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【人】 天ヶ瀬 青葉「 ううん、全然だいじょうぶだよ ! 」 " 願い "で頭がぐるぐる ─── そんな時の貴重な時間を、と謝る彼女に僕は首を振る。 僕自身は、願いを彩葉ちゃんに打ち明けた後だったろう。 幾ばくか心が軽くなっていたので、笑顔も添えた。 それよりも、彼女が少し苦しそうに見えて 体調の方が心配になりつつも。 そのまま続いた彼女の言葉に耳を傾けた。 (99) 2022/10/22(Sat) 1:36:45 |
【人】 天ヶ瀬 青葉連れ出したのは、調理室。 適当な席に座ってもらったら、 僕は暖かい紅茶と 昨日作って 食べ切る事が叶わなかったカヌレを彼女の前へ。 自分の紅茶も用意すれば、向かいの席に腰を下ろす。 「 " 悩んだ数だけ強くなる " いい曲だよね。 僕らもさ、 もうちょっとだけ悩んで もうちょっとだけ強くならない ? 」 柔らかく笑んで、紅茶をひとくち 口に含む。 そして、彼女が落ち着いたのを見計らってから 演技でない方の心配顔を小さく浮かべ ゆっくりと口を開こうか。 (104) 2022/10/22(Sat) 1:36:58 |
【人】 天ヶ瀬 青葉 ── 回想:天ヶ瀬 青葉 ── ヒーローごっこよりは人形遊び 格闘ゲームよりは着せ替えゲーム カッコいいものよりは可愛いもの 男の子とよりも女の子と遊んでいる事が多かった。 家では、母がお菓子教室を開いているせいもあってか 毎日のように付き添って、一緒にお菓子を作ってた。 男子の輪に混ざらないものだから、 時々からかわれたりする事もあったけど。 仲のいい女子が庇ってくれたりして そこまで気が沈んだりはしなかった。 女子が着てきた可愛い服を羨ましく思ったり 修学旅行の男子部屋で、居心地の悪さを感じたり 多少の事はあったけれど、小学校の時は それとなく過ごせていたんだ。 (157) 2022/10/22(Sat) 15:36:16 |
【人】 天ヶ瀬 青葉 それから一転して、 中学に進むと途端に息苦しさを感じるようになった。 熱湯風呂に手を突っ込むような感覚で 毎朝、男子の制服に袖を通して、登校する。 この感覚は、今になっても。 >>2:219 " 誰が好き "とか、男性アイドルの話とか 話題も変わってきたからか クラス内で女子の輪に混ざろうとしても 段々と、いい顔をされなくなっていった。 僕は、ひとりで休み時間を過ごす事が増えていった。 この頃、料理部の部活だけが救いだった。 女子の輪に混ざって、お菓子の話をしながら作る。 男子生徒なら敬遠しがちな状況だけど、 僕にとっては一番心が落ち着く時間だった。 (158) 2022/10/22(Sat) 15:36:18 |
【人】 天ヶ瀬 青葉 そんな或る日、 僕は部活で使うエプロンを新調しようと ショッピングモールへ足を運んだ。 フリルのついた可愛いデザインに惹かれたけど 選んだのはパステルブルーの無難なエプロン。 本当に着たいエプロンを我慢したせいか、 新調したのにもかかわらず 少しモヤモヤを感じながら歩いていれば。 古着屋さんのテナントで 可愛らしく着飾ったマネキンが目に留まった。 一着500円とか、僕のお小遣いでも買える値段。 店内で一時間ぐらいは悩んでたと思うけど、 赤めた顔を隠すように俯きながら レジへ持って行ったのは ピンク基調のワンピース。 この日、僕は初めて女の子の服を買った。 (159) 2022/10/22(Sat) 15:36:21 |
