![]() | 【人】 XIV『節制』 シトラ[ そうしてわたしは、進んで部屋に籠もるようになった。 朝から晩までアルパカや羊の毛を紡いで、 紡いだ糸で無心に何かを編んでいる間は 何も考えずに安らいでいられたの。 証持ちが編んだことを伏せて 野菜や果物と交換された毛織物を、 どこか遠くの誰かが着てくれている。 それだけで、心が温かくなる気がしたの。 もう随分と長く、青空を見ていないことに気付いても センパスチルの花に太陽を懐かしんでも 幼い頃両親がよく遊びに連れていってくれた、 山間に流れる小川への行き方を忘れてしまっても。 危ないからと、台所に入らせてもらえなくても 読もうと手に取った本を、取り上げられても 紛糾する話し合いだけが村のみんなとの繋がりでも 友達がぬいぐるみしかいなくても。 わたしが、わたしを、我慢することで みんなが、笑顔でいられるなら わたしはそれでいいの。] (414) 2022/12/13(Tue) 0:10:06 |