69 【R18RP】乾いた風の向こうへ
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[ 矢継ぎ早に質問をして、鉄格子に近づいたら
腕の中にいたルシアンが飛び降りて
あちらのほうへと隙間を見つけて入ってしまった。
どうしたものかしら、と思ったけれど
名前を変えたほうがいいのかしら、と
うぅん、と悩みつつ彼の返事を待った。 ]*
| ― →傭兵団官舎 ― 『うわ、隊長!?どうしたんスか、顔真っ青!』 [色々とぶちまけてしまいそうな心地を気合だけで堪えて、よたよたと官舎の入り口まで辿り着く。出迎えてくれたのは事務担当のチドリだった。すかさず受付から抜けて肩を貸してくれたのはありがたかった。] ……すまない。午後は任務続行不可だ、報告書… 『外傷……は無さそうですね、ハルマ呼んで来ますんで、自分の部屋で大人しくしててください!ああでも、喋れるなら敵の情報だけでも…』 ちが、違……さけ …少し、体調を崩しただけ、で、 『はぁ?よりにもよってアンタが…でも顔色酷いし…毒でも盛られたって言われた方が信じるんスけど』 [酒臭さが残る程飲んでいたわけでもはないし、肌に赤みを帯びる体質でもない。強ち毒といって間違いではないのだが、それも自分で飲んだなんて口が裂けても言えない。大きく囀るような問い詰め方を不調という理由で隠し通す。] (169) 2021/04/19(Mon) 13:44:23 |
| [自室に戻ってベッドに倒れこむ。数分してハルマが部屋に入ってくる。奴はここの団員であり、専属の治癒魔法士だったが、持ってきたのは氷で冷やしたタオルと飲料水だった。自身の容態を聞いたうえで、過労だと判断してくれたようだ。
珍しいな、とはふっかけられたものの、此方の状態を詮索するような言葉を掛けることはない。]
……報告書…
『馬ァ鹿、だから根詰めるなっつったろ、寝とけや。 ……、……。 荷物は、こっちに置いとくからな。』
[そういって、ベッドサイドのテーブルにもともと脱いでいた外套をたたみ、束ねられた本がその上に乗る。 ハルマも――この団員の殆どが、アーサーとの交友を知っていたので、そのあたりの事情は汲んでくれているようだったことが、数秒の沈黙から受け取れる。そのまま静かに立ち去っていった。] (170) 2021/04/19(Mon) 13:44:29 |
| [午前中だけで何人に迷惑をかけてしまっただろうか。 回復したら詫びをいれにいかなければならないだろう。
"あんな話をしたって、何も無いのに"。 虚ろな穴が広がっていくようなこの心地は、 …本当に、毒が回る感覚と似ているようだ。
体調不良が原因で気が滅入っているとしか思えない。無理にでも一眠りしてしまおう。重くなった瞼に従って、その時は意識を手放した。] (171) 2021/04/19(Mon) 13:44:34 |
| (a8) 2021/04/19(Mon) 13:52:21 |
[ ホテルの部屋は自分がフロントで頼んでおいたように、空いた皿などは片付けをしてくれたようだ。ヴィがバスルームに消えて洗面台を使う物音がしたから、その間スーツケースにしまっておいた部屋着に着替えておいた。
一人なら下着でもなんでも適当に寝てしまうのだが、ヴィの前でそんな図々しいことはしたくない。
それから歯磨きをしたり、寝る準備をすませようとしていら、ヴィが眠たいと言うから再び驚いてしまったが、すぐに自分の至らなさにも気づく。]
…ごめんね、無理させてた
[ 言われて見れば、無理に計画を変更させられいつもなら眠る時間に歩いて宿を探したり、その上身体の変化はそれなりの体力を使うなんてことはは少し考えれば分かるはずなのに失念していた。
そんな中での数時間の移動や買い物は彼が疲れるには十分だっただろう。]
それなら、そばで眠ってくれる?
[ 絞り出すような一言になっていたような気がする。自分が長椅子に行くなんて言えばまたヴィのほうが気遣うだろうし、と言い訳でしかない。
店へ行く前に言おうとして言えなかった言葉も今なら言えるだろうか。**]
[ ラベンダー色のドレスが
前回とは違う揺れ方で風を纏う。
話をする相手というには、
自分はあまりにも立場が違うと思うのだが、
彼女はそんなこと意に介さないようで。
ふふと溢れ落ちる笑みは軽やか。
己の話も忠告も何処へやら、
同じように軽やかな足取りで歩き出した彼女は、
幾らもしないうちにまた舞い戻る。]
迷子はご卒業されたようですが。
[ 迷うこともなく此処に戻られた様子に
皮肉げに笑みを一つ。
鉄格子から躊躇いもなくすい、と腕が伸びて、
布に包まれたものと飲み物の瓶が
そっと置かれる。
いつだって仄暗いこの世界に、
細く白い腕がやけに鮮やかで艶かしく映って、
一瞬、目を奪われた。 ]
[ にゃぁん、という声に我に返り、
は、と慌てて視線を逸らす。
グレーの被毛、細身の身体はしなやかに伸びて。]
……君が、ルシアンかい?
