涼風
昨日は確かにデジタルカメラを提げていた。
晶兄が持ってきたのをみて、
やっと自分が持ってきたのを思い出したくらいだ。
覚えてもいないのにどうやって持ってこれたのかは定かではないが、今は関係の無い話だ。
「……そうだね、こっちは補正とか気の利いたものついてないし。ブレるのは味といえばいいんですけどね。
でも小さい頃から使ってるから勝手は分かってるし、それでも、」
それでも。心に変化があったのには間違いなく、
「今日はこれがいいの」
前後の文脈をすっ飛ばして、
そう言って笑みを浮かべる。
恋するような、悪戯でもするような、
もしくはちょっとした獰猛さが滲み出すような。
少なくとも、作り物ではない表情だった。
「ごめんね、何のことかわかんないでしょ。
でも、薫兄を失望させるようなのは撮らないって約束しますよ!これだけが、唯一の取り得ですから」