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【人】 孤児 ヘイダル■ヘイダルの秘密開示 俺の願いは、 村の外れに逗留中のサーカス団から 銀獅子ゾラフを救い出して"自由"にすること 怪我、してるんだ。 後ろ足を少し引きずっている。 毎昼毎晩火の輪くぐりをさせられて、派手な照明で客席からはそうとは分からないけど、あちらこちらに火傷の跡も痛々しい。 "彼"と出会ったのは、たまたまだった。 盗み目当てで忍び込んだテントの中、彼の身体には全く見合わない小さな檻。 身体全部が白く輝く獅子は神々しいばかりに不思議な毛色をしていたけれど、瞳は昏く沈んでいた。 「すっげー……きれい……」 でもこの檻はあんまりに狭いな、と呟いた俺に、仕方ないさとばかり獅子は尻尾をゆるりと揺らした。 (11) Valkyrie 2019/06/14(Fri) 11:44:12 |
【人】 孤児 ヘイダルこの国で獅子が神格化されていたのは、もう昔の話。 かつては太陽の象徴、盛夏の象徴だった気高き獣が、鞭の合図で吠え、走り、腹を見せて寝転がる様を、俺は忍び込んだ客席の端から唇を噛んで眺めていた。 彼を救い出したいという俺の欲は、独りよがりでしかない、子供じみたものかもしれない。 でもあいつは全然サーカスで大事にされていないんだ。 傷ついてぼろぼろなのに、倒れれば代わりがいるとばかりな粗末な扱いを受けている。 我慢できずに数日後、あの獅子を引き取りたいと申し出てみれば、サーカスの団長には鼻先であしらわれた。 金貨200枚持って来ればいつでもくれてやる、だってさ。 (12) Valkyrie 2019/06/14(Fri) 11:44:47 |
【人】 孤児 ヘイダルわかってる。 金貨200枚集めたところで、今、この街で彼を保護できるだけの環境なんて俺には用意できない。 生まれ故郷に連れて行くのには、また更なる金と労力が必要だ。 連れて行けたところで、あの目立つ見目のゾラフが今更自然界で暮らせる見込みは薄い。 ぜんぶ、わかってる。 大体、何が彼にとって一番の幸福なのかも、俺にはわからない。 でも、"夜明け"の名を冠する百獣の王を、このままにしてはおけなかった。 今更、見て見ない振りをするなんてことは、できなかった。 多少の無茶を重ねて金貨50枚までは貯めた。 でも、もう時間が無い。 5日後には逗留を終え、サーカスは次の街に行ってしまう。 (13) Valkyrie 2019/06/14(Fri) 11:45:45 |
【人】 孤児 ヘイダル「────俺が欲しいのは"ゾラフが望む自由"だ」 金は必要。 でも、金があるだけじゃどうにもならない。 聞いてきたからには「それは無理」とか言わねーでくれよな?* (14) Valkyrie 2019/06/14(Fri) 11:46:13 |
【人】 孤児 ヘイダル音も無く、目の前にふわりと少女が降ってきた。 人としての重さを全然感じさせないその所作に、さんざ「魔神とか"自称"だろ」と嘯いた俺も、薄々とだけどこいつは人じゃないんだなって事を悟りつつある。 なら、わざわざ問わずとも、俺の願いくらい当ててみろってんだ。 収穫を問うてくる声に、悪くはなかったと口端を持ち上げる。 「まあ、ぼちぼち?」 先の"客"は良かった。懐に金貨5枚入った袋を抱えていてくれた。 生きる為だけなら、これほどあれば10日は孤児仲間の分も含めて充分腹を満たすことができる。 ────必要なものを、必要な分だけ。 "彼"に出会う前の俺だったら、もうこれで当面の仕事は控えるところだったけど。 (32) Valkyrie 2019/06/14(Fri) 21:28:01 |
【人】 孤児 ヘイダル足りない。 まだ全然、全然足りない。 時間が無い。 地位も力も、何も無い。 それでも、今の俺に出来る事なんて、 このくらいしか無いから。 「……俺の事、いつから見てた?」 数時間前、色鮮やかなテントの中の俺の姿を見ていたのなら。 ────必ず助ける。待ってて。 銀獅子の檻の前、そう呟いた若き獅子の声を、こいつは拾えていたはずなのだ。* (33) Valkyrie 2019/06/14(Fri) 21:28:34 |
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