人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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視点:


【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

ぬるり、と。
口内に暖かく柔らかいものが滑り込む感覚。

常であれば不快でしかないのに
熱に浮かされた体には甘い刺激になってしまう。
しかし絡めようとすると、舌は逃げる。

「ゃ、め…っ…んんっ……」

貴方が咎めるように下肢を撫でるなら
やはり震えて、体は堪える為に強張るのが分かるだろうか。

瞳は蕩けそうになるけれど
やはり貴方を睨むのは止めない。
ほんの僅かに残った理性をかき集めて、堪えようとしている。

もし布越しにソコに触れられたならば
途端にその理性も瓦解するだろう。
昂り切った体に、その刺激は猛毒すぎるから。
(-4) 2023/09/26(Tue) 22:59:18

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

「っ、ぐ……」

地に身体が押し付けられる。
露出した肌に、転がった砂利が食い込んで眉を寄せた。
携帯には手を伸ばすものの、自由に動けるあなたにかなうわけもなく。
返して、と口では言うものの。きっとそれは聞き入れられないのだろう。
あなたの下から、女が睨みつけている。

「話すと、思ってるの……」
「何も話すことはないわ、あんたみたいな人に……!」

体重が掛けられたくらい何だ。そんなことで仲間を売ったりはしない。
気丈な態度の女は、簡単には屈しないだろう。
(-5) 2023/09/26(Tue) 23:44:27

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



珍しく舌打ちを鳴らしかけたのは多分、体調のせいだ。
代わりに深いため息を零し、首を緩く傾ける。

「……
していない
ことを認めろと?」

それは、子供に伝えるようにハッキリとした物言いだ。
ない事実を吐くことなど、
当たり前ながら出来るはずもない。

「…何も始まらないさ、イレネオ後輩くん
 やはり君は、少し、休暇を取るべきだ」

そして俺にも休暇を届けるべきだね。
あの固くて冷たい場所でも構わないから寝かせておくれ。
柔らかいブランケットを届けてくれても構わないよ?

また笑みを浮かべて、
君を真似るように自由な指先で己の膝を軽く叩いた。
(-6) 2023/09/27(Wed) 1:24:11

【秘】 幕の中で イレネオ → 傷入りのネイル ダニエラ

悪人が嫌いだ。
人を踏みつけにして笑う悪人が嫌いだ。
嘲りも嫌いだ。
人を踏みにじり傷つけるそれが嫌いだ。
嫌い。嫌いだ。

がつん。


遂に響くのは硬い音。
握りしめた拳が貴方のこめかみを打つ音。
そこを殴られれば脳が揺れるはずだ。視界が揺れるはずだ。
襟首を締めあげた手を乱暴に離せば、背中や尻を打ち付けて椅子の上に落下するはずだ。

わかるわけがないだろう・・・・・・・・・・・
意味がわからない・・・・・・・・
「お前」
「何のために警察になった?」

それでも倒れることなど許さない。
貴方が項垂れる、或いは椅子からずり落ちて逃れよう・・・・とするなら、乱暴に右腕を掴んで引き上げる。
突然強く引かれた肩が嫌な音を立てたかもしれない。
しかし男には関係ない。
(-12) 2023/09/27(Wed) 14:52:08

【秘】 幕の中で イレネオ → 黒眼鏡

と とん。とん。と、とん。
速度は思考に伴って緩やかに。
視線は貴方のかんばせから落ちて手元に。

決して賢いとは言えない男だった。こういうところもまた。
僅かならまだしも、尋問中に被疑者からこうまで目を離すなどあり得ない。
思考に耽溺するなどあり得ない。言葉に乗せられるなどあり得ない。
あり得ないことをするのは、貴方に対し信頼とは呼べない何かがあるからなのだろう。


────金属の音で、思考は引き戻された。

落ちた双眸が貴方に戻る。その時にも双黒輝いていただろうか。であるなら不審そうに眼を細めて、でなければやっぱり顔を顰めるのだ。不愉快そうに。自身の未熟を突きつけられたように。
(-13) 2023/09/27(Wed) 15:13:02

【秘】 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ

たとえいつ視線を戻したとしても、堅炭の目はそこにある。愉快そうな、興味深そうな色を湛えて。

「理解したか?あるいはできないか? 疑問があるなら聞いとけ。
 疑問が要らないなら、自分は馬鹿だ・・・と自覚しろ」

俺は馬鹿寄りだ、と笑う。

「アリソン・カンパネッロのことなんて、本質的には
 どうでもいいはずだ。
 手あたり次第に噛みつくよりはいい兆候だがね」

くるくる、と空中をさまように回した後──指を指す。
ちゃり。また、金属音。

「お前は自分が本当は頭が悪いと知っている。
 だから分かりやすい色に…白黒に割り切りたがって、
 そのうえこれは性格的な面だろうが、黒を……
 もとい、"対岸"を根絶やしにしないと気が済まんタイプだな?」

身を乗り出す。その声色は、やっぱり、心配しているようで。

「いいか、正義だからってお前の生き方が肯定されることはない・・
 肯定されるのはいつだって、その時正しいことばかり。
 暴力をお前の真ん中に置いてるうちは、
 お前はどこに行っても、どう生きても、
 そのどうしようもなさからは逃げられない。
 暴力では誰も納得しないからだ」

──押し付けるような言葉は、ただ、たんたんと語られる。
(-14) 2023/09/27(Wed) 15:35:58

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

そこまで頭が回らなかったのか、
それだけ貴方を侮っていたのか、
それとも必要ないと判断したか。
男は貴方の口を固定することはなかった。
だからその舌に噛みつくことだってできたろう。けれど貴方がした報復はそれ以下のもの。抵抗はそれ以下のもの。
柔らかな千草色が濡れてこちらを睨む。それだけ。
それでさえ男は笑って受け流した。喉を笑いがのぼった。

愛しさではない。愉しさだった。

指がするすると撫であげる。一度みぞおちあたりまで、そうして腹、下腹部。同時に頭を支えた手は耳朶を擽り、舌は舌を捕まえようと口腔内を這った。

何も言わない。
促すような言葉は必要ない。これは睦み合いではない。
ただ屈辱的な快だけを与える手が、そのままの速度で貴方の粋の形をなぞった。
(-15) 2023/09/27(Wed) 15:50:37

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 法の下に イレネオ

強い衝撃に、頭が揺れて。
ちかちかと、視界が瞬いた。

「……づ、ぅ」

また喉から呻き声が漏れ。
それでも女は逃げようとはしなかった。
口元の笑みも、絶やさない。
たとえその肩が外れ吊られ激しく痛んでも、笑顔だけはその表情から消えなかったり

「…同じこと」
「ニーノ・サヴィアにも、聞かれましたあ」

どこまでしっかり発音できていたか、最初はよくわからなかった。
それでも、そんなものも悟らせないよう、可能な限り、努めて。

「ニーノ・サヴィア。分かりますよねえ。」
「逮捕されました。…あたしに
嵌められて
。」

――真実。


「…それでイレネオさんがこおした
5人
に」
「ニーノ・サヴィアは、…含まれますかあ?」

笑うしか取り柄のない女は笑う。
己の罪を告白する。彼は本当に、善良な警察だったのだ、と嘯いた。
(-16) 2023/09/27(Wed) 16:00:24

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

「それを言うなら。」

ざり。体重をかける。度に靴底が地面と擦れて音を立てる。

「黙秘の権利があると思っているのか。」
「お前のような悪人生き物に?」

横向いて倒れた貴方の身体を、押さえつけた膝で地面に転がした。仰向けに、急所の多い腹が自分に正対するように。

「吐け。」
「それとも吐くか?」

ぐ、と。
重みが食い込む先は、貴方の腹だ。
(-17) 2023/09/27(Wed) 16:03:40

【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ

変わらない態度。
あまりにも変わらない態度に、男は姿勢を崩した・・・
それは生真面目な男には珍しいことだ。決して姿勢の良いわけでもない男は、それでも大抵、おそらく自分にできる精一杯で背筋を伸ばしていた。
緩慢に背もたれにもたれる。顎を上げて視線だけ投げ寄越す。そうして息を吐いて、もう一度身体を起こす。
億劫そうに一度逸れた瞳は、再び貴方のかんばせに戻った。

「耳がついていないのか?」

「それは犯罪者の戯言・・だ。」
「証拠は挙がっている・・・・・・。」
「無駄な言い逃れ・・・・はよせ。」

決めつけ。決めつけ。決めつけ。
男の口から出るのはそれだ。
尋問とはそういうもの。男の仕事とはそういうものだった。
貴方で、六人目だ。
(-18) 2023/09/27(Wed) 16:21:15

【秘】 幕の中で イレネオ → 傷入りのネイル ダニエラ

ニーノ・サヴィア。
その名前は知っている。
五人のうちの一人だ。


しかし。
その言葉に、男の瞳は揺れなかった。
貴方は悪人である。
彼も悪人であった。
あれ・・ノッテマフィア家族・・と呼んだ。


「庇い合いか?」
「もう遅い。」
「今頃治療を受けているだろうな。」

実際それは必要で、男が進言したものだった。
罪人であろうと不当な扱いをするのはよくない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
病人に治療は受けさせるべきだ・・・・・・・・・・・・・・

さて、それを貴方がどう受け取るかはそちらの自由。脅しや冗句と聞いたかもしれないし、男の暴力によるものだと思ったかもしれない。

笑う貴方が不愉快だ。
余裕だと誇示して見せる貴方が不愉快だ
────誰かの顔が浮かんだ。


「含まれているよ。それがどうした。」
(-20) 2023/09/27(Wed) 16:56:16

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

嬲られて、辱められて。
愉し気な貴方と対照的に、快楽と羞恥の間を行き来する。

もう我慢は、出来なくなっていた。
与えられる快楽に従順に反応して、息が上がり
その手が形をなぞり上げれば、溜まらず腰が浮いた。

「っ、ぅ…ふ……」

固く限界まで熱を持ったそれは
何度か強く触れてしまえば、果ててしまいそうなほどだろう。

睦み合いであれば、さぞ扇情的にも映ったろうが
与えられるものに縋るような様はいっそ滑稽だろうか。
(-22) 2023/09/27(Wed) 17:19:10

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

「あっきれた……悪人は、人間じゃないとでも言いたい、わけ?」

は、と挑発するように笑ってみせる。
警察だろうが関係ない。この男の言い分に乗ってやるつもりはない!

「っ、ぁ…く……」

背中が地に付けられて。
柔らかな女の腹に、男1人分の体重がかけられていく。

苦悶の表情を浮かべていたかと思うと、女の体が小さく跳ねた。
甘い声が漏れる。
内臓が圧迫されて苦しいのに、苦痛とは別の波が襲ってきていた。


女は、性行為をしてきた直後だった。
だから、あなたの責苦に快楽が揺り戻されている。
苦痛が上回れば、流石にそれどころでなくなるだろうけれど。
(-23) 2023/09/27(Wed) 17:23:57

【秘】 幕の中で イレネオ → 黒眼鏡

「お前は」
「何を言いたい?」

それは問いだ。
しかし外れた問いだ。無意味な問い。貴方の言葉を真っ向から受け止めないからこその問い。
貴方が何かを隠しているはずだと決めつけた問い。その態度は悪徳尋問官として全く相応しい、頭の固いものだった。

「俺の何を知った気になっている。」

不機嫌そうな表情。たん。たん。たん。叩く音が一定の速度を取り戻し始める。
思春期の子どもがするようなそれ。自分を理解した気になるなと突っぱねて身を護るそれ。似ているだけで似つかない、もっと暴力的な方法で爆ぜかねない敵意が貴方に向かって首をもたげる。

「俺が」
そう・・したいのは」
ノッテファミリーお前たち
だけだよ。」

たん。たん、たん。
苛立ちの罅が割れていく。心願が徐々に零れ出る。

「それに、俺に暴力を振るう趣味はない。」
ノッテお前たちと同じにするな。」
(-24) 2023/09/27(Wed) 17:27:13

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



変える訳がない。
変えてやる
訳がない。
腐っても俺は先輩で、君は後輩だ。
その分、経験として培ったものは多くある。
仮面は剥いだ、あとは己がままに向き合うだけだ。

「いいや、戯言なんかじゃあない」
「証拠なんてものはない」
「無駄な言い逃れでもない」

否定する。否定する。否定する。
その決めつけ全てを、真っ直ぐに否定する。

「これは全て
事実
だよ、俺の可愛い後輩君」

「そして俺は、これから何をされたところで、
 その
曲がった
事実を
認めてやらない


決してここを曲げてはならない。
己と真っ直ぐに向き合う彼らのためにも。
尋問とはそういうものだとされるなら、
そんな無価値な仕事はさっさと
やめてしまえ


「……だから、後輩──いや、イレネオ。
 君に俺は曲げられない、残念だったね」
(-26) 2023/09/27(Wed) 17:51:55

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

求めるものを与えてやる。
それは今この瞬間、今この一瞬だけのもの。
熱に浮かされて踏み外し、正気に戻った瞬間嫌悪と後悔と慙愧が襲うようなもの。その布石。

手錠で戒められた手はさぞ不自由だろう。
自由ならばそれは男の身体に縋っただろうか。
行き場なく震える手は自分の身体を僅かも押し返すことがない。それだって愉快に感じられた。

湿った唇は離れれば僅かに音を立てた。そのまま男は貴方の耳元に囁いた。

「良いんですよ。」
「我慢しなくて。」


触れる手は無骨な男の手。
恋人のそれでなければ女のものですらない。
けれど同性同士だからこそわかるものもあるというもので。
この辺りかな。
張った・・・ところに手を添わせて、そのまま。
耐えられないような強さで触れてやる。
(-27) 2023/09/27(Wed) 18:13:35

【秘】 黒眼鏡 → 法の下に イレネオ

「こりゃ失礼。
 お前は、理解されたいんじゃないのかと思ってね」

あなたの態度に言及するでもなく、
笑いながら意識を逸らす。
たんたんとなる音をまるでBGMのように聞きながら、

っは」

──思わず吹き出してから。

「ば、っは、ははははは、っ
はははははははは
はははは
あはははははは
!!!!!


