74 五月うさぎのカーテンコール
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
| ――たまには、いい豆からゆっくり焙煎したコーヒーってのも悪くないな。 香りだけでも気分が上がる。
何も落ち込んでいたわけじゃないけど、少し、ね。 ま、寝れば忘れるさ。 (0) 2021/05/19(Wed) 1:00:00 |
[嵐と共に帰宅したのは、マンションの最上階。
広いリビングはモデルルームのように家具と観葉植物が配置され(実際モデルルームをそのまま買った)、生活感を感じさせなかった真白なキッチンにも、今は少しずつ食器や調理器具が揃ってきている。
1室は仕事部屋である書斎。1室は本だけの部屋。1室はキングサイズのベッドが置いてある寝室。遊んでる部屋が1部屋と、ゲストルームとしてシングルのベッドと家具が置かれた部屋が1部屋。
ゲストルームは、今は嵐の荷物を置いてもらうのに使っている。
夜寝る時は、一緒に寝ようと我儘を言うけれど。
何時もより大きな荷物。
持たせてくれたそれをゲストルームに置いて。
彼女が荷解きをする間、自分はキッチンへ。
タルトの箱を開けたら、忍ばせてくれた紅茶に気付いた。
紅茶の淹れ方は教えてもらったけれど、自分の紅茶は少し味が落ちる。
それでも今日は、ウォーターサーバーからお湯を出して、湧かし直すと、手ずから紅茶を淹れた。
嵐の荷解きが終わる頃には、タルトと紅茶の用意が出来ただろう。]
[タルトは綺麗なサクランボが載っていて。
見目も美しい。
さして大きく無いから、食べるのも一瞬だろう。
嵐が食べる姿を見詰めながら、自分は少し考える。]
今日。俺が不機嫌だった話し。
誤解しないで欲しいけど、嵐は何も悪く無いんだ。
ただ俺が…………
その……
嵐が。
他の男に、そう言う目で見られんのが。
たまらなく嫌だっただけ。
ただの嫉妬だ。
ごめん。
それで嵐を不安にさせた。
[言葉にすると本当に情けない。
それなのに口にすると胸の奥の仄暗いムカつきが再燃する。]
本当。自分でも驚くくらい心が狭くて。
正直こんな姿見せて、愛想尽かされたらとか考えると、すげー怖いんだけど。
織戸さんにも、言ってもらえないと気付かないって教えて貰って、まあ、その。
……正直に、話しました。
呆れる?
[多分俺は、本当に不安で、きっと情けない顔をしていた。
笑い話に出来る程度なら良かったのに。
制御出来ない感情は、どんどん自分を蝕んでいく。**]
……早く逢いたかったから。
[人目のないところで身体を折って、おでこ同士をこつんと合わせる。]
[不意に落とされた影、近づいた距離に眼を瞬かせ、息を呑んで。]
……それは、私も、です。
[気恥ずかしくも、ふわり、と微笑む。]
[後ろから包むと、彼女の小ささや華奢さを改めて意識する。
ちょいちょいと頬をつついたら、此方を振り返ってくれるだろうか。
一日働いた後まだシャワーも浴びていない。
臭いと言われたらすぐ離れるつもりだけれど。]
紫亜、
[食事前に「味見」がしたい。
唇が渇きを訴えた。*]
[海色のリボンを首に巻いたカワウソのキーホルダーから
つながっている鍵の出番は、今日はお預けだ。
最初訪れたときは、マンションの最上階にまず驚いた。
しかも本当に人が住んでるのか疑問なくらいスッキリしていて
(書斎と本の部屋を見せてもらって、ちょっと安心した)
改めて生活スタイルや収入などに違いを感じながらも。
この広さならハウスキーピングを頼むのも納得だし、
広くて真白なキッチンには思わずわくわくしてしまったり。
そして、最近少しずつ着替えなどの私物が増えつつある
ゲストルームに荷物をおさめてリビングへ戻れば、
キッチンからいい香りが漂ってきた。]
あれ、この紅茶いつもと違う?
[ティーセットが増えたキッチンで私も
ルフナの香りと、ミルクティーの淹れ方を覚えたけれど。
今日の紅茶の香りは、どちらとも違っていて。
麦くんのサービスの和紅茶だと知れば、興味深々に
タルトと紅茶の前に腰を落ち付けた。]
[まずは台形型のタルトを一口。
ゼリー寄せでも食べた大人の味のするチェリーも
ディプロマットクリームに乗っかるとまた違った味わいで。
ふわりと広がる甘さの後にくるキルシュの風味に頬が緩む。]
美味しい……ほんと麦くんのタルト外れがないなぁ。
ほうじ茶のレアチーズは味見させてもらえたけど
あーこれバナナタルトも食べたかったかも。
[深夜にこれは罪深すぎる味ではないだろうか。
今更だけど、閉店後に賄いを作っていた横で
何やら準備してた試作の仕込みも気になってくる。
あれはおそらく野菜を使ったデザートだろうか。
また今度味見させてもらえるかな。
嬉々として賄いを頬張ってくれた顔を思い浮かべながら
洗い物まで請け負ってくれた後輩店員に感謝と期待を。]
[和紅茶は、渋味やクセが少なくて飲みやすいイメージだけど
市場への流通はあまり多くはないそうで。
タルトと交互にゆっくりと味わいながら、
ふと蓮司さんと目が合えば、紅茶も美味しいです、と
目を細めて淹れてくれた感謝を伝えたけど。
やっぱり、蓮司さんはまだどこか思い悩んでる様子で。
考え込む姿に、黙って待つこと少し。
訥々と語られだした話に、静かに耳を傾けて。
だんだんとまた不機嫌な顔になっていく蓮司さんに
目を丸くした。]
……なんだ。
あ、いえ、なんだって呆れたわけじゃなくて、
怒らせたんじゃないのわかって安堵したって意味で
だから……よかった。
[呆れてません、と首を横に振って。
へへ、と気落ちしてる彼の顔を覗きこんではにかんだ。]
愛想尽かすとかないし、ていうかむしろ……その、
そんな風に心配されたり嫉妬されることなかったから
なんだか普通の女の子になったみたいで
ちょっと嬉しいです。
そっかぁ……嫉妬してくれたんだ。そっか。
[両方、と言ってたことにも納得する。
束縛されたいか聞かれたら、答えはたぶんNOだけど。
私のことで蓮司さんが一喜一憂してくれてることが
素直に嬉しくて、ちょっと浮かれてしまう。
今の顔はきっと、タルトを食べた時より緩んでる。]
[そんなに心が狭いとは思わないし。
そんな言うほど悪い姿でもなければ、むしろかわいらしい
なんて言うと拗ねられそうな気がするので黙っておくけど。
怖いと思いながらも、言ってくれたことは伝わってくるし。]
実をいうと……私も、
蓮司さんのことでちょっと嫉妬したこと、ありますし。
[ほんの少し覚えがないわけではないので。
罰が悪い顔で目を逸らしながら、ぽつりと呟いた。*]
[紅茶の香が違うと言う嵐に。]
和紅茶だって。紅ほまれ。だったかな。
フラウアさん毎回言い間違えるから、もしかしたらお芋の名前を言ってるかも。
[笑いながら一緒にテーブルに座って。
食べる姿をじっと見てた。
自分の中にある重く苦しい心を。
吐露したのは、彼女がタルトを食べた後。
丸い目をした彼女の表情が、嫌悪に歪むのが怖かった。
でも実際に訪れたのは、はにかんだ微笑みで。
覗き込んでくれた彼女の瞳に、はたはたと目が瞬く。]
あ……
[自分の手が、小さく震えてるのが分かって。
酷く緊張していたことを知った。]
……りがとう。
[突然心臓が音を取り戻したみたいで。
緩む嵐の表情に、泣きたくなる。
君は何時でも可愛い女の子で。
俺にとってはかけがえの無い人だと。
伝えたかったけれど、肝心の口が動いてくれなくて。
情けない顔のまま、笑みを浮かべた。]
[けれど続く言葉を聞くと、心配そうに。]
俺に……?
教えてくれる?嵐。
貴女にはこんな嫌な思いして欲しくない。
気を付けるよ。
[手を伸ばして。テーブルの向こうの嵐の手を取る。
そっと温もりを与えれば、彼女は話してくれるだろうか。*]
……!
[後ろから抱き竦められて、小さく身が跳ねる。
悪戯に頬を突付かれて、むずがるように首を振りゆらしながら半身を向けた。
彼の胸元に肩口を預けて、視線を上げる。]
[接客業だからか、彼はいつも香水などは付けていなかった。
それでも、腕に包まれたなら彼特有の匂いがして、安堵する。
乞うように名前を呼ばれて、そっと眼を伏せた。]
……ン、……
[触れ合わせるだけのキスを、一度。二度。
離れる間際に、啄んで。吐息が落ちる。*]
[あまり深くしたら戻れなくなる自信があった。
だから、敢えて音を立てないように気を付けて。
それでも彼女から吐息が漏れたなら、思わず抱き締める腕に力が籠った。
苦しがらせただろうか。
ごめん、と呟く声が掠れている。
そっと腕を解いた。*]
[薄っすらと眼を開いたら、離れていく唇をつい視線が追いかける。
腕の力が強まれば、その腕に手を添えて。
掠れた声には、緩く首を振って小さく笑う。]
続きは、明日……ね?
[そう言いながらも、解かれた腕を思えば何処か寂しくて。
笑みは苦いものが少し混じっただろう。*]
……だよなぁ。
[首が横に振られる。
苦笑して身体も離した。]
先にシャワってくるわ。
お茶は淹れといて貰って良いから。
[最早理性が効かない年頃ではないけれど、一度灯りかけた火を鎮めるには深呼吸だけでは足りないので。
シャツのボタンを外しつつ、シャワールームへと。]
[そして食事はより遅くになってしまった。
彼女がデザートを望むなら先に切るが、そうでなければ自分の食事を待たずにシャワーに行っても構わないと告げる。
起床時間を思えば、早く動いた方が良いだろうから。
彼女がその場にいてもいなくても、まずは淹れて貰った緑茶を一口。
甘くまろやかな飲み口は、毎年通販で取り寄せる静岡の新茶だ。
ほう、と息を吐いて、首をコキコキと鳴らす。
休暇を貰う為とはいえ、数日シフトを詰め過ぎた。
温泉ではしっかり解そう。]
[宇張のおかずはこの時間には本当に罪深い味付けだった。
白飯ならうっかりおかわりをしてしまうところだった。
牛蒡だけではなく蓮根や人参も入っていて食感も楽しい。
この味付けと具材なら、肉は牛小間にしがちだが、選ばれた豚肉も甘辛いタレと絡んで美味だ。
肉で根菜を巻いて咀嚼する。至福。
もう一つの副菜は食感が真逆のとろとろの茄子。
濃い味付けの後のほっとする味に、ごまの風味が効いている。
味噌汁をテイクアウトしなかったのが悔やまれる、と思いながらごちそうさま、とあっという間に平らげた。
おにぎり?食べたのが3つか4つか覚えていない。]
[ほうじ茶レアチーズタルトを半分にする。
濡れ布巾で湿らせた包丁を滑らせれば、生地をあまり崩さずに切ることができる。
上に置かれた甘納豆も仲良く1つずつ置いて、スプーンで分けたチェリーを添える。]
あ〜絶妙の固さだな……。
俺、レアチーズはあんまり柔らかくない方が好き。
ホワイトチョコの控えめな甘さがまた最高……。
うん、麦にも宇張にも良い土産買ってやろ。
[こちらも手を合わせてごちそうさま。*]
[伸びてきた手に、触れられて。
微かにいつもより低い蓮司さんの温もりに、
どれだけ緊張してたのか今更のように知って。]
私のは……嫌な思いってほどじゃないので、
[取られた手を握り返して、温もりを分けながら。
しどろもどろに。]
ほんとに、蓮司さんに比べたら
全然たいしたことないような、もので……
[逸らした視線を、おそるおそる戻せば
心配そうな顔に、う、と小さく唸った。]
[小さく息をついて。]
…………
ちょっと前にあった、ランチタイムのことで。
蓮司さんはいつものカウンターにいたから
聞こえなかったと思うけど。
ホールに出た時、テーブル席の女性二人が
「カウンターの人かっこいい」って話してるの聞こえて。
まあ、あと……いつもいるよとか、彼女いるのかなとか。
それだけ、なんですけど。
[その後バックヤードに戻ったアイドルタイム、
笑顔がこわいって指摘したのは、同僚だったか店長だったか。
卯田さんの言うエグさを利用して
敢えての笑顔で冷ややかな対応をすることもあるのだが。
その時は完全に無意識だった。
確かにちょっともやっというか、イラッというか。はい。]
あー……私も心狭いなぁ。
あっ、蓮司さんに気を付けてほしいとか、
お店に来ないでほしいとか、
全然そういうんじゃないですからね!?
