74 五月うさぎのカーテンコール
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| お待たせしました、蓮司さん。 [店の外に出れば、既に待ってる人影が。 >>0:215駆け寄れば、繋がれる手にはにかみながら。 続く言葉に、首を傾げた。] 呆れるかどうかは 聞いてみないとわからないですけど…… それは、さっき蓮司さんが不機嫌だった話? それとも、シアさんと話してた価値観の話? [カウンターに戻ってきた時の、 シアさんの言葉になんだか含みがあったので。 >>0:226] (1) 2021/05/19(Wed) 1:07:02 |
| [荷物を持とうとしてくれる蓮司さんに、 持てますよ、と一度は断ったけれど。 まだなんとなく思い悩んでる様子に固辞するのも気が引けて バッグを預ければ、並んで歩き出す。]
チェリーのタルト! 食べたかったんです、嬉しい。
賄いでそのタルトに乗ってたチェリーの ゼリー寄せ食べたんですよ。 ちょっとお酒強かったけど、美味しかったなぁ。
[道すがら、いつものように他愛無い話題は尽きず。 同じ高さにある目線は、カウンター越しよりも近くて 仕事終わりの足取りも軽くなる気がした。**] (2) 2021/05/19(Wed) 1:07:15 |
| (a2) 2021/05/19(Wed) 1:11:59 |
[嵐と共に帰宅したのは、マンションの最上階。
広いリビングはモデルルームのように家具と観葉植物が配置され(実際モデルルームをそのまま買った)、生活感を感じさせなかった真白なキッチンにも、今は少しずつ食器や調理器具が揃ってきている。
1室は仕事部屋である書斎。1室は本だけの部屋。1室はキングサイズのベッドが置いてある寝室。遊んでる部屋が1部屋と、ゲストルームとしてシングルのベッドと家具が置かれた部屋が1部屋。
ゲストルームは、今は嵐の荷物を置いてもらうのに使っている。
夜寝る時は、一緒に寝ようと我儘を言うけれど。
何時もより大きな荷物。
持たせてくれたそれをゲストルームに置いて。
彼女が荷解きをする間、自分はキッチンへ。
タルトの箱を開けたら、忍ばせてくれた紅茶に気付いた。
紅茶の淹れ方は教えてもらったけれど、自分の紅茶は少し味が落ちる。
それでも今日は、ウォーターサーバーからお湯を出して、湧かし直すと、手ずから紅茶を淹れた。
嵐の荷解きが終わる頃には、タルトと紅茶の用意が出来ただろう。]
[タルトは綺麗なサクランボが載っていて。
見目も美しい。
さして大きく無いから、食べるのも一瞬だろう。
嵐が食べる姿を見詰めながら、自分は少し考える。]
今日。俺が不機嫌だった話し。
誤解しないで欲しいけど、嵐は何も悪く無いんだ。
ただ俺が…………
その……
嵐が。
他の男に、そう言う目で見られんのが。
たまらなく嫌だっただけ。
ただの嫉妬だ。
ごめん。
それで嵐を不安にさせた。
[言葉にすると本当に情けない。
それなのに口にすると胸の奥の仄暗いムカつきが再燃する。]
本当。自分でも驚くくらい心が狭くて。
正直こんな姿見せて、愛想尽かされたらとか考えると、すげー怖いんだけど。
織戸さんにも、言ってもらえないと気付かないって教えて貰って、まあ、その。
……正直に、話しました。
呆れる?
[多分俺は、本当に不安で、きっと情けない顔をしていた。
笑い話に出来る程度なら良かったのに。
制御出来ない感情は、どんどん自分を蝕んでいく。**]
……早く逢いたかったから。
[人目のないところで身体を折って、おでこ同士をこつんと合わせる。]
[不意に落とされた影、近づいた距離に眼を瞬かせ、息を呑んで。]
……それは、私も、です。
[気恥ずかしくも、ふわり、と微笑む。]
[後ろから包むと、彼女の小ささや華奢さを改めて意識する。
ちょいちょいと頬をつついたら、此方を振り返ってくれるだろうか。
一日働いた後まだシャワーも浴びていない。
臭いと言われたらすぐ離れるつもりだけれど。]
紫亜、
[食事前に「味見」がしたい。
唇が渇きを訴えた。*]
[海色のリボンを首に巻いたカワウソのキーホルダーから
つながっている鍵の出番は、今日はお預けだ。
最初訪れたときは、マンションの最上階にまず驚いた。
しかも本当に人が住んでるのか疑問なくらいスッキリしていて
(書斎と本の部屋を見せてもらって、ちょっと安心した)
改めて生活スタイルや収入などに違いを感じながらも。
この広さならハウスキーピングを頼むのも納得だし、
広くて真白なキッチンには思わずわくわくしてしまったり。
そして、最近少しずつ着替えなどの私物が増えつつある
ゲストルームに荷物をおさめてリビングへ戻れば、
キッチンからいい香りが漂ってきた。]
あれ、この紅茶いつもと違う?
