150 【R18G】偽曲『主よ、人の望みの喜びよ』【身内】
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カナイを待っています。きっと、約束をした場所の傍で。
叶
叶は容易く、その気配を見つける事が出来るでしょう。
場合によっては、あなたを呼んでいるようにすら。
静かに、しかし体中を軋ませて、待っているのです。
そして、いくつかの角を曲がった先に、それは居ました。
みし、ぱき。骨で形作られた片翼と手足が軋みます。
その中心で俯いていた顔が微かに上がり、
そして安堵の顔を見せました。
タブレットは足元に落ちていて、
骨の足の長さのせいで半ば浮いている少女に
それを拾う事は出来ないのでしょう。
だから、視線をあちらこちらに送るだけ。
和装が溶けてしまったせいで露わになった上半身。
両肩から肘までは、檸檬色と葡萄色の結晶に覆われています。
そして胸元をぎちぎちに締めているサラシの上部から、
鎖骨の上辺りまでを血の色をした結晶が守っているようです。
だから、口をはくはくと動かすだけ。
「よかった」
だから、涙を流すだけ。
「きてくれた」
叶
そして、そして――それだけです。
少女は静かに待っています。
ただ、骨と結晶が軋む音が徐々に大きくなっていくでしょう。
今は、抑えているだけで。
少女の大部分は、考えているのです。『変わりたい』
と。
その為に……あなたのすべてをたべてしまいたい、と。
『あなたになりたい』
、と。
少女は、あなたを待っています。
約束を果たしてくれるのを、待っています。
叶
みし、ぱき、ばき。
骨の身体は、両の前足がゆっくりと、地面に向かっていきます。
四足歩行の構えをとろうとしているのでしょう。
震えながら、至極緩やかな動きで。
肉の身体は、たったひとつ。
ためらいと、かなしみと、あなたへの期待と喜びを込めて。
静かに、微笑んで。頷いてみせました。
「ころして」
確かにそう口が動いて――骨の前足が、地面に着きました。
ばき、べき。少女は、弓を引きました。
その向こうが神か、運命か、あなたかはわかりませんが。
次は、あなたの番です。
その大きな骨の手足と翼の根元を、結晶で補強しているようでした。
第二に。
仲間とされる二人を守る為にも、
ここはスケープゴートが必要だ。
奈尾さんはその点において大変都合がいい。
そういう打算も混ぜ込んでいなければ、
とても果敢に立ち向かうことなんて出来そうにない。
叶
あなたの独白。あなたの想起。
あなたの決意。あなたの――あなたとの、約束。
それらを聞き、想い、抱いて……
放たれた矢のように、その四ツ足は床を蹴りました。
あなたの全てを磨り潰して、啜る為。
愛しい人の胸に飛び込むように、跳びました。
その瞬間、あなたの目にはしっかりと。
血色の結晶が映っていました。
そしてそれは、激しく爆ぜるのでしょう。
空気を震わせて。身体を砕いて。その少女を壊します。
ぱき、ばき、と音がして。
それが肉体からか、結晶からか、骨の手足からか。
判別は難しいのでしょう。ただひとつわかる事は、
あなたの前には、結晶も、骨の手足も。
剥がれ落ちた血塗れの少女が転がっているという事です。
叶
少女は、実にあっさりと、死んでいました。
きっと殆ど痛まなかった事でしょう。
きっと苦しまなかった事でしょう。
幾分か軽くなった少女が、
軽くなった分だけ血を床に広げて動かなくなっています。
その顔は、苦しみも、恨みも、つらみも、持っていません。
ただ、微笑んでいました。
最後に微かに動いた唇は、筋肉になんらか、
電気信号が通っただけかもしれません。
それでも、それを信じるなら――『ありがとう』
。
たしかに、そう言っていたのです。
唯一、後に残ったのはつけっぱなしのタブレット。
きっと、少女がそうなる直前まで手にしていたのでしょう。
幾つもの変わりたい願望や、呪詛めいた言葉が沢山。
