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224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】
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だがそれはあくまで、アレッサンドロ・ルカーニオの影響だ。
従わないもの、自らの運営方針にそぐわないものに
直接的な脅迫、あるいは暴力をためらいなく行使し、
従うものにはポケット・マネーからの恩賞を躊躇わない。
それが正しいかはともかく、部下にとって「従うことにメリットがあり、従わないことにデメリットがある」ことのみを徹底的に叩き込んだ彼の下であるからこそ、そのシステムは正常に機能していた。
それゆえ、アレッサンドロ・ルカーニオが逮捕されてからの"港"の人員たちの反応は、大きく別れた。
一つは、システムを維持する者たち。
全体の六割を占めるこのメンバーは、思惑はどうあれ数日前と同じことを行い、数日先も同じことを行った。
これが長期化するならばともかく、多少のトラブルで今までうまく行っていたやり方を変える必要はない、と思ったのだ。
勿論中にはアレッサンドロのシステムこそが心地よいと感じるものもいたし、
あるいは「気を抜いた途端に黒眼鏡が戻ってくるのではないか」とバグベアに向けるような怖がり方をした者もいるが、
とにかく当面の間大きな動きをすることもないし、する必要もない者たちだ。
それは実に合理的な判断に思えたし、それこそが自然であると信じる者も多かった。
一つは、これを機であると動き出す者たち。
アレッサンドロは部下たちに十分な利益還元を行っていたが、
十分なんてものはない。
逮捕の報をきいて早速自らの利益を拡大しようと、種々様々な活動が行われた。
そしてそれがうまくいくかどうかは置いておいて、アレッサンドロは"港"が自分の指揮下から外れた際、こういった活動を咎めるような仕組みまでは構築していなかった。
彼のことをよく知る部下曰く、「好きにやるならそれはそれでいいと思っていたのでは」──などというが、果たしてどうだろうか。
元々がマフィアという、法とは利益をどうやって味わうかのドレッシングに過ぎないと思っているような連中だ。
これらの数もそれなりに多く、後にファミリーが調べたところによれば全体の三割がこういった"独立"にいそしんでいたという。
そして残った、全体の一割程。
彼らは一見普段通りに業務を進めていたが、ときたま妙な振る舞いをしていた。
普段入らない場所に入り、普段しないことをする。
それはほんの少しだけ、ちょっとだけ足を延ばす程度のことで、
けれどそれをする意味も必要もないことだった。
それを見とがめられるものもいたが、「アレッサンドロからの指示で」と言えば大抵の場合は見逃される。
そしてそれは、別段長く続くものではない――ほんの少し、たとえば荷物を運ぶだけ。
そのことに気が付くものが、はたしてどれほどいただろうか?
いたとして、それが何を意味するのか、組み立てられるものはいるだろうか。
多くの者は、「アレッサンドロが釈放されれば分かるだろう」と気に留めることもなかったが。
──とにかく。
総合すれば、"港"は七割が普段通り。つまりはビジネスにおいて影響は無視できない程度ではあるものの、これまで通りに営業を続けていた。
ヴェスペッラの海には今日も、静かに白と青が揺蕩い踊っている。
三日月島の朝焼けはあの日も今日も、変わらずに美しい。
| (a23) 2023/09/23(Sat) 11:16:18 |
常日頃、閑古鳥と同棲するそのモーテルは、つい数日前の騒ぎから一転、ここ数日でさらに静かになっていた。
ある雨の日に立ち寄ったのと同じように女はそこを訪れる。
人目を気にして足早に入口へと近付くと、するりとその中へ入っていった。
入口傍のカウンター。
カフェインの香りを撒き散らしながら店番をする経営者の姿はそこにない。
超えて奥にある扉を潜ると、そこはそんな経営者の私室だった。
部屋の大半をキングサイズのベッドが占め、本当に寝るためにしか存在していないんじゃなかろうかと密かに思っていたことは誰にも言っていない。
さらに言えば彼女は徹夜の常習犯でもあったのだから、想像する更に数倍この部屋に価値はないんじゃなかろうかと思っていた。
…実際には、そんなことはなかったと知ったのはつい数時間前のことである。
ペンライトを口に銜えて両手が使えるようにした女は、それからそこで暫く作業を行った。
たった1度しか聞かなかった手順だが忘れようもない。
大切で大好きな、昔馴染みの言葉なのだから。
男がその知らせ
を聞いたのは、それが署内、或いは島中を駆け巡ったより幾らか後のこと。
またいつものように牢を空にしていたその男は、ねぐらに帰る最中にそれを聞いたのだ。