[ くつくつと笑いを噛み殺しながら
エメラルドグリーンの瞳を見つめる。
主が口にする疑問を聴きながら、
呆然、といった表情などどこ吹く風。
その腕の中からすとんと飛び降りて、
いとも簡単に鉄格子をすり抜けた猫は、
足を伸ばして座り込む己の元へ
怯える様子もなく近付いた。 ]
[ 差し出した指先に頭を押し付けるように、
不運な名前をつけられた美しい猫は
ゴロゴロと喉を鳴らす。 ]
良い子だね。
良い飼い主のもと良い子が育つ。
[ ふふ、と口元が綻ぶ。
指に残る生き物の温もりが、
じんわりと心に灯った。 ]
─── 本当の、名、ね。
[ 親指の腹でくりくりと猫の額を撫でながら。
視線は艶やかな毛皮に落としたまま。 ]
俺は、隣国の生まれです。
両親は死にました。
……愛してくれていたと思いますよ、
神話に登場する砂漠と異邦の神の名を
俺に授けてくれたのだから。
まぁ、砂漠を行く旅人の守護神とされながら、
嵐と悪意、戦争を司る神でもあるそうですから、
無償の愛とは少し違うのかも知れませんが。
[ 猫に向かって話すように、淡々と口にする。
告げることなどないと思っていたはずの名が、
エメラルドグリーンの瞳に吸い込まれるように
静かに流れて。 ]
俺の名は、セト。
ここにいる間は、ただの犬だけれど。
─── 君の名も、変えてもらうと良い。
[ つん、と指先で、猫の湿った鼻先にそっと触れ、
ようやく顔を上げて、彼女の瞳を見つめて。 ]*
ここを見つけ出すのに少し時間を要したから
やはり私は、迷子だと思うのだけれど……
[ 腕の中にまだ収まる愛猫を連れて戻った彼女に
かけられた言葉に、
まだまだ言い返すことはできるよう。
でも本当は全く迷っていないから、
彼の言葉は彼女の心にちくっと刺さっている。
迷子が大義名分なのは既に気づかれているだろうし
本来なら、ここにきていることが気づかれれば
2人とも何が起きるか分からない。
けれど、混乱のおかげで父親が家を空けているので
ここに彼女もいられるというもの。
迷子に、なりたくてなっている。 ]
あ、っ……!
良い飼い主なのかしら……
[ 腕の中から移動した愛猫は
彼女の代わりに、なのだろうか。
彼のそばに行って心地よさげに居座る。
愛猫が褒められると嬉しくなるが、
幾分不安は拭われることなく、
彼と愛猫の様子を腰を下ろし眺めた。
そして聞かされる彼の出生や名前の由来。
ふ、っと何かが彼女の心の中に沸いた。
彼の名前が耳に入れば、
その何かは彼女の中で弾けた。 ]
名前を、変えてもらう…
私にも名前をくださるの?
[ 愛猫に言った一言だろうが、
瞳が交わってしまったので彼女が誤解をした。
首を傾げながら、愛猫への名前がふたつ。
ひとつは、彼と同じセトという名前。
両親が彼の名前を知らなければ
その名前にしようと思うけれど、
どちらかがしっているのであれば、
ピヤール
-愛-
にしようと
彼に話をしてみて、反応を見たくなった。 ]
[ ピヤールという名前が浮かんだ理由は、
セトという人物のことから
目が離せなくなったが故。
彼女の中で弾けた何かに、
彼は深く関与してしまっているが
彼女は何もわかっていない。
知ることができる時はあるのか。
──────それはまだ分からなくて。 ]*
君のせいじゃないだろう?
