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【人】 暗雲の陰に ニーノ──天気予報は当たった。 晴天の元、数日ぶりに見た陽光は眩しい。 一応迎えが来るらしい、とは看守からの言伝。 家に戻った後のことを考えると些か気が重いような、そうでもないような。 とりあえずは待つしかないかと行き交う人々を眺めていた、時間。 見慣れた長身は視界の端に掠めればすぐに分かるもので、「ぁ」と声を発した。 自然足がそちらへと寄っていく、聞きたいことがあるんだ。 貴方の罪状は知っていて、それが到底許されないものだと理解していて、尚。 怒り、よりも悲しかった。されど罪を裁くのは己ではないから。 ──夕暮れの公園、二人並んで食べたパン。 ──声を上げて笑った表情、全てが落ち着いたらの先の話。 だから、手の届かぬ遠くに行ってしまう前に。 ヴィトーさん、いつもみたいに名を呼んで、その先を、 ──パン。 距離は開いていた。まだ数メートル先。 それでも見えた。胸から。落ちる。血が。 ……なんで? 背後に居るのは誰。目深に被ったキャップ。 でも見間違えるはずがない。横顔は。 ……なんで? #BlackAndWhiteMovie (29) 2023/09/26(Tue) 23:26:22 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ「………………なん、で」 止まる足。 立ち尽くす間に二つの人影は遠ざかっていく。 パレードが横切っていく。 全ては足音の元に掻き消されてなかったことみたいに。 心臓がうるさい。 熱は下がったはずなのに頭がぐらついた。 なんで。 ──それしか言わないな、って、誰かが言った声が蘇る。 でも、なあ、だって。 それしか言えないだろ、こんなの。 #BlackAndWhiteMovie (30) 2023/09/26(Tue) 23:27:20 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>37 ルチアーノ 呼ばれる声で白昼夢から醒めるように。 ハッと貴方へ向けられた顔は憔悴しきったように酷く青褪めていた。 「ルチアーノ、さん」 それでも目の前の人が誰かは分かる、理解できる。 鉄格子越しではない再会に伝えたいことは他にもあったはずだ。 けれどどうしたって今、震えた唇が紡ぐのは。 「…………ねえさんが、ヴィトーさんを、撃った」 先の現実をなぞらえる言葉だった。 そうしてはっきりと形にしてようやく喉奥まで飲み込めた気がして、くしゃりと顔が歪む。 泣きたくはなかったのに涙が溢れてしまいそうで。 「……撃った、んだ」 なんではもう声にしなかった。 理由なんてわかっているから。 でも、わかっても、……わかっただけ、だった。 「…………ふたりとも、だいすきなのに…………」 #BlackAndWhiteMovie (49) 2023/09/27(Wed) 23:14:33 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>52 ルチアーノ なぜ貴方が謝るのか分からなかった。 以前のようにその理由を問い質す余裕はなかったけれど。 それでも語り掛けてくれる言葉を拾い上げていれば頭の芯が徐々に冷えていく。 誰に、何を。 言葉にせず胸で繰り返した直後、最後の一言にははっと目を瞠り。 「…………ううん」 幾らか落ち着きを取り戻した表情で、首を横に振った。 目を塞がないと決めた、己を責めて泣くこともまた。 此処はもう何もできない牢の内ではないだろう。 ……誰に、何を。 もう一度、繰り返したところで解は不明瞭だ。 だが、そうなってしまう理由だけは明らかだったから。 [1/2] #BlackAndWhiteMovie (53) 2023/09/28(Thu) 18:09:30 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>52 ルチアーノ 「ごめんなさい、情けないところ見せて……」 「……あはは、ルチアーノさんさ。 面倒見いいね、ほんとに。 あの、手助け……というか、また、甘えていい?」 「いま、ひとつだけ」 少し遠くで見慣れたひとが自分を探す姿が見えた。 家からの迎えで、ならどうしても帰らなくてはいけなかった。 その先でないと、どれほど貴方の手を借りたところで解は得られないと分かっている。 だから今は、ただ貴方を見上げて乞う。 強く在りたいと願う。 されど気を抜けば目を塞いでしまいそうになる。 その弱さを見抜いてくれた、貴方にだからこそ。 「───"大丈夫だ"、って言って」 「……今のオレ、全然そんな風に見えなくても。 それだけ、……言ってほしいんだ」 「おまじない、欲しくて」 「……だめかなあ」 [2/2] #BlackAndWhiteMovie (54) 2023/09/28(Thu) 18:11:27 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>61 ルチアーノ その距離は普段なら恐れを抱くものであったのに。 声を望んだ今はどんなものより安堵を渡してくれた。 たったそれだけでよかった、一人で呟くよりもずっと。 見つめる真っ直ぐな眼差しが差し出してくれるのは、勇気と信頼。 それがいつかの夜と重なって喉奥が詰まる心地がして。 「……うん」 貴方の手に指先を重ねて、返す。 「オレは、"大丈夫"」 そうしてようやく、揺らめいていた水面が静寂を得た。 おまじないが無くても立てる強さが在れば本当はよかった。 だけど今はそれは叶わないから、あなたの手を借りさせて。 それでもいつかの先には自分がだれかに、それを与えられる人になれるように。 [1/2] #BlackAndWhiteMovie (64) 2023/09/29(Fri) 9:28:31 |
【人】 暗雲の陰に ニーノ>>61 >>64 ルチアーノ 続いた沈黙は二呼吸分。 直に貴方の指先を離した男は、一歩後退ってやっと笑えた。 「……へへ。 ありがとう、ルチアーノさん」 「すっごく助かった、どうにかなっちゃいそうだったから。 オレさ、ちゃんと答えを見つけて……言いたいことを伝えられるようになるから」 姿に気づいてこちらに駆け寄ってくるのは年嵩の女性だ。 "坊ちゃん"と呼ぶ声にひらりと左手を振って、最後に貴方へと向き直る。 「──おまじない、大事にする!」 「今度はもっと落ち着いたところで話そうね。 ……ヴィトーさんのこと、よろしくおねがいします」 もう一度だけ『ありがとう』を繰り返せば、じゃあとそのまま女性の元へと歩いて行く。 親し気に彼女へと声を掛けた男の姿は道脇に止められていた車の助手席の中へと消えて、車体もまた遠ざかっていくことだろう。 すれば今度こそ残るのは人々の賑やかな声と、時折宙を舞う鮮やかなリボンと花だけ。 其処に在った凶行など誰も知らないまま、晴天の元を白い鳩が一羽横切って行った。 [2/2] #BlackAndWhiteMovie (65) 2023/09/29(Fri) 9:30:31 |
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