楽しそうに、馬鹿笑いをした。


「しゅ、
好きでもねえのに・・・・・・・・暴力を振るうのか、

 大した悪党だな!!」
「マフィアでやってけるぜ、なあ!」
(-29) 2023/09/27(Wed) 18:56:24

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

「先にそうしたのはお前たちだろう。」

成り立たない会話の応酬。
貴方もそろそろ気づくだろう。どうやらこの男は貴方を人間一般市民扱いする気持ちがそれほどない。
けれどそれには男の中で何か理屈があるらしかった。貴方の気にすることではないが。

「お前たちは」

ぐ。


「他者を尊重するのか?」

ぐ。


「しないだろう。マフィアだからな。」

ぐ。ぐん。


一定のリズムで圧迫される内臓。
さて次の責め苦をどうしようかと考える間の手慰み。
続く暴力を予見させる行動。カウントダウン、だったはずの、それ。
対する貴方の反応に、男は怪訝な顔をして動きを止めた。
薄暗い路地。表情は伺えず顔を寄せることになる。
発作か何かを起こしているなら厄介だ。まさかこの行為が、貴方の快に繋がろうとは思うはずもなく。
(-30) 2023/09/27(Wed) 18:58:32

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「ぅ、あ…っ…!」

ひと際大きく震えたのが、伝わる
堪え切れずに、ついに、落ちたのだと、分かるだろうか

屈辱に顔を歪める様は
貴方にとってさぞ気分が良いかもしれない

けれど…解き放たれれば
理性は徐々に、戻ってくるものだ

熱い息を吐きながらも
ようやっと、意識が多少はっきりしてくる

「く、っそ…」

顔を反らしては、貴方から表情が伺いづらくなるように
そう仕向けるだろう
(-31) 2023/09/27(Wed) 19:23:42

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 幕の中で イレネオ

――治療。と。
聞いて女がまず感じたのは、今まさに感じる自分の肩の痛みだった。

「……。」

ざわと粟立つような思考を鎮める。
笑って。隠して。悟られず。ずっとそうしてきたように。
あは、と声。
笑っている間は堪えられる。だから女は、まだ囀る。
女にはそれしかないだけで、決して余裕を誇示するつもりはなかったが。きっと、それは、皮肉と呼べる。


「ふふ。いいえぇ。」
「気になっただけですけどお。」

「それにしても」
「決めつけるんですねえ、庇い合い…。」
「取締法、そんなに信用できますかあ?おもしろおい。」
「あたしが自首するまで、あたしのことも捕まえられなかったくせにい」

「こんなことなら、自首なんかしないでもっと引っ掻き回せばよかったあ。」

くす。
きっと女の目論見は、大半にして成功していた。
聞かれたくないことには答えず、この法案がどれだけ
悪用
しやすいかを説く。
あとはこの笑顔を絶やさず堪えるだけ。頭のおかしな愉快犯が、単独でこれを行ったのだ。



女は笑う。笑う。笑い続ける。
何があろうと、仮令――その大事なマリーゴールドが、摘み取られようと。
(-36) 2023/09/27(Wed) 21:00:23

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

この男が何を言っているのか、女には理解が及ばない。当たり前だ。

「バカ、ね」
私たちマフィア、ほど、っ…繋がりを尊重、するところ…ないわよ…っ」

少なくとも、あんたよりはずっと。と口角を上げて。

は、と熱い息を吐く。下腹部が疼いて、喘ぎ混じりの声が小さくこぼれる。
場違いのようにも思えるその反応に、あなたが顔を近付けたのなら。
そこはハニートラップを生業とする、彼女のテリトリーだ。

「っ、ふ……
捕まえた


自由な腕が、あなたの首に回されて。
ぐ、と彼女の方へ引き寄せられる。
あなたの唇に、女の唇が合わせられた。そのまま、抵抗の暇すら与えず 唇を舌でこじ開けてやる。
マフィアを毛嫌いしている様子のあなたなら、嫌悪から身体が離されるはずだと踏んで。
吐き気と快楽が迫り上がるのに耐えながら、あなたの口内を犯そうと舌を蠢かせた。

花の棘には毒があるの。
気安く触れると、痛い目を見るわよ。
(-41) 2023/09/27(Wed) 21:34:50

【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ

「曲がられちゃ困る。」
「俺が聞きたいのは真っ当な真実だからな。」

言葉は平行線。
それを男もそろそろ気づき始める。
では言葉でどうにもならないのならどうすればいいのか。
それも、男は既に知っていた。
間違った解答だ。


自然な仕草で立ち上がる。これから起こすことに対する緊張も高揚もそこには存在しない。
そのまま貴方の頭部に手を伸ばす滑らかさ。逆らわれるなどと、まるで考えていない動作。
けれど。
そこから先はそうはいかない。髪をぐいと引き掴み、しっかりと動かぬように固定する。

かち。

それは。
いつの間にか手にしていたナイフの、刃を剥き出しにする音。
鈍い色は白い室内灯を弾いて光った。光ばかりが清潔だった。
貴方が抵抗しないのならばそのまま貴方の側頭に添うだろう。
酷く冷淡に、残酷に。少し動けば切り込みが入る、その位置で。

「もう一度聞く。」
「マフィアと内通していたのか。」
「渡した情報は何だ。」
(-49) 2023/09/27(Wed) 23:02:31

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ

>>-49

「あぁ、そうだろうね。だから、
無駄
なんだ。
 そこに真実がないのに何──」

何を認めると言うんだ。そう口にしようとした言葉は、
君が立ち上がる動作とともに静かに消えていく。
代わりに響くのはこちらへと近づく冷たい靴音。

伸びてくる腕を、手を、避けようとする動きはない。
しかし滲む汗は、男の警戒の色を表すように額を伝う。

「……っ、………おいおい、乱暴だな」

そう長くもない髪を掴まれたことで頭皮は刺激され、
何本かはブチブチと音を立てて
君の指先へと絡まり、はらはらと床へ落ちていく。

耳元で鳴る音は早々に聞き覚えがないものだが、
触れる冷たい感覚が何であるかを凡そ理解させる。
僅かでも動けばその冷たさは己の肉を裂くのだろう。
思わず吐き捨てるような笑みが零れ出た。

「君は一体エルから、エルヴィーノから何を教わったんだ。
 この方法は間違っている。善良な警官の俺が否定しよう。
 …あぁ、いや。エルがこうしたことを教えるわけがないんだ。
 これは、こんな馬鹿げたことに目を瞑るあの
が悪いな」

(-52) 2023/09/28(Thu) 0:01:42

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ

>>-49 >>-52

「……もう一度言うが俺は、内通者なんかじゃあない。
 繋がりもないんだ、渡す情報も何もない──以上だ」

実際、こう語る人間の"嘘"を見たことがある。
痛みは何よりも相手を自白させるにいい手段かもしれない。
だがしかし、男の語るこれは"本当"で、変えようがない。
ただ真っ直ぐに訴えかけること以外に何かをしようがなかった。

さて、これらの言葉で君が止まるのならばいいが、
慣れているその手つきが違う未来を物語る。

もしもその刃を食い込ませていくというのなら、
力強く君の身に己の身をぶつけ、
僅かでも怯めば、ナイフを持つ手に噛み付こうとする。
培った危機的状況に対する反射というやつだ。
それにより切れ込みが激しくなろうが、
髪が更に数十本抜けようが、それ自体がなくなるよりはマシだ。
本当は何かをやり返すつもりなどなかったが、
それはダメだと、自分の中での警鐘が鳴り響いた。

刃が食いこんだその瞬間、
悪夢に現れる女の声が耳元で聞こえた──気がして。
(-53) 2023/09/28(Thu) 0:04:12

【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡

「は?」

予想外の騒音・・というのは人の意識を奪うものだ。
突然の哄笑に男は目を丸くした。それからぱちぱちと瞬きをする。見事な口上への拍手と同じ。しかしそれもまた、同じだけ。

表情はみるみる険しくなった。
侮られたという激昂が面を染める。
がたん。
何度目かの立ち上がる音。襟元の締まる感覚。

「口を閉じろ。」
「俺はマフィアとは違う。お前たちとは違う、」
「同じにするな!」

それは男にとって侮辱であり、侮蔑であり、屈辱であった。
暴力を好む野蛮人だと思われるのも、悪党と形容されるのも、マフィアと同様に扱われるのも、何もかも。
(-69) 2023/09/28(Thu) 8:40:45

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

「あはっ」

身体の下に震えを感じて男は笑った。やっぱり愉快そうだった。声ばかりは無邪気だった。
悪意なく他者を貶める、幼い子どものする笑い声だった。

一通り満足したらしい瞳が貴方の表情を確かめる。
悔しそうな様は心地いいらしい。偽物の上下関係を確かめるような暫しの間があるだろう。さて、と次の行動を考えつつ、最初の目的に立ち返る間だ。
この間は隙である。
離れた空間を利用して頭突きをするなり、自由な足で蹴飛ばすなり​─────反撃をするなら、通るだろうが。
(-70) 2023/09/28(Thu) 8:51:05

【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ

「なにが違えんだよ、言えよ、ほら定義してみろ、学校出てんだろ!?」

ぎりぎりと締めあげられながらも、かはは、と哄笑を続ける。

「おめー法律によって許可はされてない暴力を
 抵抗できない相手にふるってるよなァ、
 相手を脅してよォ」

「お前が一番知ってんだろ?
 ヤってんだからさぁ」

それは間違いなく侮辱であり、罵倒だ。
──そして、事実だ。


「何が違う・・か、
 何が同じ・・か、
 ちゃんと確かめろ、今、なあ!」
(-71) 2023/09/28(Thu) 9:09:38

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

息を整えている間に
貴方の方も手が止まって、考えているのが伺えた。

――今だ


頭を軽く振りかぶって
その額へと頭突きを喰らわせようとする。

当たり、怯んだのであれば
少しでも自分の身体から距離を取らせるべく
右足で腹を狙って蹴り飛ばそうとするだろう。
(-74) 2023/09/28(Thu) 9:25:20

【秘】 幕の中で イレネオ → 傷入りのネイル ダニエラ

男は信じている。
自分の信じる、正義を信じている。
それは酷く盲目的な様だ。酷く独善的な様だった。
この世で正しいものはひとつだけ。それは法である、という排他的な思想。警察とはそれに従うものであるという圧倒的な従順さ。
それがこの男を構成するほとんど全てだ。
全く全て、ではなく。


瞳に浮かぶのは暴力への高揚ではない。単に苛立ち。誇りを傷つけられたことへの厭悪。

「お前のような人間を」
「一時でも警察仲間だと思った俺が、馬鹿だったよ。」

そこからは。
肉を撲つ音。
骨の軋む音。
貴方に器具を握らせる声。
共同作業・・・・だ。自らの爪を剥がさせたり。
それでも貴方は笑っていただろうか。
血と汗と涙に塗れても笑っていただろうか。

少なくとも、きっと。
男はきっと、笑っていたんだろう。
(-78) 2023/09/28(Thu) 10:13:19

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

口元が“N”の形を作った
────お前たちは違うNotte siete diversi.
それはこれまでも繰り返されてきて、これからも繰り返される否定。


しかし、その唇から音が発されることはなかった。
絡め取るように回される腕。それから柔らかい感触。
しまった、と思った時にはもう遅い。内側の粘膜にまで触れられ​、それが口付けであると遅れて知る。
勝ち誇ったようなターコイズが近くで細まった。のを、見て。


男は、

その首を絞めた。



何よりもまず嫌悪。背筋から項までが総毛立つような不快感。その次に焦り。何かが仕込まれてやしないか・・・・・・・・・・・・・という恐怖。油断した。まずかった。マフィアとはそういう生き物だ・・・・・・・・・・・・・・
舌に噛み付くなんてそれなりの高等技術は思考に及ばない。まず飛び出すのは手。片手で貴方の首を押さえつけて絞めあげ無理矢理引き剥がそうとする。これは男の腕力だ。通常なら負けることはないだろうが。
(-80) 2023/09/28(Thu) 10:56:12

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

「っ、!」

口内を堪能するような時間は与えられず、女の細い首はその手に捕えられて。再びこの地に縫い付けられる。
ギリ、と締め上げられて。首に回していた腕で、あなたの片腕を握って離させようとする。
女の腕力だ、敵いっこない。

この口付けは、咄嗟に思い付いたものだ。
故に、何かを仕込む余裕などなかったのだが。あなたを疑心暗鬼にさせたならそれで十分仕事を果たせたと言える。


打って変わって、あなたの下の彼女は苦しげに顔を歪ませている。
結局のところは引き剥がせなかったわけだから、形勢逆転とまではいかなかった。
(-81) 2023/09/28(Thu) 11:21:47

【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ

その名前にも男が揺れることはない。
信じている。警察を、正義を、善性を、彼のマフィアへの嫌悪を信じている。

信じているのだ。純粋に。この行為が真実正しいものであると信じている。
だから止まらない。止まらなかった。

刃の冷たさを内側に感じたはずだ。
ついで熱の感覚に近い痛みが襲う。
それは男が貴方に与えるもののはずだった。
緊張した身体に油断していた。緊張しているからこそ、抵抗はぎこちなくなるものだと思い込んでいたのだ。

(-82) 2023/09/28(Thu) 11:22:20

【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ

どん。
衝撃を感じたのはこちら。
反射的に視線をやればかち合った。きっと貴方の瞳は激しく反抗に燃えて、それを裏付けるように歯を剥き出しにする。それで怯んだとは言いたくないが、見た事のない表情に一瞬動きが止まった。
がち。
骨と歯がぶつかる音。昨日も聞いた音・・・・・・・
まずい、と思ったのはそれも反射だ。

髪を掴んだ左手を引き倒すように横に振った。
薬を飲んでいるとはいえ負荷がかかる。親指の軋む痛みに顔を顰めたが構わない。右まで奪われるのはまずい。
そうしてその抵抗が叶うなら。
貴方は男ごと床に倒れ込むことになるはず。急激に揺らされた頭はくらりと遠のくはず。隙ができるならばそのまま、動きを封じるように腕を固めようとするが。
(-83) 2023/09/28(Thu) 11:22:29

【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡

「違う」

何が? 以前もこうなった。


「違う!」

ならば否定しなければならない。
堂々と。理路整然と、正しく。これは正義なのだから。


「如何なる手段を持ってしても聞き出せと命令だ」

吠える。
自分の頭で考えた、わけではない。


「したくてしているわけじゃない」

吠える。その嘲笑を掻き消したい。
どうあれ事実は事実であるのに。


「大体」「お前たちが」
お前たちが何もしなければ・・・・・・・・・・・・
こんなことにはならなかった・・・・・・・・・・・・・!」


吠える犬は噛まないBarking dogs seldom bite.。ならこの男は犬以下である。
貴方の口に手が伸びた。せせら笑う舌に向かって。閉じないなら引き掴んでやると。