[ティーセットが増えたキッチンで私も
ルフナの香りと、ミルクティーの淹れ方を覚えたけれど。
今日の紅茶の香りは、どちらとも違っていて。
麦くんのサービスの和紅茶だと知れば、興味深々に
タルトと紅茶の前に腰を落ち付けた。]
[まずは台形型のタルトを一口。
ゼリー寄せでも食べた大人の味のするチェリーも
ディプロマットクリームに乗っかるとまた違った味わいで。
ふわりと広がる甘さの後にくるキルシュの風味に頬が緩む。]
美味しい……ほんと麦くんのタルト外れがないなぁ。
ほうじ茶のレアチーズは味見させてもらえたけど
あーこれバナナタルトも食べたかったかも。
[深夜にこれは罪深すぎる味ではないだろうか。
今更だけど、閉店後に賄いを作っていた横で
何やら準備してた試作の仕込みも気になってくる。
あれはおそらく野菜を使ったデザートだろうか。
また今度味見させてもらえるかな。
嬉々として賄いを頬張ってくれた顔を思い浮かべながら
洗い物まで請け負ってくれた後輩店員に感謝と期待を。]
[和紅茶は、渋味やクセが少なくて飲みやすいイメージだけど
市場への流通はあまり多くはないそうで。
タルトと交互にゆっくりと味わいながら、
ふと蓮司さんと目が合えば、紅茶も美味しいです、と
目を細めて淹れてくれた感謝を伝えたけど。
やっぱり、蓮司さんはまだどこか思い悩んでる様子で。
考え込む姿に、黙って待つこと少し。
訥々と語られだした話に、静かに耳を傾けて。
だんだんとまた不機嫌な顔になっていく蓮司さんに
目を丸くした。]
……なんだ。
あ、いえ、なんだって呆れたわけじゃなくて、
怒らせたんじゃないのわかって安堵したって意味で
だから……よかった。
[呆れてません、と首を横に振って。
へへ、と気落ちしてる彼の顔を覗きこんではにかんだ。]
愛想尽かすとかないし、ていうかむしろ……その、
そんな風に心配されたり嫉妬されることなかったから
なんだか普通の女の子になったみたいで
ちょっと嬉しいです。
そっかぁ……嫉妬してくれたんだ。そっか。
[両方、と言ってたことにも納得する。
束縛されたいか聞かれたら、答えはたぶんNOだけど。
私のことで蓮司さんが一喜一憂してくれてることが
素直に嬉しくて、ちょっと浮かれてしまう。
今の顔はきっと、タルトを食べた時より緩んでる。]
[そんなに心が狭いとは思わないし。
そんな言うほど悪い姿でもなければ、むしろかわいらしい
なんて言うと拗ねられそうな気がするので黙っておくけど。
怖いと思いながらも、言ってくれたことは伝わってくるし。]
実をいうと……私も、
蓮司さんのことでちょっと嫉妬したこと、ありますし。
[ほんの少し覚えがないわけではないので。
罰が悪い顔で目を逸らしながら、ぽつりと呟いた。*]
[紅茶の香が違うと言う嵐に。]
和紅茶だって。紅ほまれ。だったかな。
フラウアさん毎回言い間違えるから、もしかしたらお芋の名前を言ってるかも。
[笑いながら一緒にテーブルに座って。
食べる姿をじっと見てた。
自分の中にある重く苦しい心を。
吐露したのは、彼女がタルトを食べた後。
丸い目をした彼女の表情が、嫌悪に歪むのが怖かった。
でも実際に訪れたのは、はにかんだ微笑みで。
覗き込んでくれた彼女の瞳に、はたはたと目が瞬く。]
あ……
[自分の手が、小さく震えてるのが分かって。
酷く緊張していたことを知った。]
……りがとう。
[突然心臓が音を取り戻したみたいで。
緩む嵐の表情に、泣きたくなる。
君は何時でも可愛い女の子で。
俺にとってはかけがえの無い人だと。
伝えたかったけれど、肝心の口が動いてくれなくて。
情けない顔のまま、笑みを浮かべた。]
[けれど続く言葉を聞くと、心配そうに。]
俺に……?
教えてくれる?嵐。
貴女にはこんな嫌な思いして欲しくない。
気を付けるよ。
[手を伸ばして。テーブルの向こうの嵐の手を取る。
そっと温もりを与えれば、彼女は話してくれるだろうか。*]
……!
[後ろから抱き竦められて、小さく身が跳ねる。
悪戯に頬を突付かれて、むずがるように首を振りゆらしながら半身を向けた。
彼の胸元に肩口を預けて、視線を上げる。]
[接客業だからか、彼はいつも香水などは付けていなかった。
それでも、腕に包まれたなら彼特有の匂いがして、安堵する。
乞うように名前を呼ばれて、そっと眼を伏せた。]
……ン、……
[触れ合わせるだけのキスを、一度。二度。
離れる間際に、啄んで。吐息が落ちる。*]
[あまり深くしたら戻れなくなる自信があった。
だから、敢えて音を立てないように気を付けて。
それでも彼女から吐息が漏れたなら、思わず抱き締める腕に力が籠った。
苦しがらせただろうか。
ごめん、と呟く声が掠れている。
そっと腕を解いた。*]
[薄っすらと眼を開いたら、離れていく唇をつい視線が追いかける。
腕の力が強まれば、その腕に手を添えて。
掠れた声には、緩く首を振って小さく笑う。]
続きは、明日……ね?