ただ、私が勝手にもやもやしただけ、で……
うー…言葉にすると、すごく恥ずかしいな。
[だんだん首の後ろ辺りが熱くなってきて
手を握ったまま、項垂れるように顔を伏せてしまう。]
……呆れてます?
[いっそ笑ってくれてもいいんだけど。
緊張して、泣きそうな顔で笑った彼に比べたら、
私のはすごく浅くてちっぽけに思えてしまうから。*]
[名残惜しいのは此方も同じ。
離れていく間際に、つんと袖を引いて少しだけ引き留めて。
彼の頬に掠めるようなキスを送った。]
はい、いってらっしゃい。
ご飯も温めておきますね。
[シャワーに向かう彼を見送れば、ちょうどケトルが鳴り始めたので火を止める。
先にシャワーを浴びるなら、もう少し時間が経ってから用意したほうがいいだろう。
少し持て余した時間は、部屋の片付けに費やすことにして。]
[頃合いを見計らって、茶葉を蒸らす。緑茶の温度は低めがいいというから時間を置いてちょうど良かったかもしれない。
同時に賄い用の容器とおにぎりを温める。これは電子レンジの力を借りて簡単に。
レンジから取り出せばいい匂いがした。
程なくしてシャワールームから物音がしたら、彼が戻ってくる合図だろう。
タイミングもちょうどいい。]
[デザートは一緒に食べたいからと言って、彼が食事をする間に先にシャワーを借りることにした。
しっとりと汗ばんだ身体を洗い流して、明日のための準備に備える。
お風呂上がりには持参したボディミルクを塗って、ほんのり甘い香りを付けて。
肌にはランさんと一緒に買い物に行った際に購入した、淡い薄紫のレースの着いたセットのランジェリーを身に着ける。]
んー……ちょっと、派手過ぎたかも。
[バストアップの鏡の前で、自身の姿を確かめてぽつりと。
普段は着ない色が見慣れない。
でも、彼が周年祭の時に作ってくれたスイーツと、杏さんが作ってくれたペアのうさぎを見た時からこの色にすると決めていた。
私にとって何気ない色だった一色は、特別な色になりつつある。]
[据え置きのパジャマはもこもこ素材のゆるめのルームウェアにした。
パーカーのついたトップスに、下は太腿を隠す程度の丈のボトムス。
丈は短くても室内だから寒さは感じない。
濡れた髪をゆるく纏めて、シャワーから戻ればちょうど彼も食事を済ませた頃合いで。]
あ、もう食べちゃってます?
私も食べたいな。
[対面に腰を下ろして、湯上がりのデザートを堪能する時間。]
[握り返してくれた手が、温もりを与えてくれる。
小さくなって語る言葉。
赤くなって項垂れる姿。
尋ねる言葉に微笑んで首をふった。]
呆れないよ?
今度遭遇したら、『彼女居ますよ。』くらい言っても良いけど。
お店の売り上げ的に、やめておきます。
声をかけられることがあれば、伝えるし……。
その人たちが居る事を教えてくれたら、嵐の手にキスくらいしようか?
[恥ずかしがり屋の彼女は絶対頷かないだろうけれど。]
[自宅は徒歩圏内、それも結構近い。
駅からは反対方向。店から5分ほどのところに、小さいながらの持ち家がある。
といっても、親の代からのもので築は相当経っている。]
どーぞ。
[明かりをつけながら、部屋の中へ。
L字になっている変形のリビングルームは、入って目の前に寝れるレベルの大きめのソファがある。
そこから地続きで、カウンターキッチン。
一人暮らしらしくないしっかりとしたファミリー用の冷蔵庫も鎮座ましましている*]
呆れないし……。
本当だ。嫉妬されると、少し嬉しいね。
[くすりと嵐に微笑んで。
お店でしない代わりに、繋いだ手を引き寄せて。
手の甲に口付けを落とした。]
[半分に切られたレアチーズを受け取って、フォークで一差し。
私の知ってるレアチーズとは違う、甘さ控えめの和風の味に思わず頬を抑えた。]
ん〜……、おいしい!
甘納豆が乗ったチーズタルトなんてはじめて食べます。
フォークで挿して
ちょっと跳ね返ってくるぐらいの硬さ、私も好きですよ。
[ちょこんと乗った甘納豆を食べて、ほわりと表情が崩れた。*]
もやもやしたら、言って。
もやもやが晴れるまで、愛してるって囁くし。
俺が好きなのは誰か、教えてあげる。
それじゃ、ダメ?
[微笑みかけて。ああ。抱きしめたいな。]
俺にして欲しい事があったら、なんでも言って。
俺からも一つ。嵐にお願いしても良い?
約束して欲しい事があるんだ。
[手を握ったまま。首を傾げて嵐を覗き込んだ。*]
─ 6年越しのおじゃまします ─
失礼します…
ああ、
[小さく声が漏れた。
しばしばと目を瞬かせ、服の胸のあたりを握る。]
[風呂上りの紫亜は良い匂いがする。
擦り寄ってしまえば先程「明日まで待て」されたのに学習しない男と思われてしまいかねないのでぐっと堪えた。
先程だって、滅茶苦茶我慢して離れたのに、ほっぺちゅーなんてするし!
最初は足が出るデザインに戸惑ったものだが、流石に何度も見ると慣れた。
これは多分明日の荷物に含まれないだろう。
明日の夜は見慣れない浴衣姿を見られるのが楽しみだ。]
おかえり。
先に頂いてるよ。
[紫亜の分の皿を前に出す。
乗せたフォークがかちゃりと音を立てた。]
上のパウダーは緑茶とほうじ茶の間みたいな……香りはしっかり立ってるけど食ったら青い。
で、甘納豆と一緒に食べて豆を歯で潰した時の甘さが広がったら、化学反応みたいに全体が甘く感じて、まさに「一粒で二度おいしい」感じがするよな。
[二人で同じものを食べて同じ味を共有する楽しさ。
家でこんなに楽しいのに、明日からどうなってしまうんだろう。]
[満腹のままだと眠れないから、洗い物は任せてもらうことにして。
皿を下げるついでに洗面所に寄る。]
紫亜、ほら、髪解くぞ〜。
[纏められた髪はまだしとりと湿り気を帯びる。
彼女が泊まるようになって購入したマイナスイオンが出るというドライヤーを持って、掬い上げた髪に温風をかけ始めた。*]
[ソファの近くまで行ってじっと見下ろした後、保冷バッグを肩から外した。]
じゃあ、お借りしますね。
とりあえず入れて30分後くらいに中の冷え具合をみてみます。
[カウンターキッチンに入って、そわそわと周囲を気にしながら。
冷凍庫を開けて良いか断ってから、アイスの容器二つを投入。]
[いきなり待ち時間が発生する。
困り顔。
びよんびよんと伸び放題で邪魔くさい手足を折り畳んで、ソファに浅く腰を下ろした。]
ジンさん。
俺、ここに来たことあるの──ジンさんはもう忘れてるかも知れないけど。
スープをくれて、泊めてもらって。
次の朝熱を出しちゃって、追い出すに追い出せなくて?その日もいさせてくれたんですよ。
[あの時はすごく大きな家だと感じていた。多分今よりも視線の高さがずっと低かったから。*]
[淡く笑みを含んだ声に、ちら、と顔を上げ。]
……店内でキスとかしたら、もう店じゃ口ききません。
[売り上げに響くほどのことじゃないとは思うけど。
そこだけは断固として譲らない構えで、
蓮司さんを睨んだものの。
あんまり嬉しそうに微笑むから、
不機嫌な顔も続けられなくて、困ってしまうし。
手の甲が熱くて、更に顔が火照った。]
……ダメ、じゃないの
わかって言ってるでしょ。
それを言うなら、
蓮司さんも不安なとき言ってください。
シアさんが言う通り私は、
言ってもらわないと、気づきませんからねっ。
[もうどうやったら機嫌が治るのか
あっさり見透かされ過ぎてて、恥ずかしくて。
口を尖らせながら言い返したら。]
良いも何も聞いてみないと……
改まって、お願いって?
[覗きこんでくる顔に、首を傾げて。
落ち着かなさ気に、私より骨ばった手の甲を指で撫ぜた。*]
好きにしてちょうだい。
何の場所がどことか面倒なこと言わないから。
[冷凍庫を開けていいかと問われたら、当然とうなずく。
ここでNoを出したら溶ける一方ではないか。
中身は馬刺し用の馬肉の赤身とか、スモークサーモンだとか。
あとは冷凍で保存している野菜類やら。
スカスカというほどではないが、ジェラートのタネくらいは入る。]
へえ、ほうじ茶だけじゃないんですかね?
何使ってるんだろう。
「一粒で二度美味しい」は、お得感があっていいですね。
[基依さんの説明に耳を傾けながら、そうしてまたぱくりと一口。
深夜のスイーツは背徳感がある。
その罪深さも相俟って、美味しさを感じるのかも知れない。
最後に残ったチェリーは、]
基依さん、
[名前を呼んで、口に運ぶ。
彼が気づいてくれたなら、テーブル越しに身体を寄せて、
口移しで甘いチェリーを彼の口に押し込めた。]
[店じゃ口を効いてくれないと言われた。
それじゃあ、我慢するしかないなと笑い声をあげて。
口を尖らせる嵐に。ああ。可愛いなぁと目を細める。
けれどお願いを聞いてくれる事になれば。
すっと表情を改めて、嵐の顔を覗き込んだ。]
……もし。
ナンパでも、道を歩いている時でも。
少しでも不安を感じたり、怖いと思ったら。
躊躇わずに警察や俺に、連絡して。
迷惑だとか、意識過剰だとか、考えないで。
何処に居ても、駆け付けるから。
必ず連絡して。
それを、約束して欲しい。
[真剣な顔で嵐を見詰めて。
そこには冗談や微笑みは一切無かった。]
君は普通の女の子みたいで嬉しいと言ったけど。
俺にとっては最初からずっと、素敵な女性です。
今は誰よりも可愛い、大切な人です。
君に怖い思いや、嫌な思いはして欲しくない。
俺の不安を案じてくれるなら……
約束して。
相手に違和感を感じたら、俺に連絡するって。
通話してるだけでも、防げる被害があるから。
[心からの願いだったから。
真っ直ぐに、嵐を見詰めた。*]
覚えてるよ。
あいにく記憶力はある方でねえ。
なんて、ま、最初に来たときはすっかり忘れてたけど。
日記書くのが趣味でね。君のことも書いたなって、なんとなく思い出した。
[6年前、あまり事情は聞かなかったように思う。
家出ではないと聞いたが、家に連絡していいかとか、そんな程度。
人様の子供を預かるわけで、本来ならやりすぎるくらい身元を確認したりするべきだったんだろうが、6年前からある種の放任主義はかわらない。]
……今さら、聞いていい?
あの日、何があったの。
どうしたの。
[時効だろうと当たりをつけて、問いかけながらそっと、折り畳まれた腕の先をなぞる。
手指を重ねて、体温をうつした。
攻撃的な意思ではないことが伝わればいい。
触れ合うことで安堵を得て話せたらと。]
[背徳感を堪能して、お茶を飲み干した後は。
掛けられた声に、はぁいと返事をして洗面所に向かう。
彼の手にはドライヤー。]
わ、乾かしてくれるんですか?
[お言葉に甘えていそいそと鏡の前に立つ。
温風が伸ばした髪を揺らして、髪の隙間に彼の手が滑り込む。
首筋に掛かる温かさと、髪に触れる手付きの優しさに気持ちも緩んで、ほう、と溜め息をつく。
長い髪を乾かすのは結構時間が掛かる。
でも、彼は髪に触れるのが好きみたいだから、お任せしてしまっている。
もしかしたら自分で乾かすよりも丁寧にしてもらってるかもしれない。*]
ああ、ほうじ茶だよ。
ただ、店で売ってる「完成した」ほうじ茶じゃなくて、自家焙煎で途中で止めてるんだ。
その加減が絶妙って話。
[色づき始めたらすぐに焦げてしまいがちの葉を、香りを立たせつつ良い塩梅で止めるのは、紅茶沼歴の長い卯田でも少し自信がない。
麦は下の生地との色味バランスもきっと考えていたのだろう。
あっという間に消えたほうじ茶レアチーズの次はチェリー。
3粒ずつ分けたものを卯田は一口で放り込んだ。
咥内に広がる酒精とチェリーの果汁。]
ん?