他責の正義。
調和でも融和でもない排除の正義。
白と黒の黒を徹底的に焼き尽くす愚直な暴力。
男の手の中にあるのはどこまで行ってもそれだけだ。
(-84) 2023/09/28(Thu) 11:59:27

【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ

「どんな命令があったって
 誰の命令だって
 "いかなる手段も"合法になるわけねェだろ!
 法律ってのはそういうもんじゃねエんだよ、
 それが通るならマフィアだって必要悪とか言えちゃうだろ。
 そういうバカな言い訳を封じるためのモンが法律だろうが」

げらげらとした笑い声はますます大きく、
煽るように高鳴るばかり。

「何をしてどうなったかちゃんと言えよおめェ!
 ほんとにわかってやって──」

伸びた手を避けることも無く、ぐにり、と筋肉の束をひっつかまれて。

「……へ、へ、へ。」

舌を掴まれても笑えるぞ、と。
口の端をぐにい、とゆがめた。
(-85) 2023/09/28(Thu) 12:08:51

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

ぐらん、と。
貴方の頭が傾ぐのが見えた。見えただけ。
避けるに間に合わぬ近い距離。ごん、鈍い音と共に脳が揺れる。

「ッ​────」

勢いはそうなかったはずだが頭骨は硬い。それは怯ませるには、かつ貴方の反撃の意志を伝えるには充分なものだった。
次いで蹴飛ばす足も入る・・。ずぐ、と男の硬い肉を、貴方は膝か脛かに感じたはずだ。しかしだからこそわかるだろう。
命中したわけではない。


男は目が良かった・・・・
外している時の方が良い・・のだ。だから、反応が遅れることもなかった。完全な一撃として食らう直前、距離を取って避ける。

チ、と舌打ちが聞こえた。
一転、表情に不機嫌の影が差す。
(-88) 2023/09/28(Thu) 13:40:14

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

くそ・・女、とは言わなかった。
それなりの自制、それなりの理性、それなりの当然の善性は、男にもあった。
この時は、まだ。


焦りで鼓動が逸る。それで思考が鈍くなり、貴方の首を押し付けるようにする力ばかり強くなる。はっと下を見れば酷く歪んだ顔があって、男はそれにも動揺した。動揺した自分に、それを催させた貴方にまた苛立ちが募った。
舌打ちがひとつ飛ぶ。ままならない思考とこの行為に対して。伴って男は貴方の上から退き、同時にその半身を蹴り飛ばした。
八つ当たりだ。

貴方の身体が再び砂利を擦って転がるだろう。壁にでもぶち当たればどこかしらが切れるかもしれない。しかしむしろそれを利用して、距離をとって立ち上がろうとすることは不可能ではない。かもしれない。
(-95) 2023/09/28(Thu) 14:48:28

【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡

「マフィアが必要悪なわけがあるか」
お前たち・・・・が必要悪なわけがあるか」


へらへらと笑う表情が嫌いだ。
楽しげに全て奪ったお前たちが嫌いだ。
それは骨の髄に染み付いた偏見からくる嫌悪だ。


「​────アルバ・・・を亡くしたのはお前たちだろうが!」


笑う度にかかる息が、挟んだ指の間で震える濡れた肉が、自分と同じ温度が、不快だ。
見縊って笑う横面に拳を叩き込みにかかる。憤怒の衝動にかまけた渾身の一撃。成功すれば貴方は音を立てて転がってくれるか。その体躯に対しこの力ではまだ足りないか。少なくとも舌を噛むくらいはするだろう。

「黄昏抗争で何人が死んだ」
「アルバからの提案がなければ更に何人殺した?」
「お前たちの切った舵で警察との関係は悪化した」
「そうじゃなきゃこんな法案が施行される必要もなかっただろうなあ!」


椅子を立ち上がって回り込むのすら面倒で押し除ける。ぎぎぃ、摩擦で軋むような音が鳴った。
────イレネオ・デ・マリアは、
ノッテファミリー・・・・・・・・
が嫌いだ。
(-98) 2023/09/28(Thu) 17:19:17

【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ

がじゃあん、と派手な音をたてて椅子ごと床に転がり、倒れる。
ぺ、と吐き出した唾には赤いものが混じっていて、舌か何かを切ったようだ──だが。

「……げほ。……はぁ?」

そんな痛みや衝撃よりも、きょとん、とした顔。

「アルバってお前…ジジイの代の話だろ。
 確かアルバの残党はノッテが吸収したらしいが、
 知らんよそんなの」
「つうか、あれなの?
 アルバならよかった・・・・・・・・・なんて、完全に『マフィアでもやってることによっちゃ必要悪』って話だろ。
 それは」
「……当時のアルバとノッテのやってることの違い、分かってる?
 時代背景との相関性とか〜……」

うーん、と考えるように転んだままで目をさ迷わせて。

「いや、そういうこっちゃないか。
 黄昏抗争なんて今時、学校で習うのか?
 それともネット・サーフィンしてて見つけたのか。
 お前あれだな。そんなに叩いていいモノが欲しかったんだなあ。そんなに殴っていいものが欲しかったのか。
 それは昔から? ママにしつけられたからか? 学生時代は殴るモノがなくてベッドの中でシコるくらいしか暴力衝動を発散できなかったのか?
 じゃ〜〜お前、俺に感謝すべきじゃねえのか。
 
法案通してやった
んだから」

わはは、と。血が混じった声で、笑った。
(-99) 2023/09/28(Thu) 17:51:51

【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡

そうだよ・・・・
「ジジイの代の話だ」「俺の爺さんはアルバのソルジャーだった」
アルバこそ必要悪だったアルバなら上手くやってた
ノッテお前たちがバランスを崩した!」


不自然なまでの怒りで声は震えていた。嘲りに、侮りに、謗りに返す言葉は既になく、ただ貴方を黙らせようとするだけ。どうにかして抑えつけようとして、それが出来ずに手段だった暴力が目的化していく。起き上がらないのをいいことに胸元を蹴りつける。反撃がなされないのをいいことに腹を踏み付ける。足りない。
足りない。


秘密というほど隠す意思があるわけではない。
正体というほど裏表があるわけではない。
それでも、男の中にそう呼べるものがあるなら、そこだった。

50年の昔、この国に存在したもうひとつのマフィア。
アルバファミリーの忠犬。
その末裔。


足りない、と踏み込んだ足とともに言葉は吐き出されたのかもしれない。それなら一層、その声は大きく届いたはずだ。
肩で息をした男はそれを聞いて一際大きく吸い込み、唸るような問いを呼気に乗せる。

「法案だと?」
「裏切ったのか? お前」「ノッテ身内を?」
マフィアを名乗っておいて・・・・・・・・・・・・?」

「風上にも置けない……」
(-107) 2023/09/28(Thu) 20:18:20

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

貴方が距離を取ったのが見える。
頭突きのせいで此方まで脳が揺れたが、誤差だ。

「っつぅ…浅かったか。」

息を切らしながら身を起こして
袖で唇を拭う。

「薬で動けないからって好き勝手にしやがって……
これは立派な犯罪だぞ。分かってんのか?
躍起になって検挙しようとしているマフィアと変わらねえ。
いい加減に無意味だって気付けよ。」

如何に薬そのものがシンプルで副作用がないものだとしても
個人の体に掛かる負担は別問題だ。

少しは落ち着いたが、くらくらするのは変わりない。
しかしこれ以上手を出せば、
今度は抵抗するという意思を見せるだろう。
(-111) 2023/09/28(Thu) 20:49:50

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



別に、名を出したのは揺れることに期待した訳じゃあない。
ただ少し、思うことがあったからこそ告げただけ。
その意図が伝わらないなら結局、そこまでなんだ。

だから、
止まらないというのはまぁ──やはり予想通りの事だった。

刃の冷たさを内に感じた時、
僅かにも跳ねるように震えたのは嘘じゃない。

それもきっと、抵抗への油断を誘うもので。


(-112) 2023/09/28(Thu) 20:55:47

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



人間の歯というのはそれなりに武器になるらしい。
加減もなく噛み付けば、歯が骨にぶつかる音が脳に響く。

しかし、それもほんの一瞬のこと──にするはずだった。
何も噛み切ろうという訳ではないのだ、この男は。
ただ、今の行為を止められるならそれで、良かった。

次の思考をするよりも早く、脳がぐらりと揺らされる。
男のは小さな呻きとともに君の腕から離れ、
今度は抵抗もなく、抵抗する間もなく君ごと床に倒れ込む。

男は、脳が揺れた事は勿論、
倒れた衝撃で右手に走る痛みにまた僅かに呻きを零す。

それは明確な隙だ、
腕を固めることなど容易すぎる隙だった。

痛みには、慣れている。
我慢することなら、いくらだって出来る。

だとして、それが痛くはないという話にはならない。
苦痛に顔を歪める代わりに男が零したのは──。


「………………………ははッ」
 
(-113) 2023/09/28(Thu) 20:56:49

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

首がギリギリと、強く強く締め上げられる。
息が出来ない。視界が歪んで、腕を剥がそうと掴む手から力が抜けそうになるのを何とか気力で堪える。
舌打ち一つ、耳に入ったかと思えば。
空気が入り込んでくる。気道が塞がれ続けていたせいで、異物が入ってくるような感覚に咳き込んで。

ガッ!!


それも長くは、許されない。
蹴り飛ばされた体は、砂利の散らばる石畳を勢いづけて転がっていく。
尖った石が肌を傷つけ、白い肌に小さな赤い花を咲かせる。

壁に背中をぶつけ、今度は身体を丸め大きく咳き込んだ。
痛みと、苦しみとで表情は歪んだまま。
あなたの方に、顔を向ける。

「っ、けほ……は、……」

苛立ちを見せるあなたに、女が笑みを浮かべてみせたようにみえたかもしれない。
(-117) 2023/09/28(Thu) 21:50:08

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

「犯罪者がまともぶる・・なよ。」

たたん。靴底の音。

「躍起にならざるを得ないだろう。何度同じ説明をさせる。」

たたん。苛立ちの音。

「強引にでもしなければ後手に回る。」
「お前たちは嘘と隠し事だけは上手いからな。」

たたん。たん。
鳴らしながら貴方の様子を伺う。ふらついている。警戒している。
けれど難しい相手ではないな、と思った。それは半分事実であって、半分は状況も含めての侮りだ。
息を吐く。溜息のようだったろう。貴方への哀れみだ。

「自白剤がなかったのは不運でしたね。」
「続けます。座ってください。」

取った距離を一歩で詰めて、足首目掛けて蹴りが飛ぶ。
(-122) 2023/09/28(Thu) 22:13:47

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「犯罪者はお前だろ、イレネオ。
一体何人をそうやって問い詰めて拷問して来た。」

靴底の鳴る音が聞こえる。

「お前らが正しく尋問していれば
何度も説明する事なんてないんだよ。一度で済むかもな。」

ああ、苛立っている。

「一理はあるが、正論とはとても言えねえよ。
自白剤や拷問で引き出した言葉なんて、それこそ嘘だ。」

違うか?と笑う。

此方も、貴方の様子を伺っていた。
警察に属する以上、最低限の体術は身に着けている。
主に護身用ではあるけれど。

足首を狙った蹴りは
数歩後ろへ下がる事で位置をずらして避けるだろう。
これ以上貴方が手を出すならば、反撃の構えをしながら。

「拷問に付き合う趣味はねえよ。
話す事もねえけどな。」
(-125) 2023/09/28(Thu) 22:38:42

【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ

何度も殴りつけられながら、哄笑がやむことはない。
いや、殴りつけられれば途切れ咳き込むが、
それが収まるたびにまた吹き上がる。
押さえても抑えても溢れる泉のように、
沸騰し沸き立つ泡のように、
ぼこぼこと音を立てて。

「やっぱお前、マフィア向きだな」
「うまくやってけるぜ、なあ」

──にぃ、と笑い。

「ただ、お前の爺さんはダメ・・だな」
「あの抗争で死んでねぇし、
 ノッテに迎えいれられてもねえんだろ?」

    そりゃあどういうことだ、と。

「じゃあ、そのジジイは
最後まで戦わなかった
んだな。
 そしてその後戦うこともせず、
 ノッテの陰口を孫に吹き込み、家族と自慰オナニーするしかなかった、

 お前のジジイは情けねえ落ちこぼれだな!!
 お前が見返してやれよ、なあ!」
(-129) 2023/09/28(Thu) 22:48:52

【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ

そこで止めるべきだった止めてもよかった
制圧したいだけならそれでいいはずだった。
貴方が知っているこの男はそういう男だったはずだ。

間接に負荷がかかる。可動域とは真逆に向けて体重をかけられる。当然苦痛の伴うそれは、貴方の喉から呻き声を漏らさせもするだろう。

めり。


なまじ真っ直ぐに硬い部位ではないがために一撃でとはいかず、逃げないのであれば貴方はそれなりの時間苦痛に呻くことになる。ゆっくり、ゆっくりと断裂していく感触が伝わったかもしれない。

めり。り。


男は声を発さない。ただまだ少し荒いままの息を繰り返して、煮えた瞳で貴方を見つめている。
貴方を屈服させることだけを一意に考えている。やはりこんな仕事には向いていないことが明らかだ。

めり。 めり、
めき。


それでも。
それでもなお抵抗しないなら、いつかその腕も自然な反発すらなくすはずだ。だらりと左腕が垂れ下がれば、男はようやく安心したように息を吐いた。
(-144) 2023/09/29(Fri) 0:47:24

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

再び踏みつけにしようとした足はそのまま地に降ろされ土を蹴った。それは子どもの癇癪じみた仕草だった。
二度もあんな気色の悪い声を聴かされるのはごめんだ。

けれど男は子どもではないから、続く動作には悪意が込められて遊び・・がない。

裏路地の砂ぼこりが巻き上げられてぱらぱらと貴方の顔やら身体に降り注いだろう。荒く息をした口にも僅かに入り込んだかもしれない。浅い青の瞳に触れそうで咄嗟に瞑ったかもしれない。
男はその隙を狙う。