[そう言いながらも、解かれた腕を思えば何処か寂しくて。
笑みは苦いものが少し混じっただろう。*]
……だよなぁ。
[首が横に振られる。
苦笑して身体も離した。]
先にシャワってくるわ。
お茶は淹れといて貰って良いから。
[最早理性が効かない年頃ではないけれど、一度灯りかけた火を鎮めるには深呼吸だけでは足りないので。
シャツのボタンを外しつつ、シャワールームへと。]
[そして食事はより遅くになってしまった。
彼女がデザートを望むなら先に切るが、そうでなければ自分の食事を待たずにシャワーに行っても構わないと告げる。
起床時間を思えば、早く動いた方が良いだろうから。
彼女がその場にいてもいなくても、まずは淹れて貰った緑茶を一口。
甘くまろやかな飲み口は、毎年通販で取り寄せる静岡の新茶だ。
ほう、と息を吐いて、首をコキコキと鳴らす。
休暇を貰う為とはいえ、数日シフトを詰め過ぎた。
温泉ではしっかり解そう。]
[宇張のおかずはこの時間には本当に罪深い味付けだった。
白飯ならうっかりおかわりをしてしまうところだった。
牛蒡だけではなく蓮根や人参も入っていて食感も楽しい。
この味付けと具材なら、肉は牛小間にしがちだが、選ばれた豚肉も甘辛いタレと絡んで美味だ。
肉で根菜を巻いて咀嚼する。至福。
もう一つの副菜は食感が真逆のとろとろの茄子。
濃い味付けの後のほっとする味に、ごまの風味が効いている。
味噌汁をテイクアウトしなかったのが悔やまれる、と思いながらごちそうさま、とあっという間に平らげた。
おにぎり?食べたのが3つか4つか覚えていない。]
[ほうじ茶レアチーズタルトを半分にする。
濡れ布巾で湿らせた包丁を滑らせれば、生地をあまり崩さずに切ることができる。
上に置かれた甘納豆も仲良く1つずつ置いて、スプーンで分けたチェリーを添える。]
あ〜絶妙の固さだな……。
俺、レアチーズはあんまり柔らかくない方が好き。
ホワイトチョコの控えめな甘さがまた最高……。
うん、麦にも宇張にも良い土産買ってやろ。
[こちらも手を合わせてごちそうさま。*]
[伸びてきた手に、触れられて。
微かにいつもより低い蓮司さんの温もりに、
どれだけ緊張してたのか今更のように知って。]
私のは……嫌な思いってほどじゃないので、
[取られた手を握り返して、温もりを分けながら。
しどろもどろに。]
ほんとに、蓮司さんに比べたら
全然たいしたことないような、もので……
[逸らした視線を、おそるおそる戻せば
心配そうな顔に、う、と小さく唸った。]
[小さく息をついて。]
…………
ちょっと前にあった、ランチタイムのことで。
蓮司さんはいつものカウンターにいたから
聞こえなかったと思うけど。
ホールに出た時、テーブル席の女性二人が
「カウンターの人かっこいい」って話してるの聞こえて。
まあ、あと……いつもいるよとか、彼女いるのかなとか。
それだけ、なんですけど。
[その後バックヤードに戻ったアイドルタイム、
笑顔がこわいって指摘したのは、同僚だったか店長だったか。
卯田さんの言うエグさを利用して
敢えての笑顔で冷ややかな対応をすることもあるのだが。
その時は完全に無意識だった。
確かにちょっともやっというか、イラッというか。はい。]
あー……私も心狭いなぁ。
あっ、蓮司さんに気を付けてほしいとか、
お店に来ないでほしいとか、
全然そういうんじゃないですからね!?
ただ、私が勝手にもやもやしただけ、で……
うー…言葉にすると、すごく恥ずかしいな。
[だんだん首の後ろ辺りが熱くなってきて
手を握ったまま、項垂れるように顔を伏せてしまう。]
……呆れてます?
[いっそ笑ってくれてもいいんだけど。
緊張して、泣きそうな顔で笑った彼に比べたら、
私のはすごく浅くてちっぽけに思えてしまうから。*]
[名残惜しいのは此方も同じ。
離れていく間際に、つんと袖を引いて少しだけ引き留めて。
彼の頬に掠めるようなキスを送った。]
はい、いってらっしゃい。
ご飯も温めておきますね。
[シャワーに向かう彼を見送れば、ちょうどケトルが鳴り始めたので火を止める。
先にシャワーを浴びるなら、もう少し時間が経ってから用意したほうがいいだろう。
少し持て余した時間は、部屋の片付けに費やすことにして。]
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