――――――
んん
?!
[………俺は一体何の修行をしているのだろう。
思わず遠い目になってしまいそうだ。
呼ぶ声に顔を上げたら、チェリーが唇を通過した。
ぷちゅり、潰れたチェリーの果汁が二人の咥内に注がれる。
顎から垂れた汁を舐めとりたいのをぐっと堪えてティッシュを差し出した。]
どーぞ、お姫様。
[言ったことはない筈だが、紫亜には多分卯田が髪を触るのが好きだとバレているだろう。
柔らかでつややかな髪を持ち上げてさらさらと落としながら温風に晒す。
手櫛で解いて、ジグザグに動かし。
地肌を揉んで毛穴マッサージまで。
プロではないのでそこまで上手ではないかもしれないが、毛束を取っては乾かす、というのを繰り返せば、やがてふわりと紫亜の髪が美しく背中で波打った。]
……痒いところはないですか〜?
[それはシャンプーの台詞。
そんなことを冗談のように笑いながら。
今日ずっと煽られっぱなしだった仕返しに、頸筋から耳裏まで指腹がすうっと何往復か彷徨った。*]
う、え…
[腕の先に触れる気配にビクっと体が固まった。
伝わってくる体温。
光が飛びながら強さを増すみたいに、指先に灯った熱が腕を通って身体中を走っていく。]
あ、あの。
[覚えてる、と聞いて丸く開いた眼が、忘れてた、には下を向いていた。
でも日記に書かれるほどには印象深かった?いやそれは、そうだろう。普通は。]
[振り払えないからそのままの姿勢で身動きできない。]
ただの、迷子デス、よ。お腹すいて動けなくて……
[安堵、どころか緊張する。
赤い頬を隠すみたいに下を向いたまま。]
日本に久しぶりに帰ってきたんです。一人で。
それで、頼りにするはずの親戚の家が、わからなくなって……お金もギリギリしかないし。
[親の仕事でしばらく海外にいたこと、
この国の高校に入りたくて単身帰国したこと。
地方の地元まではヒッチハイクかバスで帰るつもりだったこと。
泊めてもらうアテはあったけど、特別親しいわけじゃなくて、忙しいだろうに連絡して保護者役を押し付けるのが申し訳なかったこと。]
だから別に、深刻なことなんてなくて?
どうってことなかったんです。
でも、親切にされて嬉しかった。
恩を感じたし、好きになりました。
[そっとそうっと腕を持ち上げて、重なりあった手をやわく握る*]
[ぴくりと跳ねるように固まった身体。
普通なら、ごめんねと引いてやるべきなんだろう。
だけど、こんなにも手足が長くなったって、記憶の中にいる少年は、震えていた子供で。
今なお、その印象は変わらない。
身体が大きくても、怯えた子猫みたいで、離せない。
手の甲を、撫ぜる。]
お腹空いて動けないのは、充分深刻でしょ。
少なくとも俺にとってはね。
[笑ってみれば、空気は緩むだろうか。
緊張感のあるこわばり、うつむいた視線。どちらも解したい。]
そう。
そういや、海外にいたみたいな話、聞いたな。
今もそこに世話になってるの?
[フラウア、と名乗る彼の基盤は、そこにあるのかもしれない。
結局、呼び名は一度も決められないままだ。
いつでも、君、と呼んでいる。]
[不意に、彼の表情が真剣なものに変わる。
微かな緊張に、握った指がぴくりと小さく震えた。
大袈裟すぎるだとか。
そんなことする物好きいないとか。
いつもの私だったら、言ってしまうけど。]
……はい。約束します。
[真っ直ぐ見つめてくる目が、
本気で案じてくれてるってわかるから。
素直に頷いて、目を細めた。]
大切にされるっていうのも、
嬉しいものなんですね。
蓮司さんを不安にさせないよう、
気をつけます。
[ちゃんと届いてます、とはにかむように笑いながら。
もう一度手をぎゅっと握って。]
[少し名残惜しげに手を離す。]
食べ終ったら、そろそろ寝る仕度しますか。
シャワー借りてもいいです? あとタオルも。
そういえば、蓮司さんはお仕事は大丈夫なんですか。
[ご馳走様でした、と手を合わせて。
空になった皿やティーセットを流し台へ運ぼうか。*]
迷子で、心細くて、お金もなくて、慣れない国で、お腹が空いてる子には優しくしなさいって家訓でね。
ま、俺が作ったけど。
そんな子をほっとくとかさ。俺がやだったの。
それが嬉しかったんなら、俺も嬉しいね。
[好いてくれるのは悪い心地はしない。
手を尽くしたぶん、親切にした子が懐いてくれるのは嬉しいじゃないか。]
よくがんばりました。
[握られた手と反対側をそっと持ち上げる。
彼の頭に触れることは叶っただろうか*]
[へえ、とお茶の話に感嘆の声しか出ない。
完成されたお茶以外のものも売られているのかとか、色々気になることはあったけれど。
基依さんが褒めているのならば、きっとフーくんは凄腕のパティシエさんに近いのだと知れる。
SASANKAに入った新人くんはこれからも期待できそうだ。
甘いものには目がないから、きっとこれからもお世話になることはあるだろう。]
期待の新人ですね? 基依センパイ。
[なんて、軽口を叩いて冷やかしておいた。]
[甘い悪戯は不意打ちで驚かせたい気持ちがあったから、反応を見れば上々だ。
けれど驚かせすぎたのか、チェリーの果汁が飛び散って、顎を伝う。
指先で唇に残った雫を払いながら、差し出されたティッシュを受け取って。]
……ごめんなさい、驚かせちゃいました?
[と、機嫌を伺ったけれど。
その声には笑いが滲んでいたから、返って煽ってしまったかもしれない。]
[お姫様扱いにくすくすと笑いながら、風を受ける。
気持ちの良さにうっとりと目を閉じた。
湯上がりで、お腹も満たされて、温かい風を受ければ、自然と漏れそうになる欠伸を両手で抑えて堪える。
頭皮を柔らかくマッサージまでされてしまっては、うとうとしてしまうのも仕方がないのでは?
サロンでよく聞く言葉にふ、と笑いが漏れる。]
大丈夫です。気持ちいいで……、んんっ……
[お客さんよろしくそう応えていたら、艶かしく動く指先に、ぞくりと身が震えて、背筋がピンと伸びる。]
〜〜〜〜〜もうっ、
基依さんっ!
[顔を赤くしながら、ばっと首裏を手で抑えて窘めた。
悪戯に悪戯で返されてしまって、唇を噛む。
これだからタチの悪い男は、ずるい。*]
[彼女は約束してくれて。
自分も力を抜いて、目元に笑みを浮かべる。
握ってくれた手を、握り返して。
笑みを交わした時間は、安堵と共に満ち足りていた。]
[手が、離れて。]
湯船に湯が張ってあるから。
ゆっくり浸かって、疲れを癒すと良い。
立ち仕事、疲れるでしょう?
タオルでも何でも、自由に使って。
俺は夜は寝る事にしてる。
朝起きて、朝昼晩食べて、毎日散歩して。
食事に行くのも散歩だったり……。
意識はしてるよ?健康。
[何度か来てくれてるから、タオルの場所は分かるかな。]
[立ち上がって、食器を運ぶのを手伝って。
背中から嵐を抱きしめる。]
ゲストルームは好きに使ってくれて良いけど……
一緒に寝よう?
[小さく囁いて、耳元に口付ける。
肩越しに嵐を見詰めて微笑むと、手を離した。
疲れているなら無理強いする気は無いけれど。
せっかく彼女が居るのだから、一緒のベッドで横になりたかった。**]
[ムギ、って言いにくい。ミュージ、とかムギーとか。
それで麦って意味だと伝えたらこうなった。]
ん、と…
はい。居候、です。
迷惑だし、一人暮らししたいけど都会は家賃高くてスゴイ。
はい
[髪に触れた手に擦り付けるみたいに首を傾けた。
心地良さそうに目を細めて、でも]
……でも
でも、違うんです。
今は迷子じゃないし、大きくなったし、俺は──
お腹は空くけど…でも。
[すり、すりと頭を擦り付けて。]
撫でて欲しいけど、好きだからです。
冗談じゃ、ない。
……あ
あの、困らないでください。
心細い子を甘やかしてくれるんでも良いです。大好きです。
[優しくて格好いいですね、真顔でいつも通り褒め称えて*]
[「先輩」と呼ばれるのは中学以来かもしれない。
指で雫を払う様子に一瞬目を奪われる。
こんな風に、逐一此方のスイッチを「押しかけては引っ込める」ような真似をされたら焦れるというものだ。
とはいえ仕返しに返る反応に余裕を保てるかと言えば完全に心中のようなものだった。
意思を持って肌を指が滑る。
まるでいつも抱いている時のように。
晒した首に吸い付きた―――――――]
……残念。
[叱られて、パッと手を離す。
色づいて粟立った肌が本当に美味そうで、これは中々長い夜になりそうだと思ったから、今晩は自分は床で眠ることにした。
襲われたくなかったらこの条件は絶対に呑んで貰わないといけない。**]
もー少しで、それなりの金額は渡してあげられると思うけど。
君、シフトしっかり入ってくれてるしね。
[慣れも早く、腕もいい。
少し甘えたな気質は感じるが、もう少し(俺も含めて)慣れたら、自慢の我が子なんですよと笑える日が来るのも遠くない。
そうなるころには、普通に暮らす程度なら困らない金額をわたしてあげられるだろうと思っている。]
そうだね。……うん。うん。
[迷子じゃない。大きくなった。彼の言う言葉をひとつずつ肯定する。
撫でてほしいなら、そうしよう。
心地よさげにすり寄る頭は、手に馴染むアールを描いている。]
……好き?
[紡がれた理由を、繰り返す。]
…………うん。いや、困ってない、けど。
困ってはないけど。
――……
[沈黙。困っていないと言う割には長い間。]
俺のこと、好きなの。
[真っ直ぐ、聞き返してみようか。
彼なら答えてくれる気がした。
なんて、どちらが甘えているんだろう*]
[沈黙。
これは、まずったかも知れない。
うにゅと眉尻が下がる。
いつもの褒め言葉は空気の表面を上滑って、どこかへ転がっていってしまったよう。]
――……
[同じだけの長い間。]
[聞き返す言葉に耳を傾けて、声音のもつ意味を考えてみる。
けれどここで引くことができるなら、履歴書握りしめて転がりこんだりしてない]
好きですよ。ジンさん。
お腹がいっぱいになっちゃうくらい好きです。
[また沈黙が続くだろうか。と、
思った矢先に、目を覚まさせるようにアラームが鳴った。]
あっ、あ、ちょっと
[わぁ、とキッチンへ駆けて行って冷凍庫チェック。
容器を開けて中を触ってみて、パプリカのシャーベットの方だけ、中を手早くかき混ぜた。]
すいません……まだまだ固まってなかったデス。
[戻ってきて、ソファの足元の床にぺたんと座った。*]
[優しくて格好いい、が滑っていったのは、実感がないせいだ。
行き倒れを助けたのは事実なので、優しいという評価はつくだろうが、それ以上を見出だせなかったし、格好いいだなどと言われる姿を見せた覚えがない。
場を曇らせないように紡がれた、方便のように思った。
眉尻が下がるのを見て、沈黙。]
んん。
[どうして、を紡ぐ前に、アラーム。
ぱたぱたと駆けていく姿をかわいいな、と思ってしまって、ひとり肩を竦める。]
っはは。
そっか。
君のせいじゃなし、謝るようなことじゃないでしょ。
[へたりと床に座る様子がおかしくて、からから笑う。
改めて、ソファの隣を示して。]
座って。
……どうして、って、聞いてもいいかな。
あ、全然、嫌とかじゃなくてさ。
理由を聞きたいんだ。
きっと君は、俺に、あの日助けたっていう以上の気持ちを、抱いたんでしょ。
[そういうことだと自惚れるならば、だけれど。]
……俺はね。格好よかった試しはないよ。
だけど君は格好いいって言うだろ?
そういう、君に見えてる俺の話が聞きたい。
どう?
