑って愛で続けた。


「ファヴィオ、」


「俺は……」

揺れた声は艶を帯びていて、緩やかにそのシャツに手が伸びて。
縋るように服に皴を作れば、甘く誘うように口端が上げられる。



#ReFantasma