ヴィンセンツィオ・ベルティ・デ・マリア。
その名は当然男だって知っていた。話したことさえあった。
同じファミリー・ネームのよしみ。広範な人間関係を築くのが不得手なこの男のためにと、気を配ってくれたのを覚えている。
その時の悠揚な笑みを覚えている。
がん。
がん。
がん。
それは憤りだった。
男の義憤が牢を打ち檻を揺らした。
食い締めた歯がぎりと鳴る。奪われ消された子どもたちのことを思ってまた心が逆立った。
「────くそ野郎が」
呻きに似た響きが落ちる。
まったく男は正義の徒であった。
真面目な警官だ。自他ともにそう認めるように。
『お前じゃ無理だ』と笑う。吐いて、汚れて、まだ笑う。
| アリーチェは、止めてくれるはずの幼馴染二人は、傍にいない。 (a24) 2023/09/23(Sat) 17:45:13 |
「ち、違───!!」
「……違、わない、……かも、で、ええと……」
貴方の目論見通り、あと一歩で言い切りかけたのだが、
すんでの所でストップがかかり、踏み止まったらしい。
それでも差し出された猫箱は猫箱のまま、まだそこにある。
「……わからない、わからないけど……」
「せっかく掛けてくれた言葉を、その通りに……
ありのまま受け止められなくて、一人傷付くのは、
……きっと、良くない事じゃないか、って思う」
片頬を机に着けながら、少し横向きの姿勢になり、
貴方の方を見つめる。
「……ペネロペだって博愛主義なんでしょ。
もし、身近な誰かにそんなこと言われたら、どうする?」
| リヴィオは、「これじゃあ無敵失格だね」といつも通りに笑う。 (a25) 2023/09/23(Sat) 18:15:07 |
「俺は俺でそいつはそいつだろ。
そもそも俺の周りは恋愛っ気のある奴いねえし……」
身近な誰か、と言われて思い浮かべるのは
誰も彼も、というよりそもそも自分が無縁な人間だ。
「その上で敢えて言うなら、考える余地は無いわけじゃない。
だからお前が踏み出さなきゃ前にも後にも進まねえんだ。」
「自分にも周りにも嘘吐いたまま生きてくよりは、
いっぺん素直に言っちまった方が誠実ってもんじゃねえの」
不誠実な生き方をする人間は、他人事だからこそそう言える。
「う……わかってはいるのよ、皆全く違うって。
でも、今、こんな大変な状況なのにこんな事言えるのは、それこそ夢の中くらいしか思いつかなくて……」
アリーチェの中でもさすがにこんな悪法が飛び交い逮捕者が続出している時に、友人相手であっても話すのは憚られるものだった。
かと言って、ない事にできる程器用な女かと言うとまた違う。
そう言った意味で、普段の意識とは違うここで、友人の貴方に相談できることは幸いであった。なんせ、ただでさえ落ち着かない女が自己の感情を整理できてないとどうなるかなんて、火を見るより明らかである。
「……それは、そう、かもしれない。
嘘つくの一番苦手なのもあるし、つきたくない……
どれを選んでも、絶対痛みがあるなら、
わたし、誠実さを選びたい。ありがとうペネロペ。
いつか平穏が戻ってきたその時は、進んでみる」
「おう、貸しはこれでチャラにしておいてやる」
そう言って、スプリッツのグラスを揺らす。
こちらも落ち着いて酒を飲める時間など限られているもので。
時間を気にせず酒に酔えるこの夢は大層都合の良いものだった。
「そんで……そうだな、
何か進展があったら教えてくれや。お友達のよしみでな」
仮に、いつかこの夢を見る事が無くなっても。
一度会った縁なのだから、またどこかで会う事もあるだろう。
そんな縁を途切れさせない為の、他愛無い約束だ。
「……いい報告ができるといいなぁ……」
「勿論、大切なお友達だもの!どんな結果になっても、
アドバイスしてくれたお礼の気持ちと一緒に
ちゃんとお伝えしたいから、待っててね」
この見通しのつかない雁字搦めの時世が
いつまで続くかわからないけれど、
自分がもし捕まろうとも、夢をみなくなろうとも、
切れない約束を交わした所で、この日の夢は覚める事だろう。
冷たい牢の奥で毛布に包まり蹲る。
熱と、痛みの波に耐える為の仕草だった。
浅く呼吸を繰り返す最中に耳にする。
看守の噂話、は。
──君が目を塞いでしまざわるをえないことが、私は一番悲しいよ。
「……ヴィトー、さん」
自分の道を見つめていたい。
目の前にあるものをちゃんと見ていたい。
でも、もう。
だれの、いつの、どんな。
笑顔や言葉を信じたらいいんだろう。
わからないのに、信じたいと願うのはどうしたらいいんだろう。
一つを疑えば全てを手放してしまいそうで、それがこわかった。
ならその前に瞼を伏せてしまった方が、ずっと。
この現実がこれまでの罰であるなら、帳尻が合うはずだから。
| (a26) 2023/09/23(Sat) 20:57:58 |
| (a27) 2023/09/23(Sat) 20:59:28 |