[叶うなら、その儚げにすら見える身体をそっと、抱き寄せよう。
体重を少し、分けてもらうみたいに*]
[その日の夜は、分かれて眠りについた。
しゅんとした基依さんに一瞬絆されそうになったけれど、許してしまったらきっと明日の朝は起きられない。
彼の部屋に泊まって別々に眠るなんてことは今まではなかったから、隣に感じられない体温を少し寂しく思う。
「本当に床で寝るんですか?」と尋ねてみたけれど、彼の意思は頑なだった。
だから、旅行先ではいっぱい甘やかしてあげようと心に誓っている。]
[翌朝、彼より少し早起きして身支度を整える。
レモンシフォンのバルカン・ブラウスに、
オフホワイトのフィッシュテール・スカート。
前後で長さの違うスカートは前身頃がやや短く膝を覗かせる。
長く歩くだろうから、パンプスはヒールのないものを選んだ。
メイクは洋服に合わせて明るめに。
ベージュゴールドのアイシャドウを引けば、ラメがきらきらと光る。
グロスはオレンジを重ね塗りして発色良く見せて。
支度が整えば、まだ眠っている彼の肩を揺らして。
なかなか起きなかったら、目覚めのキスを頬に落とす。
梅雨の晴れ間の天気は快晴。
旅行日和にわくわくしながらいつもと同じように手を繋いで、彼の部屋を後にした。]
[温泉へ向かう電車の中では、彼の同僚のメールからSASANKAの今夜のメニューの話になった。
画面を隣から覗き込んで、今日も好きな野菜が並んでいることに「いいなぁ」と羨望の声を上げる。
オクラはシンプルに茹でて鰹節とポン酢で食べたいけれど、
お店で出すならまた違った味を楽しめるだろう。
かぼちゃは料理にもいいけれど、甘いスイーツでも食べてみたい。
ラム肉は食べたことがないけれど、煮込んだら柔らかそうだ。
彼の言うテリーヌも食べてみたいと、やっぱり話題に上がるのは料理の話。
SASANKAから離れても、料理のことばかり考えている基依さんに笑いながら、電車は順調にレールを進んでいる。]
[駅からバスに乗り継いで、ようやく辿り着いた温泉地は平日でもそこそこ賑わいがあった。
旅館に辿り着いてチェックインを済ませたら、早速二人分の浴衣を選ぶことになる。
基依さんには黒地に細かな格子模様の浴衣を。
帯はわずかに鼠色がかった白色を選んで。
自分用には青紫がかった紺地を選んだ。
柄の白抜きの菊と黄色い冠菊の花火が映える。
帯は基依さんに合わせてアイボリー系の白にして、菊花のような唐松文様が浮かんでいる。
生地も思っていた以上にしっかりしているし、これなら温泉街も十分に堪能できるだろう。
早く袖を通してみたくて、期待に胸が膨らんだ。]
[浴衣と旅行鞄を手に案内された部屋は二間続きの純和風のもの。
ゆっくり出来るようにと露天風呂付きの客室を選んだから、部屋の奥には脱衣所へと向かう扉が見える。
食事も部屋食で済ませられるようにか、部屋の中央には大きなローテーブルと座椅子が置かれていた。]
すごい、基依さん。
お部屋に露天風呂がありますよ!
いつでも入れますねっ。
[荷物を置いて、早速と部屋の中を探索する。
備え付けられた窓からは温泉街がよく見えた。
そわそわする気持ちを抑えきれずに、はしゃいでしまう。
こっちこっちと、窓辺に立って手招いた。**]
すわ
[俺、好きだって言いましたが?
隣を示す仕草をじっと見て、また顔が赤くなる。
ソファに膝で乗り上げると座面が軽く沈んで、正座で向き合うために少し背を丸めた。]
どうして、ですか…?
ジンさんは顔も格好いいですが?
[首が斜めになる。
体ごと引き寄せられると、慌ててソファの背もたれに片腕をついた。
反対の腕は宙に浮く。正座から中腰へと浮いた体が傾いて、体重の一部が、]
俺、好きだって言ってるのに
……
[そのまま、はふ、と息を吐いた。]
一目惚れ。
子供の一目惚れなんて、薄くて、頼りないものなんじゃないかって思いました。
だけど。
あれから何年も、何度も、ストリートビューで店の前まで来ました。
ハッシュタグでシャシャンカを調べて、どの写真にも違うご飯が載っていて。
どこかにジンさんが少しでも写り込んでないかって。
募るばっかりで。
再会できてからはもっとずっと、毎日毎時間。
髪を縛ってるところ。仕事してる横顔。コーヒー淹れる仕草。
立ってるとこも座ってるとこも歩いてる姿勢も格好いいです。
店のみんなのこともお客様のこともきちんと見ていてくれるとこ。
あんまり好きじゃなさそうなのに食べてくれるとこ。
見守って、自由にさせて、育ててくれるとこ。
愛してるって冗談を言って。格好良くないなんて言って。
あの時何も聞かないでいてくれて、今は聞いてくれたこと。
助けてもらったからだけじゃないです。
好きだって言ってるのに……
抱きしめてくれるところ。ほんと冗談じゃないです、よ。
[宙ぶらりんで所在なかった片腕を下ろした。**]
顔……
[冴えない自信しかない。が、目の前の彼にとっては違うのだろう。
ぺたぺた触ってみても何が変わるわけでもない。ひげの剃り残しに出会って、所在なさげに目が泳いだ。俺の家なのに。]
一目惚れ、ねぇ。
6年経って劣化してなきゃよかったけど。
[6年という月日は大きい。
生まれたての子供が小学校に通える。
振り返ればそんなときから店をやっているし、年食ったなと自重しないでもない。]
薄くない薄くない。
知ってるよ、俺もしたことあるからね。
あれは不思議なもんだよなぁ。本当に、ほんの一回会った、触った、それで忘れられなくなるんだよな。
俺が写ってる写真は、見つけた?
[それが自分に向いてると思うと、どうもこそばゆくて茶化してしまったが。
けれど否定はすまい。わかるよ、と優しく囁いた。]
はー…………愛されてるなぁ、俺。
[否定はしないが、並び立つ好きなところたちには呆気にとられる。
褒められているとは思うのだが、如何せんただ普通にしていたら褒められたという気分で、実感は全然やってこない。
ただ、ある一点についての言及は、小さくやべ、とこぼして。]
……バレてた?
別に食わないって訳じゃないんだけどな。
フルーツとかはむしろ好きだし。
なんて言うか、優先順位が低い? いやー……
うん。ごめんね。
[ランチにドルチェをつけるくせに。
毎日のように季節のフルーツを仕入れるくせに。
今まで製菓に特化したスタッフがいなかったのは、この理由も大きい。
悟らせてしまったことに、謝った。]
そーだね。
本当なら、こんな思わせぶりなことするなとか、怒られても仕方ないんだろうけど。
心細い子を甘やかすでもいいって言ったのは、君だからね。
これは俺流の甘やかし方ってことで。
[よしよし、とそれこそ子供にするようにまた頭を撫でて、ゆっくりと、今度は腕の中に抱き寄せる。]
ごめんね。
君が俺を想ってた6年は俺の中にはないから、今ここで君に答えを返してあげることは出来ない。
[真っ直ぐに好意を伝えてくれた彼だから、きちんとこちらの思いも、伝えようと思った。]
だけど、よければ受け止めさせてほしい。
すぐに答えが返せないからって、サヨナラゴメンナサイできるほど、非情になれないやつでね。
とりあえず今夜はこれくらいしか渡せないけど、それでいいなら。
[頭を撫でていた手をするりと降ろして、あやすように背中を叩く**]
[「したことある」
経験談として過去形で語られる終わった恋。
そうだよ、忘れられなくなるんだよ。
客の撮った写真。たまにしか写ってないとこも素敵です。]
好きなもの食べる時は、嬉しそうデス。
俺のには違うから、わかるよ。
……謝らないでください。
好きになって欲しいけど、好きになれとは、言えない。
[それでも甘やかしてくれる。
受け止めようとして、くれるから。差し出してしまう。]
蓮司さんは私を甘やかしすぎな気がする。
でも、ありがとうございます。
[湯船が張ってあるとか、至れり尽くせりでは。
一人だとその辺、簡単なシャワーで済ませてしまうから
仕事終わりには純粋に嬉しい。
改めて聞くと、私より余程健康的な生活だ。
夜シフト入った翌日は、昼頃まで寝てしまったりするし。
食事は三食摂るけど時間はまちまち、歩くのも通勤くらいだ。
ともかく、彼の仕事が詰まってそうでないのなら。]
じゃあ、私が夜シフト休みの時
一緒にSASANKAへ食べに行きません?
私もたまにお客様として食べたいので。
ご飯もだけど、麦くんのスイーツ色々食べたいし、
頼んだら蓮司さんにも一口ずつあげますね。
[楽しみ、と想像して笑って。]
あと本の部屋にも、また入っていいです?
読んでみたい本が色々……、 っ
[食器を洗おうと水を出したところで、
抱きしめられて小さく肩が跳ねた。]
ちょ、濡れ…… ひゃ!?
[耳元に落とされた声と感触にぞわっとして
慌てて振り返れば、意地悪い微笑み間近にあって頬が染まる。
けれどそれ以上はなにもせず離れていく手に
ちょっと物足りないような気分になりながら。]
もう。お風呂出たら、そっちの寝室に行くので
大人しく待っててくださいっ。
今日すぐ寝ちゃいそうな気がしますけど、
……もし蓮司さんも眠かったら寝ててもいいですよ?
その時は、隣に潜り込むので。
[寝室のベッドは余裕のキングサイズだから、
仮に真ん中に寝られてもスペースには問題ない。
勿論、タオルとかの場所もわかってるから
洗い物を片したら、着替えを持ってバスルームへ行こう。**]
[今夜はこれくらい。
線引きがされたことでようやく、ずっと強張っていた緊張が抜けていく。
それ以上進んじゃいけないと分かれば、振る舞い方も]
ん、はい。
6年なんて、どうってことないです。
昨日より今日、明日、これからもっとどんどん好きですから。
今は、これで。
[ソファの背凭れに突っ張っていた腕からも力を抜けば、抱き寄せられる力に上体が従って。体重を預ける。
腕の中に入ってしまえばあたたかさが心地良く。
背中を叩く手にあやされて、喉を鳴らした**]
[床で寝た翌朝は身体が痛いが、今日から温泉でケアできると思えば暫くは我慢しよう。
紫亜に起こされて伸びをすると、骨が軋む音がした。
彼女は既にメイクまで済ませて準備万端だ。]
晴れて良かったな。
[卯田の方の準備はそう時間がかからない。
洗顔と髭剃り、着替えはシンプルに黒シャツとジーンズで。
朝食は駅前のパン屋でベーグルサンドを買う。
スモークサーモンとアボカド、照り焼きチキンとサニーレタスの2個。]
[野菜好きの紫亜としては、レコメンドボードの内容に心惹かれるものがあったらしい。
基本的に「おすすめ」は旬のものが並ぶから、旅館でもオクラやかぼちゃは食べられるかもしれない。
ラム肉は流石になさそうだから、それは店の次の機会を待ってもらうしかないが。
常に料理の話しか話題を広げられない自分に彼女は呆れてはいないだろうか。
ちゃんと耳を傾けてくれる彼女に甘えているなと思いながら、彼女が好きなファッションに詳しくなる自分を想像しようとしたがどうにも違和感しかなかった。
何せ「そういうデザインの服」だと思わずに、真っ直ぐ履けていないのじゃないかと紫亜のスカートを数度見て瞬きしたくらいだ。
かといって、「わからないから嫌だ」というのではなく、彼女が好きなものに目を輝かせているのが見ていて楽しいから、此方が上手く返せなくてもずっと続けて欲しい。
彼女にとっての卯田の料理話もそうであったら良いなと思う。]
[浴衣選びも彼女の好みに任せた。
よくスーパー銭湯で見かけるようなぴらぴらの布ではなく、ちゃんと「服」だ。
これでも温泉街を気軽に出歩いて自分で脱ぎ着がしやすいよう簡略化されたものらしい。
帯も半幅より更に細い腰紐のような、蝶結びが出来る柔らかさを保っている。
紫亜が選んだ女性らしい菊の柄は、着たらきっと映えるだろう。
此方で何か時間に追われるイベントを予約している訳ではないので、二人のペースで着替えてぶらぶら散策してみるのが楽しみだ。]
ありがとうございます。
はい、夕食は19時で大丈夫です。
[案内してくれた仲居さんに礼を言って、部屋に荷物を下ろす。
普段豪遊とは縁遠い生活をしているので、今回は奮発した。
外の自然に反射した陽光が差し込んだ部屋はHPで見るよりも落ち着きがある。
室内を見てはしゃぐ紫亜の様子を見てにこにこしていたら、手招きされた。]
お〜「温泉街」ってあんな感じなんだな。
この後着替えて行ってみようか。
それともひと休みしてからにするか?