ざり。体重の位置を僅かに変える音。そのすぐ後。

丸まった腹を目掛けて蹴りが飛んだ。上手くいけば薄い腹に深く入るはずで。
加えて再び弾かれた身体はまり・・のように弾むはず。

「盛ったか?」
「何か。」

この国じゃサッカーは人気のスポーツだ。
蹴飛ばす以外に同じところはなく、全く愉快にはなれなかった。
(-146) 2023/09/29(Fri) 1:10:45

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

よくよく素直な男だった。分かりやすい男だ。
犯罪者と声をかけられればあからさまに表情を変えたろう。顔を顰める。眉間に皺が寄る。

「拷問じゃない。」
「仕事です。」

詭弁だ。
物分かりが悪い人間の相手をしている。そういう億劫さでやれやれと首を振る。蹴りが避けられればまた口の端を引き攣らせた。たたん。落ちた靴底が音を鳴らす。

ガードが邪魔だ。
ならばそこを砕こうか。
次には左腕が貴方の腕を上から、同時に右膝は下から。上下方向からの勢いで骨に衝撃を食わせようと。

抵抗せずともこの暴力が止むことはなく、
抵抗すればなお止むことはない。
障害があれば人は乗り越えようとするもので、
男は殊更、そういう時に周りが見えなくなるたちだった。
目的がずれていく。
(-149) 2023/09/29(Fri) 1:29:08

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「よく言うぜ。」

顔を顰めて
それでも仕事だと言い切る貴方。
男は今度は避けなかった。

貴方の左腕と右膝が、利き腕である右腕を捉える。
ミシ、と嫌な音を立てたのに呻き声を漏らしながら
けれどこの状態ならば、貴方は避けられまい。

「これのどこが、拷問じゃないって言うんだ?」

相手の腕をへし折ろうとするその行動。
どう見たって、尋問の仕事ではないだろう、と。

目を覚ませ、と言わんばかりに
貴方の頬へ、左手の拳を振るうだろう。
(-152) 2023/09/29(Fri) 1:53:13

【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡

がちん。

それは男が自分の歯を打ち鳴らした音。噛み締めるだけでは足りずに、威嚇でもするように強く噛み合わせた音だ。
音を立てて沸騰するのは貴方の笑いだけではない。高温でぐらぐらと煮立っているのはこれもそうだった。比にならない怒り。不快や不愉快では片付かない圧倒的な憤怒。激情。心火が理性を薪にして燃え上がる。

ばきん。


横面を蹴飛ばした。
貴方が避けないなら、の話。


だん。


心臓の上を踏みにじる。
それも避けないなら、の話。


衝動的に、酷く冷静に、机の上に放ったペンを引っ掴んだ。
それも邪魔されないなら、の話だ。


「爺さんはな」「逃げてない」
「お前たちに愛想を尽かしたんだよ」

長身が遮る室内灯。
逆光の中でも歪んだ表情はよく見える。
貴方が結局そのままでいるのなら、男はそのまま馬乗りに体重を掛けるのだ。ウェイトではそちらに分があるのだから、この行動はやはり賢いとは言えない。
(-154) 2023/09/29(Fri) 1:54:48

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

げほ、げほ、と咳き込んでいれば。
少しだけの間を置いて、砂埃が女を襲う。
口の中がざらつき、目に入らぬよう瞑った目を両腕でかばって。
あなたの思惑通り、大きな隙が出来る。

が、っ!
う……ぐぇ……っ」

靴先が、女の腹に突き刺さる。
一瞬浮いた体は、もう一度壁に思い切りぶつけられて。
再び地に落ちた。まるでボールのような扱いだ。
膝で圧迫されていた時とは比べ物にならないくらい、抉るような衝撃が内臓を襲って。
その場に胃の中のものが吐き出される。
つんとした匂いが鼻を刺激して、口の中がきもちわるい。

その衝撃で、ポケットから
注射器
が転がり落ちる。
中身こそ空になっているが、使用された形跡のあるもの。
疑心暗鬼になっているあなたは、これをどう取るだろうか。

「っ、ぐ……あ、は」
「どう、おも、う?」

青い顔で、しかし。
負けるわけには、いかなかったものだから。
(-157) 2023/09/29(Fri) 2:05:05

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



「………ぅ、ぐ………は…はは…………ッ」

止まることなく感じる負荷に、やはり笑いは途絶えない。
呻きもあれど、この取調室に響く声は
そちら
が多めだ。

「あは…、………は、ぁッ…………は、」

まずは、ずり、と床に顔を擦ろうが、
男は君に顔を見せぬよう煮えた瞳から視線を逸らす。

「な、ぁ……イレ…ネオ……………君、たのし……かぁ?」

そうして、声を発さぬ君とは反対に、問う。
問いかける。既に制圧は完了しているはずの人間に、
こう
することは楽しいのかと問うている。

「いや、…な、に………つい、口が滑って、な……ァ、」

痛みに藻掻くように指先を跳ねさせながらも語り続け、

「わる………か、…………ふ、……はぁ、はッ」

荒い呼吸で体を上下させながら、
抵抗もなく、その行いを
受け入れ続けた


(-160) 2023/09/29(Fri) 2:26:40

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



「…………
゛」


日常ではあまり聞かない音とともに漏れた声は、
より一層強く跳ねた指先とともに静かさを君に届けるが…。

それでも尚、「ふ、」と笑う声が聞こえるのだから
君は、この男がまだ落ちていないのだと理解出来る。

痛みには、慣れている。
だけどやっぱり、痛みがない訳ではない。

叫びそうになった声は口内に広がる血とともに飲み込んで、
長い苦痛で生理的に零れかけた涙は、
逸らした視線のまま目を閉じることでせき止めた。

だからきっと、安心するように
吐かれた息はより強く感じられたのだろう。
(-161) 2023/09/29(Fri) 2:30:47

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

押し問答だ。
貴方は正しい。けれど男は肯わない。
その言葉をあくまで否定する。男にとって、これは正義の行いだった。

正当な手続きを踏んでいる・・・・・・・・・・・・。」

その通り、踏んでいる。
机の上の書類こそその証拠。貴方の名前とその嫌疑、何をもってしても自供させよと令の刻まれたその紙面。
これは男の勝手な判断ではなく、
趣味や高揚を得る手段でもなく、
飼い主に下賜された仕事だった。

男の骨の抵抗。それがぐいと引き攣って僅かに薄れる感触。治る傷だ・・・・問題ない・・・・
けれど、だからこそほぼ同時。ほんの少しだけの時差での攻撃は避けきれず。
右頬に攻撃を食らえばぐるん! と顔が横向いた。ぐら、と視界が揺れてたたらを踏んだ。追撃がないのならそれは運よく踏み込みに変わるだろうか。必然的に低い姿勢、下から顎を狙って肘を振り上げる。命中すれば、そちらの視界もまっすぐなままではいられない。
(-162) 2023/09/29(Fri) 2:37:59

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

びちゃ。

きっとそういう音。濡れた音が地面に散った。
同時にすえた臭いが立ち上り、男は厭うように距離を取ったろう。誰だって汚物で衣服が汚れるのは嫌だ。

────それでもきっと、
ここにいたのが貴方ではなく一般市民であれば、
迷いなく助け起こそうとしたはずだ。


潰れた蛙のような声を上げて身を震わせる貴方を、視線で見下して男は眺めていた。
月色の目を丸くして見ていた。そうしてひとつ、静かに息を吐いた。ぱち、ぱち。瞬きは油断の合図であり、転換の印。

一度目の暗転の後、瞳はまだ貴方を見ていた。
二度目の明転の後、瞳は転がる注射器に向いた。

男が手を伸ばす。貴方が奪い取らないのであればそれを拾い上げるだろう。しゃがみこんで、針先を見つめて。

「使ったのか?」

誰に、と言わなかった。
むしろそれは、自分ではないと確信した落ち着きだ。
逸っていた鼓動は今は収まっている。体温の上昇や低下、発汗等もない。それに針を刺された感覚はなかったし、液状なら──思い出したくもないが──口づけで仕込むのも不可能だろう。
だからこそ。
だからこそ問う。

無辜の民を犠牲にしたかと問う。答えの見えた問いだ。
見えているから、畳みかけて問い質す準備は出来ている。
(-163) 2023/09/29(Fri) 2:55:48

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「だったらその飼い主がクソって、事だな…っぐ…
この場合は、署長代理殿か?」

腕が軋む。
骨が、筋が圧迫で押しつぶされ、嫌な音がした。
同時に拳で感じる、確かな感触。

「あ、がッ…!」

そして次の瞬間には、貴方の肘が顎を撃ち抜いて
自分の脳が揺らされていた。

同じように、たたらを踏んで
一歩、二歩と下がり、首を横に振る。
お互いにほんの僅かな隙となる、かもしれない。

「そんなくそ野郎に従ってたら
お前だけじゃねえ。家族も大事な奴も何もかも。
全て地の底へと落とされることになるぞ。」

言葉を紡ぎながら
次の一手へと構える。

顎を打ち据えた貴方の肘を狙って、蹴りを一つ見舞おうと。
足を振り上げた。
(-164) 2023/09/29(Fri) 2:56:57

【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ

楽しいか、と問うたなら。
かかる力は強くなったことだろう。それは男にとって侮辱だった。
暴力を好む野蛮人。そう評されることを、男は好まない。
だから一層静かになった。
淡々と、粛々と、機械のように。貴方の身体を、悪いとも思わず痛めつけて。

そうして一際大きくなった声に嘆息した後、
男は、その頭に手を伸ばした。

金糸の髪に指を通す。
その下の頭皮に指を添わせる。無理矢理こちらを向けと首を回させる。
青い瞳は未だ閉じているだろうか。
閉じているならそれを無理矢理開かせることはしなかった。
男は自身の欲求を知覚していない。

浅い金色。月の色に似た瞳が、やや遠巻いて貴方のかんばせを眺めてから。

「楽しいわけがないでしょう。」

さて。
そう言った男は、どんな顔をしていただろう。
(-165) 2023/09/29(Fri) 3:10:21

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



意識を落としてしまえたなら、楽だったんだろう。
しかしそうならないからまだ続く。
しかし抵抗する気力もないほどに、弱っているのは確かだ。


目を閉じ、顔を逸らす男では伸ばされる手に気付けない。
最も気付いていたとしてもその手を避けることはなかった。
君の指先が己の髪に触れ、頭皮を添い、
君に与えるのは、熱や苦痛による汗ばんだその感触で。

無理やりに向かされるその行いまでを感じてから
閉じていた海にも似た翠眼を僅かに開いて。

「………そうか」

たった一言。どんな表情であれその一言だけを返し、
汗に濡れる額を、張り付いた髪を、火照る頬を、
涙の滲む瞳を、唾液に濡れた唇を君に向け、
小さく吐息を零しながら緩やかに、微笑んでみせるのだ。

苦痛に歪む顔など、そこにはない。
ただぼんやりと両手が自由でない不便さと、
君の表情についてだけを考えている。

そうして再び、どこか気怠そうにも見える緩慢さで
もう一度、翠を閉じていこうとする。

ここに君が望む答えはない。
あるのは無駄な時間と、意味のない暴力だけだ。
答えられることなど何もない男は、ただ、笑っている。
(-171) 2023/09/29(Fri) 7:20:03

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

暫く、まともに声を出すことすら叶わないだろう。
身を丸めて、痛みを逃すのに精一杯で。

転がった注射器を拾う手を、止めることは出来なかった。
中身は空であるし、仮に女の体を調べたところで元の液体を持ち歩いているわけでない。それが何であるかまではここではわからないだろうが。

「……どう、かしら…使ったか、どうかくらい……見れば、わかるでしょ」

時間稼ぎにもなるか怪しい返答だ。
使用されていること自体は明白だから、否定する意味もない。
痛みを堪えながら、片手を身につけておきあがろうとしている。
もう片方の手は腹にあてて。ぐ、と力を入れる。
動きは緩慢で、簡単に妨害できてしまうだろう。
(-175) 2023/09/29(Fri) 8:45:36

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

深く息をする。心拍を落ち着けようと試みる。
早く鳴るのは身体を動かしたからでもあった。刷り込まれた暴力、肌に感じる肉の感触でアドレナリンが分泌される。それから、やはり、怒り。
好んで従う者をこき下ろされたことへの怒りだ。瞳の温度がかっと上がった。

「くそ野郎はどっちだ」
「随分口汚くなりましたね」

貴方の言葉を男は一向に受け入れない。悪人の愚弄に乗らない。犯罪者の口車に乗らない。そんなものでは動揺しない。だって、法に従っているのはこちらだ。
言葉と共にゆるやかに落ちた視線が貴方の背後を浚う。机の位置を確認してそれを使おう・・・とした思考は、きっと隙になった。

力を込めていなければガードにはならない。
攻撃後に緩めていた腕が蹴りを食らってそのまましなる。身体から離れていた分遠心力は強く、後ろ向きの動きに前進気勢を僅か削がれる。
舌打ち。また舌打ちだ。ガラの悪いのはこちらも同じ。徐々に苛立ちは募る。

どうすれば止まるだろうか。
あの口もうるさいな・・・・・・・・・
テーブルの縁の部分。あそこに叩きつければ止まるだろうか。思考と共にまた足を払いにかかった。
(-187) 2023/09/29(Fri) 12:44:55

【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ

開いて閉じかける双の眼。一部始終を見届けて、男はふんと鼻を鳴らした。
それは酷く従順な様だ。
そうして男にとってはつまらない様だった。


ぐん。既に傷んだ・・・腕を強く引く。折れた箇所が更に引きちぎられて周囲さえも傷つけただろうが、そんなこと男にとってはどうでもいいことだった。
抵抗しない貴方を引きずり上げるように椅子に座らせようとする。一度。二度。貴方がそれでもずり落ちるなら、ようやく諦めて手を離すだろう。それだって当然丁寧なものではないから、貴方は力の入らない腕を床に叩きつけることになるはずで。

その痛みに悶えている間に。
男は何かを取りに壁際に寄った。金属製のものが仕切り板に擦れる軽い音。顔を上げても背に隠れて見えないが────さて。器具を使う拷問と言えば、最もわかりやすいものがひとつ、脳裏を過ったかもしれない。
(-189) 2023/09/29(Fri) 13:02:06

