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【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 黒眼鏡「別にいつでも詭弁を口にするわけじゃあないさ」 長い脚を折り曲げて言われた通りにソファに座る。 手持ち無沙汰げに上げた目が散らかった部屋を見回して、そのひとつひとつを眺めた。 小言じみた声を聞き流しながら、明け渡されずに残された物を見つめている。 机なりがあるなら、その上にビニエを置く。紙袋から取り出すまではしない。 ご丁寧にふたつきりのそれを、どう扱うかは持ち込んだ先が決めるべきということ。 座った席の肘掛けに頬杖をついて、注文の為に口を開く、その合間に視線が戻ってくる。 「言っただろう。最後になるかもしれないから、って」 スカイブルーの瞳は色付きレンズの向こうをじっと見つめる。 冗談にしては、視線は外れないまま瞬きも少ない。 #Mazzetto (-29) 2023/09/12(Tue) 1:27:19 |
【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 黒眼鏡「燕が運ぶ黄金の元はここから剥いできているのか??」 言葉は暗に蔵の中身を空けたかのような部屋の様子を指していた。 いずれは此等も人々の手の中に明け渡されてしまうのか、 それとも難を逃れたものたちがここに残されているのか。 黒く帳の降ろされて色の見えない瞳を、見えているとでもいうように見つめる。 その癖見透かしているというには目元の険は鋭くはなく、望遠鏡を覗き込むようで。 しばらく見つめ続けたあとに、ふ、と満足げに笑って視線は外された。 何を悟って何に納得したか、なんて口にされることもない。 「お前のほうこそ景気はどうなんだ。市井が荒れると、書き入れ時だろう。 それとも一丁前に店一本に絞れるくらいにはそろそろ腕も上がった頃か?」 貴方を見つめていた時には蝋のように動かなかった指は、すいとコーヒーカップの方を取った。 手間の少しも掛けられていないインスタントであるのを目の前にして知っているのに、 わざわざ一口啜って、皮肉っぽく片眉をあげた。 #Mazzetto (-35) 2023/09/12(Tue) 7:43:38 |
【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 黒眼鏡曖昧な回答に対するのは、ああ、なんて対象も不明な相槌ばかり。 一度外した視線は自由に動きはじめて、外とは隔意の有る空間を眺める。 漠然と眺めるというよりかは、遠い昔の面影を探すようにゆらゆらと表面を動いた。 「客入りがあるのだったら市民の一員らしく歓迎するところだけれど。 ……自動車工の素振りにしばらくは絞ったらいい。 どうせそんなに長くは保たないさ。緊縮の似合う島じゃない」 軽々に言って、カップを持ち上げる。大して手間の掛かっていない味わいを口に含む。 黒い手袋を外せば肉の削げた指が垣間見えて、ビニエの表面に食い込んだ。 もったりとしたバニラクリームを引き立てるように、オーソドックスなアーモンドの生地が挟み込む。 見た目の甘ったるさに比べて存外軽い焼き菓子をゆっくり味わう。 この島に、街にありふれた光景だ。 「"港"を封鎖できるほどの力があるわけでもない。 ……そんなこと出来たらとっくにお前たちのことなんて追い出せているよ」 #Mazzetto (-106) 2023/09/13(Wed) 6:52:17 |
【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 黒眼鏡眦は細く、無機質なガラスやプラスチックの表面を見つめた。 集合体の意図するところを理解したなら、それで視線は逸れてしまう。 聞いたふうな口を利き、悟ったような目をして、見知った街路を歩く足がある。 訪れたことも多くはない部屋を一個一個理解したように頭の中に入れてしまって、 もう分かったとばかりに帰った視線はアーモンドのまぶされた生地の行き先を見ている。 スカイブルーの目は澄んだ空のような色ほどには冴え渡ってさえもなく、 曇天めいて淀んだ色が閉じ込められているだけであるのを、分かっている者は少ない。 春霞の向こう側にぼやけた焦点は今は貴方の所作だけを追っていた。 「ああ、あの子か。まだ若いだろう、あまり焚き付けないでやってくれ。 彼の熱心さが彼の足元をおろそかにさせるようにはしてやりたくないんでね」 ふ、と表情が緩む。庭の花でも見るような穏やかな皺が目元に寄った。 己の手の届く範囲にあるかれらに対するときの男は、一層ありふれた老成を現す。 老いさらばえていくもののように緩めた表情が、どれほど実を伴っているものか。 「どうも」 笑う表情は変わらない。 『いい警官』になってから、余裕のあるかのような表情が鈍ることは少なくなった。 他愛なく進む会話が時計の針を押すごとに、いつしか皿もカップも底がまあるく顔を出している。 「為るように為るものだよ」 #Mazzetto (-224) 2023/09/14(Thu) 2:58:42 |
【秘】 Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ → 黒眼鏡「痛い目に合わないように支える人間は幾らもいるだろうよ。 まあ、けれど。出来るだけの教育くらいはしておくとも。 知らないおじさんが心配していたよって伝えておいてやろう」 からかうような言葉が苦言を受け流す。少しも真艫に捉えていないようだった。 そうでなかったとしても、仮に、そうだとしても。 犯罪組織の渦中にてその重責を担う貴方の見えないところで行われることだ。 周りの労苦や心配が実を結ぶときが来たとしたって、きっとずっと先のことだろう。 水を向けられた、如雨露の首を返すように視線は流される。 既に短いやり取りで、多くに納得をして、多くに満足した。 そこから先を、この部屋においていく必要はお互いに無い、そうだろう。 「何も。お前の顔を拝みに来ただけだ。珈琲の腕前もお目にかかれたようだしな」 皮肉っぽい言い回しとともに、長い指と素爪がカップをつついた。 ほんの少し小麦の粉がついた指を軽く払うと、手はそのまま机について立ち上がるのを助く。 用事はそれで済んでしまった。 部屋をいっそう狭く見せるような長駆が伸びて、入ってきたばかりの扉の方をつま先が向く。 帰りの見送りは、さて。『いい警察』を厭うなら、必要かもしれないけれど。 #Mazzetto (-282) 2023/09/14(Thu) 20:49:46 |
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