結構移動時間かかったし、疲れてないか?
[十分な広さのある出窓に腰かけて、紫亜を抱き寄せた。
彼女がこのまま膝の上に乗っても軋むような漸弱な作りではなさそうだ。
下には人の行き来が見えるが、日差しも高いから上を見上げる人はいない。*]
[仲居さんがお辞儀をして部屋を後にすれば、広い部屋には二人きり。
旅先の空間という滅多にないシチュエーションに浮かれながら、挨拶を終えた彼を待ちきれずに手を引いた。]
んー……、確かにちょっと歩き疲れたかも。
外に出て足湯とか探してみます?
お部屋のお風呂でもいいですけど。
[足湯に比べれば少し深いかもしれないが、他に誰が見るわけでもなし。多少服が濡れたところで、着替えもある。
腰に回された手に気づいたら、促されるままに膝の上に身を預けて。
この高さであれば目線も近いから、サングラスに隠された眼が透けて見える。]
基依さんは?
何かしたいこととか、行きたいところとかあります?
[するりと両腕を首筋に回して、甘えるみたいに小首を傾ける。
朝に食べたベーグルもとうに消化しているだろう。
少し時間は過ぎたけれど、遅い昼食もいいかもしれない。]
外に出て探したら余計疲れないか?
紫亜が良いんなら良いけど。
[膝に乗せて身体を揺らす。
密着した分、サングラスが彼女の服に引っかかって破れてはいけないので、そっと外して横に置いた。
これでガラスを隔てずに紫亜が見える。
余談だが、卯田は視力が弱い訳ではなく単に紫外線に弱いだけなので、室内では特にしなくても問題ない。
夜もサングラスをしているのは単に癖のようなものだ。]
昼から風呂に浸かるのも贅沢で良いな。
部屋風呂なら一緒に入れるし?
[にぃと笑って、近くにある紫亜の瞳を見つめた。]
――シたいこと?
それ、俺に聞く?
[
首筋に回る手に擦り寄って、ちゅ、と音だけ立ててキスの真似。
小首を傾げる紫亜に合わせて顔を傾けて、「ん?」と見る瞳は意地悪気に細められている。*]
それはそうなんですけど……、ひゃ……
[身体を揺らされて咄嗟に彼の肩に縋る。
思わずと漏れた声に歯噛みして、唇を結んだ。
密着した身体での悪戯は、それが意図したものでなくても「あの時」を思い出してしまうから気恥ずかしい。
ましてや、お昼間からお風呂に誘われたなら余計に。]
…………。
[サングラスが外されて、顕になった瞳が弧を描く。
昨夜からの「おあずけ」はまだ続いている。
絶対、お風呂に浸かるだけでは済まない気がした。]
[囁くような声
に、息を呑んで。
音だけのキスに物足りなくなる。]
…………基依さんの、えっち。
[こつりと額をぶつけて、非難する声は酷く甘い。
答える代わりに「ん」と唇を差し出して、ゆっくりと瞼を下ろした。*]
[昨夜のおあずけに比べると随分声が甘い。
差し出された唇に乗るつやつやのグロスは舐めても思ったより甘くはないんだな、なんて。]
知らなかったか?
……俺も、紫亜を欲しいって思うまで、知らなかった。
昔の俺からじゃ想像もつかないだろ。
[彼女をそういう対象と見ていなかった時に比べたら。
怖がらせたり幻滅されたりしないかという恐れは今でも少しある。]
此処だと流石に外が気になるな。
そのまま掴まってろ、 よっと!
[首筋に腕を回させたまま、彼女の腰を支えて立ち上がった。
もう片方の手を腿の下に移動して体勢を整える。所謂「お姫様抱っこ」というやつだ。
そのまま出窓を離れ、露天風呂に繋がる脱衣所で降ろす。
何度か角度を変えてくちづけながら、彼女の服を脱がせていった。
皺になったり破れたりしてはいけないので、果実の皮を剥く時のように慎重な指遣いで。]
[上下揃いの下着の色を確認した瞳が少し驚くように開いて。
先日買ったやつか、というのは聞くだけ野暮だ。
暫くじっと彼女の白い肌を彩る薄紫のレースを見て、彼女の顔を見て。]
似合ってる。
[と呟く唇から零す息を耳孔に落とした。*]
[彼のために用意したグロスが彼の唇に移る。
私と同じ色の艶めいた唇を指先で拭ってあげながら、淡く笑む。
彼に欲しいと言ってもらえることが嬉しいから。]
昔の基依さんも好きでしたけど、
今のほうが、好き。
[妹として見られていた時の優しい温度とは違う。
熱量の篭もった視線に見つめられて、身体が震えた。]
[彼の言葉に外に視線を移せば、]
え、きゃっ……
[不意に身体を持ち上げられ、瞬く間にお姫様抱っこされたまま脱衣所へと運ばれて。
何度も落とされるくちづけに溶かされながら、肌を晒されていく。
下着が顕になった時、彼の眼が僅かに見開かれたことに不安を覚えたけれど、耳朶に掛かる吐息の熱さが不安を洗い流して、じわりと下着に小さな沁みを残す。]
……選んで、よかった。
[はにかむように笑って、嬉しさを顕にしたら。]
ね、基依さんも、脱いで?
[今度は彼の番と言うように、促して。
彼のシャツへと手をかけた。*]
[彼女の唇から奪ったグロスは彼女の指に移った。
拭って貰っておいて申し訳ないが、きっとこれからオレンジは消えてしまうだろう。
舐めて吸って甘く噛んで、自分と居る時だけの色に染める。]
……うん。
今後も更新記録狙おう。
[「昔の方が良かった」なんて、一瞬でも思われないように。]
[彼女は軽い。
そしてどこもかしこも柔らかくて、抱き上げたら壊してしまいそうだ。
降ろす時には痛くしないように気を付けた。]
普段の色とちょっと違うから、驚いたけど。
紫亜の色、だしな。
俺の好みがまた増えた。
[自分に見られることを想定して選んだかのような口ぶりに、口元は緩んだまま戻らない。
カップに指を引っ掛けて中身を暴こうとしたら、此方も脱ぐようにと指示が。]
[シャツの裾に手をかけて、がばっと乱暴に脱いだ。
畳むのは後だ。]
紫亜、
[下を脱ぐには、既に兆した部分を見られてしまうと気まずいので、キスで視界を塞ぐことにした。
舌を差し込んで、ゆるゆると彼女のそれに絡ませながら、ベルトのバックルを外す。
ジーンズも床に落として片足ずつ引っこ抜いた。
畳むのは後だ。]
は……、
[唇を離せば上がった息が固まりとなって彼女の鎖骨に落ちる。
脱ぎ終えて空いた手は彼女の肌に吸い付いて、肩甲骨から尾骨まで、手の温もりを分け合うように撫でおろされた。
形の良い臀部を両手でやわやわと揉む。]
折角可愛いのを見せてくれて嬉しいんだけど、
脱がせても良いでしょーか?
[双丘を揉む手から伸びた指がクロッチに滑る。
新しい下着が汚れる前に、とは思うけれど、散々深いキスで翻弄した後だから、もう遅いかもしれない。*]
[甘やかしてるつもりは無いのだけれど。
嵐から見たらそう見えるらしい。
自分は何時も湯船に浸かるから、大した労力でも無い。
休みの日にも『SASANKA』に行きたいという嵐に微笑んで。]
良いよ。行こう。
俺がフラウアさんに怖い顔してたら、眉間でも解して?
まあ。フラウアさんなら大丈夫だと思うけど……。
[心の狭い俺は、店長にガチで嫉妬してる事。あります。]
デザートの食べ比べ。楽しそうだ。
お酒に合うデザートも作ってくれるらしいよ?
[くすくすと笑う。]
[笑いながら、嵐を抱き締めて。]
本棚の部屋?勿論。
書斎以外は、自由に出入りして。
仕事部屋だけは、床に原稿散らばってたりするから……
ん?
どした??
[意地悪したつもりは無いのだけれど。
赤く染まる嵐に微笑みは抑えきれなくて。]
[手を離せば少し名残惜しそうな嵐に。
思わず再度手を伸ばしたくなってしまう。
仕方ないから、布巾に手を伸ばして、洗ってくれた食器を拭こう。一緒に食器を片付けて。]
疲れてるんでしょ。ゆっくり入っておいで。
[別れ際にキスをして。
当然起きて待ってるつもりだけど、それを言ったらゆっくり出来ない気がしたので。
浴室に向かう彼女を見送った。**]
……顔に出てんのは、よくないんだよなあ、あんまり。
特に君らの作ったものをさ、スキキライで判断しちゃいけないと思ってるから。
好きに、なれるといいんだけどね。
[飲食業をするにあたっての自分の欠点だとは思うし、悩みの種ではあるのだが。
今のところは『好きになれとは言えない』に甘えてしまいそうだ。]
……ん。
なんか、してほしーこととかあったら言ってね。
可能な範囲で検討する。
[何でもする、と言わないあたり、ずるい大人だなと自分でも思う。
そのくせ、ばかみたいに単純なものだから、6年間の焦がれを聞いただけで、どうにも愛おしく見えてくるから困り者だ。
さて目下男同士だというハードルはあるが、昨今それも大きな障害ではないか。
力を抜いて腕の中に納まる身体。自分のそれよりも大きな、けれどまだ細い、身体。
その輪郭を確かめるように、何度も背中を、肩を、腕を、手のひらで往復した。]
ところで、君、もう酒は飲める歳なんだっけ。
高校行くのにこっち来たのが6年前っつーと、えーっと……?
[高校生って何歳だっけか。確か18でAVコーナーののれんをくぐれるようになるつって意気揚々制服で挑んだ記憶があるから、卒業するのが18の歳?]
一応ってとこか。ぎりぎりだな。
[パワハラは回避したがアルハラもよくない。
思えば洋酒を使ったゼリー寄せなんかも作っているから全くダメではないんだろうけど、直接飲むのとは話が違う。
肩並べて飲めりゃなあと思ったが、今日はやめておこうか*]
[記録は随時更新されていて留まることを知らない。
そのことを口に出すよりも先に、唇を塞がれてしまうから。
今、そのことを伝えるのは諦めてしまった。
触れる手付きは優しくて、ひたすらに私を甘やかしてくるから困る。
まるで壊れ物を扱うみたいな素振りが、妙にくすぐったくもある。
ちょっとやそっとじゃ壊れないのだから、多少乱暴にしてくれてもいいのに。
なんて言ったら驚かせてしまいそうだから、心の内に締まっておく。]
ちょっと、派手かなとも思ったんですけど……、
基依さんが、選んでくれた色だから。
[それは色に限らず。私自身にも繋がっている。
新たに彼の好みが知れて、また一つ、彼のライブラリが増えた。]
[
勢いよく脱いだシャツから顕になった胸板に眼を瞬いたのも束の間。]
……、ンッ、……
[名前を呼ばれると共に、息を吹き込まれていく。
口腔を蹂躙されていくうちにだんだんと力が抜けていく。
気づいたら、しなだれかかるように彼の胸の内に収まっていて。]
……ぁ、…
[解放された唇から、吐息が零れ落ちていく。
肌を滑る手にぞくりと身を震わせて、熱に浮かされた瞳が潤む。]
[彼の手が徐々に降りてきて、覆い隠した部分に触れたら。]
……、やっ……、
[ビク、と身体が揺れて、思わず彼に縋るように腕を弱く掴む。
買ったばかりのショーツが既に汚れてしまっていることに頬を染め上げて、俯きながらこくりと頷きを返す。
自身のはしたなさに顔を上げられないまま、瞼を伏せれば、ふるりと睫毛が震えた。*]
[普段のファッションの傾向からすると派手かもしれないが、つくりはしっかりしていて頼りない部分もないし、デコルテも綺麗に出ているから上品な印象を受ける。
このまま好みだと言えばよりセクシーな下着でもつけてくれるのではないか、という甘い考えを試すのは今度にして。
深くくちづけて唾液を交わせば、グロスよりも咥内の方がずっと甘い。
声が漏れる度に疼く箇所を理性で宥めるのが大変だ。
瞳が潤む程感じてくれているのが嬉しくて、ますます溶かしたくなる。]
嫌?