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

肘の辺り目掛けてふるった。注射器を掴んだ手だった。立ち上がる仕草を妨害する。
というよりは、嬲りに偏ったような動作だ。

当たり所が悪ければ関節が非可動域に曲がり込んだかもしれない。或いは、使用済みの注射器の針が刺さったかもしれない。単にバランスを崩して、再び地面に顔から叩きつけられただけだったかもしれない。

血液の匂いはここにない。
ここにいるのは血に飢えた狂犬ではない。

「人を殺しておいてその態度か?」
「心が痛まないのか? これだからノッテマフィアってのは嫌なんだ。」

決めつけ。マフィアとはそういう生き物だ。
しかし今回はひとつだけ当たっている。貴方が人を殺したということ。

「黒眼鏡の命令か?」

問いながら自分の携帯を取り出す。
逃げない内に応援の要請。それから被害者の捜索が急務だ。相手をねじ伏せて少し落ち着いた頭は冷静な判断をしようとし、しかしそれは隙にもなる。
(-190) 2023/09/29(Fri) 13:19:31

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「少なくとも俺はくそ野郎に成り下がった覚えはねえな。
それと、この口は元からだ。」

元々口が良い方ではない。
警察官だからある程度の体裁で、直しているだけで。
だから此方が、この男の素であり
今まで隠してきた、獣の部分なのだ。

男は犬は犬でも、狂った狼だ。
例え貴方が法の下で、男と同じ法の執行を目指していても
それが従うべきものでないと判断すれば。

容赦なく噛み付き、食い殺す事を厭わない。


蹴った後の体勢を戻していれば
足払いが飛んできて、避けることは適わないだろう。

けれど足を払われながら
体勢だけは崩しきらないように体を捻る。
貴方の次の一撃に対応出来るように。
(-192) 2023/09/29(Fri) 16:28:42

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

「っ、う…、!」

注射器の針を避けるような動きをしたばかりに、下手にその拳を受け止める形になる。ゴキ、と嫌な音がしたのち。ぶらんと力が抜けたように垂れ下がる。

全身の痛みに、意識が持っていかれそうで。
気力でもって、なんとか耐えている形。
まだ、立っている。

「っ、…はぁ……先に、不義理を働いたのは…彼の方、よ」

口の中の異物を胃液と唾液に混ぜて、地の吐瀉物へ垂らすように吐き出し。
息を整える。痛みに意識を向けないように。

「違うわ。私の、独断よ」

たまたま火遊びの相手が、ファミリーに害を生した男だったというだけ。
ここに誰の命令も介在しない。この殺しだけは、自分だけの責任だ。

話していれば、あなたが携帯を取り出したものだから。勘がまずい、とでも告げたのか。
強く地面を蹴って、諸共地面に叩きつけられるよう飛びかかる。
携帯を取り落としてしまえばいい、と。不意をつく形で。
ここで捕まるわけには、いかないのだ。
(-196) 2023/09/29(Fri) 17:23:04

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



まるで子供のようだと頭に過ぎったのは、
目を閉じるよりも前のこと。
そして次に考えたのは、
目を閉じたのは
失敗
だったということだ。

「ッ……あ、ぐ…………………」

強く引かれ、己の関節から嫌な音がまた響く。
無理やりに半身起きた体はそのまま引きずり上げられて、
呻く男の表情は先よりも余裕を失っているのが見えるだろう。
少し離れた位置にある椅子は
随分と遠くにあるよう感じられる。


「君、な………ッ」

最早言葉はないこの空間で、何が取調だと言うのか。
色々と言ってやりたい気持ちは山々だが、
無理やりにも椅子に座らせようとする君に着いて歩くのだ。
覚束ない足を動かすのにそれなりに必死になっていた。

だから。──
ガシャン!

と、椅子を蹴り飛ばしてしまうのも仕方のないこと。

そこで君が手を離してくれるのなら有難い話だが、
勿論、君が支えのようになっている今に離れてしまえば
体が、腕が床に叩きつけられることは目に見えていた。

(-225) 2023/09/29(Fri) 21:05:30

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



…あるいは、もう一度座らせることを試みるだろうか?
そうであれば今度は何とかその思惑を叶えることが叶うが、
しかし、どちらにしてもだ。

男は、君から表情を隠すように体を内側に曲げる。
きっと、自分は今、酷い顔をしているはずだから。

「…ふ、………ふ、ふッ…………」

笑いか、あるいは呻きを堪える声か。その両方か。
男の口から漏れるのはそんな音。
病院へ行き、多少眠る時間も確保したとはいえ、
かなり無理をしていた体は、鋭く痛みを訴えている。

「………………………イレネ、オ」

名を呼ぶ。

「君、……何人を、
こう
やった……?」

そして問う。
それが何であるかより、

右手を腫らした後輩の姿が脳裏に過ぎる。
そして次に過ぎるのは、


「ダニエラ君にも──何かをするつもり、か?」

男は知らない。既に一度は彼女の番が済んでいることを。
そしてそれを問うことが、自らの"隙"になるのだと。
(-226) 2023/09/29(Fri) 21:06:59

【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ

避けることも抗することもない。
がつんと肉を打つ音、骨がぶつかる音、
息が零れる音、げほ、と咳き込む音。
全てが無抵抗のまま、ただにやついた笑みが消えない。

──やってみろ、とでもいうように。

「はぁ、愛想をね。
 その程度で逃げられるんだ」

馬乗りにされたままなのに、見下ろす。
黒い瞳のひび割れた隙間から、
嘲りと怒りの炎がちろちろと漏れ出している。

「お前のジジイのやってたマフィアごっこ・・・・・・・は、
 随分お気楽・・・なんだな」

がつ。
小突くように挙げられた膝が、馬乗りになる背中を蹴った。

「オオ、だからお前もこんなにヌルいんだな」
「うちに来いよ、立派なマフィアにしてやっから。
 まずはそのくだらねえジジイのたわごとを忘れるところからだな、
 負けてグダグダ言う奴の言葉なんか聞く必要はないぜ──」

それとも、と。言葉が続く。

「──お前もジジイみたいに、ノッテから逃げ出す・・・・のが趣味なのか?」
(-238) 2023/09/29(Fri) 22:48:11

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

「っ、う…、!」

注射器の針を避けるような動きをしたばかりに、下手にその拳を受け止める形になる。ゴキ、と嫌な音がしたような気がした。
地についた肘に、強い痛み。
全身の痛みに、意識が持っていかれそうで。
気力でもって、なんとか耐えている形。立ち上がろうとした格好のまま、脂汗を浮かべている。

「っ、…はぁ……先に、不義理を働いたのは…彼の方、よ」

口の中の異物を胃液と唾液に混ぜて、地の吐瀉物へ垂らすように吐き出し。
息を整える。痛みに意識を向けないように。

「違うわ。私の、独断よ」

たまたま火遊びの相手が、ファミリーに害を生した男だったというだけ。
ここに誰の命令も介在しない。この殺しだけは、自分だけの責任だ。

話していれば、あなたが携帯を取り出したものだから。勘がまずい、とでも告げたのか。
立ち上がろうとしていた格好から強く地面を蹴って、諸共地面に叩きつけられるよう飛びかかる。
携帯を取り落としてしまえばいい、と。不意をつく形で。
痛む身体も、男女の対格差も考えない。がむしゃらに仕掛けたお粗末なものではあったけれど。

ここで捕まるわけには、いかないのだ。
(-241) 2023/09/29(Fri) 23:09:48

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

貴方の足を捉えた。
身体が崩れた。
その腕を、男は落ちる途中で取って・・・
身体の向きを変えさせた・・・・・・・・・・・

机の角に叩きつけるのは身体の前面。
自重と落下の速度で肋骨に傷を負わせようとする
成功するなら貴方は呼吸すら難しい激痛に襲われるはずで、
踏ん張れずに落ちるならさらに床でバウンドする形になる。
そうなれば当然噛み付く追い討ちで痛むはずだ。

男がこうまでするのはある意味で貴方のせい・・だ。
大人しくしていれば後遺症まで残す気はなかった。
なんて、身勝手な話。
(-252) 2023/09/30(Sat) 1:44:46

【独】 法の下に イレネオ

/*
こけない
(-253) 2023/09/30(Sat) 1:53:05

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

半端に立ち上がった姿勢では男の頭の位置も低かったはずだ。
身体ごと突進すれば胸あたり、或いは運良く顔面に入った・・・かもしれない。がつん、ともどすん、ともつかない音が大きく鳴って、男の身体がよろめいた。

けれど、それでも。重みの差というものは大きく。
そもそも筋肉量だって随分違う。よろめく以上のことは起こらず、しかし目論見通り携帯は軽い音を立てて地面を転がっていった。
男が顔を顰めたのが至近で見えたろう。鋭い犬歯が剥き出しになり、チ、と舌打ちが寄越される。
苛立ちにかっと燃える瞳は金で、温度の上昇がよく分かった。

貴方は男の胸元に埋まっているだろうか。
未だに組み付いて離さないでいるだろうか。それをラッキーだなんだと思う遊び心が男にあったなら、こんな出会い方はしなかっただろう。
生真面目で四角四面で実直な男は、貴方の両頬を両手で掴む。
けれどそれは整ったかんばせを眺めるためでも、勿論口付けのためでもない。

「動くなよ」

​────ごん。

声の直後、仕返しとばかりに硬い音と感触が響く。
額と額を打ち付ける音。貴方は上を向いていたから、首にかかった負担も大きいはずだ。
それで腕が緩むなら突き飛ばして立ち上がるだろう。じんじんとこちらの頭も痛んでいるけれど、背に腹はかえられない。転がした携帯、或いは手錠​
──今は持っていないのだが──
を探す隙を見せた。
(-255) 2023/09/30(Sat) 2:07:53

【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ

男はこの仕事が好きだった。
人を助けることが好きだった。
悪い人間から人を守れるのが好きだった。
純粋な誇りに、今は既に別のものが滲んでいる。

椅子を蹴飛ばした貴方を、男は怪訝そうな瞳で見つめた。
随分と悪そうな具合を不審に感じた。殺すつもりはない。
身体を折るその仕草だって、一応の心配を誘っただろう。
だから。
だからこそ。

男はその実際・・を見ようとする。
掴んだ手は離さないまま、もう片方で上半身を軽く押す。それは顔を見せろという合図だ。
従わないならそのまま再び床に押さえつけられることになるだろう。強制的に背を床に付けさせてしまえば、背ける以外の抵抗はできなくなる。

ぐ。押す。彼女にも先程も聞かれた問いだ。

「五人ですよ。」

ぐ。押す。彼女にも先程も明かした答えだ。

「そうですね。」

ぐ。押す。もう終わった話だ。

「それがどうかしましたか。」

さて。
顔は見えただろうか。
(-259) 2023/09/30(Sat) 2:20:59

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



保っていただけだ、不完全な仮面を被り直して。
保とうとしていただけだ、そうでなければ自らを守れない。

がくりと折った膝と曲げた体が掴む腕を離さない君と
反発し、折れた腕に相当な負担をかけていく。
離してくれた方がまだ、マシだった。

「ッ……なんだ、…そんなに、俺の、顔が……見たいかい」

照れてしまうなぁ、そんな軽口を返すものの。
あからさまに苦痛の声が混じっているのは確かだった。
動く右手で君の行いを止めようとする。
弱さを見せるのは苦手だ、笑顔で隠すのは得意だ。
だけど。
守るべき
がない分、体調が崩れている分、
守るべきものがある彼女より
脆さは出てしまう。

「う、ぁッ……は、………そう、か」

ドッ
と音を立てて背が床に付けられる。
背けた顔は、抵抗する右手は君の力に敵いそうにもない。

「……いや、何…っ、流石にそれは、許せなくてね……ッ」

なんせこちらは病人だ。ここまで保っているのが異常で。
人の内を覗こうとするなんて無遠慮だなと笑いが込み上げた。
しかしその抵抗も長くは続かない。
君に見えるのは余裕もなく、苦しげに顔を歪め、
それでも笑っていようとする弱い男ひとりの人間の姿だっただろう。
(-262) 2023/09/30(Sat) 2:56:31

【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡

小突かれれば丸めた背が更に前のめりになるだろう。
近づけた顔の位置が更に下がって、視線はずっと近くかち合った。
せせら笑う堅炭が間近に見える。嘲る漆黒が視界いっぱいに映って染めた。

「ならない」

ぐらぐらと煮える頭から考える前に声が出る。引き攣る程に震えた喉は思考より先に否定を返した。

「ならない」
「うるさい」「お前」


考える前に身体が動く。左の手が貴方の口元から鼻筋までに触れ、体重を掛けて瞼を押さえつけた。

逃げるわけがないだろう・・・・・・・・・・・
俺が・・!」


全て後手に回った理性の制止が効くはずもない。ペンを武器に握りしめた拳がついに振り上げられた。

にやついた笑みがずっと気に食わない。
見え隠れする怒りはもっと気に食わない。
お前に怒る権利なんてない・・・・・・・・・・・・

平常に戻れとどこかが言った。
これが戻れるかと言い返す声の方が強かった。
振り下ろすのは黒の中心。
貴方の左の瞳に目掛けて。
命中せずともこれだけの勢い。それなりの痛みは伴うはずだ。

薄着の女よりも何よりも、
貴方の笑顔と言葉の方がこの男には効く・・
(-263) 2023/09/30(Sat) 3:41:15

【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ

絶え絶えの息に気を惹かれる・・・・
様子を確認するだけ、それ以外の何かが男の瞳で閃く。

ぐ。幾度目かの力比べの結果は見えていた。力尽きるように倒れた貴方の腕から男はようやく手を離し、そのまま顎へと移動させる。
背けようとするのを無理矢理上向かせれば寄せた眉根の下の瞳に目が合った。
見たことのない歪み方をした貴方の表情が、男にとっては。

「ふ、」

愉快だった。

男は、貴方のことをよく知らない。
男にとっての貴方は、いつも何かよくわからないことに気を遣って、それでいて楽しそうでいる手のかからない・・・・・・・先輩だ。
だから分からない。だから興味がない。
何故彼女を気にするかなんて気にならない。