テキストファイルにいくつもいくつも、連なっています。
ずっと蓄積したそれらの末尾、一番最後の空白。
沢山の改行はきっと、その感情から遠ざけたかった言葉です。
そこに――
| フカワは、全てが有耶無耶になってしまえたらと思った。 (a12) 2022/06/07(Tue) 5:45:29 |
| (a13) 2022/06/07(Tue) 6:14:27 |
『叶さん── 今からすぐ、会議室の方に来られますか』
『奈尾さんが害意を纏って近付いてきているのです』
努めて冷静さを保ちつつ、何とか言葉にしていく。
『大体の位置は……もう、すぐ近く。
あと数刻もすれば到着してしまうくらい。
出来るだけ時間を稼ぎます、
獣などに気を付けつつ、急いで──お願いします』
| (a14) 2022/06/07(Tue) 7:16:58 |
『篝屋さんからもそう聞きました』
『今すぐ向かいます』
『あの人は銃を持っていて、水で溶かされる?そうです』
『おれが聞いたのはそれだけ』
返るのは簡潔な応答。今は時間が惜しい。
| 『弊社の試験薬が』 『貴方様にご迷惑をおかけしてしまったこと』 『深くお詫びしたいところですが──』 見ないうちに随分と変わり果ててしまったものだ。 我々に投与された薬とは一体全体何だって言うのか。 「故に少々、お時間をいただけますでしょうか?」 針のような気配に震える瞼を開けて、 引き攣った微笑みを顔に貼り付け、奈尾の前に立ち塞がる。 眉間に皺を寄せてアンテナを握り締めれば、 其処彼処から軽くも不規則な足音が響き始める。 それはまるで行進(/パレード)の始まりを告げるように。 (12) 2022/06/07(Tue) 8:46:21 |
叶
あなたの背か、胸か、腕か。
運び込む際に触れた場所に、少女の血が付着します。
それが血色の結晶になったりはしません。
ただぽたぽたと、水音だけを残して寝台に横たわります。
微かに開いていた唇は閉じられてなお微笑みの形で。
薄い透明な液が通った跡が残る目元は穏やかなまま。
死んだ人間はきっと、何も語らないから。
だから電気を消してしまえば、そこにはもう闇だけ。
日向のような明るさはすっかり、消えてしまいました。
それでも……もし、暗く塗り潰される想いの下に、
この少女の生命が残っていたのなら。
神というクソッタレ
運命 に向かって弓を引く、その誇らしげな顔が、
きっとあなたの隣に立っていたのでしょう。
だから、いつか陽がまた日が昇るのなら。
その時は、あなたと同じ日向に居させてくださいね。
それじゃあ、おやすみなさい、なのです。
| チッ、と熱い何かがズボンや靴の端を掠めて、 バターでも抉ったみたいな跡をつけたのを感じる。 へへ、だの、ははだの、笑っちまったくらい濃厚な死の気配。 「いえ勿論!……重々、承知です、とも」 『ああああ当たる死ぬ?当たる嫌だ怖い当たる嫌』 実に手強い客だ。ここまで強情なのはいつ振りか。 ──そう、あくまでも映画のように劇のように。 無機質な散弾銃、劈く発砲音、異形と化した彼。 それらをひとつでも、確かな現実のものとして受け止めたら、 もうすぐにでも狂ってしまう。出来る限り俯瞰しなければ。 銃口が上を向いたのを見れば、及び腰で一歩ほど後退りを。 「申し訳ございません……何から何まで」 『こここ、こい、ここ、に、ここから、音の方』 背後の方から駆けてきた中型の実験動物を、 アンテナの柄でいなし、先ほどの銃声を頼りに飛び掛からせる。 狙いが外れたり逸れたり、それか盾になってくれたらいい。 痛みを増す頭は、寧ろ正気を保たせてくれて有難い。 (14) 2022/06/07(Tue) 10:52:49 |
| フカワは、念の為アンテナを支えに低く屈む。ひぃい、と情けない悲鳴が溢れた。 (a17) 2022/06/07(Tue) 10:53:55 |
『間に合って……ないかも?