[じゃないことはわかっている。
くちりと小さく響いた水音に目を細めた。]
紫ー亜、顔、見せてよ。
ちゃんと気持ちいいって、教えてくれ。
[頷いたまま下を向かれてしまったから、瞼にキスを落として視線を誘う。
一度手を上に上げてホックを外し、腕から抜くのは彼女の意思に任せておいて、下に戻る。
薄い布地を下げようとして、くるくると丸まるのに少しだけ苦労した。
こちらも足を抜くのは彼女のタイミングに任せよう。]
風呂まで歩けるか?
[此処で抱くにはムードも趣も足りない。
一度軽くシャワーで流してからかけ流しの温泉の中で、と思ったけれど。
どうしても風呂場が気になるならば、一応室内に戻るつもりではある。*}
キライの顔はしてません よ?
俺が、笑ってくれたらいいのにな、って思ってただけです。
[好きがいっぱい顔に出るのは、良くないのだろうか。]
はい、成人してます。一応、それなりに。
お酒の味はどれも好きだけど、パフェやケーキでも酒の飲める男デス。
[酔うほどには飲んだことがなかった。
おつまみがあるとバクバク食べちゃう。]
ジンさんお酒好き?
お店でもたまに、お酒飲みたいって言ってる。
……。
[目を細める。
背中を、肩を、腕を撫でていく往還。
四肢を脱力して、心地よさだけを受け取るように意識を逸らす。
体温だけ分かち合うような接触。
いつかのあの日は、触れられた手のひらが冷たくて気持ちよかった。発熱に倦んだ体に。]
してほしい、 こ、とは
……いっぱい撫でてください。次のアラームまで。
それから、シャーベットとジェラート。試食してくださいね。
─ 夏のアイスは(あまり)甘くない ─
[シャーベットは、ザリザリとしてむしろグラニテのような食感に出来上がった。
食事中に挟むのにも丁度いいくらいのリンゴとパプリカの甘さ。]
家庭用の冷凍庫でもちゃんと出来そう、良かった。
角切りパプリカは…こうやって果実を入れる時は、もう少し小さく切った方が食べやすいでしょうか。
[焼き茄子のジェラートは一度も崩さずに放置で作ってみたが、ふわふわと柔らかな食感で問題なさそう。
焦がした皮の香ばしさと、茄子の瑞々しさ。すりゴマの分量も悪くないように思った。]
こっちは、これは今ナスとクリームの甘さだけです。
このまま肉料理に添えても面白いかと思って。
ドルチェとして出すときは、みたらしソースをかけて。…お醤油あじ、欲しくなる感じだから。
[お酒にあいますかね、と、真剣な面持ちで試食待ち**]
キライの顔してなくっても、スキとそうでないはわかるってことでしょ。
あんまり差出したくないの。
[それは試食をする側として、店を切り盛りする側としてのエゴ。
人間である以上どうしたって好みは出るが、スタッフたちは最良を出してくれているし、客観的に臨みたいのだ。
事実、タルトたちにも正しい評価は下せている、はずだ。
だから本当は、全部うまい、おいしいと平らげたいのだというエゴ。]
あー、そういうタイプ?
最近流行りだよね、パフェと酒。
[俺はムリです、とは口に出さないものの、態度に若干出ている。
今更取り繕っても仕方ない。]
お酒、好きよ。
あの冷蔵庫、野菜室の方ほとんど酒しか入ってないし。
休みの日とか、テキトーに料理してさ。そのままキッチンドランカー。
今度ゆっくり飲もうか。
休みの日、とかさ。
[無意識にこぼれた次を約束する言葉は、彼の耳にどう届くだろう。
しかも、夜中の数時間、でない次を。]
そんなんでいーの。
言われなくてもそのつもりだったんだけど。
[要求は、警戒していたよりずっとおとなしかった。
いや、こちらの脳内が下世話だっただけかもしれない。
なんだか思い切りやさしくしてやりたくなって、きゅ、と抱き寄せる腕に力を込めた。]
……俺に食べさせたい味、なんでしょ。
食べるに決まってる。
――そうしてアラームの後――
[鮮やかな野菜の氷菓がふたつ、きらきらと冷えている。]
どうかな。
果肉がかちかちに凍ってしまうんじゃなきゃ、大きめのほうがベースとの食感の違いが出ていいと思うけど。
フリーザーに常に準備しておくこと考えると、小さい方がいいのかね。
[試食となると、つい頭が仕事モードになってしまう。
小山にスプーンを差し入れて、一口。]
――あ。
うん、うまい。
[うまい。
素直にそういって、もう一口。
微かなパプリカの青みが、甘すぎずさっぱりとしている。
自分のための味だというのを、恥ずかしながら感じてしまった。
[続いてのジェラートは、なめらかでも少しもったりとして、風味が違う。
甘さは自然のもの、という程度で、あとは胡麻とミルクのうまみ。
単品の好みで言えば前者に軍配は上がるが。]
ああ、いいね。ローストビーフ……なんかもいいけど。
俺はこれ、ガスパチョに入れたい。
あとあれだな、ミントとオリーブオイル足して、きのこのソテーにかけるとか。
[アイデアがつらつらと出てくるのは、これはこれで気に入った証左だ。
飲みたくなってくるなーと思いはすれども、今日はやめとこう。もういい時間だし。]
みたらし……は、イメージ湧かないけど、そうだね。
塩気が欲しくなるのは、わかる。
キャラメルサレとかでもいいんじゃない。
[何なら塩かけてそのまま食べたいが、ちょっと趣旨からはずれるだろう*]
── 嵐の居ない間 ──
[コップに水を注いで、書斎に入る。
書斎の窓辺に置かれた鉢植え。
細く優雅な線を描く植物に、そっと水を注ぐ。
『ウチョウラン』
名前を見て、つい、手に取ってしまった。
植物を育てる事が自分に出来るのか。
少々不安に思うこともあったけれど……
小さな蕾はまだ開かない。
嵐が風呂から上がった気配がすれば、部屋から出る。
次は自分が入って来るから、先に寝てても良いよと口付けて。
烏の行水にならない程度に、さっと風呂に浸かって来よう。**]
[たくさん、いっぱい撫でてもらって。
優しく抱き寄せられて。
満たされたつもりになっていた。まずいことになるのはもっと後。
落ち着いた表情で氷菓を矯めつ眇めつ。]
そうか……時間が経つとどうなるか、このまま冷凍庫に入れててみてもらってもいいです?
[パプリカのグラニテにふたくち目のスプーンが入るのを見て、
シャーベットが溶けるみたいに笑った。]
いいですね、きのこも合いそう。
しゃぶしゃぶの薄いお肉で包んだり。
……あ、キャラメルサレ!
[バンザイすると遠心力で危ないので、胸の前で手を合わせた。
イナバウアー…はちょっと年齢的にわからないデス。]
[そして、もう口実は尽きる。]
ありがとうございました。
これで早朝からお店に出なくてもランチ向けに仕込めそうなことはわかった……けど、
[実際の運用はどうしようか、と。
とりあえずしばらくはディナータイムのお客様たちに評判を聞いてみるべきだろうか。]
遅くまで、お邪魔しました。
……明日寝坊しないでくださいね。
あの。こんど。
休みの日の……本気にしちゃうから、冗談なら教えてください。
[下を向いて、自分の爪先をぼんやり眺め。]
俺、酔っ払ったことなくて──
キス魔だったらどうします…。
[帰りたくないからって馬鹿なことで時間を引き延ばしている、自覚はあった*]
[分かっているくせに聞いてくる辺りがずるい。
ますます顔を上げられないでいれば、瞼を唇が掠めるから、やっぱりずるい。
視線を上げて、見下ろす視線と交えたら、伏し目がちにぽつりと零す。]
だって……、
……恥ずかしいんですもん……
[何度か身体は重ねたけれど、いまだに慣れることはない。
こちらは彼の口付け一つ、手の動き一つですら翻弄されてしまうのに。
負けじと武装したブラもショーツも解かれて、残されたのはあられもない身一つ。
未だ、彼を満足させられてるかは分からない。]
[問われる声には、はい。と頷きを返して。
誘われるままに露天風呂へと足を踏み入れる。
一度熱を持った身体は、シャワーで洗い流しても冷めないまま、じくじくと身体を蝕んだけれど。
湯船に浸かれば、少しは忘れられるかもしれない。*]
そーね。明日とか様子見てみようか。
一晩突っ込んどいて。
このままだと食べちゃいそう。
[冷凍庫はもう勝手知ったるものだろうと、しまうなら任せよう。
その間に、茄子のジェラートを味見などして。]
あー。
いいね。水菜とかも足そう。食感重視。
[冷たさと温かさの共演になるか、冷しゃぶでやるか。
個人的には前者だが、どちらも喜ばれそうだ。]
これ好きだわ、俺。
スイーツとしてアリかはわかんないけど。
[頭の中では、これを店で出すことばかりが渦巻いている。
これから茄子はどんどん旬になるし、活かしていきたいな、と思っていた最中。]
……え?
[お邪魔しました、の響きに、何度か目を瞬く。]
帰んの。
[そりゃあ、帰りたいなら止める権利なんてないんだけど。
いつもは帰れなくなった奴を泊める部屋だったから、帰るという発想がなかった。
当然のように泊まっていくと思っていたから呼んだのだ。
男といえど、深夜にひとりで帰すのは忍びない。]
……冗談のつもりなかったけど、そう聞こえたんなら日頃の行いだなぁ。
[視線が落ちる子の向かい側。
床にしゃがみこんで、その目を見上げてみよう。]
いいね。
酔わせてみようか。
……無理はしてほしくないけど。
[キス魔だったらどうします。
それが意味することがわからないほど馬鹿じゃない。
それでもいいよと、笑ってみせた*]
[浴室前の脱衣所で顔を覆う。]
はぁ―…………蓮司さんてば、
もー……もー…。
[家事が出来ないなんて、本当だろうか。
湯船の用意はできるし、紅茶も淹れられるし、
さっきなんて一緒に食器を片づけてくれたし。
一緒にキッチンに立ったり何かできるのは嬉しいけど、
苦手なことを無理に頼むつもりはないのに。]
ぅー……私ばっかり、
もらいっぱなしな気がするなぁ……。
[色々と。そう、色々と。
抱き締められる心地良さも、部屋に誘ってくれる囁きも。
物足りなさをさり気なく埋めるような、やさしいキスも。]
[いつだって蓮司さんは想いを言葉や行動にして、
私を喜ばせてくれるから。
私もたまには喜ばせたいなぁ、なんて
思ってしまったわけで。
結局シアさんの太鼓判をもらってもまだ
着けられていない下着は、ゲストルームの荷物の底。]
……とりあえず、お風呂入ろ。
[蓮司さんもまだなら、私のあとに入るかもしれないし。
疲れてることにも違いないから、
早く入ってしまおうと服に手を掛けた。*]
蓮司さーん。
あれ、どこにいるのかな。
[かぶりタイプの上下だぼっとしたルームウェア姿で
リビングをきょろきょろと。
寝ちゃったのかもと寝室の扉に手を掛けたところで、
書斎の扉が開いて振り返った。]
あ、そっちにいたんだ。
遅くなってごめんなさい、つい湯船が気持ちよくって。
[体が温まったせいだろうか、だいぶ眠くて。
髪を乾かすのもちょっと億劫だったのを思い出しながら
目を擦っていたら、また見透かしたようなやさしい声。]
ん……
[すぐ離れていく軽いキスに、手を伸ばして服の裾を掴み
追いかけるように私からも触れるだけのキスを。]
ふふ。いってらっしゃい。
[目を細めて笑い、
入れ違いに浴室へ向かう背中を見送って。
噛み殺せない欠伸に、寝室に入りこめば
広いベッドにぼすんと突っ伏すように倒れ込んだ。
うとうととしながら、ふと鼻をかすめた匂いに顔が緩む。
いつものように、シャンプーやリンスも借りてしまったから
蓮司さんと同じ匂いがして。
まだ慣れないけど、傍にいるみたいで嬉しくなる。
先に寝てていいとは言ってたけど、
くるまで起きてようと重い瞼と格闘すること数分。
心地いい匂いと肌触りのいいシーツに
気づけばふわふわと幸せな微睡に落ちていた。*]
[……うんまあ恥ずかしがる姿がまた可愛いのだけれど。
恥かしいのに一度はちゃんと目を合わせてくれるところも可愛い。
伏し目がちな顔に更に煽られて、密着した下肢の質量が増す。
押し付けるように動いたら、また違った表情が見られるだろうか。
こんな風になるの、紫亜が愛しいからだって、早く実感してほしい。]
足元気をつけて、石だから滑りやすいかも……
[歩行が覚束ないのは中心に重さを抱えた此方もだが、転ぶわけにもいかないので、寄り添って露天に繋がる扉を開けた。
外気が肌に触れて産毛が逆立つが、初夏の昼間だけあって震えるほどの寒さはない。]
[先にざっと身体を流してから紫亜にシャワーを渡した。
二人で風呂に入るのは初めてだから、当然身体を洗うところも見たことがない。
あまりに恥かしがらせて機嫌を損ねたくはなかったので、湯船で待ってる、と先に背を向けた。]
はあ……
[熱い風呂に浸かると思わず声が出る。
血管が収縮した影響か、先程までは角度を誇っていた箇所も落ち着きを取り戻していた。
彼女が洗い終えて此方に来るならば手を貸して、一緒に肩まで浸かる。]
俺でも足が伸ばせるのって良い〜〜
あ〜……一緒に入るの初めてでテンション上がってんなぁ。
……うりゃ。
[自宅のユニットバスは狭い。
だから、こうして一緒に入ることなんて絶対できない。
湯の中で紫亜に抱き着くと、湯がぱしゃりと跳ねる。
ふざけるように何度もキスをして、湯の中でそっと裸の胸に手を伸ばした。
掌に収まる膨らみは、最近ますます揉み心地が良くなった気がする。*]
え……
[帰るの、って聞かれるの、帰らなくていいの、?]
