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【人】 XIX『太陽』 ヒナギク[荷物はやっぱりちょっぴり、重かったから、 階段を登っていく足が少しよろめいたりもしたけれど。 心配するチェレスタをよそに、ふんっ!と、 力を振り絞ってゆっくりと登っていく。 こうして荷物を持つ度に、彼女の『大丈夫』も、 少しずつ減っていけばいいのにな。 それは、単なるお節介かもしれないけれど。 私が叶えたいことの一つでもある。 彼女の口から聞く世界の話は好きだ。>>472 だから私も世界をどんどん好きになっていく。 広告塔の仕事をするようになったことも、 思えば、まだその時は洋館に住んでいなかった彼女が、 洋館に遊びに来る度に、外での話をしてくれたから。] ……うんっ! [だから、いつも私は彼女の声に耳を傾ける。 彼女の声が、音が、私と世界を結びつけるのだ。*] (630) 2022/12/13(Tue) 22:05:39 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク―― 邂逅 ―― [観光客で賑わう南東の地域の外れ町に、 政府の人間が現れたことで、辺りは少し騒がしかった。 老夫婦と引き取られた証持ちが、 町の外れで暮らしているということは、 その頃には町では有名な話になっていて。 政府が現れたと聞けば、証持ちの一件のことだろうと、 すぐに巷でまことしやかに囁かれていた。 数人の政府の使いである洋館の人間を連れて、 『塔』が老夫婦の家に訪れたのは、 南東らしい穏やかな気候で晴れ渡る空が、 太陽によって鮮やかな赤に染まり、 海に半身を沈めていく頃だった。] (670) 2022/12/13(Tue) 23:48:56 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク[老夫婦の家に客人が複数人で訪れることは殆どなく、 政府の使いとその大人を引き連れた青年が訪れたとき。 少女は沈みゆく太陽を窓辺で黙って眺めていた。 燃えるような赤い陽が海に溶けていく。 まるで、世界の終わりを告げるように。 不意に耳に届いた物音。足音。 振り返って見れば、 太陽にも負けない 瞳 が其処に在った。>>469目が合ったのは一瞬か、数秒か。 たったそれだけでも分かる。 この人が『特別』であるということ。 そうして、ぐい、と腕を引かれた。] (671) 2022/12/13(Tue) 23:49:37 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク[老夫婦と政府の人間の間を、 ぐいぐいと腕を引かれるまま引っ張られていく。] ……? ……、……? [どこへ連れて行かれるのだろう。 この人は何なのだろう。 出逢ったことはないはず。 でも、どこか知っているかのような、不思議な感覚。 傍らでは青年と共に訪れた人が、老夫婦と話していた。] 『証持ちを見つけた場合は政府が保護を……』 『中央の近くに洋館があり、そこでは……』 『あなた方も我々に協力を……』 [何か私について話していることは伝わるけれど 内容までは入ってこない。 証持ちが他に居るということだけは、耳端に伝わった。 だから、青年に問いかけた。>>190] (672) 2022/12/13(Tue) 23:50:40 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク[いきなり止まった彼の動きに勢い余って、 どん、と彼の腕に身体がぶつかる。 見下ろす瞳とまた視線がぶつかる。 答えが返ってくるのを期待して、じっと待った。 待って、待って。 やっぱり、ないのだろうか。 と、おもった時にようやく彼の唇が開いた。 水分を長らく取っていなかったかのような掠れた声。 だけど、確かに耳に響く。 燃えるような色の瞳とは裏腹の静かな音。 彼から返ってきたものは、 どちらともつかぬものだった。>>470 どっちがいいって、選べるものでもないだろうに。 返事を求めた私よりも、青年と一緒に訪れた 政府の人間たちのほうがそれは大層驚いていた。] (673) 2022/12/13(Tue) 23:51:36 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク[少し逡巡して、視線を落とした。 老夫婦のところで暮らす生活は、 時折、町の人間に石を投げつけられることはあっても、 両親と一緒に居た頃よりは格段にいい生活だったから。 見知らぬ場所に行くのは少し怖かった。 また、あの頃と同じような暮らしをすることになれば、 夕焼けを見ることすら叶わなくなる。 でも、このまま私が此処に居れば、 今は良くしてくれる老夫婦もいつか。 両親と同じようになってしまうのではないか? そんな不安も少し、あった。 