気になるのはその顔色だけだ。
それがどう移り変わるのかは、興味があった。


(-265) 2023/09/30(Sat) 4:11:38

【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ

更に、更に抑え込む。それ以上の抵抗がないように。貴方が目を逸らさないように。
それが叶ったなら、男は自らの顔を貴方の方へと寄せいって。

こつん、と。
額と額を触れ合わせた。

「許せない?」
「ダニエラのことが?」
「どうして?」

話してみろ。
聞かせてみろ。
眼前に迫った金色は、そう急かす。
(-266) 2023/09/30(Sat) 4:11:52

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

女の身体はあなたの胸元に勢いをつけてぶつかって。
あなたのことを地に伏せることは叶わなかったけれど。
カシャン、と石畳に携帯の落ちる音が耳に入る。
目論見は上手く行った。

「は、あは……これ、で……」

少しは時間稼ぎになっただろうか。
苛立ちの色を見せるあなたの顔を見て、"してやったり"といった表情を見せて。
しかしすぐに、その顔も眉を寄せ 苦痛のそれに変わっていく。
痛みが、どっと襲ってくる。
腹も、肘も、背中も喉も。痛みが、戻ってきて。
立っているのもやっとなそれらに、女は"あなたに掴まっているしかない"。
縋るように、そうしている。だから。

「っ、が……!?」


頬は容易に捕らえられる。
痛みにぼんやりとした頭が、あなたを見上げて。
強い衝撃。
ノイズが走る。
ぐら、と脳が揺れて。縋っていた腕の力が抜ける。
今度はあなたの思惑通りに、突き飛ばされる。尻もちを着く前に、なんとか踏ん張って。

もう、後は意地だった。
あなたが自分の携帯を拾いに行こうとしたのなら、無防備な尻ポケットに手を伸ばす。
彼女自身の携帯だけでも返してもらおう、とでも言わんばかりに。
ぐらりと揺れる体が、ふらふらとあなたの背後に近付いていく。

これさえあればあとは、逃げるだけなのだから。
(-267) 2023/09/30(Sat) 4:12:02

【人】 幕引きの中で イレネオ


まさに蜘蛛の子を散らすようだった。

監獄から吐き出されていく人、人、人。
早朝の白む空に照らされ、昇る朝日に祝福されるがごとく家路に着く。或いはそのまま遊びに赴き、それとも最早この地を捨てて遠くへ駆けて行こうとする面々は、疲弊しつつも各々どこか安心した顔をしていたのだろう。
これでもう終わる。悪人は討伐され、三日月島には平穏が戻るのだ。おめでとうAuguriみんなa tuttiよくやったsono contentoおめでとうAuguri
ぱんぱんと鳴るパレードの花火は拍手にも似て、奇妙にこの日を彩っていた。


しかし。
イレネオ・デ・マリアが牢を出たのは、それから随分後のこと。
日が再び落ち、また高く昇りきり、中天を過ぎた頃​────
つまり、次の日の午後のことだった。

#AbbaiareAllaLuna
(86) 2023/09/30(Sat) 4:59:01

【人】 幕引きの中で イレネオ

 
突然の展開に署内は蜂の巣をつついたようになっていた。情報は錯綜してんやわんやの大騒ぎ。電話対応にも追われ会見の準備、やれあの証拠を持ってこい、やれあれを止めさせろ。末端も末端で仕事・・に勤しんでいた男が法の失効を知らされたのは、ナルチーゾ・ノーノの緊急逮捕が幕を下ろした後のことだった。

事後処理に駆け回った署内の人間の一人が取調室に飛び込んだのは、イレネオがまさに目の前の男の爪を剥ぎ取ろうとしていた時のこと。
謂れのない責め苦に悲鳴をあげていた被疑者は、その知らせにどれだけ安心したか知れない。彼は椅子から転がり落ちるようにして伝達者の元に走り、縋り付いて涙を流したという。


対する男は、当然法の失効に反対した。
これはマフィアやその協力者を先んじて取り締まることの出来る、画期的な法案だと主張した。いつもの生真面目さ、四角四面さ、愚直さで主張した。
しかし全ては終わったことである。
その言葉はひとつも聞き入れられることがないまま​──それは皮肉にも、これまで犠牲者たちにしてきた態度と同じだ​──男は一度落ち着けと犬小屋に戻された。

それはおそらく、暴挙の限りを尽くした愚犬に対する庇護の意味合いもあったのだろう。
混乱に乗じてどんな目に遭うかわからない男を野放しにするほど、この国の警察は終わってはいなかった。


#AbbaiareAllaLuna
(87) 2023/09/30(Sat) 5:01:35

【人】 幕引きの中で イレネオ

 
まんじりともせず夜を過ごした男に沙汰が言い渡されたのは、次の日になってからのこと。


停職処分。
期限については追っての通達。



それは男にとっては重い、しかし見るものが見れば軽すぎる裁定だった。
どうしようもなく愚かで、それでも職務に懸命だった忠犬への、慈悲の意を含んだ処罰だった。

#AbbaiareAllaLuna
(88) 2023/09/30(Sat) 5:02:19
イレネオは、警察署を出た。16時を少し回っていた。 #AbbaiareAllaLuna
(a24) 2023/09/30(Sat) 5:02:39

【人】 幕引きの中で イレネオ

 
故に男は途方に暮れていた。
犬に出来ることは主人の意向に従うことだけである。
身を捧げた正義には手を離され、リードを握る者はいない。従った法は失効し、今や頼るものもない。
明るい陽射しの下に、男は憔悴しきった姿を晒した。

右を見る。牢に入る前と変わらない人並み。それは既に日常に戻りつつある。
左を見る。紙吹雪が散っていった。昨日あったらしいパレードの名残だろう。
後ろを見る。その門はいつもと変わらず、けれどこの男を追い出して閉じた。
前を見る。一般車両に紛れて通り過ぎた救急車を見て、思い出す声があった。


「バディオリは大丈夫なのか」
「彼なら病院へ」
「撃たれたのは肩だろう。命までは​────」



ざり。
靴底が舗装された道を擦る。
イレネオ・デ・マリアは知らない。
何故彼が負傷することになったか。
それでも。いや、それだからこそ。
足を向けたのは自宅ではなかった。

#AbbaiareAllaLuna
(89) 2023/09/30(Sat) 5:03:13
イレネオは、病院を訪ねた。16時を15分ほど過ぎていた。 #AbbaiareAllaLuna
(a25) 2023/09/30(Sat) 5:03:33

【秘】 幕引きの中で イレネオ → 花浅葱 エルヴィーノ

院内は清潔な空気で満ちていた。
容態は悪くないのだという。示された先の病室で、貴方は一人、未だに眠っていた。

その姿を認めた男は靴音を立てることなく・・・・・・・・・・近寄っただろう。
眠る姿をいつもの高みから見下ろす。上からではまだ遠かったので、すぐに腰あたりから折り曲げるようにして顔を寄せた。

色が白い。
けれど顔色はさほど酷くない。繋がれた点滴のおかげだろうか。
線が細い。
それでも今すぐ命を落としてしまうほどに儚くはないのだろう。
命がある。
たったそれだけの事実に、自分が酷く安心したことに気づいた。

男は更に腰を折り、頭の位置を下げる。肩口に顔を近づけたのは当然、噛み付くためではなかった。
顔を傾ければ僅かに上下する胸元が見えた。それでも足りずに手をかざせば呼吸を感じられた。未だ痕の濃い首筋に指で触れれば、生きている温度が伝わった。
しまいにくん、と鼻を鳴らして短く空気の匂いを嗅ぐ。血の匂いは僅かにもせず、ただ清潔な布の匂いと、その奥にほんの少しだけ消毒の香りの混じりを感じた。
貴方の負った傷は、遠からず治っていくのだろう。
それにようやく、心から安堵した男は上体を戻した。

#AbbaiareAllaLuna
(-268) 2023/09/30(Sat) 5:05:11

【秘】 幕引きの中で イレネオ → 花浅葱 エルヴィーノ

エルヴィーノさん・・・・・・・・。」


無骨な指がさらりと頬を撫でる。
呟いた声を聞いた者は一人もいなかったはずだ。

男は暫くの間、そのまま貴方の傍にいた。
それは飼い主の目覚めを待つ愛犬の姿のようでもあったし、やはり貴方の眠りを守る番犬のようでもあった。

#AbbaiareAllaLuna
(-269) 2023/09/30(Sat) 5:05:40
イレネオは、病院を後にした。20時の少し前のこと。 #AbbaiareAllaLuna
(a26) 2023/09/30(Sat) 5:06:11

【人】 幕引きの中で イレネオ


帰路に着く足は酷く重く、億劫だった。
元より姿勢のいいわけではない男の背が今日は更に丸く俯いている。日の暮れた暗さを心細いとは思わないが、明日から過ごさなければならない日々のことを考えれば自然気は沈んだ。

幾日の間を何もせず過ごすことになるのだろう。
どれだけの時間に耐えることになるのだろう。まるで未決囚だ。
趣味も何もない、訪ねるような友人もいない不明瞭な空白を思えば、知らずうちに溜息が漏れた。

こつ、こつ、と石畳を鳴らす足音はいつか砂利を踏む音になる。
裏路地を通るのはいつも通りのだった。
なにも近道というわけではない。ただ、街灯のない細い道を帰宅がてらにパトロールするのはこの男のルーティンだった。
始めた頃には時々目にしたチンピラなども、最近はとんと見かけない。
良いことだ、と男は思う。きっと良いことだ。
だからこの帰宅ルートは、任を解かれた今日だって変えるつもりがなかった。


​────そして、それがいけなかった。


#AbbaiareAllaLuna
(90) 2023/09/30(Sat) 5:07:21

【独】 幕引きの中で イレネオ


がつん。
衝撃。
背後から突然横殴りに吹き飛ばされ、側頭を酷く打ち付ける。視界が白に黒にちらついて足はたたらを踏んだ。
何事かと状況を理解する前にもう一度衝撃。
がつん。
同じ部分を路地を遮る汚い壁にぶつけた後、酷い音を立てて身体が地面に転がる。
揺れる。揺れる視界と脳。上手く立ち上がることが出来ずにただ酷く痛む頭に手をやった。誰だ。どうして。何が。

こいつだ・・・・
「イレネオ・デ・マリアだ」


耳鳴りで歪む中、それでも聞こえた声は知らないものだった。

「誰​────」

聞く間は与えられない。
がつん。


#AbbaiareAllaLuna
(-270) 2023/09/30(Sat) 5:09:04

【独】 幕引きの中で イレネオ


三度にわたって硬いもの・・・・で殴り付けられた皮膚が裂けて、側頭から頬にかけてを生ぬるく濡らしていく。
眼鏡はどこかに吹っ飛んでしまったらしい。おかげで薄暗い周囲でも先程よりはよく見えた・・・

路地裏の暗闇から染み出すように人影が三人。
各々何かを手に持って、それで、瞳はぎらぎらと燃えている。暴力への高揚と、標的への憎悪の色。

対する男の瞳もまた怒りに燃えていた。真っ当な激昂だった。
出血は既に瞳に混じって、これの視界を僅か塞いではいたが。

「一体なんなんだ」
「ふざけるなよ……」

それでも男は立ち上がろうとする。長身がぐらついて、睨め付ける金が浅い光を放つ。
しかしそれもまた許されない。地に着いた右手の指先に金属の平面が振り下ろされる。
その残像の形と音は金槌だろうか​────気づいたところでなにもならない。


めき。


嫌な音がした。痛みに動きを止めた横面に目の前の誰かの蹴りが入った。

「なんなんだって」
仕事だよ・・・・


そう言った声は、笑っているように聞こえた。


#AbbaiareAllaLuna
(-271) 2023/09/30(Sat) 5:10:02

【独】 幕引きの中で イレネオ




肉を打つ音。内臓の深くまでを揺らす音。

「ゃ
め゛
、ろ」

何かで叩く音。ぱきん。小気味よく硬いものが割れる音。

「い゛ッ……あ、ぁ、あ
、あ゛


ぶち。ぶちぶちぶち。なにかを千切る音。引き裂く音。

「​── 、────!」


ごり。ごり。ごり。ごり。
硬いものを幾度も幾度も念入りに削る音に伴って、血液が土を濡らした。


初めに側頭部への打撃。
ついで指先の破壊。主に腹部を狙った殴打。
口に捩じ込まれる錠剤。重ねて手指の粉砕。
踏みつけにされて取り剥がされる爪が数枚。
無事だった左手は鋸歯の往復で切断された。
最後割れた瓶の破片を押し込まれたのは口腔で、
握り込まれるのではなく横面をまた殴られる。


自分がやってきたことに似ていると、気づく余裕はあっただろうか。
まだ鼠が紛れ込んでいたのか、善良な警官が義憤で情報を売った・・・・・・・・・・・・・・・のか、それとも。

#AbbaiareAllaLuna
(-272) 2023/09/30(Sat) 5:11:47

【独】 幕引きの中で イレネオ

 
​────鼓動は随分緩やかになった。

ざっくり裂けた舌では言葉も話せない。
唸ろうにも流れ込んだ血液が喉にかかって咳き込むことしか出来ない。
立ち上がろうとすることさえ酷く億劫で、試す前に不可能だと本能が否定する。
全身の痛みは既に隙間なく身体の表面にも内側にもひしめいていて、最早これを痛みと呼ぶのかどうかさえ定かではなかった。

じゃり。


砂の擦れる音。自分の身が痙攣したのか、それとも誰かが踏みつけたのか。

かち。


硬いものが触れ合う音。自分の歯が鳴ったのか、それとも誰かが立てたのか。

血混じりの視界は光を失って赤くすらない。ただ黒く、白く、濁って靄がかった景色だけが、濡れた金色に映っていた。
それを酷くゆっくりと動かして。
それでも動くものを追おうとして。


震えた 瞳が、


#AbbaiareAllaLuna
(-273) 2023/09/30(Sat) 5:12:58

【独】 幕引きの中で イレネオ


どす。


揺れた。

体内に冷たい衝撃。
これは彼らの仕事・・・・・であって、男の仕事・・とは訳が違う。
男のそれはあくまで言葉を必要としたが、今のこれは、むしろ言葉があっては困るのだ。

命までを奪われることをようやく肌に染みて悟った。
鈍った思考ではそれを現実と受け止めるにも時間がかかった。
叫び出して暴れるような体力はこれっぽっちも残っちゃいなかった。