あのだって、今夜は。
[俯いた視界に顔が生えてくる。
はるか上からのアングルは見慣れなくて、視線の逃げ場がなかった。]
うあ、あの。
どうしてですか……
今夜はこれくらいしか返せないって。だから俺、普通の顔できたのに。
帰らなくていい、なら。
──もう、酔ってしまいます…
[笑顔を見下ろしていた。
頬の熱が戻ってくる。
ぽぽぽ、と染まって、耳の先にも色がついて、指先が火照って、
しゃがむにしゃがめなくて、顔を両手で隠した。*]
[お風呂上がりの嵐は、微かに頬が上気して良い香りがする。
だぼっとしたルームウェアに、目が細まって。
目を擦る姿に、先に寝てて良いよと声をかける。]
お風呂。ゆっくり出来たなら良かった。
[胸の奥が温かな気持ちになる。
慣れない事も、苦にならない。
彼女が微笑んでくれたらそれだけで……
キスをして、風呂に向かおうとしたら、服の裾が掴まれて掠めるような口付けが落ちた。
何度か瞬いて、幸せそうに微笑みかけて。
いってらっしゃいの声に、いってきますと答える。
そんな何気ない事が、どれだけ俺を幸せにしてくれるだろう。]
[風呂から上がって、髪を乾かすのも面倒だったけれど。
濡れた髪で嵐が風邪を引いては行けないと、乾かして。
寝室に戻れば、微睡の中の嵐が居た。
起こさないように、気を付けてベッドに入って。
自分と同じ香りのする髪に口付ける。]
おやすみ。嵐。
[起きないと良いけれど……
腕を回して、抱き寄せる。
身じろぎしたなら、優しく背中を叩いて。
髪の毛に顔を埋めて、目を閉じる。
嵐の明日のシフトはどうだったか。
何時に起こせば良いかな、と。
閉じた瞼の裏で考えた。]
[夏の日の陽は長く朝は早い。
カーテンから微かに漏れる光の中、腕の中に嵐が居る事に微笑んで、彼女を起こす。]
嵐。……嵐。起きて。朝だよ。
[優しく囁いて。
朝が弱くて寝起きの悪い彼女は起きるかな?
起きないようなら口付けて。
抱き寄せて、髪に、額に、頬に、唇に。
愛おしいと思うままに口付けて。
彼女が重い瞼を瞬いたなら……]
[私の言葉をどう受け取ったのか。
ぐっと近づいた距離が隙間をなくして下肢に当たるものに気づいたら、かぁ、と頬が朱に染まる。
彼も同じ気持ちであると分かって嬉しいけれどこれには顔を覆いたくなった。]
うん……
[先立つ彼に身を寄せて、扉をくぐれば昼間の明るい日差しに照らされて、温かな湯気が立ち上る。
その時ばかりは火照る熱を忘れて、わぁ……、と感嘆の声を上げた。]
[先にお風呂へ向かう彼を見送ってから、シャワーを浴びる。
どこを見たら良いのかも分からずに視線を彷徨わせていたから、ちょっとだけ隠れてほっと息をついた。
決していやなわけではないけれど、二人でお風呂に入るのも、こんなに明るい日の下で彼の身体を見るのも始めてだったから眼のやり場に困る。]
お湯加減、どうですか?
[お風呂に向かえば、聞こえてくる溜め息にも似た声に笑って。
差し出された手を取って、湯船に身を浸す。
ちゃぷんと、お湯が揺れて肌を撫でる。]
はぁ……、気持ちいー……
[基依さんと同じような感想が零れてまた笑ってしまう。
隣に腰を落ち着けて、両手を組んで前に伸ばして身体を解した。]
ユニットバスだと、足伸ばせないですもんね?
……きゃっ、……、……
[お風呂を堪能する様子をくすくすと笑いながら見ていれば、ぱしゃりと湯が跳ねて目を瞑る。
あっという間に腕の内に囚われたら、悪戯な手が胸に伸びて、ンッ、と息を詰めた。]
ぁ、も、といさ……ンッ……
[漏れそうになる声を殺して、僅かに身を捩る。*]
どうしてって……
いや確かに、今夜はこれくらいしか、って言ったけど。
まさか帰ると思ってなくて。
[視線が噛み合って、離れない。
離れないなら、それでいい。
逃さないように、逃げ出してしまわないように。]
君が嫌じゃないなら、俺ソファで寝るし。
[嫌じゃないなら、は俺のベッドで寝ることにかかっている。
あと、寝間着の裾が足りないかも、とか。]
……俺に?
[酔ってしまう、と顔を隠すのがやけに可愛くて、からかいたくなって笑ってみる。
視線が合わなくなったら、立ち上がった。]
酔いざましにシャワーでも浴びる?
パジャマに出来そうなの、クルタくらいしかないけど。
[ゆるくて長い丈が気に入って着てる部屋着だ。洗い替えがいくつかあるから、すぐに出せる。
それでも彼には短いかもしれないが。]
うん、温泉サイコー……
[この愛撫が始まってまだ羞恥心が勝っている時の声の殺し方が好きだ。
ここから段々と抑える余裕がなくなるところも。
ただ此処は一応「外」で、声がどこまで響くかはわからない。
自分だけが聞きたいから、今は抑えてもらおうか。
戦慄く唇を自分のそれで塞いだ。]
息は鼻でしてて。
[とは無茶な話か。
どこまでキスで喘ぎを飲み込んであげられるか、チェリーの茎を結ぶのが得意な男の腕の見せ所。]
[持ち上げて膨らみを水面から出し、手を放して落とす。
マッサージをするように腰回りも摩って。
熟れてしこった紅色が視界に入るけれど、少しの間は焦らして触らずに。
散々身体の色んな箇所を手で愛でた後、漸く左右同時にきゅ、と甘く摘まんだ。*]
こっちこっち。
タオルここね。あ、家に連絡とか必要?
[泊まるとなれば話が早い。
部屋の間取りを案内しながら、今更ながら彼の同居人に頭が行く。]
……なんて言うべきなのかね、これ。
[今からでも帰ろうとしていたのに、泊まらせる理由とは*]
だ、だって帰らないと…
[俺はソファで寝る、そう聞けば思い出してしまう。
シーツの肌触り。優しい人のベッドで眠ったこと。
泊まったりしたら明日また軽率に熱が出るかもしれない。知恵熱というやつ。]
そんな、俺がソファで寝ますから、、
寝間着だって借りるのは悪──
[もう泊まる前提の返事をしていることに気づいて、息を止める。]
あなたに……ですよ。
好きなんですから。
[笑ってる。この声は笑ってる。
真っ赤になった顔を隠したままでカクカク頷いた。]
その「くるた」って何ですか……?
いえ、大らかっていうか。住むなら好きに使えばって感じで、そんな交流ない人なんで……
何か言うなら。……今までお世話になりましたって?
[のそのそと足を動かして、彼の後ろをついていく。
シャワーを借りるのも雰囲気に呑まれるまま。
一戸建ての間取りなのか、脱衣所のどこにも腕も脛もぶつけずに服を脱げた。]
[羞恥に肌を染めながら、施される愛撫に息が上がる。
触れ合わせた唇の隙間に囁かれたなら、浅く何度も頷いて瞼を下ろした。]
は、……んぅ……、っ……
[漏れ出そうになる声は彼の唇に吸い込まれていく。
それでも溢れて、時折零れそうになるの懸命に堪える。
深くなっていく口付けにとろんと眦が下がって、行き場のない手が彼の肩口に落ち着いた。]
[彼が動く度にゆらゆらとお湯が揺れて。
腰をなぞりあげる手に小さく身が跳ねる。]
ンンッ……!
[突起を摘まれたら、我慢できずに唇を離して。
つぅ……と、二人を紡いでいた糸が途切れる。
浅く呼吸を紡いでから額を、すり、と擦り寄せたら。]
や……、くちで、して……?
[甘える声は、期待に震えた。*]
[頭からぬるま湯を浴びる。
水圧が肌を押して。酔いを醒ますはずが逆効果。
二の腕を擦った。足元に雨の降る音。
肩に、背中に触れた手のひらの感触が意味を変えて甦る。]
……。
[お湯の温度を下げた。
浴室から出るのに少しばかり、手間取る時間をかける*]
え? いいよソファベッドだし。
もともと来客用なの。
[じゃあなんでそっちを家主が使うかといえば、サイズの問題だ。
背が高いほうが広いのを使うのが道理だろう。]
どーせ予備があるんだし、気にしなさんな。
君が俺のことどう思ってようが、今日は泊める気だったしね。
クルタは……インドかどっかの民族衣装、らしいけど。
パジャマとして売ってるやつよ。
一言で言うと……ワンピース?
[という言葉が正しいのかは知らない。]
背高くてもそんなに丈気にしなくていいし、楽でしょ。
[漏れる声すべてを飲み込みたい傲慢は、聞きたい我欲に負けて時折唇をずらしてしまう。
その度に紫亜の喉が震え、くぐもった声が下腹に響いた。]
声、キスで塞げなくなるよ?
[その弱弱しく肩に置かれた手は蓋となるか、或いは新しい音響装置の機能を持つか。
ねだられた内容を断る理由はない。
紫亜を膝に乗せて身体を持ち上げ、軽く身体を屈めて色づいた先端に吸い付いた。
紫亜の臀部に堅さが触れることになるが、暴発まではしないだろう。]
は、 …
[かぽ、と口を開いて含むのは、色素が集中している箇所全体。
包んだ咥内で堅くしこる先端を舌で圧し潰したり弾いたり。
ちゅぽ、と音を立てて離して、反対側も同様に。
時折上目で見上げて彼女の表情を伺った。
そろそろはいりたい、と予告をするように、腰を支えている手を片方外し、そっと足の間に忍ばせる。
湯ではないぬかるみの存在を探るように鉤型に折れた指先が彼女の裡に埋まる。*]
あっはは。
それはちょっと気が早くない?
俺はまあ、別にいいけど。もーちょっと段階踏もうや。
[どうも泊まるのを解禁したら、毎日来る気らしい。
店からは近いし楽でいいかもしれない。
ついでにジェラートが昼から出せる。
とはいえ、一足飛びが過ぎないかと、からから笑う。]
ま、楽な相手ならそれはそれでよかったね。
あんま心配かけなさんな。
君はいい子だからね。
[そうしてバスルームまで案内すれば、そこからは一人と一人。]
[シャワーの音を聞きながら、TVをつける。
深夜番組で、芸人がゲームに挑戦しているのを見ながら、いつの間にかうつらうつらと*]
[隣にくる温かい気配。
抱き寄せられる感覚に、なんとか瞼を上げようとしたけど、
背中を撫ぜられればそれは叶わず。]
[肌をかすめる吐息のくすぐったさに身を丸め
抱きしめる腕に体を預けたまま、
今度は安心して深い眠りに落ちていった。]
────……
んん、
[眩しさに、小さく唸って目を瞑る。
やさしい囁きがくすぐったくて、
布団を引っ張って丸まれば引き寄せられて。
あちこちに落ちる口付けに、くすくすと。
まだ重い瞼を薄ら持ち上げたなら、
大好きなひとのやわらかい微笑みにゆっくりと数度瞬き。]
……はよ、 ござ…… ぁ
[掠れながら応えようとした声の残りは、
塞がれた唇に食べられてしまう。]
ン…… ぅ
[深くなる口付けに開いたばかりの瞼が落ちて
ゆるゆると手を伸ばし、触れた裾をぎゅっと掴んだ。
温かい腕の中、体の奥に微かに熱が灯るのを感じながら
今はまだ心地いい気持ちよさに、微睡んだまま。
はなれていく唇に、ふは、と息をして。]
も、おわり……?
