「醜いからって幻滅したりしませんよ。看守様の成すことならば、たとえ醜い争いだって私にとっては見たいものですから。
」

一瞬良からぬことを考えたような顔をしたが。

「あら……ではシトゥラ様は村陣営ではないのですね。私としては、味方してくださるなら何でも構いませんけど……　ですが、シトゥラ様はそれで良いのですか？」

『ナフ様本人にも喜んでいただけるなら、ぜひ吊って蘇生させたいところですね』
『恩返しだなんてそんな……私はただ村陣営の利益になるよう頑張っているだけですので……　』
『でも、いつか困ったことがあったらお願いするかもしれません』

『そうだね、そうするのもアリかもしれない。ナフならきっと喜んでくれると思うしさ』

『俺は確かに村人陣営じゃないけど、俺とラサルハグの両方が生きている間は無害なんだよね。ゲーム終了時にどちらかだけ生きているとまずいってだけで』
『俺達は邪気陣営の勝利を度外視する程度には互いの生存を望んでるから、殺さないでくれると嬉しいよ。
』

『了解、いつでも声かけて。君からの連絡なら大歓迎だよ』

『処刑』後から一晩明け、後でログを見れば都合のいいタイミングになる頃の時間。
君の元に声を掛けてくる囚人が一人。

「すみません、エルナト様。少しお時間宜しいでしょうか」

「あら。あなたは……シェルタン。どうかしましたか？」

看守に用があるなら自分より他の者に声を掛ける方がいいのでは、と思うが。一体自分に何のようだろうか。
もっとも、囚人には塩対応とはいえ声をかけてもらえる分には大歓迎だが。

そこまで邪険に扱われなかったので一先ずは安心。

「思えばあまり話す事がなかったと思いまして。看守様方へこう……熱烈な視線を送っている事しか知らないなと。
　……どうでしょう？もし話にお付き合いいただけるならば、それなりの報酬もお渡ししようと考えていますが」

言いながら端末を操作し、とある写真を貴方に見せる。それは何と──

確かに、今までの自分は囚人に興味を向けてこなかった。

「そんな、お話ぐらいで報酬だなんて……　はっ、」

断ろうとしたが、見せられた写真に飛びつく。かと思えば次の瞬間さっと画面から目をそらし



小声で何やらぶつぶつ言い始めた。
放っておいて話を進めてくれて大丈夫です。

「でしょう？ご自身の魅力を非常によく分かっていらっしゃる、とても良い写真ですよね。」

貴方が写真にしっかりと食い付いたのを見て、にっこり。


「エルナト様は元囚人との事でしたが、何故そんなにも看守様方にご熱心なのかと思いまして。囚人時代に良いきっかけでもありました？」

「アンタはそういう奴だったなァ」

良くも悪くも安定している。だから信頼できるってとこも……ま、無くはないかァ。

「何がだ？こうして役を晒すような真似をしてる事かァ？」

「あぁ……本当に良い写真です。あなたは看守様とも良い関係を築いているのですね」



「いいきっかけ。ええ、良い出会いがありまして。
私は元々治安の悪いエリアにいたのですが、見かねた看守様に別のエリアに移していただいて。それがそもそものきっかけですね」

「それもですけど。どちらか一方に肩入れして大丈夫なのかな、と思いまして」
「月兎であるなら、より有利な側に付けば良さそうなものですが……　いえ、別にシトゥラ様にも考えがおありでしょうし、あなた様の事情に深入りするつもりはないのですが」

所詮は囚人達の憂さ晴らしだ、別にゲームで勝利を求める必要はない。
あなたにはゲームでの勝利以上に重要なものがあった、それだけのことだろうと理解した。

「アルレシャ様とはそれなりに付き合いが長いものですから」


とりあえず掴みはかなり上々と見る。

「ふむふむ、それは確かに良い縁ですね。エリア変更を申し出てくださるとは、お優しいお方だ。
　ですが、そこから何故ほぼ全ての看守様に……？全ての看守様がお優しいとは限らない筈では……」

「ここまで出張るつもりは僕にもなかった。
……あの状況で僕が吊られると、それこそ狼連中の思い通りだろ？奇襲の件もあったからそれは癪だと思った」

奇襲の件がなけりゃ会議の流れに任せていたと思う。……いや。襲撃計画を聞いてしまった時点でラサルハグに声は掛けていただろうから、やっぱ断言はできねェな。
結果的に看守が死んでないってのは……正直昨日以外、僕関係ないんだよなァ。初日の吊り候補はムルイジかクロノだったようだし、その次は声が聞こえたスピカにシェルタンが提案して推奨した結果だ。

「ま、今回僕が票を集めたのは事実だ。次に吊られるのぐらいは覚悟してる」

票の件でバーナードも動いていたと知るのは、処刑後の話だ。

「ロベリアからも反感買ってっからな。吠えられる可能性が高いしし蘇生だって期待してない。
そもそも僕を生き返らせないために身内落とす気でもあるみたいだからなァ」

あっちから打診行きそうだがそこはアンタの判断に任せるよ、僕は。

「……アンタもつまんねェと思ったなら、悪ィな」

「なるほど……あなたもアルレシャ様にはよくしていただいているのですね。うらやましいです」

ついに言っちゃった。

「全ての看守様が優しいとは限らない、それはそうなのですけど。あの方に救われた日から、よくよく観察していたのです」
「そもそも私達囚人は人権などない存在。罪を犯して収監され、罰を受けるのは当然のこと。看守様に酷く当たられるのは囚人が悪いのです。もちろん、治安の悪いエリアに配置された私も含めてね」
「ゆえに、囚人に罰を与える看守様は正しく仕事をなされている方。囚人にも優しい看守様は聖人のような御方、なのです」
「それに気づいてからはますます看守様の素晴らしさを感じるようになりましてね！日々罪を悔いて生きるばかりでしたよ、ええ！！」

話すうちに熱がこもり、早口になる。それだけ看守に対して強い思いをもっているらしい。

「つまらないだなんて思いませんよ。看守様だから、とかは関係なく。本当に面白いと思っています」

ゆるやかに首を振る。

「私は皆様の考えが読めませんし分かりませんが。相手の思惑に乗らないために各人が策をめぐらせるなんて、面白いではないですか」
「シトゥラ様が村陣営のために駆け回ってくださったように、私もシトゥラ様の考えを応援したいと思いますよ」