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【人】 水底の石 マオこの息苦しくて、底に沈んでいくような感覚を 知っている気がする。 冷たくて、苦しい、手を伸ばしてもなにも掴めない。 もがいてももがいても、その苦しさは消えない。 ──わたしを、置いていかないでほしい。 そんな寂しさと孤独感に包まれて。 ──わたしを、助けてほしい。 手を伸ばして空へと引っ張り上げてくれるものを探している。 水底に眠る石を拾う者などいないというのに。 (0) 2023/09/11(Mon) 19:44:44 |
【人】 水底の石 マオマオはふいに、目を覚ます。 クラッカーの破裂音と、狐面の男の声が 頭の中にこだまするものだから、思わず呻き声をあげ レグナの背中でもぞもぞと動き出した。 「……ん、 ぅん……うるさいのじゃ…… 」なんだか身体が怠いような、眠いような感覚。 悪い夢を見ていたような。 ぼんやりしながら、その背のあたたかさに身をゆだねようとして ──今までのことが、頭の中をめぐって。 「──っ……!?」 跳ねるように顔をあげ、目を白黒させながら 首元に触れて、周囲を見回して。 ──誰の背にいるのかに気づいたから。 マオは、飛び上がるようにしてどこかへと逃げ出した。 気づかれないよう木々の茂みに隠れ、おずおずと様子を伺う。 (2) 2023/09/11(Mon) 19:55:07 |
【人】 水底の石 マオレグナが走り出したのを見ると、反射的に再び駆けだした。 人の多い場所をあえて通り、軽い身のこなしで 屋根から、屋根へとなりふり構わずとび移っていく。 いつのまにか暮れた夜空に紺色が紛れていった。 「なんで……っ、追ってくるんじゃ……」 人ごみをかきわけているのが振り返った一瞬、見えた。 マオの頭の中は混濁した感情と混乱でいっぱいで ただ、逃げることしかできずに。 やがて足も疲れてきて。高い木の上に腰を落ち着けた。 肩で息をしながらよりかかって、提灯の灯を ぼんやりとうつろな瞳に映す。 いつの間にか、レグナを見失ってしまった。撒いただろうか。 (4) 2023/09/12(Tue) 0:23:54 |
【人】 水底の石 マオ「……なんで、わしは逃げてるんじゃ……」 悲し気にまつ毛を伏せたマオの横顔を、月が照らしている。 せっかく選んでもらった浴衣も、ぐちゃぐちゃでみっともない姿のまま。 「なんで……、……」 ──雨が、降ってきた。 ぽた、ぽたとマオの頬を、浴衣を濡らしている。 ここにだけ、ただしずかに降っている。 若草色から溢れる、小さな雫が。 「……レグナ……」 首元をなぞると、まだ感触が残っている気がした。 もう走る気力はなく、見つかるのも時間の問題だ。 (5) 2023/09/12(Tue) 0:27:36 |
マオは、どんな顔をして会えばいいのかわからない。 (a2) 2023/09/12(Tue) 0:28:18 |
【人】 水底の石 マオ名を呼ぶ声がして、レグナを見下ろす。 月の逆光で、表情はよく見えない。 力なく、木に寄りかかっているシルエットのまま。 「…………何を、言っている?」 心底不思議そうな、呆けた声が降ってくる。 それでは全部レグナが悪いみたいで それが違うことくらいはわかっていた。 「おまえを怒らせたのは、……わざとじゃ。 あんなに怒るなんて、思ってなかったが…… あれはちと……いや、すごいびっくりしたのう 」想いを馳せるように、首筋を指でそっとなぞる。 痕はなんにも残っていないけれど、どこか愛おしげに。 「せっかくおまえに殺してもらったのに、現実でなくて残念じゃ」 半分は本当で、もう半分は強がり。 くすくすと、力なく笑う声がため息に変わる。 マオが木から降りる気配はないが、代わりに レグナの頭上からぽた、ぽたと小雨が降っている。 雨の正体は木の上に座るマオなのだけれど。 (7) 2023/09/12(Tue) 20:45:07 |
マオは、さっきからずっと涙が止まらない。 (a4) 2023/09/12(Tue) 20:49:33 |
【人】 水底の石 マオ──その時、 ドォン! と大きな音と共にマオの背の空から大輪の花が咲いた。 「ヌ゛ァ!???」 その音にたいそうびっくりして、呆気なく 木から滑り落ちて行った。もちろん、レグナの上に。 (8) 2023/09/12(Tue) 20:50:26 |