[ 国に足留められたのは不可抗力であるし、宿を探すのもその後の買物も自分の為に必要なものだ。夜の食事は楽しかった。なにひとつダンテに振り回されたものなどない。
彼はまだ酔いが残っているのだろうか。掠れた声で傍で眠ってくれるかと言った。だから腕の届く場所より近くに寄り添う。
大人ならば三人はゆうに眠れそうな寝台で、傍にと言ったのはダンテなのだからと腕の中へと潜り込む。
沈黙は落ち、その唇が何かを言いたげに震えたなら、黙ったままに音が発されるのを待った。夜は思うより長いことを知っているので、彼の鼓動の音を聞いていればきっといつまでも待てる。]**
[ 自分があまりにヴィの事を貴重品のように扱うから、ヴィがその事を距離だと考えていることに気づけていない。自分もおそれているだけだ、厭わしいものと思われたくない。
本当なら抱きしめてしまいたいし、触れてしまいたい。物欲しげにしながら許されはしないかと様子を伺っている浅ましさだ。*]
そうなんだけど、いつもどおりに連れ回してしまったから。無理してなかった?
まあ、今更なんだけど、寝る準備をしてきて、早く休もう。
[ 身体の変化が疲れる事に理解が及んでいたならもう少し労われたかもしれない。今更と言葉どおり反省しても無駄な問答になるからベッドに早くと招くような事をして。
自分は普通に眠る時間で、酒も入っていたから待ちながらも少しうつらうつらとしていただろうか。]
猫みたいだね
[ ベッドの端に微かに振動がして、その後自分のそばにヴィが移動してくるのがわかった。掛け物を浮かしてヴィが入りやすい様にしていたなら腕の中に寄りそう位置まで来てくれて胸が詰まりそうな思いがする。
そばで眠ってくれる?と自分が言った通りにしてくれたのだろう。]
[ 灯りを落とした室内は、窓から差し込む月明かりで青白く見える。自分のすぐそばに最愛の人が子猫みたいにそばにいて、腕に伝わる重みをもう一方の腕で閉じ込めてしまいたくなる。]
あの日のことがまだ、夢みたいに思えていて
[ 先送りにしていた言葉を考え考え口にするから酷くゆっくりになる。あの日と言うだけでヴィに伝わるかどうかもわからないのに。]
あれは、本当のことだったって
君にまた
[ これきりなんて嫌だと、あの時も懇願したのだったか。何度も何度も確認してしまうのは、ヴィに責任を預けるような卑怯さのような気もしてくる。]
だめだな
僕は君が好きなんだ
[ 触れても良いかと許可を取ろうとして、結局出てきたのはそんな言葉だった。]
君に触れたいっていつも思ってる
君は?
僕を好きだと思ってくれる?
[ 掠め取るようにして、以前のような幸運が舞い降りてきて、施しでも貰えれば良いなんてずるいことばかり考えていた。
ヴィの気持ちを何も確認しないままだった。怖くて。
そっと寄り添ってくれて、手を伸ばせばそれを取ってくれる。ヴィのその気持ちを自分は何と思って受け取っていたのか。
好意だと思っては図々しいような気がしていた。あまりに勿体無いことだと。だけど、逆ではないか?
これが特別なものでなくて何なのだろう。
自分だけが受け取れる貴重なものではないか?
そうだったら良い。確認させてほしい。
寄り添っている分きっと自分の鼓動はヴィに筒抜けだろう。ただでさえ五感が優れている彼なのだから。。**]
[どうしてやろうかと考えるのが
酷く楽しくて仕方が無い。
無数のチェス盤が
定跡ばかりで置かれていて、
決めた手を返すだけで欲しい物が
簡単に手に入る状態なのだから、と。]
| - 官舎内:夜間 - [目が覚めた時には日付を超えていたことに驚きを隠せなかった。そんな不摂生な生活は、この国に来る前すらやらかしたこともない。頭痛は取れていたのにベッドの上で頭を抱えてしまい、それもまた、看病に来てくれたハルマに見つかり、もういっそ明日一日休んでいろと釘を刺されてしまう羽目になる。 倒れた原因が飲酒だったという事実は闇に葬られた。しかし、窃盗犯の報告については滞りなく行われたし、報告書も明け方までには作ることが出来た。公園にいた通行人が証拠品を届けてくれた為だ。 >>188 総合的に見れば、あまりにも自分に都合のいい展開だ。 おまけに翌日の休暇つき。] (213) 2021/04/20(Tue) 5:55:54 |
| - 休暇 -
[…突然言い渡されても、何も思いつくわけでもない。 溜まっていた細かい作業をするかと受付に寄ったら、チドリに叱られてしまう。『ハルマさんに出禁にしとけって言われてるんスよ!』だなんて、やること全てが見透かされているような言われ方をしてしまった。