[掴んだ裾をゆるく引っぱりながら。
再び目を開け、彼を見つめる思考はまだ半分夢の中。*]
[返ってきた返事には、一瞬躊躇いはした。
キスも欲しくて、どっちもして欲しいなんて言いたくなったから。
逡巡した後、愛撫に濡れた瞳を揺らして囁きを落とす。]
がまん、するから……
[……出来る自身はないけれど嘘をついた。
ぱしゃりと湯が跳ねて、上半身が外気に晒されたら火照る身体を外気の風が覚ましてくれる。]
ん、ンっ……ぁ、
[待ち望んでいた刺激が与えられて、空いた片手が基依さんの髪を撫でる。
双丘の下で伝える熱さに、じわりとまた瞳が滲んだ。]
[髪を撫でた手はすぐに離れて、自身の口元へと移り、指先を噛んで声を抑え込む。
熱に浮かされた瞳を震えた睫毛が覆い隠した刹那、下から見上げる瞳と瞳がぶつかって、内に籠もる熱を伝える。]
……ふ、ぅ……
[きゅうと下腹の辺りがせつなくなって、下肢が疼く。
そのタイミングを見計らうかのように、彼の指が身体の内に入り込んできて、あっ、と堪えきれずに鼻にかかった声が辺りに響いた。*]
[笑いながら口付けて。
君の言葉や吐息まで食べてしまう。
時折俺の裾を掴んで来るその手が好き。
控えめで不器用な、君の心が表れてる気がする。
舌を絡めて、吐息を重ねて。
名残惜しく唇を離したのに、聞こえて来た一言。
くらりと頭の芯が揺れる気がした。]
ねえ。嵐。今日のシフトいつから?
[時計を確認して、嵐に視線を戻すと。
そっと服の裾から手を差し入れた。
柔らかな素肌に手を這わせて。
お腹と脇をそっとなぞる。]
[口付けをしたまま、少しずつ服をたくし上げて。
胸元に手を触れる前に、嵐を覗き込んだ。
腹の奥が熱をもって、こつんと額をつける。]
……嵐。
[シフトが入ってたらどうしようね。
ぐっと身体に力を入れれば……
今ならまだ、止められるとは、思うけど。
返事を聞きたいような、無視してしまいたいような。
そんな思いは、口を塞ぐような口付けに変わった。*]
[ワンピース?を着ている自分を想像して疑問符を浮かべたり。]
ち、ちが
あの。ごめんなさい、そういう意味じゃ…
[笑い声にもそりと俯いたり。
遠い親戚のおばさん。家がこの近くだったからこそ、6年前は迷子になってSASANKAの裏にたどり着いた。
就職できるかもわからないけど好きな人に恩を返すために出てきたと正直に伝えたら、ああそうかい別にいくらでも泊まってけばって。]
いい子ですか。
でも、ジンさんにとってだけいい子であれれば俺はいいんです。
[関節が強張る程に全身水で冷やして、バスルームを出た。
力一杯体を拭いて、クルタ?を手に取る。
丈長のシャツのような。
頭を通して着てみると、膝上ミニスカートワンピースだった。身頃はゆったり作られていて突っ張らない。
タオルで髪を拭いながらキッチン方面へ歩いて戻り]
……ジンさん。
[歩み寄って、肩に少しだけ指を置く。
きっと今パイ生地をこねるのにぴったりなくらい手が冷たいから、それ以上は触れずに声をかけた。]
お借りしました…。
ジンさん。
[すぐ起きるようなら、やっぱりソファに自分が寝る、と言ってみようと思いながら。*]
[「がまんするから」なんて聞いたら、「しなくてもいいよ」と言いそうになる。
我慢しようとしてしきれないところが堪らなくそそるので、本当に出来なくなる時まで頑張りを見守っていたい。
決してサディスティックな性癖は持っていない筈だけれど、紫亜はどうにも男心を擽ることに長けている。]
指、後で絆創膏貼ろうな。
[切れていても切れていなくても、歯型は強くつくだろう。
噛むなと言っても難しいだろうから、堪えようとする潤んだ瞳を見つめながら、何度も彼女の胸で舌を遊ばせた。
時折先を軽く噛んでみたり、舌だけで舐め上げてみたり。
昂る熱を瞳の中に見つけた時、彼女もまた自分の慾を目の当たりにしたらしい。
薄い下腹がひくりと痙攣するのを指先が捉えた。
その奥にある器官が男を欲しがって迎えに来たがっているのを知る。]
あんま動かすと湯が入るかな。
でも紫亜は外だけじゃ足りなさそうだし……
[本当のところは知らない。
裡でも快感を拾えていると思い込ませる為に敢えて口に出すのだ。
洗脳、といえば聞こえは悪いが。
差し入れた指を動かすと、そこからの音は聞こえない代わり、腕がかき混ぜた湯がぱちゃぱちゃと波打った。
初めてという訳でもなし、そう長く拡げなくとも良いだろうがここで問題がひとつ。
彼女は薬を飲んでいるのだったか。
普段は気をつけて嵌めるようにしているコンドームを、風呂場には持ち込んでいない。
一度彼女を高みまで導いて挿入は我慢しようかと逡巡する間、裡に入れた指を付け根までぐーっと押し込んで、柔らかなクッションを撫で続けた。*]
[声をかけられて、ゆらりと意識が浮き上がる。]
……あれ、ごめん。今寝そうだった。
[正確には寝ていた。]
はは、それでも丈足んないか。背高いねぇ。
下がセットになってるやつだったらよかったけど。
[身体が冷えているとは知らず、湯上がりの温かさを想像して、クルタに隠れたボディラインに触れようと手を伸ばす。]
[ソファに寝ると言われれば、ゆるく首を左右に振って。]
もういい加減夏とはいえ、膝も見えてるまんまソファで寝たら風邪引くよ。
ちゃんとベッドで暖かくして寝な。
[こういうところ譲らない性格なのを、彼はもう身を持って体験したことがあるだろうか。
なかったら、今体験していってくれ。]
今にも寝そうなジンさんも格好いいですね。
遅くまでありがとございます。もう休んでください。
丈……クルタ、スースーして、開放感あります。
楽な感じでいいデス。ね。
[布地の心許ない膝を擦り合わせ。
ソファを譲らない性格に眉を八の字にした。]
でも……あっ
[持ち上がった手が、体に触れようとしてきているとわかって、
思わず手首を押し留めるように掴んだ。]
[ジンさんが熱い。と一瞬思って、間違えた。と気がついた。
急いで手を離す。]
じゃ、じゃあ、ベッド。
俺うんと端っこに収納するから……寝相、悪くないです、から。
[もういい加減夏でも、ちゃんとベッドで暖かくして寝て欲しい。風邪を引かれたりしたら申し訳なくて、もう来られなくなってしまう。*]
……ぅん、……ンっ…
[胸元で落ちる声に喉奥を震わせる。
頷きは喘ぎ声と混じり合って、これでは答えられているかどうかも怪しかった。
だんだんと余裕が無くなってきて、歯痕の着いた手を解いて、両腕で基依さんの頭を抱き込んだ。
縋るものが欲しくて伸ばした手は、もっとと求めているようにも見えたかもしれない。
散々弄ばれた突起はぷっくりと膨らんで、僅かな刺激すら敏感になりすぎて拾ってしまう。
丁寧にとろとろに溶かされて、は、と虚空に熱を逃した。]
[耳に入る音は聞こえていただろうか。
聞こえていても、熱に侵された頭では意味までは入ってこない。
溶け切った身体は胸元に預けきっている。
お湯の中で淫らに指が蠢いて、身体の内側にお湯とそれだけじゃない熱さが身体を犯す。
お湯に紛れながらも、内側からは蜜が溢れて彼の指の動きを助けてしまう。]
ぁ、ぁっ……だめっ、……おく、だめぇ……
[言葉とは裏腹に、身体は弄ぶ指をきゅうと締め付ける。
次第に指では物足りなくなって、抱き込んだ腕の内、短い髪を掻き乱す。
耳元に唇を押し当てて甘く駄々を捏ねながら、潤んだ瞳がもの言いたげに揺れる。まるで続きを乞うように。*]
[シフト、という単語に仕事脳だけ先に目が覚めて。
]
きょう、は…… ぁ ッ
[蓮司さんの視線につられて
意識が時計の方に向いた瞬間、肌をなぞられ
ぴく、と小さく体が揺れた。
普段触れられることのない肌を這う掌の感触に
ぞくぞくと肌が粟立って身を捩る。]
[体の奥にせつなさを覚えながら。]
ふ、 ぁ
[ゆるゆると味わうような口付けに、
裾を掴む指に力が籠り。
少しずつあがってくる掌に吐息を零しながら、
ぶつかる額に視線を戻せば、
覗きこんでくる熱っぽい目と視線が絡んで。]
…………、
[答える声は、塞がれた唇の中へ。]
[仕事脳が動いたことで、
微睡から徐々に思考が抜け出してくるけど。
灯った熱が燻り始めた体のせいで、
羞恥よりも触れそうで触れられないもどかしさが
勝ってしまう。]
シフト は、よる……だから……
[もっと、ふれてほしい。
裾を放した手を、彼の掌に重ねて胸の上へ。
指先が頂きをかすめれば、小さく息を飲みながら。
ささやかな膨らみの下、
期待に少し速くなっている鼓動は伝わるだろうか。**]
……それは、あんまり格好良くないポイントだと思うんだけど。
クルタいーよね、楽で。何も引っかかるとこない感じが好き。
[もう休んでください、には緩慢にうん、と。
TVを消して、このまま転がってしまおうか。シャワーは午前中に浴びればいい、と思ったけど。]
――!
[触れた指先の拾った温度がつめたくて、目を見張る。]
[さっと離れる手。向こうも、触れさせるつもりはなかったんだろう。
指先の温度につられるように、心のどこかが冷える心地。]
わかった。
それで君がベッドで眠ってくれるんなら、いいよ。
男二人で寝るのは、狭いと思うけど。
[それならこちらも着替えて、とっとと布団に入ってしまおう。
シャツに手をかけて、ボタンも外しきらないまま脱ぎ捨てる。
目の前にいる人間の感情面は、意識の外に抜け落ちていた。
雑に脱いだ服を洗濯機に放り込むと、昨日まで着ていたクルタに袖を通して狭い寝室へ。]
[ベッドとサイドテーブルと、そこに備えたライトくらいしかない、簡素な部屋。
元は父親の書室だったところを整理した、3畳きりのちいさな部屋に、彼は覚えがあるだろうか。]
狭いとこ、落ち着くんだよね。
[そういうのない? と他愛なく話しかけるのは、せめて空気が緩まないかと思って。
どれだけ効果があったかは謎だ。]
[布団をめくって、彼を招き入れて。
眼鏡を外してサイドテーブルへ。
誰かと同じ布団で眠るなんて、一体どれくらいぶりだろう。]
――おやすみ、 麦。
[冷たい身体に体温を移すことは叶うだろうか。
叶わないならせめて、端の方に寄りたがるいじらしい青年の方に、布団を寄せよう*]
だ、大丈夫です、こう、腕を縦にぎゅっとすれば俺、いい感じの棒っこみたいになれるんで。
[目を逸らせばいいだけなのに、服を脱ぐ姿を目で追ってしまう。
気持ちが、別々のふたつに分かれてしまったみたいだった。
甘やかさせてくれる彼にどこまでも甘えて、踏むべき段階も見失ってしまう自分と。
だめだよって震えながら囁いてる自分と。]
[寝室まで後ろをついていく。]
包まれてる感じがして、いいですね。
テントで寝るのも好きです。
[狭いところ、の声に頷いて、少しぎこちないかもと思い直す。]
昔も、ここに泊まりました?もっと広い部屋かと思ってた。
俺、デカくなったんですね。
[一生懸命答えて、捲られた布団にそうっと忍び寄る。
落っこちないギリギリに体を入れた。]
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