ごめんな、ずっと寝ちゃってて』
『簡単に言うと、呼び出されて腹刺されて頭半分溶かされた。
水が入った普通のペットボトルで殴られたと思ったら、気が付いたらペットボトルも溶けて頭も溶けちゃってた』
先ほどの情報から追加で得られることといえば、何の変哲もない水だったものがある瞬間から変化をして襲いかかってきた、ということだろうか。
まあ色々あって今は……元気だけど。元気ではないかもしれない。
『抵抗する時に、俺が……あの人の頭の中ぐちゃぐちゃにした。
その影響も、あるのかも』
『あ゛ーーーー────……………』
助かるけど聞きたくはなかった、
とでも言いたげな間伸びした心の声。
よく今生きてるな。それで。偉いよ。
オレが生きてられるかはまた別の話だ。生きなければ。
>>篝屋
ずる、ずると棒切れのような足を引きずって。
歩く。歩く。歩く。
拾えた気配のある場所は、もう少し遠く。
生き損ないの、死に損ないは、ただ一つの意思だけを杖にして歩く。
「…………ぁ?」
ぽつり呟いて。
その人が地に伏せているのを目にした。
「……篝屋、さん?」
▽
「……。
あの時、会話したのは、俺と同じだったからですか?俺と同じで死んでいたからですか?」
肉の焼けるような臭いを気にも留めず歩を進め。
近くに寄って確認するよりも早く反射的にその力を呼び起こす。
ただ一つの意思だけで骸を動かしているその何かの力はあまりに不安定な物だったけど。
彼の呼吸を聞いた。
彼の生きる音を聞いた。
それでも彼は動いていない。何をも溶かす海の中に身を沈めているだけ。
「……」
▽
| 後退りをする。 「ひ、そ、それにつきましてはその」 一匹どっかから此処に誘導するのに、 どれだけ手間掛かってると思ってんだクソッタレ。 そう毒吐いてもとても聞き届けてくれそうにない。 愚痴ったら親身に聞いてくれそうだった彼は、 もうどこを探しても見当たらない。 指示なく異変を嗅ぎつけ、ちょろちょろとやってきていた二匹の小動物を見遣る。 片方は地面の液体を避けようともせず突っ込んでとろけた物体たちの仲間入りを果たし、もう片方は駆けることままならず、のろのろ空を引っ掻くだけ。 それをぽんと脚で蹴り飛ばす。 何かに気を取られてくれればいいのに。 『ひ、あ、後、無さすぎ、だろ……』 どれだけ怯えても、絶対に転んだりとかしないように。 背負ってるのはもう自分一人の安全じゃないんだ。 (18) 2022/06/07(Tue) 13:25:06 |
| (a23) 2022/06/07(Tue) 13:25:13 |
| 篝屋さんを引き合いに出されて、 一瞬、ほんの一瞬だけ硬直した。
何故かといえば、もしかしたら会社の後輩になってくれそうだった相手の安否に関わることだったから。 何故一瞬だったかといえば──
「排除──奇、遇ですねェ、 オレもそう……オレも頭痛いんですよ」
「その原因。安全を脅かすものを、 排除すれば解決すると思ってて」
自分は害意だけにはどうしても敏感だったから。 それも“排除”ときた。『彼』と似つつも決定的に違う、 加害者としての、実に傲慢なそれを聞き逃すはずはない。
「な、何もオレが行く必要ありませんし? だから、そう……こっちはもう」
(19) 2022/06/07(Tue) 13:30:50 |
| 寧ろ自分のごとそっちの頭も割れろ、とばかりに力強く吠える。 鼓膜を介さない、脳を貫き揺さぶる純然たる音の暴力。 施設に蔓延る獣たちに対する呼び声で、 急いで駆けつけようと奔る仲間への導で、 明確な意志でもって攻撃せんとする、初めての害意の形。 血の気がバカみたいに引いていく。 言ってしまったこと以上に、力に身体が侵される感覚。 こんなもん二度三度やれるようなもんじゃないということを、 嫌ってほど思い知らされる。 (20) 2022/06/07(Tue) 13:36:07 |
| フカワは、後退りしようとした一歩で、力強く地面を踏み締める。 (a24) 2022/06/07(Tue) 13:36:42 |
三十三
名前を呼ばれた。
かくん、と首が傾いて。体の向きを半分変えて、視線をぐるり。
貴方を見ているようで、でもどこか遠くを見ているような。そんな眼差しを注ぎながら青年の形をした何かはわらう。
「……あぁ!三十三さん!よかったぁ、生きてたんですね!貴方は貴方だ!にんげんだ!えへ、うふふ。嬉しいなぁ。どうして此方に?」
時折何が面白いのかも分からないような笑い声をあげているが、確かに青年は二本の足で立ち、貴方と向き合って会話を行なっている。
身体中に無数の傷を纏い、無邪気な子供のわらいごえを響かせるたびに口から、腹から、ぽたぽたと血を落としながら。
貴方が確認した遺体の様子を、そのまま抱えながら。
/*
めっちゃ"いいやつ"のロールの途中ですごいアレなんですけど
喫煙所(概念)で話してて凶狼気付いちゃったにゃんけど
今日人間二人屠っても明日の朝に焔狼お嬢様がおくたばりあそばせられるので
つまり3:3にならずこれまだ決着しませんわね???