おとなしく引き返し、自室に腰掛ける。 ふと横に流した視線の先。ベッドサイドテーブルに本が積まれている事を思い出した。
これを読んで時間を潰す事くらいしか、思いつかない。 歴史書に関してはだいたい今まで読んだものと同じようなものが書いてあったし、戦術書――は、あまり読む気にはなれなかった。
児童書に流れるように手が伸びてしまう。 母国やこの国の言語ではないから、多少の時間は潰せるはずだろう。自室にもともとある本棚から辞書も取り出して机に向かった。] (214) 2021/04/20(Tue) 5:56:03 |
| [顔を上げた時には、登っていた筈の陽が再び落ちていた。 食事にも手を付けず、部屋に籠もりっきりだったこともあって再び心配されてしまう。よほど疲れていた、と判断をくだされていたようだ。
甲斐甲斐しく世話を焼くような同僚がいなくて助かった。――ネネあたりなら飲み物のひとつ持ってきてもおかしくないが、どうやら彼女も今日はどこかに出ているようだった。 勤務表を見る限り、仕事の要件ではなかったようだが。
軽い食事を済ませて、身体を洗い再び部屋へ戻る。 訳を綴り続けた手書きの紙束をベッドサイドに起き、寝転がって少しずつ手にとり読みすすめる。
久しぶりに、自分の気持以外の中にのめり込めた気がした。] (215) 2021/04/20(Tue) 5:56:11 |
| - 休暇の翌日 -
[体調はすっかり戻っている(そもそも不調ではない)ので、大丈夫だという旨を伝えて、チドリに依頼表を出してもらう。 空いている隊員の任務を振り分け、自身にも見合う任務を見定めた。交易船へ荷物を運ぶ際の護衛任務が妥当だろうか。 一人が荷物運びを手伝う傍ら、もう一人護衛専門をつける、という形を取るのが良いだろう。]
ネネは帰還しているか? 彼女と共に此方に向かおうと考えているのだが。
『え?ネネさん…は、任務に出られたのでは?』
………?私はまだ何も、…?
[ふ、とした違和感を覚える。 任務命令は基本的に自分の許可を得てから行うものだ。なければ自主的に見回りに行くというのはあるが、それでも流石に誰かに報告してからというのが普通の話。
しかし事務のチドリに伝えていないとなると。 勝手に外に出た、ということになる。] (216) 2021/04/20(Tue) 5:56:26 |
| ……誰か昨日ネネを見たか?
『いえ…アタシも夕方出ていったのを見たっきりっすね』
……、…。 すまない。此方は誰か空いている奴二人に回せ。 私はネネを探してくる。
[胸騒ぎがした。こんなご時世だ。 『巻き込まれる側』にならない可能性なんてあるはずもないのだ。外套を着込んで剣を取り、急ぎ足で官舎を出た。]* (217) 2021/04/20(Tue) 5:56:38 |
| (a12) 2021/04/20(Tue) 6:46:29 |
昼間少し寝たから。
[ 日中活動できない訳ではないが、直接陽の当たるのはどうしても不得手で、朝方の早い時刻、もしくは夕方からの活動になりがちだ。
旅行先なら一番活動しやすいだろう時間に、同行者の動きを制限してしまう事に申し訳なさがある。
だからこそ彼も最初の旅行は、陽の短い季節に雪国へ行こうと誘ってくれたのだろう。旅の最中に、何がきっかけだったか海の話になった。北方の鈍色の海。物語にあるような青い海を見たことがないと言えば、次はそれを見に行こうと彼は言った。]
明け方起きられたら、お城に行って、それから何処かの店で朝食にしよう。
それから、もし僕が眠るようなら、ダンテは何処か見て回って貰ってもいいし……。
[ 寝台に膝で乗り上げると深く沈み、ほんの微かにだけ撥条が軋む音がした。ダンテが掛け布を開いて自分を招く素振りだが、既に眠そうで聴こえているかわからない。
今日一日の様子では、外を出歩くに危険がある程の殺伐とした世情でないようではあるが、引き続いて明日もそうであるかはわからない。彼を一人にすること、語尾は言い淀む。
寝台の軋みは体重を乗せた最初のひとつきり、後は音もなくシーツを渡って寄り添い腕に収まると、猫みたいだね、と彼が言った。起きている。
月明かりが思いがけぬほど冴え冴えと、部屋の中の陰を明瞭にする。
規則正しい筈の心音が時折跳ねるように響き、浅い長い呼吸の音が、隣の人が、横たわって暫くの後もまだ眠らずにいることを伝える。]
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