どす。


衝撃。
身体がまた重なる。
吹き出す血は既に温度を失いつつある。それと共に当然命も零れ落ち、果てる意識の狭間にあえかな息をする。

どす。



最後の最後。
脳裏に過ぎった顔は、
母でも、父でも、祖父でもなかった。


#AbbaiareAllaLuna
(-274) 2023/09/30(Sat) 5:14:40

【置】 幕引きの中で イレネオ


猫みたいな人だった。
痩せぎすで、億劫そうで、いつも顔色が悪くて。
気まぐれで毛並みの悪い、野良猫みたいだった。

それでも。
瞳だけはいつも、いつも鮮やかに花やいでいた。
あの目が困って伏せるのが、嫌いじゃなかった。


────好きな花くらい、聞いておけば良かった。


#AbbaiareAllaLuna
(L1) 2023/09/30(Sat) 5:16:45
公開: 2023/09/30(Sat) 5:20:00

【独】 幕引きの中で イレネオ


 
どぢゅ。




濡れた音を最後に路地裏は静かになる。
そこにはもう誰もいない。
役目を終えた亡骸がひとつ転がるだけ。


#AbbaiareAllaLuna
(-275) 2023/09/30(Sat) 5:17:20

【人】 手のひらの上 イレネオ

 
イレネオ・デ・マリアの遺体は見つからない。

一巡査長の身柄は行方不明として結論される。
その捜索も、程なくして打ち切られるだろう。

それはマフィアから警察への手打ち表明であり、
それは警察からマフィアに対するけじめであり、
狂犬が病理を撒く以前に駆除されただけのこと。

誰かが言ったように、署長代理パパにもママにも見捨てられ。
誰かが言ったように、道理と因果に従って。
誰かが言ったように、地獄に堕ちる。


狭い路地裏では空すら見えない。
負け犬が月に吠えることはない。


#AbbaiareAllaLuna


悪人は、等しく裁かれるべきだ。誰かが言ったように。

(91) 2023/09/30(Sat) 5:20:23

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



折れて動かない左も、力比べによる消耗で落ちた右も。
まるで壊れた人形のようだと思考出来るだけまだマシだ。
そうして君
顔を
見せない
よう背け続けるが、
顎に伸ばされ無理やりに向かされるようであれば、
それも結局、見え透いた結果しか齎さない。

「…………は、」

愉快そうな君に、精一杯の笑顔を返す。
それでも苦痛に歪む顔も余裕のなさも隠しきれはしない。
無駄な抵抗と言われればそれまでだが、
笑顔それは己の心を守るための砦だからこそ崩せない。

せめてと、視線だけでもと逸らすことを試みるが
それもまた、結局は無駄な抵抗となってしまう。

揺れる海が君の月に映し出される。
隠しきれない弱さが、間近で、
自らにも見える形で映されている。

男の部屋にある鏡は洗面台に取り付けられたものだけ。
本当はずっと、弱さ虚像を映すその存在がとても、苦手だった。


(-276) 2023/09/30(Sat) 5:22:38

【秘】 リヴィオ → 幕の中で イレネオ



触れ合う額はきっと君に、男の異様な熱を伝えてしまう。
滲む汗だって触れ合うことになるだろう。
男にとってそれもまた、顔を歪めるひとつの要因。

気丈に振舞っていたのだと知られてしまうことが嫌だ。
己の弱さを暴かれていくことから、逃げ出したかった。


話し方を忘れてしまったかのように一度言葉を詰まらせ、
代わりに吐き出すのは熱い吐息だ。
それでも、急かす君に伝えなければならないのは、

「……ち、がう。許せない、のは……俺自身、だよ……っ」

それ以上に話すことはない。言っても分かるはずがない。
問われれば答える男ではあったが、
今この時だけは、その全てを晒け出すことはなかった。

男は、察しが悪い訳ではない。
だから、もしかするともう既に……と。
そう考えてしまう頭を、止めることが出来なかった。

それがより一層仮面を保つに障害となると知りながら、
どうしたって、自分よりも彼女を考えてしまうのだ。


笑顔がふ、と──ほんの一瞬、掻き消えた。
(-277) 2023/09/30(Sat) 5:23:41

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「っ…!?」

それは、一瞬のことだった。
読みを違えて受け身に走っていた身体は
容易に引っ張られて、その勢いのまま、机の角へ。

バキッ


鈍い音が、胴から響く。
1本は確実に折れ…周りの数本も罅くらいはいったか。
もしくはまとめて折れたかもしれない。
息が漏れ、衝撃から遅れてやってくる激痛に
まともな受け身も取れずに床に叩きつけられるだろう。

「あ゛、がはっ、ああああっ!」

胸を抑え、蹲る。
脂汗が滲み、止まらない。
一時だけ、その口は言葉を失うだろう。

そして、抵抗する余地も今少しは、ない。
(-289) 2023/09/30(Sat) 9:27:30

【秘】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡 → 幕の中で イレネオ

ばづん、と何かを貫く音がして、
ばちゅ、と粘り気のある水音が響いた。

「が、あ、は、は、ああああああああッ!!」

獣のような咆哮が響いて、ぼだぼだとした液体をまき散らしながら男がのけ反る。
涎をまき散らしながらごろごろと床を転がり、喘ぐように息が何度か、途切れる。
それでも、過剰なほどに分泌されたアドレナリンが
哄笑を引き起こし、留まることもなくは、は、はという甲高い音がこだまする。

「い、いっで、でええ、ははははは、いってぇ、なあ、あああぁ、ははははは!!」
「おい、警っ、官としての、仕事だぞ、早くしろよ、治療・・だよ」
「ああ、痛ぇ、なあ、ははは、ほんっと、仕事できねえなぁ、お前、助かる、──――」

がなるように声をまき散らしながら。
ぼたぼた、ぼたぼた。
涎か、あるいはぐちゅりと潰れた水晶体か、その判別もつかないものが床に落ちる。
そのままぐしゃり、と男の巨体がつんのめるように倒れ込むと――

──哄笑も、言葉も止まる。
口の端から泡を吹いて、アレッサンドロは気絶・・していた。
(-307) 2023/09/30(Sat) 13:48:46

【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡

張り詰めたものが一気に放たれる時のような衝撃。
貴方の抵抗ではなく、それは肉体の反射。弓なりに反る背中にバランスを崩し、転がる動作で男もまた振り落とされる。机の脚に鈍い音を立てて頭をぶつけると、茹だった頭はまたぐらぐらと揺れた。

ごろごろと転がる身体に手を伸ばす。捕まえられたかは知れない。振りほどかれるなら抱き竦めるようにしてしがみつこうとした。これは衝動的な執着だ。盛った犬のような荒い息を繰り返して男は貴方の身に覆い被さる。
許せない────見当違いの激情だけがそこにあって。

斃れた身体を仰向けに強いて追い打ちをかけた。


じゅぐ。
振り下ろす。

ぢゅぶ。
振り下ろす。

ずじゅ。
振り下ろす。


しまいには指を突っ込んで眼窩に残った部分を引きずり出そうとしたかもしれない。濡れて潰れた葡萄のようなそれは上手く掴めずに、もう何度目かの舌打ちが空気を裂いた。
ぐちぐちと微かになるいやな水音と男の息遣いだけが、しばらくの間狭い部屋に満ちている。


────それが終われば。
男は貴方の口元を手で拭い、それを貴方の衣服に擦り付けた。
落ちついたらしく深く息をして立ち上がり、扉を開けて人を呼ぶ。
訪れた数人はその状況に驚愕の表情を見せもしたが、
深く追求することはなかったのだろう。
(-322) 2023/09/30(Sat) 18:04:46

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

強く打ちつけたことでずれてしまった眼鏡の位置を直すとか、
連絡のために携帯をまた拾い上げようとするだとか、
今は手にしていない手錠を咄嗟に探す仕草だとか。
そこここに充分な隙があって、男の手慣れなさ・・・・・を示していた。

雑に突っ込まれたそれを奪い取るのは難しくないだろう。
先程とは違いこの道は狭く、男は後ろを向いている。
振り向くのにかかる時間は、貴方の逃走に寄与するはずだ。


────当然、男は追いかけるだろうが。
仕返しに砂でもかけてやれば、更に時間は稼げるだろう。
(-326) 2023/09/30(Sat) 18:52:37

【秘】 Commedia ダヴィード → 法の下に イレネオ

それはこの一連の事件から数週間が経ってからのこと。
男はいつもより少し重い昼食が入った紙袋を持って、狭い路地裏を歩いていた。

「買っちゃったなあ〜……
 誰かに会えればいいんだけど」

お気に入りの店が貼り出していた期間限定商品のチラシに、
『本日最終日!!』の文言が上から貼られていたものだから。
さてどこで食べようか、また公園にでも行こうか。
街を歩いている間に知り合いでも見つければ、
押し付けて一緒に食べてもらえばいい。
そんなことを考えながら、近道に入った路地裏でふと地面を見る。
拭われた形跡のある、古い血痕。
注視しても判別が難しいようなそれに何故目が吸い寄せられたのかは分からない。

誰かが喧嘩でもしたか、派手に暴れたか。
はたまた――これ以上は、今考えることではない。


そのあたりで頭を振り、血痕を踏み越えて歩き出した。

足早に路地を抜け、数週間前と同じように公園の外れのベンチを陣取る。
違うのは、今日は一人ということ。
(-343) 2023/09/30(Sat) 20:15:06

【秘】 Commedia ダヴィード → 法の下に イレネオ

期間限定のチョコバナナとマシュマロのパニーニは表面がごく軽く焼かれていて、齧ると予め火を通されたチョコとバナナが蕩け、表面が炙られているマシュマロがサクサクとアクセントになる。
そんな甘いパニーニを口いっぱいに頬張りながら、今は姿の見えない人のことを思う。
毎日顔を合わせるほどの仲ではなかったけれど、こんなに長い期間会わなかったのははじめてだ。
喋る相手もいないものだから、咀嚼しながら思考は巡る。

イレネオさん、この街から引っ越しでもしたんだろうか。
この街がきな臭くなってしまって、治安も混乱していた。
故に家族に急かされたか、急な転勤を命じられたとか何かで。
お互い連絡先も知らなかったから伝える手段がなかっただけで、きっと別の街で今日も元気にしているはずだ。

貴方はやさしい人だった。
たとえ何処に行っても幸せに、陽の当たる道を真っ当に歩き、今日も大切な人と笑い合っているだろう。
だからきっと、幸せな生を全うして、ああいう人こそが天国に行くだろう。


当然のように、そう思った。
(-344) 2023/09/30(Sat) 20:15:52

【秘】 路地の花 フィオレ → 幕の中で イレネオ

「っ、痛……」

頭を抑えながら。それでもこの機を逃すわけにはいかないと、あなたのポケットに入った携帯電話を抜き取って。
足元の砂利を砂ごと掬ってから、痛む身体を引きずって走り出す。
片腕に力が入らない。新たに連絡を入れる余裕はない。
だから、最初の場所へと戻るしかない。今ならまだ、迎えに来たはずの同僚がいるはずだ。

「はっ、……ッ!」

蹴り上げられた腹も鈍い痛みが走って、顔を顰める。
足が縺れそうになっても、ひたすらにこの路地を抜けだすために足を動かして。

あなたが迫ってきたところに、掬った砂を投げつけてやるのだろう。
狭い路地では、それを避けることも難しいはずだ。あなたのような体格ならなおさらのこと。
(-364) 2023/09/30(Sat) 23:06:01

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

物が落ちるような気遣いのない音が足元で立った。
それはあなたが倒れ込む音で、遅れて絶叫が喉を震わせる。
対する男はそれを見下ろして、ことりと首を僅か傾げた。

「……はあ。」

ただひとつ、吐かれた息。
その吐息は一方的な暴行ではなく双方間での攻防に詰めていたものが解放されたようにも、やっと大人しくなったと言いたげな溜息にも聞こえた。
きっとどちらでもあるし、どちらでもない。それを男は自覚していない。
丸くなるさまが身を守ろうとするようで、頼りなさに男はまた口元を緩める。これだって無意識のことだった。

「手間のかかる……」

まるで人ではないものを扱うような言葉を貴方に投げつける。
随分苦労させられた。まるで手負いの獣だ。今日はもうひとつ予定・・があるのに、と思考が過る。
────まあ、仕方ない。これも仕事だ。
口元に手をやって男は思考を始めた。貴方はもう抵抗できないだろう、そう信じ込んだ油断がある。試しに足で小突くくらいのことはしたかもしれない。死にかけの虫の、威勢のほどを確かめるような仕草だった。

仕事なのだから、遂行しなければならない。しかしこの状態ではもう、貴方からこれ以上話を引き出すのは難しいだろう。
痛みにあえぐ貴方は、話すどころか座ることすら困難そうだ。

ならば。
ならば、最善は。

(-365) 2023/09/30(Sat) 23:35:57

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

貴方が狂った狼であるなら、これはもっとたち・・の悪いものだ。

ひとつ思いついた男は、貴方を放置して何かを取りに棚に近寄る。
貴方は、最後の力を振り絞ってそれを止めたかもしれない。
それとも、もうそんな余裕すら残っていなかったかもしれない。

どうあれ男はそれを振り払ったろう。酷く単純な、顔面に向けて・・・・・・足を振る動き。
そうして手に取るのは
金槌
だ。ぱん、ぱんと手のひらに打ち付けて感触を確かめる。

男がしようとしていることは、とても悪趣味で無意味なこと。
それでいて残酷なへの布石。
再びの尋問・・が楽なものになるように、
貴方が二度と抵抗できないように、
その意志も行動も削ぐように
────四肢の内もうひとつを、砕いてしまおう。
(-366) 2023/09/30(Sat) 23:36:13

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「あぐっ…う、ぐ…うぅ…はぁっ……」

肋骨を折られては
先程のように動くことはままならない。
身じろぎする度に、激痛が身に走る。

小突かれても、呻くばかりで。
貴方が離れて、拙い、と思ったのも束の間のこと。
何とか首をもたげて、金づちを持つ貴方を見た。

「げほっ…やっぱり、尋問なんかじゃ、ねえだろ…
ただの、拷問、だ……」

避ける事は出来ないだろう。
だから、呻きながらも貴方に言葉を吐きかけて。
笑うのだ、愚かだな、と。
(-367) 2023/10/01(Sun) 0:14:04

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ

熱い身体だ。
一人、いたな。そういうのが。
彼は治療を受けただろうか、と脳裏を過った。
受けたのなら、近くまた会う・・こともあるかもしれない。


歪む表情。
無敵・・とは程遠いその様子。
けれどそれを崩し切らないあたりが、この男の趣味の悪いところを擽った。
湿って熱い吐息が好かった。形のいい唇が引き攣るのが好かった。