【人】 天ヶ瀬 青葉 家族が寝静まった深夜。 自分の部屋でだけ僕は" 女の子 "になる。 鏡の前でスカートを靡かせながら一回転。 重い枷が外されたかのように、身体がとても軽かった。 ああ、これが僕だ ──── そう思った。 今に思えば、此処で止めておけば良かったんだ。 こっそりと女の子の服を増やしていった僕は 今度は誰かに、この姿を認めてもらいたくなった。 そこで僕は、SNSで女の子としてアカウントを作り 着飾った写真をアップロードするようになった。 最初は顔を隠していたけれど、 レスで望まれたらチラッと写した画像を載せたりして。 ここでは女の子として扱ってもらえることが 僕は何よりも嬉しかったんだ。 (160) 2022/10/22(Sat) 15:36:23 |
【人】 天ヶ瀬 青葉 『 このアカウント、お前じゃね ? 』 僕の扱いが一変したのは、同級生の一言からだった。 違うよと首を振っても" BLUE Leaf "だなんて 名前をもじっただけのアカウント名、 顔も写ってる画像もそのままだったから。 トイレに駆け込み、 すぐにアカウントを消したけれど、 既に保存された画像と共に 僕の噂はクラスから学校中へと広まっていった。 (161) 2022/10/22(Sat) 15:36:25 |
【人】 天ヶ瀬 青葉 女装、だの キモイ、だの ネカマ、だの 陰口は僕の耳に届く範囲でも囁かれた。 そんなんじゃないって言い返せるほど 強くも無かった。 しばらくは、ずっと我慢していたけど 心の拠り所だった料理部でも疎外され、 やがて 僕は登校しなくなった。 担任が家庭訪問してきて、両親と話した日の夜は リビングから言い合う声が僕の部屋まで響いた。 " お前が男らしく育てなかったから! " 壁を挟んでも届く父親の声に 僕はベッドの上で布団を巻きつけ、必死に耳を塞いだ。 こんなにも両親を悲しませて 生まれた後から性を選ぶのは悪いコト、なんだな (162) 2022/10/22(Sat) 15:36:29 |
【人】 天ヶ瀬 青葉 夢に向かって、真っすぐ突き進む女の子。 ユメリンの動画を観れば観るほど、 僕は彼女に熱中していった。 調べてみてわかった事だけど、 彼女は" 不幸の女の子 "なんて呼ばれていたりもした。 事務所の社長がお金を持ち出して逃げたり、 ライブ当日、停電になったり 握手会で襲われそうになったり。 不幸エピソードは、数え上げたらキリがないぐらい。 それでも彼女は" いつか、夢の向こうに! "って 応援しているファンへ手を広げていた。 僕は彼女に憧れた。その強さに。 >>0:388 僕も彼女の様な存在になりたい、って この想いを忘れないようユメリンのヌイグルミを作った。 (164) 2022/10/22(Sat) 15:36:34 |
【人】 天ヶ瀬 青葉 少し、前向きな気持ちになれた僕は 両親が勧めてきた出弦高校を受ける事にした。 此処から遠く離れているけど、 ここ数年受験する生徒がいないから 新たな環境として良いのでは ? ───そう担任に言われたらしい。 欲を言えば制服のない学校が良かったけれど 僕にそれ以上の選択権は無かった。 ネットを徘徊してる間、色んな情報をみつけた。 僕みたいに生まれながらの性に疑問を持つ人は それこそ星の数ほどいた。 僕はどうするべきか考えたけど、 両親をこれ以上悲しませたくなかったから 高校は普通の男子として過ごす決意をした。 卒業して、自立してから 僕は" 本当の僕 "になろう、と。 (165) 2022/10/22(Sat) 15:36:36 |
【人】 天ヶ瀬 青葉──── そして現在。 幽霊が" 願い "を叶えてくれると言う。 男であることの痛みを 今でも強く抱えているけれど。 願いが叶えば 今の高校生活もまた一変する。 " 男子バスケ部 "は辞めざるを得ないだろうし、 中学の時のように奇異の目を向けられ また、独りぼっちになるかもしれない。 ──── それは、とても怖くて。 期限を迎えた三日目。 始めから願いは決まっているというのに 僕の心の天秤は 今もまだゆらゆら、と揺れていた。** (167) 2022/10/22(Sat) 15:36:42 |