それは、私を庇護することで疲れ果ててしまう姿を、 彼らと暮らす間、ずっと目にしてきたから――。] (674) 2022/12/13(Tue) 23:51:59 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク[実際に、彼に引きずられていく私を 彼らは引き止めることはなかった。 ――だから。 一度、離された彼の手を 今度は私からきゅ、と握った。] 『いっしょにいく』 [赤の瞳を見上げて、彼の共に居ることを望んだ。] (675) 2022/12/13(Tue) 23:53:23 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク―― 現在・中庭 ―― [彼はよく中庭に居る姿を目撃される。 だから、彼を探す時は大体中庭から探すのが恒例だ。 チェレスタたちとお茶会をした後、 お茶会で用意されたメルロンを大事に残しておいて、 中庭に向かえば、いつものように ぼんやりと空を見上げている塔の姿があった。>>309] プロセラー! やっぱりここに居たんだね。 私も一緒していい? [駆け寄り、彼の返事が返ってくるよりも先に、 隣の席をキープしてちょこんと座る。] (676) 2022/12/13(Tue) 23:53:39 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギクさっきね、チェレスタが帰ってきたんだよ。 旅行の話いっぱい話してくれてね。 それでね、アリアとシトラとお茶会をして……、 フォルスのところで売ってるメルロンを 買ってきてくれててー……、 [と、プロセラが相槌を打つ隙間も与えず、 つらつらと話しかけていく。 彼が物静かであることは出逢った頃より変わらない。 もしかしたら騒がしいのも苦手なのかもしれない。 でも、私は一方的に彼に話しかけている。 たまに相槌を返してくれることもあるから。 彼は話を聞いていないわけじゃないのだ。] (677) 2022/12/13(Tue) 23:53:53 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク[初めて彼の名前を問うたときも、 初めて彼に問いかけた時のように、 返事を待つまでそれはそれは時間がかかった。 『プロセラ』 あまり馴染みのない言葉の意味は知らない。 でも、彼にとっても似合っていると思う。] (678) 2022/12/13(Tue) 23:54:25 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク[私が彼に洋館に連れてこられた後も、 手を引かれた影響で、彼の傍にいることが多かった。 自発的に話すことはない彼。 洋館に来たばかりの私も、 笑いも泣きもしない子供だったから。 中庭にずっと佇むだけの彼と、 その傍らで同じように言葉を発さないで 共にいる少女は不思議な光景だっただろう。 それでも私は彼と過ごすそんな時間が嫌いじゃなかった。] (679) 2022/12/13(Tue) 23:55:05 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク[そんな私たちの姿を見かけた世話役のひとりが、 私に教えてくれたことがある。 『太陽』の子を迎えに行こうと何度も、 洋館を出ていっていたこと。 彼が自主的に行動することで少し騒ぎが起きたこと。 繰り返し繰り返し行われた行為が、 彼を少しだけ知った今なら想像ができる。] (681) 2022/12/13(Tue) 23:55:26 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギク[どうして彼が私をそこまでして 迎えに来ようとしてくれたのかは分からない。 もしかしたら、教典に書かれていたように 『塔』として『太陽』のことが気になったのかもしれない。 でも、それはあくまで教典での話だし、 私と彼とではまた違うだろう。 それでも。 出逢ったこともない人間に、 そこまで気にかけてもらえたことが、 ――私の心を少しだけ温かくした。 ] (685) 2022/12/13(Tue) 23:56:09 |
【人】 XIX『太陽』 ヒナギクはい、これプロセラの分のメルロン。 [だから、洋館に訪れてからずっと。 彼とのこの中庭での時間を大事にしている。 彼の手を取って、その掌にふわふわの雲を乗せて。] ねえ、アリスの誕生日には歌を歌うんだよ。 プロセラも歌ってくれる? [たとえ返事が返ってこなくとも、 話しかけることは尽きなかった。**] (687) 2022/12/13(Tue) 23:56:43 |
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