ああ。
いいな。


片手は貴方の顎に。もう片手は転がしておいた器具に伸びる。
合わせた額はまるで慈しむような優しさでいて、愛情の発露のように鼻先が擦り寄せられる。
金色が海の底を微かに映している。
そして、そのまま。
貴方の震えを食らうように男の唇が押し付けられた。
丁寧さも何もない。欲情の荒っぽさもない。秘密を引きずり出そうとする求めもない。ただそれは、この男が、昼飯を食う時にするような仕草。
食に拘りのない獣が、食べられるものを見つけたから口をつけた。それだけの仕草だった。

(-390) 2023/10/01(Sun) 14:54:09

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ

可哀想に・・・・。」

哀れむ声には愉快さが滲む。
もう一度軽く口づけて至近に寄せた。それからようやく身を離し、場違いな恭しさでその手を取った。
口を開く。閉じる。弧を描いた。もう一度、開く。

「ダニエラが」「心配ですか」
「それなら」
「貴方が頑張れば」
ましになる・・・・・かもしれませんね。」

嘘だ。
彼女の責めは、もう終わっている。
(-391) 2023/10/01(Sun) 14:54:24

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

貴方が悪いんですよ・・・・・・・・・。」

────なんて無責任な言葉!
厚顔無恥とはこのことだろう。男はあくまで正義を歌う。悪はそちらと貴方に押し付ける。

ぱん。ぱん、と小気味いい音が繰り返し立った。その間にも視線は貴方の下肢を這った。
品定めの視線。吊るされた肉を解体する肉屋の視線。作業ではなく、あくまで真剣に効率を求める目だった。

大腿骨は太い。肉も多いから難しい。
同様にふくらはぎも難しい。叩くなら脛か、足首か。ぱんひゅん。音が空気を裂く。
的は大きい方がいい。

穴から蛇を引きずり出すようにして、男は貴方の足を伸ばさせた。
抵抗するなら叩く。
叩く。
敬意も尊重もない。貴方は気遣いに値しない。
男にはもうひとつ予定・・があり、貴方と過ごす時間は着々と終わりに近づいている。

腿の上に腰を下ろして固定した。
貴方の言葉も制止も聞く気はなかった。
一番手慣れた無骨な武器を男は振り下ろした。

(-395) 2023/10/01(Sun) 15:44:59

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

 
がきん。ひとつ。
がきん。ふたつ。
がきん。
みっつ。
がきん。
よっつ。


がきん。 
(-396) 2023/10/01(Sun) 15:45:59

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

こんなもの、尋問どころか拷問ですらない。

繰り返される真っ直ぐな暴力。
男はそれを仕事だと思い込んでいる。
貴方が悲鳴をあげる度に口角を上げた。
貴方が床を叩いて逃れようとする度に喉を震わせた。
それでもこれは楽しみのためになされているものではない。
あくまで。
あくまで、真摯に。

これは次の仕事のための布石。
次貴方と話す・・時の為の準備。

そうして金属面への抵抗が変わった・・・・頃。
貴方の様子を気にすることもない。男は最寄りでバスを降りるような身軽さで、貴方の上から退いた。
(-397) 2023/10/01(Sun) 15:46:30

【秘】 きみのとなり リヴィオ → 法の下に イレネオ



合わせた額も、擦り寄せられる鼻先も。
己を映す金も……顔を歪める要因ではあれど、
動揺を誘うような何かはなかった。

ただ、そこから先が
良くなかった


「……………ん、ッ」

押し付けられた唇の感触に男は目を見開き、
瞳をより一層強く揺らす。

それはきっと、長い時間ではないのだろう。
だとして、この男にとってはそうではなくて、
落ちた右手をまた持ち上げ、
君の体にその手を当て
弱々しく
押し返そうとする。

「……ふ、……………」

動揺で思考がぐちゃぐちゃだ。
自分がどのような表情をしているかさえ分からない。

ただ、目の前の君だけを感じることしか出来なくて、
自らが零す声にどうしようもなく弱さを感じて、
そんな自分がとても、とても、
嫌で堪らなかった。


(-398) 2023/10/01(Sun) 15:55:39

【秘】 きみのとなり リヴィオ → 法の下に イレネオ



やがて一度目が終わる頃、何かを言おうと開いた口は
二度目によって音もなくまた、閉じられてしまう。

体が失った酸素を求めて、激しく上下する。
自分は知らぬうちに息を止めていたのか。
そんなことをぼんやりとした思考の中、考えて。
取られた手を、僅かに虚ろな瞳が追いかける。

あぁ、心配だよ。だって俺が連れてきたんだ。
友人に任されたこともあるけど、俺自身が彼女を心配で。
ここはいい場所とは言えないが、それでも。
彼女には少し、少しでも──休んで、ほしくて。


ぐず、と……胸の奥で何かが渦巻いた。

愉快そうな声も、弧を描くその唇も。何もかもが
信用に値せず、提案に乗っていいことがあるとも思えない。
それでも、欠片でもそれが"本当"であるなら、

「………………わかっ、た」

首を、縦に振る以外に出来ることはなかった。

せめて彼女の左手の小指大切なものにだけは触れないでくれと、
愚かな男は愉しげに笑う君に──願いを乞うた。

宝物のように大切に撫でるあの仕草が深く、印象に残っていて。
あんな風に何かを大切に思う気持ちは──彼女から、貰ったものだったから。
(-399) 2023/10/01(Sun) 15:57:58

【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ

路地裏を知り尽くしている程度では貴方に分があった。
それでも“このあたり”に限ればおそらく互角だった。

だから男は油断した。
だから男は隙を見せた。
自負があったから、思考が鈍った。
鼠程度捕まえられると思っていた。

窮鼠は猫を噛むのだ。
投げつけられた砂はさしてダメージにならなかった。
それでも物体が迫れば目を守ろうとするのは反射の動作だ。
立ち止まった隙に貴方は角を曲がったかもしれない。最後の力を振り絞って走ったかもしれない。それだけの時間はきっとあった。
入り組んだ路地は分かれ道が多く、そのひとつひとつを確認するだけで時間を取る。

貴方は逃げた。
男は追った。
貴方は逃げるためだけに走った。
男は、貴方が自分から逃げている・・・・・・・・・のだと思った。
街に出るという選択肢を失念している。



だから。
男は貴方を見失ったのだろう。
建物の向こうから車の出る音だけが聞こえて、
ようやく気付いたころには遅かったのだ。
(-400) 2023/10/01(Sun) 16:11:56

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ

半端な抵抗はこれを煽るだけだ。
弱りを強調するだけの手はむしろこちらの勝利・・を知らせた。
取った手の熱さが愉快だった。冷たいよりよっぽどよかった。
命を甚振ることを、この男は楽しんでいる。


からん。音がして器具を床から攫った。
高尚な道具なんてない。手にした器具は飾り気のないペンチ。
貴方が耐えなければ、彼女の整えられた爪が、こんなもので台無しにされることになる。
もう終わったことだ。

従順な様を褒めてやりたくて、けれど空いている手がない。
仕方なくもう一度額を合わせてから、ゆっくりまばたきをした。
本当なんてここにはない。
提供された聴取内容も。
貴方が吐かされる“真実”も。
傍から見れば慈愛か、情欲に見えそうな男の態度も。
本当なんてひとつもない。ここにあるのは偽物ばかり
────痛みを除いて。


(-401) 2023/10/01(Sun) 17:33:43

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ

はじめは右の小指・・から。
そこは彼女の宝物にもっとも遠い。

指先に単純なつくりの金属が宛がわれる。
塗り上げられた黒の表面がぐ、とひしゃげさせられる。

そして。





一気に、引き剥ぐ。
(-402) 2023/10/01(Sun) 17:34:49

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「ッは、どの口が言って、やが、る。」

呼吸をする度に、胸が痛む。
けれどその口も、貴方の行動によって
苦痛の悲鳴で彩られるのだ。

足首か、脛か。
兎も角、金属の面が骨を殴打する感覚が伝わる。
ボキ、ゴキン、バキ、グチャ。
嫌な音が響いて、激痛で頭が真っ白になって。

男が離れた時にはもう
足の感覚なんて残っていなかった。
残るのは、足だったものだけだ。

「あ、ぐ、ぅう…はぁ、っ…」

骨が砕けて、筋が潰れて。
皮膚が裂ければ、熱が零れていくのも感じる。

先程のように抵抗する気力も無ければ
激痛のショックと、抵抗する際に殴られた為に
意識すらも朦朧としているだろう。

尋問を続けることが出来るのかも、怪しいだろうか。
(-407) 2023/10/01(Sun) 18:59:06

【秘】 きみのとなり リヴィオ → 幕の中で イレネオ



煽るつもりなど、この男には微塵もなかった。
思考の乱れた頭では考えようもなかった。
ただ逃げたいと思う心が、そこにあっただけだ。

冷たい金属の音が響く。

何をされるかなんてもうとっくに、理解しているのだ。
こんなのはもう、取調という枠から外れていることだって。
最初から、そうではなかったことだって。
理解していて尚、逃れることは出来なかった。
君に、正しさを教えることなんて叶わなかった。


虚ろな瞳は天井に向いて、
合わさる額と金の瞳をぼんやりと眺めてから
離れていく君の影を見送った。

それでも、最後の抵抗だと言わんばかりに
君が居る方から視線を逸らし、その表情を隠そうとする。
引き結んだ口は不器用な笑みを懲りずに浮かべて、
宛てがわれた金属の感触を、指先に感じた。

痛みには、慣れている──けれど。


(-408) 2023/10/01(Sun) 19:13:27

【秘】 きみのとなり リヴィオ → 幕の中で イレネオ



、ッ……
あ゛
あ゛
あ゛
ッ゛
ッ゛〜〜〜!!」


絶叫。ここまで出来る限り笑顔に隠して、
それで、苦痛さえも閉じ込めていたけれど。
どうしたって、抗えないものはある。

体が跳ねる、左手の指先が床を掻く。
足は
ダンッ
と床を叩いて、
右手の指先が君の手に縋るようにきゅうっと力が入る。
目を見開いて、流れる汗は床へと落ちて。
そうして、めいっぱい開いた翠から一粒の雫も落ちていく。

「ぅ、あ゛あ゛…ヒュッ、は………っふ、……あっ、あ゛」


泣けるような男ではなかった。
泣き方なんてとっくに忘れてしまった。
それでも、それは生理的なもので、止めようがない。

落ち着けようと大きく吸った息は、
カヒュッと男の喉から詰まるような音を鳴らした。

既に異常とも言えるほどに、堪えてきた痛みもあった。
だから、それら全てが集約し、爆ぜて。

そこから先はもう止められない。
それでも、君へと頷いた以上嘘には出来ない。
男は、真面目だった。それでいて、愚かだった。
(-409) 2023/10/01(Sun) 19:15:21

【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ

最後にもう一度だけ貴方の方を向いたかもしれない。
横柄に腰を折り、手を伸ばして前髪を掴んだ。

汗の浮いたかんばせ。涙は流れなかったかもしれないが、きっと滲んでいる。
濁る千草を目に映す。金が混じればまるで春のよう。色ばかりは明るく華やいで、それが酷く不似合いだった。

それで、男は満足したらしい。
最後にふっと息を吐いて笑う。次にはぱっと手を離した。貴方の頭部が床に落ちるごとんという音がしたかもしれない。
そのままやっぱり自然な仕草で​────本当に、ただの仕事を終えて休憩に出る時のような自然さで​────取調室の扉を開けて。

「救急車を。」
「少し暴れたので、手当が必要かと。」

やっぱり事も無げに、淡々と報告する声が聞こえた。
(-417) 2023/10/01(Sun) 20:12:21

【秘】 月桂樹の花 ニコロ → 幕の中で イレネオ

「う、っ……」

前髪が引かれて、頭が持ち上げられる。
痛みに歪んで、脂汗と涙を滲ませた表情は
貴方にとって満足のいくものだったろう。

貴方の事を認識出来ていたのかすら怪しい意識のまま
手が離されて、頭は重力に従って地面へと。

重たい、硬いものが落ちるような音と共に
男の身体は床に転がって…脳に走る痛みを感じながら
今度こそ、意識は暗闇の中へ溶け落ちていくのだった。

淡々と報告する声を聞かぬまま
貴方の声に反応した係員が慌てて動くのだろうが
普通に救急車を呼べば、目につくことは違いない。
今のこの状態で暴行が明るみに出るのも如何なものか。

そも、貴方に命じたのは過激派の集団だ。

一先ずは命に係わる事はないだろうとの判断のもと
取り調べの終わらぬ罪人は、応急手当を受けてから
牢の方へと戻されていくのだった。

その事を貴方が知るかは、今は分からぬままだっただろう――
(-421) 2023/10/01(Sun) 20:27:45

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ



その声に。
男はぱっと口を抑えた。手の下の唇は笑みの形に歪んでいた。
自分の体温もかっと上がった気がした。それが男は不思議だった・・・・・・
だけれど、それをただ不思議がる大人しさは生憎持ち合わせていない。
男が持っているのは、ただその情動に身を任せる愚かな素直さだ。
剥がされた小指の爪を眺める。裏を表を返して見る。白、黒、赤の三色が人工の光を弾いて光った。くく、く、と喉から笑いが漏れる。

喘ぐように息をする貴方に目を映す。
時折は咳き込み、逃避にもならないように身を震わせる貴方を見る。
瞳はそのまま。
貴方の顔に向いたまま。
男は右薬指に手をかけた。

(-424) 2023/10/01(Sun) 20:31:38

【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ

みち。


肉とその被膜が引き剥がされていく。

みち。みち。みち。


上下に裂かれる神経が悲鳴をあげる。


みち。みち。みち。みち。


壊れた玩具かなにかのように貴方が叫ぶ。
駄々をこねる赤子のように頭を振る。

「あはっ」


縋るように握り込まれる指。
瞳ごと溶けるように零れる涙。
男は笑っていた。


「はは……
ふ、
ふっ 、く」


笑っている。



ふ、
ふ、
あははっ、
あははは!」



壊されていく貴方の上で。
これはずっと、笑っていた。
笑っていた。
(-425) 2023/10/01(Sun) 20:33:42
 


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