【人】 水底の石 マオマオの頭が、ハンマーの如くレグナの股間に鉄槌を落とした。 それどころではない当人は、顔を埋めまま、ぎゅ、と しがみつくように、手近な服を掴む。 「………ゃ、じゃ……」 震える声が、絞り出すように言葉を紡ぐ。 何に対しての否定なのか、もはや本人にもわからなかった。 いつもの偉そうな態度はすっかりなりを潜め、まるで怯える子猫のよう。今までさんざん甘やかされてきたマオは、一度躓いただけで、大怪我をするほど脆いものか。 「……なんで……なぜ、そこまで言える……? レグナはわしを、嫌いではないのか? 殺してしまえるくらい。 ほんとうは……きらいに、決まってる」 「おまえに嫌われた世界で生きるくらいなら、 おまえに殺された方がしあわせじゃと、思って……わしは……」 だから、わざとレグナを怒らせた。 自分が犠牲になって出してやろうなんて、そんな綺麗ごとのような優しさのひとカケラもない。 誰かを殺した人間は、特におまえのようなお人よしな人間は 一生殺した者を忘れないだろう。 そんな、呪いになろうとした。どこまでも自分勝手な男だった。 ▼ (11) 2023/09/13(Wed) 10:31:46 |
【人】 水底の石 マオおずおずと顔を上げて、起き上がる。力なく座り込んだまま。 ぐしゃぐしゃの前髪、泣き腫らした赤い目元。 濡れた瞳から、止まらない雫が未だに頬を濡らしていた。 「わしは、きっと、じぶんがはじめて……いやになった。 いたい……胸が、息苦しいのじゃ……水に沈んでるみたいなのじゃ」 マオは胸の中心を押さえて、消え入りそうな声で訴える。 ずっと雨が止まないのは、そのせい? 生きててくれて、生きてさえいれば──…… やさしくて、あたたかい言葉をかけられているはずなのに 苦しくてたまらないのはなぜだろう。 この胸の内を吐き出せば、楽になるのだろうか。 マオはあなたに這うように、近づいていく。 もうさんざんぐちゃぐちゃの浴衣姿でも構わず。 服にしがみついて、すがるように、抱きしめた。 ▼ (12) 2023/09/13(Wed) 10:37:20 |
【人】 水底の石 マオ「 レグナ 、」「…… 御免なさい 」我儘で、自分勝手で、酷いことをさせて、困らせて。 もしあの空間が仮想ではなかったら、この"最期"に伝えようとした言葉は今ここで声にすることはできなかった。 「……ごめ、んなさい……」 「ごめんなさいをすると、仲直りできるのじゃろ……?」 己を絞め殺す時の彼の表情が、脳裏に焼き付いている。 胸元に額をすりつけて、涙があなたの服を濡らす。 「もう……しもべじゃなくてもいいから、」 顔をあげて、濡れた若草色があなたの蜂蜜色を見つめる。 「嫌いに、ならないで……、」 ▼ (13) 2023/09/13(Wed) 10:48:23 |
【人】 水底の石 マオ──ドォン……! その刹那、夜空にもう一度大輪の花が咲いた。 一瞬の光がふたりの輪郭を照らして、しんと沈黙が訪れる。 「……───────」 (14) 2023/09/13(Wed) 10:58:20 |
マオは、息を吞む。 (a7) 2023/09/13(Wed) 10:59:10 |
マオは、花火の音に遮られて詰まった言葉が、最後に唇から紡がれた。 (a8) 2023/09/13(Wed) 10:59:43 |
マオは、レグナのその一言だけで、胸がいっぱいになった。 (a11) 2023/09/13(Wed) 22:08:34 |
【人】 唯の青年でいたい マオ祭りも終わりに近づいた頃。ながい階段を登った先の社へ はやくはやく!とレグナの背中をぐいぐいと押してやってくる。 「レグナ。ここじゃ!はなび!」 準備もばっちりとしてあり、用意がよい。 本人に聞けば村のやつらにやらせた!と相変わらず人使いが荒かった。 (17) 2023/09/15(Fri) 0:24:37 |
マオは、山積みされた手持ち花火を漁ってロケット花火を集めている。 (a12) 2023/09/15(Fri) 0:27:22 |
【人】 唯の青年でいたい マオ手持ち花火以外にも、吹き出すタイプのものや、爆竹など マオが喜びそうな派手なものがたくさんある。 屋台フードや酒やラムネなどの飲み物も置いてあった。 「何を言う。花火は逃げるぞ! ほれ!!! 」その掛け声と共にヒュンっと音を立てて発射する。 準備中のレグナの頬をかすめていく ロケット花火 ─── (19) 2023/09/15(Fri) 20:04:21 |
(a13) 2023/09/15(Fri) 20:05:42 |
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