人狼物語 三日月国

258 【身内】冬融けて、春浅し


【人】 靖国 冬莉


— A few days later —




[華金とは裏腹に慌ただしく過ぎ去っていく社員の中で、デスクに腰掛けては視線を持ち上げて壁に掛かった時計を見遣る。針の差す定時僅かに過ぎた時刻に、 手元の書類を傍らに置いて 携帯を取り出す。液晶には、先日繋がりを得た彼のアイコンが表示されていた。
 『迎えに行くわ、場所を教えてくれ。』 ——— 送信ボタンを、押す。
 あの一夜から、初めての逢瀬の約束を交わしたのが今日だった。]


 ………そんなに緩んでいたか?顔。


[声を掛けてきたのは、人事課に配属になって共に仕事の荒波を越えてきた部下達だった。会社の中では、腫物扱いに近い自身へと声を掛ける、稀有な存在で。笑みを零しながら、上司と部下の垣根を超えた言葉が飛び交うのは、築いていた信頼の証なのだと、そう思いたい。]


 おいおい。上司を揶揄うのは程々にな、と。
 ……すまん、今日は先に帰るわ。


[決裁、必要な書類は此処に置いててくれ、と声を掛け 外套を羽織っては その場を後にする。
 他部署らのすれ違いざまの皮肉に、揺らすような情感はとうの昔に吐き捨ててしまった。]
 
(9) 2024/04/27(Sat) 1:21:58