つまり人が何人か……ガチ死なさりますのね?おそらくは?
/*
なんということ?
おれが焔を宿しているばっかりに……
生きたいと思ってしまったばっかりに……?
/*
強く生きてほしいにゃん。死ぬけどにゃん。
必要なら介錯はするにゃん……こっちができる状態だったら……
三十三
「…………ぅ゛え」
死んでいたはずで。
その言葉を耳にして再び頭の中で色んな音が響き続ける。腹の奥が酷く痛むような感覚がした。
吐き気が込み上げてくる喉を無理やり手で押さえ、落ち着くのを待ってから。
「俺は死にましたよ」
「おなか、こんなぐちゃぐちゃになって。生きていられる筈がありません。
触ってみますか?何も反応がないんです。ハンバーグを作っている途中のこねた挽肉に手を入れた感じみたい」
異常は、まるで正常であるかのような挙動のまま貴方にわらう。
吐き気と血を口からこぼしながら返事をして、貴方から視線と体の向きを外した。
白衣を脱いで、貴方がいる方へと投げつける。
そのまま、酸の海に沈む青年の元へ。
▽
三十三
「貴方の言う通りです」
「生きているなら治療しないと。
篝屋さんは生きている。生きている音を拾いました」
「生者の分際で、動かないなんてゆるせない。ぁは、そうですよ。停滞なんて、許せない。進まなきゃ、前に。まえに、すすまないと、ねぇ?」
強い酸が足裏を焼く。じゅ、と靴の底を蝕んでいく。
「……ぇへ、うふふ。で、なんだっけ。
あー……詳しい話をするのは後ほど。運ぶの、手伝って貰えませんか?
ひとまずこの……これ、強酸でしょうか。此処から引き上げますから。その後、二人で運びましょう。
その白衣は何か長めの棒が2本もあれば担架に出来ましたけど、無さそうかな。手や体を酸で焼きたくないとか、何か適当に使ってください」
まるで生きていた時のように、饒舌に喋っている。
けれどその青年は足を焼かれたり、篝屋青年を目にするたびに「ゆるせないなあ」「なんで?どうして?」とけらけら子供のように笑い声をあげている。
この青年は確かに、壊れてしまった後だった。
| ──聞き覚えのある絶叫と、破裂音。 「いっ、」 緊張の糸がぷつんと切れて、 アンテナを取り落とし、尻餅をついて。 目の前から倒れ込む異形を認識しては、 心の底から錯乱して、観劇から現実へと引き戻された。 『やった?やってないまだやってない、やらなきゃ とりかえし、つかなくなるとるかえすつくように』 嗚咽なのか悲鳴なのかわからない音が喉から漏れ続ける。 わなわなと頭に手を当てて、何事か叫ぼうと思った時には、 (31) 2022/06/07(Tue) 22:48:11 |
三十三
「そう。ぁは、ふふ。三十三さんは、篝屋さんが大切なんですねー……」
笑った形のまま、そう返した。笑ってはいるけれど、その実貴方達二人の仲にまるで興味など無いと言うように。そんな、ちょうど己の体のような温度の声色で。
危害は加えない。貴方にも、貴方の先輩にも。
ただ前に進む手助けをするだけだ。
それは善意からなどではない。そんなもの、とうに昔の何処かに置き忘れてしまった。
今青年を動かすのは、ただ一つだけの強い意思のみ。
…………
……
廊下は厄介なものと鉢合わせする可能性がある。
恐らくはすぐ近くの部屋に運んだことだろう。
「治療、どこから手をつけたらいいのやら。ひとまずは止血?少なくとも、血管が傷ついた場所や剥き出しの部分は布を巻くくらいしておかないと。布……あぁ、伊縫さん……。
生きているのなら、生きてもらわないと困ります。そうじゃなきゃおれはゆるせませんから」
| それは他愛無い、 無意識のうちの脳の呟きに変換される。 透明な針の山が異形ごと貴方を貫いたのを見れば、 自分の胸まで何かに刺し貫かれたような痛みの錯覚を。 (───どうして?何故?なんで?) 疑問ばかりが頭で膨らんでいくものの、 それは── きっと、全てが終わっても分からないものだ。 仰向けから身を捩らせて、肘を突き、 手を伸ばしてもがいてはみるけれど、 決してどうにもできない目の前の光景を、 (32) 2022/06/07(Tue) 22:59:20 |
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